「ミント、久し振り」
「フェイトさん…ありがとうございます。助かりましたわ」
ふっと息を吐く。逃がしてしまったとはいえ、ルル・ガーデンに死の呪いを使わせずに済んだことはこちらの勝ちに等しい。それに餌として用意されていたであろうジュエルシードも奪取することが出来た。そっちは丁度なのはがレイジングハートに格納しているところだった。
「ギリギリ、目標クリアですわ」
アースラが到着するまでに最低10個はジュエルシードを確保しておきたいと思っていたが、これが丁度10個目。漸く半数に手が届いたと言ったところだ。
フェイトと一緒になのは達のところに合流すると、まずユーノが手を振ってきた。
「フェイト、久し振り」
「ユーノも、元気そうで良かった」
傍らでそれを眺めているなのはとヴァニラ、それに恭也さんはさすがに呆然とした様子だった。
「ふぇぇ…本当にアリシアちゃんにそっくりだねぇ」
「うん。最初、見間違えちゃった」
雰囲気で言えば、妹であるフェイトの方が若干大人びているのだが、髪形を含めた見た目は確かにそっくりだ。
「君がなのはだね。よろしく」
「うん。よろしく、フェイトちゃん。私ともお友達になってくれる? 」
「もちろん、喜んで」
原作とは違うが、この状況も悪くないと思った。だが一応ここでもう一度、名台詞を盗ってしまったことをなのはに謝っておくことにした。勿論、心の中でだけだが。
「君がヴァニラ? ありがとう。君のおかげでアリシア姉さんに会うことが出来るよ」
「いえ、むしろ私の方こそアリシアちゃんにはいろいろ助けて貰って」
ヴァニラは傍目に見ても緊張している様子で、以前のような丁寧口調になっていた。まるで昔のフェイトを見ているようで、思わず笑みが零れる。
「フェイト、挨拶はそれくらいにして取り敢えず一度アースラに移動しよう。艦長やプレシア女史も首を長くして待っている筈だからな」
クロノがそう言うと、すぐに傍らに通信コンソールが開いた。
『ご苦労さま、クロノ執務官、フェイトさん。首を長くして待っていると言えばその通りなんだけど、先に関係者の取り纏めをお願いね』
「あ、それなら私が呼んできます」
ヴァニラがそう言ってトランスポーターを起動した。
30分程して、今回アースラに同行するメンバーがその場に集まった。行くことになったのは俺の他には恭也さん、なのは、はやて、ユーノ、アリシア、ヴァニラ、そして何故かアリサとすずか。
「にゃっ? 何で2人がいるの? 」
「いい度胸ね、なのは。あたし達だってもう十分に関係者でしょ」
「この前お泊りした時、こういう機会があったらちゃんと声をかけてねってヴァニラちゃんに言っておいたんだよ」
先見の明と言うか、好奇心の塊というか。クロノはあまりいい顔をしていないが、一応リンディさんから「まぁ良いでしょう」と言われて2人共大いに燥いでいた。
ちなみに士郎さんと美由希さんは今回参加を見送ることになった。これはリンディさんとプレシアさんが後日改めて翠屋に挨拶に訪れることを表明したためだ。後でゆっくりと話し合いが出来るなら、態々焦って大人数でアースラに乗り込む必要もない、という事らしい。むしろ愛娘達に何かあった時は「恭也、やってしまえ」的な雰囲気になりそうで怖いが。
そしてはやては今回、闇の書を持参していない。原作よりも早いタイミングで対応したい考えではあったものの、ジュエルシードと並行して対応するには問題が大きすぎるため、はやて本人には曖昧にではあるものの少し落ち着いてから管理局に相談しようと持ちかけていたのだ。
「フェイト! お姉ちゃんだよっ! 」
本当に嬉しそうに話しかけるアリシアに、フェイトも笑みを浮かべて答えていた。
「姉さん、一つだけ忠告。今はリニスとアルフが抑えてくれているけれど、姉さんを見たら多分母さんの箍が外れちゃうから注意して」
「…先日のこともありますし、容易に想像出来ますわね…」
そんな雑談を繰り広げていると、改めてクロノの傍らに通信コンソールが開いた。
『みんな揃ったかしら? 大丈夫ならゲートを開くわよ』
「はい、艦長。問題ありません。お願いします」
クロノがそう答えると程なくして俺達の周りに魔法陣が生成され、そして視界は眩い光に包まれた。
『アリシアーーーっ!! 』
光が収まると同時にプレシアさんの声が響いた。見ればガラスのような透明な壁に仕切られた反対側で、リニスとアルフにがっちりと抑え込まれているプレシアさんの姿があった。
『プレシア、もう少しだけ我慢して下さい! これから検疫を兼ねた簡易メディカルチェックですから! 』
『全く…フェイトの時もそうだったけれど、娘が絡むとあんたは人が変わっちまうねぇ』
一方アリシアの方はちゃんと弁えているようで、笑顔でプレシアさんに大きく手を振ってはいるが、取り乱したりするようなことはなかった。
「さぁ、こっちだ。バリアジャケットを展開している者は解除してくれ」
クロノに先導されてメディカルチェック用のゲートをくぐる。幸い検疫に引っかかる人はいなかったが、以前の醤油や味噌が簡単に許可された経緯もあって、もしかしたらチェックが甘いのではないかと少しだけ不安になってしまったことは秘密にしておく。
ゲートを抜けた俺達は…というかアリシアは大方の予想を裏切らずにプレシアさんの抱擁の餌食になった。
「ママ…苦しいよ」
「ああ、ごめんなさい。これで大丈夫かしら」
文句を言いながらも嬉しそうにしているアリシアと、さっきと比べたら大分落ち着きを取り戻したように見えるプレシアさん。だが周りの状況が見えていない様子なので、本当に落ち着くまでにはまだ少し時間が必要だろう。
「みんな、ゴメン。ああなっちゃうと、母さんは暫く止まらないから」
「そうだな。取り敢えず我々だけで先に艦長のところに行こう。リニス、後は頼めるか? 」
「仕方ありませんね。落ち着いたら連れて行きますので、先に行っていて下さい」
苦笑するリニスにプレシアさん達の対応を任せる。ふと、ヴァニラがリニスを凝視している風だったので、一緒に残るか尋ねたのだが、彼女は軽く首を振った。
「26年ぶりの母娘の再開を邪魔するわけにはいかないよ。それにお話しなら後でゆっくり出来るだろうし」
「プレシアにとっては貴女だって娘のようなものでしょうから、アリシアとのことが一段落したら次は貴女の番だと思いますよ」
リニスが悪戯っぽく言うと、ヴァニラも苦笑していた。
「取り敢えず今はリンディ艦長のところへ。ヴァニラが言う通り、お話は後でゆっくり出来ますからね」
そう言うリニスに別れを告げ、先に進む。やがて案内された部屋はリンディさんの私室だろうか。嘗て画面の向こう側で観た、何か色々と間違った和室がそこにあった。
「すごい…室内に桜があるよ」
「もう5月やのに、満開やね」
「SF感満載の宇宙船に乗り込んで、こんな景色に遭遇するなんて予想外の更にその外だったわ…」
鹿威しがカコン、と音を立てた。部屋の中央に野点のセットが置いてあり、そこにリンディさんが正座していた。言うまでもなく、時空管理局の制服姿である。改めて見ると違和感だらけであることこの上ない。
「ようこそ、アースラへ。改めまして私が艦長のリンディ・ハラオウンです。どうぞ、楽にして下さい」
ヴァニラがさり気なく桜から一番離れた場所に腰を下ろすと、それ以外の面々も戸惑いながらその場に座った。すると各自にリンディさんが点てたらしいお茶が振舞われる。
「みなさん、お砂糖は? 」
「あぁ、俺は結構です。甘いものは苦手なので」
「あ…わたしも大丈夫です…」
原作通り、リンディ茶はみんなに受け入れられていない様子だったが、俺は砂糖とミルクを受け取った。
「ミントちゃん…それ、入れるん? 」
「ええ、抹茶ラテみたいで美味しいですわよ」
俺がそう言うと、アリサとすずかも恐る恐ると言った感じで砂糖とミルクを投入した。今回の同行についてもそうだが、本当にこの2人はチャレンジャーなのだな、と改めて思う。
「あ、本当に美味しいじゃない」
「うん。こんな味になるんだ…びっくりだよ」
意外と好評のようで、リンディさんも嬉しそうにしている。ただ、なのはとはやては苦笑しながらそれを眺めているだけで、最後まで砂糖もミルクも投入することは無かった。
(リンディさんは入れ過ぎなのですわ)
心の中でだけ、ツッコミを入れておいた。
お茶を頂いて一息ついた後、丁度プレシアさんとアリシア、リニスも合流したので、全員で自己紹介をしておいた。尤も定時連絡も入れていたから、本当の意味で初めてなのはアリサとすずかだけなのだが。
「そう…貴女が高町なのはさん、そして貴女が八神はやてさんね」
「例の民間協力者か。君達に協力して貰ったことで随分助かったと聞く。改めてお礼を言わせてくれ」
「まぁ協力しとったんは殆どなのはちゃんやけどな。私は何も出来ひんかったし」
クロノが頭を下げると、はやてが慌たように両手を振った。
「いえ、はやてさんにも随分と助けて頂きましたわよ。特にスーパー・エリア・サーチははやてさんとなのはさんの協力なしでは完成しませんでしたし」
「あぁ、例の超広域探査魔法か。後でエイミィに術式を提供して貰えるか? 随分と楽しみにしていたようだからな。さてと、そろそろ本題に入ろうか」
クロノがそう言うと、リンディさんも頷いた。
「ヴァニラさんとアリシアさんには、管理外世界への長期滞在に伴う身体への影響度を検査して貰います。それからなのはさん、はやてさんは魔導師としての適性検査ね。恭也さんにアリサさん、すずかさんも付き合って貰えるかしら? 」
「はい、判りました」
「私が案内するよ。ついて来て」
フェイトが立ち上がり、それに合わせてみんなも立ち上がる。俺も一緒に行こうとしたのだが、その時クロノがこっちに声をかけてきた。
「ああミントと、それからユーノ。2人は別件で話があるんだ。ちょっと残って貰っていいか? 」
「? ええ、構いませんわよ」
なのは達が部屋を出ると、周りの空気が少し引き締まった気がした。
「まずは例のテロリストについてなんだが…ミント、以前聞いた時は確かルル・ガーデンにはリンカーコアは無かったと言っていたな? 」
「ええ。フェディキアで会った時は確かにリンカーコアの反応はありませんでしたわね」
だが今回、ルル・ガーデンは明らかに魔法を使用してきた。こちらで検知した限り、魔力量もAAAクラスはあったように思う。
「実は最近になって、奴らの仲間に魔法を使用できるものがどんどん増えているようなんだ」
「それは…もしかして魔導師がテロリストの理念に賛同しているということですの? 」
俺の質問に答えたのは、先程合流したばかりのプレシアさんだった。
「…人工リンカーコアよ。奴らは、非魔導師を魔導師にする技術を身に着けたの」
一瞬言葉に詰まった。万年人手不足の時空管理局にとって、それは喉から手が出る程欲しい技術ではないかと思ったのだ。だが、プレシアさんの言葉はそれを否定するものだった。
「テロリストが拠点にしている場所の1つから研究資料が一部発見されたんだけど、そのデータからすると拒絶反応が起きた場合の致死率が高すぎるの。人工リンカーコアを体内に埋め込んで、拒絶反応を起こす確率は40%程。でも拒絶反応を起こした人は90%以上の確率で亡くなっているわ」
「彼等は、それを承知の上で人工リンカーコアを使っているっていうことですか? 」
ユーノの質問にプレシアさんは頷いて返す。
「管理局側でも人工リンカーコアの研究を始めてはいるけれど、この成功率じゃぁとてもじゃないけれど臨床実験をする訳にもいかないのよ。それに今までの研究で確認したところ、どうも人工リンカーコアには欠陥があるみたいだし」
リンディさんが溜息交じりにそう続けた。
「欠陥、ですか? 」
「ええ。恐らく人工リンカーコアを使って魔導師になった人間は、そんなにたくさんの魔法を行使することは出来ないわ。精々3、4種類…多くても5種類程度しか使うことが出来ないのよ」
それは言われてみれば確かに心当たりがあった。あの銃の男は銃以外の攻撃手段を持っていない様子だったし、射撃魔法と結界魔法を使っていた魔導師にしても、使用していた魔法には偏りがあった。
「それに殆どの場合、人工リンカーコアで得られる魔力量はCからB程度。良くてもAと言ったところね」
「ですが、ルル・ガーデンは明らかにAAAクラスの魔力を有していましたわ。これも人工リンカーコアなのでしょうか? 」
「さすがにそこまでは判っていない。だが過去に魔力を持たなかった人間が急に魔力を有したんだ。人工リンカーコアと考えるのが妥当だろうな。だが最後のあの魔法は…」
「他の魔導師達の魔力量が急激に上がったあれだね。何か心当たりが? 」
「いや、生憎とさっぱりだよ」
さすがにこれ以上は考えても推測の域を出ることは無く、結局進捗を報告して貰ってもあまり役に立つことは無かった。ただ彼等が最後に使った魔法については、俺は妙な既視感を覚えていた。
(どこか「ヘル・ハウンズ隊」と共通するところがあるような気がしますわね)
近いうちにヴァニラの意見も聞いてみようと思い、俺はユーノと一緒に艦長室を後にした。
=====
次元航行艦アースラのメディカル・ルームに通された私達は、まず気さくそうな明るい女性を紹介された。
「みんな、初めましてだね。今日みんなのチェックを担当するエイミィ・リミエッタだよ。エイミィって呼んでね」
普段はアースラのオペレーターをしているというエイミィさんの指示に従って検査を進める。結果としてはアリシアちゃんも私も、管理外世界に長期滞在していることに伴う身体への影響などは特にないとのことだった。
「そう言えば昔の映画で、地球侵略にきた宇宙人が結局地球のバクテリアによって死滅しちゃうお話があったわよね」
「そこまで酷いのはなかなか無いと思うけどね。基本的に生命体にはちゃんと免疫力が備わっている筈だから。それにそっち方面はアースラに搭乗する時にチェック済みだから問題なし」
雑談をしながらもエイミィさんの指先はコンソール上を流れるように動き、結局規定時間内に私達だけでなく、アリサさんやすずかさんの健康診断まで終わらせてしまった。ちなみに恭也さんは別の部屋で診断を受けているらしい。
「はやてちゃんは下肢麻痺の精密検査をするから、もう少し待っててね。それ以外は全員健康優良、問題なし! 次は魔力チェック行ってみようか」
魔力チェックということで対象は精密検査待ちのはやてさんを除いたなのはさんと私の2人かと思ったのだが、何故かアリシアちゃん、アリサさん、すずかさんも一緒に受診することになった。
「君達にはリンカーコアは無いんだけれど、偶にリンカーコアが無くてもレアスキルが顕現したりすることがあるから、念のためね」
「あ…レアスキルの検査もして貰えるのですか? 」
「うん。折角の機会だし、機材も揃っているからね」
最近ハーベスターからも、もしかしたらレアスキルがあるかもしれないという話を聞いていて少し気になっていたので、丁度良かった。変なスキルじゃなければ良いけれど、と少し不安を抱きつつ、私達は魔力チェックに臨んだ。
「艦長…こんなケースは初めてで、なんて報告したらいいか…」
先程までとは打って変わって、エイミィさんが複雑そうな声でリンディ提督と通信で話をしている。原因は文字通り今まで報告例がないレアなスキル。アリサさんとすずかさんにはリンカーコアは無く、なのはさんも含めてレアスキルは確認出来なかったのだが、アリシアちゃんと私に顕現したレアスキル、これが問題だった。
『まさか、時間跳躍系のレアスキルなんて言わないわよね? 』
「直接時間を跳躍できるようなものではなかったのですが…ただ、それに近いというか、何と言うか…」
まずアリシアちゃんに顕現したレアスキルは、コクーンと呼ばれる非常に強力な結界を展開するものだった。これは封時結界の強化版のようなもので、外部との時間の流れを完全に遮断してしまうのだが、コクーン内部の時間の流れはランダムで、アリシアちゃん自身でも調整が出来ないらしい。
検査結果から推測された経緯は次のようなものだ。魔力駆動炉の暴走で溢れ出たエネルギーでレアスキルを発動させてしまったアリシアちゃんは私と一緒にコクーンに取り込まれ、殆ど時間が静止しているような状態で26年を過ごしてしまったらしい。これに私のトランスポーターの暴走が重なったことで天文学的な確率で地球にジャンプすることになったのだとか。
場合によっては事故の数時間後にミイラ化してしまった2人の遺体が発見されていた可能性もあったのだと知らされ、思わずアリシアちゃんと抱き合ってガタガタと震えていた。封印するかどうかと尋ねられたアリシアちゃんは何度も大きく頷きながら、すぐに封印して欲しいとお願いしたのだ。
封印は、報告を受けて文字通り飛んできたプレシアさんが主導して、厳重に行われた。ただかなり複雑な術式らしく、数年に1度は再封印の必要があるのだそうだ。
「プレシアさんの術式でもあるし、恐らく大丈夫だと思いますが…これ、公になったら大問題ですよね? 」
『過去に戻れる訳ではないけれど、今までに報告例の無い時間操作系…確実に非合法の研究機関に狙われるわね。エイミィ、データの抹消は? 』
「勿論、完全に削除済みでバックアップも取っていません。じゃぁアリシアちゃんのことは今後プレシアさんにお任せする形で…それで、今度はヴァニラちゃんの方なんですけど」
エイミィさんと目が合った。話しても良いか、とのアイコンタクトのようだったので、軽く頷いて返した。
『…まさかこれ以上の衝撃とか…? ちょっと待って! 深呼吸するから』
「アリシアちゃんのレアスキルと比較したら衝撃度は低いと思いますが…ただ本人が隠蔽を望んでいなくて」
私のレアスキルは、自分が治療や修復を意図して発動した魔法についてのみSSSを超える魔力を使用可能で、しかも制御まで出来るようになっているというものだった。治療や修復を意図した場合のみなので、仮に「グラヴィティ・コンバージェンス」を人間に対して発動しようとしても不発に終わってしまうことだろう。前回はあくまでも「元の状態に戻す」ことを前提に行使したため発動出来たのだ。
『ちょっと待って! それって、SSSオーバーの治癒術師ってこと!? そんなの聞いたことないわよ! 』
「判っています。記録にある限り、AランクやAAランクの治癒術師が数人いた程度で、それでも伝説と言われているくらいです。こんなことが公開されたら、下手したら一生本局から出してもらえなくなりますよ」
『もう、アリシアさんの事象よりも衝撃度が低いっていうけど、正直とんでもないことよ? …で、本人が隠蔽を望んでいないって…ヴァニラさんはそこにいるのかしら? 』
エイミィさんに呼ばれて、コンソールの横に立った。厳密に言えば隠蔽を望まないというよりは、私自身が将来的に治癒術師になることを希望していることもあり、いずれ発覚するなら早い方が良いと考えただけだったので、それをリンディ提督にも説明する。少しの沈黙の後、リンディ提督はふっと息を吐いた。
『貴女の意思は判ったわ。ただやっぱり暫くの間は情報を抹消させて欲しいの。H(アッシュ)提督がご存命だったら問題なかったのでしょうけど、今の貴女には後ろ盾が全く無い状態。そこで強い力を持っていることが知られてしまうのはあまり望ましくないのよ』
リンディ提督が私の身を真剣に案じてくれていることは良く判ったので、そこは素直に「はい」と答えた。
『貴女にはちゃんとした後見人も必要ね。今は高町さんが里親になってくれているけれど、将来的に治癒術師を目指すのなら、ミッドチルダに戻るつもりがあるのでしょう? 』
「はい。義務教育期間は出来れば地球に滞在して、その後ミッドチルダに戻ることを考えています」
『そうね、そうして貰えるとこちらも助かるわね。情報整理の猶予も出来るし』
意外とあっさり許可が下りそうなことに安堵し、アリシアちゃんに笑いかけると、サムズアップが返ってきた。
『あとは生活基盤を含めた後見人、保証人は必要ね…ヴァニラさん、貴女うちの養女にならない? 』
「はい…えっ? あ、ちょっと待って下さい」
思わず答えてしまってから、提案された内容を理解した。
『エイミィ、今の記録してあるわよね? 『えっ? 』の後ろはカットして、こちらに送ってくれる? 』
「ちょ、リンディ提督!? 」
『……コホン。今のは冗談として、養女の件、真剣に考えて貰えないかしら。単純な生活基盤や後見人と言う意味ではプレシアさんや高町さんでも問題は無いのだけれど、貴女の能力の特異性を考慮すると、どうしても後ろ盾は必要なのよ』
それには「提督」としての肩書が役に立つという。最初に若干間が開いたところが気になるが、悪い話ではないことだけは確かだろう。ただそれにしても即答は出来なかった。
「少し、考えさせてもらって構いませんか? 」
『ええ。暫く地球に滞在するならまだ猶予はあるし、ゆっくり考えて頂戴』
今年の初詣で引いたおみくじの「縁談:滞りなく進む」の文言が頭を過った。これも確かに縁談の一つには違いない。
さて、これで全て終わりかと思っていたのだが、最後に超弩級の問題が発生してしまった。それははやてさんの精密検査結果に関連することだった。
はやてさんの精密検査を実施する際に、魔力の異常減衰についてエイミィさんに話をしておいた。実際検査結果からも何かに吸い取られるように魔力が減少していて、それが麻痺の原因だろうということは予測出来たのだが、そもそも何がはやてさんの魔力を吸い取っているのかについては全く判らない状態だった。
ミントさんが魔力譲渡を実施しているおかげか、現状で麻痺は進行しておらず小康状態を保っていた。ただ原因が判らない以上、これは暫定的な対症療法でしかない。だが、はやてさんがふと漏らした言葉で、事態は急展開することになったのだ。
「そう言えば私、魔力のある本を持っとるよ? ミントちゃんと相談して、今の事件が一段落したら調べて貰おうって言っとったんやけど」
それを聞いたエイミィさんの顔がさっと青褪めた。
「? エイミィさん、何か心当たりが? 」
「…え? あ、うん、ちょっとね。でもまだ確証がある訳じゃないから。いずれにしてもその本って、出来るだけ早いタイミングで見せて貰ってもいいかな? 」
「今はなのはちゃん家の部屋に置いてあるし、一度戻ったらすぐ持って来れるで」
はやてさんがそう言った時、エイミィさんの通信コンソールが開いた。どうやらクロノさんからコールが入った様子だった。
『エイミィ、問題が発生した。ちょっと確認して欲しいことがあるんだが』
「あ、クロノ君。丁度良かった。こっちも気になることがあるんだよ。艦長も含めて直接話したいんだけど…」
エイミィさんはそこで言葉を切り、私達の方を見た。今ここには私の他にフェイトさん、なのはさん、はやてさん、アリサさん、すずかさん、アリシアちゃんがいる。もしかしたら私達にはあまり聞かせたくない話なのかもしれない。
「あの、もしお邪魔でしたら席を外しましょうか…? 」
『いや、もうそんなことを言っていられる状態じゃなくなったんだ。それにこの話はヴァニラにも関係がある。構わない。僕達がそちらに行こう』
通信が切れて暫くすると部屋のチャイムが鳴り、エイミィさんがドアを開けた。入ってきたのはリンディ提督、クロノさん、恭也さん、ミントさんの4人だった。ユーノさんとアルフさん、リニスの姿はない。
「簡単に説明しようか。さっき高町家から恭也さん宛に連絡が入った」
クロノさんがそう言うと、恭也さんがポケットから携帯電話を取り出した。アースラ内部でも電波が通じるんだ、と場違いな感想を抱く。
「それによると、高町家自宅に突如『守護騎士』を名乗る4人の不審者が現れ、『主はどこだ』『主に会わせろ』と言い続けているらしい」
「美由希が父さんと一緒に不審者を追い出そうとしたらしいんだが、相手も相当な手練れらしくて膠着しているようなんだ」
「え…お父さんや美由希お姉ちゃんは大丈夫なの? 怪我とかしてない? 」
「あぁ、怪我とかはしていないようだが、未だに睨み合いが続いているらしい」
恭也さんの説明になのはさんはホッとしたような表情を見せたが、隣に立っているミントさんは心なしか不機嫌そうに見える。それにしても美由希さんと士郎さんを相手に膠着状態に持ち込めるのは相当な使い手だ。そんなことを考えていると、リンディ提督がはやてさんの前に進み出た。
「はやてさん、ちょっと聞きたいのだけれど、この本に見覚えが無いかしら? 」
浮かび上がったホログラムに表示されたのは、はやてさんが高町家に来た時に持ってきた本だった。
「はい、物心ついた頃からウチにあった本です。ミントちゃんからも魔力があるって聞いとったんで、一度調べて貰おう思うてました」
クロノさんが溜息を吐くと、目を閉じたまま顔を上に向けた。
「間違いない。主と言うのは『闇の書の主』で、はやてこそがその主だ」
「あぁ、もうまどろっこしいわね! もうちょっと判りやすく説明しなさいよ。そもそも『闇の書』って何なのよ」
「アリサちゃん、落ち着いて。失礼だよ」
クロノさんは軽く手を上げてアリサさんとすずかさんを制すると、ゆっくりと言った。
「『闇の書』と言うのは第一級捜索指定遺失物に相当する、ジュエルシードと同等の危険な代物だ。そして11年前、ヴァニラの父親であるイグニス・H(アッシュ)提督と、僕の父、クライド・ハラオウンが亡くなったエスティア事故の…原因でもある」
「…はい? 」
思わずはやてさんと顔を見合わせた。クロノさんに言われたことの意味が、良く判らなかった。
「…クロノさん、その言い方では誤解を招きますわ。説明するなら最後まで、確りとなさって下さいませ」
「あ、あぁ、すまない。詳しく説明しよう。その上で、君達に頼みがある。どうか、君たちの力を貸してほしい」
クロノさんはそこで言葉をいったん区切り、私達に向かって頭を下げた。
結局、ヴァニラは(バレバレだったとは思いますが)とんでもないチート能力持ちでした。。
本気を出したらリペア・ウェーブでStSで老朽化して廃艦予定だったアースラでも全修復出来てしまうかもしれません。。
ごめんなさい、それはさすがに嘘です。。
そして闇の書は、はやてがその場にいないのに勝手に起動してしまいました。。
来週の3連休は某音楽フェスで滋賀の方に行く予定です。。母の調子も良いので、ちゃんと事前に予約投稿をしておけるように頑張ります。。
引き続きよろしくお願い致します。。