IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第115話【ブリュンヒルデ式ストレス発散術】

 

 

 上階の喧騒を拡張された聴覚で知覚しながら、1機のISがIS学園特別区格の通路を疾走する。

 

 その先にある筈の最重要目標を求めコールサイン『ネームレス1』、名も無き兵たち(アンネイムド)の総隊長は進み続ける。

 

 米軍特殊機密部隊、名も無き兵たち(アンネイムド)

 

 その名の通り。いやその名の無い通り痕跡、経歴、人生が全てまっさらとなった彼女たちは人知れず祖国アメリカの密命を受けてIS学園を監視していたのだ。

 

 IS学園に潜入している学生スパイの証言。そして本国に帰還した代表候補生であるダリル・ケイシーのヘル・ハウンドのログを確認して米国はIS学園に未登録のコア、そして無人ISの残骸が存在していることを察知していた。

 

 常日頃からIS学園の動向を監視し続けていたアンネイムドは、なんとかそれを手に入れる為の算段を考えていた時。

 

 IS学園のシステムが全てダウンしたのだ。

 緊急用も含めて全てダウン。これはただごとではない。だが現にIS学園の警備システムが機能していないことは明白だった。

 

 彼らは天命が降りたと確信した。

 直ぐに潜水艦から突入部隊を編成。所有しているIS3機全てを投入し、作戦に望んだのだった。

 

 完全なる自律無人機。女性を介すことなくISを動かす。それは文字通り世界のバランスを壊すものだろう。

 

 米国はそれを欲した。

 キャノンボール・ファストで出現した人型BT兵器、ワルキューレ。

 会場で猛威を振るったあの力があれば、手持ちのISと共に運用することで世界的なイニシアチブを取れる。

 

 かねてより計画していた、とある作戦。

 その成就に必要なピースが無人ISのメカニズムなのだ。

 それが実現すれば世界地図を塗り替えることすら可能だと。

 アメリカの未来のためにそれが必要なのだと。

 

 ネームレス1にとってそんな話はにわかに信じられなかった。

 その計画がどのようなものかも知らず、それによって何がもたらされるのかも。

 

 だがそんなことは関係ない。白紙である自分たちは祖国に魂を捧げている。

 ただひたすらに任務に準ずる。全てはアメリカ合衆国の為に。

 

 ネームレス1──便宜上、隊長と呼ばれる彼女は先の夏に発生した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走事件の際、遠方で監視、記録の任についていた。

 

 銀の福音の強制形態移行によるオーバーパワー。

 ファーストの白式の第二次形態移行(セカンド・シフト)

 篠ノ之箒と紅椿に発現した無限のエネルギー増幅能力。絢爛舞踏。

 そして各代表候補生のデータ。

 

 実に有益な情報だった。

 あとはそれを持ち帰れば任務完了。

 その筈だったのに。突如現れた日本代表に全てを崩された。

 

 今回の任務で、新たなISであるステルス仕様のファング・クエイクも与えられた

 国の最新鋭機を与えられた以上。もう二度と失態を犯す訳にはいかない。

 

「ん?」

 

 前方に向けて、熱センサーに反応あり。

 隊長は滑走を中止して地面に降り立つ。非常灯しかついていない暗がりの中にぼんやりと何かがいた。

 ISや最近配備されたEOSと比べると遥かに小さい。

 いやむしろこれは。

 

「参るっ!!」

 

 瞬間、刹那、あっという間に。

 目の前の人影が空気を置き去りに隊長が駆るファング・クエイクの喉元に食らいついた。

 

 ガキン! という鉄とシールドエネルギーがぶつかる音と、舞い散る火花が無音無光の廊下を彩った。

 充分な距離を保っていた筈なのに、何をされたのか。かろうじて何かに斬られたという認識がISのハイパーセンサーを使ってようやく認知することが出来た。

 

 振り向いた先。

 暗がりの中、暗視モードに切り替えて先程自分を斬りつけた対象を見た。

 漆黒のバトルスーツ。腰には6本の抜き身の刀。

 両の手には先程こちらに斬撃をぶつけたであろう刀が二振り。

 

 その担い手。同じくこちらを振り向いたその顔は。隊長でなくても知っている。世界トップクラスの知名度を誇る女。

 

世界最強(ブリュンヒルデ)!」

 

 隊長は思わず舌を打ちそうになった。

 

 なんの因果でまた(元)日本代表が自分の前に立ち塞がるのか。

 一瞬勝てるのか? と己に疑いをかけようとしたが。隊長はあることに気付く。

 

(IS反応、なし?)

 

 ISのパワーアシストを発動した兆候はない。

 隊長は何度も確認したが。目の前の織斑千冬は、身一つでここに立っている。

 

(こいつ、正気か?)

 

 世界最強と言えど。それはISによってもたらされたもの。

 ISスーツ以上の防御性能を持つバトルスーツと言えど。ISの前には紙切れも同然だ。

 文字通り狂気の沙汰。それでこのファング・クエイク・ステルスに挑むつもりなのか? 

 

「どうした? かかってこないのか」

「………」

「それともISが相手でなければ不足か? 安心しろ。これでも世界で初めて最強の名を手に入れた女だ。今までにないくらい感じさせてやるぞ、兵士(lady)

 

 猟奇的に笑うブリュンヒルデ。

 そこには気高き獣のごとき荒々しさと、絶対的な強者の迫力があった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「んん………」

 

 小鳥のさえずり、カーテンの隙間から差し込む日の光に菖蒲は布団の中でゆっくりと目を開けた。

 

「………………ゑ?」

 

 ガバッと布団を跳ね上げる。

 目覚めたら布団の上にいる。

 一瞬パニックになりつつも、胸に手を当てて大きく深呼吸した。

 

「スーフー。落ち着きましょう、先ずは情報を整理」

 

 自分たちはそれぞれあの白い扉を通った。背後で扉がしまった瞬間身体が引っ張られ、視界が真っ白に染まった。

 そして次の瞬間自分は布団の中にいたのだ。

 

 周囲を確認すると、そこは和室だった。

 身に待とうのはいつもの寝巻き。ここは寝室なのだろう。

 

「私の寝室? いえ、どことなく違う。あっ、櫛名田は!?」

 

 ISの機能を呼び出そうとしたが反応はなし。

 櫛名田の待機形態である髪止めはどこにもない。

 

「夢? いやでもここは」

 

 現実味がありすぎる。

 先程の電子空間もリアリティーがあったが。ここは別格。

 

 気温湿度、感触、畳の匂いまで。

 とても再現された電子空間とは思えないと感じるほど本物の空気。

 今までIS学園で疾風たちと過ごした日々が夢だと思えるほど、ここが現実世界だと錯覚している。

 

 コンコン。

 

「はいっ!?」

 

 誰か来た、襖の向こうに誰かがいる。

 

(ここにいるのは自分1人だけのはず。もしかして敵?)

 

 身を守る為のISがない、周囲に武器になるものもなし。

 身一つ、代表候補生になるために覚えた護身術しかない。それでもやらなければならない。

 IS学園を守る為にも。

 

 襖が開いた。外から現れたのは。

 

「………へ?」

 

 その姿を見たとき、菖蒲の警戒が霧散した。

 だって、そこに居たのは。

 

「なんだ起きてたのか。返事ないから寝てるかと」

「………」

「てかどうしたそれ。何と戦ってた? Gでも出た?」

「………疾風様?」

 

 そう、彼女が愛してやまない疾風・レーデルハイトの姿だった。

 藤色の薄い着物を纏う彼はなかなか様になっていて、思わず見惚れてしまった。

 

「な、何故」

「んん?」

「何故疾風様がここに?」

「いや何でって………俺たち結婚してるだろ?」

「………………………………ほえ?」

 

 いまなんと言ったこの男。

 

「もしかして寝惚けてる? まったくお寝坊さんだな、うちの奥様は」

「………………オクサマァっ!?!?!?」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「よいしょよいしょよいしょー。はい終わりぃっ! 疲れたぁ………」

 

 せっせと1部隊まるごと縛り終えた俺は思わずぐでーっと脱力した。

 縛るときに少し電流流したけど狸寝入りしてる奴はなし。とりあえず等間隔に離しておこう。

 

「こちら疾風、敵勢力無力化完了。回収を」

『ザーーー』

「あれ、ジャミってる? ハイパーセンサーもやられてるわ」

 

 ハッカーか? それなら掌握と同時にくるよな、織斑先生から通信来てたし

 ということは、どっかでジャミングかけてる奴がいる? 

 

「母さんは取り込み中だし、俺がやるしかないか」

 

 先ずは外に出よう。ここじゃ探知難しいし。

 ドアは全部ロックかかってるから、ここはこじ開けるしかないか。可能なら破壊して構わん言われてるから大丈夫だろうし。

 

 ドアノブを物理で打ち抜いて外に出た。

 数時間ぶりの光に目を眩ませながらIS学園上空を飛翔した。

 

「イーグル、ビーク展開。ジャミング強度が高い電波発信源の特定を」

 

 ビークを四方八方に飛ばし、イーグルアイのハイパーセンサーを最大にし、一定間隔でビークから信号を送るよう命令する。

 

 信号に乱れが生じれば、そこに妨害電波を出している奴がいる筈。

 

「………」

『No.3、ノイズ発生』

「あっちは………第6アリーナ。成る程、単純明快だ」

 

 あそこにはIS学園のシンボルでもあるタワーがある。そこは、巨大な電波島としての機能を持つ。

 そこに妨害電波を乗せれば、中央に位置しているのも合わせて。広範囲に妨害電波を発生させることも可能だ。

 

「………到着したが、周囲に不審な人物はなしか」

 

 ブライトネスを展開してウロウロとタワー周辺を飛び回る。

 細かくチェックし、不審者、または不審ISがいないかチェックする。

 

「考えすぎかな。他のとこ行くか」

 

 ひとしきり確認したあと俺はタワーを背に飛行体勢に入った。

 

 ──何処かホッとした熱が何処かから漏れて。

 

「と思ったが馬鹿めぇっ!!」

「うぎゃぁぁ!!?」

 

 振り向き様に瞬時加速(イグニッション・ブースト)。ブライトネスのバーストモードを発動し、そこにいる『何か』に全力でぶち当てた。

 

 そのまま『何か』は第6アリーナ中央に落着し小さなクレーターを作った。

 衝撃で頭がクラッとするのを頭を振るって何とかしようとする『何か』の前に俺は降り立った。

 

「な、なんで。最新の光学ステルスに最新ジャミングの二重迷彩を………」

「あんなド至近距離で気付かない訳ねえだろ。イーグル嘗めんな! てかあんた普通に喋るんだなオイ」

 

 さっきの奴らが揃って硬派だから少し意外だ。

 

 ブライトネスの打ち所が悪かったのか、光学ステルスにノイズが走ってネイビーカラーが見え隠れしている。

 

「ステルスに異常発生。どのみち光学ステルスのままじゃ戦闘出来ないし。うりゃ!」

 

 パシュン! と何かが弾け、そこからISの姿が見えた。

 そこから現れたのはネイビーカラーのストライカー………ではなく。

 

「ジャーン! どうだ、恐れおののけ!」

「………」

「な、なんですか。そんなジーッと見てもおはだけなんかありませ………」

「おいてめぇ! やっぱりアメリカじゃねえかこのやろう! ガッツリとファング・クエイクじゃねえか!!」

 

 そう、目の前に現れたのはアメリカの第三世代IS、現アメリカ国家代表、イーリス・コーリングの専用機であるファング・クエイクと同型の物だった。

 

「な、なな何を言ってるんですか! これはファング・クエイクではありませんよ。見てくれが全然違うでしょう! まったくの別物&別系統です。だ、だからアメリカなにがしとは無関係です!」

「確かにクエイクの特徴的な個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)専用のカートリッジスラスターはないし、外見も装甲を総取っ替えしてるから素人から見たらまったくの別物に見えるだろうが───この自他共に認めるIS学園一のISオタクを嘗めるなよ! 関節部の形状、機体骨格、肩部ウェポンラックの角度。膝部分の脚部構造はファング・クエイクそのものだ! その程度の偽装で俺の目を誤魔化せると思うなぁ!!」

「な、なんだそれーー!!」

 

 ズビシッと指を指されたファング・クエイクのパイロット。

 まさかそんな超細かくてディープ過ぎるところから機体の出所を暴かれてしまうとは夢にも思わなかったアンネイムドのNo.2、通称『副隊長』はあからさまにドン引きした。

 

「というか恩を仇で返されるとはこの事だな。夏の銀の福音の一件で事態を収拾したのは俺たちなのに襲撃されるとは。これだからアメリカはダメなんだよ」

「お、お前! アメリカの悪口は許さないぞ! 鋼鉄の狼の二つ名を持つ大統領が黙ってないぞ!」

「いやそれ架空の大統領じゃん。てかやっぱアメリカじゃねえかお前。ここぞとばかりにお国自慢して」

 

 仮にその大統領いたら亡国機業(ファントム・タスク)や篠ノ之束関連なんかあっという間に解決するだろうな。

 魂と命燃やして。

 

「ちち違いますしぃ! 私たちはアンネイムド! 名もなき兵士にして何処の国家にも属してないというキャッチコピーの特殊部隊ですから! 因みに私は副隊長だ!」

「キャッチコピーって時点でお察しじゃないか………しかしアンネイムドって言うのか、なかなか渋い名前してんね。やっぱアメリカはネーミングセンス良いな、流石アメリカ合衆国」

「そ、そう? 余り褒められたことないから照れるなぁ。やっぱりアメリカ最高だよね。祖国万歳!!」

「あ、やっぱアメリカ所属なんだ」

「し、しまったぁぁぁ! つい祖国発言してしまったぁ!!」

 

 うん、この数分でわかったが。こいつ馬鹿だ! 天井知らずの馬鹿だ! 

 ちょっと手のひら返しして褒めたら情報をポロッと吐き出しやがった。特殊部隊を名乗って恥ずかしくないんですか? 

 

「うぅ………隊長からはお前の取り柄はISの実力しかないんだから終始口を閉じろと言われてるのに。また怒られる」

「でしょうね、俺もびっくりだよ。てかまたって」

「こうなったら任務だけでも果たさねば。疾風・レーデルハイト、及び織斑一夏をISごと捕獲する任務を!」

「えっ! 狙い俺らかよ!」

「主目的は秘密裏に回収された無人機のISコアの回収だ。ほら居場所言えよ!」

「いや俺も知らねえよ。てかそれも喋って良かったのか?」

 

 俺に指摘されて自称副隊長は脂汗をダラダラと流した。

 やっぱ馬鹿、いやアホだなコイツ。隊長さん即刻解雇したほうが良いのでは。

 

「ももも、問題はない、ノープロブレム、オールクリア。ジャミングは発動してるからお前が外に情報を流すことは出来ないし、お前を捕らえれば秘密は守られる。隊長にドやされなくても済む。二兎追う者は一兎も得ずって奴だ!」

「いや、それを言うなら一石二鳥じゃないか。それって失敗することわざよ」

「………う、うるさいなぁ」

 

 あ、照れた。

 

 なんだろな、このドS心をくすぐられるような感覚は。

 う、うずってしまう。

 

 とりあえずこいつを倒せばジャミングが消えるってことだな。

 

 そしてそのあと、じっくりガッツリと機体を解析するとしよう。

 無所属なら国際問題の心配はないから安心だな。

 ん? こいつアメリカ所属ってゲロっただろって? 

 

 やだなぁ、本人が無所属って言ってるなら無所属でしょうよ。

 アメリカ様もIS学園襲撃を認めるなんてあるわけないし? そして相手はファング・クエイクと同型だ。

 アメリカの最新技術を生で解析できる………

 

「ジュルリ。あ、やべ、よだれが」

「ヒィっ! なんでよだれ!? はっ。まさか私を負かせて身ぐるみ剥ぐつもりか? わ、私はまだ処女だぞ!?」

「安心しろ。お前には毛ほども興味ねえよ」

「それはそれで酷い! これでも胸と尻は隊長より大きいんだぞ!」

「どんなカミングアウトだよ、いらんはそんなもん。身ぐるみは剥ぐけど」

「うおおーやはり貞操のピンチ!? くそー、こんなところで負けてたまるか!」

 

 ぬー、なんだか気力が削がれるなぁ。

 と、相手が戦闘出力。副隊長かどうかは怪しいもんだが。油断せずにぶっつぶす……… 

 

「こっちは第三世代なんだ! 頼れる仲間もいる。もう何も怖くない!」

 

 ………フラグだぞそれ。

 

「これが終わったら、気になるあいつに告白するんだ!」

 

 アンネイムドって恋愛オッケーなんだ。

 てかまた建てたぞこいつ。

 

「私は安全に出世したいんだ、もう副隊長だけど。お前を捕まえればボーナスが貰える!! うおぉぉぉ! 世に平穏のあらんことをっ!!」

 

 なんだろ。もう勝てる気しかしない。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 上で部隊のNo.2とセカンドマンがヤイヤイしてる最中。

 隊長は隊長で得たいの知れぬ恐怖と戦っていた。

 

「どうした、動きが鈍ってるぞ」

「っ!」

「残念こっちだ!」

「ぬあっ!」

 

 側面から鋭い斬り上げ。のけぞる身体を建て直す隊長の真下から顎に一閃、腹に二閃。

 いづれもシールドバリアに阻まれ、人体や装甲には傷一つついていない。

 

 ISと人のタイマンなど、火を見るより明らか。確認するまでもなく勝敗など直ぐにつく。

 たとえ相手がブリュンヒルデであっても。

 

(だというのに!)

 

 隊長は両手にアサルトライフルをコールして周辺に乱射する。

 数発当たればたちまち人体など粉微塵にする巨大な火器から放たれる弾丸が暗がりの廊下を跳ね回り、硝煙の臭いが鼻をさす。

 

(何故当たらない!)

 

 千冬は弾丸の全てを身体能力だけで躱しきってみせ、またも斬撃を見舞った。

 

 ISの戦闘ならシールドエンプティが起きてもおかしくないぐらい何度も切られたファング・クエイクだが。シールドエネルギーの消費は軽微だった。

 

 そして千冬自身は無事でもその武器は負荷に耐えられなかった。

 刃こぼれし、いつ折れてもおかしくない刀を地面に突き刺した。これで6本目だった。

 

「………いい加減にしてもらおうか」

「なんだ、お前喋れたのか。見るからに寡黙そうに見えたが。その認識は間違っていたようだな」

「減らず口を」

「喋ったついでだ、答えてもらおう。わざわざこんな極東の島国にアメリカの超極秘特殊部隊が来るとは。どういう風の吹きまわしだ?」

「………………」

 

 ポーカーフェイスを貫く隊長だが。頭の中では絶えず思考が脳のシナプス細胞を行き来している。

 何故バレているのか。こちらの情報が漏れたのか。

 あるいは………

 

「何故そんなことがわかるのか、という顔だな。生憎、こちらを狙いそうな勢力はあらかたリストアップされている」

「………」

「目的は無人機の残骸と残ったコア、そして男性IS操縦者の拉致と専用機の強奪、といったところか? ワンパターンだな」

「………」

「だが残念だったな。白式と織斑は別の場所だ。レーデルハイトは………まあ、あいつがそう簡単にヘマをするとは思えんな。それどころか、そちらのIS乗りとやりあってるのではないか?」

 

 事実やりあっていることは知りようがない。が、容易に想像がつくところを見ると千冬は疾風の人となりをよく理解している。

 

「そして無人機の残骸はこの先だ。出口はお前の後ろにしかない。どちらにせよ私を倒さねば任務は達成出来んぞ」

「そこまで知っていながら。何故だ」

「何故というのはこのナリか? 生身ではISには勝てないと言いたげだな」

「事実だ、現に貴様は私に傷という傷をつけていない」

「そうだな。このままでは貴様には勝てぬかもしれない、だが───負けもしない」

 

 またも千冬の姿が視界から消える。

 センサーに頼らず影が移った方向とは逆にスライド。IS用コンバットナイフを取り出して斬撃を受け止め、そのまま力押しで刃を滑らせる。

 千冬は力に対し抵抗せずに流し、ナイフと隊長の間に入り、彼女の顎に真下から突きを入れる。

 

 衝撃で上を向いた隊長は首を戻さずにその手で拘束を試みたがスルリと抜けられまた斬られた。

 

「確か、名も無き兵たち(アンネイムド)と言ったか? 親から与えられた名を祖国の為に捨てるとは。随分と贅沢だな」

「贅沢だと?」

「そうだろう。世の中には親から名を貰えない子供たちがごまんと居る。大人の欲のために勝手に作られ、勝手に番号で割り振られるような実験体も世の中に大勢存在するというのに、お前たちは親から与えられた名を祖国のために喜んで捨てるという選択肢を選んだ。これを贅沢と言わずになんという?」

「道徳の授業でもする気か、教育者(ティーチャー)?」

「そのつもりはないさ米国人(ヤンキー)。ただそう感じたから言っただけさ」

「まるで自分のことのように言う」

「そう聞こえたか? 生憎私はそこまでセンシティブではないのでなっ!」

 

 刃こぼれした最後の7、8本目を投擲。

 それを容易くクエイクの豪腕で弾いた隊長は気づけなかった、自分の首にかかったワイヤーに。

 

「がぁっ………」

 

 脅威判定に写らなかったワイヤーが隊長の首を締め上げた。

 漏れる息を最後に隊長は苦悶の喘ぎすら上げられなかった。一瞬何が起こったか理解できず、数拍遅れて首を締め付けられてることを認識した。

 

「熟練したパイロットであるほど。無意識に絶対防御を過信する。そしてそれを突かれると思わず判断が遅れることがある。勉強になったか、不良生徒」

「ぉぁ………」

 

 更にワイヤーを締め上げる千冬。

 搭乗者の危機状況を検知したファング・クエイクが即座に絶対防御でワイヤーを焼ききった。

 空っぽになった肺に空気が流れ込む。呼吸が完了する前に隊長は腕を振り回すと既にそこに千冬はなく、右側頭部に走る衝撃に思わず後ずさった。

 

「このっ! っ!?」

 

 絶えず揺さぶられる数多の攻撃。

 

 振り返った隊長が次に目にしたのは。ホルスターから引き抜いた2丁の世界最大口径拳銃(デザート・イーグル)を空中で構えた千冬の姿だった。

 

 小型の大砲音と勘違いする程の音と共に50アクション・エクスプレス弾の連続射撃がファング・クエイクのシールドを揺らした。

 

(50口径の2丁拳銃(ツーハンド)!? それを空中、しかも全弾撃ち尽くして!?)

 

 大の男が一丁でも怯むそれをエアガンの如く撃ち尽くし、なおかつ毛ほども応えることなくニヒルに笑う千冬。

 

 もはや化け物とかそんな比喩すら可愛く見えるブリュンヒルデの姿に隊長は思わず畏怖し、硬直した。

 

「畳み掛けられる想定外による思考停止。無理もないと言いたいが。自分の置かれてる立場を見ようともしないのは良くないな」

「っ!?」

 

 隊長の周りには、千冬が捨てた8本の刀による包囲陣がしかれていた。

 着々と練られた罠に最後まで気付くことのなかった出来の悪い生徒に向け、織斑先生は宣告する。

 

「落第点だ」

 

 キーワードがトリガーとなり、全ての刀が一斉に爆ぜた。

 ✕をつけられた隊長は罰則として木っ端微塵の刑に処され、爆炎の中に呑まれた。

 

 千冬は爆炎が自身に及ぶ前に走り出す。

 その背中をロックオンしている隊長が炎を突き破って飛び出した。

 

「逃がすかぁぁぁぁ!!」

 

 常に冷静であれを心情とする隊長が初めて久方ぶりに怒声を上げた。

 ISをつけない、ただの人間に弄ばれるというIS乗りとしての最大の屈辱が彼女を怒りに走らせた。

 

 コンバットナイフを突き出し、その背中に突き立てようとする隊長に慌てることなく千冬は紙一重で回避。

 手首に蹴りをネジ込み。落ちたコンバットナイフをそのままファング・クエイクに蹴り当てた。

 

 そのまま逃走する千冬にアサルトライフルで弾幕形勢。

 だが弾は一発も当たらずに弾切れとなる。

 

「いい加減、止まれぇぇっ!!」

 

 堪忍袋がぶちギレた隊長。

 ISの最大ブーストで千冬の真横に躍り出た隊長は千冬にその豪腕ストレートを叩き込む。

 絶好のタイミングで打った渾身のストレートは遂に千冬の身体に届いた。

 

 バン! インパクトの瞬間、殴打による骨が砕ける音ではなく軽快な破裂音と共に拳が燃えた。

 

「炸裂装甲! くそっ!」

 

 指向性炸裂装甲の衝撃でそのまま部屋の中に飛び込んだ千冬。

 何処まで自分をコケにするのかと怒りに燃える隊長はドアを突き破り、部屋の中に飛び込んだ。

 

 だが部屋に飛び込んだ瞬間、背後の扉が防御シャッターによって塞がれ。照明が暗闇をかき消した。

 

「出番だ、真耶!!」

「了解です!!」

 

 千冬の呼び掛けに応え、ステルス・マントがリコールされる。

 その中から現れたのは25mm7連砲身超大型ガトリングキャノンを四門装備したラファール・リヴァイヴ。

 

 ISのPIC姿勢制御能力を全て重量軽減と反動制御に回し、動けないというISにとって最大の代償と引き換えに最強の攻撃力を手にした。

 第二世代が生んだ最強のロマン砲パッケージ。

 

 その名も。

 

「クアッド・ファランクス!?」

「イッツ、ショータァァァァイムッッ!!」

 

 バララララララララララッッッッ!!!! 

 

 満面の笑みと共にトリガーハッピー山田真耶は解き放たれた。

 暴力と破壊の嵐が弾丸となってファング・クエイクと隊長を飲み込み。

 777のジャックポットの如く排莢された空の薬莢が山を気付いた。

 

「ヒャッホゥ!! 最高だぜぇぇ!!」

「口調が昔に戻ってるぞ。銃央矛塵(キリング・シールド)

「あら行けない私ったら………でも駄目! 止められなぁぁい!!」

 

 未だ興奮冷めやらぬ山田真耶を尻目に千冬は傍らに用意されたマグカップのコーヒーを1口飲んだ。

 

「っ。口の中切ったか………生身で張りきるものではないな」

「いやいや、ISと生身でタイマン張っといて口の中切るだけで済む先輩ヤバすぎませんか? あとなんか凄い美味しそうに飲んでますけど、それインスタントですよ」

「なに? 流石は山田先生。インスタントを入れる腕も一級品だな」

(あっ、ガラにもなくテンション上がってるなぁ。織斑先生)

 

 久々に大暴れしてスッキリした千冬と真耶。

 

 ストレスから解放された大人というのはいろんな意味で歯止めがきかない。

 

 30秒にも渡るフルバーストを撃ちきったクアッド・ファランクス。

 残されたのは弾痕だらけの部屋と、かろうじて原型を残したファング・クエイク。

 だが流石はIS、こんな惨たらしい惨状になりながらも操縦者は無事だった。が、本人は泡を吹いて倒れていた。

 

「快………感っ」

「トラウマものだな。流石の私もごめんこうむる」

「現役時代に正面からファランクス相手に一刀両断した人がどの口で言うんですか?」

「さあ、忘れたな」

 

 人知れず世界の常識をひっくり返した世界最強は血の味がするコーヒーを一思いに飲み干した。

 

 

 

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