TS転生して最強の装者になって死ぬだけの話   作:ゆめうつろ

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F4/6 遠い場所まで

 その日は、どうしようもないほど寒い冬の日だった。

 目が覚めてしばらく、俺の体はまるで動かなかった。

 

 理由は分かっていた、何も叶わず無駄に死ぬ夢を見ただけだ。

 

 

 

 二課への潜入から半年、俺はついに装者として戦場に立つ様になった。

 

 初めて相対したノイズは思っていたより大きく感じた。

 

 俺は訓練で鍛えられた動きで岩融を振るい、竜巻を起こし、大地を吹き飛ばし、ノイズを消し去る。

 砲弾の様に飛び込んでくるノイズは奏さんと翼さんが防いでくれて、俺を守ってくれた。

 

 岩融はガングニールに劣らない威力と長いリーチを持つが、俺の体に対してあまりに大きく、重さも凄まじい、故に一撃振るえば隙が出来る。

 対ノイズとしてはそこまで大きな問題ではないが、対装者や対人を視野に入れれば全く以て欠陥品だ。

 

 結果として、初めての共闘、チームワークとしては上出来だったかもしれないが俺にとっては課題だらけだった。

 

 

 黒い塵が舞う夕空の下、目に入ったのは逃げ遅れたと思われる人々の遺品と黒い炭、これが俺が救えなかった命だったもの、俺はその炭の塊を手に掬う。

 

 俺が、やらなければ大勢の人間がこうなる。

 

 自分を奮い立たせる為に俺は一握りの塵を持ち帰り、ガラスの容器に詰めた。

 

 

 

 今までそうして来た、これからもそうして行く。

 

 心を奮わせ、覚悟を持てば、俺は何時もの様に起き上がれた。

 

 命燃え、音尽きるまで、息の根止まるまで、俺は戦う。

 

 

 

 思えば遠い所まで来た気がした、まだ辿り着くには遠いが。

 

 ツヴァイウィングのライブに向けて、専用会場、つまりはネフシュタンの鎧の起動の為の施設の建設は既に始まっている。

 

 その際の会議で、危険性を考慮して「避難口の増設」を繰り返し説いたおかげか、多少安全性が見直された。

 それに際して、会場の構造を事細かく記憶し、計算し、フィーネが細工をしそうな場所を考えつつも、俺が細工できそうな場所も探す。

 

 一番は地下の電力室だ、上層のライブ会場の電力供給を請け負うメインの電力室と起動実験の為に使われる電力を供給する予備電力室がある。

 ここが狙えそうだと俺は目をつけている、次に会場のステージと観客席の間の空間だ、この辺りを細工する事でライブを中断させる事が狙える。

 

 ネフシュタンの鎧は「逆光のフリューゲル」を歌いきった時に起動した、つまり歌いきらせなければいい。

 

 とはいえ、この作戦、相変わらず欠陥だらけだ、日々のパルクール訓練で鍛えてるとはいえ、警備員だけではなく警備システム、エージェントそして緒川さんや司令の目を盗んで細工し、さらにフィーネにも気付かれてはならないまである、そこまでして、更にイガリマを無理矢理融合させてフィーネに逃げられる前にカタをつけねばならない。

 

 イガリマと融合できたとしてもアウフヴァッフェン波形という大きな問題があったという事を最近思い出し、これをどうにか検知されない様にできないかと考えたが、まるで案が浮かばず、ライブを中断させてからの時間制限形式でのフィーネ討伐になっている。

 

 

 フィーネがただの人間なら本当に俺が鉄砲玉になるだけで始末できたのだが、無限に転生するというのが本当に厄介だ。

 俺が本当に天才であれば、いくらでも対策を思いつけたのかも知れないが俺は少しばかり運がよく、多くの犠牲と両親の愛のお陰でギリギリ手札を得られただけの凡人だ。

 

 ライブの妨害と施設の破壊はテロリストの専門家の話なんて聞ければ本当に助かりそうなのだが、生憎そんな知り合いはいない。

 

 結局、出来ない事を考える時間は無く、出来る事でカバーする方向にシフトせざるを得ない。

 

 

 

 ライブの日ではなく、その翌日、あるいは前日を狙えばフィーネを倒すだけなら難易度は大きく下がるかもしれない、けれど犠牲を出さない、確実に逃がさない事を考えるとライブの日が最善であり、最悪のパターンである「緒川さんと司令を相手にする」場合になった場合、観客を人質に出来るというメリットがある。

 

 難儀なものだ。

 

 俺は思考を続けながらも会場の警備システムをダウンさせるための増殖クソファイル(ウィルスともいう)を作る。

 まさか前世の罪がこんな形で役に立つとは思わなかった、この間試しに二課のサーバーにType_B(時間経過で自滅する。Type_Aはサーバーが爆発するまで増える)を送り込んだが、見事に二課を10分間程度混乱に陥らせたのでバージョンをアップした強烈な奴を今製造しているのだ。

 

 ちなみに送り元はちゃんと公衆無線にしておいた、システム班がしばらくピリピリしてたが必要な犠牲だ、恨んでくれ。

 ついでにフィーネ、お前も世界の未来の為に必要な犠牲だ、許しは請わん。

 

 クソファイルを完成させ一息つこうとした時、インターホンが鳴る、半年も住んでいれば誰が来るか大体もう決まっている。

 

「なんですか」

 

「遊びに来たぜ」

 

「またですか」

 

 月に半分くらい奏さんが翼さん同伴でウチに来る、もう慣れたものだ。

 

「だってよーアンタ誘ってもこないじゃねーかよー」

 

「奏の言うとおり、行けたら行くと言いながら一度も来た事がないじゃない」

 

「やんわりと断ってるんですから当たり前ですわ」

 

「人付き合いがわりーなー、そんなんじゃ将来苦労するぞ~?」

 

「どんな人間だって必ず何処かで苦労はしますわ、そんな心配よりお二人はいいのですか、ネフシュタンの起動実験も、それ以外のライブも控えているのでしょう?」

 

「それこそ心配しないで欲しい、私達は」

「ツヴァイウィングだからな」

 

「はぁ、あなた達のその自信がうらやましいですわ」

 

 ウチがツヴァイウィングの休憩所みたいな扱いになってからもう随分経つ、二人が持ち込んできたものなんかでウチの中が随分狭くなった、というか翼さんの散らかし癖が尋常じゃなくヤバい、奏さんもなんだかんだ雑なので本棚が滅茶苦茶になってたり、知らないものが増えたり、ゴミが分別されてなかったりする、勘弁して欲しい。

 

「ってかさーライはさー気負いすぎなんだって、もっと肩の力を抜いてさ~」

「私だってそこまで固くはない、休息は大事だぞ」

 

「あなた達がワタシの休息の地を破壊しているんですがそれは」

 

「そんなことねぇよなぁ?翼」

「あたりまえだ、奏」

「そういうわけで多数決でアンタの意見は否定されたぞライ」

 

 強引に押し切られたがいつもこの調子だ、ウチをたまり場にされる最大の問題は計画の準備が出来なくなる事だ。

 機密書類はないし、パソコンはキチンと秘匿しているからバレるような心配はないが、計画の中での重要人物の前で謀り事をする程に俺は迂闊ではない、だから強制的に休ませられる事になる。

 

 そのお陰か前ほど体調を崩す事がなくなったのは……いや、よそう。

 

 確かに心休まる時間かもしれない、けれど、俺が安らぐにはまだ早いんだ。

 

「はぁ……それで、今日は何をするのです?」

 

「初詣に行こうと思ってな、ほらアタシらライブでクリスマスから正月の間は忙しかったからな」

 

「年が明けてからも二課でこそ顔は合わしてきたけど、こうやって外では会ってなかったでしょ?」

 

 

 日付とスケジュールには厳しくなったが、ここしばらく年中行事なんか気にした事も無かった。

 そうか、もう正月は過ぎていたか、忙しくて気付かなかった。

 

「そうですか、別にワタシはその辺りは気にしなかったので気付きませんでしたわ」

 

「それでだな、用意してきたんだよぉ~」

「何をです」

 

 嫌な予感がした。

 

「着物だよ」

「当然雷電の分もあるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 生まれてこの方、実は私生活で着物やスカートに触れる機会というものが少なかった。

 変装術で在る程度知ってこそはいるのだが、使う機会が殆ど無いし、そもそも元が男だった故の拒否感があった。

 

「似合うな~さすが翼」

「何、雷電の元の良さもあるから…」

 

「忍びとしてはこうも視線に晒されると不安になってくるのですが」

 

 本当に最悪というか勘弁して欲しいというかもうやだ、滅茶苦茶目立ってる。

 二人が楽しそうなのはいい、けれどこれは恥ずかしい、翼さんが選んだ着物と、俺が普段通り違和感のない化粧組み合わせた結果、滅茶苦茶視線を引き寄せるものとなってしまった。

 

「失敗しました、失敗しました、失敗しました」

 

「失敗なんかじゃねぇよ、っていうかアイドル目指そうぜライ」

 

「目指しませんよ!ワタシは忍びですわ!影に居てこそなんです!」

 

 あまりに視線が多すぎて、意識の割り振りが限界に達して俺はぐらつく。

 

「あっ……ぶねぇっ!」

 

 そんな俺を受け止めたのは、奏さんだった。

 

「人の、少ない所まで、運んでください」

 

 今にも落ちそうな意識の中でそれだけ伝える。

 

 少しして、ようやく視線が減ってくる。

 

 やがて完全に意識が戻った時には、俺は奏さんに膝枕されていた。

 

「悪い、ライ。アタシらが……」

 

「いえ、術を上手く扱えない私の未熟ですわ」

 

 まるで夢を見ている様な気分だった。

 あの憧れだった奏さんの側にいる、それどころか膝枕までしてもらっている。

 

 この時間が続けばいいのにと思ってしまった。

 

 けど駄目なんだ、これは夢、俺が俺という存在として生まれてしまった以上、これは夢で終わってしまう時間なのだ。

 

 

 もし前世の記憶なんて持たず生まれてこれれば、もっと自分の欲望に正直に生きられたなら、もしフィーネなんて居なければ、ただ奏さんが好きなだけの人間でいられたのだろうか。

 

 いや違うな、記憶が無ければ、この世界でも奏さんを好きになる事はなかったかもしれない。

 

 記憶がなければ奏さんを知らずに生きる事になったのかもしれない。

 

 よそう、叶わぬ「もしも」などは無駄だ。

 

 

 

 それに俺は幸せなのだ、好きな人の為に命を懸けられる事が、俺の命が、奏さんの生きる世界に繋がるのだ、それはとても、幸せな事なのだ。

 

 覚悟はもう出来ている。

 

 

 あまつさえ、奏さんと翼さんが俺を仲間と認めてくれた、それだけで十分以上に俺は貰っていたのだ、だから次は俺が返すのだ、この命で。

 

「奏さん、ありがとうございました」

「無理ならまだ休んでていいんだぞ」

 

「もう少しそうさせていただきますけど、これまでの事も、感謝を伝えて無かったなと思ったので」

 

「なんだよ急に」

 

「感謝を伝えるのに理由は要らないのですわ、たまたま伝える機会があったから、まとめて伝えたいと思っただけです」

 

 

 さあ、覚悟は十分だ。

 

 神様も知らない世界を作っていこう。


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