他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第4話 「管理局」

改めて、26年という年月が経っていることを実感した。私がミッドチルダにいた頃は、次元世界同士の長距離通信にはかなり大掛かりなシステムが必要だった筈で、デバイスのような個人が所有するものでお手軽に通信が出来るなどとは想像も出来なかったのだ。

 

嘗てなのはさんがアリシアちゃんと私のことを現代版かぐや姫と称したことがあったが、これじゃぁまるで浦島太郎だよね、と思わず自嘲めいた笑みが零れる。

 

「レイジングハートさん、お願いしますわね」

 

≪All right. Please wait for a while.≫【了解。少々お待ち下さい】

 

ミントさんが声をかけると、なのはさんの手の上から紅い宝石がふわりと浮かんで、チカチカと明滅を繰り返した。程なくして、アリシアちゃんとそっくりの声が聞こえてきた。

 

『え? これ、レイジングハートからの通信だよね? ミントなの!? 』

 

「フェイトさん、お久し振りですわね」

 

『ミント! お久し振り、じゃないよ! すごく心配したんだよ? 今、丁度ブラマンシュに来ていて…あっ』

 

『ミント! ミント!! 無事なの!? 』

 

どうやらアリシアちゃんとそっくりな声の人がフェイトさんというらしいのだが、その人を押し退けるような感じで別の女性の声が割り込んできた。ミントさんが苦笑しながら答える。

 

「心配をかけて申し訳ありません、お母さま。わたくしは全く問題ありませんわ。フェイトさんがブラマンシュにいるということは、アースラが支援に行ってくれたのですわね。爆弾…質量兵器は大丈夫でしたの? 」

 

『ええ。管理局の人達が協力して解体してくれたわ。集落のみんなも大丈夫よ。それよりミント、貴女今どこにいるの? 』

 

ミントさんは安心したようにホッと息を吐いて微笑んだが、すぐに申し訳なさそうな表情でこちらに謝るようなジェスチャーを示した。話が長引いてしまうことについての謝罪だろう。

 

「今わたくしがいるのは第97管理外世界です。ユーノさんも一緒ですわ」

 

『管理外…って、戻ってこれそうなの? 』

 

「単独では難しいですわね…出来れば管理局に救助をお願いしたいですわ。それと現地に偶々居合わせた魔導師の方に助けて頂いたのですが」

 

そう言うとミントさんがこちらに目配せをしてきた。

 

「そのことについて、プレシアさんに大事なお話がありますの。そちらにプレシアさんはいらっしゃいますか? あと出来ればフェイトさんにも一緒に聞いて頂きたいですわね」

 

ミントさんの言葉を聞いた瞬間、嬉しいような、それでいて少し怖いような複雑な想いが過る。そっと隣のアリシアちゃんを伺うと、私と同じように思っていたのか複雑な表情をしていた。

 

『そう…判ったわ。でも本当に無事で良かった…プレシアさんね? ちょっと待ってて』

 

ミントさんの母親というには随分と若く聞こえる声の女性がそう言った後、少しの間声が途切れる。

 

『ミントちゃん? 心配したのよ。大丈夫? 』

 

「ご無沙汰しています、プレシアさん。わたくしは大丈夫ですわ」

 

アリシアちゃんがヒクッと喉を鳴らした。少し声質が低くなったような気もするが、聞き覚えのある懐かしい声だった。思わず叫びだしたい衝動に駆られたが、ミントさんが「もう少し待って」とジェスチャーを示すので、何とか我慢していた。アリシアちゃんも同じだったのだろう。

 

『それで、大事な話って何かしら? 』

 

「サプライズ、と言えないこともありませんが…正直かなりのレベルで驚くことになりますわ。まずは心の準備をお願いします。深呼吸が良いですわ。フェイトさんもお願いします」

 

『なあに? 随分と物々しいのね…ええ、良いわよ』

 

ミントさんもそれに合わせて一呼吸置いた後、ゆっくりと、だがはっきりと言った。

 

「こちらで、アリシアさんとヴァニラさんにお会いしましたの」

 

『何だってー!? 』

 

聞こえてきたのはプレシアさんではなく、まだ若そうな男性の叫び声だった。予想外の出来事に私もアリシアちゃんも呆然としてしまう。恐らく横で聞いているなのはさんやはやてさん、士郎さんに美由希さんですら、何が起きたのか全く把握できていなかったことだろう。

 

「…すみませんクロノさん。今わたくしはプレシアさんとお話していたと思ったのですが」

 

『今は作戦行動中だ! 入ってくる通信は検閲が必要だからな。一緒に聞かせて貰っている。それより、本当なのか!? 間違いないのか!? あのアリシア・テスタロッサとヴァニラ・H(アッシュ)なのか!? 』

 

「ク…クロノさん、少し落ち着いて下さいませ」

 

『これが落ち着いていられるか! って、あ! 待て、エイミィ! 何を…』

 

男性の声はそのままフェードアウトし、その後すぐにまたプレシアさんの声が聞こえてきた。

 

『ごめんなさいね。クロノも悪気はなかったのだけれど。それより、本当なの? 本当にアリシアとヴァニラちゃんがいたの? 』

 

どうやらクロノという人が必要以上に驚いてくれたおかげで、プレシアさんは逆に落ち着くことが出来た様子だった。ミントさんがこちらに向かって頷く。

 

「え…っと、ママ? 」

 

まずアリシアちゃんが声をかける。通信の向こうで息を飲むような気配があった。

 

『…アリシア、なの…? 』

 

「うん…うん! 私だよ! ママ! 」

 

『アリシアーーーっ!! 』

 

『かっ、母さん!? 』

 

『プレシア!? 落ち着いて下さい! バルディッシュに抱きつかないでっ! 』

 

『リニス! 離しなさい! アリシアーっ! 』

 

前言撤回。プレシアさんも全く落ち着いていないようだった。結局、リニスと呼ばれた女性がプレシアさんを落ち着かせるまでに結構な時間を要してしまった。

 

 

 

『そう…確かに信じられないようなことだけど、時間を超えてしまったということであれば辻褄が合う部分もあるわね。以前エスティアに第97管理外世界の調査も依頼したことがあったけれど、その時は何も判らなかったし』

 

「私達が地球に来てから、まだ半年程しか経っていません。ですがミッドチルダではもう26年が過ぎていると、ミントさんから聞きました。両親のことも…」

 

『ええ…本当に残念だけれど…』

 

プレシアさんが本当に落ち着きを取り戻し、一頻りアリシアちゃんとの話を済ませてから、私は漸くプレシアさんと久しぶりの会話を交わした。先程リニスと呼ばれていた女性は、私達が知っているリニスで良いらしい。今ではプレシアさんが使い魔にしているのだそうだ。

 

「…久し振り、でいいのかな? えっと、リニス…さん? 」

 

『以前のようにリニス、と呼んで下さって構いませんよ。それにしても、よく無事でいてくれましたね』

 

浦島太郎状態を果たして無事と呼んでいいのかどうか判らなかったが、取り敢えず「ありがとう」と答えておいた。

 

『出来ればすぐにでもそちらに向かいたいところなのですが、こちらもブラマンシュで捕えたテロリスト達の取り調べや引き渡しなどをこなさなければなりません。嘱託とはいえ、フェイトもプレシアも管理局員として働いている訳ですからね』

 

プレシアさんは3年ほど前から管理局に復帰していたらしい。復帰とは言っても以前働いていたのはアリシアちゃんが生まれる前のことらしいし、その時はすぐに寿退職してしまったとのことなので、今回が実質初めてのようなものだと言っていた。リニスはそのサポートをしているのだとか。

 

『そんな状態ですので、あと2週間は動けそうにありません。申し訳ないのですが、救助はもう少し待って下さいね』

 

救助、という言葉を複雑な気持ちで聞いた。あんなに戻りたい、帰りたいと思っていたミッドチルダだったのだが、両親が他界していたということや26年もの年月が経過してしまっていた事実などは、私にとってとてつもない不安材料だった。それに加え地球にはお世話になった高町家の人達や、アリサさん、すずかさん、はやてさん達のような友達もいる。

 

(アリシアちゃんは戻ることになるだろうけれど、私は…少し、考える時間が欲しいな…)

 

管理局の人達がこちらにやってくるまでの2週間は、それを考えるのに丁度良い時間のように思えた。そして恐らくミッドチルダに帰還することになるだろう私の親友の様子を伺うと、丁度新たに出来た妹と一生懸命会話をしているところだった。

 

 

 

=====

 

『えっと、アリシア姉さん、で良いのかな? 』

 

「うん! 私がお姉ちゃんだよ、フェイト。よろしくね! 」

 

『こちらこそ。会えると思っていなかったから…すごく嬉しい』

 

フェイトとアリシアの会話を横で聞きながら、改めて現状を整理する。まずイザベル母さまを含むブラマンシュのみんなに最悪の事態が起きていなかったことには安心した。爆弾も無事解体されたようだし、何よりアースラがブラマンシュの支援をしてくれているのも心強い限りだ。

 

だがこの後アースラが地球に来れるのは2週間後ということで、話しの流れからすると恐らくそれよりも早いタイミングで到着出来る次元航行部隊は無いのだろう。ジュエルシードの捜索はここにいるメンバーと高町家の人達だけで行うしかなさそうだった。

 

(武装隊の人達に協力して貰えるようなら人海戦術も取れたのですが…仕方ありませんわね)

 

先日士郎さんから聞いた話によると地球でも連続爆破テロが発生しており、しかもその手口などから次元世界でテロを起こしている組織と同一の可能性があるという。つまり地球にも彼らのアジトがある筈なのだ。シャトルに乗っていた魔導師達も、仲間と合流して態勢を整えればきっとジュエルシードを探しに来るだろう。

 

これについては管理局側とも情報を共有しておく必要があるだろう。俺はアリシアやヴァニラの会話が一段落したところを見計らって、声をかけた。

 

「すみません、そちらにリンディさんはいらっしゃいますか? 」

 

『ええ、ミントさん。いつ声をかけて貰えるかと思って待っていたのよ』

 

ツッコミを入れた方がいいのか一瞬本気で迷ったのだが、取り敢えず今は保留にしておく。

 

「リンディさん、ブラマンシュにロストロギアがあったというお話はご存知です? 」

 

『こちらに到着してすぐ、長老から聞いたわ。管理局で保管せずにブラマンシュに残されていた理由から、テロ組織に奪われてしまったこと、貴女が勇敢にも奪還のためにシャトルに乗り込んだことまで全部ね』

 

『取り敢えず、これだけは言わせてもらうぞ。無謀だ』

 

またクロノが割り込んできたが、あの時は俺が人質になる以外に方法が無かったのだから仕方ない。そして今はその釈明よりも状況説明が先だ。俺はシャトルから脱出する際にトランクが破壊されてしまい、ジュエルシードが海鳴に散らばってしまったことを説明した。

 

「一度狙った以上、彼らがこのまま諦めるとは思えませんわ。アースラが到着するまではヴァニラさんとわたくし、それから現地で知り合った魔導師に協力して貰って回収を進めますわね」

 

『重ねて言うが、無謀だ。…だが現状で管理局が動けず、しかも一刻争う事態とあっては君達に頼むしかないのも事実だ。それにしても…さっきも言っていたようだが、管理外世界に魔導師がいるというのは驚いたな。』

 

「ええ。たまたまリンカーコアを持っていたために、成り行きで魔法の事を知ってしまった方達ですわ。やむを得ず事情を説明して、協力して頂いています」

 

一応なのはだけでなく、はやてのことも紹介しておくことにした。原作知識が役に立たないほど乖離が進んでいるとはいえ、はやての後見人をしているのがギル・グレアム提督であるのなら、現状でもリーゼ姉妹を使って八神家を監視している可能性が高い。ここではやてをクロノ達に紹介しておくことはグレアム提督に対する牽制にもなるし、ヴォルケンリッターが顕現した場合には保険としての役割も期待できると思ったからだ。

 

一方、なのはについては純粋に戦力として数えられる。半年間、ヴァニラが確りと教育してくれたおかげで魔力運用についてはほぼ問題ないレベルに達しているし、元々魔法センスが非常に高いこともあって、既に攻守共に強力な魔法を行使出来るようになっている。おまけに今はユーノから借り受けたレイジングハートのサポートもあって、正に鬼に金棒状態だ。

 

「お二人共、優秀な魔導師の卵ですわ。人柄につきましても、わたくしが保証致します」

 

『ミントさんがそこまで言う魔導師ならきっと大丈夫ね、クロノ』

 

『ああ。君達を民間協力者と認めた上で、改めて頼む。時空管理局の管理外世界とはいえ人間が、生命が住んでいる世界の一部だ。僕らも事態が収拾次第そちらに向かうが、それまでの間はミント、君達がこの世界を守ってくれ』

 

「…承りましたわ」

 

これは別に大袈裟なことでも何でもない。ロストロギアには本当にそれだけの力があるのだから。今回、テロ組織にジュエルシードを渡してしまったのは俺の独断だ。だから万が一ジュエルシードが悪用されるようなことがあった場合、それは俺の責任でもある。

 

(21個…絶対に欠けることなく、全部回収して見せますわ)

 

拳を握りしめると、俺はそう決意を新たにした。

 

 

 

=====

 

「世界の危機や言われても、あまりピンと来んなぁ…」

 

「にゃはは…そうだよね。わたしもさっぱり」

 

ミントさんが時空管理局の提督らしい女性と話をしているのを横で聞きながら、はやてさんとなのはさんがお互いにそんな事を言い合っていた。実は私自身もロストロギアについてはあまり詳しくは知らない。精々旧暦の時代に発生し、複数世界を同時に消滅させた次元断層はロストロギアによって引き起こされたとの話を聞いたことがある程度だ。なのはさん達が理解できないのも無理はないだろう。

 

『ところで、ヴァニラ・H(アッシュ)さんはいるかしら? 』

 

「は…はい、私です」

 

唐突に、私が指名された。まさか管理局の提督に呼ばれるとは思ってもいなかったので、驚きつつ返事をする。

 

『急にごめんなさい。改めて、リンディ・ハラオウンよ。リンディと呼んでくれて構わないわ』

 

「……」

 

先程のミントさんとの会話の時にも思ったのだが、提督とはいえ随分とフランクな性格のようだ。「ハラオウン提督」と呼ぼうとしたところ機先を制されてしまい、思わず言葉に詰まる。ミントさんは普通に「リンディさん」と呼んでいたようだが、さすがにその呼び方は憚られた。

 

「…では、リンディ提督、と」

 

一先ず呼び方が落ち着いたところで要件を尋ねると、プレシアさんも含めて私の両親の知己であるとの回答があった。

 

『貴女のお父様…イグニス・H(アッシュ)提督の補佐をしていたのが私の夫なのよ。そのこともあって、H(アッシュ)家とは以前から家族ぐるみで付き合いがあったの』

 

どうやら私のお父さんが艦長を務めていたエスティアという次元航行艦が事故に遭った際、リンディ提督の旦那さんも一緒に亡くなられたらしい。それから後も、お母さんやプレシアさんとは頻繁に会っていたのだとか。

 

『貴女のことも良く聞いていたのよ。生きていてくれて、本当に嬉しいわ』

 

それを聞いた瞬間、また涙が零れそうになった。リンディ提督のその言葉が、私にはまるでお母さんからかけられた言葉のように思えたのだ。

 

<大丈夫ですか?辛いようでしたら、無理にお話なさらなくても構いませんわよ? >

 

<いえ…お気遣いありがとうございます。大丈夫です>

 

素早く目元を拭うと、ミントさんからの念話に答えた。

 

「ありがとうございます、リンディ提督。あの…地球にいらっしゃるんですよね? 」

 

『ええ、こちらでの処理が終わり次第、そちらに向かうわ』

 

「もし良ければ、その時に両親のこと、色々と聞かせて貰いたいのですが」

 

プレシアさんともいろいろと話したいことはあるが、折角のアリシアちゃんとの再会を邪魔するのも悪いし、何より私自身がこの時リンディ提督と直接会って話したいと強く思っていたのだ。

 

『ええ、勿論よ。会えるのを楽しみにしているわね』

 

 

 

今後も定期的に連絡を取ることを取り決めて、ミントさんは通信を切断した。アリシアちゃんは少し名残惜しそうにしていたが、すぐに2週間後には話だけでなく実際に会うことが出来るのだからといって微笑んだ。

 

なのはさんとはやてさんについては、話しは出たものの直接会話に参加することは無かったため、士郎さんと美由希さんも傍らで話を聞いていただけだった。

 

「折角参加して頂きましたが、殆どお話して頂くことはありませんでしたわね」

 

「いや、それなりに実はあったよ。彼らの為人も把握できたしね」

 

申し訳なさそうなミントさんに対して、士郎さんはあっさりと答えた。

 

「まぁ音声だけだから完全とは言い難いが、個人としては信用して良さそうに思うよ」

 

「とーさんはそう言うけど、改めて聞くと例のロストロギアだっけ? 本当に世界の危機なら、あたし達だけじゃなくてもっと協力者を増やすべきだと思うけど」

 

士郎さんと美由希さんは地球の人間だ。自分達の世界が滅びるかどうかという事件が起こった時に、それを招いた元凶である次元世界の人間が、何の情報開示も無しにこっそり事態の収拾にあたるというのは確かに納得できないところではあるだろう。

 

「そのことについては返す言葉もありませんわ。ただわたくし達としても管理外世界への情報開示は神経質にならざるを得ない部分でもあります」

 

「確かに、下手に全ての情報を開示してしまったらパニックどころじゃ済まないだろうな。以前ヴァニラちゃんが懸念していた事態が現実に起こってしまうことも考えられる」

 

嘗て私が説明した、高町家やアリシアちゃんに被害が及ぶ可能性についての話が出ると、美由希さんも頷いた。

 

「うん、それは判ってるんだけど…たぶん想像していたよりも大事だったから弱気になってたんだと思う。大丈夫! 一度引き受けたことだし、ちゃんと最後まで付き合うよ」

 

「さて、少し遅くなってしまったが、これから捜索に向かうかい? 」

 

士郎さんの言葉に時計を見ると、丁度15時になるところだった。3時間もあればそれなりに捜索は出来るだろうが、私は改めてはやてさんのことが気になっていた。プレシアさん達との通信で有耶無耶になってしまっていたが、元々ははやてさんの後見人に文句を言うというのが話の発端だった筈だ。

 

だがはやてさんの後見人をしているのが「ミッドチルダのギル・グレアム氏」だとすれば、何故なのかという疑問が生じる。本人が聞かされていたように父親が親友だったというなら判らなくもないが、それでも一人暮らしをさせるという一点について理解できない。

 

「ヴァニラちゃん? 大丈夫? 」

 

不意になのはさんから声をかけられ、我に返った。既にミントさんとなのはさんは2人で両側からはやてさんを支えるように立っている。心配そうな表情から、私のことを気遣ってくれているのが判った。

 

「あ…ゴメン、なのはさん。ちょっと考え事をしてて」

 

私も慌てて立ち上がると、3人が通りやすいように居間のドアを開けると、玄関に置いてあった車椅子の準備をする。はやてさんの後見人については夜にでも士郎さんに相談してみようと思った。

 

「じゃぁ私と美由希は翠屋に戻っているから、何かあったら連絡してくれ」

 

「みんな、あまり無理しちゃダメだよ」

 

士郎さんと美由希さんがそう言って先に玄関から出た。どうやら午後の捜索は時間的なことからも手分けするのではなく、発動の気配を察知してからその場所に向かえるよう、全員で行動することに決まったらしい。はやてさんは夕食は高町家で頂いて、その後ミントさんと一緒に八神の家に戻るのだそうだ。

 

「あと1、2時間もしたら桃子ママが夕食の支度に戻ってくるだろうから、私はお手伝い要員で待機してるねー」

 

笑顔で手を振るアリシアちゃんに「よろしく」と声をかけ、私達も家を出た。

 

「そう言えば、預かっているジュエルシードは如何しましょうか? 」

 

ふと思い出して、ミントさんに尋ねてみた。今私が封印しているジュエルシードは全部で3つある。

 

「そうですわね…テロ組織もジュエルシードを狙っている可能性がある以上、纏めておくのは心配ですわ。出来ればヴァニラさん、なのはさん、わたくしの3人で分散して持っておきたいですわね」

 

≪Sure. Put out.≫【了解。取り出します】

 

ミントさんの依頼に従ってハーベスターが2つのジュエルシードを排出し、トリックマスターとレイジングハートがそれぞれ1つずつ格納した。

 

「それがさっき話とったオーパーツもどきなんやね。ぱっと見、ただの綺麗な青い石って感じやったけど」

 

正直なところ、私自身もこの石に世界を滅ぼすような力があるとは思えなかった。それぞれの石から感じる魔力はとても微弱なものだったからだ。だがそれはジュエルシードが安定状態にあるからだということをミントさんから聞いているし、何より思念体として発動した時の魔力の高まりは相当なものだった。

 

(それでも世界を滅ぼすような力には程遠いと思うけれど。でもミントさんの話では思念じゃなく、実体を持った生命体の願いだとより強い力を持つって言っていたし)

 

何にしても、早めに残りのジュエルシードを探し出さなければいけないのは確実だった。そしてロストロギア探索以外にも2週間後にやってくる時空管理局の人達のことや、これからの私の身の振り方についても考えなくてはいけない。

 

ふと、昨夜ユーノさんが口にした言葉が頭の中に蘇った。

 

『治癒術師ですね…』

 

それは私の将来の目標だった筈だ。だが治癒術師はミッドチルダにいてこそなれる職業であり、地球にいる限り医者になることは可能でも治癒術師にはなれない。だが元々知り合いがそれ程多くなかったとはいえ、26年の時差を気にしない訳にもいかない。

 

「…将来、かぁ」

 

「ん? ヴァニラちゃん、どないしたん? 急に溜息なんか吐いて」

 

思わず吐いた溜息にはやてさんが反応した。

 

「あ、すみません。少しこれからのことについて考えていたのですが」

 

「それって、2週間後に来るっていう管理局の人達のこと? ヴァニラちゃんもアリシアちゃんも、やっぱりミッドチルダに帰っちゃう? 」

 

少し不安そうな面持ちで、なのはさんが語りかけてきた。

 

「…まだ良く判らない。帰りたいっていう気持ちも間違いなくあるんだけど、まだみんなと一緒にいたいっていう気持ちもあるから」

 

少し笑顔を見せるなのはさんと対照的に、今度ははやてさんの表情が少し翳ってしまった。

 

「なぁ、ヴァニラちゃん。わたしにもなのはちゃんみたく、もうちょいフレンドリーに話してくれへん? なんや敬語使われとると壁があるみたいで、気になるわ」

 

「え? そうですか?…って、あ」

 

確かに思い返してみればはやてさんやミントさんに対してはずっと敬語で話しかけていた。これはもう癖のようなものだろう。

 

「不思議とミントちゃんの方はあまり気にならんのやけどね。みんなに対して同じ口調やからやね、きっと」

 

「最初にわたしと話した時も、そんな口調だったよね。今では普通だけど、みんなで頑張って矯正したんだよ」

 

矯正と言う言葉がこの場合正しいかどうかは取り敢えずおいておく。

 

「そう…だね。ごめん、はやてさん。こんな感じでいいかな? 」

 

なのはさんやアリサさん達に鍛えられただけあって、意識すればすぐに口調を変えることが出来た。後は慣らしていけば自然に話せるようになるだろう。

 

<わたくしとしては、その口調の『ヴァニラ・H(アッシュ)』に違和感があるのですけれど>

 

<仕方ないよ。私は『ギャラクシーエンジェルのヴァニラ』じゃなくて、『ミッドチルダのヴァニラ』だから。ミントさんにもこれからは出来るだけこっちの口調で話すようにするね>

 

<…それもそうですわね。了解ですわ>

 

ミントさんとも念話で会話しながら、私達は捜索を続けた。

 

だが残念ながらこの日は結局、追加のジュエルシードを見つけることは出来なかった。

 




本当なら前回の「情報共有」ですべての情報を共有したかったところですが、なかなかうまく纏まりませんね。。
ちなみにミントとユーノが海鳴に落下したのは土曜日(設定では4月16日)で、第3部は第1話後半から第4話まではずっと日曜日(設定では4月17日)のお話です。。長い週末です。。

あ、第5話もまだ日曜日の予定です。。
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