IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第109話【コース料理って少ないよね】

 

 

 一夏と箒がレストランに行った翌日。

 

 レストランで酒を飲んでダウンした箒をおぶる一夏が発見されて朝の一大ニュースとなり。IS学園的関係各所に一夏が問い詰められた。

 

 まあそこらへんはありふれた光景なので割愛するとして。

 

「デケー」

 

 ホテル・テレジア。

 その最上階の夜景を一望出来るレストラン『リュー・ドゥ・ルポ』

 二つ星持ちレストランとして有名なそこは記事にも乗ってあって。たまたま目を通したから少し記憶に置かれていた。

 

 ………まあそこが間違って未成年に酒を出してしまったとかは結構問題ではあるが、まあそれはそれ。ただで高級レストランに行けるんだから文句は言わんさ。

 

 ミシュラン系の人がいなかったことは祈るしかあるまいよ。

 

 本当ならここにセシリアと来て、しかるべき時に告白する流れだったのだが。

 まあその話はまた今度にしよう。過ぎたことは忘れるのだ。

 

 さて、このレストランだが。ドレスコードがなければ入れないという落とし穴がある。

 女性には無料でドレスを貸し出すが男は買ってこいと追っ払う。

 一夏の犠牲は無駄ではなかった。彼はきっちり情報を掴みとって帰ってきてくれた。

 

 字面だけみたら理不尽極まりないふざけんな案件だが。基本この手の高級レストランではそう珍しいことではなく。

 むしろ女性が好きなドレスを無料で着飾れるという点では。

 ある意味良心的なサービスと見てとれる。

 

 要するに女性優遇社会も考えもの。

 たまに男性に対する理不尽な対応はあれど。女性に優しい世界というのは、案外世界的にも+だ。

 例を述べるなら、女性の事件被害者が格段に減るとか。妊娠後の子育て支援が良いとか。

 

 とまあそう素直に考えれたら良いのだが。

 

 たまに出てくる勘違いミサンドリーのせいで悪い方向に考えてしまう。

 

「しかし、本当に来るのかな」

 

 織斑先生の紹介相手。自分も知っているが。

 何故織斑先生がその人と会う算段を立てたのかがまったく謎。

 謎なままノコノコ来た俺も俺だけどさ、

 

 

「こんばんは、レーデルハイトさん」

 

 考えてたら待ち人来たれり。

 

 髪はボサボサとまでは行かないがモサッとした癖っ毛で、黒ぶちの眼鏡。

 水色のシャツに黒のカーディガン、下はベージュのチノパン。胸元には梟のブローチが変わらずついている。

 

「こんばんは。ご無沙汰してます。御厨所長」

「御厨さんでいいわ。堅苦しいでしょう」

 

 そう。今日の俺の待ち人は国際IS研究機関本部の所長、御厨麻美さんだった。

 

 いや本当になんで? と言いたい。

 あの時織斑先生に「別に良いですけど」と言った瞬間に電話をかけてトントン拍子で話が進んだのだ。

 

 鮮やかなスピード展開に織斑先生への疑念もすっかり置いてきぼりになり、半信半疑のまま待ち合わせ場所に赴いたということだ。

 

「スーツ」

「え?」

「似合ってるわね」

「ありがとうございます」

 

 一夏の言伝てに従って部屋にあったスーツを引っ張りあげた。

 これなら追い返されることはないはず。

 

「では行きましょうか?」

「ええ」

 

 しかし本当に、なんでこの人応じたんだろう………

 疑問を浮かべたまま俺と御厨さんはホテル最上階に赴いた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 

 ドレスの着付けに向かった御厨さんを待つこと数分(スーツは問題なく通った)

 

 時間かかってるなと思いつつ、来たか? と思ったら黒いドレスに身を包んだ美人さんが出てきて空振り。

 

 女性の身支度って時間がかかる。ドレスの構造は知らんが。まあ気長に待たせてもらうとしましょう。

 

「お待たせ」

「あ、はい。ん?」

 

 あれ、どっからか御厨さんの声が聞こえたが肝心のその人がいない。

 

 トントンと肩を叩かれて振り向くと、そこにはさっき見た黒いドレスの美人さんが………美人さん? 

 

「お待たせ」

「………どちら様で?」

「御厨麻美よ」

「………………???」

 

 え、ん? おん? 

 えー? 

 

 どうかしたの? と小首をかしげる御厨さん。

 いやだって………変わりすぎでは!? 

 

 黒いロングドレスは首もとから胸元をしっかりカバーしてるが、肩と腕は露出しているタイプ。

 何より首から上がもうマ改造レベルで別物。

 

 素顔メイクはしっかりと化粧で彩られ、モサッとした髪もウェーブがかけられた、ゆるふわヘアーに。

 特徴的だった眼鏡がコンタクトになったのがでかいが。

 

 とにかく超変化である。

 モサッとした野暮ったい御厨さんが超絶美人に化けたのだ。

 

「驚いてるわね」

「あ、すいません」

「いいの。スタイリストさんが張り切っちゃって。鏡で見たとき私も首を傾げたわ。女って凄いわね」

「自分で言っちゃいますかそれ」

 

 いやでも気持ちはわかる。

 ここまで外見が変わるというのはそれだけ衝撃的だ。

 ………女性って怖いなぁ。

 

 ウェイターに促され、説明を受けて一息ついた。

 だが本当に良いところだ。ますますセシリアと来たかったと思うのは仕方ないと思いつつ、気取られないように表情を引き締めた。

 

「綺麗ですね、夜景」

「そうね。ここは当たりなのかしら?」

「2つ星ですよ」

「ふーん。私こういう所に来るのは初めてだから。凄い新鮮」

「そうなのですか?」

「目立つところ嫌いだもの。昔はマスコミがほんとゴミのように来て。だから外見変わるのはかえってありがたいかも………ところで」

「はい」

「テーブルマナーってわかるかしら? 大事なんでしょ?」

「あー初ですもんね。俺でよければ教えますよ」

 

 幸い俺は家族の付き合いで付いていくことがあったから知識としてはあった。

 固くならずに大雑把に説明してあげた。

 

「めんどうね。ご飯食べるだけなのに」

「気持ちはわかりますけど、あまりこういうところで言わないで下さいね」

 

 そうこうしてるうちに前菜、オードブル到着。

 

「なんか薄い黄緑色の上に色々乗ってるわね」

「薄いのはキュウリですかね」

「どれから食べれば?」

「そこまでは決まってないと思いますよ。あと、特別行儀悪くなかったら自由でいいかと」

「そう。では」

「いただきましょうか」

 

 フォークとナイフを手に持って一口。

 うん………この普通では食べれないような繊細な味はコース料理ならではだよなぁ。

 

「………」

「どうです?」

「可もなく不可もなく」

 

 妥当な答えですね。

 

 二品目のスープ。

 オニオングラタンスープが来た。

 

「なんか一気に庶民感が。味は深いけど」

「知ってる料理来たらそうなりますよね」

「実を言うと初めて食べるの。オニオングラタンスープ」

「それはそれは」

 

 出されたパンをちぎって食べてからスープを一口。

 うーーん浸したい。パンを浸したいけどマナー的にどうだったっけ? 

 やめとこう。うん。

 

「パン、浸していいかしら」

 

 代弁してくれてありがとうございます。

 とりあえずやめておいた。

 

 三品目、メインの魚料理。

 鮭のパイ包み焼き。

 中には野菜も入っており。チーズがトロッと溶けてパイ生地と合わせて食べると。うん、これは美味い。

 

「美味しいですね」

「うん。自分でも作れるかしら」

「この味を出すのは至難だと思いますよ」

「神の舌が欲しいわね」

「改造しちゃいます?」

「………」

「冗談ですよ?」

 

 簡単そうに見えて奥が深そうな料理だ。

 

 これ一品考えるのにどれだけの研鑽と時間を費やしたのだろう。

 

「ところで、学園は楽しい?」

「ん? ええ楽しいですよ。毎日IS動かせますし」

「友達はどれぐらい?」

「数えていませんが。結構多いですよ。なんか変に女子っ! って感じしないんです、IS学園の女子は。ノリが男子高校生なところがあって。イベントの盛り上がりとか凄いですよ」

「学園祭のシンデレラとか?」

「知ってるんですか?」

「あなたのお母さんから写真が送られてきてね。フフッ、執事も王子様の姿も似合ってたわ」

「ありがとうございます」

 

 どうやら母経由で国際IS研究機関本部所長にデータが横流しされてるらしい。

 由々しき事態である(棒)

 

 しかしあれだな。この人とはあんま緊張せずに話せる。

 雰囲気? 人柄? なんか安心するんだよな。

 

 四品目、肉料理。

 牛フィレ肉のステーキ。穀物のガレットを乗せて。

 

「美味しい」

「肉柔らかいですね。ソースも美味しい」

「でも欠点もあるわ」

「ですね」

((もっと量欲しい))

 

 声に出さずとも考えてることは同じように見えた。

 

 コース料理というのは美味しいのだが、いかんせん量が少ないのだ。

 庶民層にとって美味しい料理は腹一杯食いたい性なのである。

 

「そういえば。一昨日は大変だったのね、タッグマッチの」

「あまり大っぴらには言えないですけどね」

「今さらだけど、外出して良かったの?」

「俺はそこまで傷はなかったので。再生治療もありましたし」

「そう、よかったわ………」

 

 安堵したように胸を撫で下ろし。最後の一口を頬張る御厨さん。

 

「俺からも一つ良いでしょうか」

「どうぞ」

「なんで俺とディナーに来てくれたんですか」

「織斑先生に呼ばれたから、では駄目かしら?」

「それでも良いですけど。普通こんなお子さまの誘い乗ります? しかも結構即決でしたし」

「若い男にあやかりたかったとか。貴重な男性IS操縦者と交流を深めたいとか、ただで美味しいもの食べれるとか」

「ほんとですか?」

「嘘ではないわ」

 

 ということは本音ではないんですね? 

 と視線を送ってるとデザートが来た。

 

「デザートのクレープ・シュゼットでございます」

「クレープ・シュゼット?」

「クレープを砂糖とバターを加えたオレンジジュースで煮込んだ物でございます。お好みでバニラアイスを加えてお楽しみください」

「ほぉ………」

 

 クレープ・シュゼット。クレープのオレンジジュース煮込みとな? 

 へぇ、まだまだ俺の知らないスイーツってあるもんだなぁ。普通クレープを煮込むとか考えないでしょ。

 

 クレープにナイフをいれ、滴るオレンジソースを逃がさないうちに口にいれた。

 

 甘くて酸味のあるオレンジソースとクレープ自体の味が上手く合わさってる。

 美味しいなぁこれ。今度作ってみようかな? 

 バニラアイスを乗せてぱくり。あーー。

 

 今日来てよかったわぁ。

 

 ラストのクレープ・シュゼットを食べきって至福の時間は終了した。

 

 御厨さんはこのまま帰りたくないからと一度更衣室に向かった。

 

 数分後、御厨さんはいつもの格好で出てきた。

 少し違うのは髪がウェーブのままというぐらいか。これだけでも印象変わるな。

 

 最寄駅まで送りますと俺と御厨さんは夜の街を歩いた

 結局誘いにのってくれた理由は有耶無耶になったな。

 

「なんか、聞きたいこととかある?」

「え?」

「織斑さんはあまり話したがらないでしょうし。私が答えれる範囲なら答えてあげても良いわよ。私の私見でよければ、だけど」

 

 それは、今回の事件について。だろうか

 詳細を知っているということは分かっているが。

 

「18機の無人機。シールドの無効化。とんでもないISよね、あのゴーレムⅢは」

「そこまで知ってるんですか?」

「織斑さんからね。まあ、ディナーに誘ってくれたお礼と思ってくれたら」

 

 夜の街もまばら。人通りがなくなったとこを見計らって俺は話題を切り出した。

 

「今回の事件。首謀者は篠ノ之束博士ですか?」

「恐らくね。今現在、あれだけのコアを出せるのは篠ノ之さん以外考えられない」

 

 言葉を濁すことなくスラッと答えてくれた。

 織斑先生に濁されまくったからなんだか気分がよかった。

 

 となれば舌も滑らかになるというもの。この際聞きたいことを聞けるだけ聞くことにした。

 

「仮に篠ノ之博士だと仮定して、彼女は何を考えてるのでしょう。はっきり言って、あれはISそのものを否定しています」

「そうね。ISをISたらしめてるのは絶対的な防御性能だから」

「そうですよね」

「だけど今回は兵器の側面が色濃く出た。もしかしたら篠ノ之さんはISを過信するなと伝えたかったのかも」

「女しか乗れないという制約をぶち切った無人機でですか?」

「一種のアンチテーゼなのかもね。ISは絶対の存在ではないということへの」

 

 それって篠ノ之博士がISという存在を否定したということ? ISを作り出した張本人が? 

 いやそんな、それは余りにも。

 

「もう一つ。生徒を危険な状態にすることが目的」

「なんのために?」

「織斑さんを表舞台に引きずり出すため。あなたも疑問に思ってるんじゃない?」

「………織斑先生は、これまで一度も前線に出ていません」

 

 世界最強を手にした彼女。

 ISを生身で止めるほどのポテンシャルを持つ彼女が。これまでISに乗ったところを見たことがない。

 

 三度のゴーレム襲撃、銀の福音の暴走。二回にわたる亡国機業(ファントム・タスク)の襲撃。そのいずれも織斑先生は司令塔として、前線には出ないでいる。

 それどころか、通常の授業も副担任の山田先生がISに乗っている。学園の誰も彼女がISを乗ったところを見たことがない。

 

「なんで織斑先生はISに乗らないのでしょうか。織斑先生が男性、なんてことはないでしょうし」

「織斑さんはある時期を境にISに乗った姿を公衆の面前に晒さなくなったわ」

「第二回モンド・グロッソ」

「そうね、丁度あの頃ね。何故乗らなくなったかは。残念ながら答えを出せないけど」

 

 うむ、話してみたが、分からないことが更に増えた。

 

 織斑千冬と篠ノ之束。この二人はISの中核にある存在。

 だが知ってるのは誰もが知っていることだけ。

 あの二人は何を持っている? 何を隠している? 

 

 世界最強(ブリュンヒルデ)人類最高(レニユリオン)

 明確な存在であるはずなのに、蓋を開ければ何もわからない二人。

 

「結局篠ノ之束は何がしたいのでしょうか。話せば話すほどあの人がわからない」

「篠ノ之さんは私たちと根本的に違う視点を持ってる。これまでのことが全て篠ノ之さんが行ったのだとしたら。そこにはなにかしらの目的があるでしょうね」

「その終着点はなんなのでしょう」

「それは本人に聞いても答えてくれないでしょうね。少なくとも、今は」

「釈然としません」

「そうね。私も答えれる範囲でしか話してないわ。本当なら全ての憶測を話してあげたいわ。釈然としないのは、私も同じ」

「ふぅ。まだまだ子供ですね俺は。肝心なことを聞ける立場に無いわけだ」

「子供だけではないわ。大人になっても。ううん、大人になって見えないことの方が増えていく」

「割に合わないですね」

「そうね。でも確実なことは一つだけあるわ」

 

 少し先を歩く御厨さんが立ち止まってこっちに振り返った。

 その表情はとても優しく見えて、まるで母親が子供に分からないことを教えるような、そんな雰囲気だった。

 

「織斑さんは間違いなく。あなたたちの味方。あなたたちが危険な目にあって、平気でいられる人ではない。あの子は強面を演じてるけど、何処までも優しい子だから。本当なら自分で全てを片付けたい。でも出来ない理由がある。だからこそ許せないの、あなたたち生徒を頼らなければならない自分自身に」

 

 織斑先生が優しい………というのはパッとしないけど。

 先生が信頼出来る人ではあることは確かだ。

 そして決して俺たちを捨て駒などしないということも。

 

「おぼつかない話ばかりでごめんなさいね」

「完全にスッキリした、というわけではありませんが。誰にも話せなかったので良かったです。ありがとうございます」

「それならよかった」

 

 胸のしこりがほんの少し軽くなったような。

 結局分からないことだらけではあったものの。

 そんな一長一短でわかるような事ではないことだけは解った。

 

 

 これからも襲いかかるであろう理不尽。それでも抗わなければならないのだろう、俺たちは。

 

「一つだけレーデルハイトさんの問いかけに答えをあげる」

「え?」

「私がなんであなたとのディナーに応じたのか」

 

 あ、すっかり忘れてた。

 

「実はね、私には息子がいたの」

「いた、ですか」

「うん、亡くなったの。白騎士事件のあとに。昔から心臓が悪くて、そのまま。今あの子が生きていたら、丁度あなたと同い年。あと、何処かあなたに息子の面影を感じてしまったの」

「似ているんですか? 俺と息子さん」

「雰囲気、とかそんなぼんやりとした感じだけどね。あなたの誘いに乗ったのは、以前からゆっくりご飯でも食べながら話したいなって。そう思ったから」

 

 御厨さんが来たのは、俺に息子さんの面影を重ねていたからなのか。

 そういえば初めてあった時のあのリアクションもそう考えれば納得が行く。

 

「ごめんなさいね、こんな理由でおばさんとディナーなんて」

「いえいえ、貴重な時間をありがとうございます。今日は楽しかったです」

「うん、私も楽しかったわ。ところで」

「はい」

「本当は誰とディナーに行くつもりだったのかしら? 女の子とか?」

「………ノーコメントで」

「語るに落ちてるっていうのよ、それ。フフッ」

 

 そう言って意地悪く笑う御厨さんに、俺は何処か既視感を覚えるのだった。

 

 その顔が悪いことを考えてる自分自身と同じだと気付くのは、また別の話。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 外の光が入らない室内で、ディスプレイの赤い光だけが輝いていた。

 その中で絶えずコンソールを動かし、常人には理解できないようなデータの数々を閲覧している女がいた。

 

「うーん。白式と紅椿の稼働率はそこまで上がってないか。まあそう都合良くレベルアーップ!しないのは解ってたけども。白式は学園祭、紅椿はキャノンボール・ファストで上がったから、それは良しっと」

 

 ぼやくように呟くのは、人類最高と謳われた全てのISの母。篠ノ之束だった。

 

 ここは束のパーソナルスペース。なにか作業するときはこの中でと相場が決まっているのだ。

 

「それにしてもゴーレムⅢ18機がこの短時間で全機破壊されるのは流石に予想外だったな。既存よりパラメータは上げてたのになぁ」

 

 自身が送り込んだ鉄の乙女の数々。

 あの悪魔の所業とも言うべき代物を送り込んだのは何を隠そうこの天災だった。

 

 この世でISコアを作れるのは束のみ。

 箒と疾風の予感と予想は見事的中していたのだ。

 

 これまでの無人機騒動も全て束の仕業に他ならない。

 といっても、これ程事件を起こせるのは世界広しと言えど束のみだろう。

 IS学園のセキュリティなど、勝手知ったる我が家のようなものなのだから。

 

「まあ相手を絶対に殺さない制約は課してたから。ある意味手加減はあった。それにISは人が乗ってこそ真価を発揮する。無人機って時点である程度の戦力低下は免れないもんねぇ。有象無象の戦力でも失うのは勿体ないし。オッケーオッケー」

 

 そうだとしても今回の戦果は束の想定の中で確率の低い方だった。

 IS学園の戦闘教員のみならず。一年生組は銀の福音戦と比べて圧倒的にレベルアップしている。

 個々の連携も思ったより取れていた。何より逆境に臆せずに立ち向かえるだけの判断と技量は有している。

 

「若い子の成長は侮れないねぇ。それもこれも」

 

 ピピッとコンソールを操作。画面に出てきたのは疾風の顔写真、そして戦闘のログだった。

 

「眼鏡くんの指導のお陰かなぁ。教師に向いてるかもね眼鏡くん………まるで先生みたいだ」

 

 束は脳内の記憶から懐かしいものを取り出した。

 

 自分のことをちゃんと見てくれた恩師、御厨麻美。

 束がこの世で唯一勝てない人。スペックとかそういう目に見えるものではなく、精神的な面で勝てないと思った。

 彼女のお陰で見識が広がった。自分の夢を笑わずに真摯に聞いてくれた。

 彼女たちとISの雛形を作ったあの時間は何事にも変えがたい大切な思い出だ。

 

「………それにしても。少し意地を張りすぎじゃないかな、ちーちゃん」

 

 画面を操作し、写し出されたのは襲撃時のIS学園の管制室の監視カメラ。各自に指示を出し、司令塔に徹してる千冬。

 束にしては珍しく、睨む形でその姿を見つめた。

 

「18機もの殺戮人形が生徒を襲ったんだよ? 今回は本気で生徒が死ぬかもしれなかったんだよ? 危険度なんか福音の比じゃない。なのになんで暮桜を出さなかったのかな? ちーちゃん」

 

 千冬が前線に出れば被害は格段に減らせたはず。それだけの技量と機体を持っているのにも関わらず、千冬は戦場に立つことはなかった。

 

「もしかして束さんを信頼してた? 束さんなら流石に殺すまでしないだろうって。そこまで頭お花畑な訳がないよね? 悔しそうに歯ぎしりしてるくせに。そうまでして封印を解きたくないんだね、ちーちゃん………いやわかるよ。なんでちーちゃんが頑なに動かさないのかも。動かしたら大変なことが起こるのも。束さんは充分にわかってるのさ。でも」

 

 動かしてくれないと、襲撃した意味がない。

 

 篠ノ之束がこれまでIS学園に攻撃を仕掛けた最大の理由。

 それは織斑千冬の暮桜の起動に他ならない。

 

「でも束さんも馬鹿じゃないよちーちゃん。むしろ天才なんだから。これまで三回のアプローチで。はい見ーつけた♪」

 

 新たにディスプレイに写されたのはIS学園の地下区画。その深層。そこに安置されてる。目的の宝箱の居場所だった。

 

「束様」

「はいはいクーちゃんどうしたのー?」

「パンが焼けました。お邪魔でしたか?」

「ううん! 今終わったところだよー!」

 

 パーソナルスペースのハッチを開けてピョーンと自身の従者である女の子の前に降り立った。

 

 クーちゃんと呼ばれた少女はまるでお人形さんのようだった。

 銀に輝くロングヘアー。歳は12歳かそこらと小柄。その両の目は固く閉じられており、そこがまたミステリアスな可愛さを表現していた。

 

「さーてゴハンゴハンー♪」

 

 先ほどの不機嫌さは何処へやら。束は少女が持ってきたクロワッサンに手をつけた。

 

「アム! モグモグゴクン。うん! うーまいぞーー!!」

 

 ヤッホーい! と跳び跳ねながら全身で喜びを表現する束に対し、少女は何処か申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「ウソです。美味しいわけありません。こんな真っ黒に炭化したパン。味見した時吐きかけましたもの」

 

 少女が持ってきたパンはどれも黒く焦げている。

 少女にとって束に料理を振る舞うことは本意ではない。

 束からの『女の子なんだから料理の一つは覚えなきゃ駄目だよぉ!』という言葉に従って料理を作っているが。毎日作っても焦げるならまだ良し、ゲル状の物や異臭を放つ物が出来上がる。

 

 それを束はこの世全ての極上品とばかりに食べきって少女に美味しかったよ! と頬擦りするのだ。

 どんな出来映えても必ず持ってくること。それを残さず食べきっている。

 人類最高は胃袋も規格外だった。

 

「なに言ってんのクーちゃん! 前より焦げてる面少なくなってるじゃん! 料理はトライ&エラー! 開発と同じだよぉ」

 

 まあ束はトライ&サクセスを地で行くので説得力が皆無過ぎる。

 料理も束がやる気になれば極限まで緻密に計算し尽くされた極上のコース料理を作り出せることだろう。

 

「ねえクーちゃん」

「はい」

「ちょっとお使いを頼まれてほしいんだよね。行ってくれる?」

「束様のご命令とあらば」

「もー堅い堅い! モース硬度10ぐらい堅いよクーちゃん! ちゃんとママって呼んでくれないと束さん拗ねちゃうぞ!」

「私にとって束様は私を救ってくれた救世主。生涯全てを捧げるべきご主人様で御座います。そのように呼ぶのは、私のメンタルが持ちません」

 

 全てが閉ざされた暗黒の人生。

 それをぶち壊し、こうして束に仕えることは少女にとってこの上ない幸福。

 

 だから彼女の為ならなんでもする。たとえそれがどれ程非道に満ちたものであってもだ。

 

「それで、お使いとはどちらへ?」

「うんうん。お姫様に届け物をしてほしいんだ」

「お姫様、ですか?」

「そう。場所はIS学園地下特別区画。その最奥で凍結されている、眠り姫にね」

 

 またもIS学園に束の触手が伸びる。

 

 全ては、篠ノ之束の手のひらの上。

 

 






 これにて第七章【更識姉妹(クリスタル・シスターズ)】終了!
 話数24か、うん多いね、我ながら。

 次回からワールドパージ編突入!ここは話数抑えれそうだ(フラグ)
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