TS転生して最強の装者になって死ぬだけの話   作:ゆめうつろ

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F5/6 やがて、歌が聞こえる

 始まればいずれは終わる、ここまでやれる事はやった。

 

 雪音クリスの保護、そして帰国と失踪。

 

 詳しい事は記憶にない為、本来辿る歴史との相違点はわからないが、国連軍がバルベルデに巣食うテロリストを壊滅させていく道中で保護されたらしい。

 

 そして日本への帰国と共に護衛の目を抜けて失踪したらしい。

 

 この辺りはフィーネが襲撃して拉致していったものかと思っていたが、そうではなかったらしい。

 

 同時に親父と母上が生存報告を日本に送ってきた。

 

『アメリカ政府に目を付けられてしばらく隠れ潜んでいたが無事帰国できる手立てが完了した』

 という手紙が「ロシア」から来た。

 

 どうやらカナダ経由で北を通ってロシアに渡った様で、今日には日本に帰ってくるらしい。

 

 ここまで出来る事はした、ほぼ建設完了し、設営準備の始まっている会場への細工も、だ。

 

 それも通常の細工ではなく、土遁の術を使ってチェック済みの場所の下に行った細工だ、そうそう発見されまい。

 

 

 後は、そう天に祈るしかできない事ばかり、例えばイガリマとの融合が成功するか。

 これが出来なければフィーネを倒す事がまず出来なくなる。

 

 次に犠牲が出ない事、これも会場にいる数万もの人間を信じるしかない。

 

 そして何よりフィーネが俺の知らない手札を使ってこない事。

 いや、これはフィーネが動く前に俺が潰せば問題ないのだが。

 

 とにかくイガリマ、こいつがなければどうにもならん。

 

 もし俺がどうにも出来なかった場合、切歌に罪を背負わせなければならない、俺が背負うべき罪を。

 

 最近の夢見はすこぶる悪い、失敗する夢ばかり見る。

 元より成功する可能性はあるかないかでいえば限りなく「無い」に近い有。

 俺をこの世に生み出した運命とやらがあるのなら、という前提でだ。

 

 死ぬのは、もう怖くない……といえばウソになる、が何もしないなんて出来ない。

 

 これが俺が生まれてきた意味だと言い聞かせ、まだ耐えている。

 

 俺が死ぬのは全てが終わる時だけ。

 

 ここまでノイズとの戦いを幾度も経験してきた、しかし相変わらず奏さんや翼さんを超える事は出来てなかった。

 だが気付いた、俺が必要とするのは戦闘力じゃない事に気付いた、全てをやり通すだけの意思とそれに必要なだけの力だけ。

 

 それに気付いた時、俺の中のリミッターが外れた様な感覚と共に適合係数の大幅な上昇が起きた。

 

 

 

 これに関してはフィーネも想定外だったらしい。

 

 ライブ3ヶ月前となって今日、突然、俺まで歌手としてデビューする事が決まった。

 立場としてはツヴァイウィングに続く妹分「アローンフェザー」。

 

 俺がデビューする事になった理由はただ一つ、ネフシュタンの鎧を励起させる為のフォニックゲインの足しとなりうる、いや、俺だけでも起動できるかもしれない、と判断されたからだ。

 

 かといって俺に歌唱力の自信はないし、そもそも計画の為には辞退したかった、だが皆が乗り気になってしまい、俺は歌手デビューだ。

 

 しかも来週のツヴァイウィングの予告ライブで俺の紹介まで決まってしまった、俺が苦労して一つの計画を形にしたり、組織内の案を修正するのに半年、さらに奏さんのリンカーの無害化に成功させるまでにも時間をかけたのに、一瞬である。

 

 そう、奏さんのリンカーの無害化に成功した、俺がフィーネをせっついたおかげでこれがようやく実を結んだのだ、おまけにリンカーの除染技術もうまく確立、これで奏さんを生かす手が一つ増えた、喜ばしい事だ。

 

 

 これまで形に見える成果があまりなかったが、こうやって見える様になると少し安堵する。

 最悪、ウェル博士からリンカー製作の協力を得られていなかった場合も二課製リンカーで無理矢理イガリマを適応させるという策も取れるようにもなった。

 

 

 さて、モデルK改と名づけられた新型リンカーは俺と翼さんにも渡されている、それはいざという時の切り札「絶唱」を詠う時の生存率を上げる為。

 

 順調に手札と仕掛けは揃ってきた。

 

 

「ライ、また考え事してるだろ!歌に集中できてないぞ!」

「ええい、なんであなたが指導役なんですか!こういうのは翼さんの役でしょう!」

「アンタに負けっぱなしなのが嫌だからな!」

「そんな理由で!?」

「こちとらテストの成績で負け続けなせいで翼にまでお馬鹿キャラ扱いされてるんだ!」

「知りとうなかったわそんなこと!」

 

 さて、今俺は奏さんと歌唱訓練の最中だ。

 

 奏さんと一対一の歌の授業とかいくら金を積んでもできない様な体験を出来ている俺は幸せものだろう。

 とはいえ、スパルタが過ぎる、考え事をしているのがすぐに気付かれる、こんな状況じゃなければなとつくづく思う。

 

「けど、アタシは嬉しいぜ」

「なにがですか」

「アンタはその気になれば断れたのに、ステージに立つ事を選んでくれた」

「必要だと思ったからにすぎません」

「アタシはアンタの歌好きだぜ、アンタの心が伝わってくるから」

「そうですか」

「いつも何か考えてるけど、それは全部誰かの為だって、伝わってくる」

「自分の為です、誰かを想うのも、自分が傷つかない為」

 

「それに、出会った頃みたいな義務感みたいな生き方じゃない」

 

「それは……」

 

「アタシは嬉しいんだ、アンタが変わってくれて」

 

 

 

 そうだ、俺はフィーネと戦わなければならない運命を前にヤケクソみたいな生き方をしていた、けれど奏さん達と共に過ごして、俺は変わった。

 フィーネを倒し、多くの人を救いたいという目的は変わっていないが、一つ大きく変わった事がある。

 

 生きたい。

 フィーネを倒した後も、生きていたい。

 

 奏さんと、翼さんの生きるこの世界で生きたいと願ってしまった。

 

 

 いつの間にか死ぬのが嫌だと想うようになってしまっていた。

 

 それに俺だけが運命を知っている責任感や引け目の様なものではなく、ただ純粋に奏さんのいるこの世界を守りたいと想えるようになった。

 

 だから俺は、笑った。

 

「そう、ですね。奏さんが居なければ、ワタシはこうやって笑う事もなかったでしょう、ただ戦うだけの存在になっていたかもしれません。奏さんの歌はこんな風に多くの人に生きる意志を与えてきた、これまでも、そしてこれからも」

 

「っ……ちょっと面と向かって真面目な顔で言われるとその……照れる……なぁ」

 

「ですから、ワタシも奏さんがこうやって生きる力を与えていくのを応援したい、守って行きたい、できるなら一緒に並んでその手伝いをしたい……だから歌手としてデビューしよう、と思えたのかもしれませんわ」

 

 奏さんは、俺の心を救ってくれた、多くのものをくれた、だから今度は俺が返す番だ。

 

 そう思えば、力が湧いてくる。

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ、ようやく両親が日本に帰国し、俺は久しぶりに実家で待つ。

 

「待たせたな、雷電」

 

 その声に俺は安堵を感じる、それは間違いなく親父殿だった。

 

「あなたが、ライデンね」

 

 そして知っている声がもう一つ聞こえた。

 しかしそれは母上の声ではなく。

 

「お礼を言いたくて、無理してつれて来て貰ったの」

 

「マリア……カデンツァヴナ・イヴ……?」

 

「あなたのお陰で、私達は救われた」

 

「いえ、そんな、救ったのは私の両親ですし。ワタシが居なくてもあなた達はいずれ自分達の力で救われていましたよ」

 

「それでも、よ。あなたのおかげで私達レセプターチルドレンは皆救われたし、マムも重い役目から開放された、だから……ありがとう」

 

 俺のしてきた事が誰かの為になった、それは嬉しかった、けれど、それを成したのは親父と母上とマリア達だ、何処まで説明しているのかはわからないが俺は切欠になっただけにすぎない、少しむずかゆい思いをした。

 

 

「……その礼は受け取ります、けれどワタシの目的はまだ終わっていないので、その話はまたいつかしましょう、それで親父殿」

 

 

「ああ、イガリマはきちんと受け取った。ついでにシュルシャガナと神獣鏡もな」

 

「上々、いえそれ以上ですね、所で母上は?」

 

「報告へ行っている、外部協力者としてウェル博士を連れてな」

 

「そうですか、で、リンカーの方はどうです?」

 

「それも無事出来た、設計もお前が話していた理論も完璧だったからな」

 

「……これで、後はライブの日を待つだけ、ですね」

 

「俺達も、やれるだけの事はやった、お前もきっと出来る事は全てやっただろう、その上で聞く、本当にその日でいいのか?」

 

「はい、その日が最大のチャンスなんです、ワタシがイガリマでフィーネを葬る事の出来る」

 

 フィーネを倒すに必要な必要な手札は、これで全て揃った、神獣鏡が手に入った事で、生き延びる目も見えた。

 

 

「少し、いいかしら?」

 

「なんでしょうか、マリアさん」

 

「もしよければ、私にも何か手伝える事はないかしら」

 

 

 リンカーという時限式ではあるがマリアという戦力、俺としてはこれほど頼れるものはない。

 

「ならば、たった一つ。ライブの日、観客達を守ってください、それがワタシが一番求めているものです」

 

 フィーネとの決着をつけるのは俺だ、それはそれとして、観客をノイズから守る必要がある。

 俺一人の手ではきっと、いやまず無理だ、翼さんと奏さんが参戦しても全員を守りきれる可能性は低い、ましてや俺は途中でフィーネを殺す為に抜けなければならない。

 

 だがマリアがいる事で、それが可能になるかもしれない。

 

 

 ライブ当日に起こりうるパターンであるが。

 パターンA「ネフシュタン起動後、フィーネが施設を破壊してノイズを呼び出す」

 これが一番可能性としては有り得る、俺がウィルスなどを使っても上手くネフシュタン起動させない、ノイズも呼び出させないというのは難しい。

 パターンB「ネフシュタン起動前に施設爆破と観客の避難の成功」でもフィーネがノイズを出してこないとは限らない。

 どの道、ノイズと戦わなければならない可能性が高い。

 

 となれば巻き込まれるのは観客だが、マリアがいればノイズの犠牲を大幅に減らせるだろう。

 

 後は観客の避難だが、これは両親に任せる、混乱した人々を誘導する忍術もある(本来は暴動なんかでつかうらしい)。

 

 とにかく3人の装者+俺でノイズを始末しつつ、途中でマリアに奏さんと翼さんの足止めも頼む事になるかもしれない。

 それはフィーネを殺す為であるが、フィーネは同時に櫻井了子、二課側の人間なのだ、本来守るべき対象なのだ。

 更にフィーネがレセプターチルドレンとして集めていたマリアが現れる事で間違いなく自分を狙う者の存在に感づき、逃げ出すだろう。

 だからその前に俺が殺す。

 

 

「もしかしたらツヴァイウィングの二人の足止めを願う事になるかもしれません、その時は程々で降参しておいてください、後々、マリアさんには二人とも仲良くなってもらう必要があるので」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

 

 これで、後はやり遂げるだけ。

 

 

 

 

 

 俺がフィーネを、櫻井了子を殺せば、俺だけでなく両親まで罪に問われるだろう。

 だからマリア達レセプターチルドレンの存在やカディンギルの存在、そして「未知」のシンフォギアの存在はフィーネを殺すだけの正当な理由となる。

 しかしそれを俺が何処で知ったかが問題となってくるだろう。

 

 アニメで見たから知っている、なんて通じる訳がない。

 だから在る程度、真実を混ぜた嘘を用意しておく。

 

 書置きには「情報提供者、パヴァリア光明結社、サンジェルマン」の名を残しておく。

 

 フィーネと敵対していて、使いやすい組織としてパヴァリア光明結社は本当に便利だ、最悪、もし何かの間違いで俺が死んで、フィーネが生き残っても互いに潰しあってくれる。

 

 そしてフィーネが生き残った場合即座に二課に俺の知る限りの情報を開示し、フィーネを孤立させる。

 

 その時、俺が生きていなければ……切歌に任せてしまう事になるが……。

 

 パターンC、つまり最後の想定として書き残しておく。

 

 

 遺書、あるいは供述書の書置きを進める。

 

 

 ここまで俺が思っていたより、良い方向に物事は進んでいる、後はこのまま、全てが上手くいく様に願って眠りにつく。

 

 

 

 その日は、奏さんと一緒に歌う夢を見た。

 


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