IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
第1話 プロローグ【沈黙の鎧】
宇宙間対応型パワードスーツ、インフィニットストラトス、通称IS。
一人の天才少女が発表した誰も見たことのない機械。一口に高性能と言うには余りにもスペックの高いそれは世界を揺るがすには充分すぎた。だが当時の世論はその発明を机上の空論、子供の夢想として一方的に突き放した。
だがそのISはある事件をもって世界にその優位性を知らしめた、その時の世間の反応は、歴史上どこにも確認されていないほどの手の平返しだった。
しかし、万能の兵器にも欠点があった。女性にしか動かせないという致命的な欠点が。
ISの登場から数ヶ月余りで世界は女性優遇の社会、女尊男卑社会へと転げ落ちていく。女性権利団体が発足され。その勢力は鼠算の如く膨張し、しまいには政府の一部も取り込んだ。
法律は女性を保護、有利に向けられるように追記され、男性の人的価値は暴落。ISに関係の無い、適正のない女性まで、世界は自分を中心に周っていると錯覚するほどの横暴さを見せた。
ISの誕生から十年余り。過激なまでの女尊男卑は多少鳴りを潜めるも、女尊男卑の風潮は代わらず、水面下で起こる燻りは後を絶えなかった。
しかし、世界という湖面に、一つのイレギュラーというなの大きな雫が垂らされた、それは大きな波紋として広がり、文字通り再び世界を震撼させた。
織斑一夏、第一回モンドグロッソ優勝者、初代ブリュンヒルデである織斑千冬の弟。男性でありながらISを動かした者である。
その知らせに人々は騒然とする。これに対して世界の国家は即座に男性のIS適性検査を実施するも、何処の国からもISを動かした男性の報告はなく、織斑一夏がISを動かせる唯一の男性という事実が確認された。
その衝撃的な出来事から早二ヶ月、世界で初めてISを動かした男というニュースは風化していき、人々は徐々に落ち着きを取り戻していた。
しかし、世界にまた、一つ雫が落とされた。
それは単なる運命の悪戯か、又は誰かに仕組まれたものか。
それはまさに神のみぞ知るであった。
これは、一人の少年が、歪んだ世界に降り立つ、物語。
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン。
「それでは日直、号令」
「起立! 気をつけ! さようならー」
『さようならー!!』
日直の号令と共に、長ったらしい6時限の授業を終えたクラスは机を移動する音で一杯になった。掃除当番をするものは一部を除いて愚痴を吐き出し、そうでないものは我先にと教室を飛び出した。
かくいう俺も、机の横にかけていた鞄を担ぎ、机を後ろに追いやって教室を後にする。
何の気なしにスマホを開き、今日のニュース欄を覗き混む。
だが突如として背中に衝撃が走り、あやうくスマホを取り落としそうになった。ついでに眼鏡もずれた。
「
男友達の一人、村上が勢いよく肩をくんできた、勢いがありすぎて吹っ飛ぶ勢いに文句を言おうとするが、それは別の人物、柴田に遮られた。
「おい村上、疾風転びそうになったぞ。それになんだようんたらって。ヴァーサススカイだろ? カタカナぐらいスラスラ言って見せろ」
「だってよ、なげーじゃんアレ。お前は噛まずスラスラ言えんのかよ柴田」
「インフィニット・ストラトス/ヴァーサススカイ」
「言いやがったよこいつ」
「どう見ても村上の負けです、ありがとうございました」
「うるせえ! 疾風、覚悟しろよ。今日こそ俺の愛機であるテンペスタの真の力を見せてやる」
【インフィニット・ストラトス/ヴァーサススカイ】、通称ISVSは日本が作ったアーケードゲームである。
使用機体は第二回モンドグロッソ大会を参考にしており、そのゲームは男性女性関わらずISを動かせるということから絶大な人気を誇り、今では専用の大会も開かれる。前回の大会では男性が優勝したという。
数年前にコンシューマー版ゲームソフトが発売、発売と同時に瞬く間に売りきれるほどの人気コンテンツとなった。
村上が言ったテンペスタとは第二回優勝者、イタリア代表アリーシャ・ジョゼスターフが駆る第二世代型ISである。
優勝者というだけあってゲーム内の機体性能はずば抜けており、繰り出される近接コンボは圧巻の一言、というよりエグイ。
「強機体使ってる癖に何を言っている」
「しかも負けてるし」
「「テンペスタの名が泣くな」」
「う、うるせー! 今日のテンペスタは一味も二味も違うんだぜ! ちゃんとWikiガン見してきたからな!」
今までWiki見てなかったんか、と心のなかでツッコミをいれる。情報アドはなによりも優先する事だろうに。
因みにこれまでの戦績は俺の全戦全勝、細かい数は覚えていない。強機体を扱う村上のテンペスタに対し、俺が使うのはゲーム内では扱いづらいことで有名なイギリス代表のメイルシュトローム・カスタム。言うなれば弱機体の部類に入るが、扱えるものがいればその汚名は渦に消える。
「村上相当ヤル気なんだけど、どうする?」
「あー。悪い、明日の準備しなきゃ行けないから」
「明日? ああIS学園にメンテしたIS届けに付き合うんだっけ」
「うん、初めて行くからもう興奮が押さえきれなくて」
「糞っ! 一足先に女の園に行くのかお前は!」
厳密には何回か外観は見たことはあるのだが、中には入ったことがない。関係者以外立入り禁止の区域だし、陸の孤島だから近づけもしない。
「あーくそ羨ましい。で、届けるISの名前は何だっけ? ダテツだっけ?」
ISのあるある間違いを言った村上に対して俺の脳内組織がフル回転した。
「ダテツじゃなくて
「ストップストップ! またスイッチはいってるぞ」
村上の声に我にかえる。
「すまん、名称間違いは見逃せなかった」
「相変わらず疾風のIS好きは筋金入りだな」
「まったくだ、おかげで自然に覚えちまったぜ」
「「今間違えた奴が言うな」」
俺と柴田のダブルツッコミに村上はぐうの音も出なかった。出すつもりもないがな。
名称間違いは万死に値する。
「と、ところでIS学園ってさ! やっぱり、その、可愛こちゃんやボンキュッボンなナイスバディ美人がわんさかいるんかな!」
不自然過ぎる強引な話題そらしは男の欲望100%の女性がドン引きする発言だった。周りに人いなくて良かった、本当に。
「知らねえよ。あ、だけど制服着てた女子はまあまあ可愛かったような」
「マジか! くっそ、織斑一夏が羨ましいぜ! 俺がISを動かしたその暁には!!」
「織斑一夏をさしおいて」
「ハーレムを築いてやる、だろ?」
「な、なぜわかったぁ!!」
わかるよ、織斑一夏がIS学園に入ったとニュースで出てから何回も聞いてりゃ自然に覚えるよ。
だが忘れるな、女子の人気は移らないもんなんだぜ? たとえお前がIS学園に入ったとしても、結果はお察しだろう。
「あーあ、下らない愚言に余計な脳内メモリーを使っちまったよ」
「処してしまおう、と女子なら言うだろうね。養豚場の豚を見るような目で」
「一歩間違えれば補導されるな」
「というか、ハーレムなど幻想よ」
「先ずは顔面だよな」
「女尊男卑反対! 男の尊厳を守れぇ! イケメン爆ぜろぉ!」
周りに人いなくて良か(以下略
ーーーーー
村上と柴田と別れ、ある場所に足を運んでいた。村上は何処か涙ぐんでいたが、嘘泣きだろう、多分ね。
さて、学生の帰りとなればコンビニやらゲーセン等が主流だが、俺の場合はそのどれとも当てはまらなかった。
「いつ見てもデカイ、流石大企業レーデルハイト工業様だ」
そびえ立つビルを見上げながら何処か他人事のように呟いた。
【レーデルハイト工業】
イギリスと日本の合同企業であり、日本のIS工業会社の中ではトップクラス。世界でも確実に五指に入る大企業。
日本製の打鉄タイプや、イギリス製のメイルシュトロームの生産、新装備などを手掛けており、研究期間や国軍が扱うISのメンテも引き受けることがあり、世界初のIS操縦者育成専門国立高等学校、通称IS学園の訓練用ISのオーバーホールも受け持っている。そして、レーデルハイト工業はその一大スポンサーでもある。
レーデルハイト工業の特色は他国との技術同盟を積極的に行っていることだ。
それを聞いても別段特別じゃないように聞こえるが、ISが絡んでくると話は別である。IS企業の業績はそのまま国力に直結する、他国よりも少しでも優位に立とうと、お互いの腹の探り合いが横行する競争社会。その中でもレーデルハイト工業は他国企業との競争ではなく協力を選んだのだ。
作り上げられた企業連帯の情報ネットワークは計り知れず、その情報量の多さは、機密だらけのIS業界では一番のアドバンテージになる。
結果、その目論みは大成功、いまのような大企業まで発展し、今やイギリスにも本社に負けない規模の支社が立てられている。
【レーデルハイト工業】とでかでかと刻まれた大理石の横を通り、俺は家に帰るかのように悠々と入り口に向かっていく。
「お、お疲れ様です疾風さん!」
「もう、そんな畏まらないで下さいって言ってるじゃないですか。偉いのは親であって俺じゃないんですから」
「そ、そういう訳には……」
「あはは、ご苦労様です」
入り口に立っていた新人の若い警備員が俺に気づくと慌てたように挨拶をする。毎度毎度この対応なのだから、少しは慣れてほしいものだ。
申し遅れた。
俺の名前は疾風・レーデルハイト。大企業の息子という点を除けば、何処にでもいるISが大好きな、ごく普通の高校一年生だ。
「疾風・レーデルハイト様。確かに確認致しました。今日はどのようなご要件でございますか?」
「地下工房に用が」
「かしこまりました、こちら地下工房に続くカードキーでございます。場所は……」
「場所はわかるので大丈夫です。ご苦労様です」
受付の人に身分証を見せ、俺は地下工房に続く職員用エレベーターに向かって乗り込んだ。
学校帰りにはいつもこの会社の地下工房を見に行くことが日課になっている。生のISを見れる数少ない場所、何度来ても飽きは来ないものだ。
…………まあ、別の目的もあるっちゃあるが。
チーンという音共に静かに動く駆動音と、火花が散るような高い音と無数の人の声が耳に入り込んできた。
「若! おはようございます!」
「ぼっちゃま! おはようございます!」
「疾風様! おはようございます!」
俺が入ってきた途端男性従業員の声が響き渡った。最初の声に連れられるように口々に挨拶をしてきた。一人が挨拶をすればまた近くの人が挨拶。そんな感じで挨拶の波が一気にこちらに押し寄せてきた。
「だああ!! 若もぼっちゃまも様付けも良いですよ! 普通に呼んでくださいと何回言えば分かるんですか! ……せめて統一してくださいよ、ごちゃごちゃして、気持ち悪いったら」
「ははっ、すみません」
「でも嘘は言ってないですよ?」
そういう問題じゃないと言いたいが、このやり取りは今に始まったことではないので、これ以上のツッコミは労力の無駄と悟った。
突然だが、このレーデルハイト工業は普通のIS企業より男性従業員の数の割合が多い。割合にして男6:女4、IS業界では異様な比率だ。
ISによる女尊男卑の世界ではISに関わる仕事に男性が携わることは滅多にない。だが女性には女性のアイディアがあるように、男性にも男性特有のアイディアもある、そして労働力の高さに着手した社長はそれを積極的に採用。現に他のIS企業(採用条件に女性のみと、書かれる徹底ぶり)から弾き出された多くの男性はここに流れ着くことが多い。
上記のことからこの会社は既存のIS関連企業とはかなり異質な存在であることがうかがえる。それでも業績を叩き出しているのだから、侮れない。
「ところで父さん何処?」
「チーフなら、第五作業スペースに……またあれになってます」
「あれか……わかりました」
従業員に言われた通り、第五作業スペースに近づくと、そこには設計図を広げて唸り声をあげている父さんの姿が。
屈強な体躯を、持ちどちらかと言えば大工や土木向けのその様が眉間に皺を寄せて唸る姿は、なかなか威圧感がある。
「お父さん」
「ん~~」
「お父さん! 糞親父! 知的筋肉!」
「むぅん~~」
駄目だね、分かっていたよ。
目の前の屈強な男性は剣司・レーデルハイト。本社工房のチーフであり、社長のアリア・レーデルハイトの夫である。つまり俺の父親。
因みにさっきの従業員が言ってたことはこれのこと、この人は悩んでしまうと周りの声をシャットアウトするほど集中力を発揮してしまう困った癖がある。この状況に陥ると、側で爆発でも起きない限りその集中は途切れることはない。
だがこの状態は慣れっこ。俺は直ぐに対父さん用の伝家宝刀を繰り出した。
「父さん、母さんが……アリアさんが呼んでるよ」
「なに!? 何処、何処だ!?」
はい、この通りである。俺の鶴の一声によって父さんは首が折れるのではないかと言うほどグリングリンと回転した。
父さんは母さんを溺愛している、それも青春真っ盛りの高校生も真っ青な程に。
母さんのためなら火の中水の中地雷原の中。妻の危機となれば、その剛腕でIS用アサルトライフルを担ぎ、突撃するような男である。………………冗談に聞こえるかもしれないが、マジでそれをやらかしたことがある…………らしい。あくまで噂程度だが。
「母さんはいないよ」
「え? あ、お帰り疾風。って、また騙したなお前」
何事もなくあっけらかんと言う父親に俺は思わず溜め息を吐く。
「お帰り疾風じゃないよ。その癖直せって母さんにも言われてるじゃん、技術チーフが他人の話も聞こえない状態ってなんだよ」
「いやーすまんすまん、どうも上手くいかなくてなー。今夜も泊まりかもしれん」
「駄目だよ父さん、明日はIS学園にいかなくちゃいけないんだからさ」
「んーーじゃあこの問題だけ解決したらじゃあ駄目か?」
駄目かって息子に聞くの? 一応チーフでしょこの人は。
「オーケー、何に悩んでんのさ」
「いやな? メイルシュトロームの新型カスタムウィングのモデルなんだがな、出力が安定しないんだよな」
見ると台座に置かれた流線型が特徴のイギリス製IS、メイルシュトロームの翼であるカスタムウィングが不規則な駆動音を上げていた。
「見てもいい?」
「おう」
了解を得て目の前のホログラムキーボードを操作する。
何が悪さをしているのか、目の前に入る情報を一つも逃さずに脳に取り入れる。技術チーフである父さんが見逃すのだから、相当なものだとーーー思ったのだが。
「おっ!? 直った!」
「電圧とスラスターに取り込んでたエネルギーが過剰供給されたことによる安全装置の作動だった」
しかし、こんな単純な誤作動を見逃すとは、らしくもない。が、父さんの顔を見ると、目元にハッキリと隈があった。
「お父さん、いや。レーデルハイトチーフ」
「な、なんだ?」
「今日で何徹目でしょうか?」
ギクッ! と体が硬直、錆びたブリキ人形のように首をそらした父親を冷ややかな目が貫く。
「…………まだ一日だ」
「ほう、じゃあログを見てみようか」
「すいません三徹目です」
「お馬鹿。なんでそんな詰めたのさ」
「いや、だってよ。明日はお前が楽しみにしてたIS学園だろ。だから溜まってた仕事を軒並み片付けようと……」
「こんな初歩的なミスをするくらいならちゃんと睡眠取らないと駄目だと思うのですが」
「仮眠は取ったぞ」
「その結果がこれだ」
「面目御座いません」
「はぁ……。父さんの気持ちは嬉しいけど、自分が壊れたら意味ないって。大体父さんはいつもーーー」
大の大人が高校生に説教されるという不思議な光景が出来上がったが。周りにいる従業員は「またか」という顔で素通りしていた。
ーーーーー
父さんへの説教の後、俺はなんの変哲もない従業員通路を歩いていた。とりあえず父さんには定時きっかりで上がってもらう予定だ。周りの人にも言っておいたし。最悪、縄でふん縛ってでも帰らせろと伝えた。何故かカーストが父さんより高い気がするのは気のせいだと信じたい。縛れと言ったとき皆の返事が良かったのは気のせいだ、うん。
暫く歩き、目的の部屋につく。その部屋は俺とごく一部の人しか知り得ない秘密の部屋がある。
カードキーを差し込み、パスワードを打ち、指紋認証を済ませるとスライド式のドアが俺を歓迎するかのように開いた。
目の前には漆黒の空間が広がっていたが、背後のドアが閉まると同時に部屋の灯りがついた。
そこにはところ狭しと色んな機器が点滅し、中央には鈍色に光る物体、日本の第二世代IS【打鉄】が、全身にケーブルを刺されてそこに鎮座していた。
目の前の物言わぬ物体は勿論起動していない、それなのに威圧感と冷たさを感じさせた。
俺は鞄を床に落としてコンソールに向かい、パスワードを解除、ホログラムウィンドウが浮かび、画面にはwelcomeの文字が現れた。
打鉄が準起動状態のメンテナンスモードになり、機体の真ん中がポッカリとあく。躊躇うことなく機体に乗り込み、外部操作でISを装着した。
「………………」
動かない、当たり前だ。ISは女性にしか反応しない。乗り込むこと事態は出来ても、それはただの鉄の塊に過ぎないのだ。
歩けもしない、飛べもしない、視界が広くもならず、ただ物言わぬ鉄塊が俺の体を縛り付けた。
「…………クソっ」
容赦なく襲い掛かる現実、無力感と悲愴感が胸にたまり息が苦しくなる。
そしていつも、ここにはいない誰かに呪詛を投げ掛ける。
何故【彼】が、何故【彼】だけが動かせたんだと。そんなはずはない、俺でも動かせるはずだ、否、動かさないと駄目だ。
腕だけを外し、ホログラムキーボードに感情をぶつけた、映し出された英語と数字の羅列、様々なアプローチを試みるも、鉄の乙女は見向きもしない。それでも手は止めなかった、止めるわけにはいかなかった。
じゃないと不公平じゃないか、何故動かした、【彼】が動かさなければ、こんな無駄な足掻きをしなくてもすんでいるのに、諦めもついていたのに。
【彼】は何一つ悪くない、それがまた辛かった。
それでも動かせないという事実は、俺の頭を押さえつけた。
作業に没頭するなか、アラームがなった。始めてからもう二時間もたっていた。暫くアラームを止めずに鳴らし続けた、しばらく鳴らして、五月蝿いと感じてアラームを止めて打鉄から降りた。
周辺機器のシャットダウン、跡片付けを手早く済ませる。
「帰るぞ疾風」
「うん」
迎えに来た父親に返事をし、鞄を持って部屋を後にした。
部屋を出ようとしたとき、俺は後ろの打鉄に目を向けた。
いまだに沈黙を保ったまま、微動だにしない鈍色の戦乙女の鎧。
ISのコアには自意識があると噂されている。目の前の彼女は俺を見てどう思っているのだろうか。
知りたい、だけど自分が男である以上、それを知る術は無かった。
俺は部屋を後にする、後ろから遅れて、自動ドアの閉まる音が聞こえた。