IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第111話【パワードスーツ、良い響きだ】

 

 

「アバババ、アバババ、アバババ」

「グラウンドついたら疾風がバグってるんだけど」

「最後に動かしたのが3日前の練習機ですからね。禁断症状が発生してるのでしょう」

「そこにいつもISが飛んでいるグラウンドに来て再発したと」

 

 ゴーレムⅢの襲撃で俺たちのISは軒並みダメージを受けた。

 安静を取って専用機の使用は当分禁止と言われたときは、もうこの世の終わりを感じたね。

 

 え? レーデルハイト工業は比較的近くなんだから速攻直して貰えば良いのでは、だって? 

 

 いやね。普通ならそうなんだけど。

 間が悪いことに。この前俺が本社に提案したアップグレードプランで製作が遅れてて。

 もうボロボロなんだからこの際パーツを総取っ替えしてしまおうぜってことで。

 いま、俺の手元にISがない状態なんです。

 

「IS、アイエスノリタイ」

「もう。今日ISが届くのでしょう? 少しは我慢を」

「MU・RI」

「駄目ですね、もう放っておきましょう」

「雑ですねセシリア様」

「ほら疾風。アイアンガイだよ」

 

 簪がアイアンガイの動画を見せてくれたお陰で俺はなんとか自我を保つことに成功した。

 あいあんごーー。

 

「よし、全員揃ったな」

「あ、真の悪」

「気持ちは分かるがやめとけ疾風。出席簿飛ぶぞ」

「ならやめよう。俺のノーヒット神話を存続させる為にも」

 

 IS学園が秋に突入してる最中、まだ出席簿を食らってないのが俺の永遠の自慢である。

 

「先の襲撃により、お前たちのISが使用禁止なのは伝えた通りだ」

「練習機使わせてください!」

「練習機は非専用機組に使って貰う」

「………………」

「そんな目をするな」

 

 そんな目ってなんですか。いたって普通ですよ? 

 決して警察に通報することが生き甲斐のウサギのような目なんてしてませんよ? 

 

「さて、そこでお前たちには変わりの物を乗って貰う」

「アイ」

「ISではない。次ISと言ったらお前を縛る」

 

 お口ミッフィー、オン。

 

「それで、何に乗れば良いのですか?」

「今来るはずだ………来たぞ」

 

 織斑先生の目線につられて。

 アリーナの地上用大型ゲートからトラックが2台来たではないか。

 って、あれ? 

 

「なんか見覚えのあるロゴが見える。確かあれはレーデルハイトの」

「ということは乗ってるのは」

「勿論私よ!!」

 

 とう! と運転席から無駄に綺麗なバク宙からの華麗な着地をして見せた豊満な金髪をたなびかせるスタイリッシュ美熟女が全力のドヤ顔をした。

 

「どうも、レーデルハイト工業CEOのアリア・レーデルハイト、デス!」

「マザー? なぁんでこんなところに。ハッ、まさか直々に専用機持ってきてくれた!?」

 

 刹那、俺は閃光よりも早く母さんの前にかしずいた。

 

「プリーズイーグルミー!」

「ごめんね。まだ調整終わってないから放課後までお預け」

「ガーーーン! それはないよお母様!」

「まあまあ変わりじゃないけど面白いもの持ってきたから。ササッ、早くみんなのとこに戻りなさい。織斑先生困らせたら駄目よ」

「わかったよ、くそー」

 

 母にたしなめられてスゴスゴ戻る俺の姿にいつもと違う疾風にギャップを感じて萌えを感じるお嬢様トリオ。

 そんな視線に気づかず俺は定位置にリターン。

 

「では僭越ながら。ゲートオープン! 界放!!」

「???」

「無難に開けゴマの方がよかったかしら? まあいいやオープン!」

 

 渾身のボケを滑っても気にしない。世界的企業のトップはこのぐらいメンタルがないとやっていけないのだ。

 リモコンのボタンが押されると共にトラックのコンテナが上部に開いていく。

 

 2台のトラックから現れたのは、ISと比べてずんぐりむっくりとした金属のアーマーだった、

 

「これは確か………イ、オ………なんだっけ?」

「そこまで出たなら出せ一夏。EOS(イオス)だ、EOS」

「あーそうだEOSだ! 思い出した!」

 

 随分前にレーデルハイト工業が亡国機業(ファントム・タスク)に襲われた時に俺の父親がEOSで敵を吹き飛ばしたと知り。片手間に調べていたので一夏の頭にはぼんやりと残っていたのだ。

 

「私が解説してもいいかしら。一応うちの商品だから」

「どうぞ」

「オホン。EOSというのは国連が凄い熱意を込めて開発に乗り込んでる外骨格攻性機動装甲。まあ分かりやすく言うと誰でも使えるパワードスーツっところね」

「確か災害時の救助活動を主軸に、軍備予備選力、対暴徒制圧用をコンセプトに開発されたのですよね。ISと比べてコアは使ってないから、性能は低いと聞きます」

「そうね。そこらへんは実際に乗って見てほしいかな」

「え、これに乗るんですか」

「そうよ。さあ時間は有限! さっさと乗りなさい!」

「行くぞ簪! パワードスーツDA!」

「うん!!」

「あっ! 疾風と簪さんが一目散に!」

「というか説明は?」

「習うより慣れろってことじゃない?」

 

 パワードスーツ。それは老若男女をとりこにするロマンワード。

 ISも一種のパワードスーツだが。こういうゴテゴテしたパワードスーツにこそ心引かれる何かがあるのだ! 

 

 そしてそれに見事オタクソウルに火をつけた俺と簪は綺麗なフォームでEOSの元へ走っていった。

 

「わたくしたちも行きましょうか」

「そうだね」

「まあチョロいでしょ。ましてやうちら代表候補生なんだし」

「そうだな。私たちは常日頃ISに乗り続けているんだ。恐れるにたらん!」

「馬鹿丸出しだなお前ら」

「は!?」

「行きなりその物言いはどうかと思うぞラウラ」

「お前たちこそなにを言っている──この世でISほど動かしやすい兵器はない」

 

 数分後。

 

 箒と鈴、のみならず専用機持ちはラウラの言葉の意味を思い知ることとなった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「お、おも、重いぞこれは。動けない」

「な、なんのこれしきぃぃ」

「これは、良いダイエットになりそう。あ、やっぱり駄目ですわ」

「うぎゃぁぁぁ………」

「み、身動きが」

「鎧を着せてもらった時を、思い出しますぅ」

 

 重い。重いのである。

 

 だが驚くことなかれ。これでも一般的なISより重くないのだ。このEOSという代物は。

 

 ISにはPICによる重量削減、半重力制御があり。

 身体を動かすときは本体との動作摩擦を減らすためにIS側でイメージインターフェースを作動させて動かしている。

 まあわかる通りEOSにはそんな便利なものは搭載されていないのだ。

 

 そしてこれでもパワーアシストは働いている、それでもこの鈍重さだ。

 物理的な重さ、というより動作的な重さ。思わず荷重的な重さを感じるほどEOSというものは動かしづらいのだ。

 

「おお、なんだろ。この心地よい重さはなんだろ。凄い動かしてる感!」

「ISだと生身とほぼ同じだもんね」

「ふむ、ふむふむ。よし」

 

 対して疾風、簪、ラウラは早くも感覚を掴んでいた。

 が、残りのメンバーは動かすどころの話ではなくなっている。 

 

「あー、これは駄目ね。まあ今はパワーアシストを最低限にしてるし仕方ないか」

「え、じゃあもっと楽に行けるんですか」

「そうよー。いまEOSに操作方法送るからそれを見てね」

 

 アリアのISから送られたデータをウィンドウで確認。各々は右手コントローラースティックのつまみを捻り上げた。

 

「おっ! 軽くなったぞ。まだ少し重いけど!」

「うんうん。電磁式人工筋肉は問題なしね」

「人工筋肉? EOSにそんなものを?」

「そうそう。電流を流すことでパワーアシストとは違うアプローチで機体を支えるの。まだ試作段階だけど」

「もしかして俺たちでデータ集めようとしてる?」

「ウフッ」

 

 笑顔は肯定と見なす。

 どうやら疾風たちは活きの良いモルモットらしい。

 上等じゃねえか、と疾風は持ち前の反骨芯を見せた。

 

「それではEOSによる模擬戦を開始する」

「ちょっと待ってください先生。まだ満足に動かしてないのですが?」

「チョロいものなんだろう? やってみせろガキども」

「鈴の馬鹿! もう少し考えてから喋れ!」

「あんたも同罪でしょうが箒コラ!」

「醜い争いをするな同レベルども、さっさとやれ」

「新型EOSは前面が超強化ガラスだから何処撃っても平気よ。だから思いっきりやっちゃえ!」

「なんとでもなるはずだー。ファイトー!」

「それでは始め!!」

 

 パン! と良く通る拍手により模擬戦開始。

 EOSの装備は右手にペイント弾が装填されたアサルトライフルが一丁。左手に大型シールド。

 腰には練習用模擬ブレードが装備されている。

 

「よし先ずは一夏からやるか」

「ちょっと待てラウラ! もう少し待て!」

「問答無用!」

 

 脚部ランドローラーがうねりを上げ、アタフタしている一夏に肉薄。アサルトライフルで狙いをつけることも出来ず足払いにより転倒。

 衝撃により目をつぶり、開いた先にはラウラのアサルトライフルの銃口が。

 

「お慈悲を」

「二度は言わん」

 

 うわーー! という悲鳴とともに一夏の視界がショッキングなペイントカラーに染まった。

 

「さーて誰狙おうかなシャルロット狙お!」

「わー来ないで疾風! なんでそんな目がキラキラしてんの!?」

「持病のせいかなぁ!!」

 

 禁断症状の反動で見事トランス状態の疾風がライフルをぶっぱなしたが、ライフルは明後日の方向に向けられ全弾どっかに行った。

 

「おっとリコイルか! 新鮮!!」

 

 ISには射撃格闘その他の挙動によるブレを軽減するためにPICやオートバランサーの補助が大変優秀。

 狙えば狙ったところに当たり。

 反動も自動で軽減され次の行動へアクセスしやすくなっている。

 

 それと同じ規格のアサルトライフルを補助なしで撃てばどうなるか、こうなる。

 やられると思っていたシャルロットはフーと安堵の息を吐いていた。

 そして同時にノーガード隙だらけだった。

 

「大型シールドをシャルロットにシュー!!」

「え!? うわばっ!!」

 

 振りかぶって投げられた大型シールドが慣性の勢いでシャルロットのガラスモニターに命中! 

 超! エキサイティン☆! 

 

 ゴイン! というあからさまに痛そうな音と対照的に超強化ガラスにはヒビ一つ入っていなかったところを見ると相当頑丈なのだろう。

 流石レーデルハイト工業プロデュース。

 

「因みに背中には姿勢補助アームの他に緊急立ち上がり用の炸裂装甲あるからそれも使うのよー!」

「これだね!」

 

 シャルロットが倒れる直前に炸裂装甲を機動。

 倒れた衝撃で背中に小規模の爆発が起こり、その勢いで転倒を防いだ。

 

「アタァァァック!」

「うわちょ、わぁー!!」

 

 無慈悲に俺の近距離アサルトライフルがシャルロットをペイントまみれにした。

 起き上がっても直ぐに攻撃されたらそれはただの的である。

 シャルロット戦闘不能。

 

「うーん。やっぱりこうなるかぁ。改良の余地あるわね」

「改良、無理だと思うのですが」

「あら酷いこと言う。なら織斑さん、1機余ってるから使う?」

「遠慮します」

 

 ノーと言える大人、織斑千冬。

 早くも二名の脱落者が出たEOS戦は既に意地と意地のぶつかり合いになっていた。

 

「だらっしゃあ!」

「ぬぅぅん!」

 

 箒と鈴は「こんなもん使えるか!」と早々にライフルを捨てて近接戦闘に移行した。

 しかしISと違ってキビキビ動けないEOSでは普段のような軽快かつダイナミックな接近戦が出来ずに調子を狂わせていた。

 

「あー、重い! 例えるならあれね! クソ重いネット回線!」

「なんの! いつもより重い剣道着を着てると思えば!」

 

 それでもやはり生粋のインファイター。短い時間で動きの緩急を掴み始めていた。

 

「くっ、弓が欲しいです!」

「動作多くてまともに出来ないと思いますわよ!」

 

 ロングレンジ組の二人はサークルロンドを行いながらアサルトライフルで銃撃戦を繰り広げる。

 火薬銃故の反動に苦戦していたセシリアだが、直ぐに誤差調整を行えたのは天性の射撃センスに他ならない。

 一方菖蒲は普段から使いなれないライフル系ということもあり銃身が安定せずにいた。

 

 そしてそこに付け入る二人の猛者。

 

「悪いがつけ込ませてもらう」

「アハハハハハ!!」

「うわ、本職来た!」

「疾風様!?」

 

 幼馴染みコンビにはラウラが。

 お嬢様コンビには疾風が肉薄する。

 

「まずはお前だ」

「うわ、まて。わぎゃっ!」

 

 遠距離攻撃手段を捨てた箒にペイント弾、ろくにガードも出来ずあっという間にペイント弾の餌食に。

 

「こんのっ!」

 

 すかさず鈴が迎撃の構え。盾を前に付き出してラウラのペイント弾を防ぐ。

 ラウラは射撃をしながら盾を強く保持。そのままランドローラーのスロットルを全開。

 

 ギュイイイン! という特徴的な音とともにラウラのEOSはそのままタックル。

 新型EOSの加速力は従来のEOSの3倍。その加速と重量からの突撃はまさにトラックのそれと同じだった。

 

「うわ、うわわわわわ! へぶっ!」

 

 それでもなんとか手をバタバタさせて踏みとどまろうとした鈴だったが、そのまま前のめりに転倒。

 無防備な背中をキャンパスにされるのだった。

 

「オラオラオラ! くらえくらえ! 某臆病な傭兵直伝。面だ! 徹底的に面で攻撃しろ! だっ!」

「あのアニメ、わたくしは好きではありませんわ!」

「え、セシリアあれ見たのかよ。度胸あるなオイ」

 

 英国が蹂躙し尽くされるアニメ。

 化け物より人間が怖いアニメだ。

 

 そんな台詞を吐きながらシャルロットから奪ったのと合わせて両手のアサルトライフルを乱射する疾風。

 照準を合わせるのがめんどうなのか敢えてそうしてるのかもうとにかくトリガーハッピーと化している。

 

 だが数撃てば当たる戦法はEOS戦で馬鹿に出来た物ではなく、防ぎきれずに無防備になった菖蒲が餌食になった。

 

「きゃっ!」

「菖蒲さん!? このっ!」

「オラオラオラ! あ、やべ弾切れ」

「チャンス!」

「と、思うでしょ?」

「え?」

 

 普段ならIS反応やISのサポートで気づけただろう。

 だが目の前の疾風とEOSの扱いにくさにいっぱいいっぱいだったセシリアにそれを知覚することは出来なかった。

 いつの間にか気配を消していた簪がこれまた正確な射撃でセシリアの背後をぶち抜いた。

 

「不覚ですわ!」

「ナイス簪! って言いたいけど味方って訳じゃねえよなぁ!」

「今弾切れだったよね」

「逃げるんだよぉぉぉ!!」

 

 煙が吹き出す勢いでマックスパワー旋回、脱兎のごとく逃げようと馬力を入れたら。

 

「guten tag、疾風」

「あらーラウラさーん!?」

 

 前門のラウラ、後門の簪。

 スカイブルー・イーグルならこの状況でも打開策を取れただろうが今乗ってるのは通常規格より多少高性能なExtended Operation Seeker《エクステンデッド・オペレーション・シーカー》略してEOS。

 

 それに加え手持ちは弾切れのアサルトライフル、細目の模擬ブレード。

 シールドはさっき投げ捨ててない。

 

 つまり結果は。

 

「あ、やめて三分間待ってあーーー」

 

 ペイントまみれの鉄の塊がゴロンゴロンとグラウンドを転がり回った。

 

「残りは貴様だ簪!」

「望むところ」

 

 互いに向き合う砲火。

 アサルトライフルから火を吹いて撃たれたペイント弾が互いのシールドを濡らす。

 

「ぬっ!?」

 

 そこでラウラは気づく。簪のEOSが他や自分のと比べて動きが細やかだと。

 動かし方の差か? いや簪がEOSを動かすのは初めてのはず。

 

 簪がブレードを抜いた。

 ラウラは弾切れのライフルからブレードに持ちかえて対応する。

 

「面白い!」

 

 原因はわからないが、兵士は与えられた武器で最高の戦績を発揮しなければならない。

 でなければ一流ではない。

 たとえシュヴァルツェア・レーゲンでなくとも、敬愛する教官の前で無様を見せる訳にはいかない! 

 

「行くぞ!」

「迎撃」

 

 2機のEOSのランドローラーが砂煙を巻き上げる。

 距離が空いているうちに両者リロード、からの発射。

 

 EOSとは思えないほど細かいジグザグ装甲でラウラを翻弄しようとする簪の射撃に冷静に盾を滑らせる。

 そしてクロスレンジによるブレードの鍔迫り合い。

 簪のEOSが繰り出す精密な突きをラウラはシールドで受け流し、そのまま簪の右方面に。

 

 必然的にラウラのEOSが簪に背中を向けるようになった。

 

(振り向く前に撃つ!)

 

 最小限の動きで回れ右をする簪。

 ここで撃てれば簪の勝ちだった。

 

「えっ?」

 

 振り向いた先にはラウラのEOSの背中が見えた。

 至近距離の。

 

 ラウラは簪の右側に移動したあと。そのままランドローラーを逆回転で回し、バックタックルを繰り出したのだ。

 不意を突かれた簪は視界をEOSで塞がれた状態だった。

 

 その時、ふと目に入ったのは。

 デンジャーマークがついた。転倒防止の炸裂装甲用の爆薬パックだった。

 

 まさか! と思う前にラウラの背中が爆発。

 なんとラウラは炸裂装甲を攻撃に転用したのだ。

 

 元々EOSの巨体を起こすために使われる爆薬。

 簪は勿論のことラウラも吹き飛ばされるはずだが。爆発の瞬間に前進していたためノックバックは軽い。

 

 だが至近距離の閃光と爆音をもろに受けた簪は背面から倒れ込む。

 EOSは全面のガラスが焦げた程度だったが、本人の意識は朦朧としていた。

 

 コンッ。

 

 起き上がる暇を与えず、ラウラのブレードが強化ガラスを小突いた。

 

 簪機、戦闘不能。

 

「よし、そこまで! 各機、戻れる奴は戻ってこい。そうでないものは機体から降りろ」

 

 そうでないものとは視界が塗料で埋め尽くされてろくに歩けない者たちだった。

 なんとも鮮やかな彩色となった黒色のEOSたちはローラー音を出しながら千冬の元に集まった。

 

「流石だなボーデヴィッヒ。腕はなまってないと見える」

「いえ、これも教官の教えの賜物でございます。あたっ」

「織斑先生だ」

 

 勝者による温情からか、先程の一夏よりも優しめの乗せる程度の出席簿がラウラの頭を小突いた。

 それを受けたラウラは何処か嬉しそうに唇を震わせた。

 

「ラウラ、EOS使ったことあるの?」

「これより前の世代の物だがな。だがこれは私の知るEOSではないな。遥かに動かしやすかったぞ」

「「「これで?」」」

 

 普段ISを乗り回してる人からみれば生身の方が動けるのでは? と思うほど重苦しい代物だった。

 

 だが実際これより前のEOSは動きづらい、稼働時間が短い、同じ陸戦兵器である戦車と比べるまでもなく弱いと言われる程大不評だったのだ。

 

 それでもISコアを使わないパワードスーツということで世論から注目を集め。非IS企業はこれの開発に躍起になってるという。

 

 そんな中IS企業であるレーデルハイト工業がEOSグレードアッププランに乗ってるのは。

 単純にこの事業が儲かると踏んだからである。

 

「少し良いか簪」

「なに?」

「お前とバトルした時、お前のEOSに違和感があった。私のEOSより動きが良いように見えた。何をした?」

「えっと、思ったより動かしづらかったから。機体のOS変えたの」

「え、戦闘中にOS変えたの?」

「うん。ちゃんと元のOSは消さないでバックアップ取ってたから大丈夫」

「いやそうじゃなくて、なんかサラッとまた凄いことやってるんだけどなんなのこの子」

「何処のスパコだい君は?」

 

 流石学園電子戦能力ナンバーワン。だがこの程度、戦闘中に山嵐のデータ総取っ替えより遥かに簡単だった。

 少なくとも簪にとっては。

 

 某ロボットアニメの超遺伝子組み換え成功体みたいな神業をやってのけた簪にみんな少し引いた。

 アリア社長一人を除いて。

 

「更識さん!」

「は、はい!」

「今あなたが書き換えたOS! まだ残ってる? 今後の開発に役立てたいの!!」

「すいません、借り物なので消して元に戻しました」

「んあーーー!!」

 

 膝から崩れ落ちて頭から仰け反ったアリア。

 簪のEOSを見て即座にOSを弄ったことを看破し、目を輝かせたアリアにとってそれは宝くじの当たりナンバーの最後の一桁が1個ずれてたのと同義だった。

 

 息子含む生徒の目の前でガチ凹みするアリアを見かねて簪が声をかけた。

 

「あの、さっきのプログラム配列覚えてるので。良ければもう一度組みましょうか?」

「ホントにっ!!? 是非! 是非お願いするわ! 織斑さん! この子借りるわ!!」

「ひゃー!」

 

 簪を小脇に抱えてEOSの元に爆走するエネルギッシュな母を前に一同は呆気に取られ。疾風は目頭を抑えた。

 

「あ、疾風! このEOSのマニュアル送ったからみんなに宣伝宜しく!」

「え、なんで俺が!」

「さあ更識さん! 頼むわね。社の未来は貴女に託した!」

「え、えー………」

「聞いてねえー」

 

 シャッチョさんはすっかり簪製作OSに夢中だ。

 仕方なしと疾風はホロウィンドウを開いた。

 

「えー。このEOSレーデルハイト工業カスタム(仮名称)の魅力はなんと言っても新型バッテリーと電磁式人工筋肉フレームにあります。新型バッテリーにはイーグルやエンプレスにも使われるプラズマ技術が用いられており。従来のバッテリーと比べてフル出力の連続稼働時間は倍の30分に増加、性能も飛躍的に上昇しました」

「これで飛躍的なのか?」

「前は満足に戦闘できなかったからね」

「てかイーグルはわかるけどエンプレスってなに?」

「母さんのISの名前」

 

 またまたサラッと言ってのけたが。現在アリアのディバイン・エンプレスは表に大々的に公表されておらず。名前も特に言ってない。

 が、まあ秘匿情報でもなんでもないので問題なし。

 

「装甲にはドイツのシュヴァルツェアシリーズから提供された対ビームコーティングのルナーズメタルヘキサ合板装甲を採用し。最大稼働時には表面に薄いプラズマスキンを纏うことで防御力もアップしています。シュヴァルツェア・ハーゼの皆様ありがとうございます。だってさ」

「ラウラのとこの技術が?」

「見返りとして新型EOSを優先的に譲ってくれるという契約でな」

 

 ドイツにも進出予定、レーデルハイト工業を宜しく。

 

「電磁式人工筋肉により各部挙動もスムーズに。新型ランドローラー、超強化ガラスフロントアーマーによる視界の確保。緊急用背部炸裂装甲など。今までと比べてとてつもなく実戦型仕様のEOSとなっております。はい終わり」

「大分はしょっただろ疾風」

「重要な部分は話したから仕事はしたよ。それにここで長々と聞きたいかお前ら」

 

 疾風の言葉に各々は視線を反らした。

 

「それにしても疾風。このEOS、戦えはしますが、使い物になりますの?」

「ISがほんと数少ないからな、これでも注目株の筆頭なんだ。少なくとも災害救助には絶大な力を発揮することは間違いなし。エネルギーケーブルを接続して砲撃戦に徹しれば充分戦力にはなるさ」

「ISには勝てるか」

「無理だね。1機のISで蹂躙される可能性大。だけど、組織的な戦闘なら低確率だけどもしかしたら、というところまでこれた。やっとパワードスーツという名目までこぎ着けれたって訳だな。このレーデルハイトカスタムは」

 

 従来までは鉄の塊だったものが動く機械になった。

 これはISコアに頼らない点を含めればまさに革新的な技術進歩だ。

 

「とまあ、みな動かしてみてわかっただろう。ISという物がどれ程恐ろしい兵器であるからを」

「はい、ラウラの言っていたことがよくわかりました」

「アタシたち、ISがなかったら少し戦えるだけの子供だもんね」

「そんなガキでも多大な戦闘力を持つことが出来るのがインフィニット・ストラトスだ。それを持つことの責任、そしてその性能に過信せず。これからも精進するように」

「「「はい!」」」

 

 当初と比べて遥かに戦えるようになった疾風たち。

 だがもっと強くならなければ、ならなければならないから。

 

「お前ら。授業が終わったらこれ洗っておけよ。うちの備品になるからな」

「え、これIS学園に置くんですか?」

「ああ。政府から警備強化の為に何機か置いておけ。そして定期的に性能評価のレポートを提出せよとのことだ」

「警備強化、ですか」

「これでもISと戦闘機以外には役に立つからな。というのが政府と、学園長の言い分だ」

 

 建前上はそういうことである。

 だがIS学園に配備されるEOSは、これからも完成次第IS学園に送られるのだという。

 

(大量のISでは足りないとでも言うのだろうか。こんなものをIS学園に取り入れ、乗り込むのは更識の息がかかったもの。そしてレーデルハイト工業の退役軍人………あのタヌキ親父め、よくもまあ思いきったことをするものだ)

 

 タヌキ親父、このIS学園の本当の理事長に千冬は内心毒づいた。

 まるでこの前のゴーレムⅢを越えた厄災が来るとでも言うような学園上層部にも。

 そう、それこそ戦争のような。

 

(今は考えないでやろう。そう、今はな)

 

 来る時があるのか、それは千冬にもわからない。

 だが予感はある。

 アレ(・・)の封印を解かなければならない日が、必ず来ることも………

 

「ところで皆さん、ちゅーもーく」

「なんだよ疾風」

「いやさ、さっきまで散々EOSではISに太刀打ち出来ないって話したじゃん」

「ああ、瞬殺だとも言ってたな」

「それを踏まえて………あちらをご覧くださーい」

 

 何処かゲソっとした顔をしながら、半ばやけくそ気味の大袈裟な素振りで彼方を指差す疾風に全員が釣られるようにそっちを向いた。

 

 そこには………

 

「ヒィィィィ! なんでそんなヌルヌル動くんですかそれ!」

「刮目しろ! これがEOSだ!!」

「私の知ってるEOSと違う! うわー! くらった! 嘘でしょなんでぇぇぇ!?」

「ハッハッハッハ! ガーハッハッハッハ!!」

 

 先程とは違いギュイン! ギュオン! と1機のEOSがアリーナを縦横無尽に駆け巡りながら生徒の練習機を追い回していた。

 その手に握るプラズマショットガンから大量の白色光弾がばら蒔かれ、打鉄に乗った相川さんを狙い打ちしていた。

 

「「「………………………」」」

「「「なにあれ?」」」

「更に改良を加えたであろう、EOSです」

「いやいや待て疾風。私はあんなEOSを見たことないぞ? なんだあれは、動きが異次元過ぎる。飛ばないことを含めたらIS並みに動くのではないかあのEOSは!?」

 

 いつも冷静沈着なラウラもこれには狼狽えてしまった。

 

 それもそのはず。先程から相川さんが撃ったペイント弾をスルリスルリとランドローラー走法でよけ、時にはシールドで受け。更に迎撃しにかかるのだから。

 EOSと嘗めてかかった相川さんは絶賛涙目トラウマ警報を発令している。

 

「あの………疾風、アレに乗って豪快に笑ってる人ってまさか」

「うん、うちのファーザー」

「なんであんな重い機体で動けるのよ?」

「リミッター解除と筋肉だって」

「筋肉?」

「うん筋肉」

「お前の父ちゃん何者?」

「んーー、人間?」

 

 IS対EOS剣司・レーデルハイトスペシャルの戦いを遠巻きに眺める専用機持ちたち。

 織斑先生に至ってはあからさまに視線を反らしていた。

 

「いやー! これは素晴らしいわ! 更識さん、いや簪ちゃん! 是非うちの専属にならない!? 倉持技研には話を通すから! 卒業後は就職も視野にいれて!」

「あの、えっと」

「なんなら疾風もつけるから!」

「え、疾風を!?」

「オイコラ母さん! 勝手に俺を担保にするなぁ!! あと簪を困らせるなキーック!」

「華麗にヨケール!」

 

 聞き捨てならねえと飛び蹴りを噛ます疾風に紙一重でかわす母、アリア。

 そして依然としてEOSでISを追いかけ回す父、剣司。

 

 その日、専用機持ちと生徒たちは心に刻み込んだのだった。

 

『レーデルハイト家、やべえ』と。

 

 

 





 EOS。なんかボトムズみを感じますよね。サイズ感とか。
 まだあそこまで軽快には動けませんが

 え?剣司スペシャル?あれはもはやEOSではありません。
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