IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

11 / 154
第11話【罰ゲーム、それはサンオイル】

 青い海、白い砂浜、照り付ける太陽という常套句が似合う花月荘近辺の海。

 そして此処に男が一人。いつもの眼鏡を度入りのクリアカラーの水中眼鏡にチェンジした俺が砂浜に足を踏みしめ。

 

「あっつっ!?」

 

 小躍りしていた。

 

 なにぶん最後に海に来たのはいつ頃だったか、そんなの覚えてないぐらい昔のことだった。

 熱い、夏の太陽に熱せられた砂はとても熱く。このまま潜り込めば砂風呂が出来そうだ、入ったことないけど。

 そういやちっちゃい頃はサンダルとか履いてたかなー。今、めっちゃ裸足である。

 

「あ、レーデルハイト君だ!」

「レーデルハイト君!? うわっ大丈夫? 私の水着変じゃない!? ねー清香ー!」

「大丈夫だって。何回も選び直したじゃん」

 

 やはり目立つのか俺は直ぐに捕捉された。と思ったら一組の人たちである。

 

「おー、レーデルハイト君外見に似合わず結構鍛えてるんだねー」

「うわっ、見事に割れてる。触っても、いい?」

「私も触る!」

「ちょ、おいおいお前ら触りすぎだ、くすぐったいくすぐったい」

 

 なんだこれは。モテ期か? 時代は眼鏡細マッチョ系か? 俺にも春が来た? 

 今は夏だ馬鹿野郎。

 

「後でビーチバレーやらない? あっちにコートあるんだって」

「ビーチバレー。やったことないな」

「私達も初めてだから。気が向いたらでいいよ」

「検討しとく」

 

 しばしの別れを告げて女子はコートに向かっていった。

 

 ふー、驚いた。

 IS学園生がほぼ貸し切りということもあって、目の前には色取り取りの水着を来た多国籍女子がキャッキャウフフしていた。

 村上が見たら「生きてて良かった!」と叫びそうだ。そして俺は殴られそうだ。

 

 しかし、これは確かに目のやり場に困るな。なるべく見ないようにしよう、女子はそういう視線に敏感らしいし。

 ISスーツと違って直接的な露出が多い、さっき迫られた時には結構ドキドキしてしまった。男の子だなぁ俺。

 

 とりあえず準備運動しとくか。男性IS操縦者が海で溺死したなんてお笑いにならないし。

 ………こういうときの運動ってなにすればいいんだろ。ラジオ体操と柔軟でもしとくか。

 12345678、22345678。

 

「うわっ疾風。あんたも律儀に準備体操してんの? 男二人揃って真面目ねー」

「だから言ったろ? お前もちゃんとやっとけって」

「大丈夫よ、私の前世はきっと人魚だから」

「どっちかと言うと猫だろ」

 

 後ろから声が、この声は一夏と鈴か。俺は調度腰回しの運動だったので、それを利用して後ろに振り返った。

 

「………なにしてんだお前ら」

「移動監視塔ごっこよ!」

「だ、そうだ」

 

 一夏の上に肩車で乗っかってる鈴を見て腰を回した姿勢のまま固まってしまった。辛くなったので戻った。

 一夏は特に代わり映えのない海水パンツ。鈴はオレンジと白のスポーツタンキニビキニ、甲龍カラーではない。

 

「一夏力持ちだな。女子一人を軽々と」

「全然問題ないぜ。鈴、軽いし」

「当然ね、無駄な肉をつけてる奴等とは訳が違うのよ!」

 

 鈴が一夏の頭上で誇らしげに胸を張った。

 その肉の付けどころが俺と鈴で認識が違う気がするのは気のせいということにして。

 

「あ、凰さんが一夏君に肩車してもらってるー」

「もしかして交代制かな?」

「なら、今のうち予約しとかなきゃ駄目だね!」

 

 一夏+鈴は文字通り? 監視塔として高い位置にいるせいか周りが感づき始めた。

 このままでは一夏の首筋が代わる代わる女子の太股とフィッティングすることに。モテ男は役得だね。

 

「や、ヤバイ、鈴降りてくれ。誤解が広まってる」

「えー。しょうがないわねー」

 

 仕方なしに一夏から飛び降りる鈴、そのまま砂に手をつけてから前方宙返りで直立した。

 なんて身軽さ、これは10点満点。

 

「よしっ! 一夏泳ぐわよ!」

「お、おい! だから準備運動は」

「そんなの良いから早く行くわよ! それー!」

「うわったったった!? 疾風、また後でなー!」

「はい行ってらっしゃーい」

 

 一夏が鈴に連行され、そのまま海に飛び込んだ。

 流石は鈴と言ったところか、先制攻撃で見事一夏との時間をゲット。ここら辺の距離感というのが、他のラバーズとの違いかな。

 

 さて、俺も海に繰り出すとしよう。このまま此処にいてはセシリアに発見されて何かしらされてしまう。自由時間終了までなんとか逃げおおせれば俺の勝ちだ。

 

 え? 此処は潔くセシリアを探すか待つかしてお願いを聞け? いやいやセシリアは「後程ビーチで」と言っただけで別に待っててとも逃げるなとも言われていない。

 なので一目散に。逃げるんだよぉ……

 

「あ、レーちんはっけ~ん!」

 

 この独特なスローボイスは! 

 

「やほ~レーちん」

「おう、のほほんさん。って、なんだその黄色いのは!」

 

 間延びボイスののほほんさんの姿は先程の篠ノ之博士と同じぐらい異質だった。

 体全体を一部の露出のない黄色い着ぐるみで、頭の部分だけ出ている。頭には同じく黄色の狐の耳、というより顔を象った帽子をつけている。

 いやしかし。

 

「こんな灼熱空間でなんてもの着てきてるののほほんさん! 暑くないの? 熱中症になるぞ!?」

「大丈夫~、これは巷で流行ってる着ぐるみ型の水着なの~。こう見えて暑くないのだ~」

「水着なのそれ!? え、暑くないの!?」

 

 ほやほやしてるのほほんさんに鋭いツッコミが飛ぶ。

 ただただ驚いた、このなりで水着って制作者頭大丈夫か? 本当に暑くないのか? 

 普段からのほーんとしてるから暑くてフラフラしてるのかいつも通りなのかわからんぞ? 

 

「ところでさ~レーちん。かんちゃん何処にいるか知らない?」

「かんちゃん?」

 

 誰だ? またのほほんネーミングの被害者なんだろうけど。うちのクラスにそんな子居たっけ? 

 

「更識簪。ISオタクなレーちんなら知ってるでしょ~?」

「えーと。ああ日本の代表候補生だろ? 確かロシア代表の妹さんだっけ。え、あの子IS学園に居るの?」

「いるよ~四組の子でクラス代表なんだよ~」

 

 そうだったのか。

 

「最近元気なくてね~心配だったの。海に来て気晴らしになるかなって思って探してるんだけど、いなくてね~」

「そっか。悪いけど見てないな、というより顔知らないし」

「確かにかんちゃんはメディアに顔出してないからね~。もしかしたら海にも出てないかも、かんちゃんインドアだし。ショボーン」

 

 おお、あのいつも朗らかなのほほんさんが落ち込んでる。

 よっぽど仲が良いんだろう。

 

「無理に海に呼ぶことないんじゃないか? それに、その更識さんものほほんさんが海で楽しんでないと気にしちゃうんじゃない?」

「ん~それもそうかも~。じゃあビーチバレーに混ざってこようかな~」

「おう、混ざってこい。俺も行こうかな」

「来るのは良いけど、せっしーと用事あるんでしょ~? せっしー探してたよ~」

 

 ぐっ、忘れようと思ったのに。

 探してたということはもうこのフィールドに来ているのか。計画変更、海に潜って行方を……

 

「あ、せっしーだ~! おーい! レーちんは此処だよ~」

 

 んごぉ! いつの間に伏兵が! おのれ裏切ったなのほほん! 

 のほほんさんの声に気付いたセシリアがこちらにズンズンと歩を進めてきた。

 まずい、逃げられない。助けてのほほんさん! 

 

「じゃあね~レーちん」

 

 現実は非常だった!! 

 

「ここに居ましたのね疾風! 探しましたわよ!」

「お、おう。そうか」

 

 ビーチパラソルとマットを持ったセシリアはプンスカと頬を膨らませていた。

 

「待ち合わせ場所を指定しなかったわたくしにも落度がありますが、レディを待たせるのが趣味ですの疾風は」

「そんなことないよ」

 

 ただ鉢合せしたくなくて警戒しながら歩いていただけだ。

 

「コホン、それより何かありませんの?」

「何かとは」

「水着です、貴方が選んだ物ですのよ。何か感想などを言ってもバチが当たらないのではなくて?」

 

 ああ、成る程ね。

 オーダー通りにセシリアの姿をもう一度見てみる。

 

 俺が選んだ混じりけのないブルーのビキニ。やはりというか似合っており、セシリアの金糸の髪と相まって両方の魅力が引き立てあっている。いわゆるマリアージュという奴か。

 腰にはパレオが巻かれており、潮風に揺れて本人の優雅さを更に上げている。うん、やはりパレオ付きを選んで良かった。

 ビキニによって押し上げられた胸は形がよく健康的な色気を放っていた。噂でセシリアはもう少し大きいほうが良いと言っていたらしいが、俺から見たら充分あるほうだと思う。注意しないとそこに視線が集中してしまいそう。

 流石はモデル、文句の付け所がないビキニ姿、本人も如何せん美少女なのだから手に負えない。此処に男共が居たらいつの間にか人集りが出来るレベル。これがビーチフラワーという奴か。

 

「どうです?」

「うん、似合ってる。別にブルー・ティアーズは関係ないからな?」

「ウフフ、わかってますわ。ここに来るまで色んな方々に褒められました。疾風に選んでもらったのは正解でしたわね」

「おおっ、現役モデルにそう言って貰えるとは至極恭悦だな。じゃあ俺泳いでくるから、また後でな!!」

「お待ちなさい」

 

 くっ! やはり逃がしてくれないか。まるでビットに四方を囲まれたかの如く! 

 

「やめて! 俺を捕まえてどうするつもりなの! 酷いことするんでしょ! 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!」

「訳のわからないこと言わないでくださいまし」

「グスン。で、俺に一体どんな責め苦をあじあわせるつもりだ?」

「はい」

 

 ポンと手のひらサイズのボトルを乗せられた。英語でSUN OILと書かれている。

 

「えと、なにこれ?」

「サンオイルですわ」

「それはわかる、なんでこんなもの渡されたの? 別にいらんよ俺は」

「決まっていますわ。わたくしにサンオイルを塗ってもらうためです」

「ふーん………………………は?」

 

 今なんて言った? サンオイルをセシリアに? 

 ジッとセシリアの体に眼を向ける、贔屓目なしに見ても魅力的である。

 え? 誰が塗るのさ………俺? 何処に塗るの? セシリアの体に? 俺が塗るの? ………は? 

 

「はぁぁっはっ!? はぁぁぁああっ!!? お前ばか、ばっ、ばっかじゃねえの!? 何を考えてるんだお前は!」

「前の方は自分でも塗れますが、後ろはどうも」

「分かるよ! 分かるけどもなんで俺ぇ!?」

「罰ゲームでしょう?」

 

 そうじゃなくってぇぇ!! 

 なんだこのアンジャッシュしてないのにアンジャッシュしてる会話は! 

 

「他にいるだろ! 態々男の俺に塗らせるとか正気か? 俺がお前に何かしたらどうするつもり!?」

「あら、何かするつもりですの?」

「するわけねえだろ!」

「なら問題ありませんわね」

「いや、いやいやいやいや」

 

 お前にはないだろうな、お前には! 

 いやないの、お前には!? 

 

「とにかく、敗者に弁舌を振るう資格などありませんわ」

「んぐっぐぐぐ………………わかった」

 

 やってやろうじゃねえか畜生。

 セシリアの意図は理解できないが、罰ゲームなのだから守らねばなるまい。じゃないと初戦闘の権利を俺が使うときに説得力がなくなる。

 

「では準備致しますわ」

「パラソルは俺がやる」

「あら素直ですこと」

「うるさい」

 

 マットを敷いて側にビーチパラソルを(若干怒りを込めて)ぶっ刺して場の準備は完了。これでいいかとセシリアに確認を取ろうと振り向いたらギョッとした。

 セシリアがパレオをシュルリと外し、あろうことか手で布部分をおさえ、ビキニの紐をほどこうとしているのだ。

 

「おまっ! なに! 水着の紐をっ!」

「え? ほどかないとやりづらいでしょう?」

「いいよそんな細いの!」

「心配なさらずとも、水着を落とすなんて間抜けなことはありませんのでご安心を」

「そういう問題じゃない!」

 

 顔を赤くして焦る俺にセシリアは何処か勝ち誇ったように微笑みながらビキニの紐をほどくと、そのままマットにうつ伏せに横たわった。

 

「では、お願いしますわ」

「んんっ!」

 

 マットに横たわったセシリアは自分の肢体を惜しげもなく晒していた。

 

 長くしなやかでいつもキッチリとしているブロンドヘアーはマットの上に乱れ、うつ伏せながらも形の良い胸は自身の体重とマットの間に挟まれてムニュリと形をかえて横にはみ出している。ビキニの紐が横に伸びているのがそれを尚更強調させる。

 そしてなにより形のいいヒップラインがこちらを向いている。崩れのくの字も知らないそれは評論家が見れば間違いなく芸術品と太鼓判を打つんじゃないかと言うレベルで存在感を放っていた。

 結論、贔屓目抜きにしても魅力的である。本当にこいつ俺と同世代? 嘘だろ? 

 

 そしてたちが悪いのが今からこの背中に俺がオイルを塗るということである。

 

「あ、レーデルハイト君がオルコットさんにサンオイル塗ろうとしてる!?」

「え、なにそれズルい!」

「数少ない男子を独り占め!?」

 

 うわぁ、案の定野次馬が出現してしまった。これを口実に逃げることを考えたが流石に往生際が悪い、というよりこいつが逃がさない。

 

「お前ら、見せもんじゃねえぞ! 散れ! 散れぇ!」

「えーでもオルコットさんだけズルーい」

「シャラップ! こちとら塗りたくて塗ってるわけじゃねえんだ! ほらっ、早く散れぇっ!! ガルルルル」

 

 精一杯の威嚇が効いたのか野次馬どもは名残惜しげに俺から離れていった。

 

 羨ましい? ズルい? ふざけるな! お前ら下心無しで目の前に立ってる俺の内心が分かるか!? 

 今の俺はいつ心筋がぶちギレるんじゃないかってぐらいバックバクなんだからな! 

 ましてや女子の体に触るなんて俺初体験だからな!? チェリーボーイなめんなよ!? 

 

「疾風まだですの? あまり待たせないで下さいな」

「今やる、今やるから。今体の中の色んなものを体外にぶん投げてる最中だから」

 

 こいつ、人の気も知らないで………

 

 ふーー。……………駄目だ、煩悩が掻ききれない。しょうがないだろ俺だって思春期なんだ。いやいや駄目だろ駄目だろ、セシリアをそんな目で見るんじゃない俺っ! 

 

「すぅぅ、ふぅぅ………ready………fight!」

「無駄に気合い入ってません?」

 

 セシリアの言葉を完無視、俺は最近チェックしてたサンオイルのホームページ情報を復習した。

 

 1、サンオイルを手に出します。

 2、サンオイルを手で擦り付けて暖めます。

 3、むらなく塗りましょう。

 

 まさか母さんからの助言がこんなところで役に立つとは。それとなしに見たサイトが役に立つとは。

 

 とりあえずこのスリーステップだけだ。たったこれだけなんだ、簡単だとも。恐れることは何もない。

 無心になれ疾風・レーデルハイト、別にこれはふしだらな行為ではない、ただ紫外線からの影響をカットするためのオイルを塗るため、そう慈善作業なのだから。

 よし俺なら出来る。きっとやれるさ、何故なら俺は世界で二番目にISを動かした男なのだから。

 関係ないと言ってはいけない。

 

 思考しながらも俺の手にはサンオイルが出ており摩擦で火が出るのではという勢いで擦り合わせている。

 

 よし。……いざ!! 

 

 充分に暖めたサンオイルをセシリアの背中にペタッと塗った。

 

「おぅ」

 

 俺はセシリアの肌の感触に驚愕せざるをえなかった。思わず声が出た。

 

 え、なにこれ? 女の子の肌ってこんなスベスベなの? 触った瞬間吸いついたんじゃないかって感じだったよ? 

 きめ細かく、白く、染み一つないその素肌は塗られたオイルで妖しくてかりを出している。

 そういえば日頃からケアは怠ってないとか言ってたっけ。モデルだから当たり前か。この肌を維持するのにどれ程の努力と費用がかかっているのか。

 

 正直に言おう。なんか触ってる側なのに気持ちがいい。

 

「あの、疾風? 同じところだけじゃなく背中全体にお願いしますわ」

「ああ、悪い」

 

 余りにも触り心地が良くて放心してた。女の子って皆こうなのかね。

 塗った場所を伸ばしながら手を動かした、擦るときの肌の感触がまた手のひらから伝わってくる。

 やばい、これはヤバイぞ。何か喋りながらじゃないと、俺の心臓がもたない。

 

「そ、そういえば。お前泳がないのか? さ、サンオイルなんか塗って海に入ったらオイル落ちるだろ」

「そのサンオイルは撥水性に優れているので、その心配はありませんわ」

「そうか」

「ええ」

「………………」

 

 終わった! 会話が終わったよ! 短い! 

 サンオイルを塗りながら次の話題を考えようとするが、頭が上手く回らない、顔も火照って、というより体温が気温の熱気とは明らかに違う要因で高くなっている気がする。

 

 あーもう! なんでこいつは俺にこんなことを頼んだんだ!? 

 

 セシリアを睨もうとすると調度こちらを向いていたセシリアと視線が合って慌てて視線を反らした。

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 今回、何故セシリアがこんな大胆な事をしているのか。

 気になる男の子に意識してほしい、なーんて生易しく可愛らしい事を考えていないのがグレートブリテン代表候補生セシリア・オルコットだ。

 

 時に、セシリアにとって疾風は可愛い弟分のような存在だった。

 幼少の頃。ひ弱で引っ込み思案だった疾風をパーティーに誘っては引っ張り回し、賭け事をして疾風を負かしては罰ゲームやら要求を求めていた。

 言うなれば、幼い頃のセシリアは疾風に対して少し、いやかなり強引だったのだ。

 

 だが一ヶ月前、二人が再会したあの日からそれは一変する。

 遭遇からのIS展開事件から論破、そこから色んな意味でマウントを取られ、立場は結構逆転気味である。

 今でも思い出せば疾風のしてやったり顔が目に浮かぶ。

 

 その時セシリアはこのままやられっぱなしは性に合わないと思った。

 負けっぱなしはオルコット家現当主のプライドが許さない。もう一度あの様変わりした幼馴染相手からマウントを取り返さなければと。なんとも良く分からない危機感に抱いたのだ。

 

 そんなときのババ抜き勝負だ。

 望みは薄いながらも誘われるままの勝負でまさかの超絶ラックで見事疾風の命令権をゲットした。

 これはチャンスが舞い込んだ。セシリアは心の中でニヤリと笑みを浮かべた。

 そこから一気に罰ゲームのプランが組上がった。それが今のサンオイルだ。

 

 勿論自分の体には人一倍自信があるセシリア、見られて困るところはない。

 だが我ながら大胆な事をしていると思う。幼馴染で気心しれた仲とはいえ、異性相手に自分の素肌を触らせるというのは普通ではないし、疾風の反論はもっともで何も間違ってはいない。

 現に今セシリアも疾風に、男に肌を触られていると言われてほんの少し恥ずかしさがある。

 だがその羞恥を捨ててでも負けられない戦いが此処にあるのだ。

 

「疾風。顔が大分赤いですけど大丈夫かしら?」

「だ、大丈夫ですともぉ?」

 

 お世辞にも大丈夫と言えないぐらいの顔の赤みと汗を放出している疾風。必死に手の震えを抑えながらサンオイルを塗る様を見て、セシリアは作戦の成功を確信した。

 

(結構手慣れている感じなのは予想外でしたが。概ね予定通りですわね!)

 

 セシリアは満足気な笑みを浮かべていた。

 彼の普段何処か静観したような余裕な様子は全くなく、年相応に羞恥に染まっている。

 なんともお可愛いことである。

 

 背中と腕の裏が塗り終わり、後は足の裏を残すのみ。

 このまま何事もなく疾風はこの天国とも地獄ともいえる罰ゲームが終わせ、セシリアは優越感に浸る。

 

 なんて生温い勝利を求めないのがセシリア・オルコットである! 

 求めるは完全なる勝利、この罰ゲームでセシリアは疾風から完全に主導権を握り締める為のファイナルプロットを用意していたのだ! 

 

(此処までの疾風の様子を見て、間違いなくこういうことに関しては初心! 多少リスクはあれど、間違いなく成功するはずですわ!)

 

 セシリアは笑みを隠しきることが出来ず、顔を下にうずめる、声が漏れないように唇を噛んだ。

 

(この勝負! 勝ちましたわ!)

 

 いつの間にか勝負になっていたのである。

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 後少し、後少しだ。理性を切らすなレーデルハイト。後30センチあまりだ。頑張れ俺、お前ならやれる! 

 

 瞳孔が開き、耐えず汗を流し、喉も乾き。手の震えも尋常ではない。

 英国ではアイドル的な美貌を持つセシリアの素肌に触れるというファンなら血涙ものの体験も今の俺にとっては拷問でしかない。

 だがそれももう終わる、後数センチ、後数ミリ………………

 

「…………ドゥエハッ! 終わった、終わったぁ」

 

 やりきった、セシリアの背中、裏面に当たる場所は全て塗りきった。

 塗りムラなど見当たらない、我ながら完璧な仕上がりである。

 あぁ………なんて解放感だろうか、俺は自分自身に一角獣クラスの勲章を授けたい。

 

「ご苦労様です疾風」

「あぁ、あぁ、塗ったよ。じゃあ俺は泳いでくるよ」

 

 今すぐこの火照った体を冷やしたい。いやそれよりも一刻も早くこの場を離れないと、何かが切れてしまう。大事な何かが。

 

 パラソルの範囲外から一歩を踏み出そうとする為に立ち上がろうと膝に力を入れた。

 これで解放される。この天国とも地獄ともいえる拷問から。

 

 だが古き良き英国貴族はそれを許さない。

 

「お待ちなさい疾風」

 

 冗談ではなくビクッと体が跳ねた、セシリアを見るとなんとも妖しい笑みが。

 

「まだ塗り残しがありましてよ」

「………いや、ねえよ。全部塗ったわ」

「いいえ、まだ一ヶ所だけ。私の目では見えない場所があります」

「回りくどいな一体何処だよ!」

 

 早く俺を解放してくれ。拷問は終わったというのになんなんだ。お前はブラッディ・メアリーか? エリザベート・バートリーか? 

 

「お尻のほうも塗ってくださいな」

 

 ………………ぽえ? 

 

「………もっかい言って?」

「臀部です」

「すまんもう一回」

「ヒップです」

「H! I! P!?」

 

 聞き間違いであってほしかった。思わずアルファベットで言ってしまった。

 

「お前はとうとう狂ったか?」

「狂ってませんわ。100%正気です」

「嘘だっ!!」

 

 某鳴き虫の少女トーンで言い放った俺の罵声も何処吹く風、セシリアは涼しげな顔でこちらを見ていた。

 

「出来ませんの?」

「出来るか! 触った瞬間裁判待った無しだわ!」

「同意の上なら問題ありません」

「周りの目が」

「これだけ遠ければ見えませんわ」

「そういう問題じゃないぃぃ!」

 

 俺は頭をガチで抱えて悶えた。手についたままのサンオイルがペチャっと髪についたがそんなことどうでもいい。

 

「わたくしは読者モデルでもあります。それを加えなくてもレディのヒップがサンオイルの不備でマダラ模様になるなんて言語道断ですわ」

「そこは! 俺じゃなくても! いいだろっ!」

「罰ゲーム」

「んごぉぁあぁぁ!!」

 

 その時俺は察した。

 ISが出る前から、男性は女性には根本的に弱いのだと。

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 これがセシリアのファイナルプロットであった。

 だが本当に彼にやらせるつもりはないのだ。それは彼がどうしてもそこは塗らないだろうという確かな予測の元での作戦だった。

 

(もうしばらく疾風には悶えてもらいましょう。そしてそこからわたくしが許しを与えれば、この罰ゲームはわたくしの完全勝利ですわ!)

 

 セシリアの狙いは疾風を自分の魅力でノックアウトし、最後の慈悲を差し伸べ、自分の優位性を示すこと。

 セシリアの魅力に負け、罰ゲームの内容を反故にした疾風は今回の刺激的な出来事を嫌でも思いだし、セシリアに強く出られなくなる。

 

 プルプルと震える疾風を見るセシリアの心中はこれ以上ないくらい晴れやかだった。ついでに、初陣の約束事の緩和という小ズルいことまで考えている。

 

(チェックメイトですわ!)

 

 セシリアは勝利を確信、これ以上ないくらい上機嫌。

 挑発的な視線で、トドメを放った。

 

「疾風ったら、意外と意気地無しですのね」

「んっ!!」

 

 セシリアの言葉に疾風の震えはピタッと止まった、顔は湯気がしゅーと出るほど真っ赤になっていた。

 それから疾風は暫く顔を俯かせて動けなくなった。完全にキャパオーバーである。

 

(流石に可哀想になってきました。そろそろここら辺で手を打ちましょう)

 

 正に勝者の寛容、セシリアは物言わぬ疾風に振り返った。

 

「疾風、どうしても出来ないというのなら。許してあげても………………疾風?」

「んー?」

 

 いつの間にか再起動していた疾風はサンオイルを手に出して暖めていた。

 

「なにしてますの?」

「サンオイル温めてる」

「な、何故?」

「塗るためだけど?」

「ど、何処を?」

「え? 尻に塗るためだろ?」

「え、えっ、えっ!?」

 

 セシリアは困惑していた。先程の疾風の狼狽えっぷりが嘘のように彼が着々とサンオイルをお尻に塗る為に準備を進めているのだ。

 疾風の顔は変わらずに赤かった、だが目がなんか据わっている。

 

 セシリアは慌てていた。彼女の計画では今この瞬間に終わっている筈だった。なのに罰ゲームはまだ続いている、これは一体どういうことなのか。

 

「あの疾風? 無理しなくて良いですのよ?」

「してないよ、大丈夫」

「い、今から女子の誰かに頼みますから」

「何を言っている、これは罰ゲームなんだからしっかりやらないとダメジャナイカ」

(なんか覚悟決めた目をしてますわー!?)

 

 これは不味い。疾風は確実にセシリアの魅惑的なヒップに塗ろうとしている。

 今更感があるが、セシリアも疾風が塗るというのは想定外。自分で言い出したこととはいえセシリア自身、異性であり幼馴染である疾風に自分のお尻を触られるのは恥ずかしい。

 繰り返すが勿論自分の身体には自信がある。が、それと羞恥心はまったくの別だ。

 

 なんとかしなければ。でもどうすれば? 逃げる? 駄目だ上のビキニの紐を解いているからこのまま走り出せば手ブラで砂浜を走らなければならない。いやその前にセシリアの中の貴族としてのプライドがその場から逃げるという選択肢を潰していた。

 

 セシリアの作戦は確かに成功していた。疾風にサンオイルを塗らさせ、彼の羞恥心を浮き彫りにし、ヒップで誘惑してそこで罰ゲームを中止してEND。の筋書きだったはずなのに。

 

 一体何が起こっているのか、先程過剰なまでにセシリアのヒップにサンオイルを塗ることを拒否していた疾風が今正に塗ろうとしている。

 

(と、とりあえず説得しなくては。飽くまで自分から拒否するのではなくうながすように!)

 

「は、疾風。わたくしも戯れが過ぎましたわ、なので………」

「セシリア」

「はいっ」

 

 小擦り合わせていた疾風の手が止まった。サンオイルを暖め終わった疾風は以前不可思議な炎を宿した瞳を水中眼鏡越しにセシリアの蒼い瞳に合わせた。

 

「3つ、言いたいことがある」

「な、なんでしょう」

 

 セシリアの作戦は確かに上手く行っていた。

 だが彼女は上手く行きすぎた。

 

「一つ、これは同意の上、お前の尻に塗るのは間違いではなく正当だ。二つ、男は皆狼だ、今後他のやつにこういうことはするなよ」

「え、えっと」

「そして三つ目」

 

 セシリアの敗因を語るというのなら。それはただ一つ。

 

「俺は意気地無しじゃないっ!!」

 

 からかい過ぎた。

 

「ひぅっ!? っーーーーーーー!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………」

「………………………」

 

 沈黙、ただひたすら沈黙。周りの騒がしくも、楽しげな声など。ピーチパラソルの下の二人の耳に届くことなどなかったのだ。

 二人の顔は肌の色が戻らないと思うくらい赤く染まっていた。

 当然である。疾風にとっては未踏の体験、セシリアにとっても未踏の体験で何をどう形容すればいいかわからなかったからだ。

 

「セシリア」

「っ!」

「塗ったぞ」

「は、はいっ」

「前は自分で塗れ」

「わかりましたわっ」

「俺は海に行く」

「行ってらっしゃいませ!」

 

 疾風はサッと立ち上がってビーチパラソルの影から脱出。道中かけられる声に答えることなく、走ることなく、ただ早歩きで海に向かって真っ直ぐ歩を進めた。

 

「………んー!! んーんーんーーーー!!!」

 

 セシリアは顔をうずめたまま足をバタバタさせて悶絶していた。

 それは悔しさか、それとも恥ずかしさか、それともそれとは違う未知の感触に対する悶絶か。

 

 周りの生徒も何事かとセシリアに近寄ろうとするも、何となく近づけずにいた。

 

 疾風に非はない、誰も悪くはない。ならばこの沸き上がる感情は何処に発散すればいいのだろう。

 思い返せば色鮮やかに浮き上がる疾風に見せつけた様々なハニーアピール。それをまた思い返して更に悶絶した。

 

 今ここに誰にも知られず、罰ゲームというなのサンオイルの戦いの幕が閉じた。

 

「んーーー!!!」

 

 セシリアは暫く足をばたつかせ、周囲の目を引いたという。

 

 本日の勝敗:セシリアの、敗北(大胆すぎた為)

 

 




なんか。今回はいつもと違う感性を使った気がします。

セシリア名物サンオイルで御座います、塗っているのが一夏ではなく疾風なのでストッパーがいない結果になりました。
無駄に気合いが入りました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。