他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第22話 「爆発」

「全く…厄介な魔法だよ」

 

取り調べを中断して移動した先のブリーフィングルームで、クロノさんが頭を抱えていた。その原因は前日に捕縛した5人の男達である。彼等は捕縛されているにも関わらず敵対的な行動を示し続けたため、仕方なく拘束衣を着用させている。ただ長時間の拘束衣着用はクラッシュ症候群を引き起こす可能性もあるので、実際に着用するのは取り調べの時のみだけれど。

 

私はシャマルさんと一緒に、男達が拘束衣の脱着を行う時と取り調べをしている間は立ち会って欲しいとの依頼を受けた。当初の目的としては万が一男達が着替えの途中で暴れ出して武装隊の人達が怪我をした場合や、拘束衣によるクラッシュ症候群が発生した場合などに速やかに対処できるようにするためだったらしいのだが、それ以前に男達との意思疎通が出来ない状態ということで、彼らの医療スキャンまで請け負うことになった。

 

「ハーベスターのスキャン結果では5人ともアルファ波が徐波化していて、デルタ波が検出されています。これは意識が覚醒している成人男性の場合、明らかに異常な状態です」

 

「クラールヴィントも同じような検出結果を示しているわね。これはどちらかというと統合失調症などの患者に見られる症状なんだけど…彼らの状態は明らかに病気とは異なるし」

 

シャマルさんは言葉を切ると、軽く溜息を吐いた。私が言葉を継ぐ。

 

「…もしかしたら、酩酊状態や譫妄状態になっていると言った方が近いかもしれませんね」

 

「そうね。ただ原因は明らかにあの時に起きた魔力量の異常な増加なのだから、通常の医学知識で推論を述べることにあまり意味は無いと思うわ」

 

「…結局、ミントがあの女から情報を引き出せなければ進捗も無いということか…」

 

明らかに統合失調症や譫妄と断定出来るならハロペリドール等の抗精神病薬を投与するのも良いのだろうが、今回の場合は原因がルル・ガーデンという女性が行使したと思われる魔法がトリガーになっている。下手に投薬治療を行うよりも、確かに元になる術式を調査した方が確実だろう。

 

「そう言えばヴァニラ、彼等と以前戦った時に、同じような状況に陥ったと言っていたな」

 

クロノさんは顔を上げると、私にそう聞いてきた。工場プラントで彼等と対峙した時、確かに急激に魔力量が増加していた筈だ。

 

「はい。ただあの時は恐らく術式は完成していませんでした。途中でクロノさんやフェイトさんが妨害したことで彼等も逃走しましたし」

 

「術式が完成してしまえば、元に戻せるかどうかも判らない、か…」

 

ミントさんがルル・ガーデンから戦闘中に引き出したという情報では、魔力量が上がり切ると心が壊れる魔法なのだという。だとしたら矢張り抜本治療には術式の調査は欠かせない。どのように心が壊れたのかが判らなければ、治療のしようもないからだ。

 

「現実に彼らの魔力量はSランク程度のままです。前回どの程度のスパンで回復したのかは判りませんが、場合によってはこのまま回復しないことも考慮しておいた方が良いかもしれませんね」

 

「そうだな…詳細はミントの報告次第で変わってくる可能性もあるが」

 

「あ、それから、彼らの脳波がお互いに共鳴しているような部分が見受けられます。魔法の発動を封じる腕輪をしているから念話とは違うと思うのですが…」

 

一応検査の際に気になったことも伝えておいた。

 

「下手に意思疎通ができていたりすると厄介だな。念話はないと思うが、一応収監場所は別にしておこう」

 

「そう言えば、人工リンカーコアだったかしら? あれについての資料もあったら見せて欲しいんだけれど」

 

シャマルさんの言葉を聞いて、クロノさんが少し顔を顰めた。

 

「それは今回の事象に関わる調査の一環、という認識でいいのか? 」

 

「勿論よ。スキャン結果では疑似的に生成されたリンカーコアのようなものが確認は出来ているけれど、やっぱり違和感はあるしね」

 

実際、ハーベスターのスキャンでも違和感は拭えなかった。通常リンカーコアには決まった形がある訳でもなく、個人の体内に大気中の魔力素を抽出して魔力に変換し、放出するために存在する器官だ。これが男達の身体に埋め込まれたものは全て同じ、宝石のような形状をしていた。

 

「明らかに人工的に作られたものだし、例の魔力増幅魔法にも関係している可能性があります。摘出の可否についても人体への影響が判らない以上、まずは資料があれば拝見したいな、と」

 

シャマルさんの言葉を継いで、私も説明する。

 

「…判った。閲覧許可は艦長に言えばすぐに取れるだろうし、後で写しを届けさせよう」

 

「ありがとうございます」

 

「後は取り調べについてだが…このまま再開しても実は無いだろうし、今日のところはこれで切り上げようか。2人共、ご苦労だったな」

 

クロノさんが疲れたような声でそう言った時、シャマルさんが何やら呟いた。

 

「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」

 

それと同時に青磁色の魔力光がクロノさんと私を包む。回復系の魔法のようだったが、驚くべきはその効果の高さだった。シャマルさんが生成した魔法陣はベルカ式のもので一見では詳細が判らなかったのだが、明らかに体力と魔力を同時に、しかも瞬時に回復させており、またクロノさんと私を同時に対象としたところから対象が単体ではなく範囲である可能性が高い。

 

「…あぁ、ありがとう。大分楽になったよ。じゃぁ今日はこれで解散にしよう」

 

クロノさんがそう言い、私達はブリーフィングルームを後にした。一度男達の様子を確認した後でリンディ提督に報告に行くというクロノさんと別れ、私はシャマルさんと一緒にはやてさん達が待っている食堂に向かった。ちなみに今日は月曜日。なのはさんやアリシアちゃんは学校に行っているのだが、私はアースラでのお手伝いを優先させることになったので、学校は暫くお休みすることになった。

 

「あの…シャマルさん、さっきの魔法なのですが」

 

「あぁ、最後に使った回復魔法ね。『静かなる癒し』っていうのよ」

 

道すがら話を聞くと、思った通り体力と魔力を同時に回復させ、更に負傷や騎士甲冑…バリアジャケットの欠損がある場合はそれすらも修復してくれる術式らしい。それだけの効果を瞬時に、しかも指定範囲内の対象全てに対して行使できる魔法というのは、今までに聞いたことが無かった。しかもこれだけの効果を重ねても、魔法ランクはAA程度なのだとか。

 

「これは昔から私達が使っていたベルカの術式なの。たぶん…今ではもう失伝扱いなんだと思うわ」

 

「そう言えば、ミントさんやフェイトさんもそんなことを言っていました。古代ベルカの術式は殆どが失伝していて、現代に伝わるベルカ式魔法はミッド式の傍流として再現したものに過ぎないって」

 

「…元々ベルカ式魔法は対人戦の近接攻撃に特化したものが多かったのよ。そう言う意味でも、汎用性が高いミッド式魔法に淘汰されちゃったのね、きっと」

 

シャマルさんは少しだけ寂しそうにそう言った。

 

「そうそう、さっきの『静かなる癒し』ね。ミッド式魔法へのコンバートが出来るかどうか判らないけれど、ヴァニラちゃんにも術式、プレゼントしておくわ」

 

「良いんですか!? ありがとうございます! 」

 

シャマルさんのデバイス、クラールヴィントからハーベスターにデータが転送される。

 

「はやてちゃんのことで色々とお世話になっているお礼と、同じく癒しと補助を本領とする騎士の誼ってとこかしら。古代、なんて言い方をすると少し違和感があるけれど」

 

確かにベルカ式魔法を古代や近代と称するのは今の時代の人達なのであって、気が遠くなるほど昔からベルカ式魔法を使い続けている守護騎士達からすれば、自分達の魔法が「古代」と分類されるのは不思議な気分なのかもしれない。そんなことを考えているうちにデータ転送が完了した旨、ハーベスターから通知された。

 

「本当にありがとうございます。ミッド式へのコンバートも試してみますね」

 

「まぁ治療や回復限定とはいえ、SSSオーバーのヴァニラちゃんなら無理してコンバートしなくてもベルカの術式のままで発動出来るかもしれないけれど…何にしても頑張ってね」

 

優しく微笑むシャマルさんにもう一度お礼を言うと、私達は改めて食堂に向かった。

 

 

 

食堂に入るとすぐにテーブルで談笑しているはやてさんとヴィータさん、ザフィーラさんを見つけた。

 

「あ、ヴァニラちゃんにシャマル。お仕事の方はもうええん? 」

 

「はい。たぶん今日はもう召集は無いと思いますよ。ところでシグナムの姿が見えないようですが…」

 

「シグナムやったら、さっきまたフェイトちゃんと一緒にトレーニングルームに行ってしもた。あの2人もようやるなぁ」

 

はやてさんとシャマルさんが話をしているのを隣で聞きながら、私は何となくさっきまでのやり取りを思い返していた。今まではあまりシャマルさんとじっくり話をしたことは無かったけれど、お互い医療系の知識があって治癒や補助の魔法を扱う術者同士、今後も医療系のことで色々とお世話になるだろうし、接点も増えてくるだろう。仲良くできたらいいな、と思う。

 

ふと時計を見ると、14時を回っていた。そう言えばお昼ご飯がまだだったことを思い出して、食堂のメニューを確認すると、まだ軽食のセットとデザート類が残っているようだった。

 

「少し遅くなってしまいましたが、お昼代わりに軽食セットを貰ってきます。シャマル先生も如何ですか? 」

 

「え…先生? 」

 

さっきまで医療系のことで今後お世話になると考えていた所為か、「先生」という敬称が思わず口をついて出てしまった。言われた当人はきょとんとしている。

 

「…あ、ごめんなさい。つい、お医者さんのイメージで呼んでしまいました」

 

「ああ…うん、確かに言われてみれば先生ちゅうのも、ありかもしれへんなぁ」

 

「もう、はやてちゃんまで。でも先生って呼ばれるのもちょっと良いかも。将来的にはそっちのポジションも狙ってみようかしら」

 

シャマルさんはそう言って微笑むと、席を立った。

 

「ありがとう、ヴァニラちゃん。折角だから一緒に頂きましょう」

 

「おー、仲良しさんやな。仲良しなんはええことや」

 

嬉しそうに言うはやてさんに笑顔を返すと、カウンターで軽食セットを頂いた。

 

「あら、ヴァニラさん達も今からお昼ですの? 」

 

席に戻ろうとしたところで、丁度食堂に入ってきたミントさんから声をかけられた。

 

「ミントさん、お疲れさま。うん、さっき戻ったところ。取り調べの調子はどう? 」

 

「どうもこうもありませんわ…ずっと黙秘ですわよ。挙句の果てには、わたくしの顔はもう見飽きた、ですって」

 

いつになく不機嫌そうな口調に少し驚いたが、ミントさんはすぐに笑顔になった。

 

「わたくしも何か頂いてきますわね。ご一緒させて下さいませ」

 

「うん。じゃぁ先に席に行ってるね」

 

シャマルさんと一緒に席に戻って暫くすると、ミントさんもやってきた。その手に持っていたのは毒々しい色をしたゼリーだった。

 

「ミントちゃん…そんなんよう食べるなぁ」

 

「あたしもアイスとかなら良く食うけど、さすがにそれはちょっと…」

 

はやてさんもヴィータさんも結構引いている様子だった。

 

「今日は無性に甘いものが頂きたい気分だったのですわ。ザフィーラさんは如何です? 」

 

「…遠慮しておこう」

 

普段のミントさんが結構食事に拘りを持っている感じだったため、まるで駄菓子のようなものを食べる姿にギャップを感じていたのだが、後でミントさん本人に聞いたところ実は「ギャラクシーエンジェルのミント・ブラマンシュ」は駄菓子が大好きだったのだとか。

 

「一応言っておきますが、アースラの食堂では人工甘味料や人工着色料の類は一切使っておりませんのよ。このゼリーだってこんな見た目ではありますが、天然蒟蒻精粉と果汁100%のジュースが原料です。甘さも控えめで結構美味しいのですわ」

 

ミントさんはそう言いながらスプーンを口に運び、蕩けるような笑顔を見せた。

 

 

 

=====

 

食堂でヴァニラ達と別れた後、気分転換も兼ねて艦内を散歩していると、トレーニングルームで模擬戦をしているフェイトとシグナムを見かけた。お互いに近接戦闘を得意とするものの、中長距離での対応も出来るオールラウンダーだ。

 

折角だから2人の模擬戦を見学しようと、トレーニングルームの入り口から中を覗き込んだ。どうやら近接攻撃では技術面やパワーで上回るシグナムの方が有利で、中距離からの射撃戦では手数の多さからフェイトが有利な様子だった。とは言えその差はとてもわずかなもので、概ね互角と言っても差し支えない。

 

暫くすると模擬戦終了のブザーが鳴り、2人がトレーニングルームから出てきた。

 

「フェイトさん、シグナムさん、お疲れさま。お2人共いい感じでしたわよ」

 

「ありがとう、ミント。途中から見てるのは気付いてたんだけど、気を抜いたら負けちゃいそうだったから」

 

フェイトが苦笑しながら、俺が差し出したタオルを受け取った。片手をあげて挨拶してくるシグナムにも同じようにタオルを手渡す。

 

「ブラマンシュは例の女の聴取だったな。もう終わったのか? 」

 

「今は休憩中ですわ。と言っても黙秘ばかりで碌に進んでおりませんが」

 

「大変だね…何か手伝えることがあれば良いんだけど」

 

フェイトもそう言ってくれるが、さすがに呪いが解けたことを実証出来ていない状態でフェイトを聴取につき合わせる訳にもいかない。

 

「ありがとうございます。お気持ちだけ、受け取っておきますわ」

 

「我らに出来ることなどそんなには無いだろうが、気晴らしの模擬戦ならいつでも付き合うぞ。身体を動かしたくなったら声をかけてくれ」

 

「そうだね。その時は私も参加させて貰えると嬉しいな」

 

シグナムとフェイトはきっと自分達が模擬戦をしたいのだろうなと思いながらも、気遣いには感謝の意を返しておく。ふと時計を見ると15時半を示していた。気は進まないが、もう一度ルルのところに行って聴取をしてみようかと思い、フェイト達に別れを告げる。

 

そのままトレーニングルームを出ようとしたのだが、ふと思い立って振り返ると、俺は2人にこんな質問をしてみた。

 

「フェイトさん、シグナムさん。あの時…ルル・ガーデンの呪いが発動してわたくしと接触した時、客観的にはどのように見えていたのか、教えて頂けませんか? 」

 

「あのトラックのようなものがブラマンシュに突っ込んだ時か? 本当に一瞬のことで、何が起きたのか良く判らなかった、というのが正直な感想だな」

 

「私も同じかな。トラックみたいなものがミントに触れた瞬間に光の粒に変わって、それが今度はルル・ガーデンだっけ? あの女の人にぶつかっていったっていう感じだったよ」

 

2人の回答に対して改めてお礼を言うと、俺は今度こそトレーニングルームを後にした。2人共あの塊を、トラックのようなものとして認識していた。つまり、守護騎士と言えども死の呪いには影響を受ける可能性があるということだ。

 

(デバイスは大丈夫だとは思いますが…念には念を入れておいた方が良いですわね)

 

俺は片手で抱いたトリックマスターを見つめながら、そんなことを考えていた。

 

≪Oh, is there any food particles in my mouth or something? ≫【口元に食べ滓でもついていましたか?】

 

「生臭坊主の駄洒落じゃあるまいし。敢えて塗ったりしない限り、つくことはありませんわよ」

 

≪Am I boiled? How awful! ≫【煮込まれてしまうのでしょうか? 何て恐ろしい! 】

 

トリックマスターの無駄な知識はいつも通りスルーしておいた。

 

 

 

念のためトリックマスターをスリープ状態にしてから、ルルが拘留されている犯罪者用の部屋に入った。例の男達とは違って拘束衣を着せることが困難なこともあり、彼女の聴取はいつも牢屋越しだ。一応魔法の発動を抑制する腕輪が両手に嵌められているので、魔法を唱えることは出来ない筈だ。

 

「…また貴女なの? 本当にもううんざりなんだけど」

 

ルルの愚痴には溜息で返す。

 

「誰彼構わず呪いをばら撒くような人には危険すぎて、他の人を宛がうことなんて出来ませんわよ」

 

「…どうせもう使えなくなっているわ」

 

どうやらルル自身も死の呪いがもう使えなくなっているだろうと考えている様子だった。

 

「そうですわね。わたくしもそう思いますが、残念ながらそれを証明する手段はありません。確証もないのに危険を冒す訳には参りませんわね」

 

「このやり取りも、もう飽きたわ」

 

「今まで散々やりたい放題やられたのでしょう? 自業自得ですわよ。それよりも、いい加減こちらの質問にも答えて頂けませんか? 答えて頂ければわたくしの顔も見ずに済むと思いますわよ」

 

「……」

 

結局昨日も今朝もこんな感じで、本拠地の場所やらメンバー総数などといった重要な情報は何一つ入手出来ていなかった。少し考えた後、俺はブリッジのクロノに通信を入れた。

 

『どうした? ミント』

 

「クロノさん、ここの聴取の状況は把握されていますか? 」

 

『…録画はしている。何があるか判らないから、リアルタイムでは確認していないな』

 

「これから少し、ルル・ガーデンと呪いについてお話しをしようと思います。かなりセンシティブなお話しになると思いますから、少しの間だけ、録画を止めて頂きたいのですが」

 

暫くの沈黙の後、クロノが口を開いた。

 

『記録映像は残しておく必要がある。止めるのは音声だけでも構わないか? 』

 

「十分ですわ。感謝致します」

 

『…今、音声の録音を停止した。取り敢えず10分後にまた連絡をくれ』

 

「了解ですわ」

 

そう言うと、俺はルルに向き直った。

 

「今更、何の話かしら? 」

 

「転生した人間に転生の話をしても、呪いは無効なのですわ」

 

いきなり本題を切り出すことにした。その言葉に、ルルは驚きを隠さなかった。

 

「つまり…あなたも転生者ってこと? 」

 

その問いには敢えて答えない。万が一の事態を想定してのことだ。恐らくルルにかけられた呪いは解呪されているだろう。一度呪いを受けた者が解呪された後で、同じ呪いにかかるかどうかは不明だが、もし俺自身にかけられた呪いがまだ効力を持っている場合、今度は俺がルルに死の呪いを発動してしまう危険性があった。

 

勿論、仮に発動したとしても俺自身を盾にすることで回避は可能だろうが、下手に危険を増やすこともない。何がキーワードなのかは未だに判っていないが、俺はできるだけ呪いが発動しないように言葉を選びながらルルと話をすることにした。

 

「…呪いが効かなかった人間は転生者、と考えてもいいのかしら? 」

 

「その言い方…矢張り他にも呪いにかからなかった人がいるのですわね? 」

 

今度はルルが口をつぐんでしまった。だが先ほどの俺と同じく、この場合も沈黙は肯定と同じ意味を持つ。しかもこの態度からして、ある程度親しい間柄のようだ。

 

「通常、人が死ぬと判っていて呪いの言葉を口にする人は少数ですわ。ですがその呪いが効かないと判っているなら、むしろ自分の境遇を共有したいと思う筈です」

 

「…何が言いたいの? 」

 

「貴女が呪いをかけたのに死ななかった人物…恐らくは転生者ですわね。呪いをかけられて生きているのだから、転生者に対して呪いが無効なことも推測出来ている筈ですわ」

 

「……」

 

「なのに何故、貴女には自分が転生者であることを明かさなかったのでしょうね? 」

 

「……」

 

俺は軽くため息を吐いた。これではまるで俺の方が悪役だな、と思いながらも言葉を続ける。

 

「信用されていなかったのでしょうね。或いは貴女が部下に対してしていたのと同じように使い捨ての駒に…」

 

「うるさい! 黙れ!! 」

 

どうやらこちらの推測は正しかったようだ。だが余計なところで地雷も踏んでしまった。もっとも、ある程度はこうなることも予測はしていたのだが。俺は再びクロノに通信を送った。

 

『…随分と剣呑な雰囲気だな。何があった? 』

 

「少しばかり、心の傷をえぐって差し上げただけですわ」

 

『…ほどほどにしておいてくれよ。今日はもう上がるか? 』

 

「そうですわね…」

 

ちらっとルルの方を見やると、牢の中で完全に項垂れてしまっていた。今日はこれ以上の聴取は難しいだろう。

 

「わたくしはもう帰りますわね。ごきげんよう」

 

「うるさい! うるさい、うるさい!! さっさと出て行けっ! 」

 

俺は軽く肩をすくませると、ルルが拘留されている牢を後にした。

 

 

 

クロノとリンディさんには、恐らく他にも死の呪いを使うことができる人間がテロ組織内にいる可能性があることを伝えておいた。これはこれで大きな収穫ではあったのだが、今日のやり取りでルルの態度は一層頑なになってしまうだろう。

 

(今後の聴取のことを考えると、少し先走りすぎたかも知れませんわね…結局呪いの効果範囲については不明なままですし)

 

夕方になって学校を終えたなのはとアリシアがアースラにやってくることになり、出迎えに行くというプレシアさんとフェイトが部屋を出て行った後、一人でベッドに寝転んだまま、そんなことを考えていた。

 

今日は呪いについて、かなり突っ込んだ話をしたのは確かだ。それにも拘わらず、ルルに対して呪いは発動しなかった。勿論、発動しないように注意しながら話はしていた訳だが、正直呪いが発動してくれていればルルの解呪が完了していたことと、俺の呪いが生きていることの証明になった筈だ。

 

(それが今の段階ではどちらも不明…まぁ、仕方ないことではありますが)

 

取りあえず、今は深く考えても結論は出ないだろう。それなら、とベッドから身体を起こす。今日は八神家一同も、なのは達も揃って食堂で夕食を食べることになっていた。もう少ししたら、再び無限書庫に調査に出ているユーノやリニス達も戻ってくるだろう。一緒に食事をすれば気晴らしにもなるに違いない。

 

(みんなで頂くご飯はおいしいものですからね)

 

そう思って部屋を出ようとした瞬間、大きな振動がアースラを襲った。思わずバランスを崩して倒れそうになる。

 

「! 一体、何が起きましたの? 」

 

≪According to the kind of oscillation, it might be the explosion.≫【振動の様子から、爆発と推測できます】

 

トリックマスターが音声を発すると同時に、艦内にけたたましくアラートが鳴り始めた。ブリッジに行こうと部屋を飛び出したところで、クロノからの通信回線が開いた。

 

『ヴァニラ、シャマル、緊急事態だ。例の男達のうち、1人がいきなり爆発した。原因は不明。看守2名が巻き込まれて重傷。出来れば応援を頼みたい。Cブロック23番地だ。ミント、ルルにも状況を確認してもらう必要があるだろう。一度ブリッジに来てくれ。情報を共有しよう』

 

「すぐに参りますわっ」

 

そのままトリックマスターを小脇に抱え直すと、俺はブリッジに向かって駆け出した。

 




せっかくPCが直ったのに、今度は私自身が体調を崩してしまいました。。
ウイルス性腸炎だそうです。。

お休みしている間に執筆を進めたら、とも思ったのですが、正直甘かったです。。
38度の熱が出て、酷い頭痛と吐き気、倦怠感でPCの前に座っても眩暈で自分が何をやっているのかわからない状態。。
固形物を食べてもすぐに吐いちゃうし、お腹の中のものは下痢で全部流れちゃう感じで、一番ひどい時は呼吸さえおぼつかない状態でした。。

幸い2日ほどで病状も徐々に回復してきましたので、布団の中で横になりつつ、ブラウザゲームで遊びながら、今回の投稿予約までは完了しました。。(笑)

まだ若干頭痛と微熱が続いていますが、峠は越えたと思われます。。

季節がらノロウイルスとかも含めてウイルス性の腸炎が流行っているようですが、結構侮れないことが改めてわかりました。。
みなさんも重々お気を付けくださいませ。。
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