セカンド・モンスター 作:フランちゃんのヒールに頬刷りしたい
──空中庭園内・玉座
赤のアサシン・セミラミスの宝具、
そして、ついぞ完成した庭園は、実際、かなり巨大なものであった。その玉座で、赤のアサシンは頬杖をつきながら、彼女の隣に立っているコトミネ・シロウに言った。
「ところでマスターよ、あのバーサーカーの正体は分かったのか?」
「おや、あなたがそのようなことを気にするとは、珍しいですね」
「ふん、ほんの気まぐれよ。で、どうなのだ?」
「ええ、黒の陣営との戦い、そして私の真名看破、彼の行動など、あらゆる材料によって、おおよその予測を立てられるまでにはなりましたよ。というよりは、ほぼ確信しています」
「ほう、で、あのバーサーカーはどのような存在なのだ?」
と赤のアサシンは愉快げな表情で問いかけた。それに、コトミネ・シロウは微笑みながら答えた。
「まず、こちらのバーサーカーは、あちらのバーサーカーを見た瞬間、どう猛になりました。黒のバーサーカーの真名はフランケンシュタイン──正確には、ヴィクター・フランケンシュタイン博士が創り出した怪物です──となっています。
このことから、こちらのバーサーカーは、フランケンシュタインと何かしらの関わりがある可能性が高いです。そして、次にこちらのアーチャー・アタランテは、彼のことを『鉄と油の酷い香りがする』と評していました。ここまで来れば、ある程度の正体はつかめます。
フランケンシュタインの怪物との関わり、そして鉄と油の香り。小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』の内容……ヴィクター・フランケンシュタイン博士は、作中にて人造人間を2体造っていました。
一体目は、言わずとも知れた、フランケンシュタインの怪物です。恐怖によって博士を追い詰め、その果てには南極にて自らの肉体を燃やし尽くした怪物──その存在は、恐怖すべき対象として、世界中に知られました。
そして、二体目の怪物です。こちらは、一体目の怪物が、その孤独を慰めるために、自らの伴侶となるべき怪物を造るために、博士に要求し、その要求をのんだ博士が造り出したものです。ですが、その怪物はついぞ完成することなく、海に沈められました。
赤のバーサーカーの背格好、真名が『無銘』であること……これを考えれば、あのバーサーカーはヴィクター・フランケンシュタイン博士が造った第二の怪物であることは想像つきます」
「なるほどな……」
とアサシンは眼を細めた。それから、言った。
「その予想は納得できるし、我も同じような予想をしていた。だが、一つ解せないところがある。我々はサーヴァントだ。そこらの低級霊とは核が違うのだぞ? 人々の信仰によって、英霊として押し上げられた存在だ。
ヴィクター・フランケンシュタイン博士とやらを、恐怖にによって追い詰めた存在。そして、その様子を書かれた物語を読んだ人々が、その姿に恐怖し、恐怖すべき存在として恐られた第一の怪物ならば、恐怖による信仰として、英霊となることはありえるだろう。
だが、二体目の怪物は、作中においては、指先一つ動かすこともなく、生まれたこともない、いわばただの脇役でしかない存在だ。そこに人々の信仰など、あるはずがなかろう。生まれることもなく、信仰されることもない存在だ。──ならば、その怪物はどうやってサーヴァントとなったのだ、という疑問が生まれる」
「確かに、その疑問は最もです。私も、同じように考えていました。
……作中にて、フランケンシュタインの怪物は男性として描写されていました。ですが、実際にはあのように、花嫁衣裳を着た女性です。このことから考えるに、事実と物語は、多少ねじ曲がっていてもおかしくはありません。
作中にて、第二の怪物は、第一の怪物の花嫁(実際には花婿ですが)として造られることになりました。ですが、怪物に恐怖したヴィクター・フランケンシュタイン博士が、おとなしく、正直に、怪物の要求に従うとおもいますか? 答えは否でしょう。少なくとも、その可能性は高い。
ならば、博士は第二の怪物を、どのような怪物として造ったのか? おそらくは、『怪物を殺すための怪物』として造った可能性が高いでしょう。少なくとも、怪物が人を襲うのを止めるための抑止力、怪物が子を成し、繁栄するのを止めるための抑止力、そうした存在として造られた可能性はあります。
──そして、この星には、世界が危機に陥った時のために、抑止力というモノが存在します」
「ほう、つまりこう言いたいのか? 『赤のバーサーカーの正体は、怪物によって人間が殺戮されるのを防ぐための、抑止の英霊である』とな」
シロウ・コトミネは頷いた。
「ええ、それならば、全くの無銘であれども、世界と契約すれば英霊となれます。彼が、フランケンシュタインの怪物という存在に対する抑止として召喚された可能性は高いです。……まあ、ただの当てずっぽうのような予想ですがね」
コトミネ・シロウの予想は的中していた。
事実、ヴィクター・フランケンシュタイン博士が造りし第二の怪物は、抑止力に属するものであった。しかし、抑止と契約したのは、その怪物本人ではなく、ヴィクター・フランケンシュタイン博士によって契約されたのであった。
博士は、自分自身が死に絶える直前になると、己が制作した怪物が、人間に対して危害を及ぼすような存在となる、あるいは万が一、怪物が子を成し、地上に繁栄するということを激しく想像するようになった。
実際、第一の怪物を殺すための、第二の怪物を造ったときも、もしも、万が一、その怪物が、怪物同士惚れ、子を成すようになったらどうすれば良いのか──そうした不安に駆られるときがあった。それゆえに、彼は怪物の伴侶、あるいはその怪物を殺すための怪物として造った怪物を、最終的には解体し、海底に沈めたのであった。
そして、死ぬとき、とうとうその不安が絶頂に達した。ちょうどその時、世界からヴィクター・フランケンシュタイン博士に対して契約を求める声があった。
しかし、博士自身は己には、戦うような力もなかったため、その契約を拒否した。しかし、その代わりとして、己が造り出した第一の怪物を確実に、この世から抹殺することを対価に、第二の怪物を世界に差し出した。
──つまり、第二の怪物は
シロウ・コトミネは怪しく微笑んだ。
「それならば──バーサーカーは、バーサーカー同士で戦ってもらうのが最善ですね」
赤のバーサーカーは、シロウ・コトミネの命令によって、赤のアサシンの玉座がある部屋へと移動していた。
そこには、バーサーカーだけではなく、ランサー・カルナ、アーチャー・アタランテ、ライダー・アキレウス、キャスター・ウィリアム・シェイクスピア、アサシン・セミラミスといった、赤のセイバーを除いた赤の陣営のサーヴァント全てが集まっていた。
シロウ・コトミネは、アサシンに合図を送った。すると、部屋全体が振動した。バーサーカーは驚き、あたりを見回した。すると、他の面々はテラスへと移動していたので、彼も同じように移動した。
「ギィイイウッ!?」
バーサーカーは驚きのあまりに、叫んだ。
なぜならば、彼らがいる、この巨大な庭園はあろうことか、重力に逆らい天空を浮遊していたのであった。それから、ライダーとアーチャー、そしてキャスター達が何かしら話していたが、驚いていたバーサーカーは、その話の内容をよく聞いていなかった。
「バーサーカー」
とシロウ・コトミネの呼ぶ声によって、バーサーカーはハッとした。
「いいですか、バーサーカー。アーチャーとライダーが出たら、貴方も出てください。向かう場所はこちらで指示します。貴方には、黒のバーサーカーと戦ってもらいます。いいですね?」
「ギィゥ」
とバーサーカーは頷いた。
──ああ、それこそ望むところだ。
彼はあのバーサーカーとの再開を望んでいる。
彼は月を見上げた。満月は金色の光を放っていた。
「ギィア……」
アーチャーの宝具によって無数の矢が戦場に降り注ぎ、幾多ものゴーレムやホムンクルスを貫き、その後、ライダーの戦車が空を超高速で疾走した。
バーサーカーはそれらを見ると、咆哮して空中庭園から飛び降りた。
「ギィイウウウウアアアァゥゥウッ!!」
──草原
戦場となっている草原では、ゴーレムやホムンクルス、そして竜牙兵たちが隊列を成し、突撃し、お互いの攻撃によって倒れていった。そして、所々でサーヴァントたちも戦いを始めていた。例えば、黒のランサー・ヴラドと赤のランサー・カルナとがぶつかり合い、黒のアーチャー・ケイローンと、赤のライダー・アキレウスとがぶつかり合っていた。彼らの戦いはどちらも激しいものであり、彼らのうち誰かが武器を振るえば、強烈な旋風が巻き起こり、衝撃が大地を蹂躙した。
赤のアーチャー・アタランテはその俊足で草原を誰よりも早く駆け回り、敵であるホムンクルスやゴーレムたちを次々に射抜いていった。そうしているうちに、彼女は足を止めた。いや、正確には止められたのだった。
いつの間にか、アタランテの周囲には霧が漂っていた。それも、ただの霧ではなく、魔力が込められた霧だった。
「これは……!」
アタランテは、警戒を露わにし、弓に矢をつがえながら周りを見回した。
ところで、この霧の正体は、黒のアサシン・ジャック・ザ・リッパーの宝具、
当時、産業革命で栄えていたロンドンは、とにかく汚かった。工場から排出されるスモッグは、黒い雲となり、白い霧となり、毒の雨となり、当時のロンドンの人々、自然を蝕んでいった。この霧はその再現である。その毒こそは、サーヴァントには効き目が薄いものの、周りにいたホムンクルスたちは喉を掻きむしり、目から涙を流し、苦しみながら死んでいった。
……前にも書いた通り、この物語は赤のバーサーカーと、黒のバーサーカーとの物語である。それ故に、赤のアーチャーと、黒のアサシンとの戦いを細かく描写する必要はない。とはいえども、作者や読者が知っている本来の道筋では、赤のアーチャーと黒のアサシンとは、この場では出会わず、戦うこともなかった。しかし、この話では出会ってしまった。そのため、必要最低限の顛末だけ語るとしよう。
「ねえ、ねえ、ねえ、あなた、
と霧の中から、黒のアサシンのあどけない声が聞こえてきた。
彼女──ジャック・ザ・リッパーは、今回の戦場において、サーヴァントと戦うつもりはなく、戦場の端にいるホムンクルスたちを、魔力補給のために狙っていただけだった。しかし、戦うべき敵のいない赤のアーチャーが、あまりにも素早く、縦横無尽に駆け回るものだから、こうして出会ってしまったのだった。黒のアサシンは初め、逃亡しようとしたが、彼女の素早さを見るなり、逃げ切るのは不可能と判断した。
そして、もう一つ。この状況は、黒のアサシンにとって絶対有利な状況だったからこそ、彼女は戦うことを選択した。
黒のアサシンの宝具の発動条件は三つ。
ひとつ、敵が女性である。
ひとつ、夜中である。
ひとつ、霧が出ている。
さて、アタランテは女性だし、今の時間帯は天に月が輝いているし、
さあ、とくと御覧じろ、かつてのロンドンで、娼婦を切り殺し、世界中を恐怖に染め上げた伝説の殺人鬼によって行われる、殺人を──
「此処よりは地獄、わたしたちは炎、雨、力──」
殺人は、すでに行われた。
赤のアーチャー・アタランテは一瞬だけ、黒のアサシンの姿を見た。それ故に、何の抵抗もすることなく殺されてしまったのだ。……彼女が聖杯に捧げる願いは、この世の恵まれない子供たちの救済。それ故に、相手がこのルーマニアで次々と殺人を行っている、殺人鬼だということは知っていても、一瞬、ほんの一瞬だけ、その姿を初めて見たとき、ためらってしまったのだった。
「ああ──」
僅かな吐息が漏れた。それを最後に、赤のアーチャー・アタランテは消滅した。そして、黒のアサシンは、赤のアーチャーの霊核を取り込み、膨大な魔力を我が物にし、戦場を去っていった。
──ああ、見たまえ。月があんなにも強く輝いている。こんな夜は、きっといいことが起こるに違ない。
──そう、夜は長いのだ。だから、ゆっくりと耳を澄ませてみるとしよう。きっと、怪物たちの美しく、醜い踊りと歌が、あともう少し経てば聞こえるはずだから。
──怪物たちの宴が始まるまで、あと僅か。我々は、おとなしく椅子に座って、ブザーが鳴り、カーテンが開くのを待つとしよう。
念のためいくつか解説を。
カウレスが赤のバーサーカーの正体に気が付かなかったのは、赤のアサシンが言ったとおり、『フランケンシュタイン』の作中では、ただの脇役のような存在のため、英霊になる可能性はまずないと考えているからです。
ところがどっこい、抑止力によって英霊になっていたり。こんなの普通は予想できねえよ……
アタランテが敗北した理由は、作中でも語りましたが、原作においては相手が殺人鬼とか、外道のたぐいなら子供でも、容赦なく射抜く人です。
今回は、ジャック・ザ・リッパーが殺人鬼だと知っていても、その外見を初めて見たからこそ、対応が遅れたため、手出しすることができずに敗北しました。