他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第10話 「索敵」

「大丈夫かなぁ、ヴァニラちゃん、大丈夫かなぁ? 」

 

「なのはちゃん、落ち着いて。取り敢えず今ハーベスターがチェックしてくれているから」

 

次元震が発生した直後、あろうことか素手でジュエルシードの暴走を止めてしまったヴァニラは、そのまま昏睡状態に陥った。原作ではフェイトが同じことをしていた記憶があるが、実際にこの目で見ると、かつて映像で見たものとは全く違っていた。

 

兎に角酷いのは、ヴァニラの両手の怪我だ。まるで高速回転するドリルを素手で掴んだのではないかと思うほど掌が完全に爛れ、血塗れになっている。取り敢えず帰宅前に俺が適性が無いなりにかろうじて習得していた治癒魔法を行使して簡単な止血だけはしておいたのだが、それでもアリシアが初見で気を失いそうになった程だ。

 

なのはは病院に連れて行かなくちゃ、と大騒ぎしたが、何が起きたのかを説明できないこともあって、まずはハーベスターにチェックして貰うことになったのだ。

 

≪This is just a kind of tiredness. Master should be exhausted due to excessive use of her magical power. Fortunately, her Linker Core does not have much damage. She will recover consciousness before long.≫【ただの疲労です。マスターは魔力を酷使しすぎたのでしょう。幸いリンカーコアに大きなダメージはありませんので、暫く休めば意識を取り戻すと思います】

 

ヴァニラはあのまま目を醒ましていないが、魔力の異常行使による一時的な疲労らしく、一両日中には自然に目覚めるだろうというのがハーベスターの見立てだった。掌の傷は確かに酷いのだが、ヴァニラが意識を取り戻しさえすれば自力で回復魔法を行使出来るだろうとハーベスターも意見を述べたため、現状維持が決まった。

 

「ハーベスターがバイタルチェック機能を持っていて良かったよ。さすがはヴァニラのデバイスと言ったところかな」

 

≪Thank you.≫【ありがとうございます】

 

ユーノが感心したように言い、それにハーベスターが礼を返す。

 

「あっ、そうだ! ユーノくん、ゴメン…レイジングハート壊しちゃって」

 

「いや、大丈夫だよ。さっき確認したら、ちょっと時間はかかりそうだけど自己修復出来そうだったし」

 

≪Yes, I can restore myself within a couple of days without any problem. You do not need to worry about it, Nanoha.≫【はい。数日中に修復可能ですのでお気になさらず】

 

レイジングハートはそのまま修復に専念するとのことで黙り込んでしまったが、それを聞いたなのはも漸く落ち着きを取り戻したようだった。

 

「さてと。取り敢えずヴァニラは大丈夫ってことよね? じゃぁ事情を説明して貰おうかしら? 」

 

「にゃぁぁぁっ!? 」

 

「うん、私もいろいろと聞かせて貰いたいな。特にその喋るペンジュラムとか喋るフェレットにはとっても興味があるんだけど」

 

何故か、高町家にはアリサとすずかも一緒について来ていた。事情を説明すると約束したのはヴァニラだったような気もするのだが、それを理由に彼女たちの追及を拒否することなど、この場にいる誰にも出来はしないだろう。

 

アリサは不機嫌を露わにしているし、すずかは笑みが怖い。恭也さんと美由希さんはとっくの昔に席を外してしまっている。ヴァニラとアリシアの寝室に入れる人数も限られるので、階下で待機してくれているのだろう。はやても心配そうにしてはいたのだが、大人数で2階に上がることになったため1階で待ってくれている。尤もはやての場合は仮に一緒にいたとしても事情の説明は出来ないと思うが。

 

俺はふっと息を吐いた。

 

「そうですわね…ヴァニラさんの事情はアリシアさんとなのはさんの方が詳しいでしょうから、説明はお任せしますわ。わたくしは今回の事象について説明致します。ですが…」

 

そう言いながら時計を確認する。時刻は既に21時を回っていた。ここにいるメンバーはまだ夕食を済ませていないし、彼女たちを納得させる説明をするには今日だけでは確実に足りない。それを指摘すると、2人も言葉に詰まる。

 

「大体、アリサさんもすずかさんも、明日は学校があるのでしょう? とりあえず今日のところは簡単な概要だけ説明して、詳細は週末ということにしませんか? 」

 

「…判ったわ。だけど何よりも今、確実に教えてもらわないといけないのが、これのことよ」

 

アリサさんが示したのは彼女のスマホに示されたニュース速報だった。そこには海鳴を中心に発生したとされる、割と大きめの地震について記載されていた。

 

次元震の、次元震たる所以だった。いくら封時結界で影響を抑え込もうとしても、次元空間で発生した衝撃波はその規模によって、現実世界に於いても多少の影響を与えることがあるのだ。そしてそれは結界の強弱によっても左右される。

 

今回の場合は特に、あまり結界魔法に適性がないなのはが構築した封時結界で影響を抑えようとしていたこともあり、俺達が結界の中で見た程の被害はなかったものの、現実世界でも震度4程度の地震が観測されていた。もしユーノが万全の状態で発動した結界だったなら、現実世界に影響が出るようなことは無かったに違いない。

 

アリサとすずかは、「余震があるかもしれない」ということで高町家に一時避難という形を取っている。むしろすずかの屋敷やアリサの家の方がよっぽど耐震面では安全なのではないかと思うのだが、そこは恐らく子供達の我儘が聞き入れられたのだろう。

 

「この地震って、さっきの…あれよね? でも…ちょっと混乱しているのかしら…」

 

「うん、あれは震度4とか、そんなレベルじゃなかったよね」

 

いずれにしても、まずは魔法の存在から説明する必要があるだろう。これが一番厄介なのだが、と思いながら俺はパートナーのアンティークドールを呼び寄せた。

 

 

 

アリサもすずかも理解力は優れており、なのはの実演やトリックマスターとユーノの解説などを交えたこともあって、30分も説明すると魔法の存在や仕組み、更には情報を公開することの危険性をも認識してくれた。

 

「つまりさっきの地震は魔法で切り出した別空間で発生したもので、そこで抑えきれなくなった余波が現実世界にも影響したっていうことなのね」

 

「その地震の原因が私が拾った、あの青い石なんだ…」

 

「その通りですわ。全部で21あるロストロギア…超高度文明の遺産の1つです。とても危険なものなので回収していたのですが…結局みなさんにご迷惑をかけることになってしまいましたわね」

 

ニュースで見る限り、幸い怪我人などは出ていない様子だが、現実世界に影響を出してしまった上、表立ってそれを謝罪することも出来ないのは心苦しかった。

 

「みんな、そろそろ一区切りつけて。遅い時間だけど、さすがに何かお腹に入れておかないとだよ」

 

美由希さんが部屋の外から声をかけてくれた。どうやら桃子さんが軽く食べられるような夜食を用意してくれたらしい。まるで図ったようなタイミングで、誰かのお腹がくぅと音を立てた。

 

「あ…ごめん、今のわたし…」

 

なのはが恥ずかしそうに手を挙げる。

 

「アリサちゃんやすずかちゃんの分もあるから食べてきて。ほら、ユーノくんも。ヴァニラちゃんには暫くあたしがついているから」

 

「ありがとうございます、美由希さん」

 

「じゃぁ、食べてきちゃうね。お姉ちゃん、ちょっとの間よろしく」

 

俺達は美由希さんの言葉に甘えて、ユーノを含む全員でダイニングに移動した。夜食を用意してくれていた桃子さんにお礼を言う。どうやらはやても手伝いをしてくれていた様子だった。

 

「気を遣わせてしまったようですわね。すみません、はやてさん」

 

「ええんよ。ヴァニラちゃんのことは心配やけど、一緒に2階に上げて貰うても出来ることなんてあらへんし」

 

取り敢えず特に問題が無さそうなことだけ伝えると、はやても安心したように微笑んだ。

 

結局この日はみんなで軽い夜食を食べた後に解散となり、アリサとすずかはバニングス家の執事が運転する車で帰宅することになった。

 

「じゃぁ週末に泊まりにくるわ。延期になったとはいえ元々温泉旅行にいく予定だった日だし、他の予定は無いから問題ないわね」

 

「了解ですわ。その頃にはたぶんヴァニラさんも回復しているでしょうし、改めて色々な事情を説明します。それからもし今後、他のジュエルシードを見かけたら…」

 

「うん、判ってるよ。触らないようにして、なのはちゃんに連絡すればいいよね」

 

すずかの言葉に頷いて返す。なのはならば携帯電話も持っているし念話も使えるため、何処にいても連絡がつけられる。アリサもすずかも、なのはの携帯番号は知っているため連絡役としては最適だった。

 

「じゃぁ、なのはとアリシアはまた明日、学校で。ヴァニラのことよろしくね」

 

「うん。アリサちゃん、すずかちゃん、おやすみ」

 

アリサとすずかが高町家を出た時には既に22時を回っていたため入浴は諦め、俺達は軽くシャワーを浴びただけで就寝することになった。

 

 

 

=====

 

ズキズキとした掌の痛みで目が醒めた。見ると両手がぼろぼろになっていた。簡単な治癒魔法がかけられた形跡があったが、恐らく完全に傷を治すには練度が足りなかったのだろう。

 

「…リジェネレーション」

 

思考が纏まらず、ぼーっとした頭のまま、取り敢えず痛みを取り除こうと思って魔法を唱えた。翠色の魔力光が両手を包むと見る見るうちに傷痕は綺麗になり、痛みも嘘のように引いていく。

 

「…うん。これで落ち着いて眠れるかな」

 

≪Before you fall asleep, please wait for a while. I would like you to listen my complaint, master. ≫【寝るのは少々お待ち下さい。苦情を聞いて貰いたいので】

 

不意にハーベスターに声をかけられ、閉じかけた目を開ける。何気に時計を見ると短針は10と11の間、長針は6を指している。外は暗いので恐らく22時30分ということなのだろう。

 

「明日じゃダメなのかな? 学校もあるから疲れないようにしておきたいんだけど」

 

≪Do not worry. Tomorrow is National holiday. And many people are waiting for you to impeach.≫【心配には及びません。明日は祝日です。それに大勢の人がマスターにお説教したくて待っている状態ですから】

 

「…は? 祝日? それにお説教って…」

 

何のことだか判らずにハーベスターに聞き直した時、部屋のドアが勢いよく開いた。廊下の明かりがまぶしくて思わず目を閉じてしまう。

 

「ハーベスター! ヴァニラちゃんの意識が戻ったって!? 」

 

「ヴァニラちゃん、大丈夫!? どこか痛いとか無い!? 」

 

声からすると、なのはさんとアリシアちゃんのようだった。だが部屋に入ってきた気配は更に多い。明るさに目が慣れてきて改めて見ると、そこにはなのはさんとアリシアちゃんの他にもミントさんに支えられたはやてさん、それにアリサさんとすずかさんまでいた。

 

「あれ…? 何でみんないるの? 」

 

全員パジャマを着ていることから、恐らく別の部屋で寝ていたのだろう。何故お泊り会になっているのか、何故アリシアちゃんまで別の部屋で寝ていたのか、そうしたことが全く理解できていなかった。その時、アリサさんがすーっと大きく息を吸い込んだ。

 

「この、バカちんが~~~~~~~~~っ!! 」

 

その大音量に思わず耳を塞いでしまう。アリサさん、夜中なんだからそんな大声出しちゃダメだってば。

 

 

 

1時間後。私はベッドの上で正座をさせられ、延々と怒られ続けていた。最初の内は全く訳が分からず困惑しており、周りからの追及も叱責と言うよりもむしろ心配するような感じを強く受けていたのだが、ジュエルシードの暴走を抑え込んだ時のことをはっきりと思い出した途端、完全に槍玉にあげられてしまったのだ。

 

曰く、後先考えずに突っ込んで行って、よりにもよって次元震を起こしているジュエルシードを素手で掴むとは何事か。

 

曰く、バリアジャケットなしの飛行魔法行使が危険だと自分で言っておきながら、それを実行するとは何事か。

 

曰く、今までに構築したことも無い、それも確実にSSランクオーバーの魔法を、デバイスの補助もなくぶっつけ本番で行使するとは何事か。

 

他にも様々な叱責を受けたが、それらは全て私がとった無茶な行動を心配してのことだった。このため私は口答えすることも出来ず、ひたすら謝り続ける羽目になったのだ。正座させられていたのがベッドの上だったことだけが救いだった。これが床だったら、私の足は完全に痺れてしまっていたことだろう。

 

「みんな、そのくらいにしてそろそろ寝なさい。もう23時半よ」

 

桃子さんがお盆を持って部屋に入ってきた。

 

「ちょっと遅いけれど、少しでも口に入れておいた方が良いでしょう? おじや、作ってきたわ」

 

「あ…ありがとうございます」

 

ほのかに良い匂いがしてくるのと同時に、お腹が「くるくるくぅぅぅ~」と音を立てた。恥ずかしさのあまり俯いてしまったが、なのはさん達は安心したように微笑むと、「お大事に」「また明日ね」と言いながら部屋を出て行った。

 

桃子さんのおじやは少し熱かったけれど、とても美味しかった。食後すぐに眠ってしまうのは消化に悪いのだが、眠らずに身体の右側を下にして30分程横になるのは、逆流性食道炎でも無い限り却って消化を助けてくれる。私はその体勢を維持したまま、ハーベスターに状況を確認することにした。

 

これによると海鳴市街地でジュエルシードが暴走し、次元震が起こったのが4月26日の火曜日。今日が28日の木曜日で、私は丸2日間眠っていたのだそうだ。尤も記憶こそないものの、途中で何度か起き上がってはお手洗いに行ったり、桃子さんが作ってくれたおじやを食べたりはしていたらしい。

 

その都度なのはさんやアリシアちゃん達が一生懸命声をかけてくれていたらしいのだが、それらの一切に対して反応が無く、とても心配をかけていたとのこと。ちなみにアリサさんとすずかさんへの事情説明は今日の夕方までに殆ど終わっているのだそうだ。

 

<改めてみんなに心配かけたこと、謝らないとだね>

 

<≪Of course you should, master. And please do not cast such a dangerous magic in future, even if I support you.≫>【勿論です。それから今後あのような危険な魔法は、仮に私の補助があったとしても行使しないで下さい】

 

危険な魔法というのは「グラヴィティ・コンバージェンス」のことだ。あの魔法は既に放出されてしまったエネルギーを強制的に収束させるためにマイクロブラックホールを生成して制御し、改めて器であるジュエルシードに封じ直すように設定しているうちに完成した術式だ。

 

これはなのはさんが行使する集束魔法とは全く異なるメカニズムではあるが、ハーベスターに言わせると確実にSSランク以上の魔法らしく、しかも制御に失敗すれば術者ごとブラックホールに取り込んでしまう可能性があるものなのだとか。勿論非殺傷設定など適用できるものではなく、対象を人間に設定などしようものなら確実に消し去ることが出来てしまうだろう。

 

<…うん。それは怖いね…判った。もうアレは使わないよ>

 

だがそれはそれとして、疑問は残る。私の魔力量はAA+であり、仮にSSランク魔法を唱えたとしても、そもそも制御するどころか、発動に必要な魔力すら賄えない筈なのだ。

 

<≪You might have a rare skill. I am not sure what it is, but at least you can cast SS magic. For example, the rank of "Regeneration" is also SS.≫>【マスターにはレアスキルがあるのかもしれません。それがどのようなものかは判りかねますが、少なくともマスターがSSランク魔法を唱えることが出来るのは確かです。例えば『リジェネレーション』もSSランク魔法ですよ】

 

そう言えば、以前アリシアちゃんもそのようなことを言っていた気がする。デバイスに格納された魔法一覧にはランクが表示されていなかったので、今まではあまり意識していなかったのだが、実はこれ、管理権限で開くとランクまで表示されるのだそうだ。

 

<…初耳だよ>

 

<≪Meister Presea has the administrative permission currently. Why do not you ask her to transfer the permission when you see her next?≫>【現在管理権限はプレシア女史が保持しています。今度お会いする際に権限の移譲をお願いしては如何でしょう】

 

<そうなんだ…うん、考えておく>

 

そう言えば随分前にプレシアさんがそのうち私のレアスキル有無についても調べるようなことを言っていたが、お仕事が忙しくなってしまったこともあって有耶無耶になってしまっていたことを思い出した。そしてそれと同時に、あの頃の楽しかった思い出が甦ってくる。

 

(お母さん…お父さん…)

 

喉がヒクッと音を立てる。

 

<≪...30 minutes has passed since you ate supper. I will transitioning to sleep mode if you fall asleep.≫>【食後30分が経過しました。お休みになるなら、こちらもスリープモードに移行します】

 

<うん…そうする。お休みハーベスター>

 

ハーベスターなりに、気を利かせてくれたのかもしれない。私はそれから暫く声を殺して泣き続けた。

 

 

 

=====

 

翌朝、棒術の型を練習するためにそっと部屋を抜けだそうとすると、なのはとアリシアも目を覚ました。ヴァニラが寝込んでいた間はずっと同じパターンで2人が俺の練習に付き合うように起きてくる。レイジングハートの修復も無事完了したようで、なのはの襟元でキラリと光った。

 

「おはようございます。今日も魔法の練習ですか」

 

「うん。わたしももっと強くなって、ヴァニラちゃんやミントちゃんを助けられるようになりたいし」

 

「もう随分と助けて頂いていますわよ」

 

それは勿論本心だ。なのはだけでなく、アリシアにもはやてにも、随分と助けてもらっている。恭也さんや美由希さんなど、高町家の人達にも十分すぎるほどよくして貰っている。

 

「…厚意には誠意をもってお応えしなければなりませんわね」

 

まずはジュエルシードを確保しなければならない。全てはそれからだ。

 

「ねぇミントちゃん、ちょっと思ったんだけど」

 

不意にアリシアが声をかけてきた。

 

「次元震が発生した時、放出されたエネルギーに触発されたジュエルシードは無かったんだよね? 」

 

「…ええ、あの一帯では特に反応はありませんでしたわ」

 

アリシアが言おうとしていることはすぐに判った。トリックマスター達が作成してくれたジュエルシードの落下予測地図によると、次元震が起こった海鳴市街地には最低でも2つのジュエルシードがあった筈なのだ。次元震程のエネルギー放出を受けて、他のジュエルシードが誘発しない訳がない。

 

「誰かが持って行ってしまったか、或いは既にテロリストの手に落ちたか、と言ったところですわね」

 

今までに封印出来たジュエルシードは8つ。まだ半分にも届いていない。俺が知る原作とは事象が大きく異なっているためペースとして早いか遅いかは判らないが、アースラ到着までに10個は確保しておきたいところだった。俺は錫杖形態のトリックマスターを構え直すと、2セット目の型練習を始めた。

 

トリックマスターが「スーパー・エリア・サーチ」を完成させたのはこの日の午後だった。

 

 

 

「術式そのものには齟齬は無いみたいだよ。魔法ランクも何とかBまでは引き下げてあるけれど、その代わり詠唱が必要になっちゃったみたい」

 

「元のランクがAAだったことを考えれば上出来だよ。詠唱もそんなに長いものじゃなさそうだし」

 

アリシアとユーノがざっと術式をチェックして、そう告げる。まぁ全体的な利便性が上がるなら多少の詠唱も仕方ないだろう。それに術者が行使に慣れれば詠唱は省略することも出来た筈だ。

 

「後はサーチャーからのフィードバックですわね。自立制御設定がどのくらい出来ているのかは試してみないことには判りませんし」

 

そのまま全員でぞろぞろと庭に出ることにした。尚、この場には昨夜から居座り続けたアリサとすずか、それに病み上がりにも関わらずその2人に捕まり、午前中を説明だけで終えたヴァニラもいる。朝起きてきた時は真っ赤な目をしていて何事かと思ったが、今はすっきりとした笑顔を見せているし、説明は上手くいったのだろう。

 

「楽しみやな~上手くいっとるとええなぁ」

 

「はやてちゃん、発案者だもんね」

 

「なのはちゃんかて、隠蔽看破では役に立ったやん」

 

興奮を抑えきれない感じのはやてとなのはに微笑みながら庭の中程まで行き、錫杖形態のトリックマスターを構えた。唱えるべき呪文が自然と口をついて出てくる。

 

「ルミエル…ダン…ロブスクリート…マキナード…ケンデゥ…暗闇の中の光、賢神の策謀。求める者に智を、知るべき者に道を指し示せ! 『スーパー・エリア・サーチ』!! 」

 

複数の情報が瞬時に頭の中に流れ込んできた。ここまでは通常のエリア・サーチと変わらない。

 

(第二次展開…)

 

頭の中で情報が細分化されていく。予めトリックマスターから概要は聞いているので焦りなどは特にない。即座に状況を判断できるよう、第一段階目のサーチャーにフィルターをかけていく。対象は菱形の青い石、ジュエルシード。通常魔力からの検知は困難だが、一度発動すると膨大なエネルギーを放出する。これらの情報をサーチャーの子機に設定することで不要な情報を廃棄。

 

(第三次展開…)

 

更に情報が複雑化するが、予め条件を指定してあるので戸惑う程ではなかった。さすが、トリックマスターが数日かけて調整しただけのことはある。だが例の魔力探信波を発動した瞬間、流れ込んでくる情報が数倍に膨れ上がった。咄嗟に孫機に対して条件付けを増やし、子機のフィルターで調整させる。

 

「ランクBと言いながら、結構制御は難しいですわね…」

 

≪Custom makes all things easy.≫【慣れたら余裕ですよ】

 

そんなものか、と思いながら引き続きサーチャーからの情報に注意を払う。

 

「どう? 例の魔導師、いた? 」

 

「困ったことに反応はありませんわね」

 

これでは本当に魔導師がいないのか、単純に魔法を使っていないのか、それともこちらの呪文が正常に動いていないのかが判らない。

 

「ヴァニラさん、ちょっと認識阻害をかけた状態で1、2km離れてみてもらえますか? 」

 

「判った。ちょっと待ってて。ハーベスター、セットアップ」

 

この魔法の探査エリアはとてつもなく広い代わりに、術者からの距離が近いと反応が曖昧になるようだ。これは親機、子機、孫機が代を重ねるごとに術者から遠ざかるためだろう。術者の周囲にある親機からも探信波を使用できるように改良した方が良さそうだ。

 

≪All right. I will fix it within today.≫【今日中に調整します】

 

お願いしますわね、とトリックマスターに伝え、探信波の反応に注意を払う。ヴァニラが飛び立って少しすると索敵エリアに反応が出た。こちらから遠ざかっていく方角からして、ヴァニラに間違いないだろう。

 

<ありがとうございます。確認出来ましたわ>

 

ヴァニラにそう伝え、戻って貰おうとした瞬間、丁度ヴァニラとは反対側の山中を捜索していたサーチャーの情報に違和感を覚えた。該当する端末を同じルートで旋回させると、山中を流れる小川の水辺にキラリと光るジュエルシード。

 

「…見つけましたわっ! 」

 

「え? あ! ミントちゃん、ちょっと待って! 」

 

即座に認識阻害を纏い、飛行魔法を行使すると俺は対象のジュエルシードに向かって飛んだ。少し遅れる形でなのはが続く。ヴァニラには取り敢えず高町家に戻って待機して貰うことにした。

 

 

 

かなりのスピードで飛んだのだが、それでも目的地付近までで30分近くかかってしまった。

 

「ミントちゃん、大丈夫かな? わたし達だけで来ちゃったけど」

 

「ジュエルシードは未発動。辺りに例のテロリスト達は居ない様子ですし、恭也さん達がいなくても恐らく大丈夫ですわ。それにヴァニラさんに待機して貰ったのは万が一を考慮してですし」

 

ヴァニラが「トランスポーター」を使用できることは確認済みだ。俺達が先行して、座標が特定出来れば恭也さんや美由希さんを連れた状態でヴァニラが瞬間移動できる。咄嗟に思いついた言い訳ではあったが、有効な手段だと思う。やがてサーチャーで確認した小川が見えてきた。

 

「あれ? ここって…」

 

「どうかされました? 」

 

なのはが急にきょろきょろし始めたので聞いてみた。

 

「うん…ここね、わたし達が旅行に来る予定だった温泉郷の近くだと思う」

 

海鳴温泉郷と言うのだそうだ。確か宿の名前は「山の宿」だったか。なのはの話によると、この場所は山の宿から徒歩15分程度の遊歩道らしい。

 

「…取り敢えず今は封印が先ですわね」

 

水辺に落ちたジュエルシードに近づこうとすると、唐突にドクンと、発動を示す魔力反応が感じられた。恐らく丁度発動ギリギリの状態だったものが、俺やなのはの魔力に触れることで活性化してしまったのだろう。

 

「ミントちゃん! 」

 

「大丈夫ですわ。なのはさんは周囲の警戒を」

 

何故かは良く判らないが、この時俺はジュエルシードが完全に暴走してしまう前に封印できることを不思議と確信していた。そのまま歩を進める。

 

「…恐れる必要はありませんわ。わたくしがちゃんとブラマンシュに送り届けて差し上げますから」

 

心なしか、ジュエルシードの魔力反応が弱くなった気がする。

 

「大丈夫。21個、欠けることなく全部ですわ。お任せ下さいませ」

 

気のせいではなく、1歩進むごとにジュエルシードの魔力反応は明らかに弱くなっていた。そして俺が手を触れた時、ジュエルシードは完全に安定状態に戻っていた。

 

「トリックマスター、お願いしますわね」

 

≪Sure. Sealing, and internalize number 3. Good job, master.≫【了解。封印及び3番、格納。お疲れさまです】

 

封印を完了させて一息吐く。改めて確認したが、矢張り周辺になのは以外の魔導師反応は無いようだ。ヴァニラにも念話を飛ばして封印成功を伝える。

 

<折角だから迎えに行こうか? 飛んで帰ってくるよりもいろいろな意味で安全だろうし>

 

言われてみればその通りなので、ヴァニラの提案を受け入れて迎えに来てもらうことにした。座標を特定すると程なくして指定場所に魔法陣で出来たポータルが開き、ヴァニラが姿を現した。促されるままに魔法陣に乗ると、なのはも俺も一瞬で高町家の庭に転送される。

 

「便利な魔法だね~これを使えばいつでも温泉旅行にいけるよね」

 

「あんた何言ってるの? 旅行っていうのは偶に行くからいいんじゃない」

 

「せやな。それにな、なのはちゃん。旅行は目的地までの道中も楽しみのうちやで? 」

 

なにやらがっちりと握手をしているはやてとアリサ。全て片付いたら、みんなで今回延期になってしまった温泉旅行に行くのだろう。

 

「…わたくしも、久し振りに露天に浸かりたいですわ」

 

「ミントの家の露天風呂? あそこも結構広いし気持ちいいから、僕もまた行きたいな」

 

ユーノが俺の肩に上ってきてそう言った。

 

「え? 何何? ミントちゃんの家って露天風呂付きなの? 」

 

「あら、じゃぁ全部片付いたらみんなで行く旅行はミントの実家とかはどう? 」

 

「楽しそうだね。私も是非参加したいな」

 

何やら急に話が変な方向に行ってしまった。実際に全員をブラマンシュに招待することは吝かではないのだが、あそこは文明レベルが低いとはいえ一応管理世界である。管理外世界の地球から渡航許可を取るのは大変そうだし、そもそも家の風呂は個人用である。男湯と女湯にわかれている訳でもない。時間で分けるか、他の家の露天風呂を借りるかしないといけないだろう。

 

だがそんなイベントも悪くないかもしれない。

 

「…検討しておきますわ」

 

アースラと合流したら、リンディさんやブラマンシュの長老にも相談してみようと思った。

 




最初は発動に必要な呪文の中二さ加減にミントとトリックマスターがいろいろやりあうというシーンも考えたのですが、呪文は自然と浮かんでくるものだという設定に従って結局普通に流しました。。似たような呪文をヴァニラも以前使っていますし。。

リリカルマジカル、ではありませんけれど。。
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