(病院の天井だ…よね? )
気が付いた私は、病院と思われるベッドの上にいた。どうやら壁の中にいるようなことはなかったようだ。
「ああ、気がついたみたいね。大丈夫? 」
看護師さんだろうか、私を見つめる女性がいる。ぼーっとしていた頭が次第にはっきりしてくる。
「あ…えっと言葉わかるかな? はぅ…どぅゆぅふぃーる…? 」
「って、すみません!魔力駆動炉の暴走はどうなりました!? アリシアちゃんは!? 」
「は…? 」
あわててとび起きようとして、上半身を起しただけなのに立ちくらみになる。
「っ…ハーベスター、状況を教えて」
<≪Master, please calm down.≫>【マスター、落ち着いて下さい】
何故か念話で返してくるハーベスター。ふと周りをみると、さっきの看護師さんがぽかんとした顔で私を見ている。そしてその後ろには知らない男の人。こちらもビックリした顔だ。
ハーベスターはペンジュラムの状態で枕元にあるナイトテーブルの上に置いてあった。
<≪Judging from the situation, here must be one of Non-TSAB administrated world. Master might have been transcended the dimension due to magic stream overdrive.≫>【状況から判断して、マスターは暴走した魔力流にのまれ、管理外世界に次元跳躍したものと思われます】
緑の宝石が明滅し、ハーベスターからの念話が届く。その意味を理解するまでに数秒かかった。
<…えぇーっ!? >
どうやら私達は暴走した魔力の影響でトランスポーターの制御に失敗して、管理外世界に飛ばされてしまったらしい。
管理外世界っていうことは、魔法文化がないということだ。その状況で魔法関連の情報を流布することはご法度である…と、たしかお父さんの書斎にあった時空管理局の資料にも書いてあったような気がする。
ぎぎぎ…という擬音をたてるような感じで看護師さんの方を振り返ると、さっきのビックリした顔とは違って、何やら心配そうにこちらを見ている。
まずい。本気でまずい。何か良い言い訳は…
「あ、あの…大丈夫? 」
「え、えっと、あの…スミマセン!何か夢を見てたみたいで。あの…ここはどこでしょう? 」
「あぁ、ここは海鳴大学病院よ」
私の苦しい言い訳を信じてくれた様子の看護師さんが答えてくれる。病院名は私の知識には無いものだった。
「ウミナリ? 」
「ええ。それにしても外国の子かと思ったら日本語大丈夫なのね。よかった。私英語ダメだから」
…ちょっと待て。ニッポンって…あの日本?
っていうか、私ミッド語で話しているはず…あ、翻訳魔法が自動発動しているのか。
「あなたの名前は? お父さんとお母さんは? お家はどこ? 」
矢継ぎ早に質問してくる看護師さん。答える前にまず自分の身体を確認する。肩より少し長めの緑色の髪、明らかに幼児の体型。貫頭衣のような病院服に着替えさせられてはいるが、間違いない。私はヴァニラ・H(アッシュ)だ。まぁ、ハーベスターも念話で答えてくれているし。一瞬、中野琴に戻ったんじゃないかとも思ったけれど、すぐにその考えを振り払う。
「そうだ!アリシアちゃん!!あの、私の他にもう一人女の子がいた筈なんですが」
「ええ、そっちのベッドで寝ているわよ。まだ目を醒ましてはいないけれど、外傷は特にないし、大丈夫だと思う」
看護師さんの答えを聞き、慌ててそちらを確認すると、そこにはたしかにアリシアちゃんが寝ていた。こちらも病院服に着替えさせられている。
「もう食べられない~」
とお約束のような寝言を言いながら寝返りを打つ彼女を見て、私はホッと安堵の息を吐く。
<ハーベスター、翻訳魔法の効果をアリシアちゃんにも適用。出来る? >
<≪Yes, it is possible. But she needs to stay with you at least 5 meters radius.≫>【可能です。但し、マスターの半径約5m以内に居る必要があります】
<それでいいよ。あと、この世界には魔法は存在しないものと考えて。翻訳魔法を固定したら待機モードのままスリープ。私が許可しない限り念話以外の発言も禁止ね>
<≪Sure. I am transitioning to sleep mode.≫>【了解。スリープモードに移行します】
ハーベスターをスリープモードにしつつ、看護師さんの質問に改めて日本語で答える。
「えっと、私はヴァニラ・H(アッシュ)といいます。両親は…両親は…」
だが本当のことを話すわけにもいかず、ここで口籠ってしまった。
(いきなりピンチです…病院に収容された見た目外国人の6歳児に保護者もいなければ身分証明もなくて、日本円すら持っていません)
一瞬「一過性健忘」っていう言葉が頭をよぎる。
「あの、すみません。ちょっと私まだ状況が理解できてなくて。何が起こったのかよくわからないんですが、どうして病院にいるのでしょう? 」
「あなた達、臨海公園で倒れてたのよ。この人が救急車を呼んでくれたの」
そう言うと、さっきから後ろにいた男の人を示す。なんだか腑に落ちない、みたいな表情で私を見ているけど、助けてくれたのならお礼は言うべきだろう。
「それはご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございました」
「いや…別に当たり前のことをしただけだけど」
ちょっと照れたように言う。見たところ高校生か大学生くらいで割とハンサム。と、そのハンサムさんが聞いてきた。
「あの、さ。失礼かもしれないけど、君何歳? 」
「6歳ですが…」
「本当に? いや、たしかに見た目もそんな感じだけど。うちの妹は小学2年生で7歳なんだけど、君の方が全然しっかりしてるように見えたから」
「は…」
たしかに、言われてみれば今までの受け答えはどう考えても6歳児のそれではないだろう。精神年齢の成熟が早いミッドチルダではあまり意識してなかったけど、これは猛烈に失敗したかもしれない。
「まさか、どこかの組織に飲まされた薬のせいで幼児になった高校生、とか? 」
「は? なんですか、それ? 」
「あ、いや、冗談だから」
どうやら悪い人ではなさそうだ。名前を尋ねると、「高町恭也」とのこと。高校生なのだそうだ。看護師さんの話によると、どうやら高町さんは私が目覚めるまで態々待ってくれていたらしい。ただ行き倒れを拾っただけで何のメリットもないのに、なんて親切な人だろう。
その後しばらく高町さんと話をしながら、マルチタスクで必死に言い訳を考えていた。何しろ会話が一段落すれば確実に看護師さんからの質問が続行されるはず。
「じゃぁ、もう大丈夫みたいだし俺はこれで失礼します。後はよろしくお願いします。ヴァニラちゃん、元気でね。あとそっちのアリシアちゃんだっけ? 彼女にもよろしく」
高町さんが看護師さんに挨拶したあと、私に笑いかける。
「はい…本当にありがとうございました」
改めてお礼を言い、高町さんに別れを告げると、私は看護師さんからの質問に備えた。
真っ先にアリシアちゃんの安否を尋ねたことから、全てを「一過性健忘」で押し通すのには無理があるだろう。かといって、本当のことを全て伝えたところで信じて貰えないどころか妄想癖か虚言癖持ちと思われるのがオチだ。
まずは「何が起きたのか、よく判らない」という姿勢を貫くことにし、両親については口をつぐんで話さないことにした。嘘の話をしたところで、調べられてしまえばすぐにボロが出ると思ったからだ。
(後でアリシアちゃんが目を覚ましたら事情を説明して、下手なことを言わないようにしないと)
この世界で私達の捜索願なんて出ていないだろうし、パスポートすら持っていない私達はどこから来たか、なんて調べても判らないはず。さすがに6歳程度の幼児を「どこでもいいから国外に強制退去」なんてことにはならないだろう。入院費用については、自治体にもよるが「救急医療費損失補填」みたいなものがあるだろうから心配ないはず。
(…血税だけどね。納税者のみなさま、本当にごめんなさい)
そうこうしていると、急にアリシアちゃんが声を上げた。
「あれぇ…? ヴァニラちゃん。ここどこ? 」
「あ、アリシアちゃん、よかった。目が醒めたんだね。すみません、彼女、少し情緒不安定な所があるので、少し2人だけで話をさせてもらえませんか? 」
看護師さんには悪いが少し席を外して貰うようにお願いすると、彼女は快諾してくれた。若干罪悪感もあるが、今はそれどころではない。看護師さんが出て行って、部屋の外に人の気配がないことを確認すると私は翻訳魔法を切って、ミッド語でアリシアちゃんに語りかけた。
「簡単に状況だけ説明するね。私達は転送事故で管理外世界に飛ばされてしまったみたいなの。さっきの人たちとの会話から、たぶん第97管理外世界だと思う」
「管理外世界って? 」
まずはそこからか。私は知っている限りの情報をアリシアちゃんに判りやすいよう噛み砕いて説明する。以前お父さんやアレイスターさんから聞いておいた話がかなり役に立った。
「えっと、つまり現地の人たちにミッドチルダのことを話すわけにはいかないから、状況を理解していない子供の振りをするってことだよね? 」
アリシアちゃんが聡明で助かった。
「あと、両親のことを聞かれても下手なことは言わずに黙っていた方がいいかな。あまり使いたくはない手段だけど、詰問されたら泣いちゃうとか」
「うん、わかった。でも…本当にまたママに会えるよね? 」
「それは大丈夫だと思う。第97管理外世界からミッドチルダへの渡航は公には行われていない筈だけど、前例はあるって聞いているし…どうしたらいいのかはまだ判らないけれど、ちゃんと戻れるように私もいろいろ調べてみるから」
私が使えるのはせいぜい数十kmを移動できるトランスポーターくらいで、次元跳躍魔法は私のレパートリーにはない。仮にあったとしても地球からミッドチルダへの座標指定なんて、どうすればいいのかさっぱり分からなかった。
「大丈夫だよ。ママに会えないのは寂しいけれど、ヴァニラちゃんがいるから」
アリシアちゃんの笑顔を見ると、心の中の不安が薄らいでいく。彼女を安心させるつもりが、逆に私が励まされてしまったことに、思わず苦笑する。
後はこれからのことを考えなくてはいけない。アリシアちゃんも私と一緒にいれば翻訳魔法が自動的に発動されるが、すぐにミッドチルダに帰還するのは困難だろう。もし今後施設などに預けられることになったりすれば、常に一緒にいられるとは限らない。日本語が出来ないのは致命的だ。
「アリシアちゃん、いつも翻訳魔法に頼る訳にもいかないから、ここの言葉も勉強しないと」
「うん、大丈夫だよ。私頑張るから」
生活基盤については今私達が考えなくても、『幼女ですから』のような態度を通していれば、きっと病院側で施設などの手配をしてくれるだろう。取り敢えず今はアリシアちゃんに言葉を含めた日本の知識を教えるのが最優先と思われた。
「…そういえば、リニスは? 」
「ヴァニラちゃんにしがみついた時、残してきちゃった…大丈夫かなぁ? 」
「元々アリシアちゃんとリニスだけならギリギリ空気も持った筈だし、大丈夫だよ。きっとプレシアさんが保護してくれてる」
「そうだね。早く戻れるといいなぁ」
「うん…でも勉強はちゃんとしようね」
「…はーい」
暫くすると看護師さんが医者の先生をつれて戻ってきた。どうやら簡単な検査を行うらしい。先生の問診に答えながら、小児科医を目指していたゲーム大好き少女、晶のことを思い出した。
それと同時に、私はとんでもないことに思い至った。
(私の名前…ゲームのキャラまんまって、あんまりじゃない!? )
下手をしたら、折角今まで練り上げた設定が全て虚言壁で片付けられてしまう可能性もあるような一大事だ。何しろゲームキャラなりきりの痛い子なのだから。
幸いこの先生や看護師さんは晶とは違って「ギャラクシーエンジェル」を知っている訳ではなさそうで、私のことを違和感なく「ヴァニラちゃん」と呼んでいる。
私が悩んでいるうちに検査は一通り終わっていた。体力的には特に問題ない様子ではあったが、念のため後で点滴も打っておくとのことだった。医者の先生が出て行った後、看護師さんが再び私達に問いかけてくる。
「ねぇ、そろそろご両親のこと教えてくれないかなぁ? 」
だが答えることが出来ない私は取り敢えず黙ったまま俯いた。看護師さんに対する罪悪感と、本当に戻れるのかという不安、そして「ギャラクシーエンジェルのヴァニラ・H(アッシュ)」を知っている人に出会った場合を想定した恥ずかしさから、自然に涙が溢れてきた。
「うーん、困ったなぁ…」
途方に暮れる看護師さん。だがこちらも同じくらい途方に暮れているのだ。息が詰まるような状態が暫く続いた後、看護師さんは諦めたようにふっと息を吐いた。
「仕方ないなぁ、取り敢えず今夜はここに泊まって貰うことになるけど、いい? 」
私は小声で「はい」と答えた。
点滴を打ってもらった後、先生と看護師さんは部屋を出て行き、私とアリシアちゃんだけが残された。恐らくこの後は病院から警察に連絡が行って、素性の調査や事件性についてなどを調べられることになるのだろう。ただ私達がだんまりを決め込んでいる限り、進展することはあり得ない。
たしか日本の法律では身寄りのない子供の場合は市、町、村長などが保護者になるはずで、そうなればどこかの施設にでも入れられることになるのだろうけど、あいにくと私達のような戸籍を持たない見た目外国人にもその法律が適用されるかどうかは知らない。
ただ、今それを考えたところで解決策がみえないのなら、ここはもう成り行きに任せるしかないのも事実。とりあえず今は体力(と魔力)の回復に努めておくのが得策だろう。
「ヴァニラちゃん、探検しに行こう!」
唐突にアリシアちゃんが提案した。ずっと病室に閉じ込められていて、退屈していたのだろう。
「そうだね…気晴らしにもなるかもしれないし、ちょっと部屋を出てみようか」
「うん!」
別に部屋から出ることを禁止されていたわけではないし、少しくらいなら構わないだろう。それに大きな病院ならデイルームや談話室などの患者向け施設に雑誌や本などが常備されているかも知れない。もし子供向けの絵本でもあれば、アリシアちゃんに日本語を教えられる良い機会にもなる。
私達は病室を出ると、まずは館内図を探してみた。それはほどなくして見つかり、デイルームどころかキッズルームの存在まで確認出来た。
「あっちに子供用の施設があるみたい。行ってみよう」
「はーい」
向かった先には小規模の託児所のようなスペースがあった。ボールや積み木といった単純な遊具が置いてあり、本棚には絵本も並べられている。幸い他には利用者はいないようだったので、アリシアちゃんと一緒に中に入ってみた。
いくつかの本をぱらぱらとめくって、小学校低学年向けの本をいくつかピックアップする。
「あーあ、私も魔法が使えたらなぁ」
アリシアちゃんが私を見て言った。どうやら私が翻訳魔法で文字を読んでいると思ったらしい。残念ながら翻訳魔法が訳すのは会話のみで、文字の読み書きを可能にする魔法はない。いや、もしかしたらあるのかもしれないけれど。私が知らないだけで。
「翻訳魔法が有効なのは会話だけだよ。文字は訳せないの」
「え? じゃぁ、ヴァニラちゃんはどうして文字が読めているの? 」
「ふふ…こんなこともあろうかと、管理外世界の言葉も勉強していたんだ」
「あ、それ嘘だよね? ヴァニラちゃんが『こんなこともあろうかと』っていうときは大抵嘘だし」
「あれ? そうだったっけ? 」
まぁ、前世のことを説明する訳にもいかないので、その場は取り敢えず誤魔化すことにした。
「実際偶々なんだけれど、前に『ブライトナイト』に興味を持ってたの覚えてる? あの時、物語の舞台が第97管理外世界だって聞いたから、色々と調べてみたんだ。その時に覚えた言葉が、この世界の言葉と同じだったの」
「あー、それでここが第97管理外世界だって判ったんだ…って、じゃぁ、ここが『ブライトナイト』が漂着した未開の地? あまりそうは見えないけどなぁ」
「あれは昔話だからね。今から何百年も前のお話だよ。ほら、これ原本」
私は『竹取物語』=『かぐや姫』の絵本を本棚から抜き取り、アリシアちゃんに見せた。
「すごーい、これがオリジナルなんだ」
アリシアちゃんは目をキラキラさせながら、表紙のイラストを見つめている。
「じゃぁ、折角だからこれを使って言葉の勉強をしてみようか」
「うん!」
私は一度キッズルームを出ると、偶々近くにいた女医さんに声を掛けた。
「すみません、この本をお借りして病室で読みたいのですが」
「ええ、構わないわよ。ちょっと貸してくれるかな? 」
女医さんに言われるまま本を手渡すと、女医さんは私の病室番号を確かめ、表紙の裏に挟んであったカードにサインをした。
「石田…先生ですか」
「ええ、神経内科の石田です。じゃぁ、カードは私の方で預かっておくから、本は読み終わったら受付に渡してね」
「ありがとうございます」
優しく微笑む石田先生にお礼を言うと、私はアリシアちゃんと一緒に病室に戻ることにした。
「そうよね…普通あのくらいの年頃の子だったら、こういう本を読むわよね…」
何やら石田先生が呟いていたが、年齢に見合わない難しい本を読む患者さんでもいるのだろうか。話をする機会でもあれば、もしかしたら私とも気が合うかもしれない。
「ヴァニラちゃん、早く行こう」
「あ、うん。今いくよ」
アリシアちゃんに促され、私達は病室に戻った。
アリシアちゃんには魔法資質は無いものの、記憶力の面では天才的な能力を発揮した。具体的に言えば、私が作った五十音表とその発音を数時間で全て暗記してしまい、ひらがなで書かれた文章であれば普通に音読出来るレベルになってしまったのだ。
もちろん発音については修正が必要な部分もあったが、私が簡単に読み上げた文章はあっという間にマスターしてしまった。この調子で勉強すれば、然程時間をおかずに、片言とはいえ会話も可能になるだろう。問題は語彙や漢字だが、こればかりは慣れて覚えていくしかない。
「ヴァニラちゃん、『今は昔』って何で今なのに昔なの? 」
「えっとね、『今となってはもう昔の話だが』っていう意味だよ。古文の言い回しだから、意味で覚えた方がいいかも」
「うん、わかった…ねぇ、私なんだかお腹すいちゃった」
ふと時計を見ると18時になろうとしていた。病室に置いてあった案内を確認したところ、入院患者の食事時間は18時30分となっている。
「あと30分くらいだから、もうちょっと待ってね。それまでにもう一度『かぐや姫』を読んでみようか」
「はーい…ところでハーベスターはどうしちゃったの? ずっと黙ってるけど」
「あぁ、この世界では魔法が公になっていないから、取り敢えずスリープモードにしているの。こうしていれば、ただのペンジュラムみたいでしょ? 」
「そっか、魔法のこともお話しできないんだね」
「極力控えておいて。管理局法にも引っかかる筈だから」
「うん、判った」
その後、もう一度『かぐや姫』を読み返しているとドアがノックされ、看護師さんが食事を持ってきてくれた。若干味が薄い食事ではあったが、アリシアちゃんはそこそこ気に入った様子だった。
「あ、それからこれ。あなた達の服ね。一応洗濯しておいたから」
看護師さんが綺麗に畳まれた私達の服を渡してくれる。改めてサービスの良さに驚いた。通常、病院に入院する患者さんの私物は病院側では管理せず、洗濯なども本人か家族がするのが私の知識では常識だったからだ。
「態々ありがとうございます。随分とサービスがいいのですね」
「普段はやらないのよ。今回は特別に、私が個人的にね。それからこれも。勝手に開けるわけにはいかないから、中身は見ていないわよ」
そう言って看護師さんは私の私物が入ったポーチも渡してくれた。慌ててそれを受け取る。中には特に身元を特定できそうなものは入っていない筈だが、財布にはミッドの通貨が入っている。こうしたものはあまり現地の人に見せるべきではない。今回は大丈夫だったようだが、今後管理には注意する必要があるだろう。私は改めて看護師さんにお礼を言うと、食事を続けた。
お約束過ぎたでしょうか。。