IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第12話【ビーチバレー・血湧き肉躍る】

 疾風・レーデルハイトは歩いた。

 目の前に広がる大海原に向かって。

 

「あ、レーデルハイト君! ってはっや」

「レーデルハイ……あれ?」

「ヤッホー男子ー! 楽しんでるーーう?」

 

 疾風・レーデルハイトは歩いた。

 周りの声に相槌すら打たずただひたすらに海に向かって歩いた。

 

 脳裏に写りっぱなしなのは先程のセシリアの肢体で………

 

 疾風・レーデルハイトは歩いた。

 足を早めて海に足をつけた。

 完全に気のせいだろうが、入った瞬間ジューと水蒸気が上がった気がする。

 入水自殺でもするのではないかという勢いでザブザブと海を強引に歩いて、そのまま頭まで沈みこんだ。

 そのままただ真っ直ぐ海を泳ぎ歩き、そのまま潜りこみ。しばらくして…………………

 

「………プッハッ!!」

「「うわっ! びっくりした!」」

 

 息が続かなくて急速浮上。海面に思いっきり上がると目の前には一夏と一夏におぶされてる鈴が。

 

「………悪い一夏」

「おう、てか大丈夫か?」

「何が?」

「いやなんていうか。なんか嬉しそうだったり、苦しそうだったり?」

 

 一夏もよくわからないと顔に出している。朴念神の一夏でさえ何か感じられる程今の俺の顔はヤバイのか。

 

「大丈夫か疾風。いまにも死にそうだぞ」

「気にしないで………思い出しちゃうから」

「お、おう」

 

 察してくれて助かった。

 とりあえず、気になるのが。

 

「俺からしたら鈴の方が死にそうなんだけど、何があった?」

「競争してたら溺れかけた」

「言うなっつの!」

「ゴブブブ!?」

 

 ゴチンと思いっきり一夏の後頭部を殴った鈴、とうの一夏は鈴を沈ませまいと足場のない海原なのにも関わらず踏ん張った。

 男だなぁ一夏。

 

「鈴の前世が人魚なのもあながち間違いではなかったということか」

「どういう意味」

「泡になって沈む」

「本当にそうなりそうで焦ったぜ」

「悪かったわよぅ」

 

 流石に思うところがあったのか鈴は先程拳を叩き込んだ一夏の後頭部を擦った。

 

「俺は鈴を連れてく、お前は?」

「もすこし泳ぐ」

「そうか。じゃあな」

「うん。鈴もちゃんと」

「やる、やるってば」

 

 恥ずかしさに顔をうずめた鈴を背負って一夏は浜の方に泳いでいった。

 

「ん、結構遠くまで泳いだんだな」

 

 まったくの無心。といったら語弊があるが結構沖の方に泳いだみたいだ。

 反対側を見ると、遊泳禁止用のブイが浮かんでいた。

 

 ………だいぶ落ち着いたみたいだ。一夏と鈴のおかげか? これからどうしようか。

 あ、そういえばビーチバレーに誘われてたっけ? でも行くとセシリアに遭遇しかね………やめようセシリアのこと考えるのは。

 

 キンキンの海が若干温かくなったのを気のせいと思いつつそこら辺を全力でクロールで泳いで泳いで泳ぎまくった。

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 無我夢中全力で泳ぎまくっていつの間にか浜の方に向かっていたのでそのまま海から出た。目と鼻の先にはビーチバレーのコートが見えた、色とりどりの水着を着た女子たちが躍動的に動いている。

 

 結構泳いだ筈なのにそこまで疲れを感じない。謎のアドレナリンが出たせいだろうか。

 ボーっとしてたところに黄色い影、布仏本音がニマニマ顔でのそっと近づく

 

「レーちんだぁ~びしょびしょー」

「泳いだからな。てかのほほんさん、さっきはよくもやってくれたな」

「え~でも役得だったでしょ~?」

「おだまり」

 

 思い出してしまうではないか。

 悶えかけていた俺をまた側にいた一夏が

 声をかけた。

 

「疾風ー、ってうわっ。お前そんな引き連れてどうしたんだ?」

「あーん? ……うわっ」

 

 気づくと両肩と頭に昆布が垂れ下がり、なんちゃって昆布アーマーが出来上がっていた。

 

「無心で泳いでたからな」

「落ち着いたか?」

「いや全然。思い出したら顔が爆発しそうだ」

「いったい何があったんだ疾風?」

「言うな聞くな。思い出させるなと言ったろうがコノヤロゥ」

「オッケー、もう触れない」

 

 体に纏わりついた昆布をベシャリと海の方に投げつけた。投げられた昆布が海の表面をプカプカ浮かぶ様は、まるで今の俺の心のようだ。

 

「疾風、ビーチバレーやろうぜ。俺達もこれからやるんだけど。モヤモヤ吹っ飛ばすなら体動かすに限るぜ」

「あー。うん、そうだな」

 

 とりあえず体からはエネルギーが沸いている。この沸き上がる感情をボールにぶつけるのも悪くはない。

 

「やるわ。ビーチバレー」

「決まりだな。おーい! 疾風も入るけど大丈夫かー!?」

「全然! むしろウェルカーム!」

「レーデルハイト君!? 清香、私抜けるね!」

「えぇーい往生際悪いぜ静寢! レーデルハイト君! 私抜けるから入っていいよー! あ、逃げるな! 手伝え癒子!」

「任せろーバリバリー!」

「ちょ、ちょっと二人とも!?」

 

 なんか女子ズが取っ組み合いを始めたんだが? なんか喋ってたみたいだけどよく聞こえんかった。

 

「あれ、疾風もビーチバレーやるの?」

「おおシャルロット、とラウラか? なんで隠れてるの?」

「は、疾風か。あまり見てくれるな………」

「いや見えんよ。隠れてるから」

 

 シャルロットの水着はオレンジ色のビキニ。セシリアと違って元気一杯な活発的な雰囲気。そしてさっきの鈴とは違いしっかり専用機のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡカラーである

 

「疾風、今ISのこと考えてたでしょ?」

「なんでわかった」

「わかるよ。だって疾風だもん」

 

 おい、それだと俺が四六時中ISのこと考えてるみたいじゃないか。

 あってるけど。

 

「で、なんでラウラはそんな顔見知りムーブを出してるの? キャラ違くね?」

「………見たら笑うだろう」

「何をだ」

「一夏は優しいからな、さっきのも社交辞令だ、そうに違いない。私が可愛いなど………そんなこと………」

「いや、だから何をだ」

 

 話の意図がまるで読めない。少し前にまっ裸で一夏をくみしだいたあの潔さはどこ行ったんだ。

 

「シャルロット、説明を頼む」

「えっとね。ラウラが凄い可愛い水着を着たんだけど自分で似合わないと思ってるらしくてね」

「ほうほう」

「一夏に似合ってるし可愛いって言われてからずっとこんな感じなの」

「………またか」

「うん、またなの。アハハ」

 

 この海でも一夏のスケコマシは遺憾なく発揮されているらしい。

 恋愛感情が絡むと人はこんなにも変わるし一喜一憂したりするのか。俺にはそんな経験がないからわからんな。

 

「ラウラ、別にお前がどんな奇天烈な水着着ようが間違いなくこの前の朝よりはマシだぞ」

「しかしだな」

「それに俺にどう思われようと対して被害ないだろ? 一夏と違って」

「………確かにそうだな」

 

 正直あまり納得してほしくなかったが、ラウラは顔を引き締めてシャルロットの影から出てきた。その姿を分析すると。

 ロングヘアーの髪はツインテールより上目のアップテール。水着はレースが沢山使われたシュヴァルツェア・レーゲンカラーの、少し大人っぽい水着だった。

 ラウラぐらいの体躯の子がこのような物を切るのを見たら、背伸びして頑張ってる子という感想が出るぐらいだが。なかなかどうして。

 如何せんラウラ・ボーデヴィッヒという女子はお人形さんがそのまま人間になったかのような外見、似合わないという言葉など出ることはなかった。

 

「お前はどう思う」

「なんつーか。凄いしっくり来てる感じ」

「私はあまり似合ってるとは思わんのだがな」

「そんなことないよラウラ」

「そうだぜ、さっきも言ったけど可愛いって。すごく似合ってる」

「かわっ! またお前はそう言って………」

「嘘じゃねえよ。本当に可愛いよラウラは」

「ムゥン!!?」

 

 一夏に褒められた途端ラウラがモジモジしだした。

 なんだろ、普段とのギャップが凄いな。

 噂だとラウラはドイツで【冷氷】と呼ばれてたらしい、俺が入学する前でも凄いトッキントキンのトンガリガールだったとか。

 が目の前には噂が嘘だと思えるほどのただの女の子しかいない。氷をお湯にするとは、恐るべし、織斑一夏………

 ジト目で見られる当の本人はこれまた気の抜けたような顔をしている。恐らくなにか考えているのだろうが明後日の方向に行ってるのは明白だった。

 

 そして始まったビーチバレー。ルールというか補足として、スマッシュはなしの10点先取となった。俺としてはたまったリビドーで思いっきり叩き込みたかったので少し残念。

 チームとしては一夏はシャルロットとラウラの専用機チーム。対してこっちは鷹月さんと谷本さんの即席チームの3対3。

 本来のビーチバレーは2対2らしいが、お遊びということでそこはスルー。

 それは置いといて。とりあえず一言。

 

「戦力差大丈夫だろうか」

「こっちは皆初めてだぜ?」

 

 それを加味してもだ。

 一夏は知らないが、後ろの金銀コンビは決して広くない門をくぐった代表候補生。そのうち一人は軍人で隊長だ。

 対してこっちは少し鍛えただけの水中眼鏡と、うら若き女子二人。

 もう一度言おう、戦力差大丈夫だろうか。

 

「フッフッフ、安心してよレーデルハイト君。巷で誰が呼んだか、私は7月のサマーデビルと言われる程の実力者よ。大船に乗った気でいなさいな!」

 

 自信満々の7月のサマーデビルこと谷本癒子さん。8月になったらサマーエンジェルになるのだろうか、それともサマーサタンか。

 

「私も頑張るから!」

「お、おう。じゃあ頼むな?」

 

 鷹月さんからもやる気が見てとれた。

 とりあえずやるだけやろう。サーブはこっちのサマーデビルから。

 

「フッフッフ。7月のサマーデビルと呼ばれた私のサーブを見よぉぉ!」

 

 ていっと打たれたサーブ。名前負けはしてないのか、そのサーブは素人目から見ても絶妙な物だった。

 

「まかせて!」

「ナイスだシャル! ーーーラウラ!」

 

 そうはさせじとシャルロットが拾い、一夏かラウラに繋げた。

 一番厄介そうな奴にボールが渡った、俺達は身構えて迫り来るボールに注意する、が。

 

「………」

「おいラウラぁ!?」

 

 肝心のラウラは下を向いてブツブツと口を動かしていてそこから不動の構え、パスされたボールは悲しくも砂の上に転がった。

 疾風チームも呆気に取られて受けの体勢のまま固まった。

 

「どうしたのラウラ? 立ってるだけじゃゲームにならないよ」

「私が可愛い………一夏が私を、また可愛いって。あんな真っ直ぐな瞳で………」

「ラウラ?」

「おい、大丈夫かラウラ?」

 

 一夏が心配そうにラウラの顔を覗きこんだ。

 至近距離で。

 

 キュボンっ! 何処かで何かが爆発した。

 

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!!!」

「「ラウラー!?」」

 

 その踏み込みは砂を吹き飛ばし、その走りは風を巻き起こし。キャパオーバーを起こしたラウラ・ボーデヴィッヒはとても綺麗なフォームで花月荘に走り去っていった。

 

「どうしたんだラウラのやつ。追いかけたほうがいいかな」

「やめよう一夏。ラウラの原型が保たれなくなるよ」

「え?」

「オリムーの乙女ブレイカーは今日も絶好調なのだ~」

「???」

 

 言われたことを何一つ理解できてない一夏はただただ首をかしげ。そして何もなかったの如く笑顔でビーチバレー再開しようぜと言ってのけた。

 この切り替えも朴念神の要素の一つだろうか。

 

 ラウラの空いた穴は相川さんで埋まった。戦力的にはイーブンといったところ。

 だとよかったろう。

 

「よいしょぉ!!」

「うわっ!」

 

 7月のサマーデビルの気合いの入ったシュートがコートの隙間にめり込んて10点目。ゲームセットである。

 

「イエーイ! サマーデビルサイコー!」

「はっはっは! もっと褒めてくれたまえ」

「癒子ってこういうの得意だよね。ISの成績は普通なのに」

「それとこれとは別なのよ!」

 

 鷹月さんの鋭いコメントに勢いで切り返す谷本さん。

 経験者が居るというのはこれ程心強い物だったのか、10点のうち8点は彼女の得点である。

 

「もっかいだ! このまま負けっぱなしは悔しいぜ!」

「うんうん」

「俺はまだやれるから問題ないぞ」

「私は少し疲れたから、休憩」

「じゃあ一夏君にはこのサマーデビルの力を与えよう」

「え、うそん?」

 

 相川さんがコート外に出て此方の最大戦力であるサマーデビルが一夏陣営についてしまった。

 

「マジか! ありがとう谷本さん!」

「対価として何かしてほしいなぁ。そうだ! 後でサンオイル塗ってくれる?」

「えっ俺が!?」

 

 サンオイル。そのワードで体が大袈裟にビクついた。体温もまた上がった気がする。

 

「レーちん顔アカ~イ。スケベ~」

「その狐耳引っこ抜いてやろうかコラ」

 

 元凶がのらりくらりと言うので少しだけ殺意を織り混ぜた。

 

「怒らない怒らな~い。セッシーも見てるんだし~」

「はっ?」

 

 今なんと言ったこの子

 振り替えると、そこには。

 

「ご、ごきげんよう疾風」

「んっ!?」

 

 いつから居たのか、本当に。俺が選んだブルーの水着を着たセシリアがそこに。少し恥ずかしげな頬には少し赤みがさしており、普段とは雰囲気が違う様子も相まって、色気がましている。

 そんなセシリアに一夏も息をのみ、シャルロットも目をパチパチさせている。

 

 そして俺はというと。

 

「あ~。レーちんさっきより真っ赤っ赤~。林檎みたーい」

 

 のほほんさんの言葉など耳に入ることはなく。

 俺の体は更に発熱した。

 目の前のセシリアの体に、俺は先程の光景が感触とともにリフレインする。

 

 手に吸い付くさわり心地の良い玉の肌。それをさっきまで素手で触っていた。

 それはもう思う存分に。

 そして最後のヒップ。勢いでガガッとやったが、押し込めば何処までも沈みそうで、それでいて跳ね返すぐらいの張りが………

 

「疾風?」

 

 固まったままの俺に何を思ったのかセシリアは俺に向かって一歩を踏み出した。

 踏んだときの砂の音が、何故かこのときハッキリと聞こえ………

 

「のああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!!!」

「「疾風ー!?」」

「レーデルハイトくーん!?」

 

 分け目も降らずに海に全力ダダダダーッシュ。水の抵抗などなんのその、そのまま海を走り抜け、膝下まで使ったところで大ジャンプで浅瀬にザッパァーン! とダイブ。

 

「「「………………」」」

 

 突然の奇行に一同が俺の消えた海を見ている。海に消えたまましばらく浮上しない俺に少し不安になる。

 しばらくすると、海から俺が出てきた。そのまま大きな足取りで真っ直ぐにセシリアの元へ。

 セシリアの前にたったまま押し黙る俺にセシリアは声をかけた。

 

「あの………疾風? さっきのことですけど、ヒャァ!」

 

 おずおずと恥ずかしげに話そうとしたセシリアの両肩にガシッと手を置く俺にセシリアのみならず周りもビクついた。

 

「セシリア!」

「は、はい」

 

 うつむいたまま彼女の名前を呼ぶ。

 セシリアはもしかしたら怒っているのでないかと不安が胸によぎる。

 数刻黙った俺は息を目一杯吸い込み、顔を上げ、その眼光がセシリアの瞳を射抜き。そして…………

 

「忘れよう!!」

「へっ!?」

「さっきはなにもなかった! サンオイルなんてなかった!!」

「へっ、え、え?」

 

 鬼気迫る表情で俺はセシリアに訴えかけた。水中眼鏡越しでも伝わる眼光にセシリアはただただ戸惑うばかりで。

 正直、この時俺は何をしゃべっているのか自分でもわからなかった。

 

「忘れるンダ!!」

「わ、忘れる」

「オウケェイ!!?」

「わ、わかりまし、たわ」

「よぉぉし!! ビーチバレーやらないカ!?」

「や、やりましょう………」

「よぉぉぉぉぉしっ!!!」

 

 水を滴らせたままのっしのっしとコートに戻る。セシリアも流れでコートの中に入った。

 

「サッ! コォォォイ!!」

「だ、大丈夫か疾風」

「ノォウ! プロブレェェム!」

「あまり大丈夫そうじゃない!」

 

 かつてないほどまでに、アドレナリンが大放出している俺。あまりの熱気に俺に纏う空気が揺らいでいる、感じがする。

 一夏曰く、この時の俺は目がイってたらしい。

 

「じゃあこっからはスマッシュありにしよっか」

「え、マジか!?」

「イェア!!」

 

 サマーデビルの提案に一夏は驚き俺は軽快に返事をする。

 

「ちょっと待って、本気か………(えーと)」

「(谷本さん)」

「谷本さん!」

 

 人の名前を覚えるのが苦手な一夏はシャルロットの助力を得て谷本癒子に問うた。

 

「今の疾風相手にそんなの許したら何が飛んでくるかわからないぞ!?」

「だから、面白いんでしょ!」

(駄目だこの人!)

 

 戦意マシマシのサムズアップで返す7月のサマーデビル。

 逃れるすべがないことを理解した一夏とシャルロットは、コート越しの相手チームを見やる。

 

「フシュ~」

「と、ところでオルコットさんバレーの経験は…」

「えと、たしなむ程度には」

 

 真ん中に口から煙を吐いている俺と、後ろにそんな俺に少し引き気味の二人が。

 

「シャル」

「なに?」

「生き残ろうな」

「そうだね」

「試合、かいし~」

 

 のほほんさんの号令でゲームスタート。サーブはサマーデビル。

 

「行くぞー! そいや!」

「セシリア上げて」

「はい!」

 

 俺が拾い、セシリアがトス。合わせて俺が飛びあがり、ボールを右手で叩きつけた。

 

「よし! こ……」

 

 ズドムゥン!! 

 

「………………?」

 

 受けの姿勢を取った一夏の真横を何かがかすめ、巻き上がった砂が顔を叩いた。

 砂が飛んできた方向を見ると、何かが衝突したように砂地が抉れていた。その後ろにボールが小さくバウンドして転がっていた。

 

「………チッ、それたか」

「っておい! 今それたかって言ったか!?」

「言ってないヨ」

 

 無表情で言われた一夏は釈然としない顔でボールを渡した。

 鷹月さんがサーブをうち、シャルロットが拾い、谷本さんから一夏に。

 

「今度こっちの番だ! おりゃ!」

 

 一夏の渾身のアタックは調度コートスレスレの角を突いた。

 三人からも距離が離れ、俺が走り出すもギリギリ間に合わない。谷本さんから見てもなかなか上手いアタックだった。

 

(よしっ! 入ったぜ!)

「うおんりゃぁ!」

 

 スレスレボールに手が届かないとわかるや足を伸ばしてボールを浮かせた! 

 俗に言う蹴りである。

 

「はっ!? 足だと!?」

「オラァぁ!!」

「うおぉぉっ!?」

 

 リカバリーされたボールは鷹月さんが繋げ、そのまま一夏に向かって放たれた。

 一夏が慌ててよけるとスマッシュは調度一夏の顔があったあたりを通過し砂にめり込んだ。

 

「えっ? 足ってありなの?」

「ありなんだよデュノアさん」

「それよりも疾風! やっぱ俺の顔面狙ってるだろ!?」

「そんなことナイヨ」

「嘘つけ!」

「ホントダヨ。ボクウソツカナイ」

「完全カタコトだよ! お前僕なんて言わないだろ! もはや確信犯じゃないか!」

「チッ。バレたか。一夏なら絶対気づかないと思ってたのに」

「バレるわ!! 俺どんだけ鈍いんだよ!!」

「どこまでもだ馬鹿野郎!!」

 

 あからさまなラフプレーは確実に褒められたことではないが、今の俺はいささかテンションが迷子。一夏の言葉でそんなモラルは軽く零落白夜された。

 おのがうちにたぎるアドレナリンに一気に火がつき、シナプスは弾け、理不尽など蹴り飛ばされ。ストッパーは居留守を決め込んだ。

 

「鈍いんだよこの朴念仁! キング唐変木! ゴッドオブ鈍感!!」

「そ、そこまで言うのか」

「言うわ! 言いまくるわ! この世に存在する最大単位言いまくったところでお釣りがくるわ! このラノベ主人公!!」

「ら、ラノベ主人公?」

 

 反論しようとした一夏だったが俺の熱い圧に一気に冷静になってしまった。

 

「お前は今まで泣かせた女の子の数を覚えているか織斑弟ぉぉ!」

「な、泣かせた!? そんな覚えないぞ?」

「泣いてんだよ心のなかでよ! お前が放った言葉でどれだけの女の子が天国から地獄へバンジーしたと思ってるんだ、そうだろシャルロット!」

「あーー……うん、そうだね。確かに」

「ちょっ、シャル!?」

 

 味方だと思ったシャルロットに裏切られた? 一夏はシャルロットを見て呆然とする。

 

「俺はなぁ一夏よ! さっきほんと心臓がまろびでるような体験をしたんだ! 今でも飛び出そうなんだよ! だけどお前ならなんともないだろうな! 少しは照れるにしても時間がたてば落ち着くんだろうな! いや、それにいたる前に鈴あたりが邪魔しそうだな、羨ましいなコラ!!」

「すまん! ほんとになんのことか分からない!」

「行くぞ! このボールに今までの女子の無念、そして俺の中の何かを混ぜた物を込めてお前に打ち込んでやる!」

「だから身に覚えが………」

「無知とは罪! 無知とはギルティ! くらえ一夏! ついでにそのモテ力と鈍感力をよこせぇぇぇ!!」

「凄いオラオラなのになんて正確なサーブフォーム! やるわねレーデルハイト君! バレー部にスカウトしようかしら」

「そんなこと言ってる場合じゃプゲラァ!」

「一夏ー!!」

 

 そんなこんなで楽しい楽しい血沸き肉踊るビーチバレーは再開。

 一夏を狙うかと思えばシャルロットに谷本さんを狙うかと思えば一夏めがけて打ちまくり。肝心のサマーデビルは点を返すも思うように行かず、結果的に疾風チームの2連勝となった。

 

「ウィィィィ! 勝・利!」

「負けたぁ!」

「ありがとう一夏、その顔面を一度しか射抜けなかったのは心苦しいが。お前が避けまくったお陰で勝てたぜ。礼を言う!」

「嬉しくねぇ」

 

 満面な笑みを浮かべた俺に一夏は愚痴る。

 ぶっちゃけ凄い良い気分である。体を動かすって気持ちいいネ! 

 

「ていうかお前なんかキャラ違くねえか、そんなんだっけ?」

「こんなんだよ」

「いやそれは嘘」

「アーハハハハハ!!」

「元気そうだなお前たち」

 

 狂った笑いを上げる俺、そんななんとも分からない空気に一刀を入れたのは。

 

「織斑、先生?」

「おう」

「ワァオ」

 

 現れた織斑先生を見るなり、俺は声を漏らして釘付けになり。一夏も息を吐いて見惚れた。

 かけていたサングラスを外して胸元の水着に引っ掻けるとたちまち周辺から熱いタメ息が漏れる。

 

 一夏が選んだのであろう黒の水着。

 全体を覆うものではなく真ん中の結び目あたりに穴が開いているオシャレ仕様。

 無駄のないという言葉をこれでもかと体現した体のライン、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込む、そこらへんのモデルが裸足で、いや全裸で逃げるほどの美。

 普段の黒スーツと同系色なのにも関わらずこれほどの魅力を醸し出せるのは本人の体型ゆえだろうか。

 否、それだけではない。心なしか、普段張り詰めている織斑先生の覇気が和らいでいる。無意識か意識してるのかは分からないが。親しみやすそうな、それでいて威厳を保てるギリギリのラインをキープしている。

 セシリアがビーチフラワーなら織斑先生はビーチクライシス。老若男女を選ばず虜にする圧倒的魅力を出している。その証拠に普段織斑先生が来るなり騒ぎ出す女子たちもその姿に言葉をなくしている。

 この場にいる男二人も例外ではなく。

 

「一夏、鼻の下が伸びてる」

「なっ!?」

「疾風、目が点になってますわ」

「フォウ?」

「見惚れてましたわね」

「んん、まあそうだね」

 

 指摘されて慌てる一夏に対して俺の反応は至ってフラットだった。

 それに面白くないのか、セシリアは唇を尖らせる。

 

「わたくしの水着と織斑先生の水着で反応が違いましたわ」

 

 そんなこと言われて俺はどう答えればいいんだ。

 セシリアの水着は俺が選んだものだし、どんなものか想像はついた。現に目の前のセシリアは想像通りだったから特に驚きもしない。

 しかし織斑先生のは、なんというか………イメージと違うけどイメージにあってるというか。そう、美しカッコイイのだ。

 

「わたくしと織斑先生の水着姿、どちらが魅力的なのですか?」

「えー、それ決めていいもの?」

「むー」

 

 むくれるセシリアの無茶ぶりに答えるべく。俺は三歩下がって二人を交互に見た。

 

 ………………贔屓目抜き、いや贔屓目ありにしても。どちらかというと織斑先生に軍配が上がりそうだ。

 いや、勿論セシリアもこれ以上ないってぐらい似合っている。それは間違いないのだ。

 だが、やっぱり。………幼少からの憧れである初代ブリュンヒルデ、織斑千冬というこれ以上ないぐらいの補正と普段とのギャップが効いてしまっている。

 

 そしてここで問題、ここで馬鹿正直に織斑先生と答えたらセシリアはどういう反応をするか。間違いなく俺のプラスになるようなことはないと思う。

 ここは虚偽をもって場を沈静化させるのが先決だ。俺は一夏のような朴念仁ではないのでそこはわきまえれる。

 

「セシリアだな」

「嘘ですわね」

「オーイ」

 

 即答だよ。秒で、いや秒もかからなかったよ。なんなんだもう。

 

「疾風は織斑先生のような人が好みですのね」

「なにすねてんのさ」

「すねてませんわ」

「別に良いじゃないかよ。実際織斑先生は綺麗だし。あの初代ブリュンヒルデの水着姿だぜ? レア度半端ねえだろ。別にお前が綺麗じゃないとは言ってないぞ」

「わたくしよりも、ですけどね。織斑先生は」

「ひがんでるのか?」

「縫いますわよその口」

 

 こっわっ。

 結果、セシリアが不機嫌になるというマイナスルートになりましたとさ。

 あれかね? 自分より綺麗だと言われてモデル魂に火がついたとか? こいつプライドは人一倍高いから。

 それとも俺の目が織斑先生に向いてしまって一夏ラバーズ宜しく嫉妬したとか? 

 ハハッ、ねーよ。

 

 ふと、一夏とシャルロットの姿がない。と思いきやいつの間にか花月荘に向かって歩いていた。昼飯でも食いにいったのだろう。

 ちゃっかり二人でご飯を食べる権利を手にするとは。流石フランス、あざとい。

 

「織斑先生、ビーチバレーをしましょう! わたくしと疾風がお相手致しますわ!」

「あれー、いつの間にか巻き込まれていくー。別に良いけど」

「ほう、私に戦いを挑んでくるか。いいぞ、相手してやる。山田先生、ペアをお願いします」

「わかりました。私、頑張りますよ!」

 

 いつから居たのか山田先生の姿が。

 あれ、ほんとにいつから居たのですか? 

 

「あれ? 山田先生いたんだ」

「やまやちゃん影薄かったっけ?」

「織斑先生の存在がでかすぎるのよ」

「グスッ、頑張りますよー」

 

 山田摩耶、すすり泣く。

 モチベダダ下がりの山田先生にギョッとした生徒たちが慌てて慰めに行く。

 

「ごめんねまーやん! 別に気づかなかった訳じゃないからね?」

「水着似合ってるよ摩耶ちゃん!」

「フレッフレ! まーや! フレッフレ! まーや」

 

 ここまで人気なのは、一重に山田先生の人徳の賜物だろう。

 距離感が近すぎる気もするが。

 

「………織斑先生。私、教師としての威厳ありますよね、ありますよね?」

「………生徒に親しまれて羨ましい限りですね」

「思ってもないことを!」

 

 そんなこんなで日本ベテラン組VS英国ルーキー組で第三戦開始。

 

「疾風」

「なんだよ」

「織斑先生に見惚れてミスなどしないで下さいましね」

「わかってるよ。てかなんか燃えてるねオタク」

「ふん」

 

 何がそんな面白くないんだろう。織斑先生に勝負挑んだりと、なかなか命知らずなことするし。

 

 まあいい。とりあえず、元日本代表と元日本代表候補生の教諭コンビ。相手にとって不足なし。

 こちらは俺含めてそこまで疲労はなく特にコンディションに不調もない。というより、セシリアのやる気が満ち満ちている。

 これは、負けてられない。

 

「よしっ! やるぞ!」

「ええっ!」

 

 行くぞ! ブリュンヒルデなんてなんぼのもんじゃーー!! 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 10分後。

 ビーチバレー対決は双方とも見事なプレーが続き、周りも熱気に湧いた素晴らしい試合に

 

 なってたらよかったのになー。

 

「………………」

「疾風」

「………………」

 

 英国ルーキーコートに棒のように砂浜に倒れ伏す俺と、それを冷ややかな目で見つめるセシリア。

 

「えと、あの。勝ちましたー」

「………………プククッ」

 

 腕を上にあげ、勝利のポーズをする山田先生と。笑いを堪えようと努力している織斑先生の姿が。

 

 結果は惨敗。こちらのアタックは全て織斑先生の俊敏を越えた俊敏さで全て拾い上げられた。

 心のどこかでは分かっていた結果。だがどうしても納得がいかない。

 

「疾風、見惚れないでと言いましたわよね?」

「見惚れてないよ……………織斑先生には」

 

 そう。決して俺は織斑先生に見惚れてミスをした訳ではなかったのだ。神にだって誓おう。

 そう………織斑先生には。

 

 俺はガバッと立ち上がった。

 俺にはどうしても、どうしても言いたいことがあったのだ。

 

「山田先生!」

「は、はいなんでしょう!?」

「山田先生!!」

「はぃぃぃ!」

 

 たとえ周りの反応がどんなことになっても。周りから軽蔑の視線を浴びようとも、セシリアから虫を見るような目を向けられたとしても。世界中の男子を代表して言わなければならないことが! 俺にはある! 

 

 クワッと顔をあげ、その童顔より。少し下にある。

 大戦艦級ビッグバレーに向けて叫んだ。

 

「ボールを三つ使うのは反則だと思いまぁすっ!!」

「ボールは一つだけですよ!?」

 

 俺の魂の叫びに山田先生はよくわからないという顔をする。

 側にいた織斑先生は吹き出しそうになるところを必死に押さえ込んで震えていた。

 

 ジャンプする度に揺れる胸。

 トスをする度に揺れる胸。

 転ぶ時に揺れる胸。

 ほんの少し動くだけで揺れる胸。

 とにかく揺れる胸、巨乳・爆乳・魔乳。

 必死に見ないようにしつつも動く度に視線が意思とは勝手に向いてしまう。

 実際得点の多くは俺のミスによるもので。

 いわゆる、自滅というやつである。

 

「疾風………貴方という人は………」

「そんな目で見るなセシリア!」

 

 案の定セシリアの目からハイライトが消えていた。これは虫を見るような目ではない。汚物を見るような目! 

 覚悟はしていたが、この目は想像以上にキツい。心なしか体が涼しいぜ! 

 

「無理だよ! あんなの視線行くなって言う方が無理だよ! お前だって目線行ってミスしてたじゃないか!」

「うっ。で、ですが貴方ほどではありませんわ!」

「だって俺は男だもん! 青少年だもん! 思春期だもん!!」

「開き直らないで下さいまし!」

「良いじゃん織斑先生に気をとられた訳じゃないんだからさぁ!」

「そういう問題ではありませんわ!」

 

 言い争いに発展する俺達。

 周りのギャラリーはというと大半があれは仕方ないよねという空気だったり、あらためて山田先生の胸部装甲をマジマジと見たり。当の本人は何が何だか分からないとボールを三(1+2)個持ちながらオロオロとしていた。

 

 そのあと。口喧嘩からそのまま俺とセシリアでビーチバレー対決をし。しばらくして「わたくしの胸はそんなに慎ましいですか!」と訳のわからない喧騒を繰り広げ。

 

 昼飯をかっ喰らった後でセシリアと泳ぎでバトッたり、スイカ割りで勝負したり、またビーチバレーをしたり。

 

 二人の頭はギクシャクさせていたサンオイル事件のことなどもはや微塵も残ってなく。

 なんだかんだ白熱した海を満喫しまくった英国コンビなのであった。




恐るべし、やまパイ。

あまり印象に残りませんが。疾風の容姿は中の中か中の上くらいです。
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