理想を求める事は悪い事ではない、けれど時には可能性を捨てる事も視野にいれなければならない。
フィーネとの和解という選択肢、とても理想的だと思うが、彼女の性格と所業を考えればとてもではないが「難しい」。
俺はより良い未来を諦めない、けれど無謀無策なお人よしのバカのままじゃフィーネには届かない、だから彼女との和解の可能性は消した。
つまりはフィーネを倒す事で、運命を掴む事を選んだ。
両親には今、日本を離れ、アメリカに向かって貰っている。
それはレセプターチルドレン達の存在、そして切り札である「イガリマ」の確保。
政府側向きは新たな聖遺物の確保という形であり、なおかつ海外旅行という形を取っている。
「櫻井先生、ワタシはシンフォギアへの適合は脳の「愛」を司る部分が密接に関係していると考えました、薬学に関してはあまり詳しくないのですが、この論文がリンカーの改良、ひいては戦力の増強に役に立つと考えます」
「……非常に興味深いわね、でも何故そこで愛?」
「先生の誰かを想っている様な雰囲気から、着想を得ました。シンフォギアシステムが女性にしか扱えない理由などを考え、考察し、巫女、聖女、母性など、女性特有のモノから推測しました」
「……そう」
一瞬、フィーネの目の色が変わったのは見逃さない、少なくとも敵意悪意といったものではなく「動揺」に近い感情を含んだソレ。
つけいる隙はそこにあると俺は考える。
「天羽奏は死んだ家族への想い、風鳴翼は身近な人々への想いが適合に繋がったのだと思います」
「それで第三適合者である貴女は誰を想っているのかしら?」
「……笑いませんか?」
「笑わないわよ、ちゃんとした理論なんでしょ?」
「今は本当の意味では会えない人です、ワタシがいつか願いを叶えた時、ようやく会える、そんな人です」
「………乙女ね」
同じ世界にいるのに、この雷電という仮面を被る事で今は本当の意味では心を通わせられない。
そういう所では、目の前の永遠の巫女に共感を感じなくは無い。
「多くを救う事で、ワタシの夢は叶えられる、だからこの身を捧げ続けるのです」
世界は残酷だ、奏さんしかりセレナやキャロルの父であるイザークなど善人ですら死ぬ時は死ぬ。
極論を言えば誰だっていつかは死ぬ、それでも俺は、そのいつかを出来る限りに先延ばしにしたい。
現実と理想の狭間で揺れて、その時できる事をするしかない半端者が世界に立ち向かう。
「本当に聖遺物専攻の学者なんだな……雷電」
「ワタシの天才的発想、天才的才能のなせる業ですわ」
「そらそんな自信もつくわな……」
当然ながら俺の学者、天才ムーブは本物ではない、これは親父や母上が研究施設に職員として潜入する為の技術として取得している立派な「忍術」だ。
高度に発達した忍術は魔法と区別がつかないというが、本当に出鱈目な忍術なのでそれっぽい身振り口ぶりで相手に信用されるというものに、俺の原作知識がベストマッチしてフィーネにも気取られない動作を可能としている。
気取られてない?本当に?と思うだろ、俺も不安だよ、でもとりあえず脅威とは見られてないので大丈夫な筈だ。
しかし、努力や技術を身に着けるのも才能のうちという、そういう意味では俺は天才かもしれない、でもフィーネやキャロルに勝てる気はしないし緒川さんにも勝てる気がしない。
それでも自信は持ち続けなければならない、怯んで後退るのは死ぬ時だ。
スタンディング・アンド・ゴー、立って進む事だけが俺の生きる道。
イキリ道だ。
手鏡とメイクセットで一瞬で変身。
「うーん我ながら圧倒的才能、天才的かわいさですわ」
「マジかよメイクまで出来るのかよ……」
母上から習った変装術兼化粧を自分に施し、「天才研究者スタイル」から「お嬢様スタイル」へとフォームチェンジする。
それを見て呆気にとられる奏さんもかわいい、俺的に奏さんの「良さ」はどの路線でも似合う所だと思う、俺は「カッコイイ」はなれないからな、幼女だし。
「すごいね雷電は、けど私達も防人として負けてられない」
「そうだな翼、アタシらにはアタシらの力があるしな!」
「……しかし直ぐ追い越して差し上げますわ、ワタシは最強ですもの」
俺は「岩融」の適合者として、リンカー無しでも装者になる事が出来た。
先日、完成した「岩融」のギアを纏い、初めての訓練をこなしたが。
戦闘経験の差か、戦力としては、先輩方には到底敵わなかった。
分かっている、二人の方が体の出来も、戦闘のセンスも、努力も、経験も遥かに俺を上回っている。
でも俺だって負けてちゃ駄目なんだ、運命に勝つには、二人に並び追い越さねばならない。
忍びの訓練は当然ながら普通の人間の子供には過酷なものだ、だから「秘薬」で肉体改造を行いながら訓練を続け、一人前の忍びになっていく、しかしその副作用として、体そのものの成長が遅くなる。
さらに秘薬も使い方を間違えれば猛毒となり内臓を破壊しつくしてしまう。
おまけに言えば俺は肉体に「不相応」な精神と人格が入った状態で生まれた、脳への負荷やストレスも半端ではない。
そういう面でも、俺は長生きできない体、時間はない、けれど慌てて詰め込みすぎれば「最終回」まで持たずに死ぬ。
結論から言うと、リンカーという劇薬を処方されなくて本当によかった、ただでさえ薬がキマりまくってるのにこれ以上増えたら死ぬ所だった。
しかし、装者としての戦力も持たねばならない。
一人でやるにはあまりにやる事が多い、多すぎる。
だが俺がやらねば、と頭を回す俺に、手が差し伸べられた。
「とはいえアンタも一人じゃないぞ雷電」
「そうだ、私達は仲間だ、天才といえども一人じゃ生きられない」
不意に涙が流れそうになった、ツヴァイウィングの二人から仲間と認められて手を差し伸べられる、ファンである俺にとってはもうこれ以上なく、嬉しい事だった。
「ふ……フフン……あなた達が必要とするのなら、ワタシも……ワタシも応えて差し上げますわ」
その手を俺はとった。
そうだ、最初から一人で戦っていた訳じゃない、親父と母上も戦ってくれている、それにこの世界に生きる人々も、自分達なりに運命と戦っている。
それを忘れてはいけない、繋ぎ合う手がこの世界じゃ一番強いんだもんな。
「素直じゃねぇなぁ~」
「だまらっしゃい、ワタシは天才で最強、されど天才であろうと他に認識する人間が居なければ凡才ですわ」
何の為に俺は戦っていると聞かれれば俺は、自分の為と答える、それは自分が悲しい思いをしたくないから、後悔しない為に、伸ばせる手を伸ばしている、誰かの為に、世界の平和の為に戦うのはそれぐらいの方が健全だ。
ほぼ親父の受け売りだが、俺は俺が後悔しない為に戦っている。
奏さんを助けるのも、犠牲となる筈だった人達を生かすのも、やらずに後悔して苦しむのが嫌だからだ。
誰も、最後まで見捨てないさ。