IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

106 / 154
第104話【その名はヒーロー】

「もう! 今日は大事な日なのよ!? それなのに………それなのに! 爆殺!!」

 

 アクア・ナノマシンを混ぜ込んだ水蒸気に水蒸気爆発。クリア・パッションによる爆発がゴーレムⅢを包む。

 しかも今回のはいつもより爆発の規模がでかいのは楯無の溢れんばかりの怒りの賜物だろう。

 

 それでもゴーレムⅢの損傷は装甲はわずかにへこみ、ブレードの先端が少し折れただけで済んだ。

 その結果が更に楯無の怒りに油を注いでいた。

 

「楯無様、離れてください!」

「っ!」

「駄目押しです!!」

 

 前の打鉄から継続して使っている電磁弓【梓】から重厚な爆裂矢【桜花】を放ち。クリア・パッションからのダメージで身動きが止まったゴーレムⅢを中心に再び爆裂の花が咲き誇った。

 

 菖蒲の新型専用機IS、打鉄・櫛名田。

 

 櫛名田は全体的なフォルムは打鉄と同じだが、打鉄よりも重装甲化しているのが特徴。

 可動域を妨げない位置にプラズマバッテリーを搭載した増加装甲。

 四枚ある肩部シールドのうち背中側の二枚は一回り大型化しており。総合的な防御力が飛躍的に上昇した。

 

 白と黄緑という華やかなカラーリングでありながら武士のような逞しさを兼ね備えた櫛名田の最大の変化が背部のスラスター件プラズマバッテリー搭載の大型バックパックだった。

 

 右手にはバススロットにしまっている矢を高速コールするための特殊インターフェースを搭載した手甲を装備。

 更にPIC制御能力が向上し。稲美都では難があった高火力爆裂矢の桜花をなんなく使用出来るようになった。

 

「シールド無効化なのよ。流石にこれで何ともなかったら私は絶望するわ」

「しないで下さい。敵は健在ですよ」

「それでも効果はあり、ね」

 

 出てきたゴーレムⅢは両方に存在していた可動シールドユニットが吹き飛んでいた。

 それでもまだまだ敵はやる気だ。

 

「遠距離じゃ埒が明かない。接近戦で突き破るわ、援護お願い!」

「はい!」

 

 楯無が直進。

 敵の注意を反らすために菖蒲は矢を装填、同時にバックパックから8機の有線プラズマガン【八岐銃砲】を展開して射撃戦を開始する。

 

 プラズマの弾幕はゴーレムⅢの装甲に大した効果は与えられなかったが。後継機として設計された櫛名田の強化された電磁能力により放たれた鉄の矢は鋭い音と共にゴーレムの左腕の間接に突き刺さった。

 

「隙ありよ!」

 

 矢を抜こうとして止まったゴーレムⅢを逃さずに瞬時加速(イグニッション・ブースト)で水流を纏った蒼流旋をゴーレムⅢの腹に突き刺した。

 

「菖蒲ちゃん! 私の背中を押して! スラスター全開で!」

「了解しました!」

 

 鈍重な見た目をカバーするために各部に増設されたプラズマスラスターを発動し。菖蒲の手が楯無の背中に触れた。

 

「行きます!」

「お願い!」

 

 背中から感じる重圧と共に三機はそのままアリーナのシールドに突貫する。

 体勢を立て直そうとしたゴーレムⅢだったが背後から来た強い衝撃に痙攣するように動きを止めた。

 

「ぐぅぅぅ! か、固いわね………」

「楯無様!」

「大丈夫。だからもっと出力上げて! このまま無人機の装甲を突き破ってコアを壊す!」

「ですが、それでは貴女の身体が!」

「良いからやりなさいっ!!」

「は、はいっ!!」

 

 このまま出力を上げれば楯無はゴーレムⅢと櫛名田の力の板挟みの負荷がかかる。

 迷った菖蒲に活を入れるようにハッキリ言った楯無は更に増した重量感に苦痛を表しながらも笑みを浮かべた。

 

「フルコースよ! くらいなさい!」

 

 蒼流旋に備えられた四連ガトリングガンが火を吹いてゴーレムⅢはたじろぐ。

 水流のドリルは確実に敵の装甲に削りを入れているが、まだまだ突き破るには時間がかかりそうだった。

 

「ほんとどんな合金なんだか。作った人は材料調達も優秀か。けどお姉さんを甘く見ないでよね!」

『ミストルテインの槍。シークエンススタート』

 

 蒼流旋から左手を離し。楯無はそれを天に向けた。それに寄り添うようにアクア・クリスタルが4基配置される。

 楯無の掌で大量の水が収束される。大気から水を生成するだけでなく。アクア・クリスタルに圧縮された水も全て解放される。

 

「え、装甲が!?」

 

 それは只でさえ装甲のないミステリアス・レイディを守っていたアクアヴェールも例外ではなかった。

 

 楯無が持つ大部分の水が掌のアクア・クリスタルを起点に蒼流旋と同じ形状の槍を形成する。

 

「これは、学園祭のエキシビションマッチの?」

「フフッ。あの時出したのはこれのミニマム版。これが私の奥の手。普段防御に回してるアクア・ナノマシンを一点に集中。それを全て攻勢エネルギーとして敵にぶつける。いわば、巨大なクリア・パッションよ」

「あれが、ミニマム版?」

 

 見てわかる膨大なエネルギーを内包した巨大な水の槍。これが全て爆発するとなれば、想像を絶する威力になることは明白だった。

 

 それは目の前でこれから受けるゴーレムⅢも理解した。

 装甲がないことを良いことにゴーレムⅢの巨大ブレードが楯無の身体を傷つける。

 

「うっ、ああっ!」

 

 ミストルテインの槍を形成するためにアクア・ヴェールを展開することは出来ず、眼前の敵を蒼流旋で固定化し続ける楯無にそれを防ぐ手だてはなく。

 その凶刃はISスーツを切り裂き、楯無の肌に流血を強いていた。

 

「楯無様!」

「菖蒲ちゃん、うぐっ! 櫛名田のプラズマ・フィールドを全開にしなさい。巻き込まれるわ」

「楯無様も一緒に!」

「それは駄目。このミストルテインの槍はデリケートでね。私の手を離れたら直ぐに破裂しちゃうの」

「そ、そんな………!」

 

 それでは爆心地にいる楯無はどうなる? 

 普通ならISが守ってくれるだろうが。今の自分達のISにはそれを守ってくれるシールド能力が著しく低下している。

 

「そんなの駄目です! 死ぬ気ですか楯無様!」

「だいじょーぶ。お姉さんは不死身だから」

「馬鹿なこと言わないで下さい!!」

「ほんとよ。簪ちゃんを守らないと行けないし。死ぬつもりはないから、ね?」

「………死んだら地獄まで追いかけて殺しますから」

「あら怖いわね………」

 

 楯無はいつものように微笑んだ。

 道化師のように。自信の弱さと怯えを隠す笑みをうかべた。

 

 依然として斬り付けるゴーレムⅢ。だがそれは必死にこちらを阻止するために躍起になってるようにしか見えなかった。

 櫛名田のプラズマ出力が上がるのを確認し、楯無はミストルテインの槍を完成させる。

 

「覚えておきなさい。私は更識楯無。日本の平穏。そして妹の笑顔を守る為に戦う、ただ一人の姉よ!」

『ミストルテインの槍。マテリアライズ・コンプリート』

 

 完成したミストルテインの槍は内側から強い光を放つ。

 小型気化爆弾に相当するその威力。その必殺の一撃をゴーレムⅢに突き立てた。

 

「ミストルテインの槍! はつどぉぉぉぉっ!!」

 

 ──起爆。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「削れビーク!」

 

 ウィングスラスターに搭載されたビークが飛翔。

 獲物を貪る為に襲いかかって飛び進むビークがプラズマダガーを展開してゴーレムⅢに斬りかかる。

 

 プラズマバルカンで牽制し、インパルスを振り下ろす。

 ブレードで防ぎ、その空色のISに左手の砲塔を向けて発射。打たれた黄緑色の熱線はイーグルが展開したプラズマ・フィールドに阻まれて散らされた。

 

「おらぁっ!!」

 

 呆気に取られる(ように見えた)その山羊頭にプラズマブレードを展開した蹴りを見舞う。

 崩れたその躯体を更に蹴り飛ばし、簪の射線上に持っていった。

 

「ロック、オン!」

 

 チャージされた春雷の爆炎に巻かれるゴーレムⅢに追い討ちをかけるようにイーグルの足が踏みつけられ。右手にコールしたブライトネスの円錐シャフトのスリットが解放される。

 

「打ち抜く!」

 

 バーストモードのブライトネスが発揮する六発分に凝縮されたプラズマの衝撃がゴーレムⅢを吹き飛ばし。地面にクレーターを作り上げた。

 

 中心でピクつく奴を見定めてインパルスをコールしてバーストモードを発動させようとした、そのときだった。

 

 ドガァァァァァ!!! 

 

「んん!」

「なにっ!?」

 

 空気を振動させるほどの爆音。

 音の先にはリアルで見たことのないキノコ雲が天に伸び、一部はシールドに遮られて形を変えていた。

 

 ていうか、あっちは菖蒲と会長が待機してたアリーナじゃなかったか!? 

 アレほどの爆発を起こせるのは………会長のミストルテインの槍しかない。

 

 くそっ、通信で確認しようにもジャミングが酷すぎる! 

 

「お姉ちゃん…」

「簪………っ! あぶねえ!」

 

 気を取られた簪を狙ったのか、地面に落とされたゴーレムⅢが熱線を放ってきたところをプラズマ・フィールドで防いだ。

 

「あーもうしつこいなコイツ!」

「は、疾風」

「簪! 向こうのアリーナの様子を見に行ってくれ」

「そんな、一人であんなのと相手なんて…」

「大丈夫だよ。俺はシールド以外にご立派な盾がある。奴も死に体だ、俺一人でもなんとかなるさ。少なくとも死にやしない! それに、今にも行きたそうな奴をこんなところに置けるかよ」

「でも」

「行くんだ簪! 大事な姉ちゃんだろ?」

「………うん! 疾風も気をつけて」

「おうさ! ここは任せて先に行け!」

「そ、それは死亡フラグだから、ダメ」

 

 あらダメ出しされちゃったわ。

 会長のいるアリーナに飛び立つ簪を見送り、直下から見上げてくるゴーレムⅢを見下ろす。

 

「心配すんな簪。俺には朴念神ワンサマーの加護がついてんだ。死亡フラグを折ることなんてお茶の子さいさいよ」

 

 だからさ。

 

「お前ごときに構ってる暇ねえんだよ! 俺は地味にセシリアが心配で大変なんだこの野郎!!」

 

 インパルスの特大プラズマブレードでゴーレムⅢの頭をかち割るために瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「どこ、お姉ちゃん………」

 

 煙が燻るアリーナに向けて飛行する打鉄弐式。

 反応を探そうにもレーダーはてんで役に立たない。

 

 目視で探すしかない。

 

(大丈夫。お姉ちゃんは学園最強。私なんかがわざわざ行かなくても絶対に無事。早く確認して疾風のとこに戻らないと)

 

 そう必死に願いながらも簪の心臓は早鐘を打っていた。

 得たいの知れない寒気と不安が肺のなかにたまって息苦しさを感じるなか。弐式の望遠映像がなにかを拾った。

 

「………え」

 

 望遠映像に移されていたのは水色の流線型の装甲。

 ほぼ欠片のような物だったが。簪はそれを見間違う筈もなかった。

 

 急いでキーボードを叩いて情報を得ようとする。

 

「ど、どこ。何処にいるのっ」

 

 嫌な予感が身体を駆け巡る。

 熱いのに冷たい汗がドッと汗腺から滲み。心臓が更に早鐘を打った。

 

「………ひっ!」

 

 捜索の末。弐式のカメラが楯無を捉えた。

 

 瀕死の状態の更識楯無を。

 

 装甲は無惨に破壊され。申し訳程度のフレームが残っていた。

 身体のあちこちに赤い染みが浮かび。顔は生気のないかのような土気色で目を開かず、ピクリとも動いていなかった。

 

「ハー、ハー、ハー」

 

 音のない空気が口から漏れていく。

 叫びたいのに声を出したいのにその名が出てこない。

 瞳孔は揺れ動き。早いと思っている心臓の音が酷く重くゆっくりと耳を刺激する。

 

 気持ち悪い。

 

 気持ち悪い

 

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い………

 

 景色がぐにゃりと曲がり。猛烈な吐き気を催した。

 

 あんなに越えたかった。

 勝ちたかった。

 見返したかった。

 そんな無敵のはずだった姉が動かずに血を流している。

 

「う、うあ………」

 

 思わず口をふさいで嗚咽を漏らす。

 涙がたまって。ぎゅっと目を閉じた。

 

 至近距離のIS反応。新手のゴーレムⅢが簪を見つけて動いていた。

 

 簪はゆっくりとそのヤギの悪魔を模したISを見た。

 

 理想的なフォルム。角ばった肩のユニット。

 その身体に不相応に肥大した左腕。対照的にスマートな右手とブレード。

 

 ………憎い。

 

 歯を食いしばり。ゴーレムⅢを憎むルビーのような瞳に緑色の炎が、憎しみが宿っていた。

 

 切り裂きたい・撃ち殺したい・殴り殺したい・千切りたい・踏み潰したい・めった刺しにしたい・木っ端微塵にしてやりたい。

 

 殺したい。

 

 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい。

 

 塗りつぶされる。怯えも、振るえも全てが黒く塗りつぶされる。

 

 視界に写るのも煩わしい。

 一刻も早く。1マイクロ秒たりともその醜い造形物。その全てが憎かった。

 

「壊して、やるっ」

 

 静かに、かつ地獄の底から涌き出るような確かな感情。

 

 それは明確なる、殺意。

 

「う、ああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ウィング・スラスター全開。

 夢現の振動係数リミッター解除。

 

 淡く光る夢現を砕けるほど握りしめ。弾丸のように駆け抜けた簪は目の前の怪物に全ての感情をぶつけた。

 

 ガキンッという鋭い金属音が響く。その力にゴーレムⅢは鍔迫ることも出来ずに弾かれた。

 

「斬っっ、る!!」

 

 何度も、何度も、何度も何度も振り回す。

 

 流派も型もあったものではない。

 狂乱者のように滅多切りにする簪の夢現はゴーレムⅢの堅牢な装甲に次々と振動ブレードの傷をつけた。

 

(こんな、こんな意思のない機械ごときに、お姉ちゃんが)

 

 シールドを無効化されなければ。こんな奴に楯無が負けるわけがない。

 

「卑怯者! いなくなれぇぇぇー!!」

 

 渾身の思いで振り下ろした夢現。

 だがその動きを予見したゴーレムⅢが計算され尽くした太刀筋で夢現を弾き飛ばした。

 

 クルクルと簪の手のひらから離れる。

 

 攻撃手段を失なった簪を嘲笑うかのようにゴーレムⅢが次の刃を向ける。

 

 だが………

 

「ああああぁぁぁぁー!!!」

 

 それでも簪の激情は止められない。

 

 簪はそのままスラスターをふかし。ゴーレムⅢの細い首を掴み上げ、腰の春雷を起動して無茶苦茶に撃ちまくった。

 

 ドゴン! ドゴン! と断続的に放たれる荷電粒子砲が敵の装甲を焼き、皹をいれ、壊していく。

 

 防ごうとした可変シールドも、その勢いにはなす術もなく………

 

 撃つ、撃つ、撃つ! 

 撃って撃って撃って撃って撃って! 

 撃ちまくって、撃ちまくって、撃ちまくる! 

 

 そのまま簪はスラスターを吹かし続け。春雷を撃ち続けながらゴーレムを地面に叩きつけた。

 

 叩きつけられ、起き上がろうとするゴーレムⅢは目の前に強烈な光を知覚した。

 

 同時に晴れる土煙。春雷の砲口には限界以上にチャージされた荷電粒子のエネルギーが。

 

「許さっ! ないっっ!!!」

 

 最大チャージの春雷による爆発と爆炎がゴーレムⅢを包み込む。

 弾け飛ぶ腕。ちぎれ飛ぶシールド。砕けて崩れる肩のユニット。

 

 そして、ついに水銀のように輝く敵のコアが露になった。

 

「コア! アレを吹き飛ばせば」

 

 勝てる!! 

 

 カシュッ。

 

「っ!?」

 

 トリガーを引いても春雷は撃てなかった。

 エネルギー切れ。勝利を確信した簪にとってこれ以上に残酷な現実はなかった。

 

 何度トリガーを引いても撃てない簪。

 敵を見ると。残った右腕を動かして起き上がろうとした。

 

「ひっ! いやぁぁぁぁ!!」

 

 コンソールを消して簪はコアを殴り付けた。

 

「壊れて! 壊れて! 壊れて! 壊れてぇっ!」

 

 左手でゴーレムⅢの右腕を押さえつけ、右手で力の限り殴り付ける。

 だがそのコアは壊れることなくゴーレムⅢの身体を揺らすだけだった。

 

 簪は殺意と共に恐怖と戦っていた。

 

 壊さなければ殺される。

 その一心で殴り続け、ゴーレムⅢを壊していた。

 

「うぅ! うぅぅぅ!!」

 

 正気とは言えない拳の応酬。

 だが無情にも先に限界が来たのは打鉄弐式のマニピュレーターだった。

 

「なっ!」

 

 自身の右手の装甲が砕ける様を目の当たりにした簪は現実を直視。あれほど打ち付けたにも関わらずコアはようやくヒビが入った程度。

 簪はなおも無我夢中でゴーレムⅢを破壊すべく。ゴーレムⅢの腕を離してなおも殴りかかろうとした。

 

 だが抑えが消えて自由を取り戻したその腕は打鉄弐式を強引に殴り飛ばした。

 

「あうっ!」

 

 地面に叩きつけられた簪。

 身体の痛みに耐えながら起き上がった先には。ブレードを引きづりながらゆっくりとこちらに歩いてくるゴーレムⅢ。

 

 一度飛んで体勢を整えなければ。そうして意識を飛ぶことに集中しても。打鉄弐式は飛び立つことはなかった。

 スラスターを見やると、巨大な切り傷が刻まれ。スパークを発していた。

 

(な、なにか。他に手は………)

 

 武装ウィンドウを開く簪の目に止まったのは自分の出せる最高火力。山嵐。

 

 急いで起動。マルチロックのデータサンプルを引き出さずにシングルロックで撃とうとした。

 

 ビーー! 

 

「え、なんで? 何で撃てないの!?」

 

 発射しようとしたが山嵐が射出されない。

 表示には赤色でFCS、火器管制システムのエラーが表示された。

 

 殴られたときの打ち所が悪かったのか。

 限界まで撃ってオーバーヒートした春雷が原因か。

 はたまた根本的な問題か。

 

 ただひとつわかることは。簪にもう打つ手はないということだけだった。

 

「う、くぅ………」

 

 なにも出来ず、飛ぶことも出来ない簪の胸中にあるのは恐怖。そして、悔しさだった。

 

(なんて、無力なんだろ。私………)

 

 姉の仇と意気込んで。その結果がこの様……

 疾風の部屋で面と向かって勝つと言ったのにこの様………

 

 情けない。情けない。情けなすぎて。そんな自分に涙を流す自分も嫌いで。

 

「………ごめんなさい、ごめんなさい………ごめんなさい」

 

 うわ言のように簪の口から溢れたのは謝罪の言葉だった。

 

 それは近づいてくるゴーレムⅢへの命乞いなどではなく。自身を取り巻く全ての人に対する言葉だった。

 

 塩対応しても自分についていこうとしてくれた従者な幼馴染みである本音に。

 姉の従者と勝手に警戒し、意地を張り続けた虚に。

 打鉄弐式の製作を快く引き受けてくれた薫子、杏子、フィーに。

 

 自分の背中を押し、その手を引っ張ってくれて。

 何度も何度も諦めずにヒーローのように自分を助けようとしてくれた疾風に。

 

 そして。いつも自分を見守ってくれた大好きな姉。

 知らず知らずに自分の力になってくれた楯無に。

 

 ………ふと、昔の記憶がリフレインする。

 

 それはまだ楯無が楯無じゃなかった頃。

 

 小さい頃の姉妹の記憶。

 

 かっこよくて、それでいて何処か抜けていてそれでいて………………大好きで仕方ない、自分の姉の笑顔を。

 

 ────見てほしかった

 

 一緒に話したかった。

 一緒に笑いあいたかった。

 一緒にご飯を食べたかった。

 一緒にアニメを見たかった。

 一緒にISを動かしたかった。

 

 一緒に、そうただ一緒に………一緒に過ごしたかった。

 

(ああ、そうだった)

 

 自分は昔のような関係に戻りたかった。

 いや違う、戻ろうとしなかったのは自分だけ。

 

 殻に閉じ籠った自分を決して見捨てずにいた姉を拒絶したのは紛れもない自分自身だ。

 

 そんなことを。こんなになるまで気づかなかったなんて………

 

(ああ、なんて大馬鹿野郎なんだろうか。ほんと、救いようのない大馬鹿だ………)

 

 自嘲する簪。思わず乾いた笑みすら浮かんできた。

 刻一刻と近づく明確な死に、簪の心は壊れかけた。

 

「私なんて、最初からいなければ、よかったのかな………」

 

 自分がいなければ。疾風もセシリアと組んでいただろう。

 仲違いすることなく。晴れやかな気分で大会に望んでいたことだろう。

 

 もう目と鼻の先に鋼の巨人が近づいている。

 

 このままでは自分は死ぬだろう。

 無惨にも切り裂かれ、血を吹き出して。動かぬ死体の出来上がり。 

 

 もはやどうでもいい。これまで慣れないことをして高望みした結果がこれだ。

 恐怖も屈辱も後悔も………段々、段々と簪の中から抜け落ちていく。

 

 目の前にゴーレムⅢが立つ。

 無機質なバイザーアイが光り、簪に向かって大型ブレードを振り下ろした。

 

 目の前の色もなくなり。モノクロの世界へと変わっていく。

 

 痛いのかな? 痛くないといいな。

 

 そんなことを考えてる自分に驚くこともなかった。

 

(ああ………そういえば。こんな時にヒーローが助けてくれるっけ。都合のいいタイミングで助けてくれて。颯爽と危機を回避してくれる夢のようなヒーロー)

 

 ああ。疾風と見たアイアンガイの映画は楽しかったな。

 

 ………だけどこの世にヒーローなんていない。

 

 そんな都合のいい存在なんて。

 

 この世にいるわけがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪ちゃん!!」

「────?」

 

 誰だろう。自分を呼んだのは。

 

 不思議と温かくて、幸せになれそうな………

 

 フッとゴーレムⅢと自分の間に割り込む影がいた。

 

 その影は自分と同じ水色の髪に、赤い宝石のような瞳をした美少女だった。

 

 ──更識楯無だった。

 

 死に体のミステリアス・レイディの最後の力を振り絞って飛んだその躯体は。楯無の想いを一心に込められた最後の駆動。

 

 キツく、熱く。二度と離しはしないように。楯無は簪を抱き締め。その背中にゴーレムⅢの凶刃がなぞられた。

 

 色が戻った………

 

 ──鮮血。最初に目の前に飛び込んだのはペンキをぶちまけたように宙に撒き散らされる真っ赤な血だった。

 

「私の………世界一可愛い、妹に、何をするの………!」

 

 楯無は目に怒りを込め、その全てを握りしめるように手のひらをゴーレムⅢに翳した。

 

「消えなさいっ!!」

 

 ギュッと握り潰すと同時に、ゴーレムⅢに滞留させていた水蒸気がクリア・パッションとなって爆ぜた。

 残った腕を砕き。ヤギの頭は真っ二つに。連続で爆発する楯無の怒りがついにコアを爆散させた。

 

 包容が解け、楯無がその場にゆっくりと横たわる。

 

 目の前で倒れ伏す楯無を前に簪は思わず目を塞ぎたくなった。

 

「え、あ。あ、ああ………」

 

 空っぽだった心に震えが戻り。恐怖が再び舞い上がる。

 凍りついた身体に熱が入り、簪は考えるより先に楯無を抱き起こしていた。

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃん! ──刀奈(・・)お姉ちゃん!!」

「あ、あは。ひさしぶりにその名前呼んでくれたわねぇ………簪ちゃん」

「馬鹿! お姉ちゃんの馬鹿! 死んだかと思った! もう会えないかと思った!」

「大丈夫よ。簪ちゃんの白無垢姿を見るまで死なないから………あ、ウェディングドレスでもいいかなぁ」

「馬鹿ぁ!」

 

 こんな時でも冗談を飛ばして笑いかけてくる楯無にまたも涙が止まらない。

 生きていてくれた喜びと。自分をかばって死にそうになってくる恐怖に簪の頭はぐちゃぐちゃになっていた。

 

「とにかく。簪ちゃんが無事で、良かった」

「良くない! 良くないよ! 私よりお姉ちゃんが生きなきゃ駄目だよ! こんな、こんな役立たずな私なんか………生きてたって」

「こぉら。そんなこと言ったらお姉ちゃん怒っちゃうぞ?」

「………うん」

「フフッ」

 

 ISの生体保護がなんとか発動したのか、楯無の出血は止まりつつある。

 

 だがもう敵はいない。

 このまま救助を待てば………

 

「なに?」

「嘘でしょ………」

 

 背後を振り替えると、新たなゴーレムⅢが降り立っていた。

 ここに来て増援、それも2機。

 悪魔のISはその姿を持って、楯無と簪に絶望を与えていく。

 

 すると、2機のうち1機が腕をかざした。

 かざした先には、先程クリア・パッションでバラバラになったゴーレムⅢのパーツ。

 微動だにしないそれは糸に繋げられた人形のようにカタカタと不気味に動いたと思ったら、そのまま新たなゴーレムⅢに飛んでいき、間接に無理やりねじ込むかのように合体した。

 

『ウォォォォォン!!』

 

 歪に動いたあと、胸をそらして咆哮に似た電子駆動音を響かせるゴーレムⅢ、いやこの場合はキメラゴーレムと言うべきか。

 

 ゴーレムⅢの武装をそっくりそのままコラージュしたキメラゴーレム。

 4本の腕に4本の可変シールドユニット。ただでさえ強力になったゴーレムⅢに、もはや打つ手はなかった。

 

 今度こそ、今度こそ終わりだと。

 簪はペタンと座り込んだ。

 

「諦めちゃ駄目よ、簪ちゃん」

「でも………」

「こんな時に颯爽と駆けつけるものでしょ? ヒーローは………」

「そんなのまやかしだよ! 現実に、リアルにヒーローなんかいるわけない!」

「そうかしら………そんなことは、ないかもよ?」

「え?」

 

 楯無がゴーレムⅢの方ではなく。空を見た。

 

 釣られて見た簪。

 目を凝らして見ると、そこには。

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 2本の流星がアリーナの真ん中に飛来し、ゴーレムⅢとキメラゴーレムに襲いかかる。

 突然の飛来に二体の機械人形は面白いように吹き飛んで壁にめり込んだ。

 

「………ギリギリってとこか」

「いやアウトだ、クソッ! 俺はいつだって肝心な時に間に合わない!」

「そんなことはないさ。だが」

「ああ、これ以上はやらせない!!」

 

 土煙が晴れ。そこには二人の男が立っていた。

 

「あ………あぁっ………」

「私たちにはね………頼れる男の子(ヒーロー)がいるのよ」

 

 感極まった簪は涙を流す。

 それは負の涙ではなく………

 

「待たせたすまん、簪!」

「お待たせしました、楯無さん!」

 

 この世にいるはずのなかったヒーローに対する。

 歓喜の涙だった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。