他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第6話 「接触」

翌朝、肌寒さを憶えて目を醒ますと、掛布団をはやてに全部持っていかれていた。幸い真冬ではなかったのでダメージは少ない。気持ちよさそうな顔で寝ているはやてを起こす訳にもいかず、そっとベッドを抜け出す。時計は5時を指していた。

 

「トリックマスター」

 

昨夜修復が完了した相棒を小声で呼ぶと、ふよふよと浮かんでついてくる。居間のカーテンを開けるとそこは庭になっていた。高町家の庭ほど広くは無いが、棒術の練習をする程度には問題ない広さがある。一度玄関に行って靴を持ってくると、俺は庭に出た。

 

≪Mode change. Device mode.≫【モード変更。デバイス形態】

 

錫杖形態にしたトリックマスターを握り、ベルカ式棒術の型をこなす。

 

 

 

「ミントちゃん? 何処や~? 」

 

暫くして一通り型を終えると、焦ったようなはやての声が聞こえてきた。何かあったのだろうかと思い、居間の窓を開けて中に声をかける。

 

「おはようございます。日課の練習をしていましたの。庭をお借りしていますわ」

 

「あぁ、そっちにおったんか。良かった。おはよう。目え醒ましたらおらんかったから、びっくりしたで」

 

どうやら俺がいないことを心配して、家の中を探し回ったらしい。玄関に靴が無かったため、不安が限界に達して声を上げたようだった。余程人恋しかったのだろう。少し申し訳ないことをしたと、反省する。

 

「事前にお伝えしておけば良かったですわね。でもあんまり気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのは忍びなかったのですわ」

 

あははーと照れたように笑いながら、はやてが車椅子の車輪を回す。

 

「朝ご飯作るから、ちょっと待っててな。パン食とお米とどっちが好み? 」

 

「どちらも好きですが、強いて言うならパン食ですわね」

 

嘗てフェイトにも同じ質問をしたのを思い出しながら答えた。フェイトも朝食はパン派だったが、個人的には温泉宿等で提供される純和風な朝食も決して嫌いではない。

 

「お手伝いしましょうか? 」

 

「そんなに手間はかからんし、今日はええよ。ゆっくりしててや」

 

キッチンで手際よく野菜を切るはやての姿を見ていると、不意に遠くの方でなのはとヴァニラの魔力パターンを感知した。時計を見ると6時前。彼女達も例の朝練をやっているのだろう。少し念話を入れてみることにした。

 

<おはようございます。朝から精が出ますわね>

 

<あ、ミントちゃん! おはよう~>

 

<ミント! おはよう>

 

<おはよう、ミントさん。はやてさんの具合はどう? >

 

<昨夜はゆっくり休んでいたようですし、調子は悪くなさそうですわ>

 

なのはとユーノ、ヴァニラからそれぞれ返答があった。ヴァニラがはやてのことを気にかけていたので特に変調は無いことを伝え、今日の行動予定を連絡することにした。

 

<朝食後に魔力の譲渡を行いますわ。それからジュエルシード探索に出ます。念話の練習は道すがら実施しますわね。翠屋に寄るのは15時頃で良いですか? >

 

<うん。それでいいと思う。それからユーノさんのことだけど>

 

丁度ヴァニラに尋ねようと思っていた話題が出たので意識を集中させる。

 

<もう体力的には問題ないところまで回復してる。でも、変身魔法と念話以外の魔法はあと2週間は禁止。これ以上下手に魔法を使うと、リンカーコアが回復不可能なレベルのダメージを受けるかもしれないから>

 

現在ユーノの魔力量はAで、本来このまま成長すれば将来的には20歳前後でAAA程度にはなる筈なのだが、今ここで無理して魔法を使ってしまうと、魔力量がAのまま成長出来なくなってしまう可能性もあるのだとか。通常なら最長2日程度で復活する筈の魔力素不適合症がここまで長引いているのは、テロリストのシャトルでたった1回、シールドの魔法を使ったためだ。

 

<…危険な状態だったのですわね。ユーノさん、すみません>

 

<ミントの所為じゃないよ。それにあと2週間だけ魔法を使わなければ大丈夫なんだから、気にしないで>

 

ヴァニラのお墨付きもあり、念話で声を聴く限りでは随分と元気になったようでホッと胸をなで下ろす。ちなみに念話は魔力消費が殆ど無いため使用が許可されているのだが、変身魔法が許可されているのは「変身してもよい」という意味ではなく「人間の姿には戻らず、現在のフェレットモードを継続する」ということらしい。

 

<人間の姿に戻れるのも2週間後だってさ。それまではフェレット姿だから、翠屋で食事をするのはまだ先だね>

 

<それまではわたしがユーノくんのために、シュークリームを持って行ってあげるね>

 

「ミントちゃん、朝食の用意出来たで~」

 

「ありがとうございます。すぐに参りますわ」

 

念話での会話中にはやてから声をかけられたので、まずは手を洗いに洗面所に向かう。

 

<わたくし達はこれから朝食ですわ。ヴァニラさん達は学校ですわよね? お気を付けて。アリシアさんにもよろしくお伝え下さいませ>

 

<うん。じゃぁまた、放課後に>

 

念話を切り上げると、俺ははやての待つダイニングに向かった。

 

 

 

朝食を済ませ、片付けを終えると俺ははやてを寝室に連れて行った。魔力の譲渡を行うためだ。ベッドの上にはやてを横に寝かせると、その横に腰掛ける。

 

「トリックマスター」

 

≪All right. Here we go.≫【了解です。どうぞ】

 

ストレージからジュエルシードを取り出して左手に持ち、右手をはやての足に添えると魔力がそこからどんどん流れ込んでいく。以前ユーノに対して譲渡した時は一瞬だったこともありあまり感じなかったのだが、はやての魔力は常時殆ど空っぽの状態なので、気を抜くと膨大な量の魔力が一気に流れ込んでしまいそうになる。

 

はやてのリンカーコアはいくら流し込んでも一杯にならない底なしの容器のような感じなのだが、対するジュエルシードも相当量の魔力を譲渡に使用しているにも関わらず、一向に魔力が切れる様子がない。オーバーフローさせる訳には行かないのである程度譲渡に使う魔力を制御しているのだが、これが意外と体力を使うのだ。

 

「…んっ」

 

「万一気分が悪くなったりしたら、すぐに言って下さいませ」

 

「うん…了解や。せやけど、どっちか言うたら気持ちええ感じやね」

 

「それは良かったですわ」

 

今日の譲渡は5分程度に留め、様子を見ることにした。これから毎日同じことを繰り返し、容体が改善するかどうかを確認するのだ。

 

「どうですか? 昨日より量は少なくしているのですが」

 

「ええ感じや。十分楽になっとるよ。ありがとうな、ミントちゃん」

 

さすがに闇の書に蝕まれた足は動くようにはならないだろうが、それでも身体が楽になるというのはヴァニラに言わせると体内の魔力が正常な状態に近づくためなのだそうで、良い傾向なのだろう。

 

「ほな、そろそろ出かけよか。ジュエルシードとかいうオーパーツを探すんやろ? 」

 

「ええ。そうなのですが、ただ闇雲に歩くのも効率が悪いですわね…ある程度の落下地点が予測出来ればよいのですが」

 

シャトルから放り出された時に、ほぼ同時にジュエルシードも散乱してしまっている。

 

「トリックマスター、ジュエルシードが散乱した時の落下角度やスピードから大まかな位置予測はできませんか? 」

 

≪It will be rather difficult. My global positioning system did not work properly because I do not have detailed coordinates of Non-TSAB administrated world, and I do not know where we exactly escaped from the shuttle.≫【難しいですね。管理外世界の座標は判りませんから私のGPSは正常動作していませんでしたし、シャトルから脱出した時の起点を特定することが出来ません】

 

「…そうですか」

 

≪However, that might be the good idea. I will contact Harvester and Raising Heart, and check if we can share the information.≫【ですが、それはいいアイディアかもしれません。ハーベスターやレイジングハートと情報共有してみます】

 

トリックマスターが言うには、ハーベスター側では落下しているジュエルシードの一部しか把握していないだろうが、その代わり海鳴の地図や座標といった情報を持っている筈だ、とのこと。ヴァニラが俺達を救出したポイントや、なのはがスターライトブレイカーを射出した角度などから、ジュエルシードが散乱した起点を特定出来る可能性もあるらしい。

 

尚レイジングハートが持っている情報もトリックマスターのものとほぼ同じだと思われるが、予測の正確性を高めるためには少しでも情報が多い方が良いとのことだった。

 

「何やそういう話をしとると、トリックマスターもまともに見えるな」

 

≪How can you be so rude? I am always serious...Serious even if I am joking.≫【失礼ですね。私はいつも真剣です…ふざけている時も真剣です】

 

「何か色々と台無しですわ」

 

 

 

≪Sorry to have kept you waiting. We have calculated some prospected points.≫【お待たせしました。いくつかの予測ポイントを算出しました】

 

暫くしてトリックマスターから申告があった。昨日士郎さんから借りた地図を広げると、そこに重ねるようにして、予測ポイントが複数表示されていく。ハーベスターから提供して貰った座標データと、レイジングハートとの連携で計算した落下ポイントらしい。

 

「…この赤い丸が捜索エリアなん? 一つ一つが随分広いようやけど」

 

「…それでもある程度の目安としては十分ですわ。少なくとも今までの半分くらいまでは絞れましたし」

 

赤い丸は海鳴のほぼ半分を占めてはいたが、裏を返せば残り半分は捜索対象外にして良いということだ。情報が有るのと無いのとでは効率も違う。これで少なくともテロリスト達を数歩はリードできた筈だ。

 

「せやけど、これ海の部分にも捜索エリアがあるで? これ、どないするん? 」

 

「海に落ちてしまったものの捜索は後回しですわ。捜索方法も考えないといけませんし」

 

はやての問いに答えながら一番近場の捜索ポイントをチェックする。

 

「っていうか、このエリアはうちも含まれとるな。まずはこの周辺から探してみよか」

 

「土地鑑がある方が一緒だと助かりますわ。よろしくお願いしますわね」

 

トリックマスターが表示してくれた捜索範囲はハーベスターやレイジングハートとも共有し、俺達は家を出た。道すがらはやてに念話を教えることになっていたため、念話のサポートをするトリックマスターは、はやてが車椅子の上で抱いている。

 

<こんな感じやな? 頭の中に声が響くみたいで変な感覚やけど>

 

<ちゃんと発信できていますわよ。後は練習を繰り返して、複数の人と同時に念話出来るようになれば完璧ですわね>

 

<ありがとうな。ところでこの念話ってどのくらいの距離まで届くん? >

 

<精々、数kmと言ったところですわね。ちなみに、はやてさんの家からヴァニラさんやなのはさんにはちゃんと届きましたわよ>

 

念話で雑談をしながら、はやての車椅子を押す。平日の昼間なので下手に補導官などに見つかった場合を想定して色々と言い訳も考えてはいたのだが、幸いそうした事態に陥ることもなかった。

 

暫く歩いていると手摺付きのスロープがあり、その先にある風芽丘図書館と書かれた建物が目に入った。

 

「ミントちゃん! あれ!! 」

 

図書館の敷地内に入った時、はやてが声を上げた。指差す先には植え込みの葉に隠れるようにして落ちていたジュエルシード。慌てて拾い上げると、トリックマスターに封印する。

 

≪Internalize number 15.≫【15番、収納】

 

「早速1個や。幸先ええなぁ」

 

嬉しそうにはやてが言う。どうやら子供用車椅子に座り、俺よりも更に低い目線になっていたため、たまたま光を反射したジュエルシードが目についたらしい。

 

「ありがとうございます。発動前に封印できたのは幸いでしたわね」

 

「この調子でどんどん見つけようかー」

 

俺もはやてもこの発見で随分とテンションが上がっていたのだが、結局残念ながらそれ以降は待ち合わせの時間まで、他のジュエルシードを発見することは出来なかった。

 

 

 

=====

 

「…将来、かぁ」

 

お昼休みの屋上で、なのはさんがポツリと呟く。今日の授業で、将来どんな職業に就きたいのかを今から考えておくのも良いのではないか、との先生の言葉があったためなのだが、それは奇しくも私が昨夜口にした言葉と同じだった。

 

「アリサちゃんも、すずかちゃんも、もう結構決まってるんだよね」

 

「あたしのところはお父さんもお母さんも会社経営だから、いっぱい勉強してちゃんと後を継がなきゃ、っていう程度のことよ」

 

「私は機械とか好きだから、工学系で専門職がいいかな…アリシアちゃんは? 」

 

「デ…じゃなくて、やってみたいことはいろいろとあるんだけど、さすがにまだ将来のことまでは考えていないかな」

 

アリシアちゃんは以前、デバイスマイスターになりたいと言っていたが、それは私の目標だった治癒術師と同じで、地球では成り立たない職業だ。

 

「ヴァニラは医療系志望って言っていたわよね。なのははどうなの? やっぱり翠屋の二代目? 」

 

「それもビジョンの1つではあるんだけどね…」

 

なのはさんは私とアリシアちゃんの方を見て微笑んだ。

 

「最近ね、色々とやりたいこと、やってみたいことが出来てきたの。今はどうするかはっきり決まった訳じゃないけれど、これからいろいろと考えていくよ」

 

「なのはとアリシアはこれから、ってことね」

 

明確な目標という訳ではないものの、大まかな方向性がある程度決まっているアリサさんやすずかさん、それに私がいることでも、別に焦った様子もなく自分の希望を語るなのはさんを見て笑みが零れた。これが半年前の、ありのままの自分でいてはいけないと信じ込んでしまっていたなのはさんだったなら、きっと気負い過ぎたりして、悲観的な見方をしてしまっただろう。

 

「あ、そう言えば朝少し話していたけれど、はやてちゃんに会ったんだよね? 」

 

「うん! 今日も放課後に会う約束をしてるんだよ。あ、アリサちゃんとすずかちゃんも一緒にどう? 」

 

すずかさんの問いに嬉しそうに答えるなのはさんだったが、アリサさんが呆れたような表情でツッコミを入れた。

 

「なのは…今日は塾の日でしょ。学校が終わったらそのまま行くんだから、会うのは無理よ」

 

「にゃっ!? そうだったっけ!? どうしよう? 」

 

どうやら今日が塾の日だということを失念していたようだ。

 

「なのはちゃん、落ち着いて。今日は3人で塾に行ってきて。はやてちゃんとミントちゃんにはヴァニラちゃんと私で会いに行ってくるから、みんなで会うのはまた今度にしよう」

 

「うん…ごめんね、アリシアちゃん、ヴァニラちゃん。後で私からもゴメンって連絡しておくね」

 

アリシアちゃんが宥めることで漸くなのはさんは落ち着きを取り戻したようだったのだが、今度はアリサさんがアリシアちゃんの言葉を聞いて質問してきた。

 

「えっと、はやてっていうのはすずかも知ってる子よね? で、ミントっていうのは誰? 初耳なんだけれど」

 

「あ…うん、最近海鳴に来たんだって。今、はやてちゃんと一緒に暮らしてるみたいよ」

 

「ふーん。親戚か何かな訳? 」

 

「えっと…遠い親戚だか、知り合いだか…詳しくは知らないけど」

 

アリシアちゃんが言葉に詰まりそうだったので、咄嗟にフォローを入れた。後でミントさんやはやてさんにも口裏を合わせて貰う必要があるだろう。

 

「…まぁ、いいわ。近いうちに紹介してくれるんでしょう? 」

 

「うん、勿論! 明日っ、明日は如何かな? 塾は無いし」

 

「残念、あたしとすずかは明日バイオリンのお稽古」

 

なのはさんも一生懸命はやてさんやミントさんとみんなで一緒に会うスケジュールを検討していたのだが、なかなかみんなの都合が良いスケジュールは決まらない様子だった。

 

「もういっそ、みんな温泉旅行に招待して、みんなで行っちゃえば? 」

 

すずかさんがそう言うが、ジュエルシードがまだ殆ど集まっていない状況で、みんなで遊びに行ってしまうのはどうなんだろう、とも思う。そしてその一方で、すずかさんの意見に賛同できる気持ちもあった。世界の命運に関わることと言いながら、今一つ実感が湧かなかったのだ。

 

(発動したジュエルシードも思念体とかいう、何だかよく判らないモノになっただけだったし、世界が滅びるような力があるとしても、実際にはそんなことなんて早々起こらないのかも)

 

そう思いかけた時、触手のようなものがベンチを打ち砕いた光景が頭を過った。あの思念体だって私が偶々魔法を使えたから封印できたけれど、その場にいたはやてさんが襲われていたら命の危険だってあった筈だ。ましてやここは管理外世界。魔法を使える人は表向きいない筈なのだ。注意して事に当たる必要があるだろう。

 

(…でも、それにしても世界滅亡の危機っていうのは言い過ぎのような気がするんだよね…)

 

結局みんなで一緒に会うのは塾もお稽古も無い木曜日の夕方ということになった。午後の授業が終わった後、なのはさん達3人は塾に向かい、私はアリシアちゃんと一緒に翠屋に向かった。予め念話では伝えておいたのだが、なのはさんが塾のスケジュールを忘れていて急遽来れなくなったことを実際に面と向かって伝えると、何かがツボに嵌ってしまったようで、はやてさんは暫く笑い続けていた。

 

その後、4人で少し街中を捜索したのだが、この日見つかったジュエルシードは結局ミントさんとはやてさんが午前中に見つけたという1個だけに止まった。

 

 

 

翌日の放課後、アリサさんとすずかさんはバイオリンのお稽古があるため、校門のところで別れた。バイオリンのお稽古は少し学校から離れた場所まで通っているため、バニングス家の執事をしている鮫島さんが車で迎えに来てくれるのだ。

 

「なのはさんは、バイオリン弾かないの? 」

 

「ああいうのはね、ヴァニラちゃん。適材適所っていうんだよ」

 

「ああ…うん、何となく判った」

 

アリシアちゃんなら歌が上手いから歌い手としては良いけれど、私はバックコーラスならまだしもメインボーカルには逆立ちしてもなれない。なのはさんが言っていることも似たようなものなのだろう。そんな他愛もない雑談をしながら桜台公園の階段を下り、いつもの海岸沿いの道を歩く。

 

その時だった。先日高台で感じたのと同じような、ざわめくような感覚があった。

 

「! ヴァニラちゃん、これ…! 」

 

「うん、たぶんジュエルシードが発動したんだと思う。アリシアちゃん、ゴメン。先に帰ってて。翠屋にはやてさんが来ている筈。後でそっちに合流するから。あと士郎さんと…恭也さんか美由希さんに連絡をお願い」

 

「判った。2人共気を付けてね」

 

手を振るアリシアちゃんを残して、私はなのはさんと一緒に下りてきたばかりの公園の階段を駆け上がった。走りながらミントさんにも念話を入れる。

 

<ミントさん、ジュエルシードが>

 

<ええ、こちらでも感知しましたわ。わたくしもすぐに参りますわね>

 

感覚からすると、発動したのは桜台公園の池の反対側辺りだろう。つい先ほど通った道だった。発動するまで正確な場所が判らないという厄介さに改めて閉口してしまう。

 

<ヴァニラちゃん、飛んだ方が早くない? >

 

<ダメだよ。認識阻害をかけていても、ほら、周りにまだ人が>

 

結界魔法にそれほど適性が無い自分が恨めしい。せめて桜台公園一帯を覆えるレベルの封時結界が発動出来れば、迷うことなく飛んで行けるのだが、今の私では池の周辺をカバーするのがギリギリだろう。それにはやてさんの例もある。リスクは出来るだけ避けた方がよい。

 

だが次の瞬間、誰が張ったのか判らないが、辺りが封時結界に包まれた。

 

「ヴァニラちゃん! これって…」

 

「うん、結界だね。誰のかは知らないけれど」

 

結界の魔力パターンは私の知らないものだった。ミントさんの物でもなのはさんの物でもない。随分と脅しておいたユーノさんが魔法を使う訳もなく、はやてさんはまだ基本念話くらいしか使えない筈だった。

 

「でもこれってチャンスだよ! 行こう、レイジングハート! 」

 

≪Stand by, ready. Set up.≫【準備完了。セットアップ】

 

一瞬身体が光に包まれると、なのはさんはバリアジャケットを身に纏ってフライヤー・フィンを発動させた。私も慌ててセットアップし、後を追う。

 

「ハーベスター、高機動飛翔! 」

 

≪Sure. "Maneuverable Soar".≫【了解。『マニューバラブル・ソアー』】

 

なのはさんと並ぶようにして、出来るだけ低空を飛ぶ。

 

「なのはさん、気を付けて。ジュエルシードはともかく結界を張った以上、誰か魔導師がいる筈。魔力パターンは私も知らないから、味方かどうかも判らない」

 

「それって、ミントちゃんが言っていた…テロリスト!? 」

 

「その可能性もあるっていうこと」

 

 

 

池の畔に到着すると対岸で高まる魔力反応と共に、光の柱が立ち上った。光の柱は2本、3本と増えていく。魔力量は私よりも若干少ないくらいだと思われるが、警戒はしておく必要があるだろう。

 

「間違いない…誰かが攻撃魔法を使ってる」

 

「何にしても、あっち側に行かないと始まらないよ! 」

 

実戦で使うのは初めての筈のフライヤー・フィンを見事に制御し、なのはさんが対岸に向かう。そしてその後を追うように飛ぶ私の目に、異形のモノが映った。

 

「あれ…何? 」

 

強いて言うなら虎。それが空を飛んでいる。背中には蝙蝠の羽のような翼が生えていた。明らかに地球上の生命体とは異なる。そしてそれは私が先日見た思念体とも全く異なるものだった。さすがのなのはさんも一瞬歩を止める。その時、地上から放たれたらしい射撃魔法が虎のようなモノを掠めた。

 

「っ! 」

 

その射撃魔法が放たれたと思われる辺りに、1人の男性がいた。虎の意識が男性の方に向いた瞬間、気を取り直したらしいなのはさんが虎に特攻した。

 

「えぇぇぇぇぇいっ!! 」

 

アクティブ・プロテクションを展開し、それを虎に押し当てたまま地上まで一気に加速する。

 

<なのはさん、気を付けて! >

 

<大丈夫! 任せてっ>

 

虎を地面に叩き落とすと、なのはさんはそのままレイジングハートを突きつけた。

 

「ジュエルシード、封印! 」

 

その時少し離れたところに立っていた男性が、虎ではなくなのはさんに対して拳銃を構えるのが見えた。

 

「! なのはさん、危ないっ! 」

 

辺りに銃声が響くのとほぼ同時に、私はアクティブ・プロテクションを展開した。だが銃弾は私のプロテクションを突き破った。

 

「!! 」

 

幸いその1発目はなのはさんには命中しなかったものの、一瞬の隙をついて虎がなのはさんの拘束を逃れ、空中に逃げ出した。魔導師は構わずに2発目、3発目を撃ってくる。慌ててアブソリュート・フィールドを発動させようとした時、一瞬早く空色に輝くラウンド・シールドがなのはさんの正面に展開され、銃弾を弾いた。

 

「お待たせですわっ! こちらはわたくしに任せて、なのはさんとヴァニラさんはジュエルシードを! 」

 

涼やかな声と共に現れたのはミントさんだった。恐らく直射弾の発射台であろうスフィアを6基、周囲に展開して私達の前に立ち、魔導師と対峙した。なのはさんはミントさんの言葉に頷くと、虎を追って空中に飛び立った。その時、相手の魔導師が初めて言葉を発した。

 

「…またお前か。何処までも邪魔しやがって、今度こそブッ殺してやる」

 

「お言葉を返すようですが、私利私欲のためにわたくし達の平穏な生活を邪魔したのはそちらが先ですわよ」

 

恐らくこの男が、ミントさんが言っていたテロリストの1人なのだろう。先程まで虎を狙っていた射撃魔法ではなく、拳銃で攻撃してきたことに少しだけ違和感を覚える。

 

<ヴァニラさんも行って下さいませ。あれは原生生物…恐らく猫か何かを取り込んでいますわ。思念体よりも強くなっている筈ですわよ>

 

<うん…ミントさんも気を付けて>

 

ミントさんからの念話に違和感を振り払ってそう答えると、私はなのはさんのサポートに向かった。上空では丁度、なのはさんが放った誘導弾が、虎の翼に命中したところだった。予想以上にあっさりと翼がもげるが、即座に新しい翼が生えてくる。もげてしまった方の翼は、今度は複数の不気味なモノに変化してなのはさんに襲い掛かった。

 

「にゃぁぁっ、こんなの聞いてないよぉっ! 」

 

「ハーベスター、プラズマ・シューター! 」

 

≪Sure. "Plasma Shooter".≫【了解。『プラズマ・シューター』】

 

不気味なモノ…強いて言うなら口と胴体だけの化物は見た目ほど強いわけでは無く、シューターが命中するとあっさり無力化出来た。

 

「あー、びっくりした。ヴァニラちゃん、ありがとう」

 

「翼はいくらでも再生可能みたいだから、本体に大技を当てていくしかないと思う。なのはさん、以前教えたこと、実践してみようか」

 

「あ! うん! 覚えてるよ」

 

なのはさんは対峙した虎に向かってレイジングハートを構えた。

 

≪"Restrict Lock".≫【『レストリクト・ロック』】

 

集束系の上位魔法が虎を拘束する。それと同時に私もなのはさんと一緒に砲撃の準備に入った。

 

「…なのはさんほどの威力は出せないけれど」

 

「大丈夫! 一緒にいくよっ! ダブル・ディバイン・バスター!! 」

 

なのはさんの声に合せてトリガーを引く。レイジングハートとハーベスターが同時に放った砲撃が虎を飲み込んだ。虎の身体が光の中に消えると、代わりに小さな猫が落ちていく。

 

「あっ、危ない! 」

 

慌てて猫を掬うように抱えると、猫はのんきに欠伸をしている。もしかすると今までの戦闘の記憶は無いのかもしれない。

 

「なのはさん、ジュエルシードお願いしてもいい? 」

 

「任せて。レイジングハート、お願い」

 

≪Sealing mode, internalize number 16.≫【封印モード、16番収納】

 

その場に浮いていたジュエルシードをレイジングハートに収納させると、私達は地上に降りて猫を放した。

 

「次はミントちゃんの方だね」

 

「うん、急ごう」

 

さっきから頻りに銃声が聞こえているし、ミントさんの魔力反応の高まりも感じている。それは取りも直さずミントさんが戦闘を継続していることを意味していた。

 

私達は改めて飛行魔法を展開すると、ミントさんのサポートに向かった。

 




本当に「ロストロギア=世界の危機」と認識していたら、呑気に温泉旅行なんて行ってられないと思うのです。。

良いんです、温泉旅行は全て落ち着いてからで。。「延期しよう。。温泉にはまた行けるから」

※トリックマスターのセリフ「私はいつも真面目です…ふざけている時も真面目です」の「真面目」を「真剣」に修正しました。。
ご提案ありがとうございます。。
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