IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第120話【その偽りを撃て!】

 

 

 一夏が箒を解放するために戦ってる最中。

 

 時間にしてわずか数分の攻防ののち2機のスカイブルー・イーグルによる戦闘は。

 

「くぅっ」

 

 偽物の優位という状況に陥っていた。

 

 同じ機体だから互角の勝負が出来るという俺が甘かった。

 外見はまったく同じスカイブルー・イーグル。

 だが明らかにマシンパワーの馬力に差が出ていた。

 何度も何度も改良を加えてバージョンアップしたという設定なのか。速度もプラズマも何もかもが俺のイーグルを上回っていた。

 

 更に加えて。

 

「行け、ビーク!」

『行け、ビーク!』

 

 ウィングスラスターからビットが射出され絡み合うが、俺のビットは奴のビットの動きについていけなかった。

 敵のビークの動きのそれはまるでセシリアが動かしたように滑らかで、AI制御であることを忘れさせられる程だ。

 更にここまでの戦闘でビークは3基に減ってしまい、今の攻防で残り1基………いや破壊された。

 

 更に更に加えて。

 

『ハッ!』

「来るか!」

 

 偽物はプラズマサーベルを発動。ビークと共にこちらに直進してきた。

 ボルトフレアはもう破壊されている。プラズマバルカンを撃ちながらバック瞬時加速(イグニッション・ブースト)で下がろうとするも相手の瞬時加速の方が一段早くて追い付かれた。

 

『Shall We Dance?』

「ぬぅあ!」

『ダンスマカブル・ブレードアーツ!』

 

 これだ。

 

 プラズマダガーを出すビークと両の手のサーベルを使っての高速多角連撃。

 母さんとは比べるまでもないが、それでも俺の我流のマルチプル・コンボアーツよりも密度がある。

 

『そらそらそらぁ!』

「だぁくそっ!」

 

 こればかりは全方位プラズマ・フィールドで対応するしかない。

 こいつがセシリアが生み出した国家代表としての俺のイメージなのだとしたら、明らかに母さんの技能がインプットされている。

 間合いから外そうにも相手の方が速度も小回りも効く。偽物から見れば五年前のイーグルなんか型落ちもいいところだ! 

 

「こなくそがぁ!」

 

 プラズマ・フィールドをバーストさせて衝撃波を放ち、一瞬だけ押し返した隙に横っ飛びで回避するも。躱しきれない斬撃が脚部のシールドエネルギーをごっそり削ってきた。

 

 さっきからこの繰り返し。余計なぐらい冷静に状況を分析できても打破出来ない。

 母さんより密度が低いとはいえそこはダンスマカブル。肉を切らせて全力回避ぐらいしか手がない。

 

 イーグル・アイも勿論強化されてるのか。先読み能力でこっちの攻撃がほとんどが当たらない。

 否、それに加えてセシリアの認識も入っているのか。それともこの空間事態が俺の動きをトレースする違法(チート)空間なのか。

 

「つらっ」

 

 思わず漏れる弱音に嫌気がさす。

 

『お前ごときにセシリアはやらせない!』

「どの口が!」

『セシリアは、俺が守る』

「だからどの口が!!」

 

 口を開けばセシリアの為だとかセシリアを守るだとか。

 

 これが一夏の偽物ならここまでイラつくことはないだろう。

 あいつは特別な感情抜きで誰であろうと守る為に戦える凄い奴だから。といっても一夏だとしてもあいつの似姿を借りて思ってないことを言われればそれはそれでむかっ腹が立つが。

 俺自身だとここまでハラワタが煮えくり返るとは。

 市街地上空でMと戦った時並みに怒りが込み上げてくる。そしてよりにもよってこんな奴に負けている自分が許せなかった。

 

 負けられない、負けたくない。

 だがこのままだと確実に負ける。

 

 嫌だ、こんな奴に負けるのだけは絶対に嫌だ。

 

 勝てる方法は………まだある。

 だけど使ったとしても勝てるのか。

 

 不安と恐怖が段々と蓄積され。それはISの操作にも影響し、敵の攻撃がこちらの防御をすり抜けた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

(勝負ありましたわね)

 

 地上からでもどちらが優勢なのかは明白だった。

 

 唐突に襲撃してきた亡国機業(ファントム・タスク)の残党が奪ったスカイブルー・イーグルは中々動ける相手だったが相手が悪すぎた。

 

 ISを動かして早5年。毎日毎日研鑽を重ね、国家代表となった疾風に敵う筈もなく。一方的にやられるだけだった。

 

 疾風の言う通り、援護する必要はない。

 このままテロリストがやられるのを待つだけだ。

 

(………だというのに)

 

 この胸に刺さるモヤモヤはなんなのか。

 

 テロリストが攻撃を受ける度に形容しがたい焦りが生まれる。

 何も不安に思うことも、疾風が負けるなどという心配などある筈もない。

 

 だというのに。テロリストが傷つく度に心がザワつく。

 

 セシリアが手を出せない理由は疾風に言われただけではない。

 セシリアは、テロリストを傷つけることを何処か恐れている。テロリストが負けることを何処か恐れている。

 

(何故? 何故顔も知らない敵にこんな想いを? 恋人である疾風の奮戦を喜ぶべきなのに。わたくしは何時からこんな薄情な女になってしまったのか)

 

 だからこそ不思議で仕方ない。

 ほんの少し。意識しなければ、意識してでも霞む程だが。

 彼に負けてほしくないと感じている自分が居るのだ。

 

 そして同時に感じる既視感。

 疾風と比べて拙いと思えたその動きは。何処までも人間らしく、そして数えきれぬ努力の果てにある動きだと。

 1日1ヶ月ではつちかうことが出来ない。

 

 スカイブルー・イーグル2号機の動きを。セシリア・オルコットは確かに知っている。

 そう、それは5年前。学生時代の疾風の動きそのもの………

 

 ピピッ。

 

「スカイブルー・イーグルからプライベート・チャネル?」

 

 何故このタイミングで。通常通信でも問題はない筈なのに。

 一瞬考えるも迷うことなく通信を開いた。

 

「疾風? 何がありましたの?」

『あー、もしもし』

「なっ! あ、貴方!」

 

 通信相手はなんといま疾風と戦っているテロリストだった。

 急いで切ろうとしたが、それ以前にある疑問に行き着いた。

 

「あなた、これはどういうことですの。何故疾風のスカイブルー・イーグルとまったく同じチャネルルートを」

『考えられることはあるが。どれも答えることが出来ないんだ、うおっと! あんたと話がしたい』

「話すことは何もないと」

『道化の戯れと思って適当に受け答えしてくれるだけで良い。あんたに、セシリア・オルコットに聞きたいことがあってな』

 

 またも馴れ馴れしく名前を、と怒声を口にしようとしたがはばかられた。

 本当に何故自分はこんな気持ちになっているのか。

 ただ一つわかることは、声も知らぬ彼と話すと胸のモヤモヤが少しだけ薄れたこと。

 

 上空で戦うテロリストは無闇に攻めず引きぎみに疾風の攻撃をいなしている。

 疾風は速度に物を言わせ執拗に追い詰めようとする。

 

「要件はなんでしょう。前もって言いますが、テロリストと交渉をするつもりはありませんわ」

『結構だ。本の少しお喋りをしたいだけだ。あんたはどうして国家代表になった』

「そんなもの。オルコット家の繁栄の為、愛する祖国の為ですわ」

『きっかけは?』

「それは………あなたに話すことでは」

『第一回モンド・グロッソで疾風・レーデルハイトと約束したんだよな。一緒にモンド・グロッソに出ようってさ』

「はぁ!?」

 

 これはどういうことなのか。

 それは疾風やチェルシーぐらい親密な人にしか話したことのない秘密。

 それを何故一介のテロリストが知り得ているのか。

 

「俺………いや、疾風・レーデルハイトが国家代表になった時。どんな気持ちだった」

「それは、勿論嬉しかったですわ。自分のことのように、夢に近づけたと」

 

 本当に何を話しているのか。こんな会話無意味で無駄でしかない。

 だというのに彼と話し続けるうち、胸に巣くっていたモヤモヤがほとんどなくなり。いつの間にかセシリアは安心感を得ていた。

 

「あなた、一体何者なのですか」

『凄く言いたいけど、口にしたら駄目っていう制約がついてるから話せないんだ、ごめんな。でもこれだけははっきり言うよ────必ずお前を助ける、セシリア』

「え?」

「あ、あと。お前って疾風って奴のことをどう思って、いや! これは後で改めて聞くことにする。それじゃ!」

 

 終始意味がわからないまま終わってセシリアは呆気にとられた。

 何を伝えたかったのか、何を確かめたかったのか。

 何故疾風との約束を彼が知ってるのか。

 

 何一つわからない。

 だが確かに分かることが一つだけ。

 

 彼が自分を助けたいということ。

 

 自分は満ち足りている。

 幸せに過ごしている。

 

 あと少しで疾風との約束を果たすことが出来る。

 最愛の人とこれからを過ごしていく

 そんな自分を何から助けるのか。

 あのテロリストに助けてもらう以前に。助けてもらう必要も覚えもない。

 

 だというのに。セシリアは彼の言葉が嘘だとはどうしても思えなかった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「あっぶねー」

 

 話の流れで欲が出てしまった。

 

「ふーー」

 

 だけど、あいつと話して元気貰えたし幾分か冷静になれた。

 必要以上に頭に上がっていた血も抜けてきた。

 設定のほつれなのか、抜け道をつけたのかわからないが無粋な妨害もなかった。

 

 それでも認識されないのって辛い、辛すぎる。

 

『排除する!』

「っ!」

 

 さて、状況を整理。

 

 推測だが。偽物の俺はセシリアの頭の中から俺の戦闘データ取り出し、それを元に行動している。

 やけにこっちの攻撃が当たらなかったり。こっちの動きを予測しているのはそのせいだろう。

 セシリアが俺をよく見ていてくれているというのは嬉しいが、それが敵に利用されるのであれば話は別。

 

 俺の今までの攻撃は通用しないと思って良い。同機体でレベル差が段違い、搦め手も正攻法も通じないならセオリーの戦い方はナンセンス。

 

 だからセシリアのデータにない攻撃が最適解となる。

 

「はぁ、またうじうじ悩んだ」

 

 状況を深読みしすぎて引きぎみになるのは俺の悪い癖。

 一夏の猪突猛進振りを見習いたいが、タイプが根幹から違うから無理だ。

 

 だからこそあえて無茶をしよう。

 先のことは後回しにして、いまこの瞬間全力で! 

 

「システム・スタンバイ。リミットカット」

《実行しますか?》

「イエス」

《承認確認。ODシステム、スタンバイ》

 

 イーグルの中に眠るシステムの鍵が開く。

 エネルギーが装甲を駆け巡り、プラズマが装甲の上で弾ける。

 雛が卵の殻を破ろうと内側からつつくように、イーグルの内側から力が競り上がる。

 

 敵も馬鹿ではない。スカイブルー・イーグルのイーグル・アイで自身のデータにない出力を検知し、行動をに移してきた。

 

『未知の出力を検知、対処、破壊する!』

 

 インパルスをバーストモードにし、瞬時加速を準備する。

 

「お前は強いんだろうな」

 

 いつか俺が至る道の先なのだろう。

 圧倒的に強い。普通なら勝てない相手だろう。

 

 だが何処かで思う。勝てない相手じゃないと。織斑先生や母さん程ではないと。

 

 俺は強くなる。いまのセシリアが考えているより強く。

 優勝を勝ち取り、いつか俺もブリュンヒルデになる! 

 セシリアと一緒に夢を叶えるんだ。だから! 

 

「こんなところで、止まれるかっ!」

《オーバードライブ、レディ》

 

 エネルギー回路全接続。

 エネルギー供給量MAX。

 プラズマサーキット臨界点。

 PICコントロールフルオート。

 各部装甲スリット展開。

 余剰エネルギー放出。

 

 イーグルアイの唾帽子の形が前後にスライド。

 スカイブルー・イーグルの肩、両腕両足の装甲スリットが開きマルチプルウィングは一回り大きくなり、そこからプラズマが溢れかえった。

 その姿は、まるでプラズマの剣で出来たハリネズミのようだった。

 

 偽物は急激な変化に臆することなくバーストモードのインパルスを振り抜いた。

 インパルスは狂うことなく俺の身体を捕らえたが、手応えがなく虚しく空を切った。

 

『??? っ!?』

 

 頭部に衝撃。膨大なプラズマの塊をぶちこまれた偽物はそのままアリーナのバリアに激突し、衝撃を殺しきれず壁にぶち当たった。

 

 当てたのはバーストモードのブライトネス。

 だがブライトネスのスリットからは絶えずプラズマが飛び散り、空気がパチパチと光っていた。

 

「なんですの、あれは」

 

 絶えずプラズマを吹き出したスカイブルー・イーグルの姿にセシリアは目を丸くする。

 あんな姿は見たことも聞いたことも………

 

 ──お前にいの一番良いのを見せたいし知らせたいんだ。今日の最終調整終わったら一番に見せるからさ──

 

 いや聞いたことはあった。

 だがそれはいつ? 

 思い出せないが、頭はそれを覚えていた。

 

『抹殺する! 死ね!』

 

 偽物が体勢を立て直し、連続で瞬時加速。

 個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)というオリジナルでさえ使ったことのない荒業で肉薄し。模倣した殺意を込めて斬撃を……

 

「見える!」

 

 突き出されたブライトネスを右足で蹴りあげ、左足のプラズマブレードで切り裂く。

 過剰に供給された脚部ブレードは剣というより斧と評されても遜色のない大きさとなり、切り裂くというより叩きつけるように蹴りを見舞った。

 

 見えた。動きの先が、イーグル・アイのリミッターも解除され、膨大な情報の渦から最適解を組み上げた。

 

 一見人のそれと遜色ない動きでも、魂がなければそれはAIの挙動。

 近づくまでの何通りものルートは絞り込める。そこから予測してそれを防いだ。

 

 蹴り飛ばされた偽物は一度距離を積めるためにスペックアップした速力で退避しようとした。

 

「行くぞ! イーグル!」

 

 全身の余剰プラズマエネルギーが更に輝き、プラズマが空気をぶっ叩いた。

 プラズマを全開で乗せた瞬時加速は二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)に匹敵し、そのままロスタイムなしで瞬時加速を連続で発動する。

 

 驚異的なまでの速さを前にしても偽物は逃げおおせることは出来ないと理解できず全開でスラスターを吹かす

 

 インパルスをコールし即時バーストモードで抜刀。

 逃げきれない偽物の背中に渾身の力を込めて叩きつけた。

 

「いつっ………」

 

 小さくピキッと筋肉が強ばった。

 PICで庇いきれないGが身体にのし掛かったからだ。

 

 スカイブルー・イーグルの新機能【オーバードライブモード】

 

 全身のプラズマコンデンサーや装甲各所に溜めていたプラズマを一斉放出し、機体スペックを文字通り爆発的に増大させる機能。

 発動時は各部の装甲に収まりきらないプラズマをプラズマソードとして放出。その一つ一つがプラズマスラスターとしての役割を持ち。放出されたプラズマ粒子はそのままシールドとして機能する。

 制限を取っ払ったイーグル・アイの情報索敵演算能力は擬似的な未来予測すら可能にする。

 

 早い話がリミッター解除。

 だがルール規定ギリギリを攻めたその機能は単純な出力アップと言える程便利な物ではない。

 

 過剰に駆け巡る各部のプラズマが暴発、崩壊しないようにイーグルの管制制御システムを限界以上に動かし、それを統括しているイーグル・アイもオーバーフロー一歩手前まで稼働している。

 そしてPICによって身体的負荷をカバーリングしているとはいえ、その予測を越える動きをすれば肉体に負荷がかかる。

 その上弾けたプラズマが人体に影響のないよう。それを防ぐ為のシールドエネルギーが少しずつ減っていく。

 

《警告。システムの強制解除まで、残り30秒》

 

 おまけに燃費は零落白夜並みに最悪。安全性や操作性を含めればそれ以上だ。

 未調整ゆえ、強制解除されてしまえばろくな戦闘機動が出来ない可能性すらある。

 つまりこの数十秒で奴に勝てなければ俺は敗北する。

 

「上等だっ!!」

 

 飛んでくるボルトフレアをプラズマ力場で弾き、飛んでくるビークも身体のプラズマソードで一つ残らず溶断した。

 

『データ予測該当なし、対応策、不明!』

「もっと人っぽく喋りな!」

『俺はセシリアを守る! 守らなければ』

「馬鹿の一つ覚えだなぁ!!」

 

 余分な言語野を持たない劣化コピーの喉元に食らいつく。

 振られたインパルスをインパルスでバラバラにし、突き出されたブライトネスも正面からブライトネスをかち合わせて粉砕。

 ブライトネスの衝撃が敵の左腕に響き絶対防御を発動させる。

 苦し紛れにプラズマサーベルを振るったものの残像を切るばかり。

 

 友人と切磋琢磨し、磨き上げられた愛機と日本代表候補生のそれは偽りの5年で培われた日本代表の腕前を遥かに凌駕していた。

 

「そらそらそらそらぁ!!」

 

 インパルスのプラズマソード、ブライトネス、全身のプラズマソードを使って上空にカチ上げていく。

 

「くっ、まだまだぁ!!」

 

 急速方向転換による連続攻撃。

 戦闘機の急旋回程ではないにしろ、急速転換する度に圧と痛みが走る。

 

 それでもやるんだ。ほぼ無傷のこいつを仕留める為には。

 十数回の切り抜けののち左手のブライトネスが負荷により爆発した。

 

 その勢いのまま上昇。

 インパルスを両手で握りしめ、眼下の偽物を睨み付ける。

 

《回路直結。インパルス、全リミッター解除。オーバーバースト》

 

 全身のプラズマソードの光が半分に戻ると同時にインパルスのプラズマソードが更に輝き、大きさを増した

 

 通常でも巨大なプラズマの槍を形成していたプラズマは刃渡り2メートルのバスターソードとなった。

 

「これでぇ!!」

 

 ブゥン! と音を鳴らしながらプラズマバスターソードを偽物に振り下ろした

 

 偽物は最後の抵抗として最大出力のプラズマ・フィールドで防ごうとしたが。抵抗虚しく叩きつけられたプラズマバスターソードにフィールドを切り裂かれた、無防備な腹に巨大な雷刃が食い込んだ。

 

『GAAAAAAA!!』

「終わりだあああっ!!」

 

 きしむ痛みに歯を食いしばる。

 腕の感覚はもうない、頭もボヤける。

 イーグルもエラー表示なりっぱなし。

 

 強制終了まで、5、4、3………

 

「ぜえええええぇぇぇいぃっ!!」

 

 最後の力を振り絞り、インパルスを振り抜く! 

 

 最大最凶の攻撃力を持って、偽スカイブルー・イーグルのシールドを根こそぎ狩り尽くした。

 

『損傷、甚大、形状維持………困難』

 

 そのまま地面に叩き伏せられた偽物はノイズを発しながら動かなくなった。

 

《オーバードライブモード、強制終了。強制排熱開始》

 

 ブシューーーー! 

 

 プラズマの奔流は収まり、排熱の水蒸気が装甲のスリットから勢いよく吹き出した。

 

《PICに異常発生。機体温度上昇。全兵装使用不可。イーグル・アイ、オーバーフローにより最低限の機能を保持しシャットダウン。シールドエネルギー、残り8》

 

 壊れていないだけでボロボロだ。

 

 ぶっつけ本番とは言え、流石に無茶をし過ぎた。

 現実世界のイーグルに異常がないと良いんだが。

 

「さて」

 

 これで終わってほしいと願いながらセシリアの方を向いた。

 

 スカイブルー・イーグルのフルフェイスモードは。まだ解除出来なかった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

(疾風が負けた。いや、あれは本当に疾風? 違う、テロリストは疾風だった?)

 

 疾風がテロリストに敗北した瞬間、セシリアにかけられたワールド・パージに綻びが生じた。

 アリーナの背景にノイズが走り、豪邸やイギリスの街並みが重なっていく。

 

(わたくしは何を? わからない、何がわからないのかもわからない。でも何かがおかしい。くっ、頭が痛い………)

 

 頭を抑えるセシリアにテロリストが歩み寄ってきた。

 ゆっくりと歩み寄る彼にセシリアは残された防衛本能に従って銃を取った。

 

「と、止まりなさい! それ以上近づけば撃ちますわよ!」

 

 ブルー・ティアーズのレーザービット8基とスターライトMK-Ⅳの銃口がテロリストに向けられる。

 セシリアの警告にテロリストは素直に止まって両手を上げた。

 もはや戦う力が残ってないのは明白だったが。それでも彼は無抵抗を示した。

 

「まだ目覚めないのか? 意外とお寝坊だなセシリア。寝起きは良い方だと思ったんだけど」

「あ、貴方は本当に何者なのですか。いい加減素顔を見せなさい!」

「見せれたら見せたいって言ったろ。見せたらお前を助けることが出来ないんだ。てか俺別に声変わってるつもりないんだけどな。仮面による認識改編でも起きてるのかな、ありえるな」

 

 撃たなければいけない。

 だが引き金を引く指はとてつもなく重かった。

 

「なぁ、なんで援護しなかったの? 相方のピンチの時にさ」

「そ、それは。手を出すなと言われたから」

「そうかい? お前のことだから無理をしてでも助けるんじゃないかとヒヤヒヤしてたが………いや意外とそうでもないか? イギリスで楓を助ける時、最後まで俺に任せたよな」

 

 訳のわからないことをブツブツ呟くテロリスト。

 だがそれに怒りを感じることはなく。今も灯ってる怒りの炎も揺れに揺れている。

 セシリアの中には確かに恋人を打ち負かされたが故の怒りがある。

 

 だというのに手を出せなかった。

 撃てば疾風(テロリスト)を撃ってしまいそうだったから………

 

「………まだ完全に目覚めてないってことは。生きてるってことだよ、なあ?」

 

 テロリストが振り返ることなく呼び掛けると、疾風はクレーターの中から立ち上がろうとしていた。

 スカイブルー・イーグルにノイズを纏いながら。その黒と金の目をギョロリと動かして。

 

『せ、セ、セシリア………マモ、る』

「なんつーか自我芽生えてないかお前? 菖蒲の時はガチで機械的だったのに。簪が手強いって言うわけだな」

『セシ、セしりア。そいつ、ウテ。フタリデ、倒すンダ!』

「だってさ。どうする?」

「どうするって………」

 

 後ろにいる疾風は本当に疾風なのか。

 疾風だけじゃない。世界の全てにノイズがかかり、セシリアは目眩を引き起こした。

 

 だがただ一人。ノイズだらけの世界で疾風(テロリスト)とスカイブルー・イーグルだけがはっきりと存在していた。

 声も一片のノイズはなく。クリアな声がセシリアの鼓膜を優しく揺らしていた。

 

『セシリあ! ウて! そいつを、ソイつを倒すんだぁアぁ亜ぁぁ愛ぁぁああ!!』

 

 ノイズまみれの???(疾風)が絶叫しながらプラズマ・サーベルを手に突進した。

 狙いは勿論テロリスト。このまま行けばサーベルがテロリストの身体を貫くだろう。

 

 だがテロリストはソレに目もくれずセシリアの方を見続けた。

 何かを待つように、無抵抗のまま。フルフェイスの奥からセシリアを見ていた。

 

『撃テ! 撃つんダ!!』

「わ、わたくしは」

『撃てぇェェ!!』

「わたくしは………!」

 

 

 

 

 

「撃て」

「っ」

「撃て! セシリア・オルコット!」

「!!」

 

 

 

 ビシュン! 

 

 9つの青いレーザーが放たれた。

 その光は真っ直ぐテロリストの元に向かい───直前で折れ曲がった。

 

『ギッ!!?』

 

 偏光制御射撃(フレキシブル)

 テロリストをよけるように歪曲したレーザーはそのまま背後の疾風(偽物)の身体を余すことなく撃ち抜いた。

 

 バジャンと白いポリゴンの塊となった偽物が弾け。ポリゴンの霰がテロリスト(疾風)にぶつかって弾けた。

 

 楔が砕けたことにより、虚構の世界は徐々に崩壊し、白く塗りつぶされていった。

 

 それと同時にイーグルのフルフェイスモードが解除され。その素顔があらわになった。

 

「ハハ、ちょっと肝が冷えた」

「疾風」

 

 セシリアの頭を覆っていた甘い霧が振り払われた。

 

 最近少しだけ伸びた癖のない黒い髪。

 飾り気のない眼鏡の奥には何処か生意気な雰囲気で、それでいて子供っぽい瞳。

 同じ境遇の男子と比べれば見劣りするものの。間違いなくかっこよくて、誰よりも頼りになる男。

 

 疾風・レーデルハイトの顔がそこにあった。

 

「セシリア」

「はい?」

「ナイスショット!」

「………フフっ」

 

 満面の笑みでサムズアップする彼の姿にしばし呆気に取られたあと釣られて笑ってしまった。

 そして彼女はいつも通り自信満々に笑みを浮かべてこう返すのだった。

 

「当然ですわ!」

 

 彼女はセシリア・オルコット。

 

 愛しき彼との約束を胸に、国家代表を目指すイギリス代表候補生である。

 

 

 

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