IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 それはする方もされる方も気が気じゃない言葉である。


第107話【遅刻】

 

 

 IS学園、地下特別区画。

 

 極限られた人間にしか知らない。表向き、その裏にもない場所で、真耶は回収された無人機の解析を行っていた。

 

「ふぅ………」

 

 こうして千冬の側近的な仕事をして、どれくらいたっただろうか。

 

「学生の頃の私じゃ。想像つかなかっただろうな………」

 

 日本代表候補生として頑張った日々。

 今と違って結構はっちゃけた青い頃。

 

 そんなやんちゃ娘が、学園の根幹を知る位置にいる。

 

(だけど、もっと深いものがあるのでしょうね、ここは)

 

 自分の知らない、IS学園の深部。

 更識楯無、日本社会の裏のトップである彼女も知ってるのだろうか? 

 少なくとも、織斑千冬は知ってるだろう

 

 そして、このIS学園は。本当にただのIS操縦者育成機関なのだろうか? 

 

(………わかんないことを考えても仕方ないか)

 

 ペチンと軽く頬をはたいて真耶は再びコンソールのキーを叩き続けた。

 

(ただ、わかることと言えば………)

「少し休憩したらどうだ?」

 

 いつから居たのか。

 傍らに立っていた千冬が真耶にミルクティーの缶を渡した。

 

「ありがとうございます。そっちは終わったのですか?」

「無理やり終わらせた。あっちは捨て台詞で、報告書だけは綿密に提出せよ、動画つきで。とのことだ」

「今回は、追及は免れませんか………」

「流石に今回は一種の戦争レベルだからな。なあに、肝心なところは写さないさ、やりようはある」

 

 最初の襲撃で12機。増援として専用機持ちを襲ったのが6機。

 計18機の無人ISがIS学園を強襲した。

 

 しかも、シールドを阻害する機能を携えて。

 

「敵のIS。ゴーレムⅢはこれまでの無人機2機の発展機で間違いありません」

「シールドジャミングのからくりは」

「駄目ですね。残骸をあらかた調べてそれらしいものはいくつか見受けられましたが。全部焼ききれて調べようがありませんでした」

「そうか」

「安心してません?」

「当たり前だ。こんなのが万が一流出してみろ。世界のバランスが変わるぞ」

 

 ISの優位性。

 例を上げるなら男性がISに勝てない要因の一つが弾が通らないこと。

 もしシールドジャミングが発動すれば。シールドのない操縦者の頭を撃ち抜けば勝ちなのだ。

 

「コアは」

「例によって未登録です。18個全部。ナンバー無しでした」

「何個回収出来た」

「18個のうち8個が完全に破損。もう8個は無人機の機能停止と同時に焼ききれていました。恐らく、自壊プログラムがあったのかと」

「残り2個は」

「こちらは回収に成功しました。どうしますか」

「政府には全て破壊したと伝えた。おって理由付けも送るさ」

「納得するでしょうか」

「させるさ。ISコア1個でも国の価値が飛躍的に上がる。仮に政府が回収したとして、秘密裏に利用されては叶わんからな」

 

 アラスカ条約という建前の抑止力があるからこそ。ISが生まれて10年、世界は未だにISを使っての大規模な戦争に至っていない。

 されど1個のコアでも、世界は容易く騒ぎ立てる。

 

 だがそれで納得する政府ではないのは百も承知。

 更にIS学園を危険に晒す可能性すらあるのだ。

 

 それは千冬を見上げる真耶の無言の訴えにもなった。

 

「そんな顔をするな。こんななりだが、私は元世界最強だ。私に出来ることなら何でもしてやるさ。命をかけて、な………」

 

 重く、鋭く。真耶は自分が知らない千冬の覚悟のほどを感じ取った。

 彼女は本気で、自分の命を厭わない気だと。

 

 それはゴーレムⅢ襲撃時に真耶が見た、千冬の表情にあった。

 

(まるで、今すぐにでも飛び出して叩き切ってやりたいと言わんばかりの顔だった)

 

 現場指揮官がその場を離れることはあってはならない。

 だけど本当にそれだけ? 

 

 真耶はモンド・グロッソ以降、千冬がISに乗ったところを見たことがない。

 

(もしかしたら、何か乗れない理由があるとか? でも、それはなに?)

「どうした?」

「ふぇ?」

「そんなジッと見つめられたら対応に困る。言っておくが私にその気はないぞ」

「べ、別にそういう意味で見てたのではないです!」

「そうかそうか。私は戻る。お前も早めに切り上げておけ。明日も大変だからな」

「はい」

「そうだ。詫びという訳ではないが、今度何か奢ってやる。回らない寿司とかでもいいぞ」

「了解です」

 

 1人静かになった部屋で真耶は仕事に戻った。

 

 千冬が何を考えてるかはわからない。

 だがそれでもついていくと決めた。

 

 なら信じることが自分に出来ること。

 

 気持ちを新たに真耶はゴーレムⅢの調査を続行した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 セシリアに告白する。

 

 そう決心したのは、簪に告白された直後だった。

 

 セシリアと仲違いして1ヶ月弱、彼女と話せない日々が続いたことからセシリアへの思いが一気に高まった。

 

 菖蒲と簪の告白を受け、それを断った。

 二人は断られるとわかった上で俺に想いをぶつけてきた。

 

 対して俺は結果がわからなくて、セシリアの想いを見定めてから告白しようと思った。

 だがそんなのはただの逃げだと思った。

 

 今こそ彼女と正面から向き合い、想いを伝える。

 

 だが俺も男。シチュエーションに拘りたい。

 

 だからこそこの高級ホテルのディナーに誘うため、セシリアに声をかけて、そこで告白することを決めた。

 

 結果。

 

「ごめんなさい。明日はどうしても外せない用件がありまして」

 

 撃沈である。

 

 ………いや、行きなり誘った俺にも責任があるから仕方なし。

 だがこの覚悟の程をぶつける術を知らない俺は逆に燃え尽きた。

 

 とすれば誰を誘おうか。

 このチケット、ペア限定で1人では入れないのが難点。

 

 菖蒲と簪は駄目。

 振った相手と二人でディナーなんて俺の心情的に良くないし、変に期待させても失礼だ。

 何よりセシリアに知れたらまたいらない心配をさせてしまう。

 

 同年代も以下同文。

 

 となると一緒にいっても誤解されないような人がいい。

 

 ………無難に家族の誰か誘うかなぁ。

 

「はぁ………」

「朝っぱらから1人廊下でタメ息か?」

 

 俺の心とは対照的な青空を眺めていると織斑先生に声をかけられた。

 

「うん? それはなんだ」

「これですか。このまえインフィニット・ストライプスで取材受けた時の報酬であるディナーチケットです。ペアの。一夏は今日、俺は明日なんですけど」

「誰か誘って断られたか?」

「ご名答です。そうだ、織斑先生。俺と一緒にディナーでもいかがです?」

「いっちょ前にナンパか? 似合わんぞ」

 

 知ってますぅ。

 

「生憎まだ仕事がたまっている。それに、そういう煌びやかな所より居酒屋のほうが良い」

「ビールとか焼酎飲めませんしね」

「失礼なこと考えてるな? 一応私もカクテルは嗜んでるぞ、バーとかでな」

 

 そうだったのか。

 

 バーで物思いに耽りながらグラスを揺らす織斑先生か。

 うわ、カッコいいな。ほんと女性なのに反則級にカッコいいよな織斑先生は。

 

「それよりレーデルハイト。これから昨日の事件に対しての取り調べを行う」

「取り調べ? え、もしかして俺が犯人とか思ってます?」

「たわけ。今回は政府に提出するようの報告書とビデオを撮る。その場で何が起こったかを詳細に知りたいそうだ」

 

 あー、成る程。

 

 聞いた話。今回の襲撃ISは驚きの18機だとか。

 確かにもう紙だけの報告じゃ納得できませんってか。

 

 ………あれ。

 

「すいません、もしかして一夏もこれから?」

「当たり前だろう。今回関わった者全員だ」

「ちなみにそれって明日は無理なんです?」

「拒否すれば政府のIS特務機関に拘束される」

「うわー」

「そしてもれなく私の個人指導だ」

「うわー!」

 

 確かこのまえ鈴か箒あたりが受けた奴だったかな。

 指導とは名ばかりの体術組手による性根矯正。

 帰ってきた二人なんかゾンビみたいだったな。あのフィジカルに自信のある二人が。

 

「流石に夜中まではかからんぞ。ディナーとやらには間に合うだろう」

「いえ、友人の学園祭とブッキングするな、って」

「そればかりはどうにもならんな」

「ですよね」

 

 あー、蘭ちゃん。可愛そうに。

 楓は別口で行くらしいから、一応連絡しておくかぁ………

 

「あの」

「なんだ。取り調べは延期にならんぞ」

「いえ、そうじゃなくてですね………織斑先生って、顔が似てる親戚や妹っています?」

 

 ピクッ、と織斑先生の眉が動いたのを俺は見逃さなかった。

 

 キャノンボール・ファストでセシリアに傷を負わせたサイレント・ゼフィルスの乗り手、M。

 

 そのバイザーの奥から覗いた顔は織斑先生にそっくりだった。

 散々引き伸ばしてきたが、今は二人っきり。周りに人はいない。

 

 勿論、織斑先生に家族の話題はタブーだというのは一夏から聞いてるから知ってる。

 だが今を逃せない手はない。

 

「いない。私の家族は一夏だけだ」

「親戚とかもいないんですか?」

「いない。何度も言わせるな」

「では、これは何ですか」

 

 スマホで見せたのは、あの時記録していたMの素顔だった。

 

「この顔と織斑先生の顔で顔認証をかけたところ、歳が離れたにしては不自然なほど一致率が高いんです」

「他人の空似だろう。この世には自分の顔と同じ人間が3人もいると言うからな」

「確かにそうかもしれません。ですが」

『ま、待て! そいつはなんだ!? なんでそいつは織斑先生、織斑千冬に似ている!?』

『あら、見ちゃったのね。残念ながら答えることは出来ないわ。でも………その織斑千冬に聞いてみればわかるんじゃないかしら』

 

 流されたのはこの時のスコールと俺の会話。

 あからさまにごまかしてるが、このカードをどう捌いてくる? 

 

「私は知らない」

「織斑先生」

「可能性があるならば、そいつは私のクローンだろう。私はブリュンヒルデだ。亡国機業(ファントム・タスク)がそれを作っていないとは限らん」

「流石に無理があります。自分の知らない親族でもいたんだろうって言われた方が自然ですよ」

 

 この人は隠している。

 一夏でさえ知らない、暗い秘密を隠している。

 

 飽くまで俺の勘でしかないが、織斑先生にしては言い訳がおざなり過ぎだ。

 

「この事は誰かに話したか」

「いえ、俺しか知りません。会長や一夏にも話してないです」

「これは他言無用にしろ、動画も直ぐに消せ」

「待ってください、まだ」

「好奇心は猫を殺すぞ、話は以上だ。取り調べに行くぞ」

 

 これ以上は断固として話さん、そう背中で語る織斑先生の後ろを渋々ついていく。

 

 しかしクローンだって? 

 そんな子供騙しのような理屈で言いくるめられると思ってるのかこの人は。

 所詮俺はそこらのガキと変わらんと見られてるのか、まあ当然と言えば当然だが。

 

 我慢できなくなり、俺は更に問い詰めようとした。だが狙ってか狙ってないか、それは織斑先生の言葉に遮られた。

 

「話は変わるが」

「はい?」

「ディナーの相手は決まったのか?」

「まだですけど」

「そうか。なら一つ、頼まれてくれるか」

 

 こっちの問答をぼかしてからの要求? 

 相手が織斑先生と言えど、不機嫌さを隠さずに睨んだ。

 

 だが先生の口からある人物の名前が出た途端、

 

「へ?」

 

 俺は呆気に取られてキョトンとするしかなかった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」

「うわ、クソデカタメ息だね蘭ちゃん」

「だって、だってぇ………」

 

 (セント)マリアンヌ女学園。

 乙女ゲーにでも出てきそうな名前の学校のベンチで蘭は盛大なタメ息を吐き、疾風の妹である楓を引かせていた。

 

「そりゃさ、一夏さん来れないのはわかるよ。でもあっちもあっちで大変なんだよきっと」

「わかってるけど、わかってるけど!」

 

 そう、一夏はゴーレムⅢの事件による事情聴取で学園祭に来れなくなった。

 といっても午前中が潰れるだけで午後は大丈夫というのが救いであるが。

 

「ドードー。大きな声出したらヤバイって、ほらあそこの眼鏡かけたシスター睨んでる」

「ヤバッ」

 

 この学園は歴史古き神聖な学舎として有名だ。

 そんな学園で蘭は生徒会長をやっている。

 

 更に成績優秀で運動も得意。

 更に整った容姿も相まって学園では人気者なのだ。

 

 そんな彼女が招待客に男を誘ったという噂は恐るべき淑女ネットワークにより学園中に拡散し、未だ遠巻きに今か今かとヤジウマがその生徒会長の男の存在を見ようとしているのだ。

 

「しかし学園祭三時までって短すぎでしょ。お堅いのが古風だと思ってるのかしらね?」

「まあ、お陰で品行方正よ。この学園の生徒は」

「セントなんてつくだけあって、学園の至るところにシスターさんいるもんね。蘭ちゃんも着るの? シスター服」

「うん、自分の持ってるよ」

「………………」

「貸さないよ」

「私なにも言ってないんだけど」

「どうせお兄さんを誘惑するために使うとか言うつもりだったんでしょ」

「バ、バレてるぅ」

 

 もしかしたらシスター好きなんじゃ! と勘ぐった楓の策は見事に見透かされていた。

 規律に厳しいところだから望みは薄すぎたが。

 

 いったいどうすれば兄を落とせるのか日夜考えてる楓は研鑽を怠ることを知らない。

 

「フフ」

「なによぉ。滑稽なのはわかってるって」

「ううん、そうじゃなくて。楓ちゃんが羨ましいなって」

「ほえ?」

「いつも素直に好意を表にしてるでしょ。私って本当にドモってドモって。全然伝えられないの」

「一夏さんが鈍いのが問題じゃない?」

「それ言ったらおしまいなのよ」

 

 おしまいなのだ。

 だからと言って諦める理由にはならない。

 

 今回は正真正銘誰の邪魔も入らない。一夏への最大のアプローチチャンスなのだ。

 

「よし、ならばこの楓・レーデルハイト。蘭ちゃんの恋の為に一肌脱ぐわ! もし蘭ちゃんがドモったら私が代弁してあげる」

「え、ええ!?」

「あ、勿論肝心の好きってのは言わないであげる。本当はそれを言えば一発なんだけど、いややっぱ言った方が良いよね」

「だだだ駄目だからね!? まだ早いというか、それは私が言うから!」

「えーー、待ってたら10年はかかりそうだけどなぁ」

「ダメったらダメぇ!」

 

 シスターからのキツい視線も厭わずに顔を真っ赤にして楓の身体を揺らす蘭。

 と、言葉では恥ずかしがっても頭の中は学園祭デートのその先を想像してしまうのが女というものだ。

 

 そんな喧騒の間に入ってきたスマホのバイブに蘭は即座にポケットから取り出した。

 

「一夏さんからメールだ!」

「もうついた?」

「えっとね………………は?」

「どうしたの」

 

 メールの文面には。

 

『すまん。取り調べに午後の部があった。さらに二時間ぐらい遅れる』

 

 なんとも短く簡潔で、それでいて要点をまとめた素晴らしい文章が記されていた。

 

「こっから、二時間?」

「今12時だから………一時間しかないね。時間通りなら」

 

 終了から二時間なんてほとんど終わりムード。

 

 ほとんど、遊べない………

 

「一夏さんの………一夏さんの………一夏さんの」

「蘭ちゃん? おーい、蘭ちゃーん?」

「一夏さんのぉ」

 

 ガバッと立ち上がり、顔を上げた。

 

「ばかぁぁぁぁぁっ!!」

 

 その咆哮は学園中に響き渡った。

 

 シスターにしこたま怒られた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「はぁ、はぁ。時間、うわっ、もう一時間しかない………」

 

 まさかの午後の部という伏兵ですっかり蘭との約束に遅れた一夏は最寄駅から全力疾走で目的地前まで迫っていた。

 

 校門の側にいる受付のシスターさんを見つけ、半ば滑るように校門に入った。

 

「す、すいません! まだ学園祭やって、ふぅ、ますか!」

「は、はい。招待状は」

「え、えっと、これです!」

 

 急いでチケットを詰め込んだまま走ったからか、ポケットに入っているチケットはすっかりしわくちゃになっていた。

 

「はい、確認しました」

「ありがとうございます!」

「あ、敷地内は走らないで下さい!」

「すいません!」

 

 ギリギリ走らないギリギリの早歩きで蘭を探す。

 だが見渡す限り黒いブレザーを着た女子ばかりで、あの特徴的な赤毛の子はいなかった。

 

「………やっぱ出ない。何処にいるんだよ蘭」

 

 走ってる最中も電話をかけ続けてるが、一向に出てこない蘭に一夏は焦りに焦ったのだった。

 理由があったにしろ、大幅過ぎる遅刻をしてしまった。

 やんごとなき理由はあれど、待たされる方はそんなこと知らないし関係ないのだということを、一夏は経験済みなのだ。

 

(それにしても、視線が凄い)

 

 IS学園に入りたての頃を思い出す。

 世界でただ1人の存在ということだけで注目された日々。

 誰も織斑一夏ではなく、男性IS操縦者・織斑一夏という存在でしか見ていないことを。

 かつて千冬の弟という目でしか見られ続けた一夏にとって、内心うんざりしたこともあったのだ。

 

(いけない。物思いにふけってる暇はないだろ、俺)

 

 そういえば、蘭は生徒会長だ。

 もしかしたら蘭のことを知ってる子もいるかもしれない。そうとなれば善は急げ。

 

「あの、ちょっといいかな」

「「は、はい! なんなりと!」」

 

 ビタイチのハモリに一夏は弱冠気後れするも、そんな女子が沢山いるIS学園で生き抜いた精神力を持って踏みとどまった。

 

「中等部の子なんだけど、五反田蘭って知らない? 生徒会長で、髪は赤毛で元気な子」

「はい! 知ってます!」

「どこにいるかわからないかな。電話したんだけど出なくてさ」

「さ、さあ………朝は見ましたけど」

 

 流石にそう簡単に見つからないか。

 だが迷ってる時間はない、次に行こう。

 

「ありがとう、じゃあ俺はここで」

「あの! 私たちと学園祭回りませんか!」

「もしかしたら回ってるうちに見つかるかもしれませんし」

「え、えっと」

 

 ここの女子もアグレッシブだったか。

 女子校というのはそういう気概の子が集まるのだろうか。

 

「ん?」

 

 なんだ、視線を感じる。

 好奇心とは違うプレッシャーにも見た鋭い視線が。

 

 急いで振り向くと、そこにはお目当ての蘭が壁から顔だけだしてこっちを見ていた。

 

 いたっ! 

 

「ごめん、今日はその子と回るって決めてるんだ! それじゃ!」

「あーー!」

「イケメンがぁ………」

 

 残念がる女子一同を置き去りにして蘭のところに向かう一夏。それに気づいた蘭が慌てて逃げ出した。

 

「え、なんで逃げるんだ!?」

 

 走っては行けないことを忘れて全力疾走する。

 ここで見失ったらもう会えない気がしたからだ。

 

「蘭! ……あれ?」

「は、離してよ楓ちゃん!」

「えーい! 逃げる必要が何処にあるのさ! 大人しくお縄につけい!」

「楓ちゃん?」

「あ、一夏さんこんにちは。ところで疾風兄はおまけで来てたりしません?」

「いや、いないけど」

 

 ですよねー、とシラっとした目をしながら楓は蘭を羽交い締めして一夏の方に向かせた。

 

 強制的に面と向かってしまった蘭はしばらくドモった後、継続的に顔を赤くしたまま口を開く。

 

「お、遅かったですね一夏さん! 大遅刻も良いところです!」

「来てくれると信じてました。と蘭ちゃんは言ってます」

「だというのにもう女子に囲まれるなんて良いご身分ですね!」

「でも自分に気づいてくれて嬉しいです。と蘭ちゃんは言ってます」

「もう残り一時間しかないんですよ!」

「少ない時間ですが、良い思い出にしましょうね。と蘭ちゃんは言ってます」

「楓ちゃん!!」

 

 後ろで副音声してる楓の拘束をどうにか振りほどいた蘭の顔は真っ赤だった。

 一夏は怒涛の展開に謝るタイミングを完全に逃していた。

 

「なに勝手なこと言ってるの!?」

「なにって。私は蘭ちゃんの心の声を代弁しただけで」

「そそそそんなこと思ってないもん!」

「じゃあ一夏さんが来てくれて嬉しくないんだ」

「そ、それは………」

「あー、そっかそっか。まあ見ての通りです一夏さん。蘭ちゃんは凄く乗り気じゃないので私と回りましょう。本当は疾風兄が良かったけどそこは妥協します」

「え、え、ええ?」

「じゃあね蘭ちゃん。生徒会の見回り頑張ってね」

「ちょ、ちょっと。だめぇぇーー!!」

 

 腕を組んで連れ去ろうとする楓から一夏を奪ってその腕に自分の腕を絡ませた。

 

「一夏さんは私と学園祭回るんだから!!」

「ら、蘭?」

 

 もうなにがなんだかわからない急展開に一夏は振り回されっぱなしだ。

 

 唯一わかることは、蘭が自分と学園祭を回りたいということ。

 そして、目の前にいる悪友の妹がその悪友に似たしたり顔になっていたことだ。

 

「だそうです一夏さん。残り少ないんで存分に楽しんじゃってください。蘭ちゃん恥ずかしがりやなんで、多少強引にやっちゃって下さい。では私はこれにて!」

「か、楓ちゃん」

「がんば蘭ちゃん。告れると良いね。まあ無理だと思うけど」

「楓ちゃん!」

「バーイ」

 

 疾風の如くその場から立ち去る楓にもう開いた口が塞がらない。

 

 壮絶なハイテンポ漫才を見せられたような気分だ。

 

「あ、あうあう」

「蘭」

「はひゃい!」

「ごめんな。本当はもっと早く来たかったんだ………ほんとごめん」

「あ、いえ。こちらこそ、言い過ぎました。一夏さんが約束を破るような人じゃないのに」

「………いや、割と破ってる方だと思う」

「え?」

「な、なんでもない!」

 

 脳裏によみがえる友人との日々をリフレインして一夏は勝手にダメージを受けた。

 

「じゃ、じゃあ行きましょうか!」

「おう。ってこのまま行くのか?」

「行きます! これは一夏さんへの反省をかねての行動なんですから。決して下心からの行動ではありませんからね!?」

「わ、わかった。今日は蘭に任せる」

「はいっ!」

 

 蘭ははにかみながらも笑顔を露にした。

 

 やっと笑ってくれたと安堵した一夏は蘭と一緒に物陰から飛び出した。

 

「見てあそこ。さっきのイケメンさんよ。って生徒会長と歩いてる!?」

「しかも腕組んでるわよ、もしかして彼氏? あのお堅い五反田さんがねぇ」

「ていうか、あの男の人どっかで見たような………何処だっけ」

 

 腕を組んでる男女など女子校生徒にとってはこれ以上ないぐらいのご馳走だ。

 一瞬にして数多くの視線に晒された一夏と蘭は身体を強張らせた。

 

「う、ぅぅ」

「大丈夫か蘭、無理しなくていいんだぞ」

「い、いいえ! 大丈夫です!」

「ほんとか」

「一夏さん! 先ずはクレープです! その次はたこ焼きと焼き鳥! そしてお化け屋敷も行きましょう!」

「は、はい!」

 

 無理やり調子を取り戻した蘭は腕を組んだまま走り出した。

 

「ら、蘭。転ぶ、転ぶって!」

「何言ってるんですか! 時間は有限なんです、一夏さんのせいで! 行きますよ!!」

「わわわ!!」

 

 すれ違ったシスターの走ってはいけませんという声に返事だけして走り続ける蘭。

 

 普段の優等生ぶりは何処へやら。

 そこにいたのは好きな人とのデートに心を踊らせる年相応の少女の姿だった。

 

 その後一夏と蘭は学園祭が終わるまでの一時間をみっちり楽しんだ。

 その間も組まれた腕は解けることはなく。翌日蘭が数多くの生徒から質問責めにあったことは言うまでもなかった。

 

 

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