IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
ゴチンっ!
「あがっ」
振動で窓ガラスに頭をぶつけて目が覚める、前にもあった気がする。
「疾風、大丈夫か?」
「おお一夏よ……見てた?」
「ばっちり」
寝起き+一夏に醜態を見られて不機嫌な俺は窓を見るも何故か黒一色。え、なにこれ? 夜?
ばっと黒一色の景色、トンネルを抜けると。一瞬で光があふれ、俺は某大佐の様にメガーメガーとなる。と同時に周りが一気にざわついた。
「海だぁぁぁ!!」
「いええええ!!」
「我が世の夏が来たぁぁぁ!!!」
視界一杯に広がる青い海にIS学園女子はお祭りテンションに突入。
元気だねぇ君達。中学生でもここまで騒がないぞ。
遅れて眩んだ目を擦って、外に目をこらすと。
「…おぉ」
一面が青い海、白い砂、そして快晴の青空が視界一杯に広がった。
流石に皆と一緒に騒ぐなどはしなかったが、俺はしばしその光景に目を奪われていた。
今日は皆が待ちに待った臨海学校初日の自由時間の日。
目の前の海は俺達を歓迎するかのように太陽の光に反射してキラキラと輝いていた。
「おー、やっぱり海を見るとテンション上がるな。なぁシャル」
「う、うん。そうだね」
通路を挟んだ向かいの席に座るシャルロットだが、隣に一夏がいるせいか何処か上ずっていた。しかし何処か上機嫌である
その原因はシャルロットの腕にあった。
「それ、そんなに気に入ったのか?」
「え、あ、うん。まあね、えへへへ」
左手首にはまるブレスレットは一夏が彼女にプレゼントしたものらしい、決して高いものではないとしても一夏が選んでくれたという事実がシャルロットの頬を緩ませていた。
「えへへ、うふふっ」
「シャルロット。朝からえらくご機嫌だな」
「うん、そうだね。ごめんね、えへへへへ」
今の彼女にダメージを与えることは不可能だろう。それほどシャルロットの心は満たされているのだ。現にさっきからブレスレットに触りっぱなしである。
「むぅ、シャルロットだけ不公平だぞ。一夏、私にはないのか」
「いやでも、安物だぞあれ」
「異性へのプレゼントは金ではない。と、うちの副官が言っていた」
「あー、今度どっかが行ったときに選びにいくか?」
「ほんとか!? もう一度言ってくれ、録音する!」
「別に録音しなくても忘れねえって」
「約束だぞ!」
普段のクールな雰囲気などその場の犬に食わせた黒ウサギは途端にパーッと明るくなった。
なるほど、これで数多くの女を落としてきたのか。俺もいつか使うときが来るのかねー。
「疾風、何かよからぬことを企んでません?」
「そんなことないヨー」
なんでこいつ察したんだ。
はっ! まさかこいつ! ニュータ
「なあ、宿までまだかかるだろうし、トランプやらないか?」
一夏が手持ちバックからトランプを取り出した。
「いいよ。内容は?」
「無難にババ抜きとか?」
「おっと、ババ抜き? 良いのかい一夏君。俺ババ抜きは無茶苦茶強いぞ」
「自信満々だな疾風」
何を隠そう、ポーカーフェイスには自信がある方だ。これまで村上や柴田相手にトランプをやって勝ち越してきた。相手の顔色を伺う勝負は得意だ。
「そんなに自信あるならさ、賭けしようぜ」
「でたー、正直読めてたぜその展開ー」
「そういうなって、得意なんだから良いじゃないか。内容は一番最初に勝った人が残った人に臨海学校中に一つお願いをする、負けた人はそれを聞くってのはどうだ?」
おおっと。なんとも大胆な物を、いや餌を出したな。でもそんなことしたら。
「勝ったものが!?」
「負けた人に!?」
「お願い、だと!?」
餌を垂らすと一夏ラバーズが釣れた。後ろに走ってる二組のバスに居る鈴が聞いていたらそっちも釣れてただろう。
「一夏! 私も参加する!」
「僕も僕も!」
「無論私もやるぞ!」
バスの座席から乗り出さん勢いで迫ってくる。お前ら、乗り出しすぎると織斑先生がスタンダップするぞ。
「セシリアはどうする? お前こういうの好きだろ?」
「わたくしですか? 別に参加しても構いませんけど」
チラッとセシリアが一夏ラバーズに目を向ける。
鈴の疑問だったセシリアの一夏への好意解釈は即時乙女ネットワークにより各ラバーズへ伝達されている為。セシリアが一夏に好意を向けていないことは承服済みである。
なので。
『どうぞどうぞ』
「では、失礼致しますわ」
セシリアも加わり6名となった。
だけどこれ、目的の相手に命令させるの至難の技だよな。
だってラバーズ視点からしてみれば自分が勝って、なんとかして一夏を最下位にしなければならないのだから。
仮に一夏が最初に勝ってしまったらどうにかして最後まで残るという逆ババ抜きになるし。自分以外の人が勝ってしまったらそれこそ何とかして一夏を抜けさせなければならない。
このババ抜き、思った以上に心理戦になるかもしれないな。
だがそれは一夏ラバーズの話、俺が勝ってしまえば関係ないのである。
お前らには悪いが、勝ちに向かわせて貰うぞ。
今ここに、難易度爆上がりの仁義なきババ抜きがスタートしたのだった。
………5分後
「何故、何故………」
ババ抜き最終戦、手札は合計三枚。ジョーカーとペア二枚という正に最終段階。
残っているのは。実はこういう勝負事には滅法弱いと自負する天才科学者の妹、篠ノ之箒。
その向かいに居るのは。
「どうしてこうなった?」
ポーカーフェイスに自信あり、トランプには強い部類と自負した世界で二人目の男性IS操縦者、疾風・レーデルハイトだった。
そしていの一番にババ抜きを抜けたのは。
「オホホホホ、どうしました疾風、凄い汗ですわよ。バスはクーラーが効いているというのに」
「いやほんとおかしいよねぇセシリアさん!」
優雅に笑うイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。
「なんだよ、なんなんだよ! 勝負開始時点でフルペアで抜けるって反則だろ!」
そう、皆にカードを配られてさあやるぞ! って時にセシリアが。
「あ、すいません皆さん。わたくし上がってしまいました」
『はっ!!?』
まさかの手札全部がペアになってて即捨てからの勝利というスーパーを越えたハイパーラックを発揮したのであるこのお嬢様。ラバーズの目論見が一撃で破られた瞬間である。
勝利の女神が微笑んだなんてもんじゃない、勝利の女神そのものになりやがったよこの貴族令嬢は!
「オホホ、運も実力のうちですわ」
「少し前にも聞いたね、その台詞!」
そしてセシリアに反して俺のバッドラックが止まらなかった。
セシリアが上がったのを皮切りに次々と俺と箒以外の人が抜け出していったのだった。
なにこれ、俺なんかした? 見覚えなんて少し前のミサンドリークソビッチの案件しかないぞ?
「疾風、引いていいか?」
「ちょ、ちょっと待って」
現在俺がジョーカーとスペードの2、箒はダイヤの2が握られている。
ここで箒がジョーカーを引けば勝負は続行、スペードの2を引けば箒の勝ち。セシリアに俺に対する命令権が譲渡される。
「ちなみに疾風、イーグルの初陣の件をここで使うのは無しですわよ?」
「うぐっ! わ、わかってるよっ。んーーこれでどうだ!」
「んなっ!? んぐぐぐ」
後ろ手で二枚のカードをシャッフルし、箒の前に突きだす。ジョーカーを少し上に上げてだ。
途端に箒が眉間にシワを寄せて唸りだした。
俺の予想だが、箒は釣られた餌には敢えて食いつくタイプだ。こうして目立たせれば、ジョーカーを引いてくれるはず。
箒の後ろに座っているセシリアの勝ち誇った顔がちらつく、正直ウザい。
負けられない、ここで負ければどんなのが来るかわからん。幼少は命令を効きまくっていたが。
今の俺は違うともう一度示してやるぞ、セシリア・オルコット!!
「箒さん。出っ張った方ではないトランプだと思いますわ」
「おいセシリア! アドバイスなんて卑怯だろ!?」
「南無三!!」
「あ゙ぁぁぁぁああああ!!!?」
ーーー◇ーーー
ババ抜きの勝負が終わる頃にバスは目的地の旅館に到着した。
降りるときのセシリアの輝かんばかりの笑顔には殺意すら沸いた。
セシリアは「後程ビーチで」と一言。一体何をやらせるつもりだあのお嬢は。
あー、トランプが得意と言っていた自分を今すぐぶん殴りたい。
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
『よろしくお願いしまーす!』
「はい、こちらこそ、今年の一年生も元気があってよろしいですね。あら、こちらのお二方が噂の男の子?」
この旅館の女将さんが俺と一夏を見て目を丸くする。
IS学園はこの花月荘に毎年お世話になっているところらしく、今まで男性生徒を見たことがないから驚いているのだろう。
そりゃIS動かした云々抜いても女子高の中に男いたら驚くわな。
「疾風・レーデルハイトです。本日からお世話になります」
「お、織斑一夏です、よろしくお願いします!」
「これはご丁寧に。
ご丁寧にお辞儀を返してくれた妙齢の女将は裏表を出さない柔らかい笑顔の和風美人だった。今まで見ないタイプ。
「挨拶がちゃんと出来て偉いわねー。立派な男の子ですね、織斑先生」
「こっちの眼鏡はそうでしょうけど、もう片方は見かけだけです」
ズバッと行くな織斑先生は、あーあ一夏に影が見える……
てか眼鏡って言うのやめてくださいよ。俺の本体は眼鏡じゃないですよ。眼鏡取っても透明化しませんよー。
「それでは皆さん、御部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっておりますので、そちらをご利用くださいな、場所が分からないときはいつでも従業員の訊いてくださいまし」
女子ははーいと返事をすると直ぐ様旅館に飛び込んだ。海に飢えておられる。
「ねーねー、おりむー、れーちん」
この特徴的な呼び方をする人を俺は一人しか知らない。
振り向くと例のごとくスローマイウェイののほほんさんが向かってきた、うん遅い。
「二人の部屋ってどこー? しおりの部屋割りに書いてなかったからー、遊びにいくから教えて~」
そういえば書いてなかったな、女子と同じ部屋にするわけには行かないって言ってどっか割り当てられるようだが。何処なんだべ。まさか廊下で寝ろとは言わないよな?
「織斑、レーデルハイト。お前達の部屋はこっちだ、着いてこい」
「あの、俺達の部屋って」
「黙ってついてこい」
斬り捨て御免である。
一夏も呆気にとられながら織斑先生についていく。
「ここだ?」
「え、ここって………」
「でかでかと教員室と張られていますが?」
俺達はいつから教師になったのだろう。
「最初は個室という話だったんだが、それだと確実に就寝時間を無視して女子が押し掛けるだろうということになってだな。結果、私と同室になったわけだ。これで女子もおいそれと近づかないだろう」
正に虎穴に入らずんば虎児を得ず、触らぬ神に祟りなし。流石は織斑先生、自分の影響力をよく分かっていらっしゃる。
わざわざこの巨壁を越えてまで来ることはないだろう、例えあの一夏ラバーズであろうと。
「一応言っておくが、あくまで私は教員だということを忘れるな、特に織斑」
「はい、織斑先生」
「宜しい」
そうして部屋に入る許可が降りたので織斑先生に続いて部屋に入る。
「おおー、すっげ!」
「これはこれは」
またも目の前には絶景が広がっていた。ちょうど海側に面しているそこからは東向きの部屋なので日の出もばっちりと見えることだろう。
しかも教員用と考えても広い。なんだこの厚待遇は。
「織斑先生、ここって一泊辺りどんだけするんですか?」
「あ、俺も気になってた。こんなとこテレビでしか見ないし」
「知りたいか?」
織斑先生はニヤッと笑った。
俺達は織斑先生に淡々と告げられ。おったまげた。
『IS学園ってすげぇ』
それしか言えなかった。
「さて、今日は一日自由時間だ、荷物もおいたし好きにしろ」
「織斑先生は?」
「私は他の先生との連絡なり確認なり色々ある、がーー」
ごほんと咳払いする織斑先生。
「軽く泳ぐぐらいはするとしよう。何処かの弟が選んでくれたものだしな」
何処かの弟、姉がいる隣の弟は百面相タイム突入。
「んじゃま行くか一夏」
「お、おう」
「いらんトラブルを起こすなよお前ら」
「「はーい」」
海水道具一式を持って教員室、もとい俺達の部屋から出ていった。
余談だが、部屋のドアを開けて行きなり山田先生に出くわし、案の定驚いた山田先生が宙にぶちまけた書類の数々を取ろうと試みたのは、また別のはなし。
何はともあれ。
レッツゴー! シー! イエーイ!
ーーー◇ーーー
「………………」
「………………」
「………………」
とテンションを上げながら更衣室に向かう途中だった。
俺と一夏が更衣室に向かってる途中で箒とばったり出くわした。それはまあ良いんだけど。
通路に隣接する和風感な中庭の中心に明らかに場違いな物がぶっ刺さっていた。
「なにこれ、ウサミミだよね?」
そう、ウサミミが生えていた。いや埋まっているというべきか。しかも妙にメカニカル。
しかも『引っ張って下さい』という貼り紙までしてある。なんだこの未確認物体。
「なあこれって」
「知らん私に聞くな関係ない」
「箒、お前これがなんだか知って」
「知らん! 私に聞くな! 関係ない!」
そう言って足早に立ちさってしまう箒。
なんか、篠ノ之博士の話題を持ち出した時と似てたな。
なにはともあれ、こんな得体の知れない物など放置が安定、さっさと海に繰り出すとしよう。
「よしっ、抜くか」
「抜くのぉっ!?」
だが一夏は好奇心がこちらに向いてしまった。
こんな正体不明物をよく触ろうと思うなお前。
「とりあえず抜かなきゃ始まらないだろ」
「何が始まるんだ………わかった。じゃあ俺右の耳な」
俺が右、一夏が左の耳をしっかりつかむ。
「行くぞ? 3、2、1だ」
「おう」
「よしっ3、2、1! おわぁっ!?」
「どわはぁっ!?」
てっきり地中になにか埋まっていると踏んだ俺達は勢いよく引っ張ったのだがスポッと抜けたのはウサミミだけだった。
しかも完全に刺さっていただけだったので二人とも盛大に背中から倒れた。
「いててて」
か、完全に背中打った。
「二人揃って何をしていますの?」
「うげ、セシリア。いやね、今このウサミミを………ぬ?」
ウサミミの片方をもったままの俺は今現在に限って憎き相手の方に向かって視線をやる。しかし俺らは倒れこんでローアングル、そしてその先のレースのついた高そうな白が。
「!? ふ、二人とも!!」
セシリアが一瞬で顔を真っ赤にして自分のスカートをおさえる。
「待て、待つんだ落ち着けセシリア、これはわざとではないそれだけはわかってくれ、話せば直ぐすむ話だからまず落ち着いて」
「ちょっとお待ちになって!? 逆に貴方は何故そこまで冷静ですの!? 人の下着を見ておいて!!」
「だからわざとじゃない。俺が慌てたらお前も慌てて本末転倒になるからと思ったから」
「少しは動揺とかしませんの!? 貴方本当に男!?」
「そこまで言いますセシリアさん!?」
失礼なことをいう! 俺だって人並みに欲情とかするわ!
現に今の下着だって思い出せば鮮明に、思い出すんじゃない! 俺っ!
キィィィィン………
頭のなかで勝手に葛藤していると、何処からかなんか墜落音が………
『ん? ………………うわぁ!!?』
ドガァン! と目の前にダイナミックに何かが落ち、地面が揺れて砂が宙をまった。
砂埃が晴れ、そこにあったのは。
「そ、空から」
「に、ニンジン?」
「ですの?」
「アハハハハハハ! 引っ掛かったねいっくん!」
中からえらく陽気な声と共にパッカーンとメカニンジン割れて誰かが出てきた。
「やっほー! 私! とう! じょう!!」
この上ないハイテンションでニンジンから出てきたのは………えっと、なんだ?
というのも出てきた人の格好だ。某アリスが来てるような青白ワンピ、腰には懐中時計、反対側には猫っぽい紫の毛の束、一夏からメカニカルウサミミを取って紫色のロングヘアーに即装着。
一人不思議の国のアリスの誕生である。
……………………あれ? あれれれ? あれれれれれれ?
この人どっかで見たことあるぞ?
「お久しぶりです。束さん」
「は? ………………………た、たばぁ!?」
普通に挨拶をする一夏に、俺は思わず奇声が出した。
だが無理もないし、それもそのはず。
目の前でアリスってる人は今の世界を作り上げたISの産みの親、人々の前から姿を消し、世界中が血眼で探している希代の
篠ノ之束その人なのだから
「うんうん、ひさしぶりだねいっくん。ほんとーにひさしぶりだねー。大きくなってすっかりイケメンになっちゃってコノコノー。ところでいっくん、箒ちゃんは何処かな?」
「えーと、どっかいきました」
「そっか! まあ、この私が開発した箒ちゃん探知機で直ぐに見つかるよ、じゃあねいっくん! また後でねーー!」
すったったーと走り去ってしまう束さんを一夏は呆然と見ていた。
セシリアはまだ状況を飲み込めず唖然とし。
俺はというと。
「アバババババババ」
目の前の超絶展開に頭がショートしてバグっていた。
「い、一夏さん? 今のは一体誰ですの? 妙に親しげでしたけども」
「お前はモグリかぁぁ!!?」
「キャアアッ!?」
さっきまでバグっていた俺がセシリアの肩をガバッと掴んだ。
「な、なんですの?」
「なんですの!? なんですのぉぉ!? お前本当に代表候補生か!? IS操縦者か!? それともテレビすらない何処ぞの田舎もんなのか!? 人間なのかぁ!? 猿なのかぁ!?」
「お、落ち着いて疾風。一体どうしましたの!?」
「篠ノ之束博士だよ篠ノ之束博士! ISの基本理論とコアユニットを作り出した張本人で箒のお姉さん!!」
「え、あの、え?」
「篠ノ之束! わかる!? 篠ノ之束!!」
セシリアの頭のなかでポクポクポク・チーンと思考が再起動した。
「ええええ!? 今のお方があの篠ノ之博士ですの!? 現在行方不明で各国でも探し回っているというあの!?」
「そう、その篠ノ之束さん」
「やっとわかったか! この脳内お花畑。おい、一夏! なんで篠ノ之博士がここにいるんだ説明しろコラッ!」
「俺にもなにがなんだか、って揺らすな揺らすなぁ!」
因みに臨海学校では『ISの非限定空間における稼働試験』というのが主題であり、代表候補生と企業所属の俺には試験用新型装備が運ばれてくる。
しかし部外者は参加できない仕組みなので装備だけが学園所有の揚陸艇でどかっと運ばれてくるらしい。
しかしそこは篠ノ之束博士。そんなものをバッサリ無視して突入してきた。
「ああ、えらいこっちゃ。えらいこっちゃぁ」
「落ち着けって疾風」
「落ち着けるかドアホ! と、とりあえず織斑先生に報告してくる!」
俺はおぼつかない足取りで織斑先生を探しにいった。
ーーー◇ーーー
「学園からの貨物の状況は?」
「はい。各専用機のオプションパーツ、学園からの試験装備の搭載は順調に進んでおります」
「うむ。門倉先生、更識代表候補生は」
「専用機が届いてないそうなので、今回は練習機の班に配属されます」
「よし、では会議は一時終了とする。解散」
花月荘の一室で教師陣が次の日の算段を纏めあげていた。
ようやく目処がたち、ここからは教師陣も海に繰り出すもの、生徒の安全と監視班に別れることになる。
「織斑先生は海に行くんですよね?」
「ああ、愚弟が選んでくれてな。着ておかないとあいつが拗ねるといけない」
「織斑君はそんな風にならないと思いますけども」
「どうだろうな」
摩耶と別れた千冬は一度水着を取りに自室に戻った。
山田先生には言ったものの、千冬自身も久々に羽を伸ばせることもあって内心穏やかである。
第二回モンドグロッソの事件から三年あまり、ドイツの教官からIS学園の教師。今年に入ってからの山済みの問題に千冬は休まることを知らなかった。
そして明日、おそらく来るであろう災厄に現在進行形で頭を痛めている。
せめて今日ぐらい、ほんの少し羽目を外してもバチは当たらないはずだ。
と、千冬は肺にたまった息を吐き。
ドガァン、と振動が足元に届いた。
「なんだ?」
明らかに物が倒れたレベルではないが、それでも確かに揺れた振動に千冬は眉を潜める。
「織斑先生!」
「何があった」
「分かりません。中庭のほうだと思うのですが」
「わかった、私が確認にいく。皆はその場で待機だ」
連絡に来た先生に指示を出し、千冬は現場に向かった。
まさか、と頭をおさえながら現場に向かおうとしたその矢先だった。
「あぁぁ! いたいたいた! 織斑先生ーー!」
廊下の向こうから尋常じゃない顔の疾風が角にぶつかり、何度も転びそうになりながら千冬の前で止まった。
「おり! おりむら、織斑先生!!」
「レーデルハイト。何かあったのか」
「えと、えっとそのですね! えーとっ、ゲホッゲホッ」
「落ち着け、息を整えろ」
激しく咳き込む疾風の背中をゆっくり擦る。
「ゲホッゲホッ、おぅぇ。ふーふー。すいません」
「何があった」
疾風はようやく息を整える。そして話をしようとためらったあと、早口でありのまま起こった事を話した。
「庭に刺さったウサ耳を一夏と一緒に抜いたら空からニンジンがふってきて中から一人不思議の国のアリスをした篠ノ之博士がニンジンからパッカーン! して箒を探しにスタタタターと何処かへ消えていきました!!」
「………………」
お前は何を言ってるんだ、頭大丈夫か? と言われるような内容だが。悲しいことにそれが有り得てしまうのが篠ノ之束という奇人なのだ。
「すいません、何言ってるかわからないですよね。でも嘘偽りは全くなくて」
「わかっている。ご苦労だった、後は私に任せて………」
「あ! ちーちゃん! はっけぇえん!」
噂をすれば影、千冬の後方からドドドドと無駄に音をたてて束が走ってきた。
千冬が特大のため息を吐いた。
「会いたかったよちーちゃぁん! 共に愛を語り合お」
「死ね」
「かぶとむし!!」
飛びかかった束を千冬は鮮やかな上段回し蹴りを叩き込み、隣の部屋に吹き飛ばしてふすまを閉めた。
「レーデルハイト、あの珍獣は私に任せてお前はさっさと海に行け」
「えと、あの人は」
「この事は他言無用だ。そら、早く行け」
千冬は先程束をぶちこんだ部屋に入っていった。
「もおっちーちゃん! 行きなりあんなキレッキレのキック叩き込むなんて照れ屋さんなんだから………ちょ、ちょっとちーちゃん? 痛いよ? 痛い痛いアギャギャギャギャ! ちょっとちょっと、なんで束さんの胸をそんなパン生地みたいに捻るの!? もげる! 束さんのスーパーバストがもげるぅぅ!」
「もげろ、そして胸に行った倫理観を少しでも頭に戻せ」
「束さんの胸は倫理観で出来てるの!? あーやめて! 私のロケットが垂れちゃうぅぅ!!」
「………………行くか」
ここにいても自分は何もできないと悟った疾風は千冬に言われた通り、セシリアが待っているであろう海に繰り出すべく、その場から立ち去ったのだった。