セカンド・モンスター 作:フランちゃんのヒールに頬刷りしたい
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ペンテル兄弟のうち、兄であるデムライト・ペンテルは魔術協会から渡された触媒を手に取り、その様子をまじまじと観察した。その触媒の大きさは、ペットボトル大ほどであり、乾燥しきった古木、あるいは人体の一部のような、正体は不明だが、どことなく不思議な印象を持つ物体であった。
弟は不安げな様子で兄に問いかけた。
「兄者よ、その触媒は如何なるものか? 私には、どのような英霊のものか分らぬのだが」
「それが私にもわからぬのだ」
とデムライト・ペンテルは答えた。彼は続けてこう言った。
「魔術協会は今回、突然発生した離反によほど慌てていたのか、これがどのような英霊の触媒かは分からないが、役には立つだろう。と言って渡してきたのだ。まあ、何かしらの英霊の触媒であるのは間違いないだろうし、今回の急な出来事ではこうした正体不明ではあるが、英霊の触媒を用意できただけでも上出来だろう。
何より、弟よ。お前が召喚するサーヴァントは、ライダー・アキレウスだ。かの大英雄ならば、たとえ私の召喚した英霊が弱くとも何とかなるだろう。それに、これだけではない。聞けば、アキレウスだけではなく、こちらのランサーは、インドの神話に登場する大英雄、カルナだそうだ。
それに対し、どうだ? あちら側は、勢力こそは多いがその力は微々たるものだ。時計塔から離反する前でもそうだったのだ。用意できる英霊の触媒など、この地で確実に召喚できる英霊を除けば、大したことのないものばかりだろう。
それに、私に与えられた
とデムライト・ペンテルは手に持っていた触媒を魔法陣の上に置き、数歩後ろに下がると、兄弟そろって呪文を口にした。その呪文は
──そして、呪文が終わった───……
「ご苦労様です。お二人とも」
とコトミネ・シロウは二人の肩を軽く手を置いたのち、近くにあるテーブルを示した。彼は笑顔で言った。
「聖杯大戦、ご苦労様でした。では、続きは私に任せて、あちらでお休みください。ほかの方々も、すでにお寛ぎになっています」
「おお、それはそれは。弟よ、行こうではないか」
「ああ、兄者。そうしよう」
とペンテル兄弟は、うつろな目、ふらふらとした足取りでそのテーブルへと向かっていった。テーブルには、ジーン・ラムやフィーンド・ヴォル・センベルン、ロットウェル・ベルジンスキーといったほかの赤のマスターたちも揃っていた。
彼らの全てがうつろな目をしていた。彼らはそれぞれが気ままに言葉を思い通りに発するだけの、決してかみ合うことのない会話を行っていた。彼ら兄弟も、意思を失った彼らの仲間入りを果たすのであった。
その様子をコトミネ・シロウは見届けると、ほかの部屋へと向かった。その部屋というのは、先ほど彼らペンテル兄弟が召喚した英霊達がいる部屋であった。
その部屋の中心には、二人の人影が立っていた。
そのうち片方は、赤色のマフラー、緑色の髪、鎧を纏った青年。ライダー・アキレウスであった。彼は頭を手のひらでガシガシと掻くと、隣にいる人物に言った。
「よう、お前も同じ陣営だろう? マスターの顔が見えないんだが、どう思うよ?」
「ギアァァアァ──」
もう一つの人影は、猫背気味の体制で、両腕をダラリと垂らしたまま、彼の言葉に答えるかのように声を発した。といっても、その声はほとんどうめき声、あるいは獣のうなり声に近いものであった。彼の背丈は成人男性ほどであり、薄い水色、あるいは青色の髪は顔を覆い隠すかのような状態で伸びており、頭の両側には金属製の、アンテナ、あるいは角のようなものが取り付けられていた。服装は、古びた印象の、黒色のタキシードを着ていた。
彼の声を聴いたアキレウスは言った。
「もしかして、バーサーカーか? ああ、なら話すことはできないのか?」
「ギゥアァァァァァ……」
とバーサーカーは再度彼の声にうなり声で答えた。ちょうどその時、彼らがいる部屋の扉が開いた。扉の向こうには、コトミネ・シロウが立っており、彼は彼らの姿を確認し、一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐさま笑顔となり、自己紹介と、彼らに説明を行うためにこの場から移動することを伝えた。
二騎のサーヴァントは彼の後についていった。
廊下を移動する際中、コトミネ・シロウは考え事をしていた。その内容は次のようなものであった。
(ライダーは予定通り、アキレウスを召喚できたようだ。だが、あのバーサーカーは何だ? ルーラーのスキルである真名看破によって英霊の名はすぐにわかるはずだ。だが、バーサーカーの真名は分からなかった。いや、スキルはしっかりと機能している。バーサーカーのスキルか宝具か何かによる阻害か?
いいや、そんな感覚はなかった。そう、この感覚は、そうだ。まるで初めから名前が無いかのような……無銘というべきなのだろう。つまり、あの英霊には初めから名前が無い。というほうが当てはまる。だが、そんな英霊は果たしているのか? どのような英霊なのだ?)
黒の陣営──
カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは用意された触媒を、箱の中から取り出し召喚をするために姉とともに玉座の間へと姉であるフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアとともに向かった。
彼が召喚する英霊は、フランケンシュタイン。とある科学者が狂気に囚われ創り出した、一体の怪物である。それを召喚するための触媒である、フランケンシュタインの設計図には「理想の人間」と書かれていた。
その設計図が仕舞われていた箱の中には、もう一枚の紙が入っていた。その紙は、茶色く変色しており、その表面は墨塗りによって真っ黒になっていた。その紙は、「理想の人間」と書かれていた紙の下にあったのだが、カウレスが設計図を取り出す時、その紙は箱の下に落ちて、取り残されることになったのだ。彼は、姉に急かされていたため、そのことに全く気が付くことがなく、その場から離れていった。
今やその墨の下には、どのようなことが書かれているのかを見ることはできないが、墨によって黒く塗りつぶされる前には、ヴィクター・フランケンシュタインが一枚目に書き出した設計図ときわめて似た内容のものが書かれていた。そして、その紙の下側にはこう書かれていた。
「怪物を殺すための怪物」と──
これはとある怪物の話だ。
その怪物に名前はなく、そして人に知られることもなく。生まれた直後に、ばらばらに解体され、海底へと沈められた怪物──名前は無いが、あえて名をつけるのならば、この名がふさわしいだろう。
すなわち、『フランケンシュタインの怪物の伴侶』という名が──
ヴィクター・フランケンシュタインは怪物を2体創り出した。
一体目の怪物は、小説ではヴィクター博士を恐怖させ、逃げ回る彼を追いかける恐るべき怪物として描写されていた。そう、2体目の怪物が創られるまでは。
というのも、一体目に創り出された怪物は、自らの孤独を埋め尽くすためには伴侶が必要だと判断し、ヴィクター・フランケンシュタインに伴侶となるべき、もう一体の人造人間を造らせようと迫るのであった。最初、彼はそれを断り続けたが、重なる怪物からの脅しにとうとう屈し、2体目の怪物を創り出した。
そして、いよいよ完成となるところで、彼はその怪物と、もう一体の怪物とが伴侶となり、その後、子を作り出し、新たなる怪物が生まれることを恐れ、その作り出した体をばらばらに解体し、厳重に封印を施し、海底へと捨てたのであった。
それを見ていた怪物は、怒りのままに震え、姿を消したという。
その怪物はただ一度も己の役目を果たすことなく、誕生する前にその生命をこの世から無くされ、永い間海底へと沈んでいた──しかし、運命の悪戯とでもいうべきなのか、その怪物は、一体の英霊として座に登録された。
そして、彼の体の一部は、大嵐によって丘へと打ち上げられ、あらゆる場所、あらゆる持ち主を転々とし、最終的には初めに書いたように、聖杯大戦で召喚する触媒として、デムライト・ペンテルの元に渡った。
そして、この聖杯大戦では、2体の怪物が召喚された──
怪物たちはまだ出会わない。
怪物たちはまだお互いのことを知らない。
これは二体の怪物による物語である──