IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「い、行くわよ?」
「オッケー」
「バッチコイ」
「当方迎撃の用意あり」
「いや迎撃しちゃ駄目よ」
ピッ。一つの電子音を発し。ディスプレイの画面。
打鉄弐式のステータス画面に【Complete】の文字が出現した。
「で、出来た?」
「どうだ簪」
「………うん。問題なし。エラーもない」
「ということは完成?」
「完成だわ!!」
「よっしゃあーー!!」
わずか一週間。一週間で未完成から完成にこぎ着けた。
問題の稼働データの照らし合わせだったが。
簪がミステリアス・レイディの稼働データを使うことを許可して使ってみたところ。なんと稼働データ値が82%まで上昇したのだ。
ここまで上手くマッチアップすることは本当に珍しい。
妹を助けたいという会長の思いが打鉄弐式に届いた、というのはロマンチック過ぎるだろうか。
整備チーム一同はもうお祭り騒ぎで。肉体労働組は思わず床にへたりこんでいた。
「二人ともお疲れ様。自分達の練習もあるのに悪いな」
「一度やりとげると決めたからな。それに体力ならある………」
「あー、でも前より体力落ちたなぁ。走り込み増やすかなぁ」
「剣道部はいつでも歓迎するぞ」
「そうかい………」
一夏が剣道部か。あながちISにも生きるから入っても損はないと思うな。
「じゃあ早速やるか模擬戦」
「えっ、行きなりやるのか!?」
「こういうのは実際バトって見るもんさ」
「そういうものか。で、誰が相手するんだ?」
「勿論俺」
「いきなり疾風か!? いや流石に初陣でハードル高いと思うぞ?」
「なに言ってんの。会長と比べたら生ぬるいっしょ。簪はどうする。スケジュール的に今日やるのがありがたいけど」
タッグマッチまであと3日。
稼働データのノルマクリアで大幅な短縮は出来たものの。まだやるべきことは沢山ある。
それに、まだ打鉄弐式は全力戦闘をやってはいない。
「どうする簪」
「うん。お願い………お姉ちゃんに勝つためにも」
少し前まで姉に勝つことに懐疑的だった彼女はもういなかった。
そこには確かな意思を持った戦乙女の姿があった。
ーーー◇ーーー
打鉄弐式を纏ってカタパルトデッキの上に立った時。簪はなんとも言えぬ高揚感の中にいた
今までつっかえていた物が取れたような。いや、重い鎧を脱ぎ捨てたような、そんな感じのもの。
出口の見えない打鉄弐式の完成が、いつの間にか自分の手の中にある。
なんでも一人でやろうとしていたら。あとどれくらいの時間を有していたことだろう。
いや、その前に打鉄弐式の成果を出せずに代表候補生の座を降りていたのかもしれない。
疾風には感謝してもしきれない。
こんな自分に根気よく接してくれた。初めてここまで自分を気にかけてくれた。
………もしかしたら。姉も同じ気持ちだったのだろうか。疾風の言う通り、自分を心配して。
『アリーナ内にIS反応を確認。スカイブルー・イーグル、戦闘出力』
(ううん。考えるのは後。今は目の前のバトルに集中しなければ)
打鉄弐式の操縦桿を握りしめカタパルトを起動する。
ホログラムが開き、電磁カタパルトの電圧が上昇する。
「ふーー………行こう」
ブルーライト。カタパルトから打ち出された弐式がアリーナに飛び込む。
少し上には疾風の姿が。同じ高度まで上昇。
スラスター問題なし。各部センサーも正常に稼働している。
アリーナ上空、相対するは2機のIS。
スカイブルー・イーグルと、打鉄弐式。
高揚感が更に沸き上がる。
簪は自身の正体不明の感情を看破した。
これは、闘争本能だ。
「んーー」
「どうしたの? なんか変」
「いや、やっぱ良いなと思ってな。打鉄弐式と簪の組み合わせ。カッコいいわぁ」
満面の笑みでカッコいいと言われて高揚感とは違う別種の感情が沸き上がる。
(これが恋愛感情。これは危険なものだ、自覚すると特に。気を抜くと直ぐに飲まれてしまう)
フルフルと首をふるって冷静さを保とうとする。
簪は目の前にいる疾風をスカイブルー・イーグル改めて観察した。
白地に空色のツートーン。青空に溶けていきそうな色というのは偽りなしの綺麗なIS。
翼を思わせる高機動マルチスラスター。
特徴的な鷲を象ったつば付き帽子型ハイパーセンサー。
その躯体に隠された、様々なギミック。
性能が日増しに向上しているそのISは専用機という枠組みであってもピーキーで、凡人が容易に動かせる代物ではない。
その高性能機は疾風の天性の才覚と、血のにじむような努力の成果が合わさって初めて十全に機能する。
IS学園のあらゆる行事にも興味を示さなかった簪が。改めて疾風の対戦ログを見返した時は思わず目を疑ったものだ。
自分の知らない疾風が、ここまで強い乗り手だったことに。
思えば、一番最初に彼を見たのはもっと前のこと。
スカイブルー・イーグルが初めてIS学園に来て、レーデルハイト工業の整備員がフォーマット作業をしている時。簪は野次馬の一番後ろからそれを見ていた。
自分でも羨ましそうに、いや怨めしそうに見ていたと思う。
その時の疾風は視線を感じたのか簪の方を向いたのだ。視線が合ってしまってその場から離れてしまったことを簪はいまでも覚えている。
思えばあれが本当のファースト・コンタクトだった。疾風は覚えているだろうか?
「んざし………簪!」
「ん? ご、ごめん。考え事してた」
「いや大丈夫だよ。気分は悪くないか?」
「うん、大丈夫」
危ない危ない。
本当に気を抜くと彼のことを考える。
「ほんと、ここまで来れた。完成した打鉄弐式の初陣の相手が俺であることに感謝するよ。これだけは譲りたくなかったからな」
「打鉄弐式の飛ぶ姿が見たい。って前に言ってたね」
「ああ。ISの開発に携わり、それを飛ばす。俺の長年の夢を少しでも叶えれた。簪のおかげだ。ありがとう」
「そんな、お礼なんて」
「簪が勇気を振り絞って俺の誘いに乗ってくれたから今がある。正直言うと、今回は無理なんじゃねえかって心のどこかで諦めてたりそうじゃなかったり………」
「ご、ごめんね。凄い塩対応しちゃって」
「いやいや。それもまた良い思い出ってことで」
心から嬉しそうに喋る疾風を見て改めて簪は感じた。
疾風が自分に協力した理由。
簪の助けになりたい。
自分と一緒にトーナメントを勝ちたい。
打鉄弐式が飛び立つ姿を見たい。
全て偽りのないこと。ある程度の打算はあっただろうが。それは何一つ間違いのない疾風の本心だ。
だがら簪の助けになりたいという理由が。純粋な善意であるということが。本の少し残念なところではあった。
「よしっ始めるかぁ。うー! 武者震いが」
「嬉しそうだね」
「もち! もうテンションで可笑しくなりそう。一応ラフプレイはしない方向で行くけど、もしやってしまったら、すまん」
「う、うん。覚悟しとくね。色々」
疾風の手に一瞬の光と共に得物であるインパルス握られる。
簪も手に超振動薙刀【夢現】を握る。
「さあ来い、簪。先手、譲ってやる」
疾風が槍を構え直した瞬間。簪はキュッと身体の筋肉が強張るのを感じた。
(え、なに? なにこれ? 何も変わったことはない、何かを仕組まれたわけではない。なのに………疾風を一瞬怖いと感じてしまった)
眼鏡の奥で目を細めて笑う疾風。
それは臨戦態勢のスイッチが入ったことを意味し、彼が本気で戦い、楽しむということを表していた。
(機能テストの練習だと思って挑んだら、負ける)
自分とは違いいくつもの修羅場を潜り抜けている。
だが自分も腐っても更識の人間。
ここで気後れするつもりは、毛頭ない。
………試合開始のアナウンスはない。
簪が動いた瞬間、試合が始まる。
「………行きます!」
身体を前に押し出し、簪と弐式が疾風に向かっていった。
スラスターの一瞬の圧を身体に感じながら夢現を右から左に凪払う。
「はやっ。おっとと」
予想以上の早さに言葉を漏らしながらもキッチリと受け止めて弾く。
そこから無駄のない動きで薙刀を振るい連撃に繋ぐ。
薙刀術は更識での必修科目の一つ。因みに幽霊部員であるが簪は薙刀部に所属している。意外に運動部。
絶え間ない連続攻撃に疾風はインパルスとプラズマフィールドを部分展開して防戦一方になっていた。
近接戦闘による間接部の動きと干渉領域は問題なし、それよりも。
(凄い。この子こんなに動かしやすかったの?)
稼働データの照らし合わせの蓄積経験値と入念な調整により。打鉄弐式は簪のイメージにきちんとついてきている。
身体の重しが取れたような軽やかな動きによる薙刀の斬撃はまるで舞踏のように軽やかで力強い。
だが。
「予想以上でビックリしたぞ簪。だけどまだ太刀筋が真っ直ぐかな!」
力を込めたインパルスの一撃が弐式の夢現を上に弾く。危うく手から溢れ落ちそうになるのを再度握り直し、思わず距離を取った。
そして試合状況を見て簪は気づいた。
(疾風のシールドが全然減っていない。防がれたというの? あの無数の攻撃を)
簪の動きをトレースしてると言っても、生身とISでは若干の差異が現れる。
複雑な攻撃をしてるつもりでも、実際には単調な攻撃になることもある。これは一重に簪が戦いなれてないことにも起因する。
逆に疾風のIS稼働時間は半年でありながら代表候補生の一般的な稼働時間を越えていた。疾風はISに乗りすぎている。放課後は1日も欠かせずにアリーナでISを動かし、代表候補生と共に切磋琢磨し、敗北=死という過酷な戦いにも生き抜いた。
それに加え、ISに乗る前から身体を鍛え。知識を詰め込み。想像を育み。それがIS学園の中で開花した
その全てが疾風の糧であり、疾風の強さ。
今の疾風の実力は学年でも指折りに入るということがIS学園専用機持ちの共通認識だった。
絶えず連撃を加える簪の攻撃を時にインパルス、時にプラズマフィールド、そして脚部プラズマブレードで夢現を捌ききる。
(崩せない。夢現の振動機能は確かに活きてる。なのに攻めきれない)
絶えず超振動を起こす夢現は、虚が使う対武装破壊超振動刀、啄木鳥を実戦向けにマイナーチェンジしたもの。
武装破壊のような器用さはない代わりに。接触時に超振動により相手に与えるダメージと切断力を増加させる。
そしてこれは飽くまで副次的な効果だが、相手に振動を伝わらせることで相手の体勢も崩しやすくなることもある。
「このっ!」
槍を構え直した疾風の次の攻撃がくる。
だがシールドに当たる直前に疾風と簪の間の空間が爆発した。
腰に備え付けられた、連射型荷電粒子砲【春雷】の攻撃である。
至近弾では自身もダメージを負う危険性はあれど。短砲身ゆえに取り回しが優れている。
不意打ちだからダメージは………
「………当たってないの?」
距離を取った簪が見たのは全面をプラズマフィールドで覆われた疾風の姿だった。
ダメージらしいダメージは確認できない。
「流石に冷や汗かいたよ。間に合ってよかった」
「イーグル・アイで観測したんだ、それで対応できた」
「ちなみに会長のアクア・ヴェールの精度は結構高いからな。さて次は」
加速。旋回。距離を離したイーグルはサークルロンド機動で簪の周囲をまわる。
黙って棒立ちになるほど愚かではない。簪も持ち前のスラスターで追従する。
射程、アウトレンジ。だが疾風から攻撃は来ない。ボルトフレアを出す素振りもない。
(撃たせる気だ。なら)
それに甘えよう。
腰の春雷を再度アクティブ。
射程は一夏の月穿に比べれば短いが、アリーナ内であれば問題ない。
数瞬のチャージ。青白い弾光が発射と同時から数秒で光弾はアリーナシールドに当たって弾けた。
偏差撃ちで疾風を捉えようとするが流石はイーグルと言うべきか、イーグル・アイによる解析と持ち前の機動力と小回りの高さで春雷の連弾をひらりと躱していく。
「逃がさない」
だがそこで折れる今の簪ではない。
打鉄弐式の情報サーキットを走らせ、手の装甲を解除。上下二枚系四枚のホロキーボードを出現させて目にも止まらぬ高速タイピングで情報を打ち込み、動作修正。
「挿入完了」
エンターを押し、再度照準、チャージ、発射。
三発ほど放たれた光弾。それをなんなく躱し簪の方に向いた疾風。その目の前には青白い光が。
「うそっ、とぉ!」
機体を翻し直撃は避けたが四発目の春雷が確かにスカイブルー・イーグルを捉えた。
(まぐれ当たり? いやこれは)
次々と撃ち出される春雷の光。だが明らかに先程より疾風の動きを捉え、たまらず疾風は単調な外周周回を中止して多角機動を取った。
(さっきより明らかに精度が上がった。そういや何か打ち込んで………まさか戦闘中に射撃照準アルゴリズムを最適化したと言うのか?)
これには疾風も驚愕を露にせざるを得ない。
今の1分にも満たないやり取りで必要な情報を選びとり直ぐ様その場でOSを調整したというのか。
(おいおい。これで自己評価低いって嘘だろ。まあ人のこと言えた義理じゃないけどさ)
疾風は最初の頃自分の力を無意識化でセーブしていた。
自分はまだまだと自信を持てずにいて。力を100%引き出せずにいた。
それはある事件をきっかけに覚醒して今の疾風に至る
今の簪は良い兆候が現れている。
それを引き出すのもパートナーの役目。
回避行動から直線急加速。疾風とスカイブルー・イーグルが迫る。
来る! と夢現を身構えた瞬間、目の前のスカイブルー・イーグルが
速い、と認識する前に次の攻撃を反射神経だけで防御。だが次の瞬間、疾風の姿が左にぶれる。急いで左に意識を向けたが右下からインパルスの斬撃。
マジシャンが手品で使うような視線誘導のフェイント。
左に身体を寄せながら右手インパルスの束尻を掴んで目一杯のリーチ伸ばした攻撃したのだ。
簪は何が起こったか一瞬わからずに困惑。そして次の攻撃が見回れる。
だが簪も負けていない。長物であるにも関わらず細やかな技法でインパルスの力を受け流し、そのまま疾風の体勢を崩して膝をついた。
「もらったっ!」
好機と見て上段大振り。
だが頭をかち割らんとする一撃に怯むことなく疾風はインパルスをリコール。右腕のプラズマサーベルを夢現の刃ではなく束部分に当て、そのまま滑るように弐式の腕を斬った。
そのままブライトネスをコール。スラスターで体ごとぶつかり、懐に三発ぶちこんだ。
「んぐっ!」
ノックバックで下がる簪、急いで体勢を立て直して次の攻撃に備えた。
だが次の攻撃が来ることはなく、疾風はその場で槍をクルッと持ち直しただけだった。
見逃された。攻撃されなくても明らかに反応が遅いことを簪は理解していた。
いつもの疾風なら、ここで息をつく暇のないコンボアタック。マルチプル・コンボ・アーツを叩き込んでいたはず。
だが今回は打鉄弐式の性能テストに重きを置いていたためにそれを行わなかった。
手心を加えられている。分かっていたことだが、今の簪と疾風には力の差がある。
(だけど、みんなで組んだ打鉄弐式の力を、この程度にさせるわけにはいかない!)
「山嵐展開準備。シングル・ロック・モード。2、4、7のデータをロード!」
あらかじめ簪が構築して入れておいたミサイル誘導パターン10個のうちの3つを装填状態の山嵐48発にインプット。
48発にデータ移行完了。弐式との無線接続確立。
コンテナオープン!
カバーがスライドし外気にさらされた48発の小型弾頭。その迫力は撃たれてもいなくても疾風を警戒体勢に移らせるには充分すぎた。
「打鉄弐式、システムオールグリーン。山嵐、斉射!!」
断続的な噴出音と共に撃たれた山嵐全弾発射。
夥しい排気煙がアリーナを埋めつくし、マイクロミサイルに搭載された機緑色に光る誘導偏向スケイルフィンが一斉に花開いた。
「これは、ちょっと、どころじゃないな!」
スロットルを押し込み急加速、多角機動を取るもミサイルが追従する。
後退飛行を取りながらプラズマバルカンで迎撃。だがまるで意思を持つかのようにミサイルがバルカンを躱す。
何発か迎撃しても誘爆なんか起きはしない。そう山嵐にはインプットされてるのだ。
通常の誘導ミサイルなら絶対にあり得ないその誘導能力はセシリアの
いや、誘導能力だけなら山嵐の方が上。救いなのは
時折機動が変わるのは、簪が打鉄弐式を通してプログラムを書き換えてるのだろう。
「予想以上だなぁこれは! ゾクゾクする!!」
まだ40発あまりのミサイルが迫っていた。
全て当たればリミットダウンもあり得なくもない。
そんな圧倒的窮地の状況でも疾風は笑みを崩さなかった。むしろ先程より格段に上機嫌。
追従するミサイルにプラズマネットとバルカン、ビークを総動員してなおも迎撃、絡め取られ、プラズマに貫かれたマイクロミサイルはその都度破裂。それでもまだ1/3の16発が残った。
このままミサイルの燃料切れを待つ間に当たる可能性は大。
「なら!」
インパルスコール。そのまま地上の簪に向かって飛ぶ。
追従してくるミサイルを離し、そのまま簪に切りにかかるも夢現でガード。
だが疾風はその衝撃を利用して簪の後ろに回り、自身と山嵐の間に簪を設置した。
(これでどうだ!?)
顔を上げて状況確認、山嵐は簪の目と鼻の先に迫り────簪をよけて疾風に殺到した。
「………………いやそうだよねぇ!!」
慌てつつプラズマ・フィールドで全開防御。
濃密な青いバリアに次々と山嵐が炸裂。少量ながら高火力が売りという新型爆薬の効果を余すことなくフィールド越しに尋常じゃない振動が伝わってくる。
更に爆発とは違う衝撃がフィールドに伝わる。
よく見ると、爆炎の真ん中に水色に光る穂先、夢現の先端が突き刺さっていた。
「夢現、振動全開」
空気を震わす金切り音。普通なら耳を塞いでしまうほどの振動音が夢現から鳴る。
それと同時に夢現と接しているプラズマ・フィールドに不規則な波紋が広がった。
次第に波紋が大きくなり、フィールド全体が波打つように乱れた。
「フィールドが!?」
「っ! やぁっ!」
バシュン! フィールドが夢現を基点にほどけた。
解かれたフィールドの先。夢現よりちょい下。
砲口から目映い光を溢す二門の春雷が、発射。しかも最大出力。
先ほどとは比べ物にならない爆発と衝撃がイーグルに破裂した。
今度はフィールドではなく、間違いなく直撃で。
先ほどのフィールド消失。
夢現の固有振動でプラズマを固定させる為に使っていたISのエネルギーを乱れさせてフィールドを崩壊させたのだろうか。
(いや、それだけじゃない。ISのエネルギーも同時に伝播させてエネルギーを衝突、中和して)
『警告、ロックオン多数』
「多数だと!? まさか、うそぉっ!?」
「最適化完了。行って! 山嵐!」
再度放たれる48発の殺意の塊。
プラズマ・フィールドの再展開は間に合わず。
というより相対距離が短い。
これ以上ないくらい抜群のタイミングだった。
(こりゃ無理だ)
半ば諦めた疾風は、なけなしの全武装で迎撃したあと山嵐の爆炎に吹き飛ばされた。
『スカイブルー・イーグル。リミットダウン』
ーーー◇ーーー
予想だにしない打鉄弐式の勝利を皮切りにエンジニアチームはテンション爆アゲ。一夏と箒も手放しで俺に勝ったことを褒めまくった。
俺はというと負けたというのになんとも心は晴れやかだった。
だがハンガーに戻ったあとの簪は試合が終わったにも関わらずその結果に呆然としていた。
そんな簪はもみくちゃにされてもどういう反応を示していいか分からずされるがままの状態に。
そのあと打鉄弐式完成の打ち上げとして1人部屋である俺の部屋でパーティーが開かれた。
酒がないのにも関わらずどんちゃん騒ぎで結果的に一夏がターゲットにされて箒から制裁というなのケツバットを食らわされて悶絶した。
今は片付けの最中で、簪と二人きりである。
男女二人っきりで同じ部屋はまずいよなと言ったのだが「疾風ならいい」と言って片付けを手伝ってくれた。
信頼してくれるのはいいけど。あの時を思い出して結構ドキドキしている。
頼むから来ないでくれよセシリア。フリじゃねえぞ!
「いやしかし山嵐が思った以上にエグかった。あれでまだ成長するんだろ? 凄いなぁ。プログラムを打ち込んだ簪も凄いけど、あれって打鉄弐式の性能の恩恵もあるよな?」
「うん。打鉄弐式以外だと性能は颪と同じになる。でも、スカイブルー・イーグルの演算スペックなら充分運用できるかも」
「実際スペック差どれだけなのか知りたいから今度試してもいい?」
「うん」
カチャと皿を置く音と流れる水のBGMだけが流れる。
心を開いてくれた今でも簪は率先として喋る人ではない。
というよりやはり俺と二人なのは緊張するのでは? そう思いながら洗った皿を水切りかごに置いた。
「未だに、信じられないの」
「俺に勝てたことか?」
「うん。疾風に勝てるなんて思わなかった。でも、手加減してくれたよね」
「手加減はしたけど。最後のはどうあがいても当たるのは確実だった。マジ逃げしたくても出来なかったからさ。それにしてもあの一連の流れは綺麗だったな。前から考えてた?」
「あれは対お姉ちゃん用に考えてた動き。山嵐で防御せざる終えなかったところを、夢現で崩して春雷で弾いてから、再度山嵐。何回もイメージしてたから、上手く行って良かった」
嬉しそうに話す簪の話を聞いて俺は確信した。
打鉄弐式のスペックや武装構成は対ミステリアス・レイディ用のものだったということを。
クリア・パッションは打鉄弐式の高性能センサーで。
アクア・ヴェールは夢現と春雷だ。春雷のほうはビーム兵器、アクア・ヴェールには実弾よりビーム兵器の方の方が有効なのはオータム戦で確認済みだ。
そしてミステリアス・レイディの武装では48発のマイクロミサイル(回避機能付き)を全て落とすのはほぼ不可能。
あるとすれば、ミストルテインの槍だが。あれを撃ったあとはミステリアス・レイディの第三世代能力は格段に落ちる。
防御型の打鉄をわざわざ高機動型にしたのもそのため。
防御を崩すことを得意とする会長に合わせてのことだろう。
全ては姉を越えるため。簪の執念と熱意の成果が打鉄弐式だった。
「勝てる、かな」
「それはこれから考えよう。準備期間はまだ2日ある。二人の力を更に高めていこう」
「現実的だね」
「勝負に絶対はないからな。ゲームみたいに100%の攻撃が命中するとは限らない。勝てるかどうかすらも………でも負ける確率も100%じゃないんだ。頑張ろうな」
「………うん」
ピンポーン
皿洗いを終えて簪に「部屋まで送る」と言おうとしたらインターホンが鳴った。
インターホンが鳴った!? まさかマジでセシリア来た!?
甦るトラウマに身震いしながらモニターに近づいた。
「はい!」
「あ、疾風くん? いま大丈夫かしら?」
「か、会長!? どうしましたこんな時間に」
「打鉄弐式が完成したって聞いてお礼をね」
画面には会長の姿が。
なんということだ、俺にとってのセシリア的な人が来てしまった。
姉の手助けは受け入れた簪だが。流石に姉と面と向かって会う勇気があるのかどうか。
ここは、一旦帰ってもらって方がいい。
まだ二人を鉢合わせるのは時期尚早だ。
「すいません会長、いまちょっと立て込んで」
ガチャ。と奥で音がした。
あれ、鍵かけ忘れた?
あれ? 簪がいない、さっきまで側にいたのに。
「か、簪ちゃん?」
「えっ!?」
いつの間にか。簪が玄関の扉を開けて会長と対面していた。
えっ、自分で開けたのか!?
「………………」
「………………」
無言。お互い喋ることなく固まっている。
会長はいつもの会長とは思えないほど目が泳いでおり。簪はここからじゃ表情がわからない。
「………ないから」
「え?」
「………負けないから。3日後。私と疾風が、お姉ちゃんに勝つ」
「え、え。え?」
「それと………ありがとう。データ、助かった」
「簪ちゃん」
「それだけ!」
簪は部屋を飛び出して何処かに行ってしまった。
1人残された会長はうつ向いて立ち尽くした。
「あの、会長。大丈夫ですか?」
「………………」
「会長………うえ?」
彼女の足元に雫が落ちていった。
なにかと思って顔を除くと、それは会長の涙だった。
「ちょ、大丈夫ですか会長? 更識さん?」
「聞いた? 疾風くん」
「は、はい?」
「簪ちゃん。私に勝つって。それにありがとうって言ってた………私、久しぶりに簪ちゃんに話しかけられちゃった。もう二度とないって思ってたのに」
会長は笑っていた。涙をボロボロと溢しつつも、会長は心のそこから嬉しそうに笑っていたのだ。
「ありがとう疾風くん。ありがとう、本当にありがとう。私、簪ちゃんと話せた………」
「もっと話せるときが来ますよ、きっと」
「うん、うん!」
今まで見たことがない会長の泣き顔。
あふれでる喜びを隠すことなく会長はただただ泣き続けたのだった。
会長の陰ながらの願いは、やっと花を咲かせたのだった。
いや書いてみて思ったけど打鉄弐式と簪強くね?
当初のプロットだと疾風の勝ちだったのに気づいたら疾風負けてたんだが?
なんかそんなイメージがあんまないなと思ったら。原作でそんなに山嵐撃ってないからや。