IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第112話【倉持技研の奇天烈さん】

 

 

「んあーーー………うえーふ」

「中年男性みたいですわよ、鈴さん」

 

 IS実習、ではなくEOS実習による疲れを洗い流そうと生徒がごった返し殺到するシャワー室に繋がる更衣室。

 専用機持ち面々は直前までEOSのペイント弾を洗い落としていたので最後となった。

 

「おっさんにもなるわよ。使わない筋肉使った感じしたし。シメに清掃よ。疲労とダルさが一気に来たわ」

「炎天下じゃなくてよかったですよね」

「まあ疾風の無様な姿が見れたから一応満足したわ。ハッハッハ」

「鈴だって変わらなかったと思うが………」

 

 普段ISバトルや日常で疾風に煮え湯を飲まされることが少なくない鈴はご満悦だった。

 

「ジーー」

「な、なんだ」

「箒また大きくなった? 胸」

「ぬっ。実は、またブラがキツくなってな」

「あら駄目ですわよ箒さん。ちゃんとサイズにあった下着をつけないと」

 

 ISスーツから解放された箒のバストは山田教諭に負けじと暴力的な「揺れ」を起こしていた。

 

「あまり言いたくないが、このサイズだと可愛い下着を探すのが大変でな」

「短期間でなんでそんなに成長してるのよ。まさか一夏に揉まれて大きくなってるのではないでしょうね」

「ああ、確か好いた異性に揉まれると胸が大きくなるとか。副官からそんなことを聞いた覚えがある」

「そ、そんなわけないだろう! そんな、破廉恥な……」

「そう………で、本音は?」

「………やぶさかではない」

「オラァっ!」

「にぎゃっ!?」

 

 乙女モードに入りかけた箒の巨乳。否、爆乳を渾身の力で揉み込む鈴。

 その手には小さくなーれ、小さくなーれ。という呪詛が込められていた。

 

 ひとしきり揉みし抱かれた箒と収まりがついた鈴は一足遅れてシャワールームに合流する。

 

「それにしてもさぁ。私たち、よくもまあ生きてたと思うわよ」

「この前の襲撃?」

「そっ。うちらのISも結構重傷だしさぁ。今回のEOSでISの存在が大きく見えちゃって余計にね」

「確かにそうだよね。僕たちは運が良かったよ」

 

 現在一年生専用機持ちのISは軒並みダメージレベルがCとなっていた。

 更に外部からのジャミングにより強制的にシールドの展開を阻害された為。しばらくISの使用を禁じられていた。

 

「イージスの2人は流石と言うか。そこまで損傷という損傷はなかったみたいだけど。ISのアップデートとかで本国に戻っているそうだ」

「ということは、いまのIS学園は攻められるとマズいということではないか?」

「訓練機はありますから。緊急時にはそれに乗って対応ということになりそうですね」

「EOSは?」

「まだ出せんだろう。戦闘訓練、戦術構築もままならぬ。出ても肉壁ぐらいにしかならんだろうな」

「AI操縦とか出来ればワンチャン」

「簪様!」

「無理。流石に無理」

 

 天才少女にも出来ることと出来ないことがある。

 

 磨りガラス越しの多種多様なシルエット。

 十人十色なスタイルを持つ美少女たちはそれだけで絵になっていた。

 

「そういえば簪様。楯無様、無事に退院出来て良かったですね」

「うん。もう元気過ぎるぐらいで」

「学園でも一緒にいる時間が増えたみたいですね。少々距離近いですけど」

「反動よねぇ。気持ちはわかるけど」

 

 そう。最近の楯無は妹LOVEを全く隠すことなく簪を見かける度に「簪ちゃーん!」と言って抱き付いてくるのだ。

 行く行くは生徒会入り、そしてあわよくば同居も狙ってるという。

 そんな寵愛の対象となった簪はというと。恥ずかしさ半分、嬉しさ半分で満更でもない状態だった。

 これには布仏姉妹、そして疾風もニッコリである。

 

「楯無さんのIS。私たちの中では一番ダメージがでかいように見えた。大丈夫なのだろうか」

「学園に置いてる予備パーツを組み上げて応急処置をするって言ってた。本国からも至急技術班をよこすみたい」

「楯無さんの機体ってロシアのだよね。技術提携で色んな国の技術を使ってるって聞いたことがあるけど」

「私が知るに。日本、アメリカ。イタリアの最新鋭技術も使われてるって」

「イタリア? もしかして、テンペスタⅡの?」

「ふむ、あのテンペスタの後継機か………」

 

 欧州イグニッション・プラン筆頭国のイギリスとドイツ所属のセシリアとラウラ。

 競争国の情報を前に瞬時に代表候補生モードに移行した。

 

 イタリアのテンペスタは世界でも有名な部類に入るISだ。

 イタリア国家代表、アリーシャ・ジョゼスターフの愛機で嵐のような近接戦闘を得意とするクロスファイター。

 数少ないワンオフ・アビリティー持ちとしても注目されている。事実上世界のナンバーワン。

 

 本来なら第二回モンド・グロッソにて千冬とアリーシャの雌雄を決する決勝戦が行われる予定だったが。千冬の棄権によりアリーシャの不戦勝となった。

 

 だが大会インタビューにてアリーシャはこう公言している。

 

『織斑千冬との決着がついていない。おこぼれの栄光に興味はない』と、自らブリュンヒルデの称号を辞退している。

 

 故にブリュンヒルデといえば織斑千冬を差す絶対名詞となっている。

 

「あと、イギリスの技術も使ってるとか」

「ああ。あのアクア・ナノマシンってやっぱりBT兵器の技術応用なのか。どうなんだセシリア?」

「わたくしも詳しくは知りませんが………恐らく完全なBT制御ではないと思います。脳波パターンを群体ナノマシンにエネルギーと共に伝播させ。気体から液体、液体から気体に変容させる。これを脳波だけで行うとするならば相当の適正が必要な筈です」

「つまり疾風のAIとセシリアのBT技術の良いとこ取り?」

「そうなるのでしょうね。ですがあの完成度の高さはわたくしから見ても目を見張る物がありますわ」

 

 ロシアのIS技術は日本やアメリカと比べて大規模な物ではないが。それを差し引く先鋭された技術力を持つことで有名だ。

 

 もともと極寒地域の有効利用として着眼されていたナノマシンをアクア・ナノマシンとしてISの技術に組み込むあたり、その片鱗が見えている。

 

「でもさ。あたしから見たらセシリアのブルー・ティアーズだって負けてないわよ。偏光制御射撃(フレキシブル)みたいに化け物レベルのこと、あのアクア・ナノマシンで出来るとは思えないしね」

「あっ。元コンビの贔屓?」

「当然! セシリアの地獄の特訓を生き延びたあたしが言うんだから間違いないわよ。実際あの水は光学兵器に弱いみたいだし。もしトーナメントで当たってたらあたし達が勝ってたわね!!」

 

 フフンと自分のことのように自慢する鈴にセシリアも笑みがこぼれた。

 

「勝ってたかどうかはともかく。ありがとうございます鈴さん」

「お礼はその高級シャンプーで良いわよ?」

「現金ですわねぇ」

 

 そう言いつつセシリアは隣の鈴に愛用のシャンプーを手渡すのだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ふぅ。IS関係の研究所って山奥に立てなきゃ行けないっていう決まりごとでもあんのかな」

 

 EOS模擬戦の翌日。

 IS学園から電車とバスを一時間ずつ乗り継ぎ。そして更に歩かされてやっとそれらしき場所についた一夏。

 

「倉持技研第二研究所。うん、合ってるよな」

 

 何故わざわざ一夏が遠路はるばる此処に訪れたか。

 それは一夏の腕にはまっている白式のオールメンテナンスの為である。

 

「しかし。ここってあの人がいる場所なんだよな」

 

 あの奇天烈な格好をした姉の同級生が。

 

 とりあえずこの場にいても始まらないので一夏は研究所に向かっていく。

 

「そういえば疾風が妙なことを行ってたな。『くれぐれも背後に気を付けろ。特に尻は』って」

 

 なんで尻なんだ? 

 

「ん?」

 

 ふと一夏は後ろを振り向いた。

 なにやら邪な気を感じたのだが。そこには誰もいなかった。

 なんというか、敵意ではなく邪気的な何かを感じたのだ。

 一夏は緊急時に対応できるように白式に意識を向けようとした。

 

「ヘイヘーイ美少年! 私の部屋で良いことしようぜい?」

「イヒィッ!?」

 

 陽気なパーリーピーポーな声と同時に尻に生暖かい感触。しかも尻の間に何かが這いずりまわった! 

 

「うわぁあぁっ!!? あっ?」

 

 そこにはこの前の強烈なインパクトを誇るスク水型に水中眼鏡。

 今回は白衣の変わりに麦わら帽子と銛が握られており。もう片方の手には取れたて新鮮な魚が三匹握られていた。

 先ほど潜ってきたのか。水がポタポタと滴り落ちている。

 

「か、篝火さん?」

「オウイエーイ織斑弟! 1ヶ月ぶりぐらいだねん」

「………何してるんですか?」

「見てわかるだろ?」

「朝の幻覚?」

「ちがーう! ちょっと川で魚取ってきたの。私こういうの大の得意でさ。うち実は海女さんの家系なんだ」

「はぁ………だからいつもそんな格好を?」

「んーん。これは私の趣味」

 

 現実離れした雰囲気とヒカルノの前より更に拍車をかけた奇天烈ぶりに一夏は完全に呑まれていた。

 

「ところで少年。さっきの返答聞いてないんだけど」

「さ、さっきの?」

「私の部屋でイイコトしようっては・な・し」

「なっ! あれ本気だったんですか?」

「おっ、一丁前に想像したなぁー? このスケベめ」

 

 タプンと二の腕でこれ見よがしに胸を揺らすヒカルノ。

 その胸は山田先生クラスの迫力を誇っており、一夏は思わず生唾を飲み込んだ。

 

「私、身体のほうは結構自信あるんだぜ。ほんの少し篠ノ之に負けるけど、充分満足できると思うなぁ。一夏くんタイプだし」

「え、ええ………ええ」

 

 後ずさろうとするが後ろはヒカルノのホームグラウンド。

 万事休す。このまま一夏の操は目の前の変人に食べられてしまうのか。

 

 一夏の貞操の行方はいかに! 

 

「ああ所長! また青少年にセクハラしてるんですか!?」

 

 突如混沌とした空気に割り込んできたのは見た目三十代の男の人だった。

 男性は一夏を見るなり「あっ!」と声を上げた。

 

「織斑一夏くんだね?」

「あ、はい」

「そうかそうか。いや、すまないね。篝火所長が迎えに行く約束してたんだけど。まあ見ての通り変態だからさ」

「なんだいなんだい! いま迎えに行ったんだから良いじゃないか! むしろ褒めたまえ! 称えてひれ伏し給え!」

「出会い頭にセクハラするなって言ってるんですよ! この歩く公然猥褻物!」

 

 うわーっ! ド直球で言った。

 そして良く言ってくれたと一夏は心のなかで男性に拍手をした。

 

「おっさんは黙ってろ!」

 

 そう言ってヒカルノは持っていた銛を男性目掛けて思いっきり投げつけた。

 

(うわっ、何してんだこの人! 危険人物過ぎる!)

 

 一夏はとっさに男性を守ろうと白式を部分展開しようとしたが。

 

「私はまだ!」

 

 男性は一歩踏みしめて、なんと投げつけられた銛を空中でキャッチ。

 

「二十代です!!」

「のほぉっ!?」

 

 そのまま捻りを加えてヒカルノに投げ返した! 

 不意を突かれたヒカルノはオーバー気味に回避運動を行った。

 

「あ、危ないな檀ノ浦くん! 当たったらどうするつもりだったんだい!?」

「最初に当てようとした人が何を言いますか!」

「だって君はいつも避けてくれるから。まさか投げ返して来るなんて。成長したね檀ノ浦くん………」

「お陰さまで!」

 

 いっつもこんなことしてるのか。

 レーデルハイト工業といい。IS関連会社は濃い人しかいないのだろうか(※そんなことありません)

 

「重ねてすまないね織斑くん。これから白式のメンテナンスするんだけど。もしこのアホが変なことしたら遠慮なく言ってくれ。直ぐにしょっぴくから」

「こらぁ! 仮にも上司に向かってアホとはなんだ!」

「篠ノ之博士の敗北者って呼んでも良いんですよ」

「取り消せよ、今の言葉!」

「さっ、中に入って。飲み物とお菓子出すからゆっくりしていてくれ」

「聞けよこらぁ!」

 

 大丈夫なのかな? と思いつつ檀ノ浦に促されて一夏は倉持技研の門をくぐった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「おっまたせー!」

「あ、はい」

「……」

「どうかしました?」

「君ね。女性が待った? って聞いたら今来たところだよって言うとこだろう!?」

「30分前からいたんですけど」

「冷静に返してきて、面白くないなぁ」

 

 実際待たされたのだからどうしようもないのだが。と一夏は思ったがそれは心にしまっておいた。

 

「美学のわからんやつはモテないぞぉ少年」

「いや別に俺は」

「まあそんときは私が美味しく頂くから安心したまえ」

「帰ります」

「ちょちょちょーい! ここ以外に何処行くって言うのさ!」

「レーデルハイト工業に」

「現実的なのキタァァ! 冗談、冗談だってば。万一そんなことしたら君の姉に殺されるから私!!」

 

 ブルルっとガチで震えるヒカルノ。過去に何かがあったのだろう。一夏でも容易に想像が出来た。

 篝火ヒカルノ対策マニュアルを疾風に教えて貰って良かった、と一夏は学園にいる親友に感謝の念を送るのだった。

 

「あっ、そういえば」

「ん? どうしたん」

「疾風と簪から預かった物があったんだった。最初のドタバタで忘れてたけど。これです」

「んー、どれどれ………ヴァっ」

 

 渡されたのは封筒に入った手紙。

 内容を読んだヒカルノは喉を詰まらせるような呻きを上げた。

 それもそのはず。文章には打鉄弐式の開発停滞と今後のことについての内容が書かれていたからだ。

 つまり抗議文である。

 

「やっぱり白式と打鉄弐式のことですか?」

「うん、まあね。あとは打鉄弐式の装備を引き続き支援お願いしますとか。こっちの事情も理解してるっぽいから比較的マイルドで過激なことを書かれてないのが救いかなぁ。でもやっぱ応えるなぁ」

「すいません、ご迷惑をかけてしまって」

「いやいやいや! 織斑くんは100%悪くないから! 悪いのは利益と自分の欲にしか興味のない無能な政治家ババアどものせいだから! あとうちもね! だから自分が悪いなんて思っちゃ駄目だかんね」

「わかりました」

「よしよし。しかしレーデルハイトくんも抜け目ないというかちゃっかりしてるというか」

「というと?」

「ほれ、最後の方にレーデルハイト工業との契約交渉とそのメリットが書いてある」

「うわー」

 

 時々出てくる疾風の企業戦士モード。

 この時のアグレッシブさを知ってる一夏も思わず苦笑い。

 

「あれ、倉持技研ってレーデルハイト工業と繋がりないんですね。親元の徳川ISグループとは繋がりあるのに」

「あー、第一技研は繋がりあるけど。うちはほとんど他社との繋がりないんだよね」

「第一はあるのに、ですか?」

「そうそう。まあそんなことはどうでもいいさ。サッ、白式を展開しておくれ! ダメージチェックとシステムの最適化。あとデータ採取始めるからね」

「わかりました。こい、白式!」

 

 意識をISに込め、白式・雪羅を呼び出す。

 そのまま計測装置の中の固定パーツとドッキングした。

 

「ふーむふむふむ。ほーうほうほう」

「どうですか?」

「ダメージの蓄積が大きいね、自動修復が完全に追い付いてない。大分無理したとみたよ?」

「ええ。本当に大変でした」

「じゃあ白式から降りておくれ。あとはこっちのメンバーでオーバーホールするから」

「どれぐらいかかりそうです?」

「んー。まあ完徹すれば明日までにはなんとかなるかな? 出来れば泊まってくれるとこっちも助かるんだけど」

「わかりました、学園に連絡しておきます」

「サンキュ。あ、そうだ。待ち時間暇だろうから、君は釣りでもしなさい」

 

 そう言って渡されたのは古き良き竹竿だった。

 リールなどついていない。竹と糸と針だけで出来た代物だ。

 

「近くの川で良いのが釣れるんだ。餌は現地調達で宜しく! 釣ったら食べようぜ」

「はぁ、じゃあお借りします」

「はいはい、いってら~」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「釣り、かぁ………しばらくぶりだな」

 

 根っからのアウトドアボーイだった一夏はよく釣りに行っていたことがあったのだ。

 最初は姉と、そのあとは箒から鈴に。

 中学でバイト生活をしてからすっかりやらなくなっていた。

 

「おー………」

 

 日光でキラキラと反射する。透明感のある澄み渡った綺麗な清流が目の前に現れた。

 久しぶりだから苦戦するかと思ったが、身体が覚えてるのか直ぐに餌は見つけれた。

 

「そういえば鈴って虫探し大っ嫌いだったなぁ。そのくせ釣りにはよく来てて。その度にグーで殴られて………なんで来たんだろうなアイツ」

 

 乙女には障害があっても引いてはならぬイベントがあるのだ。

 

 昔の思い出を振り返りながら探してると、結構な餌を確保することが出来た。

 苦手な人がいたら発狂ものの光景である。

 

「場所は、あの岩がいいな」

 

 川の真ん中にドーンと置いてある巨岩によじ登り、そこに座り込む。

 

「よし行くか。そーいやっ」

 

 釣り針に虫を通してヒョイっと投げ込んだ。チャプンというこ気味のいい音が心地いい。

 そのあとはボーっと静かに待った。

 

 煌めく川、流れる川のせせらぎ。

 そびえ立つ山と森からくる心地いい風に身を晒し。自然と一体になるのを感じた。

 

「あー………落ち着く」

 

 ティーンエイジャーとは思えない釣りの心を持つ一夏はしばし心の空白を楽しんだ。

 都会の喧騒を離れて田舎に移住する人たちの気持ちが分かる気がした。

 自然の中に身を晒すことがこんなにも癒されるとは。

 

「言っちゃなんだけど………IS学園、五月蝿いからなぁ………」

 

 何処に行っても超アグレッシブな女子と遭遇し。

 箒たちいつものメンバーとは毎日騒がしくも楽しい毎日を過ごす。

 そして何より楯無からのセクハラやらいたずらに心身ともにダメージを負い。

 

 はっきり言って、IS学園では心休まる時間というものは確保できないのだ。

 といっとも、それをなんだかんだ楽しんでるのも事実ではあるのだが。

 

「もう少し静かな時間を過ごしたいって思うなぁ」

「おやおや、中々爺臭いことを言うじゃないか少年」

「うおっ、篝火さん?」

「ヒカルノでいいよぉ。隣失礼するね。あっ、餌頂戴」

 

 ひょいっと餌ケースから虫を取り出し、手慣れた動作で釣り針に刺して投擲した。

 

「十代女子の姦しさには、ついていけない感じかな?」

「まあ、なんというか距離感というか」

「今時の女子は強いからねぇ」

「ところで此処にいていいんですか?」

「別にサボりじゃないよ。私の専攻はISソフトウェアだからね。それにうちのスタッフは優秀だし」

「追い出されたとかではないですよね?」

「君のような勘の良いガキは嫌いじゃないよ」

 

 追い出されたらしい。

 

「因みに、織斑くんはISソフトウェアについて何処まで知ってる?」

「えーっと。確かコアごとに設定されてる非限定情報集積(アンリミテッド・サーキット)によるISの自己成長による進化。あとは先天的な外付け武装の好みだとか。ワンオフ・アビリティーもこの機能があるからこそ生まれるもの。だということぐらいですかね」

「おー、中々優秀な回答じゃないか。その非情報集積というのは、ISのコア・ネットワークにアクセスする為に必要な特殊権限でもある。もしこれがなかったら通常媒体でも接続し放題のハッキングし放題なってしまうからねぇ」

 

 ISのハッキングは正に由々しき問題となる。

 銀の福音の暴走を目の当たりにしてる一夏にとってそれは骨身に染みることだった。

 

「では問題。コア・ネットワークとはなんでしょうか」

「IS同士が通信するために必要なネットワーク環境で、元々は宇宙活動を目的としたISの生還通信プロトコル。全てのISが繋がれる電脳空間ですよね?」

「良くできました。優秀な教師がいるみたいだね」

「ええ。疾風は本当に色んなことを教えてくれて。凄くわかりやすいんですよ」

「ありゃ、織斑の方じゃなくてそっちか。姉の方は教え方悪いのかい?」

「いえそんなことは。ただ疾風の教え方が上手いだけで」

「つまり姉は下手だと」

「そうじゃないです! もう勘弁してくださいヒカルノさん!」

「ニャハハ、ゴメンゴメン。おっキタァァ!」

「俺も来た!」

 

 リールがない以上竹竿には瞬発力が求められる。

 一夏は慌てて竹竿グイッと引っ張りあげた。

 水面から現れたのは丸々とした、所謂当たりクラスの魚だった。

 釣りに求められるのは静の心だが、ここぞという時の躍動感。そして釣り上げたときの達成感は何者にも変えがたい快感なのだ。

 

「よっし!」

「お見事! 私は逃げられちゃったなぁ」

「大物ですか?」

「いんや、ちっちゃかったわ。餌貰うよ」

 

 ヒカルノはもう一度釣糸を垂らした。

 一夏も釣り上げた魚を魚籠にいれて再度投げ込んだ。

 

「さっきの続きだけど。これは知ってるかな? コア・ネットワークにおける情報交換による、データバックアップなんてものが存在してることについて」

「え?」

「おっ、これは知らないとみたぞ。やったぜ! って言っても、半分は私の独説みたいなもんだから知らなくても無理はないけどね」

「どういうことですか?」

「例えば君の白式だ。君のISには二つのISの機能がそっくりそのまま継承されている。一つはわかるよね?」

「千冬姉の零落白夜、ですね?」

 

 零落白夜。

 対IS戦闘における一撃必殺の絶技。エネルギー兵器を悉く霧散する破魔の刃。

 シールドエネルギーを攻撃に転化して放つ文字通りの諸刃の剣。

 織斑千冬を織斑千冬足らしめた。世界で一番有名なワンオフ・アビリティーだ。

 

「君のISはファースト・シフトした段階でワンオフ・アビリティーを手に入れた。ワンオフ・アビリティーはセカンド・シフトでなければ発現しないにも関わらず。しかも君は姉と同じ零落白夜を持つことになった」

「さっき継承って言ってましたが」

「そっ、私は白式の零落白夜は暮桜とのコンタクトを持って受け継がれたと考えている。そしてファースト・インフィニット・ストラトス、白騎士の特殊機能もね」

「白騎士………白騎士? なんでここで白騎士が出てくるんです?」

「なんでってそりゃあ。君には覚えがあるんじゃないかい? 普通のISにはない能力。君の命を救い、仲間の元へ馳せ参じることが出来た、君のISにしかない機能が」

「………………………あっ」

 

 一夏は臨海学校で箒と話したことを思い出した。

 

 ISには操縦者の命を保護する機能はあるが。傷を完治させる能力はない。

 

 だが白式には備わっている。パイロットの身体を短時間で完全に再生させる、機能を越えた権能が。

 

「俺の身体を直した力が、元々は白騎士の力だと? でもそんなの聞いたことありませんよ。白騎士にそんな力があることは」

「あーそれはね。あいつが白式を作り上げるときに口を滑らせたのさ。『うちの白騎士ちゃんには搭乗者の再生治療能力っていう他とは違うスペシャリティな能力があるのさ』ってね」

「成る程。でもなんで俺の白式にそんな機能が付与されたのでしょう。暮桜は千冬姉のISだから分かりますけど。白騎士と俺に関連性なんて」

「白騎士のパイロットが織斑千冬とは考えないのかい?」

「それは………確証なんかないですし」

 

 と言っても一夏には大体察しはついていた。

 あの時束にもっとも近くにいたのは自分の姉だ。千冬を溺愛してる束が記念すべきIS第1号に千冬を乗せないとは考えにくい。

 

 それに、臨海学校の時。白騎士のパイロットの正体を言おうとしたときの束の意味ありげな視線が姉に向いていたことを一夏は気付いていたのだ。

 

「仮に、白騎士のパイロットが千冬姉だとして。兄妹だからという理由で白式に暮桜と白騎士の能力が付与される説明にはならないと思うんですけど」

「確かに、世界には親族繋がりで専用機乗りになる人もいる。だけど君の白式のような特異ケースになった事例は、一つ足りとも存在しない」

「じゃあなんでそんなことが」

「仮説はある。だが立証できる物が何もない。だからこそ、オーバーホールとかこつけて君をこんな山奥に呼んだのさ」

「え?」

 

 白式のオーバーホール。それが今回一夏が倉持技研に来た目的のはず。

 だがヒカルノにはまったく別の目的があるのだという。

 そんなヒカルノの目に宿る鋭い光に、一夏は身に覚えがあった。

 

 貪欲に知識と技術を飲み干し、自身の力とする。

 そんな親友の野心的な、猛禽類とも例えられるような鋭い光を。

 

「私の仕事はね。情報交換によってアップデートされた君の白式。そして国際IS研究機関本部で入手した紅椿のデータを元に。ISのブラックボックスを紐解いていくことさ。まだ誰にも見たことがない。篠ノ之束を足を掴むほどの秘密を、ね」

 

 精悍な笑みを浮かべるヒカルノ。

 常に打倒篠ノ之束を胸に下剋上を狙う彼女に一夏は思わず生唾を飲んだ。

 

「あ、勿論最優先は君の白式を完璧な状態に直すことだ。そこは心配いらないからね」

「あ、はい」

「あとはまあ。あわよくば君と良い関係を気付いてみたいかな、なーんて♪」

 

 またもこれ見よがしにヒカルノはタプンと自身の巨乳を持ち上げる。

 まじまじと釘付けになってしまった一夏は彼女のニンマリとした笑顔に気付いて急いで目線を反らした。

 

「フフン。やっぱり男の子は大きい胸が好きなんだねぇ。どれ、触ってみる? 張りもあって柔らかくて、病み付きになるかもよ?」

「か、からかわないで下さいよ!」

「あっ、引いてるよ織斑くん」

「え、わっ、わぁぁっ!?」

 

 急いで引っ張ろうとした一夏だが、思いの外引きが強く、動揺したのもあいまってそのまま川にダイブしてしまった。

 

「アッハッハッハ! まだまだお姉さんを手玉に取るには経験不足だな、少年!」

 

 ニッシッシとご満悦に笑うヒカルノ。

 

 疾風のように他人をあしらうことは、まだまだ自分には無理なんだな。

 

 再認識した一夏は、思わず天を仰ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

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