IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第102話【ノンフィクション・トラブル】

 

「あっ、おはよう簪」

「おはよう」

 

 ついにタッグマッチトーナメント当日。

 示し会わせたわけでもなく、学生寮で簪と出くわした。

 会長に意思表明をしてからの簪の意欲は凄まじいもので。今までのブランクを取り戻す勢いで操縦技術の冴えを掴みとっていった。

 だがいかんせん日数が足りないために現在の専用機持ちと同じ水準に行けたかと言うのは自信を持てずにいる。

 だがそれをカバーする作戦もいくつか用意はした。

 代表候補生相手なら十分通用できる予想ではある。

 

 だが目下の問題は会長と菖蒲のペアだ。

 国家代表+学園最強である会長は言うなれば戦術級の実力。1対2だとしても勝てるか負けるかという分かれ道に立っている。というより負ける側が大きい。

 更に頭を抱えるのが菖蒲の新型第3世代IS【打鉄・櫛名田】の存在。

 今分かってる情報は打鉄・稲美都の流れを組んだ機体だということだけ。

 基本武装は同一だろうが、その詳細は俺に届いていない。レーデルハイト工業に問い合わせても目ぼしい情報は得られずだった。

 アリーナを覗いても、二人の手札はそこまで開示されない。もしかしたら地下の特設アリーナでも使ってるのではないか? なら見た目とは別の隠し球がある………

 一番怪しいのは。櫛名田は従来機と比べて装甲とバックパックが肥大化してることぐらいか。

 

 今もっとも願うのは初戦で当たりませんようにということだ。

 相手が戦えば情報や立ち回りのデータは入る。

 それを期待するしかない。

 

「疾風?」

「ん? ああ、考え事してた」

「お姉ちゃんたちの?」

「そう。どう切り崩すかってのが見えに見えなくてな」

「疾風はこの前の無人機事件も少ない情報から、なんとか勝てた。私より物事を客観的に見る力と、どんなときでも判断力を見失わない冷静さを持ってる………私も解析は得意だから、一緒に勝とうね」

「そうだな。簪、今日は頑張ろうな。目指せ優勝!」

「うん!」

 

 簪が自分から勝つことに意欲的な発言をしてくれた。

 初めて会う時とは比べ物にならないぐらい簪は前向きになってくれている。と思いたい。

 

「ところで疾風。朝ごはん食べた?」

「軽くは」

「よかったら、これ」

 

 彼女のカバンから取り出されたのは、抹茶のカップケーキだった。

 一つ一つ個包装されており、手頃で小腹が空いたときに欲しいサイズだ。

 

「これ簪が作ったのか?」

「疾風って朝ごはん抜いちゃうときあるって聞いたから。その、感謝の気持ちも、込めてというか」

「ほう………」

 

 抹茶味か。あんまり手を出さないジャンルだが嫌いではない。

 なにより簪が作ってくれたのだ。ここで食べないのは無作法が過ぎる。

 

 歩きながら包装を解いてモフッとかぶりついた。

 抹茶の芳しい味わいのあとにこれまた上品な甘味が後を引いた。

 気付けば無心で食べ進め、あっという間にカップケーキが胃袋のなかに収まった。

 

「どう?」

「文句無しに美味い。抹茶全然知らないけど、これ良いの使ってるでしょ」

「うん。ちょっと奮発した」

「あらー、贅沢な子ー」

 

 ニヒッと笑ってやると簪は頬を赤くして俯きながら自分のカップケーキにかぶりついた。

 

 そう言えばもう一つ、簪に変化が出来た。

 

 俺と話をするとき高確率で顔が赤くなって俯くことだ。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「それでは、開会の挨拶を更識楯無生徒会長からしていただきます。生徒会長、お願いします」

「ええ」

 

 虚先輩が一歩引いて会長が司会の台に上がった。

 それを俺たち生徒会メンバーが後ろからそれを見ていた。

 

「ふぁぁぁぁー」

「ちょっ、のほほんさん」

「うわっでっかい欠伸だね。確実に誰かに移ったよ」

「だって眠いんだもん」

「やめとけやめとけ。ほら、教頭先生が睨んでる」

「よし、俺は無関係を貫く。あとは任せた生徒会補佐」

「俺は生徒会『長』補佐だ、勝手に規模でかくするなよ。うわー、睨んでる睨んでる。ほらしゃっきりして」

「らじゃー」

 

 もはやそれは眠くてカクンとなったのではないかって感じでのほほんさんが頷いた。

 それを見て件の教頭先生が一際眼光を鋭くさせた。

 ウワーコエー。

 

 ちなみにその教頭先生の外見は凄まじく。

 ひっつめ髪に逆三角形のメガネ(あのメガネ二次元だけじゃなかったんだ)をかけ。これでもかとパリッとしたスーツに濃いめの口紅。

 眼はどういうメカニズムなのかメガネの反射で見えた試しがないという正に絵に描いたようなお堅い人。

 

 IS学園一、規律に厳しく。何処か昭和を思わせるような物言いをして生徒に注意をするその姿からついたあだ名が『お局鬼ババア』というなんとも酷いあだ名である。

 しかし公私混同せず、俺たち男に対しても真剣に接してくれている人でもある。いかな理不尽にも真っ直ぐに「それは間違っている!」と言ってくれる人で、安城たち女性のための会に対する暴挙に対して真っ向から意見をしようとしてくれた人でもある(対処は生徒会に一任する形となったので教頭が出ることはなかったが)

 

 なので俺から見たら確かに苦手ではあるものの、嫌いというわけではないという感じ。という見解である。苦手ではあるけど。

 

「どうも皆さん、おはようございます。今日は専用機持ち限定タッグマッチトーナメントを行います。これまで起きた数々の事件に対する強化として実地されたこのイベントですが。試合内容は第3世代という特殊なものを使っていたとしても、生徒の皆さんにとっても勉強になると思います。しっかり見て、盗めるところはドンドン取り入れていってください」

 

 と、会長の挨拶が始まってざわめいた会場がシンと静まり。会長の言葉に耳を傾けた。

 織斑先生とは別種のカリスマを持った会長は瞬く間に会場のムードを自分のほうに持ち込んだ。

 

 こうした圧倒的かつ柔らかな存在感を持った会長。

 そして飴と鞭という表現を彼女以上に体現するものはいないということを俺たちは改めて思い知ることとなる。

 

「とまあ堅苦しいのはここまでにして」

 

 パシン! とお得意の扇子芸を披露する会長。

 扇子には「博徒」の文字が。博打じゃないところが彼女のセンスを物語っている。

 

「今日は生徒全員にも楽しんでもらうために生徒会である企画をたてました。その名も『優勝は誰だ!? 仁義なき暴食の食券争奪戦! ミリオン・フェスタ』」

 

 どわあああぁぁぁっ! と先ほどまで礼儀を貫いていた生徒たちは欲に眼が眩んだ荒くれ者へと成り下がった。

 

 とまぁ見てわかる通り優勝ペアを予想してそこから食券を根こそぎ獲得する的なやつである。

 

「って、それ賭け事じゃないですか! いいんですか学生でそれは不味いんじゃ………」

「織斑生徒会長補佐。安心なさい」

「え?」

「『賭け事』をすると心のなかで思ったなら、既に賭けは始まってるのよ」

 

 一夏のド定番なツッコミなどなんのその、悪い笑みを扇子で隠す会長は壁に並ぶ教師陣を見た。

 良く見ると教師陣は誰も反対していない。いやむしろ一部は生徒と同じぐらい盛り上がっている。

 先ほどの教頭先生でさえクイッと三角メガネを上げて口角を上げている。

 

 唯一、我らがブリュンヒルデは頭を痛そうにしている。お疲れ様でーす。

 

「大丈夫よ一夏くん。現金をかけるわけじゃないから法には触れないわ。触れたとしても揉み消すわ」

「こんなところで裏社会の闇を見たくありませんでしたよ俺は! てか俺聞いてないですよ!」

「当たり前じゃない。じゃないとその反応が見れないじゃない? ねー疾風くん?」

「ええ。一夏、ナァイスリアクショォン!」

「この鬼! ドS! 会長と副会長!」

 

 ハッハッハ、愉快愉快。

 

 絶好調の俺や会長とは対照的に一夏のテンションはマリアナ海溝に一直線。

 思わぬ心理攻撃だ、やったぜ。

 

「では皆さんお待ちかね、対戦表を発表いたします、オープン!」

 

 扇子を天に掲げると同時に背後の巨大空中ディスプレイがさざ波を立てて変化した。

 

 待ちかねた第一試合。その対戦カードは。

 

「うえぇっ………」

 

 第一試合。

 疾風・レーデルハイト&更識簪ペアVS

 更識楯無&徳川菖蒲ペア。

 

 悪い予感ほど当たるものだな。

 よりによって1回戦ど真ん中とは! 

 

 そうだ、簪は大丈夫だろうか。

 いくら頑張ると言ったとは言え、いきなりこれはプレッシャーが。

 

 一年四組の列に目を向けると、簪と目があった。

 

 簪はこちらを向くと、少し目が泳いだ。

 だが直ぐに俺を真っ直ぐ見て力強く頷いた。

 

 ああ、そうだな。お前が頑張ると言うなら。俺が狼狽えてる訳には行かないよな。

 

「ん?」

 

 ふと、簪とは別方向から力強い視線を感じた。

 一年一組の中で一際目立つ、そう彼女が。

 

「………………」

 

 わたくしと当たるまで負けることは許しませんわ。って感じか? 

 それはそれはなんとも難易度の高いご命令だな? お前と当たるの決勝戦なんだぜ? 

 

 了解だ。お嬢様。

 そろそろ俺たちのいざこざにも、ケリをつけようじゃないか。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「決めた。優勝したら男性施設の増加を提唱してやる」

 

 アリーナで作戦会議を終えた俺は突然の尿意にピットから少し、いやかなり離れた男子トイレに駆け込んだ。

 なんで第五アリーナには男子トイレがないんだ畜生! 

 

 まあそれはさておき。

 

 簪の精神状態は良好だ。

 俺でさえ初っぱなで当たって胃が少しズキンと来たのに、成長したよあの娘は。

 とはいえ人間というものは突然ガラッと性格や性根が変わるわけではない。

 何かかきっかけで心にヒビが入る恐れがある。そこらへんの手綱をしっかり握れれば。勝てる確率も上がる。

 

「レーデルハイトくーん!」

 

 誰もいない廊下を走ってきたのは新聞部副部長の黛薫子パイセン。

 

「どうしました黛先輩」

「ふふん。個人的に戦前インタビューと。これ、オッズ表持ってきたの」

「賭けのですか。どれどれ」

 

 ふむ………んー、やっぱり会長と菖蒲のペアが他より抜きん出てるな。

 そして2位がダリル先輩とサファイア先輩のイージスコンビ。そして一年タッグがそれぞれタイで。少し下がって最下位の俺たちという結果になっていた。

 

「予想通りですが。思ったより俺たちと一年組の差がないのが意外ですね」

「みんなレーデルハイトくんを評価してるってことよ。女性のための会とかキャノンボール・ファストで結果だしてるしね。それでも下なのは、やっぱり簪さんのデータがないからよね」

「見返してやりますとも。会長たちに勝つことでね」

「おっ、結構勝つ気でいるんだ。強いわよぉ、たっちゃんは」

「わかってます。でも負ける気で挑めば敗北は必至なんで」

 

 気持ちだけは負けるわけにはいかない。

 俺も、簪も。

 

「しっかしこう客観的に見ると専用機持ち多いですよね。一年だけで9人とは」

「他人事みたいに言ってるけど原因はあなたたちだからね?」

「いやいや。俺が入ってから来たの菖蒲だけなんですから実質元凶は一夏ですよ」

「そうとも限らないわよぉ。なんか各国では着々とIS学園に専用機持ち送り込む算段を整えてるとかってたっちゃん言ってたし」

「ああ。来年あたりゴッソリ今と同じぐらいの数来るんじゃねえかって」

「過剰戦力になるわね。IS学園。日本にクーデターして独立しちゃう?」

「ハッハッハ。そんなことしたら各国総出でIS学園の利権取られに来ますよ」

 

 IS学園には自前の弾薬製造ラインがあるかないかと噂になってるが。

 たとえあったとしてもIS学園には未来がない結果になる。主に補給線とかの世論的な意味で。

 まあそうならないことを祈るのが常だが。

 

「ところで簪さんはピット? よかったら2人同時にインタビュー取りたいわ。出来れば早めに。この後織斑くんと篠ノ之さんのインタビューもするから」

「一夏たちは第一アリーナですよ? 距離結構あると思うんですけど」

「いやー、男性IS操縦者入りチームのインタビューを独占したくて」

 

 俺たちは今ISの最終調整とかで各アリーナのピットを貸しきって使っており、そこから対戦が行われるアリーナへ移動することとなっている。

 

「商魂逞しいのは褒めどころですけど。二兎追うものは一兎も得ずにならないようにしてくださいね」

「大丈夫大丈夫! そこらへんはうまく立ち回るから。それはそれとして写真撮らせて」

「いや俺一人撮っても仕方ないでしょ。あっ、もしかして売買用に使うんじゃないでしょうね? 生徒会執行対象ですよ黛先輩」

「そ、そんなことないわよぉ?」

「目が泳いでますよ。これではまだ一流とは言えませんね。お姉さんを見習ってください」

「あー! 言っちゃいけないこと言ったな!? 見てなさいよ! 私がインフィニット・ストライプスに入社した暁には直ぐにでも姉さんに下克上叩きつけて………」

 

 そう言って黛先輩が秘めたる野望を口にしようとした、その時だった。

 

 ──ズドオオォォンッ!!!! 

 

 地面が跳ね上がるぐらいの振動が俺たちを襲った。

 しかも一発ではなく連続で来た振動に黛先輩が体勢を崩した

 

「きゃあっ!」

「おっとぉ!?」

 

 すかさず彼女を抱き止め、そのままなんとか踏みとどまった。

 揺れは長く続かず、廊下は静けさを取り戻した。

 

「大丈夫ですか先輩」

「ありがとう。でも今のはいったい」

「地震じゃないですかね!!」

 

 そんな現実逃避を嘲笑うかのように廊下のホログラム表示が一斉に赤に変わって『非常事態警報発令』の表示になり。

 IS学園全体に第一種警戒警報が鳴り響いた。

 

「地震ではないみたいね」

「あーもう!!」

 

 またか! またなのか! 

 今回だけは頼むからなにも起こるなと再三願ったのにな! 

 

『全生徒は地下シェルターへ! 繰り返す! 全生徒は地下シェルターへ、きゃあっ!!』

 

 緊急放送をしていた先生の声が突如来た衝撃と共に途切れた。

 

 直ぐにイーグルのセンサーを起動するが。レーダーはノイズが走って使い物にならず、管制室の織斑先生はおろか他の専用機にもまったく連絡が通じなかった。

 

「マジでヤバい事態ですわ。黛先輩は地下シェルターへ。余裕があれば避難誘導を!」

「わかったわ。気をつけてね!」

「はい、うおっと」

 

 今度は近いところで爆発音。ていうかこの方向は。

 

「マズい! 簪!!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「織斑先生! アリーナに未確認のIS反応。対象はアリーナのシールドを破壊して浸入! 映像を出します!」

 

 端末を操作してモニターに各アリーナの映像が写し出された。

 

 そこには機能性を重視しつつ禍々しい悪魔のようなフォルムをした『敵』がいた。

 

「こいつは………」

「はい。外見は先の2件と大幅に異なりますが。無人ISゴーレムの発展機と思われます」

「総数は」

「アリーナ一か所につき1機ずつ。合計6機です! 敵ISは専用機持ちがいるピットを襲撃し。現在アリーナ内で交戦中です!」

「餌に食いついてきたか。開始前に各専用機持ちを分散させた効果はあったが………」

 

 今回襲撃が起こる可能性が高いことは千冬以下教師陣で予見されてきたことだった。

 そこで専用機タッグの準備場所をわざわざ別々のアリーナに待機させることで敵が複数来た時は分散させ。1ヵ所に来た時は囲い混んで殲滅する流れとなっていた。

 

 勿論、有事に備えてアリーナにはISを準備している戦闘教員が待機していた。

 前回と前々回ではアリーナのシールドと隔壁が行く手を阻み、加勢できないという状況となっているのが今までの現状であったが。アリーナに1機ずつ襲来した大盤振る舞いっぷりに千冬は舌を打った。

 

「各セクションの状況を」

「前回と同じく最高レベルでロックされています」

「よし。特殊警報プランAを発動。耐隔壁用パイルバンカーで隔壁を突破後。アリーナシールドの電力室の緊急停止処理を実行。そのあと。専用機持ちと協力して事態の収集を急げ」

「了解です!」

 

 何度もやられる側になるわけにはいかない。

 この時の為にアリーナに通ずる必要最低限の隔壁を残して撤去し。あらかじめ高火力の破砕兵装を常備させた。

 

 これでいくらかはマシになる。

 あとは教師陣が間に合うまでに専用機持ちが持ってくれれば………

 

 ズズン!! 

 

 その時。先ほどより小さいが。既視感のある短い揺れが管制室を揺らし。その直後新たな侵入者アラートが表示された。

 

「状況報告!」

「これは。IS学園の敷地内に新たな未確認IS反応。アリーナ内と同型機と確認! 総数6!」

「総数12機の無人機ISだと!?」

「アリーナ外のIS、周辺を攻撃しつつ侵攻を開始! 嘘! 進行方向には避難中の生徒とシェルターがあります!」

 

 真耶の焦りに満ちた声に触発されるように千冬は自分の認識の甘さに再度舌を打った。

 

 現在外の無人機に対応できるのは、アリーナの外で待機している戦闘教員のみだ。

 外のISを対処するならば。アリーナ内の救援に向かうことは出来なくなる。

 

「あっ! 織斑先生、戦闘教員との通信が回復しました!」

「なに? 生徒にも繋げるか」

「いえ、回復したのは戦闘教員のISのみです。どういうこと? こんないきなり、しかも限定的に回復するなんて」

(クソッ。ここまで来ると露骨が過ぎるぞ。束!)

 

 探りを入れるのも馬鹿馬鹿しい今回の首謀者に対して怨みを吐き出す千冬。

 恐らく束はこちらが対処していることを察知。いや覗き見て知ったのだろう。

 

 物理的にも状況的にも外を無視することは出来ない。たとえ生徒を狙うことがブラフだったとしても。

 だからといって。未登録のコアをここまで大量に展開したことに。千冬は驚愕を禁じ得なかった。

 

(どこまで。どこまで我々を嘲笑えば気が済むんだ、あのクソウサギ!!)

 

 だがここで毒づいても始まらない。

 ならば今回も。出来ることを増やすしかない。

 

「各教員に伝達。生徒の避難を最優先。戦闘教員はツーマンセルで敷地内の敵ISを掃討。鎮圧後にアリーナ内に突入せよ」

「了解。こちら管制室! 各戦闘教員に伝達します………」

 

 真耶が戦闘教員に通信を開いている間。専用機持ちに襲いかかる無人機を睨んだ。

 

「意地でも私を表舞台に出させるつもりか。だがな、IS学園を、私たちを甘く見るなよ」

 

 本人が聞けば負け惜しみと笑うことだろう。

 だがその言の葉に乗せられた重みは、誰にも敵うことはない力を秘めていた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

【無人機襲撃の数分前】

 

 

 

(疾風、トイレ間に合ったかな………)

 

 打鉄弐式のメンテナンスを終えた簪は一人ベンチでデータを漁っていた。

 

(いきなりお姉ちゃんと菖蒲さんが相手。勝てるかどうかはわからない。でも、挑むことに意義があるはず………挑むこと、か)

 

 我ながらよくここまで前向きに考えれてるものだ。

 一昔前なら勝てるわけがないと頭でいっぱいになっていたことだろう。

 

 姉に挑むつもりでいる癖に負けることを前提にしている。

 本当に足元しか見てなかったのだと痛感している。

 それと同時にこれまでの自分が軽く黒歴史になってさえいる。

 

「………いや疾風にした数々のことが既に黒歴史に。どっかに浄化用ナノマシンないかな」

 

 冗談も言えるようになったことにも気付きそんな自分がなんだかおかしくなって自然と笑みが………

 

 ズドオオオオォォォン!! 

 

「キャアっ!!」

 

 予期せぬ振動にベンチから投げ出された。

 

 心を落ち着かせるための静寂の時間が突如音を立てて崩れ去った。

 ズレた眼鏡(型ディスプレイ)を直しながら辺りを見回す簪の耳に入ったのは微かに空気が揺れる音だった。

 

 恐る恐る。本当にゆっくりとアリーナのゲートに振り返った。

 

「ヒッ」

 

 ゆっくりと舞い降りる、異形の体躯。

 くすんだピンクとワインレッドのボディにグレーが差し込まれたスリートーンの巨大な鋼の乙女。

 

 頭部には羊の巻き爪のようなパーツで、顔面に値する部位はのっぺらぼうのセンサーパーツ。

 右腕には巨大なブレードが固定され、左手は掌に砲身のようなものが備え付けられた一回り大きい豪腕。

 羽のような細いパーツも相まって、伝承に出てくる羊の悪魔(バフォメット)を思わせた。

 

「な、なに? なんなのっ」

 

 間違いなく友好的な関係を結べないであろう敵無人機IS【ゴーレムⅢ】は重い音と共に簪の前に降り立ち。初めて簪に気づいたかのようにそののっぺらぼうを向けた。

 目のない瞳は簪の指。打鉄弐式の待機形態であるクリスタルリングに注がれた。

 

 思わず口元を抑えて硬直する簪に一歩、また一歩と近づいていく。

 逃げろとも動けとも言わない思考に縛られた簪はただ震えるだけの存在と成り果てた。

 

 恐怖が表層に現れた。

 

(誰か………誰か)

 

 願うも誰も来ない。祈っても目の前の悪魔が近づいてくる

 頼るべきパートナーもここにはいない。

 

(だ、だめ。私……いやっ)

 

 ギュッと目を閉じて心の殻に逃げ込む簪にゴーレムⅢの爪が迫った。

 

 ………簪

 

「っ!」

 

 今、確かに疾風の声がした。

 だけど疾風はいない。

 幻聴か? いやこれは。

 

 ………今日は頑張ろうな。目指せ優勝! 

 

(これは。私の、心の中から!)

 

 彼の笑顔を見た彼女の震えた身体が更に震え上がった。

 しかしそれは怯えではなく。確かな戦う意思だった! 

 

「打鉄弐式!!」

 

 叫びに呼応して輝く指輪を前にゴーレムⅢは思わず一歩後ずさった。

 

「はああぁぁ!!」

 

 身体に鋼の翼を纏った簪は力の限り握りしめた夢現の超振動エッジをぶつけた。

 思わぬ反撃にゴーレムⅢは吹き飛ばされてカタパルトの地面をこすった。

 

「はぁ、はぁ。もう、怯えるだけの私じゃ………ない!」

 

 スラスター全開。振りかぶった夢現。

 それを右手のブレードで受け止めるゴーレムⅢ。

 

 たゆまぬ努力と共に磨かれた薙刀術と打鉄弐式の機動性を絡めてゴーレムⅢを何度も切りつけた。

 羽のパーツはシールドユニットなのだろう。多方面から切りつける簪の夢現をフレキシブルな可動域で防いでいった。

 

(なかなか切り崩せないけど。疾風ほどじゃない!)

 

 一度距離を取り、再度接近。

 迎え撃つゴーレムⅢ。簪はそのまま切りかかると見せかけて足回りのスラスターを細かく操作し、ゴーレムⅢを中心に180度ターンで背後にまわった。

 出力を上げてパワーで切りかかった大刀はそのまま空を切った。

 

 完全に虚をついた。そのモーションならこちらを攻撃することは出来ない。

 そう確信した簪の判断は正しかったことだろう。

 ──ISの中身に人が入っていれば、だが。

 

 ギュルンと振り切った勢いのまま上半身だけを回転させたゴーレムⅢの斬撃が夢現に当たり。切っ先が簪の脇腹をかすった(・・・・)

 

 そのまま壁に吹き飛ばされた簪は背面から来る衝撃に思わず息を吐き出した。

 

「うあっ! ゲホッ、エホッ」

 

 立たなければ。吐いた息を戻すために思いっきり息を吸って立ち上がろうとした。

 

「痛っ」

 

 息を吸った瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。

 思わず手で抑えると、生暖かい液体が手に触れた。

 

「………え?」

 

 簪の掌に赤い染みが残った。

 脇腹を見ると。ISスーツが切れ、その奥の肌がうっすらと見える切り傷から血が滲んでいた。

 

「な、なんで。絶対防御が発動するほどの攻撃じゃなかったはず」

 

 通常ならば絶対に傷がつくはずのない場所が切られている。血と痛みが出てるから幻覚ではない。

 

 ISを用いる戦闘では装着者に被害が当たらないよう、装甲で覆われていない箇所には必ずシールドが張られ。そしてそれを突破されても絶対防御が発動する。

 

 装甲の内側から爆発したミステリアス・レイディのクリア・パッションをくらったオータムでさえ、肉体へのダメージが皆無に成る程、ISの防御システムの感度は群を抜いている。

 だから今の状況で簪の身体が傷つくことなど万のひとつもあり得ない。

 

 現に打鉄弐式のシールドエネルギーは、減っていない………

 

「………あれ?」

 

 簪はハッとする。

 そもそもシールドは発動していたか? 

 絶対防御は発動していたか? 

 

 簪は網膜に写る打鉄弐式のステータスを見て目を見開いた。

 シールドを発動したら大なり小なり必ず減るはずのシールドエネルギーが。1も減っていなかった。

 それは先ほどの攻撃に対して。シールドは発動していないことになる。

 

(ど、どうして!? まさかここに来て打鉄弐式にトラブルが!? そんなことない! だってあんなにチェックして。みんなで作ったのに………)

 

 先程とは比べ物にならない程の震えと硬直が簪に襲いかかる。

 それは死に対する恐怖。そして自分を形成する足場が崩れ去るような絶望だった。

 

(やっぱり駄目だったの、私は)

 

 そして追い討ちをかけるかのようなレーダーロック。

 目の前のゴーレムⅢの左の掌から黄緑色の光を灯し、徐々に強くなっていた。

 

「あ、ああ………」

 

 動かない。動かしたくても頭が働かない。

 その間にも砲口の光は強くなっていく。

 簪は恐怖を前に思わず全力で声を張り上げた。

 

「疾風っ!!」

「───はいよぉ!!」

 

 簪の叫びに応えるようにドアの防壁にヒビが入った。

 そのヒビから青白い雷光が溢れ、弾けとんだ。

 

「壁壊すの二回目ぇぇぇぇ!!」

 

 突如現れた乱入者に対応するように発射寸前のゴーレムⅢの左腕がソレに向けられる。

 

 慌てることなく右手のスピアで腕を切り上げられ。放たれた熱線が天井を焼き。がら空きの胴に押し当てられたランスが火を吹いてゴーレムⅢを吹き飛ばした。

 

 その空色のISと槍を携えた彼の姿に簪は熱を覚え、感嘆の声をあげた

 

「疾風!」

「おう簪! 良かった間に合った………って脇腹から血が!?」

「だ、大丈夫。もう止血されてる」

「チッ、お前か! 簪を傷つけたのはっ」

 

 怒りをあらわにする疾風の後ろ姿に、簪は不謹慎ながらも嬉しさと感動を覚えた。

 その姿は。簪が願ったヒーローの姿。

 簪の心の支えである。簪にとって正真正銘のヒーローの姿だった。

 

「ご、ごめんなさい疾風」

「なんで簪が謝るのさ!」

「その。打鉄弐式がまたエラーを起こしたの。シールドバリアが発動しないの。ごめんなさい………私──」

「大丈夫だ簪」

 

 やっぱり駄目だ。そう言おうとした疾風の顔は先ほどの怒りを示した人と同じとは思えないほど柔らかかった。

 

「いや、大丈夫ってのは厳密には間違いだな。でもそれは弐式の故障じゃねえよ。俺も同じだから」

「え?」

「イーグルのシールドシステムが機能してない。こいつのせいでな」

 

 汗をたらりと流す疾風を見て、簪は急いで自身のISの状態を見返した。

 

『敵ISの腕部から未知のエネルギーウェーブを確認。当機のシールドバリア展開に障害発生、絶対防御、発動不能』

「え、そんな」

「対IS用IS、ってところか。クソッ! ふざけた物出しやがって!」

 

 疾風の怒りに応えるように、ゴーレムⅢは新手の敵に向けてブレードを振り下ろした。

 

「んんっ! この前のゴーレムⅡよりもパワーがあるな! こいつ!」

「は、疾風」

「簪、怖かったら下がってろ。会長から大切な妹預かってんだ。これ以上はやらせない!」

 

 疾風が自分を守ってくれる。

 そう思った瞬間嬉しさより先にザワッと心のなかでさざ波が立った。

 

 また私はなにもしなくていいのか………ただ見てるだけなのか。

 

 いや、見ているだけじゃない。

 戦わなければ、彼と共に。

 さっきのシールド不調だって、冷静に分析すれば原因は直ぐにわかったはずだった。

 

(私も疾風と、一緒に戦いたい!)

 

 簪の想いを乗せ、再び打鉄弐式は立ち上がり、夢現を構えて突撃した。

 

「ちょっ、簪! 危ないって」

「私も戦う! ううん。私も一緒に戦わせて、疾風!」

「簪………よし! まずはこいつを外に出す。狭いところじゃ弐式は不利だ!」

「うん!」

「うおらぁぁーーっ!!」

 

 2機の高機動スラスターを吹かし、ゴーレムⅢを外に追いやろうとする。

 負けじとゴーレムⅢも渾身の膂力で二人に唾競った。

 

「はぁ………」

「疾風?」

「毎回毎回何度も何度も。狙い済ましたかのように邪魔ばかり入って。おかげでIS学園はイベントの度にトラブルが起きるジンクスが出てきてこのザマ。しかも一夏や俺が出てから事件が起きたって話。俺たちのせいだってのは薄々感じてたけどさぁ」

「は、疾風?」

 

 隣で愚痴りながら力とスラスターを込める疾風に少々困惑する簪。

 その眼鏡の奥にある瞳には、理不尽に対する確かな怒りと不満が込められていた。

 

「マジでふざけんのも大概にしやがれ! ここはジャンル・ライトノベルじゃねえんだぞっ!!」

 

 疾風の怒りが届いたのか、たじろいだのかは定かではないが。遂にゴーレムⅢの足が浮き上がり、そのままアリーナの外に突き出した。

 

「撃て簪!」

「この距離なら!」

 

 接敵したゴーレムⅢの腹に特大の光が炸裂し、爆ぜた。

 

「会長の前の前哨戦だ。速攻で方をつけるぞ!」

「了解!」

 

 自分の傍らにパートナーが、疾風がいる。

 これほど頼もしく。勇気を出せるシチュエーションはない。

 

 簪と疾風は槍を構えてゴーレムⅢを見据えた。

 このIS学園に襲いかかった厄災に、天誅を下すために。

 

 

 




 残念二次創作(ジャンル・ライトノベル)なんだよな、これが!

 この台詞ずっっっと言わせたかった。書けて良かった。

 しかしほんと多いよね、襲撃。月ペースだからまだマシととらえるべき?
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