IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
いやー。年末投稿間に合いませんでしたすいません!!
スマホのタップがいまいち機能しなかったりと。弊害ありまくりの中書ききりましたが、なんとか投稿出来ました。
今年も頑張りますので、応援宜しくお願いいたします!
「………で、あるからして。射撃戦における要素は『弾速』『距離』『予測』の主に三つが大きく割合を占めています。動いてる相手に当てるには………」
五時間目のIS筆記授業。
窓側最前列というベストポジションにいる簪はボーっとした面持ちで授業を聞いていた。
聞いていると言っても全然頭に音が入ってこない。普通ならこの状況で当てられたら慌てふためくのが定石だが。
「更識さん」
「は、はい」
「問3の問題、答えてくれる」
「はい。───です」
「正解よ」
元々頭に完璧にインプットされてるからサラサラと答える事が出来るので問題はない。
だけど簪にとって別の問題がある。
疾風とのタッグ申請の件だ。
気がつけば今日はタッグ申請の締め切り日。
簪が待ってて欲しいと言ったとおり疾風はアレからタッグのことを持ち出したり急かしたりせず。ほどよい距離感で接してくれた。
その数日間まったく関わり合いがなかったといったらその限りではなく。すれ違えば挨拶や会話をし。食堂で会えばアイアンガイの話に花を咲かせながらご飯を食べた。
IS製作には関わらなかったが、試験飛行の際にダブルチェックの相手としてISを見てくれることがあった。
その時に疾風が整備科でもないのに高校一年生の段階でIS整備資格二級を持ってることに驚いた。ISを動かす前から取ってたらしいが。家が大企業だから学ぶことが多かったのだろう。小さい頃から通ってたと言っていたから。
(………………初めてだったな………私の為に、あんなに怒ってくれた人)
家では出来の悪い妹として陰口を叩かれ。かといって不用意に近づく人もいない。
かけられる称賛は下心の見えるごますりで、怒鳴られる時は揚げ足取り。
あの家で私を怒ってくれた人なんて、誰もいなかった。
甘やかされてる訳でもなく。腫れ物のように扱われ。ただただ適切な距離感を取った、よそよそしい空間が簪にとっての更識家だった。
『死んだらそこで終わりなんだぞ』
半分泣きそうな声で言われた言葉は胸に残り続けた。
姉である楯無でさえ踏み込まれたことのない簪の心のうち。
強引に来るわけでもなく。いつの間にか簪の心には、疾風・レーデルハイトという存在が確かにあったのだ。
(知らない。こんな感情は知らない。私はどうしたいのだろう? わからない、わからないことだらけだ)
胸にある熱い鼓動。思考が麻痺するほどの高揚感。とめどなく溢れる自身への疑問。
(彼と、タッグ。どうしたら。わからない………でも)
勇気を出して、確実な一歩を踏んでみても………
『何度言ったらわかるのかしら?』
「っ!」
思わず後ろを振り向くと。そこには完璧な更識家当主たる更識楯無がいた。
彼女の目元はぼやけていたが。冷ややかで、嘲るような視線を向けられていることはわかった。
『あなたはなにもしなくていいの。だってしたところで全て無駄になるのだから。そんなことしてなにになるの? 誰とも関わらずに一人でいれば。裏切られない。失望もされない。それはあなたが一番わかってるはずでしょ』
(い、いや………)
幻想の声が耳に、鼓膜に、脳に響き渡る。
耳を塞いでも聞こえてくる。
脳にこびりついた呪詛は度々簪の心を締め付け、縛り上げる。
『だからあなたは』
(やめて………)
『無能なままでいなさいな』
(ううっ………)
残酷な幻が簪の心を蝕んでいく。
身体が震えて声が出ない。
だけど。
『無能なままでいなさいな』
(私は………それでも………)
『無能なままでいなさいな』
(前を向いて……私は………レーデルハイトくんと………)
『無能なままでいなさいな』
くじけそうな足に気合いを入れ。前を向いて歩こうとした。
自分のために頑張ってくれた人がいる。自分の答えを待っている人がいる。だからこそ足に力を入れて立とうとする
だが鼓膜にこびりつく呪詛の声が更に群をなし、簪の足を掴んで離さない。
『無能なままでいなさいな。無能なままでいなさいな。無能なままでいなさいな。無能なままでいなさいな。無能なままでいなさいな』
姉の幻覚というノイズに段々と密度を増し、反響し、彼女の身体を下へ下へとのしかける。
もう一度殻に入れと。巣だつ雛鳥に蓋をするようにのしかかり、簪の心をまたも壊しにかかった。
(私は………私はっ)
『無能なままで………』
「なあ、いつまでそんなのに構ってるんだ?」
幻聴を遮った声に簪は下を向いていた顔を上に向けた。
そこには、何処か呆れたような顔を浮かべた疾風の姿が。
「よくもまあ、ありもしないワンフレーズでそこまで自分を追い込めるよね」
「レーデルハイト、くん?」
『無能なままでいなさいな』
「会長がお前をどう思ってるかなんてもうわかってるだろうに。簪さんが知る会長は本当にそんなことを言う人か?」
『無能なままでいなさ………』
「うるさい邪魔だ! お前は黙ってろ!」
疾風が腕を振ると幻影の楯無は霞となって消え。簪を苦しめた幻聴は聞こえなくなった。
「壊れたカセットテープかっての。まったく」
「………………」
瞬く間に消し去った力強い姿に、簪は口を開けたまま固まった。
「んで? 一歩を踏み出せないみたいだけど。どうして?」
「え!? だ、だって、わからないもの。全部がわからない。あなたのことも、お姉ちゃんのことも、私のことも。わからないのは怖い。でもどれだけ考えてもわからないの」
「もう自分が何をしたいのかはわかってるのに?」
「え?」
「本当に嫌ならそんなに疑問だらけになるわけないじゃないか。簪さんはただ踏ん切りがつかないだけ。簪さんの心はもう決まってるだろ?」
「で、でも………」
「わからないといって何もしなかったら。前に進めない。会長に認められることも、会長に見て貰うことも出来ない。コミュニティを広げれば、それだけ見える景色も違う。これまで経験した出来事で、簪さんは何を思い、何を感じた?」
彼の問いかけに簪は疾風との思い出を浮かび上がらせる。
彼に初めて声をかけてもらい。
彼にタッグを持ちかけられ。
彼と映画を見て、語り合い。自分の心のうちを見られ、初めて感情を爆発させた。
彼のご飯に唐辛子をぶちまけるという非現実的な行いをしたこと。
彼に助けられ。そして、自分のために怒ってくれたこと。
考えてみれば。ここ最近は彼との出来事でいっぱいだ。
いつしか簪は、打鉄弐式や姉よりも。疾風・レーデルハイトのことを考えるようになった。
「俺は待ってるよ、簪さんが一歩を踏み出すことを」
縮こまる簪と目線を合わし、彼は優しく手を差しのべて言った。
「俺と一緒に行こう! 簪さん」
「………………うん」
差し出された手を掴み、簪は立ち上がった。
ーーー◇ーーー
「いやー、遅くなった遅くなった。もう急に仕事入るなんてタイミング悪すぎ」
夕日のオレンジに彩られた校舎を早歩き。
今日はタッグ申請締切日。その答えを聞きに行くべく彼女がいるであろう第6整備室に向かう。
一応通り道にある簪さんのクラスを覗いてみよう。流石にこの時間はいないと思うが………
「いたし」
いた、いましたわ。
オレンジ一色といってもいいぐらいの空間にただ一人ポツンと机の上に頭をつけて眠っている。
「かん………」
起こそうと思ったが、やめた。
寝てるならそのままにしておくのがいいだろう、とくに彼女の場合は。
受付終了までには少しだけ時間があるし。
簪さんの前の席に失礼し、バススロットから円卓物語を取り出す。
何度読んでもこれは飽きない。これを皮切りに英語を学んだからな。今ではスラスラと内容が頭に入るようになった。
10分くらいたっただろうか。
チラッと横目で簪さんを見ると、彼女はメガネを外していた。
瓜二つ、といってもいいぐらい。簪さんは会長に似ていた。姉妹なんだから別に不思議ではないんだけれど。
………俺と同い歳の女の子が自分を出せず、陰口を言われてしまう家って、どんなものなのだろう。
俺の家はそんなことはなかったし、愛されてる自覚はあった。やっぱり俺は簪さんの言う通り恵まれてるのだろうな。
それがなんだ、って訳ではないけれども。
簪さん、起きたらなんて答えてくれるだろうか。
答えてくれる、と願望を抱いているが。現実問題そううまく行くと断言は出来ないもので。
でもやっぱり期待しちゃうもので。
彼女が寝てるのをいいことに、待つと言った癖にポソッと口を漏らしてしまうのだった。
「俺とペアになってくださいますかねぇ、簪さん」
「うん」
「うん………うん?」
「え?」
「お?」
幻聴か、いや幻聴ではない。パッと簪さんの方を見ると寝ていた時に閉じていた目蓋は開いており、そのルビーと見紛うほどの赤い瞳がこちらに向けられていた。
「簪さん、今」
「え、えっと」
「今うんって言った? 今うんって言った!?」
「そ、その」
「じゃ、じゃじゃあ! 早く受付に行こうか。もう時間も迫ってるし!」
「れ、レーデルハイトくん!」
急いで立ち上がって今にも走り出しそうな俺を引き止めた簪さんはひとしきり目を泳がせる。
「わたし。その………寝惚けてて………」
「………寝惚けてた?」
コクリと頷く簪さん。
暴走したテンションは一気に冷やされ、ドサッと座った俺は思わず両手を眼鏡の下に滑り込ませた。
「恥ずかしい。舞い上がりすぎて恥ずかしい」
「ご、ごめんなさい」
「いやいやいいのいいの。俺が勝手に盛り上がっただけだからさ。うわーはっず」
危ない危ない。思わず簪さんの手を取って受付に直行するところだった。
顔が、熱い。
対する簪さんも顔を真っ赤にして頬に手を当てていた。
(わ、私寝惚けてて。というか、寝顔みられた!?)
穴があったら入りたいと視線をそらすと。ふと彼の手にある本に気づいた。
「………フーー。オッケー落ち着いた。悪いな簪さん」
「ううん………あの」
「ん?」
「随分、古そうだね」
簪さんの視線の先には、彼女が寝てる時に取り出していた『円卓物語』だ。
「これか? これは友達から貰ったものでさ。どんだけ古いかはわからないけど。アンティークレベルで古いという話だ」
「大切なもの?」
「うん。挫けそうな時とか。心を落ち着かせようと思ったときに読んでる。お守りみたいなものだな」
「今は、どっち?」
「後者かな………これから答えを聞かないといけないし」
横向きに座っていた椅子を簪さんの方に向けた。
「答える前に、一つ聞いてもいい?」
「どうぞ」
「………どうして、オルコットさんと組まなかったの?」
予想してなかった問いに少しばかり顔に動揺が走った。
まさかここでセシリアについて言及してくるとは。
「あなたとオルコットさん、仲が良いって評判だった。なのになんで組んでないのかって。私に声をかけた時に私以外の人はみんなタッグを組んだって言ってたけど。本当にそうだった?」
「嘘ではないよ」
「本当ではないんだ」
「………」
言葉遊びとも取れる問答だが、簪さんの意図してることが何かはわかった。
「タッグマッチの話が出た時から、あなたとオルコットさんは急に仲が悪くなった。学校中で噂になっていたから私の耳にも入ってた………私が原因なんでしょう?」
「それは」
「私の予想だと。あなたはオルコットさんと組む段取りを決めていた。そこにお姉ちゃんが来て、私とのタッグを持ちかけた。そこで関係が拗れて今に至る、おおかた、私の専用機の製作とかを持ちかけられたとか。レーデルハイトくんは、筋金入りのISオタクだもの」
これはなんとも。なんとも。
というより。簪さんってこんなスラスラと喋れたのか。いつもどもったりとぎれとぎれなのに。
「ぐぅの寝もでない。簪さん探偵に向いてるよ」
「私と組む。お姉ちゃんが絡んだ。オルコットさんとの不仲。これを順序だてたら、自ずとそういう結論に至る」
「それでもここまで細かく言い当てられると流石に」
この子洞察力というか、頭の回転力がヤバい。
他人よりは少し頭が回ると思ってる俺でもここまで正確に言い当てられる自信がない。
「確かに。最初はセシリアとタッグを組む手筈だった。彼女が部屋を出た後に会長が来て、俺に君とのタッグを組んでくれと言ってきた。それをセシリアに聞かれて、今に至る」
「でもわからない。オルコットさんと一度は組んだという話になったなら断れば話が丸く収まると思うのだけれど」
ぐっ、やはり鋭いぞこの子。
「………その、一回だけやりますって言ったんだよね。簪さんの専用機作りを条件にタッグを組めって、無意識に」
「無意識に?」
「会長曰く教唆術ってやつらしい。途中で正気に戻ったけど時既に遅しで」
「えっ! お姉ちゃんの教唆術を破ったの!?」
「え、驚くとこそこ?」
「だ、だって。お姉ちゃんの教唆術の凄さは更識の間で有名だし」
えー、あんときそんなヤバいのかけられてたの?
シスコンここに極まれりもいい加減にしてほしい。
よく抜け出せたな俺。
「まあ、その教唆術とやらで誤解が生じ。いや、先導されたとはいえ本心だったから誤解とは言いきれないこともないけれども。セシリアとのタッグは破綻。その後もズルズルと仲直りの糸口を掴めぬままここまで来てるって有り様だ」
「………」
「別に簪さんはなにも悪くないからな?」
「わ、私はなにも………」
「そうかな? 申し訳ないって顔に書いてあったからてっきり」
「っ!」
ハシッと簪は自分の顔に手を当てた。
自分でも感情を出しづらいと思っていたのに、彼の前ではそれがなくなっていることに驚いたからだ。
「その、いいの? 私と組んで。オルコットさんに悪いんじゃ」
「もうその段階は飛び越えちまった。今は簪さんとのタッグに集中する」
「後悔、しない?」
「するんだったらアレ食べきらないから」
「その節はごめんなさい」
うん、出来れば二度とやらないで欲しい。
今度こそ舌が死ぬ。
「………あの」
「うん」
「えっと」
「うん」
一回、二回、三回深呼吸をし。簪さんは言葉を紡いだ。
「…レーデルハイトくん………………私と、タッグを………組んでくれますか?」
「勿論。これから宜しくね」
差し出した手を取り、簪さんと固く握手を交わした。
ここに俺と簪さんのタッグか結成された。
「フーーーよっし! よしよしよし!!」
「そ、そんな、喜ばなくても」
「喜ぶよ。頑張って誘った甲斐があったってもんだし」
「でも、私が誘わなくても山田先生と出れたんでしょ?」
「あーあの話はなしにした」
「えっ?」
「もし簪さんと組めなかったら俺はそのまま会場警備の任についてタッグマッチトーナメントには出ないことになったんだ」
「そうなの?」
「そうだよ」
一応織斑先生から確認の連絡が来たけど。
特に何事もなく話が通ったんだよな。
「じゃあなんで。それを話さなかったの?」
「だってそれを引き合いに出したらさ。もしかしたら簪さん、俺に迷惑をかけまいって気持ちでオッケーしたかもしれないじゃん」
「それじゃだめだったの?」
「だめ。簪さんから心を開いていかない限り意味がない。間に合せのタッグで挑んでも。勝てる戦いも勝てない」
ただでさえ今まで関わり合いがなかった俺と簪さんだ。
お互い意志が通ってなければ連携にもズレが生じてしまう。
そんな付け焼き刃にもなってないようでは………
「会長にだって勝てないだろ?」
「え? お姉ちゃんに、勝つつもりなの?」
「そりゃあ出るからには目指すは優勝だよ」
「そ、そんなの。無理」
「やってみないとわからないよ」
「だ、だって。お姉ちゃん学園最強で国家代表なんだよ? それに。この前織斑くんと二人で挑んでも勝てなかった。お姉ちゃん余裕噛まして油断してたのにも関わらず」
「言うねえ簪さん」
地味に言葉のナイフが鋭い。
てか今さりげに姉をディスってなかった、この子。
「簪さんは会長に勝ちたくないの?」
「か、勝ちたい」
「認められたくない?」
「認められたい」
「ならやってみないとな。簪さん」
「………うんっ」
少し目が揺れているが。簪さんの意思は固まったようだ。
游ぎがちな目はしっかりと俺の目と視線を合わしてくれている、
「とりあえず受け付けに行こうか簪さん。割りと時間ないわ」
「………レーデルハイトくん」
「ん?」
「さん、いらないから。呼び捨てで呼んで」
「わかった。じゃあ、俺も呼び捨てで呼んでくれ。改めて宜しく、簪」
「うん………疾風」
ーーー◇ーーー
受け付け(時間ギリギリで注意された)を済ませた俺と簪はその足でいつもの第6アリーナのハンガーに向かった。
これからの方針を決めるためである。
「んじゃあIS宜しく」
「………おいで、打鉄弐式」
簪さんのISの待機形態であるクリスタルの指輪が打鉄弐式に変わる。
各部スラスターは高機動仕様に。腕部装甲は原型機より遥かにスリムになっており。色も明るい銀鼠色。
パッと見たら目の前に鎮座するISが打鉄の後継機とは到底思えない。
だが………
「んーー。やっぱところどころ打鉄のパーツがチラホラと。というより内部機構はほぼ打鉄だよな? おっ、この背部のアタッチメントパーツ。もしかして打鉄の既存パッケージつけれる感じか?」
「うん。凄いね疾風。本当に原型機とは別物のデザインなのに」
「打鉄は本当に飽きるほど見たからさぁ。やろうと思えばバラしてから作り直すことも出来る………筈だ!」
「やったことないんだ」
流石にね。そこまでいくとライセンスいるし。
しばらく機体を観察してみる。やはり惚れ惚れするデザインだ。
元のデザインからどれだけ変更したかはわからないが、とても丁寧に仕上げられている。
「機体自体もう出来てるのか。あと何がある?」
「武装がまだ全然。システムも修正が必要。あと、稼働データが明らかに足りないから。戦闘機動は到底出来ない。完成度は70%ぐらい」
「大したもんだ。ここまで一人でやるとは。機体調整のやり方は誰かに教えてもらった?」
「基礎的な物だけ。あとは独学」
本当に凄い子だ。
全ては姉に認められたいという思いからなのに。姉妹間の仲が現状だとは信じられん。
見事に一方通行で交差してる。
「武装はなに?」
「超振動薙刀、
「ほうほう。打鉄弐式って第3世代ISなんだよな? 武装を聞いた限りだと第3世代感ないけど」
「打鉄弐式の真価は。高機能マルチタスクCPUと併用した山嵐。ISから誘導データを組み込まれたマイクロミサイルは、異次元とも呼べる機動を可能にする。撃ち出された後もデータを追加すれば、更に複雑な機動になる」
「つまり、データを取れば取るほど対応パターンも広がり、相手に合わせた最適な攻撃が出来るというわけか」
「うん。でもそれを一々打ち込んでいたらロスだし。私の頭もパンクする。それを起こなさない為に、学習したパターンをデータ化。私が考えた機動をISが読み込んで。ストレージデータから最適解を導きだして攻撃するの。上手く決まれば、48発のマイクロミサイルが敵の攻撃を掻い潜りながら攻撃する。これが山嵐のカタログスペック」
「………………うわっ、エグッ」
簪に見せてもらったスペックを見てボソリと呟くのも無理はなく。
山嵐はただのマイクロミサイルではない。
超高性能識別カメラと簡素でありながら大容量の小型AIユニット。誘導性を高めるための方向転換用のスケイルフィンと。
その小さな体躯によく納められた物だという代物が一発一発につまっている。
これが鬼誘導で獲物に食らい付き、しかも一発撃ち落としても兄弟殺し(ミサイルの爆発によって近くのミサイルが立て続けに誘爆する)をすることもないミサイルが立て続けにくる。
48発のマイクロミサイルというだけでも驚異なのに、やろうと思えばバススロットリロードで立て続けにもう48発。つまり計96発の山嵐が襲いかかったら?
考えるだけで寒気がする。
まあ過剰火力だから極力そういうのはないだろうが。
「化け物だな」
「でも、それはデータがある程度満たされたらの話。今の打鉄弐式ではとてもじゃないけど。それに、マルチロックオンシステムも完成してないから」
「AIユニットなら。俺のイーグルからなんとか抜き出せるな。工業に許可申請送っとくよ」
「いいの?」
「いいの。ここまで来たんだから遠慮すんなって。存分に頼れよ簪。自分で言うのもあれだけど、結構便利だよ、俺は」
「うん、わかった」
「他の二つはどうなんだ?」
「夢現はもう完成してる。これは元からある装備を少し強化しただけだから。あとは春雷、荷電粒子砲がまだ」
「荷電粒子砲、か」
荷電粒子砲。各国でも開発は進められてるが。量産に至る程のスペックを叩き出せておれず、試験兵装の域を出ない。
だけど、俺は身近に荷電粒子砲を使える奴を知っている。
「簪。一夏の白式雪羅から貰おう」
「織斑くんの?」
「あの荷電粒子砲、月穿は世界でもっとも完成された荷電粒子砲だ。データにはこれ以上の適任はいない。これからデータを取るより、遥かに時間を短縮出来る」
「………」
「簪?」
「あ、ごめん。うん、その方が、いいよね………」
言葉では納得していても、心が納得していないのは明白だった。
簪にとって一夏は、自分の専用機開発を遅らせてしまった遠因。彼に頼るというのは会長ほどではないにしろ抵抗はある。
簪の心境は目の前に宝があるのに手を出さないのと同義、だけど理屈ではない。それに手を出すには、ある種の勇気がいる。
どうしたものか。一夏と会わせるのは簡単だけど、俺以上に険悪になる可能性も。
そもそも一夏はこのことを知らないし………
「いたっ!」
「おん?」
なんともまあ、タイミングがグットというかバッドというか。
ハンガーの入り口で息を荒らげているのは他でもないファーストマン、織斑一夏その人だった。
しばし息を整えたあと、一夏はこちらに迷いなく進んできた。
「更識さん!」
「み、名字で、呼ばないで」
「え? じゃ、じゃあ簪さんで?」
「あ、う、うん。なんの、よう?」
「本当にごめん簪さん!!」
直角。惚れ惚れするほどの直角で一夏は頭を垂れた。少し押したら土下座に移行するほどの前屈姿勢だ。
つまり謝ったのである。
「え?」
「のほほんさん、本音さんに聞いた! 簪さんの専用機が完成しないのは、俺がISを動かしたからだって。本当にごめん!」
「そ、そんな。えっと………」
「手伝わせてくれ!!」
「えっ!?」
「俺にもISを作るのを手伝わせてくれ! IS関連には疎いけど、力仕事なら出来る! 白式で使えるデータがあるなら遠慮なく使ってくれ! こんなこと言えるのも筋違いかもしれない! だけど、力になりたいんだ!」
「あ、あの、頭を………」
「俺にできることなら何でもやる! 頼む、簪さん! このとおりだ!!」
決して頭を上げずに微動だにしない一夏に簪はどう処理していいかわからずにアワアワしている。
ひとしきり考えても最適解を見いだせない簪は助けを求めるように俺を見た。
「一夏。とりあえず頭上げろ。簪さんちょっとパニくってる」
「え!? そうか、ごめん。えーっと」
「織斑くん」
「はい」
「どうして謝るの。確かに私はあなたを恨みはした。それが見当違いだとも、わかっていた。あなたは私を貶めようとしてISを動かせるようになったわけではない。偶然に偶然が重なって、私にそれが来ただけのこと。なのにどうして謝るの? どうして自分が悪いと」
「え? だってどう考えても俺が原因だろ? 俺があの時入学試験の時にISに触れないでそのまま立ち去っていたらISを動かさないですんだんだからさ」
「………………」
簪は放心していた。
確かに一夏が動かしたのは事実だが。打鉄弐式の人員を白式開発に送り出したのは一夏ではなく倉持技研、そしてその先の日本政府の圧力のせいだ。
一夏にとって、一欠片も知るよしもないこと。
今回の件に関しては一夏に全くの非はない。
「簪。一夏はこういう奴なんだ。馬鹿らしいぐらい真っ直ぐで、真っ直ぐ過ぎる馬鹿なんだ」
「疾風、否定しないけど酷いぞその言い草」
「しない時点で事実だろ。で、どうする簪さん」
「………………直ぐには納得できない。一発殴ってやろうとすら思ってた時もあったし」
「なら殴ってくれ」
「えっ!?」
「簪さんがそれで済むなら遠慮せずにやってくれ! 受け止めてやる! 何発でも! さあ来い!」
バッと腕を広げてノーガード体勢の一夏。
たまらず俺に視線を移す簪に俺はシャドーボクシングで答えた。
「え、ええ」
「簪。こうなったら一夏はテコでも動かないぞ」
「その、えっと」
「じゃあ簪さん。俺の気が済まないということで頼む」
「えー………じゃ、じゃあ」
一歩二歩進み、簪の射程距離に一夏を捉えた。
「………えい!」
「おふ。簪さん、もっと強くやってもよかったぞ?」
「そ、そう? じゃあ………」
………あれ? 簪の纏う空気が変わった。
姿勢を正し、息を整え。ターゲットに目を向ける。
「いくよ?」
「来い!」
「────シッ!!」
「ゴフゥ!!」
おー良いのが入った!
回転を加えた簪の右ストレートがそのまま一夏の腹にねじ込まれ、そのまま一夏を吹き飛ばした。
「あだぁ!」
「お、織斑くん!? だ、大丈夫?」
「お、おう。簪さん、良いパンチだったぜ。ヘヘ」
痩せ我慢見え見えながら一夏は笑みを返す。
本当に呆れ返るぐらい真面目な男だよ、お前は。
「一夏。簪さんの専用機には、荷電粒子砲がある。まだ未完成だけど。だから」
「俺の雪羅のデータが使えるな。簪さん」
「はい」
「改めて宜しく。力になるよ」
「………………うん」
力強く頷き、簪は一夏の手を取った。
「簪。期限まであるようでない。俺たち3人じゃ到底間に合わないし、安全面でも心細い。だから、整備科の人にも助力を頼みたいんだけど」
ホログラムでピックアップした人を移す。
のほほんさんと黛先輩。あと先輩が信頼する整備科の精鋭2人の計4人が出る。
「疾風………虚さんも呼んでもいい?」
「勿論それが出来るに越したことはないけど。いいのか? 虚さんは会長の」
「うん。専属の使用人。今までお姉ちゃんの差し金かもしれないって避けていたけれど、もう形振りかまってる状況じゃない。このメンバーに虚さんが加われば、磐石」
「簪………わかった。虚先輩に連絡を入れとくよ」
「お願い」
「うん。さて明日から忙しくなるぞ! 頑張ろう!」
「ああ!」
「うん」
これで目処は立った。
後は完成まで猛進するだけだ。
俺はここまでの道のりが実を結んだことを喜ぶと同時に、いよいよ始まる専用機開発に胸を高鳴らせるのであった。