他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第11話 「リンカーコア」

3連休になった週末はアリサさんやすずかさんが滞在したこともあって賑やかに過ごしたが、見つかったジュエルシードは初日の1つだけだった。その代り、アリサさんとすずかさんには私達の事情を確りと話すことが出来た。尤も私が気を失っていた2日間でミントさんやなのはさん、アリシアちゃんが殆ど説明してくれていたため、私が説明したことなど雑談レベルだったのだけど。

 

2人共、今まで私が魔法のことを秘密にしていた理由まで確り理解してくれた上で、これからも困ったことがあったらどんどん相談するように言ってくれた。嬉しさのあまり、少しだけ泣いてしまったのはここだけの秘密。

 

そして2人が帰宅した日曜日の夜、高町家の居間には9歳の男の子の姿があった。

 

「改めまして、ユーノ・スクライアです。この度はご迷惑をおかけしてしまい、すみませんでした」

 

フェレットではなく、人間の姿だ。今までは私が指示した通りずっとフェレット姿のままで、念話以外の魔法も使わずに耐えてくれていたのだが、漸くリンカーコアも安定したため魔法解禁の許可を出したのだ。アリサさん達にも今夜あたり、という話をしておいたので、近いうちに顔見せが必要だろう。

 

「ユーノくんの人間の姿って初めて見るけれど、結構可愛いよね」

 

「ははは…ありがと…? 」

 

アリシアちゃんの褒め言葉に複雑そうな、少し乾いた笑いを浮かべるユーノさんだった。矢張り男の子にとって「可愛い」というのはあまり褒め言葉としては受け取られないらしい。

 

「本当に人間の男の子だったんだね。こうしてみるとちょっと不思議な気分かも」

 

「まぁ、今まではずっとフェレット姿でしたからね。これで大手を振って翠屋に食事に行けますわよ。良かったですわね」

 

「ミント…せめてそこはジュエルシード捜索の役に立てる、って言ってよ。ヴァニラから魔法使用の許可もちゃんと貰ったんだからさ」

 

2人のやり取りにクスリと笑みが零れる。聞いたところによればユーノさんは優秀な結界術師で、海鳴一帯をカバーできるレベルの封時結界を生成出来るのだそうだ。ミントさんを始め、なのはさんや私自身も結界魔法はあまり得意とするところではないため、ユーノさんの復帰は正直とても心強い。

 

「あ、そうしたらレイジングハートはユーノくんに返した方がいいのかな」

 

なのはさんが少し名残惜しそうに言うと、ユーノさんは少し考えるようにして、それから言った。

 

「確か、プレシアさんとリニスさんが専用のデバイスを用意してくれるんだよね? でも調整にはさすがにまだ少し時間がかかるだろうから、それまではレイジングハートを使ってくれて構わないよ。普通に結界を張ったり、防御魔法を行使するだけなら元々得意分野だし、直接戦闘に参加しないなら空を飛ぶ必要も無いしね」

 

「ありがとう! じゃぁもう少しの間よろしくね、レイジングハート」

 

≪All right, Nanoha. I will do my best to support you.≫【了解です、なのはさん。精一杯サポートします】

 

なのはさんが嬉しそうにレイジングハートに語りかける。ユーノさんが言う通り、定時連絡の際になのはさんのデバイスの話が出て、プレシアさんとリニスがなのはさん用に調整したデバイスを組んでくれることになったのだ。

 

「ええなぁ、なのはちゃんはデバイス貰えて」

 

はやてさんもそう言って羨ましがっているが、はやてさんの場合は魔法行使よりも先にリンカーコアの異常を調査する必要がある。魔力が異常に減少している原因が判らないうちは下手に魔法を使わせるわけにはいかないのだ。

 

ちなみに時空管理局が到着したら、はやてさんだけでなくなのはさんやアリシアちゃん、私に至るまで、全員精密検査を受けることになっている。尤もアリシアちゃんと私については長期間に亘って管理外世界に滞在したことによる身体影響などの確認が主なのだろうけれど。

 

「そう言えば、時空管理局の人達が到着するのって明日だよね? 何時くらいだろう? 」

 

「予定では午後と言うことでしたが、正確な時刻までは聞いていませんでしたわね。まぁブラマンシュの方も漸く色々な面倒事が片付いたようで安心しましたわ」

 

なのはさんの問いにミントさんが答えている。数日に一度、デバイス間通信でお互いの進捗を報告している所為か、いよいよという段になっても何だか実感が湧かない。ただ実感が湧かないとは言ってもやっておくべきことは色々とあった。その筆頭が士郎さんや桃子さんとの相談だった。

 

アリシアちゃんともじっくりと話し合いを進め、お互い最低でも中学を卒業するまでは地球に残る考えであることは確認している。そしてその意思は高町家の人達や、プレシアさん達にも伝えてある。そうすると次に問題になるのは住居のことだ。今は士郎さん達の厚意に甘えて高町家でお世話になっているが、今後のことについてはプレシアさん達が到着した後で改めて話し合うことになった。

 

「アリシアちゃんのお母さんは時空管理局で働いているんだから、こちらで生活するのは難しいんだろう? 話し合いの結果次第だけれど、ウチとしてはこのまま生活の拠点にして貰って構わないからね」

 

そう言って微笑む士郎さんに対して、私はただただ頭を下げることしかできなかった。

 

 

 

「ヴァニラちゃん、ちゃんと聞いてた? 」

 

不意にアリシアちゃんに声をかけられて、回想に耽ってしまっていたことに気付いた。

 

「あ、ゴメン。ちょっと考え事をしてたの。何? 」

 

「うん。今日は私となのはちゃんではやてちゃんのお風呂介護をするから、ヴァニラちゃんはミントちゃんと一緒にお風呂に入っちゃってね」

 

「あ、そういう事。うん。判った」

 

最近はいつも入浴は2回に分けていた。幼児3人で入っても十分な広さがある高町家のお風呂場ではあったが、さすがに4人以上で入るには若干難があったためだ。

 

「なら早めに入っておかないと後が閊えちゃうね。美由希さんも恭也さんも入るだろうから。あ、時間短縮させるならユーノさんも一緒に入っちゃいますか? 」

 

「え!? あ、いや。僕は後で恭也さんと一緒に入ることにしたから大丈夫だよ。お先にどうぞ」

 

真っ赤になってそう言うユーノさんを見て、彼が以前にも同じように恥ずかしがっていたことを思い出した。無理強いすることでもないのでそのまま流したけれど、ミントさんはその光景を見てコロコロと笑っていた。

 

 

 

「そう言えばヴァニラさんと一緒にお風呂に入るのは初めてでしたわね」

 

脱衣所で服を脱ぎながら、ミントさんが口を開いた。そうだね、と答えて振り向くと、偶々ミントさんの背中が目に入った。

 

「! ミントさん…それって」

 

「え? あぁ、随分と久し振りなのですっかり忘れていましたわね」

 

ミントさんの背中には、少し古い感じの傷痕があった。完治しているようなので普通にしていればそれほど目立たないかもしれないが、一度気になるとどうしても目についてしまう。

 

「以前違法魔導師のテロに巻き込まれたことがあって、その時に受けた傷ですわ。それにしても、良く判りましたわね。はやてさんも気付いていなかった様子でしたのに」

 

「確かにかなり丁寧に縫合されたみたいだし、目立つかと言われたらそうでもないかもしれないけど」

 

もしかしたら医療系の道を目指す人間として気になるだけなのだろうかとも思った時、ミントさんが思い出したように言った。

 

「そう言えばあの時、はやてさんは別のことに気を取られていた様子でしたから、単純に気付かなかっただけかもしれませんわね」

 

「別のこと…何かあったの? 」

 

「大したことではないのですが、敢えてそれは秘密と言わせて頂きますわ」

 

ミントさんはこちらを振り返ると、にっこりと微笑んだ。その仕草は同性の私から見ても可愛らしいものだった。

 

「…傷痕を消すなら、魔法で出来ると思うけれど」

 

リジェネレーションを使えば、多少古い傷であっても治すことは可能だしデメリットも無いと思ったのだが、ミントさんは少しだけ考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと頭を振った。

 

「折角ですが、この傷はこのままにしておきます。色々と思い出もありますし。お気持ちだけ頂いておきますわ」

 

本人がそう言うなら、これ以上口出しも必要ないだろう。私達は後続のアリシアちゃん達に影響が出ないレベルでのんびりとお風呂を堪能した。

 

 

 

=====

 

翌日なのは、ヴァニラ、アリシアの3人が学校に向かった後、俺ははやてに恒例となった魔力譲渡を行った。

 

「ありがとうな、ミントちゃん。これ始めて貰うてから、ほんまに体調がええんよ」

 

「お役に立てているのなら何よりですわね」

 

会話しながらもジュエルシードから溢れる魔力を制御する。これが意外と神経と体力を使う作業なのだ。上限は不明だが無制限に流し込んでしまうと何が起こるか判らないこともあり、取り敢えず今は毎日5分程度の譲渡を行うことに決めていた。

 

以前長老に聞いた話では、理論上許容量を超えて魔力を譲渡してしまうと、譲渡された側のリンカーコアがダメージを受けたり、神経系に影響があったりする可能性もあるという事だった。下手なリスクは負わないに限る。

 

「今日もエリア・サーチかけるん? 」

 

「ええ、そのつもりですわ。ですが矢張り基本が目視ですので、運が良ければ発見できるというレベルですわね」

 

例の隠蔽看破の術式でジュエルシードの魔力を感知出来れば話は早かったのだが、未発動のジュエルシードが発する魔力が少なすぎる所為か、スーパー・エリア・サーチを行使しても未発動のジュエルシードを発見するのは目視に頼らざるを得なかった。

 

「発動すればすぐに判るのですが…ただ歓迎できる状況でないことだけは確かですわ」

 

「せやな。まぁ今回からはユーノ君も参加出来るんやし、これを切欠にええ方向に向かうとええな」

 

「ですわね。さ、終わりましたわよ」

 

魔力の譲渡を終え、ジュエルシードをトリックマスターに格納し直すと、今度ははやてを支えて居間に移動した。士郎さんと桃子さんは既に翠屋で、美由希さんは高校だが、恭也さんだけは万が一に備えて大学を休んでくれていた。俺達が居間に入ると、丁度ユーノと恭也さんが2人で何かを話しているところだった。

 

「ミント、はやて、お疲れさま」

 

「私はそれほど疲れとらんよ? お疲れやったんはミントちゃんやね。ほんま、ありがとうな」

 

改めてお礼を言うはやてに笑みを返すと、ユーノ達の方に向き直った。

 

「ところでお2人はどうされたのです? 随分と仲良さそうにお話しされていたようですが」

 

「ああ、実はミントちゃんが毎朝やっている、棒術の型についてちょっとね」

 

何かと思ったらベルカ式棒術のことについて話をしていたらしい。今朝も庭先を借りてなのはやヴァニラの魔法訓練と一緒に練習していて、それを美由希さんと一緒に見ていたのは気付いていたのだが、気になるようなことでもあったのだろうか。

 

「随分と身についているようだし、先日のテロリストとの戦闘でも確り応用しているようだったからね」

 

「まだ練習を始めて2年半程度ですけれど」

 

「でも毎日やっているんだろう? 継続は力さ」

 

実は最初に練習をした翌日に早速1日サボってしまったのだが、確かにそれ以降は毎日欠かさずに練習している。要所要所で役にも立っているし、身についていることが実感できるのは嬉しいことだ。

 

≪If you are losing shape or center of gravity, I will support you to break yourself of a habit.≫【もし構えや重心にズレが生じた場合は私が矯正しますから】

 

トリックマスターがふよふよと飛んできて会話に混ざった。長い期間単独で練習をしていると型が崩れてしまうことがあり、確り矯正しておかないと故障や怪我の原因にもなることがあるのだとか。

 

「で、話しを戻すけれど、もし良かったら軽く手合せしてみないか? 」

 

「…はい? 」

 

どう考えても体格的に絶対無理だろうと小一時間ほど問い詰めたかったのだが、気が付けば道場で恭也さんと向き合っていた。はやてとユーノは道場の隅で見学している。

 

「じゃぁ軽く打ち込むから、捌いてみてくれ。身体強化はして貰って構わない」

 

「…了解ですわ」

 

俺はそっと溜息を吐くと身体を強化し、錫杖形態のトリックマスターを構えた。

 

 

 

「そうか、魔法を使うことが前提になっている動きなんだな」

 

繰り出される攻撃を何度かトリックマスターで捌いていると、ふと恭也さんがそう呟いて手を止めた。

 

「どういう事ですか? 」

 

「以前から、体格の小さなミントちゃんが使う足運びにしては少し無理がある動きだと思っていたんだ。一度身体強化を解除して、受けて貰っていいかい? 」

 

言われるままに強化を解除して恭也さんの攻撃を受けようとしたところ、あっという間にバランスを崩して尻餅をついてしまった。

 

「同じような体格の人相手なら問題ないんだけれど、体格差がある時はそれをスピードや技術で補うのが普通なんだ。ミントちゃんの棒術の場合は、恐らくそれ以上に魔法による強化が活かし易い型になっているんだと思うよ」

 

ちなみに、と言って恭也さんは軸足の使い方や体重移動のタイミングについて簡単に説明してくれた。

 

「古武術だと、こうした足運びや重心の取り方は基本でね。まぁ身体強化が出来ているならあまり意味は無いかもしれないけれど」

 

「いえ、是非参考にさせて頂きますわ。ありがとうございます」

 

一朝一夕には難しいだろうが、一応トリックマスターにも動きを記録して貰った。毎朝の練習の際に、合わせて試すのも良いかもしれない。改めて恭也さんにお礼を言うと、俺達は道場を出た。

 

「ほな次は捜索やね。ミントちゃん、頑張ってな」

 

「そう言えばミント、スーパー・エリア・サーチでジュエルシード発見場所の座標は特定出来るよね? 」

 

「ええ、可能ですわね」

 

「この前みたいに後先考えず飛び出すのは止めてよね。僕がトランスポーターで恭也さんと一緒に送るから」

 

ユーノに釘を刺されてしまった。先週、山の宿近くの小川でジュエルシードを見つけた時はそこまで考える前に飛び出してしまったため後付けで言い訳を考えたのだが、どうやらユーノにはバレてしまっていたようだ。

 

「まぁ5年近くも一緒にいるからね…考えてることは大体判るよ」

 

「お~ええなぁ。以心伝心いうやつやな」

 

「無駄話はこのくらいにして、そろそろ始めますわよ」

 

茶化すはやてのセリフを遮るようにスーパー・エリア・サーチを展開した。二次展開、三次展開と索敵範囲を広げていく。以前トリックマスター達が作成してくれた地図の落下予測地点を重点的に捜索するのだが、一応それ以外の場所にもサーチャーを回している。

 

「ミント、どう? 」

 

「実際に見て歩くことを考えたら随分と効果的ではありますが、やっぱり全部のエリアを虱潰しにするには圧倒的に人手が足りませんわね」

 

ユーノやなのは、ヴァニラにも同時にスーパー・エリア・サーチを展開して貰うことを検討中なのだが、それぞれのサーチ結果をリンクさせる準備がまだ出来ていない。そこまで行くと儀式魔法と呼んでもいいレベルになってしまうので、今は取り敢えず俺が1人で捜索を担当しているのだ。

 

そうして暫く捜索を続け、そろそろお昼になろうとしている時、俺はサーチャーを通してジュエルシードを発見した。

 

「見つけましたわ…ですが」

 

「どうしたの? ミント」

 

そのジュエルシードを見つけたのは、遠見市寄りにある大きな工場プラントの敷地内だった。気になったのは、あまりにも無防備に、目立つ状態で落ちていたこと。そしてその周囲に6つの隠蔽魔法反応があったことだった。

 

「…罠ってこと? 」

 

「餌を撒かれたっちゅうことやろな。待ち伏せしとるつもりなんやろうけど、バレバレなところが滑稽や」

 

スーパー・エリア・サーチの存在は知られていない筈だが、以前街中で戦闘を行った時にヴァニラが一度単独で隠蔽看破を行使している。誘われている可能性は捨てきれない。

 

「だがこちらとしても手を出さない理由は無い。行こうか」

 

「…ですわね。折角相手が手持ちのジュエルシードを提供してくれるのですから、回収しない訳には行きませんわ。はやてさん、なのはさんとヴァニラさんへの連絡、お願いしますわね」

 

「任しといて。みんな、気を付けてな」

 

はやての言葉に頷くと、俺は恭也さん、ユーノと一緒にトランスポーターのポータルに乗る。一瞬の浮遊感があり、俺達は指定した座標に転移した。

 

だが次の瞬間、俺はここに恭也さんとユーノを連れてきてしまったことを激しく後悔した。出来れば思い出したくない、聞き覚えのある声が聞こえてきたからだった。

 

「ふーん…死の呪いが効かないっていうのは、どうやら本当みたいね」

 

俺達の目の前に立っていたのは、ルル・ガーデンだった。

 

 

 

=====

 

はやてさんから念話が届いたのは、丁度お昼休みを知らせるチャイムが鳴った少し後だった。

 

<さっきミントちゃんがジュエルシードを見つけたんや。せやけどどうやらテロリストの罠らしくてな。6人くらい待ち伏せしとるらしいんよ>

 

<うん、判った。なのはさんと一緒にすぐ飛ぶよ>

 

丁度お弁当を食べようと屋上に来ていたので、アリサさん達にジュエルシード回収に行く旨を伝え、座標を確認してセットアップを完了させると、認識阻害と同時にトランスポーターを起動した。

 

「なのはさん、恭也さんとユーノさんと一緒に、周囲の警戒をお願いします。まだ5人ほどいらっしゃるようですわ。ヴァニラさんはこちらへ」

 

転移完了とほぼ同時に、ミントさんがそう言った。視線は正面の女性に向けたままだ。見たことの無い女性だったが妖しげな笑みを浮かべており、心の中でアラートが鳴り響く。ゆっくりと歩を進めてミントさんの隣に並んだ。周りは既にユーノさんが張ったと思われる封時結界に覆われており、更にユーノさん達は後方に別の結界を展開していた。

 

<…転生者ですわ>

 

不意にミントさんから念話が入る。その意味を正確に把握するのに数秒を要した。

 

<え…って、この人もテロリストの仲間なの? >

 

<ええ、それもとびっきりたちの悪い…人を殺すために、平気で呪いを口にする人ですわ>

 

私は目を見開いた。ミントさんがなのはさん達を下がらせたのは、呪いを回避するためなのだろう。

 

「まさか本当に呪いが効かないなんてね…どういうトリックなのかしら? 」

 

「それを聞かれて、わたくしが素直に答えるとでも思っていますの? 」

 

「…まぁいいわ。ちょっとは判ったこともあるし」

 

そう言いながら、女性はバリアジャケットを身に纏った。デバイスを持っているようには見えないが、魔力量はかなり大きいように思った。

 

「わたくしとしては、貴女が魔法を使えるのがとても不思議なのですけれど。以前お会いした時には、貴女にはリンカーコアがありませんでしたわよね」

 

「あら、そうだったかしら? でも今はちゃんと魔法も使えるわよ。こんな風に…ねっ! 」

 

女性はそう言うと、即座に生成したスフィアから直射弾を立て続けに発射した。

 

「高機動飛翔! 」

 

ミントさんと私はそれぞれ同時に飛行魔法を展開し、空中に逃れた。女性も後を追うように空中に舞い上がる。そしてそれと同時に恭也さん達も動き出す。銃声が聞こえたので、恐らく隠れていた他のテロリスト達も動き出したのだろう。

 

「正気ですの? 封印していないジュエルシードがある空間で魔法戦闘を仕掛けるなんて! 」

 

「態とそうしてるのよ。次元震が発生する時のデータが欲しいのよね」

 

「ならご自身のアジトで検証すれば良いでしょうにっ」

 

「判っていないわね。データは欲しいけれど、それで貴重なロストロギアを失う訳にはいかないの。そっちの子がいれば、次元震が起きても止めてくれるのでしょう? 」

 

ミントさんと言い合いをしていた女性が、唐突にこちらに向かって微笑みかけてきた。その視線に背筋が寒くなる。

 

<埒が明きませんわね。わたくしが前に出て足止めをしますから、ヴァニラさんは援護をお願い致します。チャンスがあれば封印を>

 

<う…うん、判った>

 

私に出来ることなどそれほど多くはないのだが、まずはプラズマ・シューターを6基生成して側面と背後からの射撃に専念する。だが回り込んでジュエルシードに向かおうとすると、都度女性に妨害された。

 

「おいたはダメよ。貴女に死なれたら困るんだから」

 

「…っ! 」

 

女性はミントさんと戦闘しながらもこちらに射撃魔法を飛ばしてくる。それを回避しながら、こちらもシューターで牽制するが、連携戦闘の練習など殆どしていない私はミントさんの攻撃に合せるのも一苦労で、なかなか決定打を与えることが出来ない。

 

<ヴァニラちゃんっ、後ろ! >

 

不意になのはさんから念話が入り、咄嗟に横に移動すると、さっきまで私がいた場所を射撃魔法が薙いだ。目の前の女性に集中しすぎていたが、他にも警戒しなければならない魔導師が5人いることを改めて思い出した。そして次の瞬間、ドクン、というジュエルシードが発動する時の独特の波動を感じた。

 

<ミントさん、ゴメン。ジュエルシードの封印を最優先するよ>

 

<了解ですわ。お願いしますわね>

 

女性の対応をミントさんに任せると、私はなのはさん達の援護に回った。

 

「ハーベスター、スーパー・エリア・サーチの術式はコピーしてある? 」

 

≪Yes, master. Shall I activate it? ≫【はい。行使しますか? 】

 

「うん、お願い」

 

目的は隠蔽看破。二次展開以降は必要ない。確認すると、恭也さんが1人で辛うじて3人の魔導師を抑えてくれていた。ユーノさんとなのはさんが連携して2人の魔導師とやり合っているが、隠蔽魔法を使われている状態で苦戦している様子だった。そこにフォトン・ランサーを叩きこむ。

 

「ヴァニラちゃん! 」

 

「なのはさん、私が魔導師を牽制しておくから、その隙に大出力の砲撃でジュエルシードの暴走を抑え込んで」

 

「そうか! 封印砲だ」

 

私の意図に気付いたユーノさんが声を上げる。

 

「え…っと、良く判らないけど、ディバイン・バスターで撃てば良いんだよね」

 

レイジングハートを砲撃モードにして構えるなのはさんの隣にユーノさんが立ち、両手にそれぞれ5枚ずつ、合計10枚のプロテクションを瞬時に発動させた。

 

「防御は任せて! 」

 

飛来する射撃魔法はユーノさんのプロテクションによってあっさり無効化され、術者は私がシューターで攻撃する。大きなダメージを与えるには至らなかったが、ディバイン・バスター発動の時間稼ぎには十分だった。

 

「行くよっ!! 」

 

≪"Divine Buster".≫【『ディバイン・バスター』】

 

桜色の奔流がジュエルシードを飲み込み、暴走を抑え込む。

 

「…やってくれたわね。全く、足止めすら出来ないなんて役立たず共。少しは役に立ちなさいよ」

 

ミントさんと相対する女性がそう言った途端、5人の魔導師の動きがおかしくなった。

 

「何だ!? 」

 

恭也さんが異変に気付き、魔導師から距離を取った。隠蔽が解除されて、急激にそれぞれの魔力量が増加を始める。あの女性が何かしているのは間違いない。元々Aランク程しかなかった魔導師達の魔力量があっという間に推定でAAからAAA程度に跳ね上がった。

 

「何? これ、何が起きてるの? 」

 

「判らない…こんな魔法、聞いたことないよ」

 

 

 

だが次の瞬間、空から金色の砲撃と水色の光弾が降り注ぎ、それと同時に魔力量の増加も止まった。周囲にあふれていた魔力も霧散する。

 

「そこまでです。時空管理局嘱託、フェイト・テスタロッサです。この場所でのこれ以上の戦闘行動を禁じます」

 

「え…あ、アリ、シアちゃん…? 」

 

そこにいたのは、黒いバリアジャケットに身を包んだアリシアちゃんだった。隣には見慣れない黒髪の少年もいる。一瞬頭が混乱しそうになったが、すぐに彼女が定時連絡で何度か話をした「フェイト・テスタロッサ」であるだろうことに思い至った。隣の少年が「クロノ・ハラオウン執務官」だろう。

 

「くっ、管理局とはね…一度退くわよ!! 」

 

女性がそう言い残すと、5人の魔導師達も一緒にその場から姿を消した。恐らく転送魔法だろう。一次展開しかしていないスーパー・エリア・サーチではあっという間に検知できなくなってしまった。

 

「どうする、クロノ? 」

 

「エイミィ、追えるか? 」

 

『ダメ。短距離転移を繰り返していて、上手く座標が特定できない…あ、二手に分かれて…! ゴメン、見失っちゃった』

 

クロノと呼ばれた少年の傍らに開いた通信コンソールから、女性の声が聞こえた。

 

「まぁ、いいさ。あれが例の『ルル・ガーデン』なんだろう? 深追いは却って危険だ。さて」

 

クロノさんがこちらを向いて、そして言った。

 

「永らく待たせてしまってすまない。時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。こうして直接会うのは初めてだな。よろしく頼む」

 




最近、いろいろなWeb小説を読んで、思いました。。
人間の悪意を描写するのって、難しい。。

上手な人が書く悪役って、本当に嫌な奴なんですよね。。
読み手が思わずその世界に飛び込んでいって、殴りつけてやりたいって思うような悪役が書けるようになりたい。。

引き続き精進しますので、今後ともよろしくお願いします。。
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