セカンド・モンスター 作:フランちゃんのヒールに頬刷りしたい
赤の陣営──
シロウ・コトミネはバーサーカーの姿が見当たらなかったため、彼を探して最終的には、協会の礼拝堂へとたどり着いた。果たして、バーサーカーはその礼拝堂の隅に、シロウに背を向ける形で、地べたに座っていた。彼は何かを口に含んで、咀嚼している様子だった。
シロウ・コトミネが近づくと、その足音か、あるいは気配に反応したのか、バーサーカーは振り向いた。その時、シロウは初めて彼が口に含んでいるものの正体を見破った。それは壁の中に埋め込まれていた電気コートであった。もともとコンセントがあった場所は、粉々に砕かれており、そこから露出したコードを、バーサーカーは引っ張って、口に含んでいたのであった。
口の端からは、バチバチとわずかに電気が漏れ出ていた。
「電気を食べているのですか?」
「ギィウゥゥ」
シロウの問いかけに、バーサーカーは頷いた。
シロウは少しばかり困った顔を見せ、頭を掻いた。
「それは別に構わないのですが……コンセントを壊すのは困りものですね。ここのほかにも、何か所か壊れているところがありましたが、あなたが原因でしたか。バーサーカー、魔力は足りていますよね? せめて、これ以上コンセントを壊すのはやめていただけませんか?」
「ギィ?」
バーサーカーは「なんで?」とでも言いたげに首を傾げた。
「ははは! どうやら、彼にとって『電気を喰らうこと』は当然の行為であるようですな。そして、そのためならば、コンセントの六つや七つぐらい構わないだろう、と思っているというか、こう、食事をするためならば、狩りを行わなければならない、買い物にいかなくてはならない、というアレと同じなのでしょう。彼からすれば、そんな当然の行為を咎められる理由がわからないようですな」
「キャスター、いつの間に? 私はアサシンと共に待機するよう伝えてあったはずですが」
キャスター・シェイクスピアはシロウの背後で実体化を行い、バーサーカーの様子を眺めた。彼は笑みを浮かべながら続けた。
「あの女帝殿と二人っきりですと、いつか吾輩がこう、うっかり余計なことを口にしてしまい、彼女の逆鱗に触れてしまうのではないか、と思ったのと、ぶっちゃけ退屈でしたし、こちらのほうが面白そうだったので後をつけてきました」
「そうですか。まあ、良いでしょう。バーサーカー、いいですか? ほかのサーヴァントたちにはすでに説明しましたが、その際あなたはいなかったので、説明しますね。
昨晩、こちらの陣営のランサーと、あちらの陣営のセイバーとの戦闘がありました。結果は、どちらも大したダメージを負うことはなく、そのまま引き分けという形になりました。つまり、この二騎の戦いを合図に《聖杯大戦が始まった》》のです。
そして、引き続き第二戦ともなる戦いは、バーサーカー。あなたにも出てもらいます。あちら側は、時計塔から離反し、籠城している形になるのでなるべく体力や戦力は温存しておきたいところでしょう。つまり、このままじっとしていても、あちら側から仕掛けてくる可能性は低いと考えています。
なので、こちら側から一度攻めてみます。相手の戦力、つまりサーヴァントを一体でも脱落させることができたら御の字。そうでなくとも、どのようなサーヴァントが召喚され、どのような戦いをするのかを知ることができれば十分です。
そうそう、攻撃をするメンバーなのですが、あなたと、他にもライダーとアーチャーの二人で行います。バーサーカー、あなたの実力も見ておきたいので、宝具の使用も許可します。存分に暴れまわってください」
「ギィイイイイイィィイ!!」
シロウ・コトミネの言葉を聞き終えると、バーサーカーは立ち上がって咆哮した。それはまるで自分自身を鼓舞するかのような叫びだった。彼は勢いよく礼拝堂から走り去った。
残ったシロウとシェイクスピアはそれを見送ると、
「マスターも人が悪いですな」
「何のことでしょうか?」
「あのバーサーカーを捨て駒になさるつもりでしょう? 彼はバーサーカーの割には、ステータスは低い。その上、真名は無い正体が謎の英霊ときた! 敵の宝具やスキルを知るための材料でしかないのでしょう?」
「確かに、そういう意図もあります。ですが、バーサーカーの実力を見たいというのは本当のことですし、もしかしたら案外使えるかもしれませんよ?」
「『期待はあらゆる苦悩のもと』……マスターは本心で言っておられるようですな。実のところ、吾輩もアレには案外期待しているのですよ。物書きの題材としては結構面白そうな存在なのでね。では、我々はゆるりと観戦といきましょう」
──森の中
赤のバーサーカーを先頭にし、同じく赤のライダーとアーチャーたちは森の中を進んでいた。バーサーカーは地面を歩き、残りの彼らはバーサーカーからいくらか離れたところを、木々を飛び移って移動していた。
バーサーカーは最初、礼拝堂を飛び出したときと同じ勢いで、黒の陣営たちの本拠地である城塞へと向かっていたが、森の中に入るやいなやゆっくりと歩き始めたのだった。
「どうしたことかねえ」
とライダー・アキレウスはバーサーカーの様子を見ながら言った。
「バーサーカーのやつ、森の中に入るなり歩きを緩めたな。スタミナ切れか?」
「いいや、それは違うだろう」
とアーチャー・アタランテはバーサーカーを指さした。
彼は、まっすぐに歩いているが、時々歩く方向を少しだけ変えたり、歩幅を変えたり、ある時は足を必要以上に高く持ち上げていた。
「森の中には、たくさんの草花や昆虫がいる。バーサーカーめはそれら全てを踏まずとして、ゆっくり歩いているのだ」
「なるほどな。それはずいぶんと優しいこった。しかし、あのバーサーカーは何の英霊なのかねえ? シロウ・コトミネ曰く真名が存在しない無銘の英霊らしいが」
「さてな。だが、私としてはバーサーカーからは、鉄と油の酷い香りがするから、あまり近寄りたくはないな。
……しかし、アレはまるで幼子だ。森の中の動植物を傷つけようとしないこと、それどころか色の綺麗な蝶や花を見つけると、それに興味が注がれる。歩く姿も、まるで歩くことを覚えた赤子のように、どこかおぼつかない。サーヴァントならではの身体能力で何とかなっているようだがな」
「へえ、すると姐さんは何だ? あのバーサーカーは生まれたての子供と言いたいのか?」
「……ああ」
とアタランテは頷いた。
バーサーカーは突然、その歩みを止めた。
森の木々があまり生えていない、少しばかり開いた広場のようなところに、バーサーカーはいつの間にか出ていた。そして、その広場にはたくさんのホムンクルスやゴーレムたちが待ち構えていた。
彼らはバーサーカーが姿を現すなり、一斉にバーサーカーへと飛びかかってきた。バーサーカーは彼らを敵だと認めると、ひときわ大きな声で叫んだ。
「ギィゥウィァァァアアアアアアッッッ!!!」
その叫びは、聞くものの脳をつんざくかのような、悍ましい響きであった。実際、それを聞いたホムンクルスたちは皆、頭を抑えたり、耳をふさいだり、地面を転げまわったり、意識を失ったりして、その悍ましい叫び声によってしばらく苦しむと、絶命した。
この叫び声によって作り上げられた光景は、バーサーカーのスキル・『虚ろなる生者の嘆き』によるものであった。
しかし、聴覚や理性のないゴーレム達にはそのスキルの効き目がなかったため、バーサーカーを叩きのめそうとして進んできた。バーサーカーはそれを迎え撃とうとして、両こぶしを前に構えた。
「さあ、お手並み拝見といこうか」
とライダーは呟いた。
一体のゴーレムが、バーサーカーへとその拳を振り下ろした。彼よりも倍の巨大さを持つゴーレムの拳を、バーサーカーは迎え撃とうとして、その降りかかる拳めがけて己の拳を放った。
すると、バーサーカーはあっという間に力負けし、ゴーレムの拳によって地面に叩きつけられた。
「ってオイオイ、もうくたばっちまったのか? いくら何でも弱すぎやしないか?」
「ああ、聞いたステータスでは、あのようなゴーレムの一撃ぐらいならば簡単に跳ね返せるのだがな……?」
とライダーとアーチャーは戸惑ったかのように言った。
バーサーカーにさらなる攻撃を加えようとして、他のゴーレムたちがバーサーカーの元へと向かってきた。バーサーカーは、仰向けになりながらも、それらを見ていた。
彼は抵抗することなく、なすがままにされていた。──一体のゴーレムが、一つの花を踏み潰すまでは。
ゴーレムが花を踏み潰したのを見たバーサーカーは、怒りの叫び声をあげた。
「ギィアァァァアァァイィィアアアゥゥッッ──!!!」
バーサーカーは体を素早く起き上がらせ、もう一度叫んだ。
「ギィァアアアァァァィィィアィァアッッ!!」
彼の全身から、青色の光が放たれた。
その青色の光というのは、青色をした雷であった。雷は、バーサーカーを取り囲んでいたゴーレムたちに命中すると、ゴーレムはそのすさまじい熱量によって、その石や鉄などでできていた体をドロドロに溶かしてしまった。
ゴーレムたちは全滅した。
バーサーカーは、ゴーレムに踏み潰されて、ぺしゃんこになった花を一瞥した。その前髪によって隠された目からは、悲しそうな感情が読み取れた。彼は、黒の陣営の本拠地であるミレニア城へと向かって歩き始めた。
「なるほど、アレがバーサーカーの宝具か?」
「ああ、名を『
──アーチャーの言う通り、バーサーカーの宝具、『
──しかし、この宝具の真価はそこではない。雷撃を放つというのは、あくまでも真なる能力の副次効果に過ぎないのである。
……彼は、ヴィクター・フランケンシュタインが創り出した、第一の怪物を殺すがために創られた第二の怪物である。であるのならば、その
怪物たちはまだ出会わない。
怪物たちはまだお互いのことを知らない。
──だが、二人が出会うまであと僅か。