私の記憶に刻まれるのは命の輝き、何度吹き飛ばされても立ち上がる歌の戦士。
当時、あの会場にいた者達の記憶には彼女の姿が消えずに残っているだろう。
雷電刹那、ツヴァイウィングの妹分としてデビューして初の晴れ舞台でノイズと戦い、観客を誰一人として死なせなかった歌姫。
対特異災害用特殊武装「シンフォギア」の発表がされた後も他の装者同様にその素性は政府によって秘匿され、生死すら発表されず、謎のままとなっている。
多くのゴシップ記者にはじまり、あらゆる者達がその足取りを追ったが、決してその行方も、過去をも掴む事が出来なかった。
しかし、事件から2年。
当時のシンフォギア開発者がライブ会場での事件の首謀者であり、既に死亡した事と、それを事前に察知し阻止したのが「彼女」である事が発表される。
相変わらずその行方こそ明かされなかったが、当時の関係者達は改めて彼女に感謝の意を表した。
そして私達は今、「名も無き彼女」の墓前に花を添えている。
「なぁ、刹那。アタシは今度もちゃんと世界を守れたよ、それに大勢守れた、まだアンタが救った数には勝ててないかもしれないけどな」
数ヶ月前、私はある事件に巻き込まれた上で装者となった。
「アガートラーム」の修復で余剰となって研究の為に運搬されていた「ガングニール」を狙ったテロ事件、そこで逃げ遅れてパニックになっていた人達を避難させていた私は偶然にも、いや、もしかしたら必然だったのかもしれない。
ノイズに囲まれた私の目の前に降って来たガングニールを手にし、装者となった。
それからは目まぐるしく世界が変わっていく、親友を巻き込むまいと遠ざけて喧嘩をし、装者となった事を知られ、一緒に戦うと言って聞かず、その上で「神獣鏡」に適合して。
日々、世界に現れるノイズと戦う日々が続くと思っていた矢先に錬金術師という新たな敵が現れ、世界の危機に立ち向かい。
気がつけば、こんな所まで来ていた。
でもいつだって、戦う私の心の片隅には彼女の姿があった。
「刹那さん、こうして貴女の墓参りにくるのは初めてですね、私は立花響。あの日、貴女に救われた人の一人です」
彼女はあの日、自分の命と引き換えに大勢を救った、いやあの日より前から多くの人を救っていた。
「あなたの書いた手紙も読みました「大きな困難にぶつかっても簡単に自分を犠牲にするのではなく、自分の力で足りないならば多くの人と手をとりあって戦う事を選べ」という言葉のおかげで私も大切な事を知れました」
自分を犠牲にして多くを救った人の遺した覚書には何度も「手を取り合え、それこそが答えだ」と書かれていました、それは自分が出来なかった事を、彼女自身の弱さとそれを埋め合わせる様な覚悟が感じられました。
今となっては言葉を聞く事も、彼女が歌う予定だった多くの歌も知る事はできない。
ただ覚悟と共に生きた彼女の事を私も忘れない様にしていきたい。
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こうして戦い続けていると命の危機に陥る事が多々ある、けれどその度に、アイツが「まだだ」と言う。
『信じて、貴女の力、ガングニールを』
神の力に対抗する為には強力な哲学兵装「神殺し」の力を持つものが必要だという、そしてそれが「ガングニール」に宿るという事も。
「アタシが生き残ったのは、この為だったのかもしれないな……」
『違う、貴女が生き残ったのは、貴女が生きるのを諦めなかったから』
「そうか?アンタが生かしてくれたからじゃないのか?」
アイツが笑う。
『私は好きにしただけ、生きたいと思う気持ちは貴女だけのモノ、だから「まだだ」よ』
「……そうだな」
光と共に意識が浮上する、アイツはアタシを笑顔で見送る。
「まだ、アタシは生きるのを諦めないよ」
アダムとかいう奴の「神の力」をアタシと、響のガングニールが共鳴して打ち砕いている。
「何だ!その力はッッ!」
「奏さん!」
「おう、一瞬落ちてたけど問題ねぇ!」
今の一撃は全力でアタシ達を消し飛ばそうとした一撃だったらしいが、アタシ達の「絆」の前では無力だったようだ。
「手を繋げ、絶唱(うた)うぞ!」
アイツが遺した「手を繋ぐ事」そして「共に歌う事」が繋がって生まれた新しい力。
完全な共鳴を起こせるのは一瞬だけ、つまりは「刹那」のチャンス。
「トランジェント・エクスドライブ!!」
見ているか、アンタの遺した歌はまだここにあるぞ。