他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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※今回はヴァニラパートのみです。。


第25話 「ハラオウン」

1回目の模造レリック回収が失敗に終わった後、私達は30分程の休憩を挟んでから再度ブリーフィングルームで打ち合わせを行った。

 

「メスを入れただけで爆発するんじゃぁ、開胸は出来ないわね。結局スキャンをかけながら転移、っていうのが最善策かしら」

 

プレシアさんの言葉に対して、シャマルさんが少し考えるような素振りを見せた。

 

「実は…もしかしたら使えるかもしれない魔法があるの。ただ、あまりはやてちゃんには見せたくなくて」

 

そう言われた時に、以前夜天の魔導書に過去の記憶を見せて貰った時のことを思い出した。

 

「あ、蒐集の時の…ですね」

 

シャマルさんは俯くように頷いた。過去の記憶の中で、シャマルさんは何らかの魔法を駆使して距離を取ったまま対象者のリンカーコアだけを掴み出していた。確かにあれは恐ろしい光景だった。対象者の身体からいきなりシャマルさんの手が突き出してくるのだ。実際、見ていて気持ちのいいものではないし、はやてさんに見せたくないというのも判る。

 

「それにあの魔法…『旅の鏡』で摘出した模造レリックを、そのままの状態で封印できるかどうかも判らないし、仮に出来たとしても、そのまま封印するなら取り込んでいた血管や神経は転移と同じように引き千切ることになるわ。それなのに身体には表向き傷がつかない…目視できずに体内組織を再生させることになるヴァニラちゃんに、負担を強いることになるの」

 

確かに目視による情報が一切ない状態での治療は、情報がある場合と比べれば難しい。でも前回の治療でも目視で得た情報は僅かなものだし、殆どはハーベスターとクラールヴィントのスキャンデータを基に手術を行っていた。メディカルスキャン用に最低もう1台のデバイスを確保して、複数のデバイスによる立体的な視覚情報さえ確立できれば、決して不可能な作業ではない。

 

「私なら大丈夫です。内視鏡代わりになる立体的なスキャンを実行可能なデバイスを、あと1台使うことが出来れば」

 

「メディカルスキャンを実装するなら、そもそも医療用に開発された物か、サポート能力の高いインテリジェント・デバイスにすべきね。ストレージだと…展開スピードは速いでしょうけど、臨機応変な動作は期待できないわ」

 

「そう言う意味ではアームド・デバイスもあまり向いてはいないわね。クラールヴィントが特別なのよ」

 

「…僕のS2Uはストレージ・デバイスだ。残念ながら今回の件には向かないな」

 

アドバイスを受けて、その場で候補になりそうなインテリジェント・デバイスを思い浮かべる。

 

(ミントさんのトリックマスター、ユーノさんのレイジングハート、フェイトさんのバルディッシュ、それからなのはさんのエルシオール…)

 

インテリジェントに限定するなら、この4機が最有力候補だろう。アリシアちゃんあたりは新規に専用デバイスを構築したがるかもしれないが、さすがに今回は時間が足りない。

 

「エルシオールはロールアウトしてからそんなに経ってないから、容量的には全く問題ないけれど…AIはまだまだ成長段階ね。バルディッシュもどちらかというと近接戦闘を主としたサポートをメインにしているから…その2機はあまり医療系のサポートを期待しない方がいいわ」

 

「その点レイジングハートとトリックマスターはAIがかなり熟成されているようだから、サポート面でも問題は無いでしょうね。特にトリックマスターのAIなら相当に複雑な制御も対応できると思うけれど」

 

プレシアさんとシャマルさんの発言を聞いて、クロノさんが少し顔を顰めた。

 

「トリックマスターか…いつもふざけているイメージが強いんだが、大丈夫なのか? 」

 

確かにトリックマスターの普段の言動はふざけているとしか思えないようなものも多いのだが、あれで魔法戦闘中のサポートは一級品だと、以前ミントさんからも聞いていた。

 

「…ミントさんほどの術者が信頼を置いているデバイスです。きっと大丈夫ですよ。後でお願いしてみます」

 

「…そうか、そうだな。判った。僕からも後で協力を要請しておくよ」

 

私の回答に、クロノさんも頷いてそう言った。

 

「それから最初に言っていたはやての件だが…前回の施術がああいう形で終わってしまったこともある。実際子供達が見るには刺激が強すぎるだろうし、それを理由に見学出来ないようにしておくよ。これはフェイトやアリシア、なのは達も同じだ」

 

ミントさんの名前が出なかったのはトリックマスターを借りる関係上、見学を拒むのが難しいと考えたためなのだそうだが、フェイトさんやはやてさんが見学しないなら、無理に1人だけ残るようなことも無いような気がした。

 

「今回実施するのは通常の施術じゃない。上手く行くかどうかも判らないようなことに君達を巻き込んでしまうことは申し訳なく思う」

 

クロノさんが不意にそう言って頭を下げた。

 

「…失敗してもおかしくない施術だ。万が一の時は、各自自分達の命を最優先にしてくれ。特にヴァニラ」

 

「…はい。判っています」

 

私だって別に好んで危険に身を晒している訳ではない。クロノさんの指摘には苦笑しながら答えた。

 

「残った3人の施術は、明日の午前中…10時からにしましょう。カンファレンスはその1時間前に。今日はみんなゆっくり休んで、明日に備えてね」

 

シャマルさんがそう言って、この日の打ち合わせは終了になった。ブリッジに向かうというクロノさんに、ふと声をかける。

 

「そう言えば、リンディ提督が何かお話しがあるということでしたが」

 

「あぁ、あれか。取り敢えず全員の手術が終わるまでは保留にするそうだ。今はそちらに専念しておいてくれ」

 

「…判りました。お疲れさまです」

 

挨拶を済ませると、クロノさんと別れてブリーフィングルームを出た。その後プレシアさん、シャマルさんと一緒に食堂へ行くと、丁度なのはさんとアリシアちゃんがはやてさんの車椅子を押しながら食堂から出てくるところだった。シグナムさん達守護騎士も一緒だ。

 

「あ、ママ! ヴァニラちゃんも。お疲れさま! 」

 

「シャマルもおるな? 丁度ええわ。みんな一緒に次元展望公園に行かへん? 」

 

「ミントちゃんもフェイトちゃんも、先に行ってるんだ。特別に流星群の映像を流してくれるんだって! 」

 

嬉しそうに燥ぐみんなの様子に、思わず笑みが零れた。

 

「アリシアもフェイトも行くなら私も当然行くわよ」

 

「私も、勿論はやてちゃんについていきます」

 

「ほら、ヴァニラちゃんも早く」

 

アリシアちゃんに手を引かれて、そのままみんなで次元展望公園に移動すると、思いのほかたくさんの人達が集まっていた。既に照明は夜間モードになっている。

 

「ヴァニラさん、お疲れさまです」

 

トリックマスターを抱いたミントさんが声をかけてきた。一瞬デバイスを借りることについて相談しようとも思ったのだが、そういう雰囲気でもなかったので取り敢えず後回しにした。

 

「? どうかされました? 」

 

「ううん、何でもない。随分人が多いね」

 

「そうですわね。たぶん武装隊の方も含めて、アースラスタッフの半数近くがいらしていると思いますわよ」

 

改めて次元展望公園の中を見渡すと、食堂から出張でもしてきたのか軽食系の屋台まで出ていて、ちょっとしたお祭りのような雰囲気だった。

 

「…少し気が滅入る事件もありましたし、気分転換の意味もあるのでしょうね」

 

ミントさんが呟くように言った時、いくつかの星が流れた。周りから歓声が上がる。その後も流星は何度も出現し、その度に私の目を楽しませてくれた。

 

「綺麗…アリサさんやすずかさんにも見せたかったな」

 

「お2人でしたら、いらしていますわよ。ほら」

 

ミントさんが示した方を見ると、なのはさんやアリシアちゃん、はやてさんと一緒に談笑しているアリサさんとすずかさんの姿があった。

 

「あ…来てたんだ」

 

苦笑交じりに呟いた時、すずかさんと目が合った。微笑みながら手を振ると、それに気付いたらしいアリサさんも一緒にこちらにやってきた。

 

「ヴァニラちゃん、ミントちゃん、お疲れさま」

 

「あんた達も忙しいみたいだけど、あまり無理するんじゃないわよ」

 

恐らくなのはさんやアリシアちゃんから簡単に状況を聞いていたのだろう。2人が労ってくれるのが嬉しかった。

 

「ありがとう。体調は問題ないよ。もう少ししたら学校にも戻れると思うし」

 

「そっか、早く戻れるといいね」

 

「家庭の事情ってことになってはいるけれど…月夜達も結構気にしていたわよ」

 

ここ数日ご無沙汰しているクラスメイトの名前を聞いて、まだ聖祥に編入してすぐの頃、クラスの男子から「何故Hと書くのに読みが『アッシュ』なのか」と聞かれたことを思い出した。些細な会話だったが、あの時から私に声をかけてくれる男子が多くなっていたように思う。

 

「どうしたのよ、急に黙りこんで」

 

「…あ、ごめん。何でもないの」

 

アリシアちゃんは言うまでもなく、アリサさんやすずかさん、なのはさんはきっと私の姓が変わっても、今まで通り私と接してくれるだろう。多分、橘さんや他の友達もみんな最初は戸惑うかもしれないけれど、すぐに馴染んでくれるに違いない。

 

けれど、この時私は何となく彼女達から『H(アッシュ)』以外の名前で呼ばれている自分を想像出来なかった。

 

「ふーん…まぁいいわ。でも、何か困ったことがあったのなら、すぐに相談しなさいよ」

 

「そうだよ。お友達なんだから、遠慮なんてしないでね」

 

その言葉だけで、今は気分が晴れ渡るような気がした。ありがとう、とお礼の言葉を述べると私達は次元展望公園の天井に映し出された夜空を見上げた。結局そのままアリシアちゃんやなのはさん、はやてさん達とも再合流し、更に屋台で人数分のカレーライスを買ってきたフェイトさんや無限書庫から戻ってきたユーノさん、リニス達とも一緒になって、みんなで流星を見ながらお喋りを続けた。

 

そして翌日も学校があるなのはさん達、海鳴組が帰ってしまった後も暫くお祭りのような雰囲気は続いていた。その所為で少し夜更かしをしてしまったけれど、久し振りに心から楽しめたひと時で、リラックスできたのは良かったと思う。

 

 

 

翌朝の目覚めも快適だった。9時からのカンファレンスに間に合うよう支度を済ませると朝ご飯を頂いた。

 

「おはようございます、ヴァニラさん」

 

「あ、おはよう、ミントさん」

 

ミントさんが私の席にやってきたので挨拶を交わす。朝食のプレートを持っていなかったので不思議に思っていたのだが、どうやら少し前に済ませてしまったらしい。

 

「クロノさんから聞きましたわよ。昨夜お話しした時にでも言って下されば良かったですのに」

 

差し出されたアンティークドールを見て、相談を後回しにしたままキッチリ忘れていたことに思い至った。

 

「…そういえば、忘れてた。昨夜、あんまり楽しかったから」

 

「良いことですわね。最近気を張り詰めすぎですし。本当に、無理はしないで下さいませ」

 

「ありがとう。じゃぁ、ちょっと借りるね。トリックマスター、よろしくね」

 

≪I will do my best.≫【最善を尽くします】

 

頼もしい返事をくれるトリックマスターに、ハーベスターからメディカルスキャンのデータを転送して貰う。

 

「あ、でもトリックマスター借りちゃって、はやてさんの魔力譲渡は大丈夫? 」

 

「ご心配なく。今日はもう済ませておきましたわ」

 

手術の見学が禁止されたこともあるのだが、それ以前に今日は海鳴大学病院ではやてさんの検査があるらしい。折角なので、シャマルさん以外の守護騎士達と一緒に病院に付き合うことにしたのだそうだ。このためはやてさんは朝食抜きだそうだが、代わりにお昼はみんなで翠屋に行くのだとか。

 

「そっか。最近は小康状態が続いているんだよね」

 

「…可もなく不可もなく、といったところですわ。悪化していないことだけが救いですわね」

 

少なくとも、魔力譲渡を続けていることで症状が悪化していないのは安心材料だ。そんな話をしているうちにハーベスターとトリックマスターからデータ転送が完了したとの連絡を受けた。時刻は8時30分。

 

「では、わたくしはそろそろ参りますわね。ヴァニラさんも手術、頑張って下さいませ」

 

「うん、ありがとう。じゃぁまた後で」

 

ミントさんと別れると私も食器を片づけ、借りたトリックマスターを抱えてブリーフィングルームに向かった。

 

 

 

「じゃぁ、基本的な担当は変更なしでいいな。プロセスはシャマルが魔法で模造レリックを抽出して、プレシア女史が封印。ヴァニラがスキャンデータを基に封印後の治療を行うというところか」

 

クロノさんが手順を再確認していくのを聞きながら、ハーベスターとトリックマスターにメディカルスキャンの指示を出す。クラールヴィントからの情報は先程からシャマルさん経由で提供されている。カンファレンスで議題に上がった問題点はただ1つ。「旅の鏡」で体外に抽出された模造レリックを、そのまま封印することが出来るかどうかという点だった。

 

前例がないため、兎に角やってみなくては出来るかどうかも判らない。まずは試してみて、爆発の兆候が出た時点で前回同様艦外に転移させることになった。

 

「では、摘出を開始します…」

 

シャマルさんがそう言うと、右手の人差し指と薬指にはめられた2つの指輪から宝石部分が分離して魔力の紐を伸ばしていく。紐がお互いに絡み合い、直径1メートル程の円盤が形成された。その円盤にシャマルさんがすっと左手を差し込むと、同時に全身麻酔をかけられて眠っている男の胸からシャマルさんの左手が現れた。そこには確りと模造レリックが握られている。

 

「模造レリック内の魔力反応に変化はありません。安定状態です」

 

モニターしてくれている医療チーム担当者がそう言うと、プレシアさんがデバイスを封印モードに変換した。

 

「前回計測した限りでは、魔力反応に異常が発生してから爆発までは5秒程でした。気を付けて下さい」

 

「ありがとう。5秒ならコーティングまで完了しても、2秒近い余裕があるわ。大丈夫よ」

 

一度目を閉じて深く息を吐くと、プレシアさんが封印術式を展開した。途端に模造レリックの魔力反応が増加する。

 

「魔力反応の異常検知! 爆発まであと4秒! 」

 

「大丈夫、行けるわ! 」

 

プレシアさんがそう言うのと同時に、紫色の魔力光が封印術式に捕らわれた模造レリックを拘束するかのように包み込んだ。それと同時に暴走は止まり、レリックはまるで切り落とされたかのようにその場に落下した。これで最初の懸念点はクリアしたことになる。

 

「ヴァニラちゃん! 」

 

「はい! リジェネレーション! 」

 

ここからが私の仕事だ。ハーベスター、トリックマスター、クラールヴィントから送られてくるスキャンデータに集中する。下行大動脈に損傷はなく、いくつかの血管や神経に断絶が見られるものの出血量は然程多くない。むしろ前日の施術よりも難易度は低いくらいなのだが、油断はできない。落ち着いて術式を制御し、再生した血管や神経の結合を進めていく。

 

やがて全ての治療が完了し、術式を解除した私は大きく息を吐いた。

 

≪Good job, master.≫【お疲れさまです】

 

「ありがとう、ハーベスター」

 

労ってくれるハーベスターに笑顔を向ける。

 

「みんな、ご苦労だった。施術も無事成功したし、模造レリックのサンプルも入手出来た。本当にありがとう」

 

クロノさんがそう言うと、メディカルルームの空気が弛緩した。スタッフはみんな笑顔だ。施術に要した時間は僅か10分程度。でも集中していた所為か、随分と長い時間に感じられた。

 

「ハーベスター、一応術後の経過も見たいから各スキャンは暫く継続。データは蓄積しておいて」

 

≪All right.≫【了解】

 

≪Do you want me to save the data, as well? ≫【こちらもデータを蓄積した方が良いですか? 】

 

「トリックマスターは余裕があったらでいいよ。ミントさんの支援を優先させて」

 

≪Thank you. I appreciate.≫【お気遣いありがとうございます】

 

ハーベスターとトリックマスターに指示を出すと、シャマルさんが声をかけてきた。

 

「あ、ヴァニラちゃん。経過観察は昨日の人も含めて、取り敢えず1週間ほどお願い。クラールヴィントにもチェックして貰うけど、情報は多い方が良いから」

 

「はい、シャマル先生」

 

冗談めかしてそう言うと、シャマルさんも微笑んだ。

 

「さてと、残りの2人…普通なら今回の経過観察を実施した上で対応するのがいいんだけど…」

 

「後顧の憂いは早めに絶っておきたいわね。ヴァニラちゃんは大丈夫? 」

 

「特に問題ありません。大丈夫です」

 

実際体力的には全く問題は無かったし、すぐにでも次の手術に対応出来るような状態だった。念のため40分程の休憩を挟み、2回目の施術は11時から、3回目の施術は同じく12時から実施することになった。

 

そして結果として施術はその2回とも成功した。私達は3つの模造レリックをサンプルとして確保し、4人の男達をクロノさんが言うところの「証人」として拘留することが出来たのだ。

 

 

 

手術を全て終え、昼食を頂いた後で私はリンディ提督に呼び出された。半月ほど前に通された時と同じリンディ提督の私室には相変わらずの桜。

 

「いらっしゃい、ヴァニラさん。どうぞ、楽にしてね」

 

あの毛虫事件から1か月近くが経過し、私は漸く桜の木の下を普通に歩くことが出来るようになった。尤もまだ毛虫そのものには抵抗感があるし、思い出しただけでも足が竦みそうになるので、完治まではまだ暫くかかるのだろう。リンディ提督に促されて、それでも私は少し桜の木から距離を取った場所に座ることにした。

 

「今回は色々と手伝ってくれてありがとう。ヴァニラさんがいてくれて、本当に助かったわ。それから色々と引っ張りまわしてしまって、本当にごめんなさい」

 

私が腰を下ろすと、リンディ提督は深く頭を下げた。

 

「いえ…私も最初から協力するつもりでやっていましたから、お気になさらないで下さい」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいのだけれど、実際に私達が貴女にお願いしてきたことは、それだけではとても済まされないことばかりなのよ」

 

リンディ提督は顔を上げると私の顔をじっと見つめた。

 

「学校を休んで貰っていることもそうだし、何より本来なら貴女のような子供が担当するべきではないような手術まで手伝って貰ったわ」

 

「……」

 

「高レベルの治癒魔法を秘匿するように言っておきながら、自分達が必要な時にはお願いして行使して貰う…それがどれだけ身勝手でいい加減なことなのかも理解はしているつもりよ」

 

絞り出すように言うリンディ提督は本当につらそうな表情をしていた。私自身はあまり気にしていなかったのだが、確かに言われてみれば若干の矛盾があったのかもしれない。ただ、やっぱりそれで失われる筈の命を助けることが出来たのなら、その程度の矛盾は私にとって些細なことだったのだ。

 

「…私は、良かったと思っています。そのおかげで何人かの命を救うことが出来ましたから」

 

「ありがとう、ヴァニラさん。でも私達がこちらの都合で貴女を使ったことは事実です。そして私はそれを棚に上げて、貴女にまたお願いをしようとしているの」

 

リンディ提督はそこで言葉を切り、姿勢を正すと改めて私のことを見つめた。

 

「今回の模造レリック摘出手術は本局にも報告することになるわ。当然、『証人』である彼等自身も含めてね。つまり、本来であればアースラの施設では不可能なくらいの繊細な施術結果を公開するということなんだけど」

 

「……」

 

「これによって問題視されるものが2つあるの。1つはシャマルさんの『旅の鏡』。そしてもう1つが…」

 

「『リジェネレーション』、ですね」

 

リンディ提督はゆっくり、でも確りと頷いた。

 

「『旅の鏡』は元々失伝してしまった古代ベルカの術式だし、まだ何とか誤魔化しようがあるのよ。でも『リジェネレーション』は明らかにミッド式の術式で、見る人が見ればSSランク魔法であることもすぐに判ってしまう…以前、地球で義務教育を終えたら養女にならないか、という話をしたわよね? 」

 

「…はい」

 

「もうそんな悠長なことを言っていられなくなったの。勿論、貴女が地球に残って高町さんの家にお世話になるのは継続して構わないのだけど、法的な養子縁組は先にしておく必要があるわ」

 

「…え? 残ってもいいのですか? 」

 

リンディ提督の言葉には正直驚いた。実はリンディ提督に呼び出された時、このような話になることはある程度想定していたのだ。ただミッドチルダに戻るように言われた場合、なのはさんやはやてさんのことを放り出してしまうことになるので、出来る限りリンディ提督と相談して納得できる妥協点を見つけるつもりだった。

 

「この件にはグレアム提督も協力してくれているのよ。貴女は表向き、とある管理世界に留学していることになるわ。勿論、行先は公開されないけれどね」

 

リンディ提督の話を聞きながら、緩んでしまった気を一生懸命引き締める。まだこれから、姓に関するお願いをリンディ提督にしなければならない。日本の法律では養子縁組をした場合、子供は養い親の姓を名乗らなければならないことが明記されている。だが次元世界では旧姓を名乗ったり、ミドルネームを付与したりするのは割と一般的らしい。

 

「あの、リンディ提督。そのことで少し、お伺いしたいことがあります」

 

「ええ、いいわよ。何かしら? 」

 

「その…養子縁組をした場合の、姓の扱いについてなんですが」

 

私はリンディ提督に、両親との絆でもある姓を変更することに抵抗があること、そして姓が変わることによって自分が自分でなくなってしまうような不安を抱いていたことを正直に話した。リンディ提督はそんな私の話を最後まで聞いた後、少し考えるようにしていた。

 

「ヴァニラさんが不安に思う気持ちも判るわ。でも養子縁組をする以上、公文書に記載される姓はどうしても『ハラオウン』になってしまうの」

 

だけど、とリンディ提督は言葉を継ぎ、いくつかの書類を私に示した。

 

「勿論ミドルネームとしてH(アッシュ)を名乗ることは日本の法律と違って正式に認められているし、次元世界で日常生活を送るのにあたっては、それを姓として名乗っても全く問題はないのよ」

 

差し出された書類は養子縁組の必要書類で、後は私がサインをするだけの状態だった。そしてそこに記載されていた私の本名は「ヴァニラ・H」、そして戸籍名が「ヴァニラ・H・ハラオウン」となっていた。

 

「リンディ提督、これは? 」

 

「貴女がこのことについて悩んでいたのには気が付いていたの。ただ説明を後回しにしたことで貴女を余計不安にさせてしまったわね。本当にごめんなさい」

 

リンディ提督はそう謝ってくれたが、これは私の希望を十分に満たしてくれる結果だった。法的にはハラオウン家が後ろ盾になってくれて、公式な書類では「ヴァニラ・H・ハラオウン」という戸籍名を使用しながらも、普段は本名として「ヴァニラ・H(アッシュ)」を名乗ることができる。

 

「今は貴女を護ることが最優先だし、貴女自身も気持ちを整理する必要があるでしょうから、多分これが最善だと思うのよ。名前のことは置いておくとしても、これからは私達に貴女のことを…家族として護らせて貰えないかしら」

 

「はい…これだけで、もう一杯です。ありがとう、ございます」

 

この日、私は「ヴァニラ・H」の名前のまま、ハラオウン家の一員になることになった。

 




年始最初の投稿になります。。
みなさま、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。。
冬休みは実家で、同じく一時帰宅した母の介護をしつつ他の方の作品を読んだりゲームをしたりしていました。。
やっていたことは、何ら特別なこともない、普段の休日と同じでした。。

今年の目標は、早めに第4部に移行して、そのまま本編完結まで漕ぎ着けることです。。

そう言いながら、結局ぐだぐだと完結出来ないかもしれませんが。。
改めまして、引き続きよろしくお願いいたします。。
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