魔力駆動炉制圧部隊と別れた後、俺はユーノ、クロノと一緒にブリッジを目指した。
「くっ、またか! 」
クロノが放ったスティンガー・スナイプが複数の傀儡兵を纏めて射抜く。先ほどから傀儡兵だけでなく、テロリスト達もそれなりの数を無力化しているのだが、その割になかなか先に進めていないのが現状だった。
「全く、殆どの戦力は魔力駆動炉の防衛に充てられているんじゃなかったのか? 」
『傀儡兵だけで言うなら、魔力駆動炉周辺には軽ザ…その5倍の数がいるよ。ザ…フェイトちゃん達が交戦中! 』
アースラとの通信は何とか繋がってはいるが、かなりノイズが入る。
『あ、それからテロリストの首謀者ザ…けど、名前判ったよ! 艦長が調べてくれてザ…』
『ええ。本局のザ…ータベースで照合してザ…で99.98%一致したわ。第一級ザ…手配テロリストで名前はレスター。レスター・クールダラスよ』
途中で音声がリンディさんのものに代わる。本人は自己紹介などしてくれるようなタイプには見えなかったから、ここで名前が判ったのは非常に助かった。
『ザ…あと、注意して、クロノくん。彼の魔力ランクはオーバーSザ…ザザ……』
「エイミィ、どうした? エイミィ? 」
雑音が急激に酷くなったと思ったら、アースラとの交信が途切れてしまった。だが必要な情報は粗方聞けたようだ。
「…ジャミングか。それに…」
「ええ…この圧迫感。ブリッジ周辺はAMFが発動しているとみて間違いありませんわね」
過去に何度も経験したAMF…アンチ・マギリンク・フィールド。クロノやユーノ、俺のようなAランクを超える魔導師であればフィールド内でも魔法を行使することは出来るが、消耗度合いは通常の比ではない。
「でもここの傀儡兵って魔力駆動炉から直接動力を取っているんだよね? ならここから上層では傀儡兵の数は減るんじゃないかな? 」
「そうだな。だが質量兵器には引き続き警戒が必要だ。それにエイミィからの情報では首謀者の魔力ランクはオーバーSなんだろう? なのに態々AMFを使用している…」
「何か裏があるということですわね。警戒は怠らないように致しましょう」
俺はクロノにそう答えると、ジュエルシードを1つだけ取り出し、ポケットに忍ばせた。AMF影響下での戦闘は魔力の消耗が早い。テロリスト達の狙いがジュエルシードであるのは判ってはいるが、魔力の回復手段は用意しておくにこしたことはないだろう。ユーノもそれは理解しているようで今回は制止することなく、俺と目を合わせるとそっと頷いた。
ユーノの推測通りそれ以降は傀儡兵による待ち伏せはなく、更に数人のテロリスト達を無力化したところで質量兵器による襲撃も鳴りを潜め、俺たちは漸く最上階層へと辿り着いた。ドアはなく、戸口状になった入口を抜けると、ブリッジはアースラのものと同等のかなり広いスペースになっていた。ただアースラと違って、オペレーターらしき人は誰もいない。
「思ったより早かったな」
唯一、その場にいた男、レスターが声をかけてきた。銀色の長髪にオッドアイ。そして感じる魔力は事前にエイミィさんから言われていた通り、明らかにS以上はあるだろう。
「お前1人か? AMFを使っているくらいだから、部下に質量兵器を過剰装備させるくらいのことを想定していたんだが」
レスターはクロノの言葉を無視して、値踏みするような目つきで俺の方を見てきた。
「な…何ですの? 」
「ふん…『ミント・ブラマンシュ』か。まぁ、そっちの艦との通信で見たときに、来るだろうとは思っていたがな」
そう口にした言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がるような気がした。
「…どうして、ミントのことを知っているんだ? 」
「お前さんのことだって知っているさ。クロノ・ハラオウンに、そっちのはユーノ・スクライアだな」
間違いない。こいつは「ギャラクシーエンジェル」だけでなく、「リリカルなのは」も知っている。そう思った瞬間、冷や汗が流れた。ユーノやクロノがいる前で、余計なことを言われたくない気持ちもあった。
「こいつ…僕たちのことを…? 」
ユーノのつぶやきに、慌ててその場を誤魔化そうとした。
「わたくし達のことまで調べるだなんて、随分とマニアックなファンですのね」
「そういうお前も、俺のことは知っているんじゃないのか? 」
男は挑発するような目つきでこちらを見てくる。確かに髪の毛を短くして眼帯をつけたところを想像すれば、レスター・クールダラスに見えないこともないのだが、その性格や物言いは、ギャラクシーエンジェルに登場したレスターとはかけ離れていた。
「…あいにくですが、テロリストの知り合いはおりませんわね」
レスターモドキを睨みつけながら、そう返す。
「ですが、名前なら存じ上げておりますわよ」
そう言って、クロノに目配せする。軽く頷いて、クロノが続けた。
「第一級指名手配テロリスト…レスター・クールダラスだな」
レスターが目を細めて、薄く笑う。
「まぁ、管理局のデータベースにも載っている情報か。別に今更知られて困る情報じゃない」
そういうと、レスターの周りに複数の魔法陣が浮かび上がり、魔力の矢が放たれた。矢はユーノのプロテクションによって防がれるが、数発の矢を防いだだけで、防御適性が高いユーノのプロテクションに早くもひびが入った。AMF効果を考慮しても、相手の魔力の高さが伺える。
「腐ってもオーバーSということか。ミント、ユーノ、気を付けてくれ」
「言われなくても、わかっておりますわ」
レスターが再度魔力の矢を放ち、ユーノが再展開させたプロテクションでそれを防ぐ。だがAMF影響下では、これだけでも相当な負担がある筈だ。
「大丈夫! まだいけるよ」
こちらの心配を察したように、ユーノがそう言って微笑んだ。いずれにしても彼の負担を減らすためにはレスターを止めるしか方法はない。
「ミント、合わせられるか? 」
「もちろんですわっ」
6基のフライヤーを展開させると、クロノが放つスティンガー・スナイプに合わせて波状攻撃を行うが、レスターもプロテクションを展開し、あっさりとそれらの攻撃を防いだ。
「…それだけの力を持っていながら、何故テロリストなどに! 」
「さぁな。これから死ぬお前らが知ったところで、意味のないことさ」
レスターがそう言って軽く右手を振ると、それだけで軽く30を超えるスフィアが生成された。それらから魔力弾が一斉に降り注ぐ。高威力の直射弾だ。
「くっ…さすがに、ちょっとキツいかも」
プロテクションを複数展開し、何とか直射弾を凌いでくれているユーノは特にAMFの影響を受けていた。
「クロノさん、援護をお願いします」
「ああ、了解だ」
クロノがレスターに対してスティンガー・スナイプを発射し、気を引いてくれることで、多少直射弾の雨にばらつきが出る。その隙を突いて、俺はユーノの傍に駆け寄った。すかさずポケットのジュエルシードを握り、魔力を移譲する。
「ありがとう、ミント。もう大丈夫」
「あまり無理は…いえ、今は無理をしてでも、彼を止めるべきですわね」
確かにSランクオーバーというだけあって、レスターの攻撃は熾烈を極めた。魔力ランクだけではなく、魔導師ランク的にもかなりの実力だろう。だがこちらはチームである上、魔力の回復手段もある。早々遅れをとることはない。
「クロノさん! 」
こちらの声に頷いて返すクロノとスイッチし、こちらに向かってくる魔力弾をフライヤーで迎撃する。そしてその間を縫うように、クロノのスティンガー・スナイプがレスターに対して攻撃を仕掛けた。
「スナイプ・ショット! 」
クロノの詠唱に呼応するように、水色の魔弾が速度を上げた。レスターはそれを、身体を捻って躱す。
「くっ! 」
「わたくし達の連携を甘く見ないことですわ。例えオーバーSランクだったとしても、多勢に無勢ですわよ。大人しく投降することをお勧め致しますわ」
ほんの一瞬だけ、レスターが苛立つような表情を浮かべたような気がした。だがすぐに先ほどと同じ、嫌な笑みを浮かべる。
「この程度で勝ったつもりになるなよ。もうじきこちらのロストロギアが暴走状態になる。この一帯が次元断層に飲み込まれるのも時間の問題だ」
「次元断層だって!? 馬鹿な、それがどういうことなのか、判って言っているのか? 」
「はははっ、当たり前だ! つまりは、みんな死んじまうってことさ」
「! …そんなこと、させませんわよっ! 」
即座にフライヤーを回り込ませて攻撃を開始する。レスターはプロテクションを展開したが、すかさずクロノが放った光の魔弾が高速でプロテクションを貫き、レスターの肩を掠めた。
「ぐっ、調子に乗りやがって…だがもういい塩梅だ。お別れの時間だよ」
そういうと、レスターはリモコンのようなものを取り出し、そのスイッチを押した。途端に今までずっと感じていたAMFの圧迫感が霧散した。そしてそれと同時に、ここ数週間でずいぶんと慣れてしまった感覚が全身を襲った。
どくんっ!
それはレスターが立っているあたりから特に強烈に感じられたが、それと同時に俺のポケットの中のジュエルシードも反応を示した。
「そうか…AMFを使って急激な負荷をかけたんだ! 急激に活性化した魔力と魔力残滓の影響でジュエルシードの発動を加速させた…」
「まずいぞ! このままだと本当にこの一帯が次元震に見舞われることになる! 」
ユーノとクロノが焦ったような声を上げるが、俺は逆に落ち着いていた。それは、ポケットの中で共鳴を始めたジュエルシードの反応が、暴走するときのものとは違うように感じたからだった。そして、その共鳴がむしろ他のジュエルシードの暴走に歯止めをかけている、そんな気がした。
「何故だ!? これだけの魔力があれば、エネルギーの放出はもっと膨大な筈だ! 」
俺の感覚を裏付けるように、レスター自身も焦ったような声を上げる。その瞬間、俺は先日海鳴温泉郷でジュエルシードを封印した時のことを思い出した。
『…恐れる必要はありませんわ。わたくしがちゃんとブラマンシュに送り届けて差し上げますから』
あの時感じた確信のようなもの、それが今回もあった。ブラマンシュである俺だからこそ、ジュエルシードの暴走は止められる。俺はゆっくりとレスターの方に歩を進めた。
(全く…もっと早くに気付いていれば、ヴァニラさんにあんな大怪我をさせなくても済んだでしょうに)
海鳴の繁華街で、俺は銃の男に対応するためジュエルシードの対応をヴァニラとなのはに任せてしまっていた。その結果が、現実世界にまで影響を及ぼした小規模次元震とヴァニラの両手の怪我だ。あの時俺がジュエルシードの対応をしていれば、その場で暴走を止めることが出来た筈だ。だが直ぐに軽く頭を振ってその考えを払う。今更、済んでしまったことを悔やんでも仕方ない。目の前に暴走しかけたジュエルシードがあるのだ。今はこれを止めることだけに集中していればいい。
「てっ、てめぇ! 」
近づく俺に気付いたレスターが即座に魔力スフィアを展開する。だが、遅い。既に俺は錫杖形態のトリックマスターがレスターに届く位置にいたのだ。スフィアから魔力弾が発射される寸前、トリックマスターの杖底がレスターの顎を捉えた。
「がっ…! 」
その流れのままトリックマスターを回転させ、レスターの足を払う。ベルカ式棒術ではかなり基本的な型だが、これが見事に決まってレスターは転倒した。立ち上がろうとするレスターの眼前にトリックマスターを突きつける。
「ブラマンシュのジュエルシード…返して頂きますわよ」
ジュエルシードの暴走は既に収まりつつあったが、手をかざすとレスターの懐に、確かにその存在を感じ取ることが出来た。
「…急に見知らぬ土地に連れて来られて、貴方達も怖かったのでしょう。ですが、もう安心ですわよ。わたくしと一緒に、ブラマンシュに帰りましょう」
まるでその言葉に反応したかのように、4つのジュエルシードがレスターの懐から俺の目の前に浮かび上がって来た。それらをトリックマスターが格納していく。
≪Perfect, master. Sealing, and internalize number 4, 6, 7 and 13. Total 21 Jewel Seeds have been completed.≫【完璧です。4番、6番、7番、13番の封印、格納。これで21個全て揃いました】
「ありがとうございます、トリックマスター」
レスターから目を離さないままトリックマスターにお礼を言う。
「…何故だ。何故暴走が止まった。計算上では次元断層発生に十分なエネルギー量を放出させるだけの魔力があった筈だ」
「それは、わたくしがブラマンシュだからですわ」
今なら、判る。ブラマンシュの魔素に適合するように設定されたジュエルシードは、ブラマンシュ以外の場所に持ち出すと暴走の危険があるということだった。だがブラマンシュの魔素に馴染んだ人間が近くにいれば、それだけで暴走の確率は格段に減るのだろう。
「確かにジュエルシードには願望機としての側面もあるけれど、今のミントの話からすると、きっと数十人のテロリストが破滅を望んでも、ミント1人が平穏を望めば、そっちが優先されるんだろうね」
「そんな話は聞いていないんだが」
「仕方ありませんわ。わたくしだって、つい先ほどまでは気付いておりませんでしたのよ」
隣にやってきたユーノとクロノにそう答えると、急にレスターが笑い始めた。
「はははっ、とんだ道化じゃないか! せっかくこの世界をぶち壊せるロストロギアを手に入れたと思ったのによ」
「世界を壊すだって? そんなことをする理由も意味もないと思うんだが」
「理由ならあるさ! この世界がふざけた物語だからだ! 」
「…は? 」
一瞬、言葉に詰まった。まさかそんな下らない理由がレスターの口から発せられるとは思っていなかったからだ。
「お前だって判っているんだろう? 俺たちだってキャラクターだ。こんな悪趣味でふざけた世界は全部ぶっ壊してやろうと思わないか!? 」
レスターは自分が「ギャラクシーエンジェル」の登場人物であることも、「リリカルなのは」の世界に転生したことも、全て不服としている様子だったが、それは明らかに自分勝手な思い込みだ。そんな思い込みに巻き込んで欲しくないというのが正直な感想だった。腹が立った俺は、ヒステリックに叫ぶレスターの顔のすぐ脇をフライヤーで撃ち抜いた。
「ふざけているのは貴方の頭の中ですわ! 何が物語ですの!? たまたまご自分が知っている物語と登場人物が同じというだけで、この世界で生きている全ての人達を否定させませんわよ! 」
一瞬、レスターがたじろいだように見えた。
「第一、貴方がご存知の物語とやらに、貴方自身は登場しておりますの? ストーリーは同じものですの!? 」
「黙れ! こんな筈じゃなかったんだ! 」
「ええ。世界はいつだってこんな筈じゃなかったことで満ち溢れていますわ。そうですわね? クロノさん」
そう言って、クロノの方を見た。深く考えずに捲し立ててしまったが、いろいろ言ってはいけないことを口走ってしまった気がする。だがクロノはさして気に留めた様子もなく、こちらに頷いて返してきた。
「ミントの言う通りだよ。ずっと昔から…いつだって、誰だってそうだ。その現実から逃げても、立ち向かっても、それは個人の自由だ。だが自分の勝手な思い込みに、無関係な人間を巻き込んでいい権利など、どこの誰にもありはしない! 」
「だったらさっさと俺を殺せばいい。この世界を壊せなかったのは心残りだが、そうすれば俺はまた別の世界でそっちの世界を破壊できる」
「…何を言っているんだ? 」
少し戸惑うような表情を見せるクロノに、それ以上の話を聞かないよう警告しようとしたのだが、一瞬遅かった。
「俺は死んでも次がある。何度でも転生するのさ。今までもそうしてきたし、これからも同じだ。俺は転生者だからな」
以前、ユーノが呪いを受けた時と比べると、多少落ち着いていられた。実際に呪いが発動するまでにある程度時間がかかることは判っていたし、解呪の実績もあったためだ。
「その呪いは、わたくし達には通用しませんわよ」
「ハッタリだな。転生していないクロノ・ハラオウンに、この呪いを避ける手段などある筈がない」
俺はレスターから視線を外さないまま、嘗てユーノに伝えたように、視界内にトラックのようなものが見えた場合は全力で回避するよう、クロノに念話を送った。
<…つまり、さっきのが死の呪いを発動させるキーワードだった訳か。僕も死の呪いにかかったという訳だ>
<ええ…ですが、クロノさんを死なせたりはしませんわよ>
クロノは少し微笑んだ後、レスターに向き直った。
「さっき『殺せ』と言っていたが、生憎と時空管理局の法には死刑制度は無い。お前の身柄は拘束されて本局へ送られることになる」
「ならまだこの世界を破壊するチャンスはあるな。クロノ・ハラオウン、お前が死んだ後にでも脱出して、別のロストロギアでも探せばいいことだからなっ」
そう言った途端、レスターの魔力が大きく膨れ上がった。先ほど以上の数のスフィアが生成され、無数の直射弾が発射される。
「! まずいっ、プロテクションが! 」
ひっきりなしに降り注ぐ魔力弾によって、ユーノのプロテクションには無数のヒビが入っていた。
「トリックマスター! 」
≪“Pulsation Buster”.≫【『パルセーション・バスター』】
俺は咄嗟に高機動飛翔を使って間合いを取ると、レスターに対して砲撃を撃った。だが、これは悪手だった。レスターはプロテクションを高強度のプロテクションを複数展開してパルセーション・バスターを防ぐと、直射弾の中に紛れ込ませていたらしい誘導弾を俺に殺到させたのだ。
「くっ! フライヤーっ! 」
ローリングしながら回避し、フライヤーで次々と誘導弾を撃ち落していくが、撃ちもらした1発の誘導弾が俺の右足に直撃した。
「く、あぁっ!! 」
右足に激痛が走る。姿勢制御が出来なくなり、着地して動きを止めてしまった俺に再び魔力弾が襲い掛かるが、それはユーノがプロテクションを生成して防いでくれた。右足を見ると、バリアジャケットのタイツ部分がかなり大きく裂けて傷口が開いており、出血も酷い。
「ミント、無茶しすぎだよ。待って、すぐ治癒魔法を…」
「いえ、そんな時間はありませんわ。次が来ますわよ! 」
ユーノが即座にプロテクションを再展開するが弾幕も激しく、防御以外には手が回らない。とりあえず自分自身で簡単な治癒魔法をかけて止血はしたものの、高威力の魔力弾を殺傷設定で受けてしまった右足はしばらく動きそうに無かった。
「ごめん…僕が守らなくちゃいけなかったのに…それに僕の治癒魔法でも回復度合いはあまり大差ないと思う」
ユーノが悔しそうにそういうが、本来治癒魔法とは対象者の代謝機能を高めて自己治癒を促進させるもので、即座に回復が見込めるものではない。ヴァニラやシャマルが規格外なだけなのだ。
「とりあえずこの戦いが終わったら、ヴァニラさんに治して頂きますわ。それまで、負けるわけには参りませんわね」
痛みを堪えてユーノに微笑を返す。高機動飛翔で空中を移動すれば痛みは多少軽減されるだろうが、集中しにくい上に姿勢制御もままならず、機動力は無いに等しい。それならいっそ、ユーノに守ってもらいながらフライヤーの操作に専念した方がいいだろう。
6基のフライヤーを再展開したところで、艦の駆動音が停止した。フェイト達が魔力駆動炉の停止に成功したのだ。まもなくこちらに援護に来てくれるだろう。そう思うだけで、ずいぶんと気が楽になった。
「チッ、もうやられちまったのか。なら下半分はパージするか」
レスターが目の前にコンソールを表示させ、操作をすると艦が一瞬、大きく揺れた。バランスを崩し、右足にまた激痛が走る。思わず蹲りそうになるのを必死に耐えた。
「駆動炉部分にはまだ仲間がいただろう!? その状況で切り離したというのか!? 」
「管理局に捕まっていなければ、とっくに逃げているだろうさ。それよりも自分の心配をしたらどうだ」
レスターが再度魔力弾を撃つが、クロノも誘導弾を巧みに操り、次々と魔力弾を撃ち落していく。俺も何とかフライヤーを回り込ませてクロノの援護をしていたのだが、その攻防を何度か繰り返したところで、俺は視界の隅にあの禍々しい亡霊の群れのようなモノを捕らえた。
「ミントっ、あれ! 」
「ええ、判っておりますわ! 」
いつでもクロノと亡霊の間に割り込めるように体勢を整えようとして、俺は愕然とした。レスターとの魔法戦闘で高速移動を繰り返すクロノの座標が絞り辛く、更に今の俺の右足ではまともな機動は期待できないのだ。
「…申し訳ありませんがクロノさんにはギリギリまで回避して頂いて、タイミングを見計らってブリッツ・アクションで割り込みをかけましょう。トリックマスター、サポートお願いしますわね」
≪Sure. I will do my best.≫【了解。最善を尽くします。】
<クロノさん、大変だとは思いますが…>
<ああ、状況はわかっている。了解した。何とか逃げ切ってみせるよ>
クロノにも念話を飛ばして状況を共有し、チャンスを待つ。やがてクロノが亡霊を挟んで俺と対極の位置に到達した。ブリッツ・アクションで直線的に飛べばいい位置で、負荷も少なめだろう。この機会に賭けるしかなかった。
「今ですわ! 」
≪"Blitz Action".≫【『ブリッツ・アクション』】
短距離とはいえ、超高速での移動は当然足にも負荷がかかる。それを計算したつもりだったのだが、激痛は予想を超えていた。移動の瞬間に大きくバランスを崩した俺は、トリックマスターのサポートを駆使したにも関わらず、亡霊の軌道からわずかにずれた場所にいた。
「クロノさんっ!! 」
思い切り手を伸ばしたが、届かない。亡霊がクロノに突っ込んでいくのがスローモーションのように感じられた。
<大丈夫>
どこからか、そんな声が聞こえたような気がした。次の瞬間、亡霊は掻き消えるように消滅し、キラキラと輝く光だけが残された。その光の中央に、少女の姿があった。それがヴァニラだと気付いた瞬間、その光が一斉にレスターに向かって移動し、そのまま弾けるように消えた。
「ミント、大丈夫? 」
崩れ落ちるように倒れるレスターを呆然と見ていた俺に、フェイトが声をかけてきた。
「あ…フェイトさん…? 」
「うわっ、ひどい怪我! ヴァニラちゃーん、お願いできるかな? 」
フェイトの後ろから覗き込むようになのはが顔を出し、ヴァニラを呼んだ。翠色の風が流れたような気がした瞬間、痛みが嘘のように引いていく。
「うん、これで大丈夫。血の跡は、後でお風呂で流してね」
「あっ、ありがとうございます」
微笑むヴァニラに慌ててお礼を言うと、改めてレスターの方に視線を向ける。ちょうど意識を失ったと思われるレスターを、守護騎士達とクロノが拘束しているところだった。
「遅くなってごめん。急に魔力駆動炉部分がパージされたから直接移動が出来なくて、一旦拘束したテロリスト達をトランスポーターでアースラに移動させていたんだ」
フェイトの説明を聞きながら、徐々に戦いが終わった実感が湧いてきた。テロリストは全員拘束した。ジュエルシードは全部回収出来た。レスターの呪いも、ヴァニラのおかげで恐らく解呪出来ている筈だ。俺は感極まって、思わずフェイトに抱きついた。
「ミっ、ミント? どうしたの? 」
「やりました! やりましたわ! ついにジュエルシードが21個全部揃いましたの! 」
「よかったね、ミントちゃん! おめでとう! 」
なのはが声をかけてくれると、フェイトがやさしく俺の髪を撫でてくれる。ふと見ると、ヴァニラも、ユーノも、みんな笑顔だった。改めて1つの山を越えたんだ、と思った。
「お祝いムードのところ悪いんだが、続きはアースラに戻ってからにしてくれないか? ジャミングを発生させていた装置を破壊してアースラと連絡が取れるようになったのはいいんだが、どうやら魔力駆動炉を失った艦が漂流を始めているらしいんだ」
『今、アンカーを打ち込んだから暫くは大丈夫だと思うけど、首謀者の拘留もしないとだし、何より祝勝会もしないとだから、出来るだけ急いでね! 』
エイミィさんの声が通信機から聞こえる。俺たちは顔を見合わせると、誰からともなく笑い出した。
「そうだね、祝勝会は大事だよね、うん! 」
なのはが笑いながらそう言った。
「クロノさん、トランスポーターの使用許可を」
「ああ、許可する。みんなまとめて送り届けてくれ」
ヴァニラがトランスポーターを展開し、みんなが次々にアースラへ帰還していく。俺もトランスポーターに乗ろうとして、ふと後ろを振り返った。ブリッジ部分には魔力弾の真新しい傷痕がいくつも残されている。つい先ほどまでここで戦闘をしていたのに、何故かそれが随分と昔のことのように思えた。
「ミント、早くー」
「今、参りますわ」
ユーノに返事を返すと、俺もトランスポーターに飛び乗った。
1年半以上も放置してしまいました。。
言い訳は活動報告の方にしておりますので、ここではお詫びとお礼のみさせて頂きます。。
まずはお待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした。。
そして放置中にもかかわらず1000件を超えるお気に入りを頂き、本当にありがとうございます。。
プライベートはだいぶ落ち着いてきましたので、また少しずつ更新していけるよう頑張ります。。
引き続きよろしくお願いいたします。。