ヴァニラからの念話に一瞬思考が止まる。それから改めて男を見ると、確かにレスター・クールダラスに見えないこともなかった。
(…何でそんな中二病チックな容姿をしていますのっ!? )
思わず心の中でツッコミを入れてしまった俺は決して悪くないと思う。何しろ銀髪オッドアイである。銀髪だけなら次元世界では特段珍しい髪色ではないのだが、更にオッドアイとなると話が変わってくる。
ミッドチルダでオッドアイといえば、10人中9人は確実にベルカ王家をイメージするだろう。歴史資料だけでなく童話などに登場する聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトや覇王クラウス・イングヴァルトもオッドアイだったと伝えられているのだ。その所為もあるのだろうか、一瞬アースラのブリッジも静まり返った。
『管理局のL級艦船だな。面倒なことはしたくなかったが、折角つないだ通信だ。一応言っておいてやる。お前達が所持しているロストロギアをこちらに渡せ』
「っ…そう言われて、素直に譲るとでも思っているのかしら? 」
通信で送られてきた言葉に、咄嗟に再起動したらしいリンディさんが反応する。
「ジュエルシードはブラマンシュで管理しなければ暴走の危険がある代物ですわ。そちらこそ奪ったジュエルシードを返して頂きませんと」
本来なら状況的に口出しするべきではない場面ではあったが、動転していた所為か俺も思わずそう口走ってしまった。隣にいたユーノも頷いている。するとレスターと思われる男はせせら笑うように鼻を鳴らした。
『暴走の危険があるからこその使い道もあるのさ。渡すなら早くしろ。渡さないなら当初の予定通りここで沈んでもらうだけだ』
「…追い銭をくれてやるほど、時空管理局は甘くない。無駄な抵抗は止めて投降するんだ」
クロノの口上を、レスターらしき男は遮って言った。
『はっ! 無駄っていうならそっちこそ無駄な努力だろうぜ。交渉は決裂って訳だ。まぁ元々期待なんかしていなかったが、取り敢えずお別れだな』
通信はそのまま一方的に切断されてしまった。それと同時にアースラのアラートがけたたましく鳴り響く。
「スパード級駆逐艦、及びバーメル級巡洋艦から熱源反応! 魚雷と思われます! 続いてザーフ級戦艦から砲撃! 着弾まで約30秒! 」
「回避行動急げ! 艦長、念のためプロテクションの用意をお願いします」
「ええ、任されたわ。プレシアもお願いね」
アースラが回避行動に入ると、船体が大きく揺れた。
「ミント、危ないっ」
「ユーノさん…助かりましたわ」
転びそうになった俺の手をユーノが掴んで、近くの手摺に誘導してくれた。ユーノにお礼を言うと、更に近くで同じようにバランスを崩して尻餅をついてしまったなのはの手を取り、立ち上がらせる。
「にゃっ、ミントちゃん、ありがとう」
「いいえ。お怪我はありませんか? 」
「ううん、わたしは大丈夫だよ」
周りを見れば同様に守護騎士がはやてを、ヴァニラとリニスがアリシアを支えているようだった。更に続けて鈍い振動が伝わってくる。恐らく中距離魔力砲とCIWSが魚雷を迎撃しているのだろう。
「はやてさんとアリシアさんは念のためメディカルルームに避難した方が良いわね。誰か護衛を」
「私達が送ろう。騎士とはいえ艦隊戦では然程役に立てそうもないしな。ヴィータ、ザフィーラ、行くぞ」
リンディさんの言葉にはシグナムが答えた。第四種警戒態勢なのだから、そもそもアリシア達がブリッジにいることの方がおかしいのだが、今更それを言っても始まらないだろう。
「船体補修などが発生する可能性もある。シャマルは念のため残ってH(アッシュ)やブラマンシュ達をサポートしてくれ」
「ええ、判ったわ」
シャマル以外の守護騎士達がはやてとアリシアをつれてブリッジを出たのを見送った後、フェイトがクロノの隣に立った。
「逃げているだけじゃ倒せない。でも反撃するには兵装が圧倒的に足りない。短距離転送で武装隊を送り込んで制圧するのも、さっきみたいに自爆されると厄介。何かいい作戦はある? 」
「さすがに旗艦なら自爆はしないだろう。首謀者らしき男が乗っている様子だからな。何とか敵艦隊の砲撃、雷撃を躱して旗艦に取り付くんだ。そうすれば武装隊を転送させて制圧も可能だ」
クロノは顔を顰めながらそう答えた。言うほど簡単ではないことを確り理解しているのだろう。アルカンシェルでもあれば話は変わってくるのだろうが、生憎と現時点でアースラに搭載されていない兵装のことを言っても仕方がない。
「…確かに、出来る出来ないを論じても始まらないわね。今の状況ではそれをやるしか手立てはないわ」
「魚雷、第2波来ます! 続いて砲撃! 」
リンディさんとプレシアさんが魔力駆動炉にアクセスし、その膨大な魔力でアースラを護るようにプロテクションを張る。だがこれも全周囲をカバーするバリアのようなものではなく、砲撃に対する防壁のようなものを構築するのが限界だ。しかもプロテクションを張れるのは魔力駆動炉にアクセスできる2人だけ。少しでも気を抜けば、敵の攻撃が船体を直接襲うことになるだろう。
その負荷を多少なりとも緩和しているのが中距離魔力砲とCIWSだ。これらが魚雷の迎撃をしてくれるため、プロテクションは敵戦艦の砲撃に集中できる。
(とは言え、綱渡り状態であることに変わりありませんわね)
もっと敵艦に近付くことが出来れば、中距離魔力砲は迎撃だけでなく敵艦への攻撃にも使用出来るし、フライヤーやフォトン・ランサーのようなスフィアを媒介する魔法なら船外にスフィアを生成することでも攻撃が可能だ。
但し近づけば近づくほど魚雷の弾道予測も困難になるし、敵艦も弾幕を張ってくるため容易には接近出来ない状態だった。
「トリックマスター、今ここでフライヤーを船外に生成した場合の有効操作範囲はどのくらいですの? 」
≪It would be around 4 or 5 km. The individual firing range will be 2 km more or less. So the total firing range will be around 6 or 7 km.≫【4、5kmと言ったところでしょう。個別有効射程が凡そ2kmなので、合計射程は6、7kmになります】
改めてモニターを見ると、敵艦隊との距離は確実に数十kmはある。今ここでフライヤーを生成しても敵艦までは全く届かないため、精々魚雷迎撃の手を増やす程度でしかない。
「それでも、やらないよりはマシですわね! トリックマスター! 」
≪Sure. "Fliers" are invoked.≫【了解。『フライヤー』発動】
俺が船外にフライヤーを生成したのを見て、フェイトとリニスもフォトン・スフィアを複数生成した。フライヤーとは違ってスフィア自体の誘導制御はしていないので基本的には使い捨てなのだが、それでもいくつかの魚雷を撃ち落とすことに成功していた。
「みんなすごいね。わたしも何か出来ないかな…」
≪"Divine Shooter" will be able to attack the torpedoes, but control will be difficult since Arthra is now moving with top speed.≫【誘導弾であれば魚雷に対する攻撃も可能ですが、現在アースラは高速航行中ですので、制御が困難かと】
なのはが隣でエルシオールと会話しているのを聞きながら、俺はフライヤーを制御していた。俺もフェイトもこうした魔法の制御は学院で確りと習得しているためこの状況下でも何とか制御出来ているのだが、それでもギリギリなのだ。原作よりも長く魔法に馴染んでいるとはいえ、まだまだ初心者のなのはに追い抜かれては立つ瀬がない。
(むしろなのはさんの砲撃を使えたら、この上なく心強いのですが)
なのはのスターライト・ブレイカーならアルカンシェル程とは言わないまでも、恐らく駆逐艦程度であれば一撃で大破させるだけの破壊力があるだろう。ただスターライト・ブレイカーの射程はそれ程長くはなかった筈だ。以前確認した限りでは単体射程は精々4、5kmと言ったところだろう。それに仮に敵艦に近付いたとしても、さすがにエルシオールだけを船外に放り出す訳にもいかない。
(撃った砲撃だけを船外に転移させることが出来れば…)
残念ながら、そこまで都合の良い魔法を俺は知らなかった。軽く頭を振って、フライヤーの制御に集中する。と、不意に身体が青磁色の光に包まれ、それと同時に身体が軽くなった気がした。どうやらヴァニラとシャマルが手分けをして、魔法を行使している俺達のサポートをしているようだ。
「シャマルさん、ありがとうございます。助かりますわ」
「いいのよ。でも無理しすぎないでね」
丁度ヴァニラもプレシアさんとリンディさんを回復している様子だった。改めてフライヤーの制御に戻ろうとして、ふと青磁色の光を纏ったシャマルの指輪が目に留まった。
「ミントちゃん? どうかした? 」
「シャマルさん…いくつか、確認したいことがあるのですが、よろしいですか? 」
俺がシャマルに聞いたのは、『旅の鏡』をシャマル以外にも通り抜けが可能なのかどうかということ、『旅の鏡』の射程がどの程度なのかということ、そして『旅の鏡』の出口を次元空間内に設定することが可能なのかどうかということの3つだった。
『旅の鏡』は元々離れた場所にあるものを取り寄せる、いわば『アポート』を実施するためのゲートのようなものだ。術者の手を送り込んで対象を掴むという細かい作業を必要とする繊細な術式であり、それだけにちょっとした障害があるだけで上手く対象物を掴めなかったりすることもある。
だがこれが「物を掴む」という行為を伴わない、純粋に何かを送り込むというだけの所作だったらどうか。
これについては全く問題ないらしい。勿論制御自体はシャマルが行わなくてはならないのだが、実際に鏡面を通過するだけなら有機物・無機物を問わず、術者であるシャマルが許容したものであれば全て通り抜けが可能なようだ。
次に射程についてだが、これも全く問題なかった。基本的に空間を歪曲させてつなげるものなので、理論上射程は無制限になるとのことだったのだ。接続先の状況も一応鏡面が映像として映してくれるらしい。そして出口を次元空間内に設定するのも理論上は可能とのこと。
「ただ…あくまでも理論上、よ? そんな長距離での行使は初めてだから、成功するかどうかは保証できないわ」
「だがこのまま手を拱いているくらいなら、試せることは何でも試した方がいい。ですね? 艦長」
「そうね。やってみましょう。シャマルさん、お願いね」
こうして相談している間にも敵の攻撃は続いている。この砲撃と雷撃を何とかしない限り、敵旗艦に近付くのは困難だ。
「大丈夫、きっと上手く行くよ」
ユーノが軽く俺の手を握ると、そう言った。こちらも軽く頷き、微笑んで返す。
「ではシャマルさん、お願いしますわね。なのはさんはスタンバイを」
シャマルが頷き、そっと口づけをすると、クラールヴィントはリンゲフォルムという指輪状の形態からペンダルフォルムにその形状を変えた。振り子のような形状の宝石が魔力の紐を伸ばし、それが絡み合って青磁色の鏡面を生成する。
「なのはさん! 」
「オッケー! エルシオール、行くよっ! 」
既に砲撃モードで待機していたエルシオールの先端を突き刺すように『旅の鏡』に送り込み、なのははそのままチャージを開始した。
「さすがに集束出来る魔力残滓が少ないから、ここはスターライト・ブレイカーよりもディバイン・バスター・フルパワーだね。敵艦のスキャン完了。旗艦以外はやっぱり無人みたいだよ。なのはちゃん、バーンってやっちゃおう! 」
「ありがとう、エイミィさん! 行けっ、ディバイン・バスター・フルパワーっ!! 」
膨大な魔力がエルシオールを介して『旅の鏡』に流れ込んだ。次の瞬間、モニター上に表示された敵艦を表す光点の内、スパード級駆逐艦と記されたものが1つ暗転した。
「やった! 大成功だよ! スパード級駆逐艦、1隻沈黙! 」
エイミィさんの声と共に、ブリッジが歓声に包まれた。
=====
なのはさんが『旅の鏡』を介して砲撃を放ち、駆逐艦と巡洋艦を次々と攻撃していく。最初の1隻は当たり所が良かったのか一撃で沈黙させることに成功したが、2隻目、3隻目はさすがに沈黙させるまでに数発を要した。
とは言ってもミッド式魔法の花形とまで言われるだけあって見た目も派手だし、当たれば破壊力も抜群だ。無機物を次々と破壊していくこの魔法を見ていると、人体に当たっても物理的なダメージが無いということを俄かには信じられない。
(まぁ、バリアジャケットはぼろぼろになっちゃうんだろうけど)
そんな場違いな感想を抱きながら、なのはさんに『ディバイド・エナジー』をかけた。私が行使できる攻撃魔法はそれ程多くないし、最近使えるようになった『ディバイン・バスター』も威力でいうならなのはさんの半分以下だ。ならここは攻撃に参加するのではなく、みんなのサポートに回った方が効果的だろう。
「ありがとう、ヴァニラちゃん! 次、右側の戦艦を狙うね。シャマルさん、角度調整お願いします! 」
「判ったわ。…オッケー、行けるわよ」
なのはさんは同じようにして立て続けに砲撃を撃ち込むが、さすがに駆逐艦や巡洋艦とは違って防御力も高いようだ。なのはさんの表情も真剣だ。そんななのはさんの隣にミントさんが歩み寄り、声をかけた。
「なのはさん、少し失礼致しますわね。フライヤー、再展開! 行きますわよ、トリックマスター」
なのはさんがエルシオールを『旅の鏡』から引き出し、入れ替わるようにミントさんが生成したフライヤーを突入させた。
「なのはさんの砲撃と合わせた波状攻撃ですわ。『フライヤー・ダンス』っ! 」
『旅の鏡』の鏡面が補助的に映し出す映像の先で、敵戦艦が大きくダメージを受ける。
「今ですわ! なのはさん、とどめを! 」
「うん! いっくよ~」
≪"Divine Buster Full Power".≫【『ディバイン・バスター・フルパワー』】
なのはさんの砲撃が敵戦艦を貫き、モニター上の光点がまた1つ暗転した。
「全くミントもそうだが、なのはもとんでもないバカ魔力だな…」
「今更だよ、クロノ君。それに敵が無人艦なのは判ってるんだから何の問題もなし! 」
苦笑するクロノさんに、エイミィさんがサムズアップで答える。当初に比べると形勢が有利になってきていることもあってか、ブリッジの雰囲気も随分と明るくなっていた。
「よーし、後は巡洋艦1隻と戦艦が2隻だけだよ! 頑張ろう~」
「判った。次は私が。アルカス・クルタス・エイギアス…」
フェイトさんの詠唱と共に多数のスフィアが鏡面の先に展開される。38基のスフィアからそれぞれ30発近い射撃を行うことで短時間に合計1000発を超えるランサーを対象に叩きこむことが出来る、フェイトさんの強力な攻撃魔法の1つ『フォトン・ランサー・ファランクスシフト』だ。
「撃ち砕けっ! ファイアー! 」
敵戦艦は今の攻防で目に見えてダメージを受けていた。この1隻も、もう一押しで沈黙させることが出来るだろう。そう思った時、エイミィさんが少し緊迫した様子で声を上げた。
「ゼム級戦闘母艦から多数の反応! これは…えっ? これも艦なの!? 」
「どうしたエイミィ。報告は明確にしろ」
「敵、旗艦から多数の艦が発進してこちらに向かっているよ! 情報表示によると、名称はセラク級突撃艦! 」
「何だと!? 正確な数は? 」
「10時方向に5…、正面7…、ハイパー・エリア・サーチで合計12隻を確認! 武装はさっきの駆逐艦より少ないみたいだけど、随分小型で逆にスピードや旋回性能はこっちの方が上みたい」
「艦というよりむしろ戦闘機や機動兵器に近いのか…しかも数が多い。厄介だな」
クロノさんが一瞬考えるような素振りを見せた。モニター上に示された情報では小型艦のようではあるが、移動速度はかなり早いため、『旅の鏡』で予測進路を押さえたとしてもエンゲージまでに全ての艦を沈黙させるのは難しいと思われた。
「それでも…少しでも減らさないと! 」
なのはさんがエルシオールを構え、ミントさんがフライヤーを待機させる。
「僕は防御に回るよ。艦長達のように魔力駆動炉から魔力供給を受けることは出来ないけれど、レイジングハートのサポートがあればかなりの強度のプロテクションやシールドを張れるし」
「すまない。助かる」
ユーノさんはクロノさんに断りを入れると、リンディ提督とプレシアさんのところで防御魔法の準備を始めた。その様子を見て、私も自分が出来ることを考える。適材適所ということなら私が担当すべきなのは矢張り、万が一被弾した場合のダメージコントロールだろう。
「クロノさん、艦内でのトランスポーター使用許可を頂けますか? 」
「今か? 用途は? 」
「被弾した場合のダメージコントロールに向かいます。複数個所が被弾した場合、最短時間で移動したいので」
この場合のダメージコントロールには外壁修復によるアースラの航行機能維持だけでなく、火災などの被害拡大を抑えたり、万が一負傷者が出た場合の処置を行ったりすることなども含まれる。
「…判った。許可する。シャマルはブリッジに詰めて貰うからサポートには回せないが、現場の武装隊には連絡を入れておこう。ただ、くれぐれも無理はしないでくれよ」
「了解です。ありがとうございます」
私がクロノさんにお礼を言い、トランスポーターを発動しやすいようにブリッジの隅に移動すると、程なくしてアースラは敵突撃艦と交戦に入った。
エイミィさんの説明によると、突撃艦というのは本来は駆逐艦に分類されるもので、その中でも特に巡航速度が速く、敵に接近して近距離射撃を行う、所謂一撃離脱的な運用に適した艦船のことらしいのだが、今回の艦はクロノさんが言ったように艦というよりは戦闘機に近いらしい。
「…速度が速くたって…っ! 」
「ええ、近づいてくれるなら返り討ちですわっ! 」
フェイトさんとミントさんが『旅の鏡』を介さずに直接船外に設置したスフィアから攻撃魔法を放つ。アースラの中距離魔力砲も敵突撃艦に対して砲撃を繰り返しているのだが、相手の速度が速い所為かなかなか効果的なダメージを与えられていない様子だった。
「っ! ゴメンなさい、スターボード側、防御が間に合わないわ! 」
リンディ提督が声を上げるのと同時に大きな振動が襲い、アラートが鳴り響いた。
「スターボード、C38ブロック被弾! 」
「! クロノさん、行ってきます! 」
私はそう叫ぶと、トランスポーターを発動させた。
現着すると外壁の傷はそこそこ大きい様子だったもののアースラ内部に到達するほどではなく、幸い負傷者はいなかった。安堵の息を漏らすと、私は武装隊の人に声をかけた。
「修復を手伝います。スペースはありますか? 」
「すまない、助かる。C37から内壁を通して魔力が流せる筈だ」
指示に従って外壁の修復にあたる。現時点では然程大きな損傷ではないが、ダメージを抱えたままでは蟻の一穴ということにもなりかねない。
次元空間は宇宙空間とは違って真空ではなく、仮に穴が開いたところで空気ごと外に吸い出されると言ったことは無いのだが、人間が普段呼吸している大気とは成分が異なるため、生身で外に出れば当然呼吸は出来ない。外壁に穴が開いた場合は、今回のようにブロックごとで遮断して、隣のブロックから魔力を送るのだ。今回は内部にまでダメージは及んでいないものの傷自体はそれなりに大きかったため、万全を期したらしい。
修復自体は数十秒程度で完了したが、息をつく暇も無く次の振動を感じた。
「ありがとう、こっちはもう大丈夫だ。次はポート側、A12ブロックだそうだ。急かして済まないが、よろしく頼む」
「了解です。行ってきます」
即座にトランスポーターを起動して次の現場に向かう。現着した私の目に最初に飛び込んできたのは、血に塗れた人だった。思わず息を飲む。
「大丈夫ですか!? 今、治療を…」
「あぁ、いや、少し出血が多いだけで、傷はそんなに酷くないんだ。それより外壁の穴を塞いでくれ」
そうは言われたものの出血が気になったのでまずは簡易スキャンをかける。確かに動脈などが傷ついている訳でもなく、傷としては然程酷いものではなさそうだったため、ホッと息をついて船体修復に向かうことにした。
「…ハーベスター、修理が終わったらすぐ治療に入れるように、モニターをお願い」
≪Sure. I will monitor him.≫【了解。モニターしておきます】
他の武装隊の人達と一緒に魔力を流して破損した壁を補修していく。修理が8割がた完了したところで、更に立て続けに複数回の振動を感じた。
「君のおかげでここの損傷は大分直せたし、もう俺達だけで大丈夫だ。他のところに回って貰ってもいいか? 」
「…判りました。ただ、先にそちらの方の治療を」
≪The vital condition is all right. This is minor injury.≫【症状は安定しています。軽症に分類されます】
ハーベスターの見立てに頷くと、私はヒールスフィアを生成した。翠色の魔力光が傷口を照らすと、目に見えて傷が塞がっていく。
「ありがとう。助かったよ」
「…血小板減少症というほどではないですが、血小板数が11万程度で平均数を若干下回っているようです。ウイルスなどの感染は無いようですし誤差の範囲内とは思いますが、あまりストレスなどを溜め込まないように注意して下さいね」
武装隊の人にそうアドバイスすると、私はブリッジからハーベスターに送られていた被弾箇所の状況を再確認した。治療している間にも被弾しているような振動が何度か伝わっていたが、中でも大きな被害を受けている場所が3カ所あったため、まずは移動しようとトランスポーターの準備を始めた。
と、その瞬間、再び大きな振動が船体を襲い、一際大きなアラートが鳴り響いた。改めてハーベスターが展開してくれたコンソールを見ると、被弾箇所が加速度的に増えていくのが判った。
「…いけない、このままじゃぁ…」
咄嗟にトランスポーターの転送先をメディカルルームに切り替え、転移を開始する。魔法陣から溢れる翠色の魔力光に包まれながら、私はそっと目を閉じた。
「ヴァニラちゃん!? どうしたの? 」
「いきなりやな。ビックリしたわ」
突然部屋に現れた私を見て、アリシアちゃんとはやてさんが驚いたような声を上げた。守護騎士達も呆然とした感じでこちらを見ている。
「ごめんね、みんな。ちょっとだけお邪魔するね。ハーベスター、被害状況を」
≪Sure. Here we go.≫【どうぞ】
ハーベスターが展開してくれたコンソール上で、被弾箇所を再確認する。中枢部分まではそれ程ダメージは来ていないが、外壁は既に無事なところを数えた方が早いくらいにダメージを受けていた。しかも現在進行形で被弾箇所が増えていく。迷っている暇は無かった。
「…行くよ、ハーベスター」
身体全体から膨大な量の魔力を放出し、その魔力が艦全体に行き渡るようにイメージする。対象は艦の外壁、それから怪我をしたアースラのクルー達。
(みんな纏めて、なおして…みせます! )
溢れ出る魔力を何とかコントロールしながら、室内を翠に染める魔力光の向こうで心配そうな顔をしてこちらを見ているアリシアちゃんとはやてさんに微笑みかける。
やがてコンソール上に表示された被弾箇所のダメージが次々と消えて行った。メディカルルームは外部からの攻撃に出来るだけ耐えられるように、艦の中枢に位置している。逆に言うと、艦全体に万遍なく魔力を行き渡らせようとするなら、ここ以上に適切な場所は無いのだ。
『ヴァニラか? 何があった? 』
殆どのダメージを回復させた時、ブリッジから通信が入ったので、艦全体の一斉修復を行ったことを伝えた。SSSを超える魔力すら行使、制御が可能なレアスキルを持っていてさえ、さすがに足元がふらつく。と、横からザフィーラさんがそっと支えてくれた。
『…無理はするなと伝えておいた筈だが』
「大丈夫です。ちょっと疲れただけです。それより状況はどうですか? 」
『…先程なのはが戦艦と巡洋艦を全て沈黙させた。フェイトとミントも、丁度10隻目の突撃艦を落としたところだ。残り2隻も時間の問題だろう。これからアースラは敵旗艦に対して接近、制圧戦を開始する』
大きく溜息を吐いた後、クロノさんは状況を説明してくれた。改めて気を引き締める。
「了解です。一度ブリッジに戻ります」
『ああ、それからヴァニラ』
ブリッジに向かうためにトランスポーターを起動させようとしていた私を呼び止めるように、クロノさんが声をかけてきた。
『ありがとう。君のおかげで負傷者も全員回復しているし、ほぼベストの状態で敵旗艦に向かうことが出来る。本当に、助かった』
「いえ…どういたしまして」
戦闘行動中ではあるが、優しく微笑むクロノさんに、こちらも笑顔を返す。
『あぁ、あとこの戦闘が終わったら…無理したことに対して艦長からお話しがあるそうだ』
この瞬間、クロノさんの笑顔を何故かとても恐ろしいものに感じてしまった。
やっぱりピンポイントバリアでは、多方向からの攻撃には対応し辛いと思うのです。。
「この戦闘が終わったら…」だけだと死亡フラグになりそうなのに、後半の文言と合わせると俄然生存フラグっぽく早変わりするのはなぜなのでしょう。。
最近ベランダ菜園を始めました。。日に日に大きくなっていくナスとか、収穫したピーマンで作った料理とかが、一杯一杯だった心を和ませてくれています。。
まだもうしばらくバタバタするでしょうし、次話の投稿日も未定ですが、引き続きよろしくお願いいたします。。