IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
第110話【モラル?なにそれ美味しいの?】
「それで?」
「ん?」
「いや『ん?』じゃなくてですね」
「まあまあセシリア様、そうカリカリしなくても」
放課後のカフェテラスで三人の美少女が円テーブルを囲っていた。
セシリア・オルコット。
世界的大財閥のオルコット家の若き当主。
蒼のIS、ブルー・ティアーズを駆り、レーザーを変幻自在にねじ曲げる特異技能、
徳川菖蒲。
徳川家康の子孫にして徳川グループの御令嬢。
白と黄緑に彩られた、鎧武者を彷彿とさせるIS、打鉄・櫛名田の使い手。プラズマを応用した弓術と巨大な武神ユニット、須佐之男を操るたおやかな女傑。
更識簪。
更識楯無の妹にして学年成績2位。
打鉄の高機動改修型である打鉄弐式。その多連装マイクロミサイルを回避するには至難の技。
情報、電子戦では右に出るものはいない。更識の隠れた才女。
みな一癖も二癖もあるISを十二分に乗りこなす技量を持ち。小国なら瞬く間に制圧できるであろう戦闘能力を持つ三人が一同に介した。
三人の共通点を敢えてあげるなら。
三人とも世界的大富豪に位置し、世界に影響力を持つ家柄。
そして三人とも、1人の男に恋をしているのだ。
突如菖蒲から「女子会をしましょう!」と連れてこられた簪は向かいに座っているセシリアからなんとも凄みのある眼差しを向けられているのだ。
その眼差しは狙撃のスコープのようで、気を抜けば撃ち殺されるのでは? というレベルの眼光だった。
以前の彼女であれば(なんでこんな目に………)と涙目でフルフルと震えていただろう。
だが今の彼女はトラウマを乗り越え、最愛の姉を守りとおしたヒーローとして羽化した。
この程度のプレッシャーなど、姉との隔絶に比べればどうということもなかった。
そんな彼女はチューと呑気にオレンジジュースをストローですすりながら視線だけを向けるのだった。
「コホン。えーとですね。この1ヶ月、その。あなたと疾風はし、し………親密な関係を構築したと、思うのですが?」
「………疾風と?」
「よ、呼び捨て!? しかも恥ずかしげもなく」
「セシリア様。今の段階でその反応はないかと」
「わわわかってますわよ! 不意打ちを食らっただけですわ!」
簪は自分の知らない1ヶ月間の疾風を知っている。むしろ知りすぎてるであろう。
呼び捨てで呼ぶなど別段珍しいことはない。
「それで。更識さんは」
「簪でお願い」
「簪さんは疾風を、どう思ってますの?」
「疾風は………私にとってのヒーロー」
「ヒーロー?」
「私を暗闇から救ってくれた。危ない時に助けてくれた。私の心に寄り添ってくれた。ちょっとひねくれてるけど。疾風は、私にとってのヒーローで。好きな人」
やはり、とセシリアは口に出さず。それでいて表情に出してしまった。
思い出を反芻し、顔を赤らめて少女から女の顔になる。恋を知った顔だ。
同じく恋をしているセシリアにはそれを機敏に感じれた。
「告白はしたのです?」
「うん。フラれちゃったけど」
「………そうですか」
「安心した?」
「そんなことはっ」
「セシリア様は疾風様がお好きですからね」
「菖蒲さん!? なにを根も葉もないことを」
「知ってる」
「なぁっ!?」
思わぬ爆弾発言二連発にセシリアは動揺を隠すという思考すら吹き飛ばされた。
慌てて紅茶を飲み干すその姿にはもはやエレガントのエの字もなく。ただただ醜態という二文字が残った。
「わ、わたくしは別に、疾風のことなんて」
「そんなテンプレツンデレは鈴様だけで充分ですわ」
「三文芝居」
「厳しすぎません?」
「だって」
「悔しいですもの」
疾風の想いはセシリアに向いている。
だからこそ自分たちに振り向かなかった。
わかって告白し、納得してはいても。納得してはならないものもある。
「なんでしょう。最初は私が簪さんに聞いていた筈なのにいつの間にか私が詰問されてる雰囲気なのですが?」
「私は全部話した。次はあなたの番」
「セシリア様は疾風様のことをどう思っているのです? ぼかしはここまでにしましょう。話した方が楽になりますよ。あっ、カツ丼頼みます?」
「いつから私は被疑者になったのでしょうか」
お嬢様は意外にも日本のカルチャーに通じていた。
普段物静かなご令嬢二人の眼力に、流石のセシリアも白旗を上げた。
「………きですわ」
「んー?」
「聞こえない。もっとはっきり」
「~~! 好き、好きですわよっ。私は疾風のことを異性として見てます! ………これで満足かしら!」
荒い息を吐いて全力を出したセシリアに菖蒲と簪は「良くできました」と拍手を送った。
「では善は急げです。早速告白に行きましょう」
「告白!? は、早すぎませんこと!?」
「告白に早い遅いなどありません。むしろ皆さん遅すぎるんです。ルーズ過ぎます」
「私なんて1ヶ月で告白した」
「あなたたちは勇敢が過ぎるのですよ! もう少し駆け引きとかするものではありませんの? 告白というのは」
「駆け引き、ですか。私たちの場合は、結果がわかった状態でしたから駆け引きもなにも」
「うん。私たちに振り向いてくれないのはわかってたから」
「結果がわかっていた? まさか、フラれることがわかって告白したと言うのですか?」
「ええ」
「どうしてですの。そんなのただ傷つくだけではありませんか………」
告白し、そして成立しない場合。
互いの関係がギスギスしたり、近寄りがたくなってしまうことがある。
今までの関係性ではいられなくなる。
時間と共に感傷は風化していくことはあれど、それは必ずしも関係が修復されるということではなく、むしろそのまま自然崩壊してしまうことがザラだ。
「理屈ではないと言うのは簡単ですが。そうですねぇ……彼に自分の存在を刻みたかったからです。私はあなたのことが好きなのです、愛しているのですよ、と。そういう想いに気づかれないまま終わるのが我慢できなかった。それが理由ですね」
「私は、想いを伝えて違えても。受け止めてくれると思った。そんな安心感が疾風にはあるから」
「ああ、それは私も同じです。どんな結果になっても疾風様は私を受け入れてくれる。そんな気がしたのです」
疾風に対する全幅の信頼。
普段はひねくれてる彼だが、その内は誰よりも親しき友人を大切にする優しい心の持ち主だ。
それはセシリアも知っている。知っているからこそ二人の話に納得が言ったのだ。
「要するにまあこれ以上なく疾風様の好意に甘えまくったという感じです」
「そうですか………でも。わたくしはやっばり」
「振られるのが怖い?」
コクりと頷くセシリア。
年数を言い訳にするわけではないが。疾風とセシリアは幼少時代からの長い付き合い。
悲しいことも楽しいことも分かち合った間柄、二人は間違いなく親友と呼ぶにふさわしかった。
それが壊れるのがたまらなく怖い。
たとえ告白してフラれても彼は二人と同じように受け止めてくれるだろう。
でももし違ったら? 確率として1%だとしても、決して0ではないのだから。
「率直に聞きましょう。セシリア様から見て、疾風様はあなたに好意を抱いてると思いますか?」
「うーん。もしかしたら? と思うのはチラホラと」
「そうですか」
菖蒲と簪は互いに目配せした。
プライベートチャネルを使用しなくてもお互いの思考は一致していた。
「セシリア様、これは飽くまで私から見た
「なんでしょう」
「疾風様はセシリア様のことを好いてると思いますよ」
「え!?」
一瞬息をすることを忘れたセシリアは思いっきり眼を見開く。
「え、は、はえ? いまなんとおっしゃりましたか?」
「疾風様はセシリア様を愛しているであろうと言ったのです」
「~~!! は、ははは疾風がそう言ったのですか!?」
「
「えー?」
もう訳がわからないとセシリアは白旗を振りっぱなしだった。
「先程言った通り、これは推測です。疾風様を見て彼の想いはあなたにあると想ったのです」
「この前疾風が忘れ物したって時にセシリアは疾風と話したよね。物陰から見てたけど、疾風は目に見えて嬉しそうに見えた。あなたと久しぶりに話せたことに」
「確定ではないと?」
「言葉遊びをするなら、です」
嘘である。
二人はとっくに疾風がセシリアに好意を前面に向けてることを知っている。
しかし恋愛ごとに関して、他人に「○○が○○のことを好き」とは言わない。
これは恋愛小説やコミックなどでは暗黙のタブーとされている。
好意があるとわかれば、コンテンツが長続きせずに展開が早まるからだ。
だからこそ絶妙にはぐらかした。
疾風がセシリアを好きだ、ではなく。疾風はセシリアのことを好きなのだと思うと。
あと素直に言うのは癪というのがある(大部分がこれ)
ならばそもそも言わなければ良いのでは?
それでは二人の胸の内を見てみよう。
((じれったいから早くくっついてほしい))
これである。
疾風は清々しいほどセシリアに夢中だ、今の自分たちに付け入る隙などない。
だったらさっさと決着をつけて幸せになってしまえ。というのが二人の言い分だった。
だが肝心の彼女は。
「うっ、えう、あうう」
「あららショートしてしまいました」
「キャパオーバー………」
これはまだ先になりそうだと各々はすっかりぬるくなったジュースをすするのだった。
ーーー◇ーーー
「一夏」
「なんだ」
「しりとりしようぜ☆」
「死んだ瞳のまま無理してテンションあげないでくれ悲しくなるから」
開幕会話の墓場を展開しようとした俺をいさめつつ一夏は大きなため息を吐いた。
今日は身体測定の日。
身長や(女子にとって永遠のアンタッチャブルである)体重。体力測定や視力聴力などあらゆる物を図る。
実は俺はこういう身体測定系ってなんかワクワクするタイプである。採血がなければもっと良いがな。
そんな俺は現在死んだ魚の目をしている。
採血が嫌だ? ノンノンノン。
身長伸びなかった? ノンノンノン。
体重増えた? ノンノンノン。
「なあ疾風」
「なにさ」
「なんで俺たちが身体測定『係』なんだ」
「やめろ馬鹿おめぇ!! 今必死に現実逃避してただろうがスットコドッコイぃぃ!!」
現実に引き戻された俺は半狂乱になった。
そう、なんかおかしいワードがあっただろう?
身体測定、係、ですよ?
そしてここ女子校なんですよ?
ということは、そういうことなんですよ?
「メロスの気分だ」
「邪智暴虐の主は病み上がりだぞ」
「病状に伏してたら殺せたのに」
「殺せるか?」
「………………無理な気がしてきた」
あの人寝てても相手を地に伏せそうなんだもん。
その邪智暴虐の主こと更識楯無こそが今回の首謀者である。
ほんとなにを考えているのか。マジで本当に!
体位、それすわなちスリーサイズ。なんで許可なんか取れたのか? 生徒会長権限といえど人の尊厳をドブに捨てることはない筈ましてや女性優遇社会においてそれは駄目だろ。
「すいません織斑くん、レーデルハイトくん。早急にやらないと行けない仕事を片付けてて遅くなりました」
「え、山田先生!? まさか先生が測定係を!」
「やめとけ一夏期待するな」
「どうなんですか山田先生!」
「すいません、私は記録係です」
「んがぁ」
「ほらみろ、山田先生は悪魔に屈したんだ。見てみろこの顔を。温厚な顔をしてるが裏ではうら若き青少年の恥辱に歪む姿で飲む酒は美味いと思ってんだ、そうに決まってる」
「失礼だぞ疾風。山田先生は学園の良心だぞ」
「その良心が悪逆に落ちてんだろうがこの朴念神!!」
絶賛SAN値チェックが入っている俺の心はとことん廃れており。口撃能力がいつもの五割増しとなっていたのだった。
この世に神はいない。否、神など糞食らえ、堕ちてこい神! ぶん殴ってやる!!
「私もどうかと思ったのですが。生徒会長が凄い良い笑顔で提案したと、包帯グルグルの姿で」
「そこまでして突き動かされる要因は一体何処にあるんだあの人」
「愉快犯だろ」
「まあ一応言い分としては『最近暗いこと続きなので刺激の良いのを一発』だそうです」
ほんとあのバ会長は。今度簪に頼んで折檻してもらおうそうしよう。
てことはどっかに隠しカメラあるな? または盗聴器が。
「はぁ。わかりました、腹をくくりましょう」
「納得したのか疾風」
「魔法カード発動、諦めの極地。まあ服の上からだからなんとか理性は持つでしょう頑張れ俺」
「あの、大変申し上げにくいのですが」
「はい?」
「今回皆さん下着です」
「「はぁっ!!?」」
困りましたよねぇ、って表情でとんでもない核爆弾を投下した山田先生に俺たちは思わず詰めよった。
「な、なんで!?」
「今回のスリーサイズ測定。ISスーツのサイズチェックのデータ取りとして使うので。より正確なデータをということで」
「なおのこと俺たちがやる意味がわからない!」
「なに考えてるんだこの学園はぁっ!!」
もう怒りとかそういう次元ではない。
これはもう反逆案件だ! いまこそ革命の時だ! 行くぞイーグル! 俺はこの間違った世界を浄化するっ!!
「なにを騒いでいるんだ貴様らは」
「そ、その声は」
「千冬姉! ぐえっ!」
「織斑先生だ」
毎度お馴染み伝家の宝刀、出席簿が一夏の頭に炸裂した。
よし、この隙に!
「最後のガラスをぶちやぶっ」
「やめろアホ」
「オブフぅ」
自慢の瞬発力で俺は窓に向けて全力疾走。
窓を開けることなど考えず外に出ようとしたがそれ以上の駿足を持つ織斑先生に首根っこをつかまれました。
「お、織斑先生もこれに肯定派ですか? 堕天されましたかブリュンヒルデさん。どっかでシグルドでも殺して絶望しましたか!?」
「そんな相手はいない。あとガラスは意外と高級品だ。無駄な金を使うな」
「金ならあるんで逃がしてください!」
「生憎賄賂は受け取らん主義だ」
知ってますよそんなこたぁ!!
「貴様らは人に任された仕事も満足に出来ないのか」
「いやこれは明らかに違いますよ織斑先生、これは明らかに陰謀です」
「そうだ、俺たちは楯無さんに」
「「はめられたんだっ!!」」
それは魂の叫びだった。
「なさけない、それが男の言う台詞か」
「男にも恥じらいはあるんですよ!」
だが秒も聞かなかった。
一夏が常日頃血の通ってない鬼ロボットって言ってた意味が分かる気がした。
御厨所長。本当に織斑先生は俺たちの味方なのでしょうか?
「俺たちがなにをしたっていうんですか。俺たちは学園を守ったんですよ。褒美があっても良いのにこの仕打ちはあんまりです!」
「ご褒美だろう。合法的に女子の裸体を見て触れるんだ。ほら喜べ男子、生徒会長の温情を無駄にするな」
「教育者にあるまじき発言が飛び出してきた!」
「褒美と辱しめの区別のつかないセクハラ生徒会長の、何処に真実があるっ!」
「寝言を言うな千冬姉! ナントォっ!」
「織斑先生だ」
伝家の宝刀二撃目発動。一瞬一夏が分身したようにブレたのは精神的疲労による幻覚だろう。
なんか一瞬金色に光ってたし。
今はっきりした。今回のこの事件。
織斑先生もグルだ! この人こそ真の悪だ!!
「そもそも! 今回のこと生徒には周知の事実なのですか! 何処に好き好んで同世代の男子に測定されることをよしとする女子がいるんですか!」
「そうだそうだ! もっと言ってやれ疾風!」
「もし今回のことが公にされたらIS学園はモラルが欠如した施設認定。俺たちの人生破滅待ったなしですよ! そこんとこどう対処して」
「ホレッ」
バサッと出席簿から取り出されたのはクリップで止められた書類の束だった。
なんだこれ………はっ?
「どうした疾風」
「………契約書」
「え?」
「今回俺たちがスリーサイズを測定すること、そしてそれを口外しないことの契約書、の束だ」
「………………???」
一夏は思考を停止し、俺は現実逃避に失敗した。
「ちなみに希望者のみだ。流石に恥ずかしい奴もいるみたいだからな」
「ちなみに参加者の割合は」
「一年生のうち希望者は、7割だ」
「あぁぁぁああぁぁぁあぁあぁぁぁ!!!!」
「疾風ーー!」
楽しい楽しいスリーサイズ測定、ポロリはあるかも?
はっじまーるよー。
ーーー◇ーーー
どうもSAN値回復を果たした疾風・レーデルハイトです。
ようやく落ち着いた俺たちはもういよいよ腹をくくり。山田先生にスリーサイズの計り方を軽く教わって今に至る。
それにしても7割か。一クラス約30人✕8=240人。の7割だから大体170人
一夏と割ったとして、少なくとも85人ぐらいを計らなければならんのか。耐えろよ俺のコスモ。頭の中にセシリアお嬢様、あとついでに執事長ハロルドさんを置いておこう。
よしばっちりだ(?)
そういえば一夏は織斑先生から目隠しをもらったな。
スケスケの役にたたないやつを。
去り際の織斑先生の豪快な笑い声はまさに悪魔の笑い声だった。
おふざけになられて?
「失礼しまーす。わー、本当に織斑くんとレーデルハイトくんだ」
「ヤバいドキドキしてきたぁ! 昨日ドカ食いしたけど大丈夫よね?」
「やっほー、おりむー、レーちん。たっちゃんの秘策炸裂だね~。今のお気持ちをどうぞ」
「アハハハ! 菓子顔面に叩きつけるぞコノヤロウ★」
「え、どうしたのレーデルハイトくん。眼がガラス玉のように虚ろなのに笑い声はさわやか」
「ああ、そっとしておいてくれ。今の疾風は心をやられててな」
「なんか臨海学校のビーチバレーの時もこんなんじゃなかった?」
あー、そんなこともあったねー。
テンション上げなきゃやってられねえぜ。
「ほらほらなにしてんのお前たちさっさと計るぞスリーサイズ! なんならオプションで大声出して上げるぞ、言ってほしい奴は早めに申し上げろ。さあ行くぞHere we go! Hurry up!」
「完全にテンションが迷子だけど?」
「精神ヴァルハラに行ってない?」
うるせえぞ女子。さっさとこい。
やさぐれながらドカッと座り込んだ俺は素数を数え始めた。
勇気を貰える数字らしいからね。
「出席番号15番。鷹月静寢、入ります」
「はいどうぞー。まずバストを計るから脇上げてねー」
「………」
「どうした鷹月さん」
「なんかリアクションないなって」
下着姿の鷹月さんは困惑した目で俺を見た。
彼女の下着は身体測定向けとは思えないほど気合いの入ったものだった。
普通の思春期男子ならドギマギものだろう。
「うわぁっ!」
現に隣の一夏は相川さんの下着を見てアワアワしている。
「いま全力で感情を無にして素数数えてるんだ。とっとと終わらせたいから協力してくれ」
「うぅ。ここまで無反応だと凹むなぁ」
「変な気起こしたら大変だろ。ほら脇上げて」
「………………起こしても良いのになぁ………」
聞かなかったことにしよう。
「バスト77」
「ひゃん」
「声出さない。ウエスト57、ヒップ78。はい終わり、次の方ー!」
「うぅ早い。もっと余韻持ってくれても良いんじゃ。そんな魅力ない私の身体?」
「はよいけい。次つかえてるから」
トボトボと歩く鷹月さんにナノレベルの罪悪感を醸しながら次々現れる女子(下着姿)のサイズを図った。
「出席番号8番、鏡ナギです」
「バスト87、ウエスト54、ヒップ82」
「四十院神楽です」
「バスト78、ウエスト55、ヒップ86」
「岸原理子ことリコリンです♪」
「バスト(以下略)」
「夜竹さゆかです」
「バス(以下略)」
「7月のサマーデビルです!」
「バ(以下略)」
なんだ。なんとかなってるじゃないか。
何人目かの測定が終わって心に余裕………は出来てないがちゃんと計れている。
結構簡単だなスリーサイズ。身構えた甲斐があったというか。
素数が限界迎えてさっきからIS理論垂れ流しにして理性にダメージほぼなし。
それでも何故かスリーサイズの数字が時折入ってくる。
女子のプライバシーを尊重しまくる女尊男卑社会何処行った。
しかし………
「あれ、ん?」
「ひゃあっ! お、織斑くん行きなり何をっ」
「何って計ろうとして、ここか?」
「ふにゃあ!」
何か艶かしい喘ぎが聞こえるんだけど。
なにしてんのあいつ。
なんかわちゃわちゃしてるし………
隣から身体測定とは思えない感じのシルエットが、カーテン越しに見えていたが、なにあれ?
「レーデルハイトくん?」
「あ、ごめん国津さん。えーとバストが………」
「おおお織斑くんちゃんと計ってよ!?」
「計ろうとしてるんだけど」
「待ってそこは、やめ、ひゃん」
ほんとマジで何してんだろうね。
そういうの他所でやってほしい。てかそんな声だしてたら。
「一夏ぁぁぁぁぁ!! 貴様ぁぁぁぁぁ!!」
ほら出たじゃん。ややこしくなった。
いや構うな構うな、俺は俺の責務を果たすんだ。
「ウエストがえっと………」
「一夏のえっち! ほんと何してるの!?」
構うな、我慢だ我慢………。
「楽しい? ねえ楽しい? 胸の大きい子の身体触るの。死ね」
おいなんで二組の鈴がいるんだよ。
こんなの日常茶飯事、日常茶飯事………
「一夏、辞世の句を読んでおけ」
「うわっ、ナイフは駄目だラウラ!」
我慢、我慢、がま、ん………
「レーデルハイトくんどうしたの? そんなに震えて」
「んんんー………」
「あの、そんなメジャー引っ張ったら。千切れちゃうよ?」
「一夏! 今日こそ性根を叩き壊す!」
「言い逃れ出来ないからね!」
「やはり胸か! 巨乳か! 爆乳か! 貧乳に人権を!!」
「覚悟はいいか、私は出来ている」
「まて、まてまてうわぁぁぁぁ!!」
ブチンッ!!
メジャーが千切れると共に俺の堪忍袋もぶちギレた。
隣と隔てるカーテンを引きちぎる勢いでどかすと。そこには一夏に覆い被さるように襲いかかる四人の姿が………
「オイ、なにしてんのお前ら」
「は、疾風」
「わ、私たちはその」
感じたのだろう、怒気を。
蛇に睨まれた蛙のように五人は恐ろしい物を見るように俺を見上げていた。
まるで怒らせてはいけないものを怒らせてしまったかのように。
「俺はさ、こんなふざけた企画でもなんとか頑張ろうと、心を無にして頑張ってるのよ。それなのに何さ。お前は相川さんの身体をもみくちゃにして楽しんでると、良いご身分だな」
「いや、違うぞ。俺はそんなつもりじゃ」
「現にまだ一人目じゃねえかこっちはもう7、8人終わらせてんだよ。さっさと計れよ目盛りもわからねえのかお前は」
「いやその。だって目を閉じてやってたか、ガッ!」
「目を閉じてどうやって計るんだよ! ふざけるのも大概にしろよこのなんちゃってラノベ主人公がぁぁ!」
一夏の顔面を鷲掴んでグリグリとこねまわした。
もう我慢もなにもなかった。
リミッターオールカットである。
「アタタタタ! だって! だって女子の下着姿見たら失礼だろ!」
「こいつらはそんな段階すっ飛ばしてんだよ! 見ろよ箒たちの下着! まんま勝負下着じゃねえか! ハプニングバーじゃねえんだぞここは! おい聞いてんのか発情期のメスども! 相川さんのシンプルな下着見習え!」
「わ、私たちは一夏に恥ずかしい姿を見せまいとだな」
「そういうのは部屋でやれ! ほんとマジでいい加減にしてくれよお前ら、俺は早く終わらせたいんだこんな地獄絵図を! さっさとやらねえとお前たちを◇○r@●☛○◼♘Ω♖u☆d♙!!」
「ヤバい! 疾風が解読不能な言語を言い始めた!」
「眼が凄いグルグルしてる!」
「悪かった疾風! ちゃんと計るから! もう恥ずかしがらずに急いでやるから頼むから正気に戻ってくれぇぇぇ!!」
ーーー◇ーーー
「バスト90、ウエスト58、ヒップ87」
「うひひー、ナイスバディでしょレーちん」
「はいはいそだねー」
「疲れてるねレーちん。おっぱい揉む?」
「引きちぎっていいなら」
「バイバーイ」
脱げば凄かったのほほんさんの測定を終えて背もたれに寄りかかった。
次の人来ないってことはもう一組終わったのかな?
てか一組全員参加だったなぁー、ほんとノリは学園1だなうちのクラス。
しかもまだ7クラス残ってる?お、死ぬかコノヤロー?
………いや待てよ。なんか1人忘れてるような。
「出席番号4番。セシリア・オルコット入ります」
「ヴァ」
そうだ! まだセシリアやってねえ! てっきり一夏のとこに行ったのかと。
えっ、待って。セシリアの下着姿が来る?
いや大丈夫だ。セシリアは真面目な奴だ。そんな気合い入った下着で来ることは。
「し、失礼致しますわ」
「………ワーオ」
黒。黒い下着だった。
レースをふんだんにあしらった黒い下着だった。セシリアの決め細やかな肌を際立たせる漆黒。
しかも縁らへんは透けている素材でまるで網タイツのように薄い黒の向こうから柔肌が見えて。
はっきり言ってエロかった。
「………………」
「あの」
「ハイ」
「別にいやらしい目的で着たわけではありませんからね? そこは分かってほしいといいますか」
嘘である。
このセシリア・オルコット。
今回の話を聞いてからクローゼットをひっくり返して一晩中悩みに悩んだワンセットを着てきた。
(本当に疾風がわたくしに恋慕を抱いているとしたら。何かしらのアクションがあるはず)
全ては疾風に女として見て貰うため。
そして彼の真意を探るため。
「う、あ」
これは、マズイ。本当に。
マジで美と艶の権化。
水着とは一線を越えた健康的かつ蠱惑的なエロス。
採寸の必要がないほどの魅力的な肢体。
もうサイズオールSSRで良いんじゃないかな?
「あの」
「ハイ」
「は、始めてもらっても? 少々、いえ結構恥ずかしくて」
………この上恥じらいまで持ってるだと?
俺の幼馴染みはなんなの?
女神の上位互換ってなんだっけ?
ヴィーナスだろうがアフロディーテだろうが勝てねえよセシリア・オルコットの魅力には。
「えーと、脇を上げてください」
「はい」
こ、このバストにメジャーを当てる資格が俺にあるのだろうか。
果たしてオークションにかけたら何億単位の金が動くだろう。
「バスト………88」
大きい、ほうだろうな。それでいて形が全然崩れてない。
セシリアのほうを見た。あっ、なんか凄く嬉しそう。
次はウエスト。ほっそいなぁ。折れてしまいそう。
「ウエスト………55」
細いほうだよな。またセシリアの顔を見てみた。
あっ、なんか凄い駄目っぽい! 唇がプルプル震えてる!
次はヒップ。臨海学校も思ったけどほんと身体のラインが綺麗すぎるんだよな。
てかエロい。目の前に黒のパンツが。この世の中で俺は世界的幸運を背負ってるというほどの景色を眼球に焼き付けて………
なんかクラクラしてきた………
「ヒップが………はちじゅう……さん」
ポタッ。
「ん?」
「どうしました?」
「なんか垂れて。うわっ」
受け止めた手が真っ赤になっていた。
鼻から垂れる感覚。これは………
「やばっ鼻血出た」
「え、ちょっとティッシュティッシュ!」
え、なに。興奮しすぎて鼻血が出た?
マジでそんなのあるの? でも現に凄い鼻血出てくる!
ヤバい。何がヤバいって。
セシリアの前でこんな醜態を晒してしまった!
これじゃ、女の裸に興奮して鼻血吹き出す変態野郎じゃないか!
変質者じゃないか!
くそっ、おのれ更識楯無! マジで許さん! ほんとマジで。
俺はセシリアの前で鼻血を出したことへの絶望と会長への怒りで頭がメロスになっていた。
そんな俺に対して、セシリアというと。
(やりましたわぁ! これは正しくわたくしの悩殺ボディでノックアウトしたということ! フフッ、疾風が意識してるというのはあながち間違いではないのかもしれませんわ!)
鼻唄を歌いながら制服に着替えていた。
思わずスキップをしながら保健室を出るその姿にみんなは明らかに何かがあったことを悟ったのだった。
その後。
セシリアの下着姿というこれ以上ない上位互換の登場により賢者モードに突入。
俺は鮮やかに数多の女子のスリーサイズを計りきったのであった。
ワールド・パージ編開始。
いやーこのイベントは馬鹿ですね!ほんと馬鹿。
スリーサイズの表記はほぼ思い付きです。ほぼ公式ではないです。
お嬢のスリーサイズは過去Wikipediaに出たものを若干大きくしました。ふくよかになれ。