IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
手負いのゴーレムⅢを倒してから直ぐにスタジアムを飛び出した俺が目にしたのは簪と会長がゴーレムⅢ2機に迫られてるというシーンだった。
脇目もふらずに強撃を噛ましたと思ったら。気づいたら必死の形相を浮かべた一夏が隣にいて一緒にゴーレムⅢを吹き飛ばしていた。
「………ギリギリってとこか」
「いや、アウトだ」
絞り出すように言った一夏。
俺は振り向くことなく全方位視界で二人の様子を見た。
簪は右腕のアームが砕けて素の手が見えていた。それ以外は特に目立った怪我はなさそうで安心した。
だが会長は正に満身創痍。全身に裂傷と火傷。所々に斬り傷。こちらからは見えないが、背中が重傷となっていて、意識を保ってるのが不思議な現状だった。
「クソッ! 俺はいつだって肝心な時に間に合わない!」
楓の時も、セシリアの時も………そして今だって。
俺はいつもギリギリじゃないか。
「そんなことはないさ。だが」
「……ああ、これ以上はやらせない!!」
そうだ、最後のラインは踏ませやしない!
その為に俺はまだまだ戦うんだ。
吹き飛ばされたゴーレムⅢがのっそりと土埃から姿を現した。
いや、ゴーレムⅢのうちの1機はさっきの奴と違って明らかな差異があった。
まるでゴーレムⅢのスペアパーツを継ぎ接ぎにしたような。まさしくキメラのような容姿だった。
「箒はどうした」
「別のアリーナを見に行ってる」
「そうか………威勢よく立ち塞がったは良いけど。お前どんだけ戦える」
「零落白夜は使ってないけど。霞衣を結構使った。それでも50%だ」
「上々だな」
「疾風は?」
「4割だな。急いで倒すのに結構無理したから。って来た!」
キメラゴーレムが右の2本で豪快に斬りかかってきた。
迫力も2倍なのかもう、凄い。
………ていうか。
「菖蒲何処だ? ここにいると思ったが」
会長と簪がまさに死の一歩手前な状態だったから頭からスコンと抜けてたが、まさか死んだということはないよな?
ジャミング酷すぎてIS反応が検知出来ない。
入念にイーグルで周辺サーチを試みる………反応あり!
「あそこ? ていうか瓦礫………マジかっ!」
「どうした疾風」
「すまん一夏! ビークを渡すから三十秒ぐらいさばいてくれ!」
「えぇっ!? あーわかった任せろ!」
こっちの意図を察したのか、自分の指示は信頼できるということか。一夏はビークと共にゴーレムたちに立ち向かっていく。
ほんと頼りになるよお前という男は。
一目散にアリーナの端にある瓦礫の山に急行した。
でかい瓦礫を避けると、中から櫛名田らしきISに身を包んだ菖蒲が見えてきた。
「菖蒲! んぐぐ、ずあっ! しっかりしろ菖蒲! 菖蒲!」
「う………ぅぅ」
生きてる、良かった。
傷も掠り傷ぐらいか。頭を打ってる感じはない。顔の血色も良い。
吹き飛ばされて瓦礫に埋もれたとかそんなところか。装甲が厚いからそれで事なきを得たか?
だがこのまま寝かせる訳にはいかない。
シールドは未だ不調だ。寝ている間に流れ弾で致命傷なんてそれこそ笑えない。
「菖蒲、起きろ菖蒲! 菖蒲!」
だがゆすっても声を張り上げても起きる気配はない。
身動ぎはしている。このままでは一夏を1人にさせたまま。
………………………やるしかないかなぁ。
いや馬鹿らしい提案だと思うよ?
だけどやるしかないかなぁ(二回目)。ほんとこういうのやりたくないんだけど………。
今は一刻も争う。そう、一刻を争うんだ!
「………………菖蒲」
「………」
「好きだよ。だから起きてくれ」
「はいただいまっ!!」
囁くように、それこそ湿度たっぷりに耳元で囁いてやると、それはもう電源が入ったかのようにガバッと起き上がってくれた。
「あれ? 疾風様?」
「よし起きたな! 状況は逼迫してるからとりあえず手を貸してくれ!」
「わ、わかりました! あの、その。私の聞き間違いでなければ今私に愛の言葉を………」
「ああ、言った。『友達として』好きだよっ、てね」
「嘘! 嘘です! そんなこと言ってなかったです! 多分!」
「良いから早く会長たちを助けるぞ! 誤解させたなら後でたっぷりお礼するから!!」
「も、もう。疾風様悪いお人ですっ!」
菖蒲と一緒に一夏の元に急行する。
ビークで支援してるとは言え、ゴーレム2機を見事捌ききった一夏には感銘を受けざるを得ない。
「お待たせ一夏! 眠り姫起こしてきた!」
「菖蒲さん! 良かった無事だった!」
「心はズタボロですが無事です!」
「お、おう?」
「いやほんとごめんって」
ごめんね。ほんとごめんね。
だから今はこれ以上突っ込まないでくれ罪悪感で胃がねじ切られそうだから。
「これで三対二だ。行こう! 疾風、菖蒲さん!」
「ああ」
「寝呆けてた分は取り返します!!」
ーーー◇ーーー
疾風と一夏は大丈夫と言ってるものの、装甲は所々破損してエネルギーも含めて辛うじて戦えてる状態。
一度ゴーレムⅢを倒してきてるが、当たれば終わりという戦況に精神的にも限界が来てる筈。
だが菖蒲が加勢に加わったことで先程より勝ち筋はたてられた。
でもまだ足りない。
このままでは勝てない。
いずれは力負けし、1人、また1人と死んで行く。
誰よりも戦況を俯瞰的に見ていた簪にはそれが理解出来ていた。
(このままじゃ疾風やみんなが………でもどうすれば良いの? 私なんかがなんの役に立てると言うの?)
目の前で果敢に立ち向かう一夏。
自らが盾となり。二人や自分達を守る菖蒲。
こんな時にでも的確に指示を出し、少しでも戦況を整えようと奮戦する疾風。
そんな三人の背中を呆然と見るしかなく、簪はまた涙を溢れさせていた。
自分もあんな風に強ければ。
自分の命をかけるだけの覚悟があれば。
みんなのように戦えただろうに。
もっと早く意地を捨てて、打鉄弐式を完成させて。訓練をもっともっと取り組んで練度を上げていれば………。
足りない後悔が簪に涙を流させる。
「私………やっぱり卑怯者だ」
いつだって出来ない理由を探して逃げてばっかり。
どうせなにやったって上手く行かないと諦めてばかり。
それを全て免罪符にして自分を守ってるだけだ。
「そんなことないわよ、簪ちゃん」
「え?」
「簪ちゃんは卑怯でもなんでもないわ。簪ちゃんが誰よりも頑張ってること。お姉ちゃんは知ってるんだから」
「だ、だって私………こんな時にでも動けない。怖くて怖くて仕方ないんだもん。いつも自分のことばっか考えて………」
「なに言ってるの。そんなの当たり前じゃない。戦うのが怖くないわけないわ。私だって怖いもの、簪ちゃんと同じよ」
「私と同じ? そんな、そんな訳ない。だってお姉ちゃんは強いでしょ。私なんかよりずっと」
だって………
「お姉ちゃんは………完全無欠のヒーローだもん」
誰よりも強く。最強であることを誉れとしている楯無。
大衆を惹き付け、希望であり続けた。
人知れず日の本を守る守護者としてこの国を支えている。
そんな彼女が、自分みたいな人と同じな訳がない。
「完全無欠のヒーロー………か。フフ、そんな凄いものじゃないわよ。私は」
「だ、だって………」
「私はね、簪ちゃんと仲違いしてから。毎日毎日怖くて仕方なかったの。もう二度と簪ちゃんと話せないんじゃないかって。簪ちゃんに嫌いって言われて、縁を切られるんじゃないかってずっと怖かった」
「怖、い………?」
「笑っちゃうでしょ? こんな人が学園最強とか、国家代表とか、日本の守り人を名乗ってるのよ? 滑稽極まりないわ」
「で、でも! お姉ちゃんは戦える! いつだって戦えてるじゃない!」
「もしかして、私が戦いを恐れてないって思ってる? それは間違い。私はいつだって戦いが怖くて仕方がないの」
「そんなこと………」
「出来ることなら、日本を守る使命なんて背負いたくなかった。ただ簪ちゃんや皆と過ごせればそれで良い。戦って死ぬのなんて真っ平ごめんだって常に考えてる。そんな私が戦い続けてるのは、自分を取り巻く世界を守るため、簪ちゃんを守るため。だから私は戦うのよ。大層な大義名分を背負いながら、ね」
簪は自分の姉が何を言ってるか分からなかった。
いつだって責任感を持ち、恐れを知らずに立ち向かえる。
彼女がいれば大丈夫。何もかも上手く行く。
簪にとって楯無は………誰よりも皆にとってのヒーローに他ならなかったのだから。
そんな彼女が出来たら戦いたくないと。
何処にでもいる女の子として過ごしたかったと言うのだ。
そして簪は思い知る。自分は今まで何を見ていたのか。
勝手に自分が作り出した最強で完全無欠の更識楯無像を作り上げて。彼女の本当の姿である更識刀奈というものを全く見てなかったのではないか。
『無能なままでいなさいな』
そしてありもしない彼女の幻にずっと怯えていた。
自分の知る更識刀奈が、そんなことを言う筈もないと言うのに………
泣きもすれば笑いもする。
怒ることも、悲しむことだってある。
勝つことも、負けることもある。
強いところもあれば、弱いところもある。
彼女だって、1人の人間だ。
超人でもなんでもない、ただ目の前のことから逃げ出さない、ただの人間。
そして、誰よりも自分を想ってくれた。自分の肉親なのだ。
「ぐほっ!」
「疾風!」
「疾風様!」
キメラゴーレムの拳が疾風の腹にめり込み、そのまま簪たちの方に吹っ飛んだ。
何度も地面を跳ね、簪の側で止まった疾風は思わず吐血した。
「エホッ、エホッ! うえ、血の味がする………くそが、思い切り殴りやがって………」
ブライトネスを支えにして起き上がろうとするが膝が崩れた。
荒い息を絶えず吐き続ける彼は、明らかに大丈夫ではなかった。
それでもなお立ち上がり、スラスターに火を入れようとした疾風を簪が止めに入った。
「待って!」
「簪? ああ、大丈夫大丈夫。少し血吐いただけだから。そんな顔すんな」
「待って、行っちゃダメ。もう疾風もISも限界だよ」
「なんの、まだまだ戦える。レーデルハイト工業の技術力を嘗めちゃあかんぜ」
「ダメ! このままじゃ疾風が死んじゃう。死ぬのが怖くないの?」
無理しておどけようとすら疾風に困惑する簪。
そんな彼女を見て、疾風は変わらずに笑みを浮かべた。
「バーカ、怖いに決まってんじゃん。もしかして俺が死をも恐れぬ神兵だと思ってたりする?」
「こんな時にふざけないでよ!」
「おっと失礼。そりゃ怖いに決まってる。こんなのISの戦いじゃない。誰が進んでやるかってんだ」
「だったら」
「だけどそれじゃ皆が死ぬ、それが嫌だから戦う。死なないため、生き残る為に、な」
もう一度ブライトネスを地面に突き刺して立ち上がろうとする。
「どうして………なんでみんなそこまで戦えるの?」
「んー? そうだなあ。戦うべき理由があるから、とか? 俺は簪やみんなを守りたいし。何より………こんなISを否定する奴を、俺は許せないんだよ」
支えを外し、力強く立ち上がった
眼鏡の奥にある瞳には、まだ闘志の炎が消えずに光っていた。
「簪。さっき俺がここに来る前に。現実にヒーローなんかいないって言ってたよな?」
「う、うん」
「ああ、全くもってその通りだ。この世にヒーローなんかいないさ。誰かのピンチに参上して、たちまち敵を退けて皆を救うヒーロー。そんな都合の良い舞台装置、あるわけがない。ましてやこんな理不尽極まりない世界だ。一体どれだけの人が自分を救ってくれるヒーローを待っているかもわからねえ。だが現実ではあんなのはフィクション、娯楽の創造物だ」
そんなのが居たらどれだけ人生が楽だったか。
もしそんなヒーローがいたら。今の疾風はなかっただろう。
(もしそうなら。セシリアの両親も、生きていられたのかな。脱線事故が起きても救ってくれるヒーローとか)
だが現実にそれはいない。
だけど………
「確かにこの世には最高最善のヒーローはいない。だけどさ簪。自分が誰かのヒーローになることは出来るんじゃないか?」
「え?」
「力がなくても、高潔な理由がなくても。困ってる誰かを助けることは。例えどれだけ小さい手助けだとしても。それが誰かを助けることに繋がる。それってさ、ある意味立派なヒーローじゃない?」
「………」
どんな小さいことでも。人の助けになれる。
お年寄りや妊婦に席を譲る。
重い荷物を持って上げる。
迷子の子供の親を探して上げる。
困った人の手を取って上げれば。
それだけで嬉しいのだ。
そうだ、そうだった。
殻にこもっていた簪が人知れず伸ばした手を取ってくれたのは。
疾風であり、楯無だった。
それは決して、特別な力があったからではない。
助けたいと思ったから助けたのだ。
「だからさ、簪もきっとなれるよ。ヒーローに」
「私が、ヒーローに?」
「ああそうさ!」
震えを抑え、疾風は簪に向かって笑みを向けてこういった。
「お前が、簪自身がそう望むのなら! 簪は誰かのヒーローにきっとなれる! お前には、その力と心がある!」
「!!」
その言葉に、簪は目の前の景色が拓けた気がした。
真っ暗な空間が光に包まれるような、そんな錯覚を覚えたのだ。
「しゃあ行くぞオラァァっ!!」
己を奮い立たせ、疾風がキメラゴーレムに斬りかかる。
簪はそんな疾風の姿を見て、心が震えた。
そして思った。
(私も、疾風の助けになりたい!)
先程の弱い自分を追いやり、ホログラムキーボードを立ち上げた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「私、なれるかな。ヒーローに」
「フフッ」
「?」
「もうなってるわ。簪ちゃんは、私にとってのヒーローよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
今まで見たことない強い意思を持った自分の妹を前に楯無はそれを嬉しく思う反面、少しの寂しさを覚えた。
「これ、持ってって」
「これって、ミステリアス・レイディのアクア・クリスタル?」
「お守り。私はいつだって、簪ちゃんの側に居るわ」
「不吉な言い回しやめて」
「ふふ、ごめーんね♪」
お茶らけた楯無に笑いつつ。簪はしっかりとアクア・クリスタルを握りしめた。
「行ってきます。お姉ちゃん」
「行ってらっしゃい。簪ちゃん」
システムを修正した簪が飛翔する。
飛び立った簪に、もう迷いなんてなかった。
「頑張れ、一年生」
ーーー◇ーーー
「疾風復活スラッーシュ!」
「うお! 大丈夫か疾風」
「大丈夫だ!」
ということにしとけ!
依然として猛威を振るうゴーレムⅢとキメラゴーレム。
濃密な弾幕を展開する熱線の応酬を捌きながら反撃の機会を伺う。
かっこよく啖呵を切ったはいいが。
さて、こっからどうするか。
ISのシールドに物を言わせたゴリ押しが出来ないのがこんなにも歯がゆいとは。
「疾風!」
「え、簪!?」
振り向くと簪が上空でホログラムキーボードを展開していた。
出てくると思わなかった俺は思わず大きな声を出した。
「馬鹿! 無理して前に出なくていいんだ!」
「私は大丈夫! だから私も一緒に戦わせて! お願い!」
今まで聞いたことがないほどの強気な簪に胸が熱くなる。
もう俺が引っ張り上げなくても、1人で飛べる。
いやそんなのは驕りだ。簪は最初から1人で飛べる翼を持っていたんだ。
「………行けるのか?」
「私が、山嵐で倒す!!」
「わかった。任せるぞ!」
「任せてっ」
ここにいる誰もが諦めるということを知らない。
ならば、まだ勝ちの目はある!
魂のない機械人形に、負ける道理なんかないだろ!
「今から山嵐のプログラムを組み直す! だからみんなは」
「それまで時間を稼ぐ、だな!」
「うん!」
「ならば!」
ズン! と力強い一歩を踏みしめた菖蒲がキメラゴーレムを睨み付けた。
「私があの多腕のゴーレムを抑えます! お二人は右のゴーレムを!」
「1人で行けるのか菖蒲さん!」
「ええ! 今こそ櫛名田の奥の手を解放します!」
「奥の手だって?」
「セーフティ解放! 武神ユニット起動!」
菖蒲の音声認識コードと共に櫛名田がスパークした。
それと同時に櫛名田のバックパックが変形し、櫛名田の各部に増設された装甲も分離して浮かび上がる。
バックパックは巨大な鎧に変化し。櫛名田の四つのシールドのうち大きい方が切り離されて鎧の肩に収まる。
鎧が形成されると同時に膨大なプラズマが菖蒲の背後で人の上半身の形になり。巨大な人型に制御用の外骨格が被さり。バックパックの一部が変形した巨大な弓【
菖蒲の背後に稲妻の武者が出現した。
「『須佐之男』、顕現!!」
『ウォォォォォーー!!!』
駆動音、いやプラズマによって発せられた音がまるで咆哮のように轟き。兜のツインアイが呼応するように光った。
【武神ユニット・須佐之男】
それは正しく菖蒲の奥の手であり。ためていたプラズマエネルギーを全解放して起動する駆動鎧。
プラズマの固定化で人型を形成し。バックパックとシールド、増設装甲で作られた鎧型の制御装置で操作する。
上半身だけの身体でもISよりも大きいその姿は正しく決戦兵装。菖蒲と合わせると二階建ての一軒家に相当し。その大きさと迫力を持つ鎧武者は見るものを畏怖させ。
味方を鼓舞した。
「「え、えええええーーー!!?」」
俺と一夏は思わず叫び、上空でプログラムを組んでいた簪も突如現れた巨大な鎧武者に一瞬手を止め。見守っていた楯無が得意気な顔で笑っていた。
「な、なにそれ! そんなの聞いてないぞ菖蒲!? すげー! すげー!」
「か、カッコいい………!」
「疾風! 簪さん! 気持ちは痛い程わかりまくるが今は敵を倒そう!」
「今度じっくり見せて上げますからね、疾風様、簪様」
「死ねない理由が増えたっ!」
「ろ、ロマンっ」
突如登場した雷電ロボット鎧の登場に戦場であるのを忘れて思わず目を輝かせてしまった。
気のせいかゴーレムたちも呆気に取られて巨大な須佐之男を見上げていた。
「よっしゃ! 勝ちに行くぞみんな!」
「「おう!!」」
IS学園内2トップを誇る機動力を有したスカイブルー・イーグルと白式・雪羅がゴーレムⅢに突貫する。
肩と腕の熱線を飛ばすが、それを巧みに避け、時には切り払って肉薄した。
「今の俺のテンションを止められると思うなぁっ!!」
ブレードを紙一重で避けた俺はゴーレムⅢの顔に脚部ブレードをめり込ませる。
続いて一夏が雪羅のビームクローを押し当て、すかさず射出したビークがゴーレムⅢに突き刺さった。
「息つく暇与えんな!」
「わかった! くらえっ!」
近距離でぶっぱなされた雪羅の荷電粒子砲を可動シールドで防御したゴーレムⅢのシールドの付け根にブライトネスを押し込んでインパクト!
近距離で続けざまに放たれた衝撃で細い可動ユニットはポッキリと折れ、その余波が肩の熱線砲に回って爆発した。
圧倒していた筈の奴らにこうも押されるのか?
ゴーレムⅢは息を吹き返した男子コンビに防戦一方を強いられた。
「せいっ! やっ!」
菖蒲の動きをトレースした須佐之男がプラズマ刃を展開した巨大弓・鳴神を振り下ろす。
巨大なプラズマの腕と武器はそのまま質量兵器となり。須佐之男の一撃にアリーナの地面が陥没する。
一度距離を取って遠距離戦を仕掛けようとするキメラゴーレム。
だが顔を上げた瞬間に鳴神から放たれた雷光の矢に吹き飛ばされた。
鳴神はいわば巨大な梓と同義ととってもいい。
自身の身体から作り出したプラズマの矢がそのまま放たれ、キメラゴーレムの機体を焼いた。
「もう足手まといには、なりません!!」
吹き飛ばされたキメラゴーレムに追撃するために須佐之男を出した櫛名田はその巨体に似合わない速さで飛んだ。
プラズマの塊である須佐之男はそれ事態が巨大なプラズマ・スラスターとなっている。
高機動型には見劣りするものの。その巨体が猛スピードで突っ込む様は単純に恐怖である。
「須佐之男!
倒れて地に伏せるキメラゴーレムを上から見下ろした須佐之男は拳のラッシュを叩き込んだ。
連続で放たれる雷の拳に地面は揺れ、そしてヒビが入った。
「ハアアァァァァァ!!」
巨体から放たれる連撃に埒外の固さを誇るキメラゴーレムも可動シールドにエネルギーを流して防御力を高めるしか手段はなく。いまも必死にこの悲惨な現状への打開策を算出し続けていた。
簪も負けていない。
手と足の装甲を一部解除し、八つのホログラムキーボードを展開した超演算モードに入っていた。
「大気、重力、風力のリアルタイムデータ検出。スカイブルー・イーグルからの観測データもロード」
簪の目の前に広がる数十枚のホログラムウィンドウ。その全てに目を通し、情報を整理、統括していく。
「くっ! 手に力が!」
「須佐之男の可動限界が」
「まだだ! まだ持たせろぉっ!!」
時間にして3分かかったか、かからないか。
俺と一夏も攻撃の冴えが鈍り始め。
菖蒲の櫛名田も、須佐之男のプラズマを固定化していたエネルギーのタイムリミットが迫り、攻勢が弱まった。
限界が徐々に近づいている現状でも。簪は焦ることなくデータを構築していく。
このフィールド全てを掌握するかのように。簪は戦場そのものを余すことなくデータに置換していった。
「各弾頭の制御データをイニシャライズ。タイムラグ検出、完了。爆発における相互干渉。敵ウィークポイントの洗いだし、回避パターン選出………山嵐、セット!」
ウィングバインダーに搭載された山嵐のコンテナがスライド。総数48のマイクロミサイル射出ユニットが顔を出した。
「みんな! 離れて!」
「了解です!」
「やっちまえ簪ぃっ!」
一夏が受け止めてる隙に俺がゴーレムⅢを蹴り飛ばし。
菖蒲も最後の力でキメラゴーレムを上空に投げ飛ばした後、須佐之男ユニットは元のバックパックに戻った。
「誘導プログラム、オールコンプリート。山嵐全弾、マニュアル制御開始! ダイレクト・リンク、スタート………力を貸して、打鉄弐式!!」
山嵐、データ受信完了。
息を整え、瞳に強い意思を宿し。簪は高らかに号令した。
「山嵐、フルファイア!!」
ドドドドドドドッ!!
絶えずコンテナから飛び立つ無数のマイクロミサイルの排気煙がスタジアムを彩った。
投げ飛ばされ、蹴り飛ばされながらも無理やり体勢を立て直したゴーレムⅢとキメラゴーレムは飛んできた48発のミサイルに対して回避機動を取った。
「その程度で、逃げたつもり?」
簪がキーボードで追加の指令を入力。
山嵐弾頭に搭載された黄緑色のスケイルフィンが開き、更に軌道が複雑化された。
2機の退路を塞ぐかのように爆発する山嵐。
迎撃しようと熱線を乱射してもミサイルの方から攻撃を避け、敵を食い尽くさんと殺到する。
そこでキメラゴーレムはある計算を完了させた。
即座にゴーレムⅢがミサイルの前に躍り出て自らが盾となった。
先程の須佐之男の乱打で四枚あった可変シールドユニットは全ておしゃかにされた。
ならば1機を犠牲にして残ったキメラゴーレムで敵を殲滅する。
着弾の瞬間にゴーレムⅢは熱線砲を備えた左手を切り離してキメラゴーレムに渡し、受け取ったキメラゴーレムがまた新たな腕として取り付けた。
これで熱線砲は増設され、山嵐の迎撃の目処が立った。数発は被弾するだろうが。今の装甲値を計算すれば充分耐えられる。
目の前でゴーレムⅢが爆発四散するなかで、何処かキメラゴーレムは活路を見出だした。
後は残ったミサイルを迎撃すれば………
「残念だけど………予測済みだよ」
煙を突き抜け、迂回してきたのは数発のミサイル………ではなく。『先程の倍ほどの規模のマイクロミサイル』の嵐だった。
「一段目発射と同時に連続バススロットリロード。48発✕3回の総数144発の山嵐………」
楯無に認められたいが為に作り始め。
疾風と出会い、頼れる仲間と共に完成させた打鉄弐式。
そして姉の想いを受け継ぎ、覚悟を示した。
これまで築き上げてきた簪と打鉄弐式の軌跡。
その集大成が、更識簪という名のヒーローに結実する!
「避けられるものなら、避けてみせてっ!!」
キメラゴーレム、全力のバックブーストで後退しながら我武者羅に熱線を乱射。しかし増設された熱線砲を持ってしても。100発以上の山嵐に対しては余りにも無力だった。
どれ程の回避パターンを繰り出しても。その度に簪がダイレクト入力で逐一迎撃パターンを変えていく。
腕、足、ブレード、熱線砲、身体、頭。
キメラゴーレムを構成する全てがミサイルの爆発の嵐に砕かれ、飲まれ、灰塵に帰していく。
一発一発の威力は低くても、これを食らえばどんなに固くても意味などなさない。
迎撃を逃れた十数発を除いた山嵐がキメラゴーレムを食い尽くし、アリーナの空に爆炎の大華を咲かせた。
「やった! これなら!」
勝ちを確信した一夏が歓喜の声をあげる。
この場にいる誰もが勝利を確信した。
だが。
「なっ!」
煙から顔を出したキメラゴーレムは、まだ動いていた。
増設した腕はもはや右手のブレード付きの腕のみ。
足は左足が膝まで残すだけ、肩の大型スラスターユニットも全損していた、
ヤギを模した頭も角が片方折れており、バイザーも割れて中身がむき出しになった頭部の奥にあるカメラアイはゴーレムの執念を宿すかのように不気味に揺らめいていた。
「クォォォォ!」
ほとんど死んでいるようなその身体で折れたブレードを突きつけ。最後の力を振り絞って自身を破壊した仇敵である簪に向かった。
「まずい! 簪!!」
今の簪は完全に無防備。山嵐も全て出尽くした!
間に合うか!
スラスターをもう一度吹かして簪の盾になろうとしたその瞬間。
キメラゴーレムはガクンと何かに引っ張られたかのように静止した。
「残念だけど終わり。簪ちゃんも言ってたでしょ?」
「それも、予測済み」
急に錆び付いたブリキ人形のように痙攣したゴーレムの目線の先には、アクア・クリスタルが突き刺さった剥き出しのコアがあった。
簪が最後の射撃のあと、万が一を考えて山嵐にくっつけて飛ばした。姉のお守りだった。
簪と会長は右手をゆっくりと伸ばし。その手にスイッチを持つようにサムズアップした。
「「かちんっ」」
ぐっと同時に押された親指のスイッチ。
内側でアクア・クリスタルが爆ぜ。コアの中にとどまっていたエネルギーがキメラゴーレムを包み。そのままゴーレムごと消滅した。
そして訪れる静寂。
今度こそ終ったと皆が肩の荷を下ろした。
「い、いえーいっ」
振り向くとそこには血を流しながらも何時もと変わらない。いや、何時も以上の笑顔を輝かせる会長の顔があった。
「ははっ」
「ふふっ」
一瞬呆気に取られたあと。なんでか分からないけど笑いがこぼれた。
そして、それに答えるように簪、一夏、菖蒲、そして俺は会長に向かって満面の笑みでこう返したのであった。
「「イエーイ!!」」
決着ぅ!どうも作者です。
いやー出せました。菖蒲のスタ○ド。
いやーー出せました!山嵐フルバースト!
今まで目だった戦績はそこまでなかった菖蒲の大化け具合。
覚醒した打鉄弐式と、それを余すことなく引き出した簪の覚悟。
正に日本代表候補生四人組の大立ち回り、楽しんで頂けたでしょうか。
俺は書いてて楽しかったです。
みんなも楽しんでくれたらいいなと思いました。