TS転生して最強の装者になって死ぬだけの話   作:青川トーン

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F3/6 届け、届かない

 風鳴司令からアメリカへ向かった親父達が行方不明になった、と知らされる。

 

 発見されたのは銃撃された様な状態の車と、大量の血痕だけ、生存は絶望的だ。

 

 俺は言葉を失う……

 

 

 演技をする。

 

 そう、演技だ。

 

「……そう、ですか」

 

 何故ならそれは「演技」だから、だ。

 

 アメリカの聖遺物研究機関へと潜入する為に身元を消したのだ。

 それは同時にマリア達レセプターチルドレン達の居場所が判明したというサインであり、もう「協力者」を得られたというサインでもある。

 もうすぐ俺達は「切り札」を得られるかもしれない。

 

「父も、母も、いつ死んでもおかしくないという覚悟はしていました、ですからワタシも、ワタシも覚悟はしていました」

 

 

 涙をこらえる少女というのは強いもので、あのフィーネですら哀れみの視線を向けてくる。

 

 お前を殺す為の算段がついたとも知らずにな。

 

 

 

 

 俺は「戦姫絶唱シンフォギア」という物語の第一部と第二部をツヴァイウィングのライブの日に終わらせるつもりだ、それはマリアと調と切歌、そしてナスターシャ教授とウェル博士という「第二部」の登場人物を前倒しで舞台へと上げる事でだ。

 

 これに関しては簡単だった、ナスターシャ教授の優しさとウェル博士の英雄になりたいという願いに付け込めればよい、教授はレセプターチルドレン達全員が救えればいい、ウェル博士は彼の力を必要としてやれば勝手に英雄になってくれる。

 

 計画の次の段階の目安としては雪音クリスの帰国と行方不明、確か俺の記憶が正しければこの頃にフィーネはソロモンの杖を起動させている筈だ、そして同じ年にネフシュタンの鎧の強奪の際の襲撃に使用するはず。

 

 気をつけなければいけないのはフィーネはソロモンの杖無しで「ノイズ」をコントロールする手段を持っている事。

 ソロモンの杖がまだ起動してないと推測される神獣鏡強奪、天羽一家殺害の時でもノイズをコントロールしていた様な描写があったがキャロル達錬金術師の様に道具で召喚するのか、アスガルドみたいな感じでノーモーションで召喚するのかわからないのも厄介だ。

 

 とにかくフィーネの厄介な所は頭がいいだとか狡猾だとか所有している聖遺物と普通に始末できない事だけではなく、こういった特殊能力を持っている事にもある、ついでに櫻井了子としての姿とフィーネとしての姿を分けられる所も。

 

 

 さて、実はこの時期に「イガリマ」がシンフォギアとして存在するかは賭けだった、ツヴァイウィングのライブ後に作られたものだったならば、この計画は頓挫する、存在しなければプラン変更の為に「連絡」が来る予定だった。

 便りが無いのは順調な証、後は最低でもイガリマを手に入れればフィーネの始末はなんとかなりそうだ。

 

 もっとも切歌に絶唱を歌って貰う訳にはいかない、彼女等にとっては絶唱は恐らく死に直結するからだ。

 

 なら誰が歌う?

 当然俺だ。

 

 その為のウェル博士だ、彼には出来るだけ高性能なリンカーを作ってもらう、当然それだけでは俺がイガリマを使える訳がないだろう。

 

 俺の真の狙いは「融合症例」つまりはギアとの融合だ。

 

 これが俺の出した答え、はっきり言って穴だらけもいい所だが、最も可能性はある。

 

 立花響とガングニールの場合は欠片だったから覚醒までに時間がかかったと考える、だから俺はリンカーの過剰投与とイガリマを完全な状態で取り込む事でそれを突破する。

 

 まるで命を投げ捨てるようなプランだが、これがもっとも犠牲が出ず、最も俺自身も生き残る事が出来る、かもしれない、最善の選択だと考える。

 

 そして、フィーネを倒した後のプランだが、ぶっちゃけるとネフシュタンの鎧を手にした司令に後を託す事になりそうだ。

 

 

 親父と母上が俺の計画を許可する条件、それはフィーネを倒した後は戦場に立たない事。

 

『お前は人間が背負うには重過ぎるモノを背負おうとしている。お前にそんなものを背負って欲しくは無いが、俺達が止めてもお前は行こうとするだろう、だから俺達家族で背負おう、そして全てが終わったら戦いの舞台からは降りる、それが条件だ』

 

 はっきりいってキャロルやアダムの事も考えるととてもではないが処理しきれない、だから俺がなんとかするのはフィーネだけ、それより後は装者達と司令やナスターシャ教授、そしてウェル博士に何とかして貰おうと考える。

 

 もう「雷電」として舞台に乗ってしまった以上何一つとして上手くいくとは限らないが、俺はなんとしてもフィーネを止め、奏さんを救い、大勢の命を救い、月の落下も防ぐ。

 

 

「悩んでいても、悲しんでいてもどうにもなりませんから、ワタシはワタシのやるべき事を成すのでご心配なく……それにまだ死んだと決まったわけではないので……この事は二人には伝えないでくださいね?」

 

 

 

 

 これからの事を考える、フィーネと戦う時に「イガリマ」を確実に当てる方法。

 一番は狭い場所、避けにくい場所で狙う、次に避けさせない事「影縫い」、あるいは拳銃などの小火器での牽制を混ぜる。

 そしてこちらから当てに行く、縮地や、ウォールラン、スライドホップなどのあらゆる機動。

 

 とにかく一撃当てられれば勝ちなのだ、

 

 全てをそこに賭ける、否懸けるのだ。

 

 最強の、不可避の一撃をイメージする。

 

「踏み込みが甘いです!」

 

 放った渾身の薙刀の一撃は緒川さんに容易く弾かれた。

 

「……避けられるでもなく弾かれる、まだまだですねワタシも」

 

「体の差というものがどうしてもあります、いくら「イカル」の家の者で肉体改造を受けて育っていても貴女はまだまだ子供なんです、焦らずに行きましょう、それに無理な訓練は命を縮めます」

 

 緒川さんとの付き合いもそこそこに長くなってきた、それこそ親父と母上以外で俺の忍術の師として。

 

「ワタシは昨日より強くなりたい、明日は今日より強くなりたい、守りたいと願うものを守れる様に」

 

「だとしても一人で強くなる必要はないですよ」

 

「わかってます、だからこそなんです、守りあえる程には強くありたいので」

 

 俺の装者としての力量は相変わらず貧弱だ、はっきり言ってしまえば現状では最弱だろう。

 

 二課に所属するにあたり、戦闘術より、防衛術、変装術、潜入術、偽装術に重きを置いた訓練を受けてきたのだから当然だ、しかし所属してしまえばこの辺りは現状を維持し、戦闘術を優先すべきだ。

 

「装者は貴女だけではありません、奏さんと翼さんも居ます、それだけで既に多くの人を救えています」

「ならワタシが加われば更に救える人が増えます」

 

 徹底頭尾、救う事、俺はそれを目指している、言葉に出して、心に誓って、考え続けて、繰り返し、繰り返し、俺はそれを刻み込む。

 

「はぁ……相変わらず頑固ですね貴女は、今日はもう一度だけですよ」

「我、生きずして死す事無し」

 

 虚仮の一念岩をも通すという言葉がある、不可能に思えることでも一途に取り組めば成就する。

 

 愚か者でも辛抱強く一途に取り組めば、どんなことでも成就する。

 

 俺は愚かだろう、でも曲げる事はしないし出来ない、ここまで来たらやり通すだけ。

 

 

 二度目の「一撃」を避けられた事で、俺の今日の訓練は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 訓練が終われば、俺は支給されたマンションの一室に戻り、静かに休みを取る。

 

 趣味のモノはない、殺風景な部屋なお陰で休む事に専念できる。

 

 しかし今日はそうはいかなかった。

 

 乱暴なインターホンの連打音、こんな事する様な相手は一人しか思い浮かばない。

 

「何の様ですか、奏ちゃん。ワタシはこれから休んで明日の訓練に備えねばなりません」

 

「そう固い事言うなって、ちょっと遊びに出掛けようぜ」

 

「あなた達と違ってワタシはまだ遊んでる余裕が無いのです!」

 

「じゃあどこまでいけばお前は余裕になるんだ?」

 

「………無論、ワタシが救いたいモノ全てが救えるまで」

 

「その救いたいモノの中にアタシは入っているのか?」

 

「……ッッ……と、当然ですわ」

 

 余計な事を言ってしまったせいか痛い所を突かれた、いや、もしかして気取られてしまったか?

 そんな筈は。

 

「なら救ってくれよ、暇なんだよ~翼が用事でいなくてよ~」

 

 なくてよかった、ただの奏さんだったわ。

 

「はぁ……あなたという人は本当に……少し待ってください、外に出れる格好に着替えますわ」

 

 追い返すのも流石に気が引けるので仕方なく、準備をする。

 

 奏さんに遊びに誘われる、今の「雷電」としての俺でなければ大歓迎どころか、もう喜びに転げまわっていただろう、やはり背負うものがあるとこうも、変わるものなのだろう。

 

「殺風景な部屋だな~」

 

「何をさも当然の如く入ってきているんですの、部屋に在る分はこれで事足りてますわ」

 

「趣味はどうしたよ」

 

「あいにくモノが無くても出来る趣味ですゆえ」

 

「なんだよそれ?」

 

「…瞑想とパルクールですわ」

 

「それ趣味じゃなくて修行じゃねぇか?」

 

「一番落ち着くので趣味ですわ」

 

「そういうもんか?」

 

 ウソだ、どちらも確かに落ち着くが他の修行に比べたら、に過ぎない、本当はアニメやマンガなんかを買い込みたいが、今はそんな事に時間を割いてはいられないのだ。

 

「ワタシがいいと言ってるんです、それで何処にいくのですか」

 

「そうだな、ちょっと街をぶらつきに」

 

「もう夕方ですわ、補導されますわ」

 

「んじゃ飯食いに行こうぜ」

 

「はぁー……ならそれでいいですわ」

 

 向かったのは近所のよく行くレストラン、これで奏さんとここに来たのは2度目か。

 俺が二課に来て既に3ヶ月、意外にも二人とはあまり顔を合わせていない。

 

 

 それは俺が基本的に訓練に集中しているか、櫻井了子の側で聖遺物技術を学んでいるか、勉学に励んでいるかの三択、それに加え二人はツヴァイウィングとしての活動もある。

 そう、ツヴァイウィング。

 

 ライブの惨劇はこのまま行けば来年には起こるだろう、残された猶予は一年とない。

 今の所、まだネフシュタンの鎧の起動実験の話は入ってきていないが、その時についても在る程度考えが在る。

 

 それは会場の安全確保だ、ネフシュタンの鎧の起動後、会場の各所で爆発が起きた後にノイズが現れた、その爆発が起動したネフシュタンのエネルギーの余波と仮定した上で俺はこう考える。

 

 一度、エネルギー供給を遮断し、ネフシュタンの鎧の起動を失敗させる。

 

 つまりはライブを外的要因で失敗させる事。

 

 各所でボヤ騒ぎを起こしつつ、施設を多少破壊する、そして安全に観客を避難させた後に、フィーネを倒す。

 

 当然ながらやり方を間違えればツヴァイウィングの二人も相手にする必要もあるし、最悪司令と緒川さんまで敵になる可能性がある。

 

 念の為、親父と母上にはフィーネが櫻井了子で、アメリカにも聖遺物技術を横流し、更には非人道的な実験まで行ってきた事の証拠を集めてきて貰う事を伝えている。

 

 親父達が日本に帰ってくるタイミングはライブの前日、それまでマリア達やウェル博士の協力を取り付けるなど、俺一人だけではどうしても出来ない事を頼んでいる。

 

 不安こそあるが、それでも親父と母上を俺は信じている。

 

 そしてナスターシャ教授も信じているが、ウェル博士はどうだろうなぁ……不安要素はやはり無数にあるが、それでも信じるしかないのだ。

 

 

 

「まーた難しい事考えてるだろアンタ」

 

 テーブルの上のピザを切り分けながら、奏さんが俺にそういう。

 

「ワタシは天才ですので考えない時間が勿体無いですので」

 

 時間は幾らあっても足りない、並列化してもまだまだ足りない、手も足りない、力も足りない。

 

「何考えてんだよ」

 

「世界の事、ですわ。ワタシ達が何故生まれ、何を成し、何処へ向かうのか、その為に何が必要なのか」

 

「天才の考える事はわからねぇ……」

 

「わからなくていいのです、天才には天才の悩みがあるのです」

 

 こんな悩みを抱える人間は少ないほうがいい。

 

 

「そんな事よりも、何故ワタシですの?翼さんまで置いてきて、一応スケジュールは把握してますのよ」

 

「仲間を助けるのに理由は要らないだろ」

 

「別に助けてもらうような困りごとはありませんわ」

 

「今だって泣いているのにか?」

 

「!?」

 

 ウソだろと思って自分の頬に触れてみると本当に涙が流れていた、全然気付かなかった。

 早くも体にガタが来ているとか本当に勘弁していただきたい。

 

「はぁ、こう歳相応に生きられない身に生まれた以上、これは仕方のない事なのですわ。正直に話しますとワタシの体はこういう異常が出やすいのです」

 

「そんな事ならさっさといえよ、それに装者なんてやってないで自分の身をだな」

 

「でもそれは出来ませんわ、あなたが自分の意思で装者になりたいと願ったように、ワタシもまた自分の意思で装者となったのです、その先に待つのが地獄だとしても」

 

「あんたはアタシの何を知ってる」

 

「経歴は大体見させていただきましたわ」

 

「でもアタシはあんたを知らない、不公平じゃないか」

 

「はぁ……何も面白い事なんてありませんわよ」

 

「面白い面白くないじゃない、仲間として共に戦うなら互いをもっと知る必要があるだろ」

 

 奏さんは本当に仲間として俺を受け入れてくれるつもりなんだろう、けれど俺の目的はそこにはないんだ。

 

「ワタシは「イカル」と呼ばれる忍びの家に生まれました、この家のモノは早熟でわりと早く自己がはっきりします、ワタシはその中でも一際早く精神が成熟し、頭もよかった、だから後継者として選ばれ、それに相応しい訓練と、それに相応しい改造処置を受けてきた、そしてイカルの家の地位を上げる為に装者となった、それだけですわ」

 

「それだけで命を懸けられるのかよ」

 

「古い家には古い仕来りがあるのです、イカルの家の誉(ほまれ)とは防(さきも)る事も含まれます、誰かの為に生き、誰かの為に死ねるのは美徳であり名誉なのです」

 

 アンダーカバー、簡単な偽装であるが、これは俺自身の考えでもある、誰かの為に善く生きて善く尽くして善く死ねる事は俺にとっての理想でもあるのだ。

 

 だがそれを聞いた奏さんは俺が今まで見た事のない表情をした。

 

「……あんたの考えは分かった、けどなアタシの前で簡単に「死ねる」なんていわないでくれ、アタシの家族は生きたくても生きられなかった、だから悲しくなるんだ。アタシの考えの押し付けになってしまうかもしれない、けど最後まで「生きるのを諦めないでくれ」それがこれから仲間としてやっていく為にあたってアタシからのただ一つの頼みだ」

 

 悲しげな顔をして、願う様に、祈る様に、俺に「生きるのを諦めるな」と言う奏さんの姿に、俺は。

 

 俺は申し訳なく感じた。

 

 

 でもその時が来るまでは、俺は生き続けるよ。

 

「そんな顔しないでくださいませ、そう簡単に死にはしませんわ。ワタシは天才ですので」

 

 例え死ぬ運命だとしても、生きる事は、諦めないよ。

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