セカンド・モンスター 作:フランちゃんのヒールに頬刷りしたい
ところで、小説で一気に登場させて、その全員をマトモに描写することができる人数は、せいぜいが3人までって知っている?
赤のバーサーカーは森の中を進んでゆく。
彼の足取りはいつの間にか、森の中に入ったばかりの、のろのろとしたものと比べると、かなり早くなっていた。彼の心臓は、城に近づくにつれその鼓動の速度を速め、精神的にも気分が高揚し始めた。こうした感覚は、この世に生まれ出てから初めてのことであり、また、聖杯から与えられた知識にも、この興奮状態の原因は分からなかった。
しかし、バーサーカーは、城へと向かう。それはなぜか? ただ一つ。敵を殲滅するため。それが彼に与えられた役目なのだ。目の前に立ちはだかる敵をすべてなぎ倒せ、敵を──■■を倒せ、倒せ! あの恐ろしい■■を殺せ!
赤のバーサーカーはいつの間にか、「ギアアアァイイィィウウゥッツ!!!」と叫びながら走り出していた。
カウレスは、疾走する赤のバーサーカーの様子を、魔術的に映し出された映像で見ていた。
彼は、あの赤のバーサーカーに、どことなく
「一体、何者なんだ?」
とカウレスは呟く。
あのバーサーカーと戦うのは、黒のセイバー・ジークフリート。そして、もう一騎。そう、カウレスのサーヴァントである黒のバーサーカー・フランケンシュタインである。
カウレスは敵のバーサーカーのステータスを見て、呟く。
「ステータスは、こっちのバーサーカーと同等レベルだ。宝具にもよるけれど、黒のセイバーも一緒にいるんだ。バーサーカーが負ける可能性は低いだろう……頼んだぞ。バーサーカー」
赤のバーサーカーはその歩みを止めた。
なぜならば、彼の目の前に二つの人影が現れたからだ。彼らの姿は、木々の影によって隠されており、よくわからなかった。しかし、それはバーサーカーの前に立ちはだかる、黒の二騎も同じであった。赤のバーサーカーの姿もまた、同じように影になっていた。
キン、という音がした。それは、黒のセイバーがその漆黒の大剣を鞘から抜き放つ音だった。
ズン、という音がした。それは、黒のバーサーカーがメイスを構え、地面を踏みしめる音だった。
ギギ、という音がした。それは、赤のバーサーカーが拳を強く握りしめる音だった。
三騎はいつでも戦闘に移れる体制だった。
しかし、訪れたのはただただ、静寂のみであった。木々や草は夜風によって揺れ、どこともしれない場所から、虫や鳥の鳴き声が聞こえてきた──
月光が動いた。
月の位置が変化すれば、影の位置も変化する──黒のセイバーの姿が露わになった。黒のバーサーカーの姿が露わになった。そして、同じように赤のバーサーカーの姿が露わになった。
赤のバーサーカーは、黒のバーサーカーの姿を見るなり、漆黒の殺意に包まれた。……彼女のことなど、一切しらないはずなのに、なぜか、彼女を殺さなければならない、という激しい使命感に襲われたのだ。
彼の背後から、何者かが呟く。白衣を着た、男がバーサーカーに語り掛ける。
「殺せ! あの醜い怪物を殺せ! あの、花を美しいと思わず、犬の内臓を美しいと思う、狂った怪物を殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺すのだ! 殺せ! 殺せ! 四肢をずたずたに引き裂け! 内臓を磨り潰せ! 肉体はもちろん、魂すらもこの世に残すな! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! あの怪物を──
──ヴィクター・フランケンシュタインが創り出した二体目の怪物は、これまでに散々語った通り、一体目の怪物を殺すための怪物である。であれば、その一体目の怪物と出会ったのならば。こうなるのは必然といえるだろう。
赤のバーサーカーは黒のバーサーカー目掛けて、疾走を始めた。己が創られた意義がために。己に与えられた役目を果たすがために。
赤のバーサーカーの姿を認めた、黒のバーサーカーは激しく動揺した。
わたしは、あのバーサーカーのことを知っている──
どこかの、人里離れた海辺の家で彼を見たことがある。ヴィクター・フランケンシュタインが、人目から隠れて、あの体を造っていたのを見たことがある。完成するまであとどのくらいだろう? 彼が生まれたとき、わたしは何と声をかければよいのだろう? 彼の体が完成に近づくたび、そうした喜びの感情が大きくなっていったのを覚えている。
そして──ヴィクター・フランケンシュタインは、完成した我が花婿を海に捨てた。
……その時のことは、よく覚えていない。
けれども、きっとわたしはとても悲しんでいたのだろう。目の前で、わたしの花婿は産声を上げることすらもなく、目を開くことすらもなく、心の臓を動かすこともなく、無残に殺され、解体され、この世から消え去った。
ああ、きっと家族を失ったヴィクター・フランケンシュタインも、こんな気持ちだったのだろう。
我が伴侶をもう一度! 我が伴侶を、我が父の手によって、もう一度造ってもらおう! ──死んだ彼女にとって。ヴィクター・フランケンシュタインが死んだこの時代にとって。それは
ああ、ならば目の前にいるのは誰だ? 間違いない。間違いない! 見間違えるはずもない! 彼の体が造られてゆくのを、毎日見ていた! これは幻覚でも何でもない。ただ、奇跡が起こっただけだ。
黒のバーサーカーは。フランケンシュタインは。その内側からたくさんの喜びが湧きだした。
──我が伴侶! 彼は、一度は造られ、そして捨てられた我が夫だ──!
思わず、メイスを握る手の力が弱まり、メイスを地面に落としそうになってしまった。それほどに、彼女は動揺していた。
ギィン! という激しい金属音が、彼女のすぐ目の前で鳴った。何事かと顔を上げてみれば、そこには、黒のバーサーカーに襲いかかろうとして、黒のセイバーの剣によって阻止された赤のバーサーカーがいた。
彼の目は、薄暗い殺意に包まれており、目の前にいる彼女を敵、あるいはそれ以上の、排除すべき存在としか見ていなかった。彼の咆哮から、わずかに漏れ出る言葉は──「ころす……」
黒のバーサーカーは、狂化している割にはしっかりとした意思を持っているし、思考もできる。というよりは、こういうべきなのだろう。つまり、彼女は聡明なのである。
だからこそ、彼女は理解した。赤のバーサーカーのことを。二体目の怪物に与えられた役割を。
一体目の怪物は、神の御業を再現するがために。そして、二体目の怪物はラッパだ。神々が創り出した世界を滅ぼすために使われる合図だ。──創り出した
つまるところ……
「ナアアァァァオオオォォォ────ォ!!」
黒のバーサーカーは叫んだ。その叫びは、一体どのような感情によるものか。果たして怒りか、あるいは慟哭か。ともかく、先ほどまで彼女を満たしていた幸福の感情は、別の感情へと変化した。
黒のバーサーカーは、メイスを握り直し、赤のバーサーカーへと目掛けて走り出した。
黒のセイバーは、赤のバーサーカーの体を剣で吹き飛ばし、追撃を行おうとした。その瞬間、森の木々の奥から、もう一体の赤のサーヴァントが、すさまじい速度で黒のセイバーに肉薄した。赤のサーヴァント・ライダーは槍を振るい、黒のセイバーは剣で防御を行った。
赤のライダーは、槍を手の中で一回転させると、口の端を釣り上げていった。
「よう、お前は黒のセイバーだろう。いけないな、その仏頂面はよ。せめて笑っておけ。散りざまは陽気がいいというだろう?」
「……」
黒のセイバーは口を開かない。なぜならば、彼はマスターの命によって、マスターの許可なしに話すことを禁じられているからだ。それほどに、彼の真名が見破られることは致命なのだ。
ジークフリート。それが黒のセイバーの真名。その弱点は、悪竜を殺したときに、背中に張り付いていた菩提樹の葉によって、血を浴びることのなかった背中である。全身は竜の血液によって、強固なる鎧となっているが、背中のみは生身である。
「ふん、だんまりか? まあいい。バーサーカーはバーサーカー同士。そして、俺たちはセイバーとライダー。そして、もう一人だ」
「──ッ!」
ライダーが言い終わると同時に、森の奥から一本の矢が、セイバー目掛けて放たれた。その矢の射手は、赤のアーチャー・アタランテである。
「こちらは二対一となるが──悪く思うな。これは戦争だ」
「……」
赤のライダー、同じく赤のアーチャー。そして黒のセイバーとのの戦いはこうして始まった。
……しかし、この先彼らの戦いを細かく描写するつもりはない。なぜならば、この物語の主役は彼らではないからだ。
「ギィアァァァアアアッッ!!」
「ナ──オォオオオオッッ!!」
赤のバーサーカーと、黒のバーサーカーとの戦いの様子は、まさしく怪物同士の戦いと言うに相応しかった。
彼らの体からは、大量の紫電が放たれ、
彼らの雷は、あたりにある木々を容赦なく吹き飛ばし、大地を次々と抉り取った。
衝撃波が走る度に、森の中にいる獣たちはおびえ、木々からは鳥や虫がその場から逃れようと飛び立つ。彼らは、防御などは一切行う素振りはなく、ただ攻撃のみを行っていた。それは、捨て身の攻撃とか、そういう思考によるものではなく、防御を行うという概念が、彼らの中から抜け落ちているのであった。
二体の怪物のうち、どちらかが雄たけび、さらなる狂気に身を委ねれば、もう一方の怪物も共鳴するかのように、狂気に堕ち、ただ目の前の敵を殺すための装置と化してゆくのであった。
赤のバーサーカーは、一撃を加えようとしていた。その瞬間、彼の体を後方から掴むものが現れた。その唐突なる第三者の登場によって、この二体の怪物たちの戦いは、ひとまずの終わりを見せた。
赤のライダーは、腕の中で暴れるバーサーカーに言った。
「ここまでだ! お互いの戦力は大体だが、知れた。シロウ・コトミネから撤退の指示も出たしな! 撤退するぞ!」
「ギィイイイアァアァッ!?」
赤のライダーとバーサーカーは、三頭立ての馬のが引く戦車にのって、空の向こうへと消えていった。
黒のバーサーカーは、それを追おうとしたが、突然彼女の中から、激しい感情の一切が消え去っていき、一気に冷静さを取り戻した。
その原因は、彼女のマスターであるカウレスが令呪を使ったからだ。
彼は、念話でバーサーカーに話しかける。
「うし、落ち着いたな? ……さっきまでのお前の様子は尋常じゃなかったから、令呪を使わせてもらったぞ。なんせ、お前の感情が、こっちに逆流しかけるほどだったからな。あのまま追いかけていても、敵陣に飛び込んで、囲まれるだけだ。一度こっちに戻ってこい」
「ウゥ……」
彼女は頷いた。
──こうして、聖杯大戦2回目の戦いは幕を閉じた。
──怪物たちは、お互いのことを知った。
……運命はどのように動くのかは誰にもわからない。それは、怪物を造った創造主ですらも。あるいは、その創造主を創った創造主ですらも、運命の流れを読み取るのはできないのかもしれない。
ひとまず、この夜はこれで終了した。