セカンド・モンスター 作:フランちゃんのヒールに頬刷りしたい
……しかし、バーサーカー周りだけじゃなく、ジークとジャンヌ。シロウとアサシンとか、アキレウスにケイローン、アタランテ。ジャック・ザ・リッパー周り……その他もろもろのメンバーについて描写しようにも、原作とほぼ同じになってしまいそうなうえ、テンポが悪くなる……
けれど、描写しないとアポクリファを読んでいない読者には、状況がよくわからなくなってしまうという罠……特に、ジーク周りな!
どうしてくれようか!!!
──赤の陣営
赤のライダーによって、拠点に無理やり戻されたバーサーカーは、最初こそは暴れていたものの、次第におとなしくなり、夜が明けたころには、礼拝堂にあるコンセンントを新たに破壊(最初に彼が破壊したコンセントとはまた別のコンセントである)し、そこから飛び出たコードを口にくわえながらじっとしているぐらいには落ち着いていた。
赤のバーサーカーは、コードを口にくわえながら首をかしげる。
彼は昨日の夜のことを思い出していた。
なぜ、あの黒のバーサーカーを見た瞬間、妙な感情に覆われたのだろうか?
彼は、その感情が殺意だということを知らない。なぜならば、彼は聖杯によって必要最低限の知識と知恵こそはあるものの、そのほかのことについては生まれたての赤子同然であった。
だからこそ、彼は考える。頭を捻る。
問:あの感情は何?
彼は聖杯によって与えられた知識に問いかける。
答:殺意
問:殺意とは?
答:敵を殺すときに生じる感情
問:なぜ殺意は生まれた?
答:殺意のほとんどは憎しみによって発生
赤のバーサーカーは「ギュー」と唸りながら、首をかしげる。なぜならば、その答えに納得がいかなかったからだ。
自分はあのバーサーカーを憎んでいるのだろうか?
それはわからない。そもそも、憎しみという感情そのものが、どういうものか分らない。敵ならば、捻り潰そう。打ち倒そう。だが、そこには憎しみなどという感情はないだろう。自らの願いをかなえるために、必要な行動をとるのみだ。
彼が産声を初めて上げたのは、現世でサーヴァントとして召喚された瞬間だった。
そのとき、はじめて彼という怪物は、聖杯によってバーサーカーという器を与えられ、生まれたのだ。
つまり、彼は知識や知恵こそは持っているものの、生前(というのもおかしいかもしれないが)に生まれることがなかったがために、こうして召喚された今の彼は、生まれたての赤子そのものなのであった。
……サーヴァントは、生前にあらゆる偉大な活動を行い、世界に名を遺した英雄である。
ならば、己は何者なのだろうか? この己の脳には、生前の記憶と呼べるものは──うっすらとした誰かの声と、雨が窓を激しく打つ音ぐらいしかない。己は、一体何をしたのだろう? 己は、何者なのだろう?
召喚されたことによって起動した怪物は、聖杯によって与えられた知識によって、第一の怪物がとある家族の影で長い間隠れ、暮らしたことによってやっと得た知識や感情を得た知識を、一瞬で我が物にした。それから、己が何者なのか、という疑問を抱くにはそうそう時間はかからなかった。
──己が何者なのかを知る。
それが、赤のバーサーカーの願いであった。どのような願いでも叶えるという聖杯ならば、己の存在についても答えてくれるだろう。
……しかし、それにしても。あの黒のバーサーカーは何者なのだろうか? 彼女を見た瞬間、明らかに自分はおかしくなった。次の戦いで、彼女と出会ったのならば、自分が何者なのかを聞いてみるのもいいかもしれない。きっと、己は彼女のことを知っているのかもしれないから。
赤のバーサーカーは思考を続ける。
彼の脳はあまり回転は速くないし、知恵も聖杯から与えられたちぐはぐなものしかない。それでも、彼は自分なりの答えを出そうとして、一生懸命考え続ける。
「ここにいましたか。バーサーカー」
「ギィイ?」
「ああ、またコンセントを新たに破壊したようですね……困ったものです。ところで、バーサーカー。電気が欲しいのならば、こんなものはいかがでしょうか?」
とシロウ・コトミネはポケットから乾電池を取り出した。彼はそれを赤のバーサーカーに手渡した。
バーサーカーは、首を傾げ、次に電池の匂いを嗅ぎ、それが終わると口に含んだ。しばらくのあいだモゴモゴと口を動かしていたが、「オエェー……」と顔をしかめ、舌を出しながら電池を吐き出した。
「ギィア──!」
「不味い!」とでも言わんばかりに、赤のバーサーカーはシロウ・コトミネ目掛けて、吐き出した電池を投げつけた。
「口に合いませんでしたか。これは申し訳ありません。では、なるべくコンセントを破壊するのはやめていただけませんか?」
「ギィ?」
「なんで?」と言わんばかりに、バーサーカーは首を傾げた。シロウ・コトミネは、ため息を吐くと、「……次はアサシンの魔術による雷撃でも試してみますか」と呟きながらその場から去っていった。
彼が言った言葉の意味はよくわからなかったけれど、何となく嫌な予感がした赤のバーサーカーであった。
……はて? 自分は先ほどまで、何を考えていたのだろうか?
何か、きっと重要なことだったのかもしれない。乾電池の、あまりの不味さによって忘れてしまった。
……まあ、いいだろう。こうして電気を食べていれば、そのうち思い出せるだろう──
──黒の陣営
黒のバーサーカーは、城の中庭で、うつむきながら座り込んでいた。
ああ、昨日の戦いでは、マスターにみっともない姿を見せてしまった。そのうえ、よりにもよって貴重な令呪も使わせてしまった。彼は呆れていないだろうか? 失望していないだろうか?
彼女はなるべく、己のマスターのことだけを考えるようにしていた。
他のことを考えると、あの赤のバーサーカーのことが、どうしても頭をよぎってしまうから。
──花婿として造られた彼から浴びせられたのは、愛情とか、恋慕とかではなく、ただ、漆黒の殺意だった。
──我が願いは、父によって造られた同類と恋人同士の関係になること。
──しかし、我が父が造り出した花婿は、私を殺すための機械であった。
──それが分かったとき、わたしの頭の中はぐちゃぐちゃになった。
──あの時の私は、何を考えていたのだろう? わからない。けれども、あの時のわたしは、生前にも経験したことのない、激しい感情を発生させていた。その感情の種類はどういうものなのだろう?
……花婿が召喚されている。敵として。……わたしは何をするべきなのだろうか?
──その目には、ただただ暗い殺意のみが宿っていた。
「────ッ」
黒のバーサーカーは、ビクリと体を震わせ、その後、おびえるかのように、体を丸めた。
怖い。……否定されるのが怖い。わたしは、生まれ出て、すぐに我が父に否定された。ああ、こうして瞼を閉じれば、すぐに思い出せる。
──十一月の物寂しい夜に、わたしは生まれた。
気が付くと、わたしは慣れない手つきでベッドから起き上がった。
「何故だ!? 何故だ!? 失敗だ! 失敗した!」
そこには、必死になって何かしらの機械を操作する、白衣の男がいた。その男こそが、ヴィクター・フランケンシュタインであった。わたしは、ほぼ本能的に彼女がわたしを造った存在だと理解した。
父は、顔や髪を掻きむしっていた。
「失敗だ! 回線がうまく繋がらなかったのか!? 原因は何だ!」
きっと、彼は悲しんでいるのだろう。どうすればいいのだろうか? 答えはおのずと出た。喜ばせればいい。
わたしは、外に出た。彼を喜ばせるものを探し出すために。地面にある花を踏みにじり、あたりを歩き回った。犬という生物が、わたしの足元に近寄ってきた。わたしは、その生物を引き裂いた。すると、赤赤とした内臓や血液があたりに飛び散った。
ああ、これはわたしにはないものだ。鉄と機械、そして油とで構成されたわたしの体には存在しない、美しいものだ。これを見せれば、父も喜ぶにちがいない。
わたしは、ソレを父に差し出した。ちょうど、子供が両手いっぱいに花を抱えるようにして。
「近寄るな! 怪物め! ヒィ……こっちに来るな! 消えろ! 今すぐ、私の目の前から消えろ!」
父は、はじめにおびえた表情を見せ、その次に、次々と罵りの言葉を投げかけながら、わたしを滅多打ちにした。
わたしは、そのことがとてもたまらなくなって、その場から逃げ去った。…………ここからが、わたしを英霊の座へと持ち上げた物語の始まり。
世界の全てに受け入れられることなく、ただただ恐怖の対象として見られ、果てには氷の大地で炎に包まれた怪物の物語。それが──
「バーサーカー」
カウレスは黒のバーサーカーに声をかけた。
彼女は顔を上げた。それを確認したカウレスは、「隣、失礼するぞ」と言いながら黒のバーサーカーの隣に座った。
カウレスは、黒のバーサーカーと顔を合わせることなく、ただ前を見ながら話した。
「……なあ、バーサーカー。大丈夫か? ずいぶんと落ち込んでいるようだけど」
「ウゥ……」
心配をかけてしまった。彼は失望していないだろうか?
「お前に何があったのか知らないけれど、あの赤のバーサーカー。アレは知り合いか?」
「……」
頷く。……最も、知り合いと呼べるかどうかはあいまいだが。
「そっか。あのバーサーカーは何者かわかるか?」
「…………ウゥ」
頷く。
「誰だ? ヴィクター・フランケンシュタインとかか?」
「……」
首を振る。
「あー、違うか……まあ、そうだよなあ。じゃあ、何だろうな……男で……バーサーカーと知り合いで……クラスもバーサーカー……」
「ウウゥ……」
マスターが悩んでいる。
それも仕方がないのだろう。あの赤のバーサーカーには、真名と呼べるもの無いからだ。
なぜならば、彼はこの世に生まれることはなかったからだ。フランケンシュタインの怪物として知られた私とは違う。
名を遺すこともなく、誰に知られることもなく、指先一つ動かすこともなく、生まれる前に死した存在。そんな存在が、どのようにして世界に名を遺すというのだろうか。そんなことは、よほどの聖人でも不可能だ。
せめて、彼のことを伝えられないものか。それが、今のわたしにできる、サーヴァントとしての最善の行動ではないのだろうか。ああ、けれども、それをしてしまっては、彼がどういう存在かをこの黒の陣営全体が理解してしまう。
彼の存在、彼の弱点──そうしたものが分かれば、きっとあの
ああ、わたしは一体どうすればよいのだろうか?
黒のバーサーカーは思考する。どのような行動をとればよいのか、やきもちしつつも、今の自分にできる最善の行動を導き出すためにも、考え続ける。
「なあ、バーサーカー」
「ウ?」
黒のバーサーカーは、声のした方を向く。いつの間にか、カウレスは黒のバーサーカーの方を見ていた。
カウレスは、己のサーヴァントと目を合わせながら言った。
「お前はどうしたい?」
「……」
「考えてみたんだけれど、あの赤のバーサーカーの真名はさっぱりだ。けれどさ、俺はお前があのバーサーカーについて、何か悩んでいるってことぐらいは分かる。だから、これだけは聞いておくぞ。──お前はどうしたい?」
「……」
その言葉は、黒のバーサーカーの胸の中に、自然と吸い込まれていった。
わたしはどうしたいのか? 彼女はしばらく考えると、地面の花をもいで、それをまじまじと見つめたあと、立ち上がった。
「ウ!!」
──難しく考えるのはやめだ。
──とにかく、もう一度彼と会ってみよう。そうすれば、きっと何かがわかるはずだ。わたしがどうしたいのか、わかるはずだ。彼と話をしてみよう。
彼女は、礼を伝える意味で、手に握った花をカウレスに渡した。彼は、「くれるのか?」と言ったので、頷いて、肯定の意を伝えた。花を受け取った彼は微笑んだ。
──太陽はルーマニアの地を燦燦と照らしていた。
──その太陽が沈み、光届かぬ吸血鬼伝説の地となれば、それが戦いを開始する合図となる。
──怪物たちは、再会を求める。己のことを、そしてお互いのことを知るために。