TS転生して最強の装者になって死ぬだけの話   作:ゆめうつろ

6 / 7
これで完結です


F6/6 永遠の中の刹那

 一瞬、刹那の積み重ねが永遠となる。

 

 俺の、ワタシ達の積み重ねて来た時間がようやく形となる。

 

 

「そう気負うなよ、ライ……じゃなくて今は刹那、だったな」

「あなたなら行ける」

 

「当然です、ワタシは天才なのです。あなた達にだって……負けません」

 

 もうすぐステージが始まる、俺はツヴァイウィングの前座、道を作るのが俺の役目。

 

 

「そう、ワタシは誰にも負けない。例えそれが運命がであろうと、ねじ伏せて見せる」

 

 フォニックゲイン増幅の為に「岩融」を纏い、その上からステージ用の衣装を着る。

 

「だから見ていてくださいませ、このワタシのステージを」

 

 

 言い聞かせる様に呟き、俺は舞台へと舞い降りる。

 

 

 雷電・刹那、それがステージの上での俺の名前。

 

 

 世界に響かせるは圧縮された、最高速(せつな)の物語だ。

 

 

「皆様、今日はようこそおいでくださいました」

 

「ワタシ、雷電刹那。ツヴァイウィングの妹分としてデビューしての初の大仕事、一世一代の覚悟で挑ませていただきます」

 

「それでは聞いてください「刹那」」

 

 今は、今だけは全てを忘れて、歌う事だけに集中する、これが始まりであり。

 

 最後なのかもしれないから。

 

 

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 増幅するフォニックゲインにネフシュタンの鎧が輝きを取り戻していく、それは励起が上手く行っている証。

 

 それを見て櫻井了子、フィーネはほくそ笑む、あの雷電と名乗る少女の常に上を目指し続ける生き様がこうして想定以上の輝きを生み出す。

 

 このペースで行けば歌い終わる前に、起動は完了するだろう、同時に各所に仕掛けられた細工が動き出し、ノイズ達が観客を襲いパニックが起こる。

 

「励起まで残り10秒!」

 

 想定していたより早い、しかしその程度だ、想定や想像を上回る事があっても、自分の敵には成り得ない、フィーネはそう油断していた。

 

「9…8…7…6…5…4…3…2…1…起動!!」

 

 ネフシュタンの鎧が一際巨大な輝きを放つ、その瞬間、フィーネが想定していなかった衝撃と共に施設が揺れた。

 

 自分のしていた細工に加え、予期せぬ衝撃にフィーネは壁に激しく叩きつけられた。

 

「な……何だ!」

 

「施設内で原因不明の爆発と火災が発生!管理システムダウン!」

 

 混乱する地下施設、想定外の出来事にネフシュタンの鎧の回収にフィーネは出遅れた。

 

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 揺れと爆音と共に歌が途切れる、どうやらネフシュタンの鎧が起動した様だ。

 

 そしてステージの一部を破壊しながら現れるのは巨大なノイズ。

 

 観客達が一瞬静まる、いや固まる、その瞬間、俺は全てを込めて叫んだ。

 

 

「うろたえるなッッッ!!!!!」

 

 マイクを破壊する勢いでのシャウトと共に跳躍、衣装の中にあらかじめ生成していた岩融のアームドギアを射出し、ノイズを一閃。

 

 異様なまでの静寂、そして気付く、混乱の中にあった人々の視線を俺に釘付けにしてしまったようだ。

 

 これは不味いかもしれない、誰も避難を始めない、これでは数万の観客を守りながら戦わねばならない。

 

 しかし既に全ては始まってしまった。

 

 ならばと叫ぶ。

 

「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!我が名は雷電刹那、貴様らノイズどもの好きにはさせん!!!」

 

 ノイズには視覚というものはないらしく、どちらかというと大きな音なんかに引かれやすいという特徴がある。

 

 そのおかげか、俺の名乗りに反応し、ノイズもまた俺の方を向く。

 

「かかって来やがれ、有象無象共、ここは天下の大舞台ぞ!」

 

 

 動きにくい衣装を着崩し破って、ギアを半露出させて、俺は自分を鼓舞する為に大げさな動きをとる。

 

 すると空気を読んだのかノイズが一斉に俺に向かってきてくれた。

 

 無双の一振りではない岩融でも、渾身の一振りには成れる、一撃で無数のノイズを薙ぎ倒し、飛び込んでくるモノはアーマーをぶつけて叩き潰す。

 

 怪力無双、一騎当千、一山いくらのノイズごとき、敵ではない。

 

 俺の本当の敵はフィーネであり、時間である。

 

 どうやら端の方から避難誘導が始まったようだが、ノイズはまだまだ湧いて出てくる。

 

 奏さん達は、こっちに来るか、それとも別の方に向かうか。

 

 とにかくマリアと、「クリス」が来るまで、持たせよう。

 

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 照明の落ちた地下施設に、黒い塵が積もる。

 

「ここも塞がれているか、一体何者の仕業だ?」

 

 そこにはネフシュタンの鎧を持った櫻井了子、フィーネが居た。

 

 地下にノイズを這わせ、風鳴司令とネフシュタンの鎧を分断した後、地下にいた職員をノイズで始末し、無事にネフシュタンの鎧は回収した、後はこれを雪音クリスに渡し、そ知らぬ顔で戻れば済むだけの話だったのだが。

 

 逃走用の道がことごとく爆破され、潰されている。

 

 思い浮かぶのは、内部の人間。

 

「まさか、雷電?」 

 

 その可能性に「馬鹿な」とフィーネは笑う、が実際無きにしもあらず、とにかく今はネフシュタンの鎧を持ち出す事を優先しようと新たな道を探そうと振り返った。

 

 そこにはギアを纏った翼と奏が居た。

 

「ネフシュタンの鎧を持って何処へ行かれるつもりですか、櫻井女史」

 

「つ、翼ちゃん!助かったわ、ノイズに追われて逃げてたら行き止まりで……」

 

「なあ了子さん、つまんねえ演技はやめようぜ」

 

「ど、どういう事かしら奏ちゃ……」

 

「あの日のアタシの様に、死に損ねた人間がいた、それだけだよ」

 

「刹那、つまりは雷電の母にあたる人が貴女がノイズを操るのを見たと言っていました」

 

 二人が居た控え室からステージに繋がる通路もまた破壊され塞がれていた。

 迂回しようとする二人の前に現れたのはノイズ、それを退けながら進む中で生き残りの職員達と合流するが、そこに居た斑鳩花梨(雷電の母)と出会い、どうやら仕掛け人が櫻井了子だと知る。

 

 実際は花梨がフィーネの足止めの為に向かった訳であったが、フィーネがソロモンの杖無しで少数のノイズを操るのを見て安全策を取ったのである。

 

「そう、見られていたのね……仕方ないわ、でもこのネフシュタンの鎧が手に入っただけ良しとしましょう」

 

「櫻井了子……てめぇ……!」

 

「後はあなた達を片付けてここを去るとするわ」

 

「させるとでも思いますか……!」

 

「なら逆に問うけど、それを作ったのは私よ?その程度の玩具で、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧に勝てるとでも?」

 

 一瞬の輝きの後、櫻井了子の姿はネフシュタンの鎧を纏ったフィーネのモノへと変わる。

 

「さあ、かかって来なさい。捻り潰してあげるわ」

 

 

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 爆発の衝撃と共に意識が戻る、どうにもまた一瞬「落ちて」いた様だ。

 

 ノイズが観客の方向を向く前に近づき、一閃、雷より早く、確実に、始末する。

 

 観客の数はまだ多い、ノイズの数もまた多い、だからステージと客席の間を高速で駆け抜けながらノイズを始末しなければならない。

 

 今、俺は複数のノイズをターゲットとして意識を分割している、そのせいでさっきから意識が途切れ途切れで思考もブツ切れだ、間違いなく脳がやられかけている。

 

 鍛えてきたつもりだが、やはり俺一人で出来る事の数は限られているという事を嫌という程思い知らされる。

 

 だから、空を見上げた。

 

 

 同時に光が降り注ぎ、ノイズ達をまとめて吹き飛ばす。

 

 

「待たせたなッ!!」

「ワリぃな!少しばかりコイツに慣れるのに時間がかかったんだ」

 

 俺の隣に二人の装者が降って来た。

 

 一人はガングニールを纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 もう一人はイチイバルを纏った雪音クリスだ。

 

 

 

 マリアだけならまだしもクリスもここに来れるとは思っても居なかった、俺も聞かされたのは今朝。

 

 一年前、母上が親父とは別行動でバルベルデに向かい、フィーネや国連より先にテロ組織から救い出し、国連の介入まで共に行動していたそうだ。

 

 そして、帰国後、フィーネによって拉致された「ふり」をしてイチイバルを手に入れた訳らしい。

 

 

「アンタには沢山礼を言わなきゃいけねぇ」

 

「気にしないでください、救われる運命が少し早まっただけです」

 

「ならなおさらだ」

 

「それじゃ礼代わりにノイズを引き受けてくれますか」

 

「当然」

 

 初めて会う彼女が母上とどう過ごしたかは知らない、けれど俺が切欠で少しでもクリスが救われてくれていたなら嬉しい。

 

「マリアさん、クリスさん、ここをお願いしていいですか?私は奏さん達の方へと向かいます」

 

「任された」

「任せろよ」

 

 今のクリスの実力はわからない、けれどマリアは訓練を受けてきていて強い事は知っている。

 

 だから俺は信じる、そして何より、フィーネとの決着をつけるのは俺でなければならないから。

 

 

 ステージの一部を破壊し、俺は地下へと向かう。

 

 

 今にも消えそうな意識の中、後ろから聞こえる二つの歌を信じて。

 

 

 

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 剣と槍は閉所の戦闘では不利だ。

 

 加えてフィーネの防御は硬く、貫く事は疎か後ろを取る事も出来ない。

 

 数の利こそあるが、それだけだ。

 

 既に戦いが始まってそれなりに時間が経っている、元より戦うつもりがなかったが故にリンカーを投与していない奏にも限界が迫っていた。

 

「クソッ!なんてパワーだ!」

 

「同時に攻撃しても駄目、時間差でも駄目、どうすれば……」

 

「だから言っただろう、お前達では私に勝てない」

 

「ほざけっ!必ずてめえはぶっ倒す!」

 

「よく吠える、だがお前達の相手をするのは飽きた……終わらせてやる」

 

 ネフシュタンの鎧から生える鎖の様な鞭を束ね、ドリルの様に回転させ破壊力を増した一撃、それを奏はガングニールで正面から迎え打つ。

 

「くっ……引けねえんだ!裏切りも、アタシ等とアイツの晴れ舞台を潰した事も!絶対許さねぇ!」

 

「奏!これ以上は持たない!ここは私に任せて一度引いて…ッ!」

「ダメだ!こいつを逃がす訳には…ッ!」

 

「ここまでだな」

 

 増した回転の速度、適合係数の下がった状態でのガングニールではアームドギアの強度も既に限界で、ついにアームドギアが砕け散る。

 

 そして、奏と翼に鞭が迫ったその時。

 

 天井を突き破り、影が一つ。

 

「何っ!!?」

 

 右半身に緑色のアームドギアを纏った「彼女」が現れたのだ。

 

「仲間を救う為に観客を見殺しにしたか、雷電刹那」

 

「いや、誰も見捨てては無い。誰も見捨てはしない、頼もしい援軍に任せてきただけだ」

 

 もはや「キャラ」を取り繕う理由はない、「彼女」は本来の口調でそう言う。

 

「ノイズを相手に戦える援軍がいるとでも?」

 

「いるんだよ、フィーネ。お前が用意してくれた援軍だ」

 

「ッッ!私のその名を知っているという事は……雪音クリスか……?愚かな娘だ……だが付け焼刃一人で……」

 

「マリア」

 

「誰だ?それは?」

 

「知らないなら知らなくていい、どうせお前はここで終わる、知る意味もない」

 

 酷く冷たく、「彼女」は言い放つ。

 

「刹那……アンタ……一体……どうし……」

 

 「彼女」が落ちて来た事で吹き飛ばされた奏が身を起こし、「彼女」の背中を見て気付く。

 

 明らかに致命的な傷、黒く染まって今にも崩れそうな肉体から生える緑色の結晶。

 

「奏さん、翼さん、地上へ向かってください。まだ観客の避難が終わってません、フィーネはここで私が倒しますから」

 

「待てよ……刹那、何を言って」

「そんな体で!?無茶よ!」

 

「全てはこの時の為、出来る事は全てして来たんです。ここまで来たのですから誰も死なせたくはないのです」

 

 優しく語り掛ける様に二人へと告げる「彼女」の声はフィーネに対する冷たいモノとは真逆、暖かく穏やかな声だった。

 

「大した自信だ、私をフィーネと知っていての事か?お前が何処でどれだけ私の事を知りえたかは知らないが、お前ごとき只人に私が倒せるとでも?」

 

「お前に答える事は何も無い、ただどちらかが滅ぶ以外、何も無い」

 

 それだけ言うともはや「雷電」でも「雷電刹那」でも「イカルの娘」ですらない「彼女」は駆け出す。

 

「大口を!」

 

 その突撃はまるで自分の命を省みないモノで、フィーネのネフシュタンの一撃を避けようともしない。

 

「刹那ッッ!」

 

 奏が叫ぶ前で、「彼女」の左腕が肩諸共に吹き飛ぶ、だが。

 

 一滴たりとも血が流れる事はなかった、その傷口は黒く染まって、断面からは緑の結晶が覗いていた。

 

「なんだその体は!?」

 

 それには思わずフィーネも叫ぶ、だが「彼女」は止まらない。

 

「シンフォギアだ!!」

 

 残った「彼女」の右腕から3枚の刃が生える、フィーネは「いつもの様に」防壁任せの防御姿勢をとった。

 

 それがフィーネの「敗因」だった。

 

「イ゛ガ゛リ゛マ゛ァアアッ!!!」

 

 それが「彼女」の最期の咆哮であった。

 

 イガリマの絶唱を防ぐ事は叶わない、魂を両断するその一撃はフィーネを葬る為に。

 

 ―Die 切 ザン―

 

 防壁諸共にネフシュタンの鎧を切り裂き、切り裂かれたフィーネの体から血飛沫が噴出す。

 

「ば……かな……滅びる?…私が……?」

 

 状況を把握出来ないままフィーネは後ろに倒れ、動かなくなる。

 

 

 同時に「彼女」も役目を終えたかのように、動きを止める。

 

 

「せ、つな?」

 

 フィーネにトドメを刺した一撃の姿勢のまま動かない「彼女」を前に奏が弱弱しく名前を呼ぶ。

 

 けれど「彼女」は答えない。

 

「あ……アタシらが敵わなかった相手を一撃で……なぁ、刹那。やっぱアンタは最強だなぁ……」

 

 奏よりも先に、翼はそれに気付いてしまっていた、だから声が出せなかった。

 

「なぁ……アンタ言ったよな……まだ観客の避難が終わってないって……だったら一緒に行こうぜ、ノイズなんて一緒に戦えば一瞬だろ……?」

 

 奏は気づいてしまった、しかしそれでも諦め切れなかった、また動き出してくれると縋った。

 

「奏、行こう……刹那の最期の願いを叶えよう……」

 

 それ以上奏は何もいえなかった、既に「彼女」が死んでいた事を受け入れてしまったから。

 

 

 

 倒れる事もなく、立ったままの彼女からは血が流れていなかった。

 

 歌に全ての血を捧げたが故に、少女の体には血が残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 どの時点で彼女が死んでいたかは、もはや彼女自身以外に知る者はいない。

 

 けれど彼女は生きた、「雷電」と「刹那」という仮の名しか持っていなかった彼女は確かに生きる事を遂げた。

 

 フィーネをイガリマで葬り、天羽奏を初め多くの人間を救い、あるべき運命を変えた。

 

 その事実だけが残った。

 

 

 

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 運命は大きく変わった、立花響が融合症例となる事はなく、月が欠ける事もない、世界に存在を知られたシンフォギアシステムは特異災害対策用に研究が続けられ、櫻井了子およびフィーネが遺したデータも回収され解析が進められる。

 

 現存するギアは7基、二つのガングニールとアメノハバキリ、イチイバル、神獣鏡、シュルシャガナ、「彼女」の体から摘出されたイガリマ。

 アガートラームはコンバーターが破損状態で、彼女が使っていた「岩融」は完全に「全損」状態であった。

 

 そして、シンフォギアシステムではないがフィーネの遺体から回収された完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」もノイズ対策に運用される事となった。

 

 

 この先の世界の未来を知る者はいない、彼女でさえ見た事のない、知らない世界が動き出す。

 

 

 

 

 天羽奏は名前の無い墓の前に居た。

 

 結局「彼女」は名を得る事も無く葬られた。

 

「なぁ、アンタは一体なんだったんだ?」

 

 彼女はあまりに多くの事を知り、あまりに多くの謎を残した。

 

「生きてたなら、ただの天才少女、って答えたのかな」

 

 その真実を知る者もいない、けれど。

 

「アンタの両親から一つだけ教えてもらえたよ」

 

 「彼女」の両親もまた姿を消した、きっと表舞台に戻ってくることは無いだろう。

 

「ありがとうな、アンタに貰ったこの命、大事に使うよ」

 

 これから先、多くの苦難が待つだろう。

 

「生きる事を諦めなかったアンタの為にも、アタシも生きるのを諦めないよ」

 

 それでも天羽奏は生きる事を諦めない。

 

 


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