ユーノさん達が海上に巨大な結界を構築してくれたおかげで、私達は人目を気にせず魔法を使えるようになった。
「行こう、ミントとクロノがテロリストを足止めしてくれているうちに」
「うん! さっさと封印しちゃってミントちゃん達のサポートに回ろうね」
バルディッシュを携えたフェイトさんと、エルシオールを構えたなのはさんがお互いに頷き合う。けれど竜巻はあまりにも大きく、威力も強い。一朝一夕には封印出来そうになかった。
「…少し威力を弱めてからじゃないと、なのはさんの封印砲でも厳しいかも」
「それでこそ、我らの活躍の場があるというものだ。行くぞ、『紫電一閃』! 」
シグナムさんが炎を纏った剣で竜巻に切りかかった。水に対して炎の攻撃はどうかとも思ったのだが、どうやら純粋に魔力を炎熱変換したものであるため、水をかぶって消えてしまうなどということは無いようだ。ただ竜巻は一瞬切り裂かれただけで、そんなに威力が落ちたようには見えない。
「ふん…矢張りこの程度では然程効果は見込めんか」
「あたしがぶち抜いてやるぜ! アイゼン、ロードカートリッジ! 」
≪Jawohl. Raketenform.≫【了解。ラケーテンフォーム】
ヴィータさんがハンマー状のデバイスを構え、カートリッジを排莢した。ベルカ式アームドデバイスに良く見られるカートリッジシステムは、魔力を込めたカートリッジを消費することで一時的に爆発的な攻撃力の増加を見込める。
「様子見なんてしてられっか。初っ端から全力全開だ! ラケーテン…ハンマーっ!! 」
ハンマーの後部から魔力燃料がロケットのように噴射してヴィータさんを中心に凄い勢いで回転する。遠心力の効果もあって、ヴィータさんの攻撃で竜巻の1つは大きく爆ぜた。
「私達も負けてられない…先にいくよ、なのは。アルカス・クルタス・エイギアス…疾風なりし天神…今、導きの下に撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル…! 」
≪"Photon Lancer Phalanx Shift".≫【『フォトン・ランサー・ファランクス・シフト』】
フェイトさんほどの術者が長い詠唱を必要とする魔法というだけで、その威力の高さが判る。周囲に展開されたフォトン・スフィアはざっと見ただけで30個を超えるだろう。
「撃ち砕け! ファイアーっ!! 」
全てのスフィアから放たれたランサーの高速連射は、ヴィータさんの攻撃と同様に竜巻の1つが大きく勢いを殺がれる。ただ大技を使っただけあって、フェイトさんの魔力消費も大きいようだ。そうなれば、ここは私の出番。すぐにフェイトさんの隣に並ぶと術式を展開する。
「ハーベスター、サポートお願い。『ディバイド・エナジー』」
ハーベスターから翠色の魔力が溢れ出し、バルディッシュを介してフェイトさんに流れ込んでいく。
「ありがとう、ヴァニラ。助かった」
「じゃぁ、次はわたしね。ヴァニラちゃんも一緒に行こう! 」
なのはさんが私の手を取る。なのはさんの使用魔法に特化した砲撃戦用のデバイスであるエルシオールは、なのはさんの最大攻撃魔法である「スターライト・ブレイカー」を、若干集束率は落ちるものの溜め時間を短縮させて撃つことが出来る。
集束率が落ちるということは威力が下がることに他ならない。だけど魔力残滓を多くしておくことで、多少は威力面でのカバーは出来るかも知れない。ここは私が先に砲撃を撃って、その後なのはさんが集束砲を撃つのが妥当だろう。
「ハーベスター、砲撃モード」
≪Sure. Buster mode, stand by.≫【了解。砲撃モード、スタンバイ】
足元の魔法陣が足場を固定してくれる。続けてハーベスターの先端部に複数の魔法陣が展開された。
「わたし達も準備するよ、エルシオール」
≪All right. Stand by ready. Cannon mode.≫【了解。砲撃モード準備完了】
なのはさんの周りにキラキラと輝く魔力残滓が集まり、そしてそれがエルシオールの先端部分に集束していく。
「なのはさん、先に撃つね」
「うん! バーンってやっちゃって! 」
「…いくよ、ハーベスター。『ディバイン・バスター』」
魔力チャージが完了したハーベスターから翠色の砲撃が迸る。さすがになのはさんほどの威力は出せないが、それでも多少は竜巻の威力を削ぐことが出来たと思いたい。
「じゃぁ、続けていくよっ! 『スターライト・ブレイカー・プチ』! 」
私がディバイン・バスターを撃ちこんだ竜巻に、間髪入れずになのはさんが砲撃を直撃させた。
「うーん、何だか間の抜けた感じの名前だね」
そう言ってにゃははと笑うなのはさんだったが、威力は通常のディバイン・バスターを若干上回るようだった。
「では最後は私が貰おう。翔けよ、隼! 」
いつの間にか弓のような形に変形していたデバイスを構えると、シグナムさんがそう叫んだ。
≪"Sturmfalken".≫【『シュツルムファルケン』】
放たれた魔力の矢は4つ目の竜巻に命中すると爆発と共に竜巻の威力を極端に弱める。
「良いところは全部持って行かれてしまったわね。でもまだ仕上げが残っているわよ! 」
プレシアさんがそう言うと同時にライトニング・バインドを展開した。弱体化した竜巻を抑え込むつもりのようだ。
「こちらも行くぞ。『鋼の軛』! 」
ザフィーラさんの声と共に海面からいくつもの棘のようなものが現れて、竜巻を串刺しにして動きを抑えている。シャマルさんもそのサポートをしているようだ。私もフェイトさんと一緒にライトニング・バインドで竜巻を封じる。
「おい、高町にゃはは。お前、封印砲あるんだろ? 纏めてやっちまえ! 」
「なのはだよ、高町な・の・は! …封印砲って、この前使ったのだよね? あれからまたパワーアップしたんだ。見ててね! 」
≪Magical power has been charged 120%. Targets were multi-locked. Please pull the trigger at any time.≫【魔力120%充填完了。対象はマルチ・ロックされました。いつでも撃てます】
さっきのスターライト・ブレイカー・プチを上回る程、なのはさんの魔力が膨れ上がる。展開された魔法陣もいつも以上に大きいようだ。
「『ディバイン・バスター・フルパワー』! 行っくよ~っ!! 」
掛け声とともに発射された桜色の砲撃は、もはや広域攻撃といってもいい程の範囲を包み込んだ。
「…すげぇ」
「まさに一網打尽といった感じだな」
竜巻が消え去ると、そこには4つのジュエルシードが残された。あとはあれを確保すれば今回の作戦は完了ということになる。
「ひゃっ!? 」
次の瞬間、なのはさんを狙ったと思われる射撃魔法を桜色のプロテクションが受け止めた。
「あ、ありがとう、エルシオール」
≪Welcome. Please be careful. Next shot is coming shortly.≫【どういたしまして。気を付けて下さい。すぐに次の攻撃が来ます】
上空を見上げると、足止めをしていたクロノさんを躱し、ミントさんを突き飛ばして例の5人組の男達がこちらに向かってきていた。私達は一斉に迎撃の態勢を整えた。ただ男達のそれぞれの魔力は大幅に上がっているのは明らかなのだが、どうも様子がおかしい。
「…何だろう、気持ち悪い…」
なのはさんがそう呟いた瞬間、射撃魔法がまるで雨のように降り注いだ。咄嗟にプロテクションを複数枚生成して攻撃を防ぐ。
「彼らの魔力反応、さっきまではこんなに大きくなかったのに…っ! 」
「そうは言っても現実に高まっているのだから仕方あるまい。兎に角、迎撃するぞ」
障壁を展開したザフィーラさんがシャマルさんを庇いながら1人の男を殴り飛ばした。殴られた男は悲鳴を上げるでもなく、すぐに体勢を立て直してザフィーラさんに向かっていく。明らかにおかしな挙動だった。
なのはさんのところにも男が1人突っ込んできた。
「! アクセル・シューター! 」
なのはさんもスフィアから誘導弾を発射して迎撃しようとしていたが、誘導弾が命中しているにも関わらず、無表情なまま突っ込んでくる男に怯えたのか、なのはさんの足が止まってしまう。
「危ない! 」
プロテクションの出力を上げてなのはさんと男の間に割り込んだ。男の手にあった脇差ほどの大きさの魔力刃をプロテクションで受け止めると、なのはさんを抱えて距離を取った。
「ありがとう、ヴァニラちゃん」
「大丈夫…後でまたクロノさんに怒られそうだけど」
敢えて軽口を叩いて気を紛らす。なのはさんも少し緊張が解けたようだった。また男がこちらに向かってくるのを見て、なのはさんと私は左右に散開すると誘導弾を発射する。
「…ジャま…たオす…ろスとろぎア…ふうイん」
すれ違いざま、無表情のまま男が感情のこもっていない声でそう呟いたのを聞いて、背筋が寒くなった。
(これって…ミントさんが言っていた「ヘル・ハウンズ」…? )
ゲーム「ギャラクシーエンジェル」に登場するという、敵キャラクター。本来は感情豊かである意味面白い人達だったが、機械に取り込まれて生ける屍状態になってしまうらしい。生憎と私は彼らが登場するまでゲームをプレイすることは出来なかったけれど。
改めて男達を見ると、魔力はSランクを超えるようなレベルまで増幅していて、放ってくる魔法もそれに応じて高威力になっていた。ただ、まるで機械のように攻撃してくるだけで意思のようなものは感じられなかった。
「…っ! 」
魔力刃を手に再度特攻してくる男にバインドを仕掛けるが、あっという間に解除されてしまう。戦いながら周囲の状況を確認すると、フェイトさんやプレシアさん、クロノさんやシグナムさん達も相手の変貌に戸惑っているのか、若干苦戦している様子だった。
(でも人数はこちらの方が上なんだし、均衡さえ崩せれば)
その時、ふと思いついた。機械的な挙動をするなら思考も機械的になっている可能性がある。機械的な思考なら臨機応変な対応が必要な事象には対応が遅れる筈。
<なのはさん、レストリクト・ロック、行ける? >
<…うん、大丈夫だよ! >
あれを解除するには咄嗟の判断で魔力量を増やす必要がある。機械的な思考では解除出来ない可能性が高い。
<レストリクト・ロックをかけたらすぐにチャージ。双方向からダブル・ディバイン・バスター、行くよ>
<オッケー! じゃぁ、行くよっ! >
なのはさんがレストリクト・ロックをかけると、案の定男の動きが止まった。
「ハーベスター! ディバイン・バスター、全力全開で!! 」
「こっちも行くよ、エルシオール!! 」
ロックされて動けない男に、容赦無く桜色と翠色の奔流が襲い掛かった。勿論非殺傷設定なので怪我はしていない筈だが、砲撃の光が止んだ時、男のバリアジャケットはぼろぼろで意識も失っている様子だった。
「まず1人。次はフェイトさん達のサポートに回ろう! 」
「うん! 」
アースラに念話で連絡を入れて、武装隊の人に男の回収をお願いする。そのまま銃の男と相対しているフェイトさん達のところに飛ぼうとした時、上空からミントさんの悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
「ぁぁぁぁああああああああああっ!! 」
それと同時に空色の魔力光が眩く輝いた。
=====
「あははっ、良い表情ね。貴女のそういう顔が見たかったのよ」
ルル・ガーデンの笑い声が響く。辺りを見渡すとフェイク・シルエットだろうか、複数のルルの姿があった。ギリッと歯噛みすると、フライヤーで次々と幻影を撃ち抜いていく。
「なかなかやるじゃない。でも…これならどう? 」
その場にいた全てのルルが、こちらに向かって直射弾を撃ち込んできた。殆どが幻影だったが、そのうちの1つに強い魔力を感じて、プロテクションで受け止める。
「そんな! フェイク・シルエットなら、よっぽど練度が高くないと術者は動けない筈なのに…! 」
ユーノが驚いたような声を上げるが、それがまた俺を苛立たせた。ユーノは事態の重さを判っていない。放っておいたら彼は確実に死んでしまうのだ。だが、これは俺自身の所為でもある。死の呪いについては拡散を防ぐ目的もあって、同じ転生者であるヴァニラを除けばクロノとリンディさんにしか概要を話していない。これが裏目に出た形だった。
(あの時、もっと距離を取っておけば…! そもそもユーノさんに死の呪いについて、ある程度の知識を持って貰っていればっ! )
そんな後悔ばかりが頭の中を埋め尽くしていた。先刻受け止めた直射弾が飛んできた方向に対して重点的にフライヤーを回し、ルルの幻影を撃つが、本人は既に移動してしまっていたのかその場にいたのは幻影だけだった。
≪Caution. Magical power has been detected behind you.≫【警告。背後に魔力反応】
「ミント! 危ないっ! 」
トリックマスターとユーノの声が聞こえたと思った瞬間、背後から直射弾の直撃を受けた。バリアジャケットが威力を殺いでくれたものの、一瞬息が詰まる。どうやら一カ所に集中するあまり、それ以外の場所に対する注意が散漫になってしまっていたようだ。
「落ち着いて。スーパー・エリア・サーチなら幻影だって見抜ける筈だよ」
ユーノは俺の隣に立つと、そう言った。その言葉にハッと我に返る。ユーノが呪いを受けてから、まだ然程時間は経っていない。つまりユーノが転生してしまうまで、まだ少しは猶予がある可能性が高いということだ。それまでに、俺がやるべきことは、少なくともルル・ガーデンに対して八つ当たりすることではないだろう。
「ありがとうございます、ユーノさん。トリックマスター、スーパー・エリア・サーチ、再展開ですわ」
怒りにまかせてルルに特攻した際に解除してしまったサーチャーを再度生成する。フェイク・シルエットは簡易センサー程度なら誤魔化すほどの精度を持つ魔法だが、スーパー・エリア・サーチの索敵性能は生半可なものではない。即座にルルの位置を割り出すと、フライヤーによる射撃を浴びせた。
「ふーん…位置を特定させないための幻影は無駄ってことね」
防御魔法を展開して俺の射撃を防いだらしいルルが、薄い笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「…その笑み、すぐに消して差し上げますわ」
「出来るものならね」
フェイトやヴァニラ達の様子を伺うと既に数人の男を捕縛し終えており、人数的にも勝利は確定的だった。4つのジュエルシードもなのはがエルシオールに格納しているようだ。これで懸念事項の1つは消えた。
「…折角魔力を増幅してやったのに、本当に使えない」
「貴女本人の魔力は増幅されておりませんわね」
「それはそうよ。上がるところまで上がり切っちゃったら、心が壊れてしまう魔法ですもの」
ふっと溜息を吐いた。死の呪いで平然と人を殺すルルにとって、部下を捨て駒にすることなど当然のことなのだろう。俺はルルと相対しながら、ヴァニラに念話を送った。
<ユーノさんが、例の呪いを受けてしまいました。何とか解呪の方法を検討したいのですが>
<! …それは、難しいね。今まで何人もの人が解けなかったものでしょう? でも…>
<ええ、諦める訳に参りませんわ。最後まであがいてみます>
<判った。ミントさんも気を付けて。取り敢えず、周囲の状況はこっちでも注意しておくね>
例のトラックが…本当にトラックなのか怪しいものだが、とにかく何かがユーノの命を刈り取るために現れる筈だ。ヴァニラはそれを察してくれたようだ。念のため、ユーノにも声をかけておく。
「ユーノさん、もし視界内にトラックのようなものが見えたら、ひたすら逃げて下さいませ。絶対にぶつかってはダメですわよ」
「え…? う、うん、良く判らないけれど、判ったよ」
判らないのか判ったのか、はっきりしないユーノの答えがおかしくて少しだけ笑みが零れた。ただすぐに気を引き締めて、ルル・ガーデンの方に向き直る。
「ロストロギアは確保出来なかった。部下は全滅。本当ならこの場に残る意味もあまりないのだけれど」
「…逃がしませんわよ」
「大丈夫よ。そっちの男の子が死んで、絶望する貴女の姿を見たいもの。それまでは遊んであげるわ」
「随分と良い性格ですわ…ねっ! 」
フライヤーを周囲に展開して連射する。だがルルの方でもそれは予測済みだったようで、高速移動などで回避してしまう。
「チェーン・バインドっ! 」
「甘いわね。幻影にはこういう使い方もあるのよ」
ユーノがルルを拘束しようとするが、今度は幻影を巧みに動かしてバインドにぶつける。その勢いで幻影は消えるが、バインドも同時に相殺されてしまった。
正直なところ、ルルを拘束しておくのは非常に困難だ。拘束するだけなら良いのだが、聴取の時に呪いを発動されたりしたら目も当てられない。仮に俺やヴァニラが聴取を行って、他の人がライブ映像を確認していたとしても、それで呪いが発動しなくなる保証はない。
実は先刻、怒りにまかせて闇雲に攻撃をしていた時に、俺はルルの呪いによる被害者を今後増やさずに済むかもしれない方法を1つだけ思いついていた。それはジュエルシードを使った、ブラマンシュならではの手法だった。
(リンカーコアに過剰な魔力を譲渡して、神経系統にダメージを与える…)
言い方は悪いが、植物状態の廃人にしてしまうということだ。ただこの方法も確実に成功するかどうかは判らないし、人道的に見ても問題だらけだろう。何より根本的な解決になっていない。その状態で死んでしまえば、また転生する可能性もあるからだ。この世界での呪いの被害者を増やさない代わりに、当然事情聴取など出来る筈もない。
(本当に最悪の場合の、最後の手段、ということですわね)
いずれにしてもルルのことを拘束できなければ、それすら困難なのだ。俺はふっと息を吐くと、トリックマスターを構え直した。
「参りますわよ! 」
フライヤーで威嚇射撃をしながら懐に飛び込み、ベルカ式棒術で攻撃を仕掛ける。隙があれば更にフライヤーで追撃を仕掛けるが、相手もどうやら結末を見届けることに重点を置くと言ったのは嘘ではないようで防御に専念してしまっており、なかなか決定打を与えられない。
「しぶといっ、ですわねっ! 」
「生憎と、防御だけならっ、自信があるのよねっ! 」
そんな攻防を暫く繰り返した時だった。
<ミントさん! 来たっ!! >
ヴァニラから念話が入った。呼応するように防御を固めるルルを弾き飛ばして距離を取ると、即座にユーノのところに向かう。突っ込んできたのは、まさに名状し難いモノだった。生前の自分自身が何故あれをトラックと認識していたのか、理解に苦しむ。
「な…何でこんなところにトラックが…? 」
「そんなことを言っている場合ではありませんわ! とにかく逃げますわよ! 」
呆然とするユーノを抱え、ルルを放置したままブリッツ・アクションで突っ込んで来たモノを躱す。
「ユーノさん、あれがトラックに見えますの…? 」
「えっ!? あ、いや、確かにこんな空中にトラックが飛んでる筈がないから、何か別の物なんだろうけれど…でも、そもそもミントが『トラックのようなもの』って言ったんだし、それに他に形容のしようがないよ」
俺の眼には、それはまるで…苦しそうに蠢く、実体が無い人達の集合体、亡霊の塊のように見えた。その亡霊のようなモノが反転すると、再びこちらに向かってくる。
「あははっ、いつまで逃げられるのかしらね! 」
無駄に神経を逆撫でするようなルルの声を無視して、もう一度亡霊の突撃を躱した。すれ違いざまにフライヤーで射撃を撃ち込んでみるが、全く手応えが無い。ヴァニラやなのは、フェイト達も攻撃してくれているようだが、そのどれもが亡霊をすり抜けてしまっていた。
<どうやらこちらからの攻撃は無駄のようですわ。みなさんは絶対に近付かないで下さいませ>
オープンチャンネルでみんなに念話を飛ばすと再び亡霊に意識を集中させ、3回目の突撃を躱す。
「ミント、無理しないで」
「今せずに、いつするというのですかっ! あれに当たったら、ユーノさんは死んでしまいますのよ! 」
「でもっ、さっきから魔力を使いすぎだよ! 」
ユーノの言う通り、随分と消耗してしまった感がある。だが、魔力だけなら回復の術があった。
「トリックマスター、ジュエルシードを」
≪Sure. Put out.≫【了解。排出します】
取り出したジュエルシードから魔力が流れ込んでくる。ユーノが単独で逃げ回るよりも、俺がこうして魔力を補充しながら魔法を行使した方がまだ時間が稼げるだろう。気を張り詰めている所為か乱れる呼吸を何とか整えながら、もう一度亡霊の塊に意識を集中する。その時、横から直射弾が飛んできた。
「楽に逝けるように、手伝ってあげるわ」
「余計なお世話ですわっ! 」
マルチタスクを駆使してルルの攻撃を躱し、同時に亡霊にも意識を集中させていたのだが、終わりの見えない回避戦に、ついに俺の苛立ちは限界を迎えた。
「…この亡霊、ルルにぶつけてやりますわ…ユーノさん、参りますわよ! 」
「う、うん、判った」
ブリッツ・アクションでルルの目前に移動すると、0距離からユーノがチェーン・バインドを仕掛ける。それも想定の内だったのか、ルルは即座に幻影と立ち位置を入れ替えて距離を取ろうとした。
「逃がさない、といった筈ですわよ! 」
更に複数回、ブリッツ・アクションでの移動を繰り返すと、棒術によるトリックマスターの一撃を背後からルルに叩きこんだ。だが緊張の連続から体力も消耗していたのだろうか、バランスを崩したのはルルではなく俺の方だった。
「そんなにその男の子が大切なら、貴女が代わりに逝ってあげればいいんじゃない? 」
そう言うと、ルルは俺の眼の前でスフィアを破裂させた。
「っ!! 」
慌てて防御態勢を取ったものの、俺の身体は迫ってくる亡霊の正面に投げ出されてしまった。
「ミント!! 」
ユーノが悲鳴のような声を上げ、手を伸ばそうとする姿がスローモーションのように見えた。そして、亡霊の塊は俺を跳ね飛ばした…筈だった。
ルル・ガーデンが呆けたような表情でこちらを見ている。ユーノは俺に手を伸ばそうとした体勢のまま固まっていた。
亡霊がぶつかったことによる衝撃は全く感じない。にも拘らず、亡霊の塊は俺の身体の周りにキラキラと輝く光だけを残して、綺麗さっぱり消え去っていた。
一瞬、目の前に青緑色の髪の女性が現れ、微笑んだような気がした。
(え…シャトヤーン様…? )
次の瞬間、俺の身体の周りに漂っていた光が一斉にルルの方に向かって移動し、そのまま弾けるように消えた。それと同時にルルは糸が切れた操り人形のように落下していく。
「! クロノさん! 」
叫んだ時には、既にクロノがルルをバインドで拘束していた。
「ミント、ユーノ、大丈夫か? 」
「ええ…問題ありませんわ」
「僕も大丈夫だけど…一体何が起きたのか…」
「それは僕達も同じだ。一体何だったんだ? あの怪しいトラックは」
どうやらクロノもあれをトラックとして認識していたようだ。ふと視界の端に、バインドで拘束されたルルの姿が映る。
「そう言えば、ルル・ガーデンはどうなりましたの? 」
「ああ、大丈夫。気を失っているだけだ。意識を取り戻した途端に呪いをかけたり出来ないように、アースラに連れ帰って厳重に拘束しておくよ。ご苦労だったな」
クロノはそう言ったが、俺は何となくルルはもう死の呪いを操れないんじゃないかと思っていた。何故かは判らないが、あの時見たシャトヤーン様の微笑が、ルルの呪いは解けたと言っていたような気がしたのだ。
「ミントちゃん! ユーノくん! 」
「ミント! 大丈夫? 痛いところとか、無い? 」
クロノがルルを抱えて一足先にアースラに転移すると、今度はなのはやフェイト、ヴァニラ達がやってきた。
「心配をかけてしまいましたわね。この通り、全く問題ありませんわ」
「そっか、良かった」
俺が微笑むと、みんなも安心したように破顔した。ふと隣を見ると、同じように微笑むユーノがいた。その表情を見て初めて、俺はユーノを護り切れたんだと実感した。
(まだ、まだですわ。まだジュエルシードは4つ足りませんし…でも、今だけは)
もう少しだけ解放感に浸っていたかった。
その日の夜、俺はヴァニラと一緒に次元展望公園で星を見ていた。フェイトやなのは達は来ていないが、ブリッジからも状況は確認出来ているだろうし、念のため表面上は他愛もない話だけをして、本題は念話で行う。
<…やっぱり、あれが正しい解呪の方法だったんだと思う。確証はないけれど、光がルルさんの方に流れたでしょう? >
<ええ…人を呪わば穴二つ、とも言いますしね。気軽に検証できないところがつらいですが、そうだと信じたいですわ>
展望公園の天井に映し出された満天の星空を見上げると、俺は軽く溜息を吐いた。
<そう言えば、ヴァニラさんの目には、あれ、どう映っていましたの? >
<ああ…例のトラックのこと? 何であれをトラックだって思っていたんだろう。まるで幽霊みたいだった…>
あの時はユーノを護ることで頭が一杯で、亡霊の容貌について意識している余裕は無かったが、今思い返すと思わず背筋が凍るような恐ろしい姿だった。ヴァニラも同じように思ったのか、軽く身を震わせると両手で自分の身体を抱いた。
<わたくし達以外の人にはトラックのように見えていたようですわね>
<たぶん…あれの本当の姿を見ることが出来る人が、呪いの連鎖を断ち切ることが出来るんじゃないかな…>
その時、天井を映像の星が流れた。先日、願をかけていたことを思い出し、クスリと笑った。
「どうしたの? 」
「流れ星ですわ。映像ですが、先日かけておいた願のうち、1つが今日叶いましたの。ヴァニラさんも如何です? ご利益があるかもしれませんわよ」
ヴァニラが敢えて口に出して聞いてきたので、こちらも言葉に出して答えた。その後また2人で星空を見上げる。
「…地球の星座は見えないね」
「ミッドチルダの星空がベースになっていますわね。ブラマンシュの星空とも違いますわ」
「見慣れた筈の星空なのに、何だか不思議な感じがする…」
そのまま2人で暫く星空を見つめた。
<…呪いのことなんだけど、ミントさんにかかっていたのも解けてるんじゃないかな? >
不意にヴァニラがそう念話で伝えてきた。
<そう…かもしれませんわね。あの時見たシャトヤーン様の姿が、何を意味するのかは判りませんが>
検証する気にはなれなかった。万が一呪いが発動してしまい、誰かがその被害を被るなど、考えることすら遠慮したかった。
<転生のことは、引き続き秘匿しよう。解呪の方法だって、可能性の話でしかないし>
<…ヴァニラさんも、呪いが解けるかもしれませんわよ? >
<巻き込まれたら、私も試してみるよ。でも…自分から進んであの状況を作り出したいとは思わないかな>
ヴァニラは苦笑しつつそう言った。
「…あ」
「流れ星、ですわね」
ヴァニラがそっと目を閉じて祈るような素振りを見せた。俺もその隣でもう一度、残った4つのジュエルシードの回収が上手く行くように、そしてみんなが笑顔でいられるようにと、そっと祈った。
第3部もそろそろ最終話に向けて収束させないといけませんね。。
ちなみに第4部は、最終回以外のプロットがまだできていません。。
いろいろと書いてみたいお話はあるのですが。。みんながブラマンシュの温泉で遊んだり、フェイトが伝説のカレーを探してインドに行ったり、とか。。(笑)
どこまで実現できるかわかりませんが、第3部とは打って変わって暢気なグダグダストーリーを展開したいと思っています。。
引き続きよろしくお願いします。。