IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
偽物の俺がセシリアのフレキシブルで爆発四散し、俺たちは無事に現実世界に戻ってこれた。
囚われた他のメンバーも無事に帰還出来た。
これでめでたしめでたし………とはいかず。
「………」
「起きないわね、一夏」
俺より先に救出に行った一夏がまだ目を覚まさないでいた。
ミイラ取りがミイラになるのは洒落にならなすぎるぞ一夏。
「もしかして、わたくし達のように敵の罠に囚われているのでは」
「それはないと思う。システムはもう解放されたし。電脳ダイブから帰還した形跡があったから」
「じゃあ単に寝てるだけかコイツ?」
「だといいのだが」
「でももし何かあったら」
「ちょっと、滅多なこと言わないでよ」
「ご、ごめんなさい」
寝ほうけてるだけなら呆れるだけで済むが。敵は電脳空間に直接罠を作ることが出来る能力を持っている。
俺や一夏はなんなく助けるという選択肢を取れたが。もし途中直接的な妨害があったらと思うとゾッとする。
一抹の不安に皆が表情を曇らせる中、ラウラが一つ提案を出した。
「一つだけ一夏を目覚めさせる方法がある」
「目覚めのキスだとか言わねえだろうな」
「良くわかったな、その通り。キスだ!」
「はああぁぁっ!!?」
その通りなのかよ!
カッと見開くな目を!
「キキキキスってあんた何考えてんのよ!」
「ねねね、寝込みを襲う!? なんと背徳的な」
「だ、駄目だよ本人の同意なしにだなんて!」
ほら見ろ一夏ラバーズが揃ってバグった。
………心なしかこちらのお嬢様組もソワソワしているのは見なかったことにしよう。
「ふっ知らぬのか。眠りし嫁を目覚めさせるには愛の口付け。キスをすれば永遠の眠りすらたちまち目を覚ます………と副官がさっき言ってた」
「その副官クビにしなさいよ………」
「てかお前も受け売りじゃねえか」
他人の受け売りを自信満々に言いやがって。
そして相変わらず出てくる副官。一度会ってみたいぞこのやろう。
とその場にいる者を置き去りにし、ラウラはスタスタと一夏の唇の元へ………
「待てーい! 抜け駆けは許さん! ここは一夏と一番長く過ごした幼馴染みの私がやるべきだ!」
「そ、それならあたしだって負けてないわよ! あたしだって幼馴染みだし!」
「前から思ってたけど。こういう時声高に幼馴染みを主張するのはズルいと思うな。僕なんて一緒にお風呂入ったんだからね!」
「貴様ら! 嫁の唇は私のものだ! 嫁のファーストキスをゲット出来なかった敗残兵は去るがいい!」
「「「不意打ちで奪った癖になに言ってるんだ!!」」」
ラウラもわざわざ言わずに速攻でやれば良かったのに。
ワーワーギャーギャーと取っ組み合い一歩手前の口論合戦が始まった。
例によって終わりの見えない平行線なのは明らかなのでこれ以上関わらないことに放置を決めた。
「じゃあ疾風。ここに寝て」
「いやなんで?」
「私が目覚めのキスをするため。寝てるフリでもいい。さ、レッツゴー」
ワッツハップン!?
「簪さんなにを言っておりますの!?」
「私のキス、嫌?」
「嫌だよ! 現在進行形で起きてるから! セシリア見てるでしょ!? 見てなかったらいいという訳じゃないけど!」
「大丈夫、寝させる方法ならある」
「おぉぉい簪さん!? なんか物騒なもの持ってるんだけど!?」
バチチチチとスタンガンを持ちながら迫る簪。
ほんとどうしたの簪!?
「簪様。なんとも貴方らしくないというかなんか焦っておりません? あ、疾風様。簪様の次でいいので私もしていいでしょうか。目覚めのキス」
いいわけないよね!
君たちは俺を破滅させる気かな? またセシリアに嫌われたらマジで精神的に死ぬる!
「だって、だって皆………ズルい!!」
おお、今日いち声が出たな簪よ。
「私だけ管制室でモニタリングするだけだったし。敵の罠にもかかってなくて。みんなはみんなで良い思いするし。私だってセシリアみたいにあんなIFを味わってみたいし、あわよくば鈴や菖蒲みたいにR―18的な展開もしてみた………」
「「うわ、うわぁぁぁ!!?」」
顔を真っ赤にした鈴と菖蒲がとんでもカミングアウトをしかけようとした簪の口を塞ぐ。
あー、鈴もあそこで女の欲望MAXしちゃったのか。
「あ、あああんたなに言ってるのよ! そんなエッ! な展開あるわけないじゃない!」
「そそそうですよ! あんな男のフェロモン抜群な疾風様は私だけの物ですから!」
「論点そこかよ」
「あなたたち。願望とはいえ少しは節度を持った方が宜しいのではなくて?」
「「ムッツリスケベ代表に言われたく
「「ムッツリスケベ代表!?」」
思わず反応してしまった。
セシリアってムッツリスケベだったのか。
とそんな視線を察知したのだろう。セシリアが頬を赤くしながら積めよった。
「違いますわよ疾風! あなただって見たでしょう!? 私の精神世界みたいなものを! 健全だったでしょう!?」
「あ、え、と。もしかしたら俺が来る前になんやかんやあったりするんじゃって………」
「ありませんわよ! 皆さんとは違うのですよわたくしは!」
「待て! 私はお前達とは違う! 私の願望は一夏と道場を継ぐというド健全な物だったんだからな! なあシャルロット!?」
「うええ僕ぅ!? (言えない! 俺様一夏とのスケベ主従婚約プレイだなんて!!)」
ボシュ! っとシャルロットが赤パプリカ状態に。
わかりやすい奴め。
「因みに簪はどんなシチュがお望みで」
「ふえ!? えっと、えっと。窮地を疾風に助けてもらうとか」
「この間やったねそれ」
「あ、そっか。じゃ、じゃあそこからR展開に」
「やめとけやめとけ。お姉ちゃん泣くぞ」
「疾風が聞いたくせに………」
ごめん。知的好奇心が。
てか完全セクハラだねこれ。疲れてるのかな俺、いや疲れてるな確実に。
簪はポソポソと赤くなっていく。
うーん、控えめに可愛い子。並みの男は瞬殺だね。得に眼鏡層から。
「とにかく私はドスケベではない!」
「それなら僕だって少し人生設計考えてただけだし!?」
「アタシなんて古き思い出を振り返ってだねえ!」
「とにかくわたくしたちは健全ということですね箒さん」
「そ、そうだなセシリア。私たちは破廉恥ではない!」
「「ダウト!」」
「何故だ!?」
「何故ですの!?」
「五月蝿い! この一年組の上半身担当と下半身担当みたいな身体して! 私はどうせオールフラットよ!!」
すげぇ。鈴がスタイルで自虐ネタに走った。
どんだけ追い詰められてるんだ鈴は。頭からなんか煙吹いてるし。
あれ、そういやラウラは何処に………
「あの、失礼ながらお三方」
「「「なんだ!」」」
「ラウラさん行ってますけど。キスしに」
「「「なにぃぃ!?」」」
いつの間にかどさくさ紛れに勝負決めに行ってやがる。
一夏との接触まであと数秒。
「「「させるかぁぁぁ!!」」」
「ふっ、甘いわ!」
箒たちの周辺の空間が歪むと同時にビタっと空中で静止した。
ラウラの左手にはレーゲンの腕が部分展開されていた。
「な、これはっ」
「AIC!?」
「ちょっと待ってよ! あんたもパーソナルロックモードじゃないの!?」
「こんなこともあろうかとAICの部分展開だけは応急処置しておいた。ISを止めれる程強く拘束できんが。生身の人間相手なら造作もない!」
ものすごいドヤ顔のラウラを前に箒たちはなんとも言葉で表現できないほどの苦悶の表情のままラウラを睨み付けていた。
「おい待て! やはり同意無しはまずいと思うのだが!」
「フン、この期に及んで命乞いとは滑稽な。そこで黙って見ていろ。愛する夫婦によるキョードーサギョーをなぁ!」
「共同でもなんでもないでしょうが!」
「ああ! このままじゃ一夏がまたズキュウウウン! なことに!」
「んーーー」
「や、やめろぉぉぉぉ!!」
あーこのままでは一夏のセカンドバージンがラウラの物にーー(棒)
ん? 止めないのかって?
まあ大丈夫でしょう。
「おい小娘ども。なにを騒いでいる………ほう」
最強の防衛装置が来るし。
「きょ、きょうかん」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「ハヒ」
「何をしたか簡潔に答えて見せろ」
「こ、これは我が同胞にして副隊長のアドバイスを元に実行する究極の覚醒方法で………」
「では責任は副隊長にあると?」
「いえ! 部下の責任は隊長である私の責任デス!」
「そうか」
フーーと大きく息を吐いて目を覆う一夏のお姉ちゃん。
そう。教師であると同時に一夏の姉である織斑千冬が立っている。
「ボーデヴィッヒ」
「ハイ」
「いまお前は何をしようとした? 私は意識のない織斑に無理矢理キスをしようとしたように見えたが?」
「ち、違います! これは眠り姫を起こす魔法のキスで………き、教官にもそういうロマンは理解できるかと」
「見ず知らずの顔だけ王子に唇を奪われるぐらいならそのまま永眠した方がマシだ」
「ヴェ………」
「「うわぁ」」
夢がねえ。確かにそうだけど。
現代社会的に考えたら確かに犯罪かもしれないけども。
わかってたけどこの人にロマンチックとDプリンセス属性は欠片もないな!
だがラウラもここで引かなければ只ではすまないことはわかっている。
だが自分が嘘をつけない性格なのはラウラ自身一番わかっている。
ここはありのままを言うしかない! ラウラはありったけの勇気を武器に打って出た。
「教官! これは夫婦の問題です! いかに教官といえど」
「何が夫婦だ馬鹿者。私はお前のような不躾な
「ぐふぉぉぉぉあああ!!」
不沈艦(仮)ラウラ・ボーデヴィッヒ、轟沈。
パタリと倒れたまま動かない。再起不能だ。
「更識。織斑は動かしてもいいのか?」
「は、はい。意識は電脳空間から戻っています」
「そうか。よっと」
うわ言のように呟くラウラをガン無視し。一夏を抱き上げてそのまま俵運びで持ち上げた。
「織斑は医務室に持っていく。お前たちは山田先生が来るまで待機しろ」
「はい」
「今日はご苦労だった。ゆっくり休めよ」
高校男児を軽々と運びながら織斑先生は部屋を後にした。
これにてIS学園を巡る電脳事件は幕を下ろしたのであった。
「教官に嫌われた………教官に嫌われた………教官に嫌われた………教官に嫌われた………」
「ねえこれどうすんの?」
「壊れたカセットテープみたいになってる」
ーーー◇ーーー
「ん………」
微睡みから覚め、一夏はゆっくりと起き上がった。
「あれ、ここ医務室?」
みんなを助けるために電脳ダイブをしたはず。もしかしてここも電脳世界だったり?
「あら、起きたの?」
「楯無さん?」
隣に楯無がいる。
一夏は何気なくカーテンをサーっと開けた。
「え?」
「あっ」
その先には着替えようとブラをつけようとしている楯無がいた。
重要なのはつけようと、していることである。
つまりいま楯無は上裸で、その瑞々しい二つの果実が露になってる訳で。
「うわぁぁ!! すみませんすみませんすみません!!」
急いでベッドに飛び込み、毛布にくるまって見てませんアピールをする一夏。
だが見てしまった物はありありと脳内に焼き付かれ、一夏は心のなかで念仏を唱えた。
「一夏くーん。ノック無しに開けるのは君の悪い習慣だぞー?」
「ご、ごめんなさい!」
「そんな悪い子はこうだー!」
「え? のぉわ!」
カーテンを突破して楯無が一夏の毛布に潜り込んできた。
それと同時に胸を押し付けるのも忘れない。
「なんでベッドに入って来てるんですか!」
「怪我人だからよー」
「怪我人だったら大人しくしてて下さい。撃たれたんでしょう?」
「ウフ、ありがとう。でも大丈夫、お姉さんは身体だけは丈夫だから。これぐらい日常茶飯事だし」
「それでも無理しないで下さい。みんなが悲しみます」
「一夏くんも?」
「俺もです。気を付けてください」
「はーい気を付けまーす」
背中越しに伝わる体温を心地よく感じながら楯無は心地良さそうに目を細める。
これ以上言っても無駄だと、一夏はもう一度眠ろうと目を閉じた。
が、変に頭が覚めて寝られない。
楯無も何故か胸が高なって仕方がなかった。
「今日の一夏くんカッコよかったなぁ。私のピンチに颯爽と駆け付けてくれて」
「そんなの、当たり前じゃないですか」
「私は嬉しかったのよ。今まで誰かに助けられることなんてなかったから」
「今日に限らず何かあれば助けになりますから」
「ありがとう。一夏くんほんと優しいなぁ」
惚れちゃいそうなぐらい。
楯無は頭のなかに浮かんだフレーズを反芻したあと一つの決心を固めた。
「ねえ一夏くん」
「はい」
「私の名前、楯無なんだけど。あれって本名じゃないのよ。先祖代々襲名されたものなの」
「そうなんですか?」
「ええ。だから、その。私の本当の名前、一夏くんにだけ教えてあげるね」
そっと一夏の耳に吐息がかかる。
明らかに熱がこもった息に一夏は思わずドキッとした。
「私の真名は。更識、刀奈」
「かたな、さん?」
「うん。時々読んでくれると嬉しいな。二人っきりの時とか」
「わ、わかりました」
本当の名前。
何故そんなことを教えてくれたのか一夏はわからなかったが。それが楯無、いや刀奈にとってとても大切でなことだけはわかった。
一夏は楯無について知らないことが多い。だが本の少し彼女のことがわかって嬉しかった。
そんな彼女にお礼を言おうと一夏は振り返った。
「楯無さん?」
「はい?」
「なんか凄い顔赤いですけど。大丈夫ですか?」
「ふえ?」
楯無の顔が紅椿に負けないぐらい深紅に染まっていた。
一夏にとって知るよしとないことだが。更識楯無が他人に真名を教えるということは大事なことを意味する。
楯無の真名は家族以外に教えてはならない。
もしくは、家族になる者以外に教えてはならない。
つまり、楯無は一夏にプロポ………
「うひゃあ!?」
「楯な、刀奈さん?」
「か、刀奈って呼ばれちゃった………えいやぁ!」
「え? うおわ!」
あっという間に視界が周り、楯無が一夏に覆い被さった。
もとい、押し倒された。
「し、しなさい!」
「はい?」
「わ、私にも………えっちなこと、しなさいっ」
「………………………え?」
一夏の頭がショートした。
いつものからかいに見えたが、いまの楯無には謎の凄みがあった。
「か、簪ちゃんに聞いたのよ! 電脳世界で女の子相手に好き勝手いやらしいことしてたんでしょう!? 生徒会に無許可で、生徒会長にも無許可で!」
「い、いや、あれは侵入者のトラップで、そういう如何わしいことしたのは俺の偽物で」
「一夏くんがしたことに変わりはないのよ!」
「そんな無茶苦茶な!!」
一夏にとって冤罪濡れ衣も良いところだがいまの楯無は羞恥と後戻り出来ない状況に正常な判断が出来ていなかった。
グルグル目の楯無に一夏は対話不可能だということを悟ってしまった。
「さあ私には何をするのかしら!? 制服半脱ぎプレイ? 逆主従プレイ!? 媚薬理性蒸発プレイ!? 原点に戻って裸エプロンかしら!? 勿論ニップレスなし完全版の!」
「おおお落ち着いて下さい楯無さん!」
「いや、いっそのこと逆レ○ププレイも」
「楯無さーーん!!」
何故こうなった! 俺はまた何かしたのか!?
人生最大と言っても過言ではないトラブルを前に一夏は抵抗の術すらなくなって………
「一夏! 目を覚ましたのか!」
「え? 箒?」
「………む?」
一夏のお見舞いに来た箒が医務室に入った途端固まった。
真偽はどうあれ。箒から見て、その様は絶賛致してる最中の事案現場で………
「少し目を離した隙にこれか一夏ぁぁああ!!」
「なんで俺だけぇぇぇ!?」
ーーー◇ーーー
「まったくお前は。少しは情緒というものをだな!」
「だから誤解だと」
「聞く耳持たん!」
「ほーきー」
元気になったのなら寝る必要もないな! と一夏を無理矢理ひっぺがえして寮に向かうなか。箒はズカズカと一夏の前を歩いていた。
先程から弁明しようにもこの有り様で、一夏はもう諦め状態に入っていた。
こうなった箒は熱が冷えるまで待つ以外手段がないことを知っているからだ。
しばらく無言のまま歩き続けたが。変な沈黙に耐えられなかった一夏が口を開く。
「なあ箒」
「なんだ」
「えっと、その………」
「じれったい。男ならはっきり物を言え」
「………電脳世界の俺って、箒の理想なのか?」
歩を速めていた箒が振り返った。
そこには不安げな顔をしながらも、強い眼をした一夏がいて。
「な、何を」
「あそこにいた箒。俺が見たことないぐらい笑ってた。箒ってあんな風に笑えるんだなって思えるぐらい。箒ってあれぐらい強い奴が好みなのか?」
「どどどどうした一夏。お前本当に一夏か!? いや、まだ敵の罠にはまっているのか私は!!」
「落ち着けって」
落ち着いた。
「箒がアイツに笑顔を向ける度に凄いイライラした。胸も凄いモヤモヤして。アイツを早くぶったおす! ってなって」
「ふん、なんだ。思春期らしく嫉妬でもしたかお前」
「嫉妬………そうだな、嫉妬した」
「な、なにぃ!?」
落ち着けなかった。
「ほ、本当にどうした一夏。お前らしくないぞ。電脳世界で何かあったのかお前」
「………悔しかったんだよ。俺はあいつに勝てなかった」
「何を言う。最後の最後に1本入れたではないか」
「あんなの勝ちでもなんでもない。ただのまぐれだ」
あの一撃を入れるまで何十回も負けた。
最後のも本当にまぐれ当たりで、一夏自身は納得のいく勝負ではなかったから。
「簪が言ってた。あの空間は奥底にある願望の具現化だって。他のみんなは分からないけど。あの時あそこにいたのは紛れもなく箒が思い描いた織斑一夏だった」
「それは」
「箒は悪くねえよ。俺が勝手にイラついてるだけだから」
と言いつつも本当に悔しかった。
あの時箒を助けるという目的がなければとっくに折れていたかもしれない。
道場に通っていた時、一夏は子供にしては出来る程度の腕しか持ち合わせていなかった。
千冬や柳陰に勝てたことなど一度もなく。箒にさえ数えるぐらいしか勝てたことがない。
そして中学では家の為にバイトに専念して剣から離れた。
IS学園に入学してから久し振りに剣を握って箒にボロ負けにされて怒られた。まったくなってないと。今まで何をしていたのかと。
何もしていなかった。
剣道部に入らずとも、道場に習う時間はなくとも剣を振るうことが出来たはずなのにしなかった。
色んな理由をつけて剣を取ることすら忘れていた。
「俺とここで再会して勝負したとき、ガッカリしたよな。腑抜けに腑抜けてた俺に。弱くなった俺に」
一夏が剣を手放していた間も箒は剣道に打ち込んでいた。
重要人物保護プログラムで家族がバラバラになっても竹刀を振るい続け。全国大会で優勝するまでになった。
「だとしても、いまの一夏は弱くないだろう。何度も私たちを助けた、今回だって」
「いや、俺はまだ弱い。俺のせいで箒を助けれなかったかもしれなかった。俺は弱い自分が許せない。だから箒───俺は剣道部に入る」
「え?」
まったく予想だにしていなかった展開に箒の頭が一瞬真っ白になった。
今日のことがあったからというのはあるが。
一夏は前々から考えていたことだった。
ISの腕は上がった。機体の動かし方や零落白夜も想定されていた範囲まで扱えるようになった。
だが自分にとっての根幹である剣術が。過去、モンド・グロッソに出ていた千冬と比べて納得がいかなかったところがあった。
自分の剣が未熟であることも。
「また一から鍛え直す。もう一度竹刀を振るって、自分を見つめ直して、稽古する。昔みたいに」
「………」
「今すぐ追い付くなんて言わないけど、俺はもっと強くなりたい。だから、協力してくれないか。箒」
今まで生徒会や部活貸し出しが忙しいとかで剣道をやるということを無意識に避けていたことがあったが。
虚構の中にいた自分と戦ったことで。一夏は自分の未熟さで文字通り痛い目にあった。
だけどもう目をそらさない。
更に強く。虚構の織斑一夏に負けないぐらいに。
「……………」
「箒?」
先程からなにも反応がないことに気づいた一夏。
箒はうつむいたまま身体をプルプル振るわせていた。
今さら何を言ってるのかと怒ったのだろうか?
やぶ蛇をついてしまったのか。
一夏は恐る恐る箒の顔を覗き見ると………
「ぬ、ふふ。フフフ」
「箒?」
「フフフフフフフ」
「ほ、箒さん?」
なんと凄いにやけていた。
にやけるのを我慢しようとしたが全然我慢できてない顔面筋肉ゆるっゆるな剣道乙女の姿がそこにあった。
「そうか! そうかそうかそうか! 剣道部に入るか一夏!」
「ああ。本格的に入るのは部活貸し出しの後だと思うけど。たまに部室に顔を出せたらなと」
「私は嬉しいぞ一夏! お前が生徒会に入ってしまったからもうそんな望みはないと思っていた! こんなに嬉しいことはない!!」
「お、おう?」
子供の頃から箒のことは知っていたが。
ここまで嬉しさ全開の箒を一夏は見たことがなかった。
文字通り輝いてるようで、とても眩しい笑顔だった。
「そうと決まれば善は急げだ! 入部届け出しに行くぞ!!」
「ま、待て箒! ちょちょっ! まず楯無さんに確認を、うわわわ!!」
箒に思いっきり手を引かれ転びそうになる一夏は一つ思い出した。
千冬と一緒に初めて篠ノ之道場を訪れた時。
姉の影に隠れていた自分を「男が女の影に隠れるなど情けない!」と無茶苦茶なことを言われて道場に引っ張りこまれたことを。
ああ、自分たちはあの頃と何も変わっていなかったのだ。
「ハハっ」
「ん? どうした一夏」
「いや、なんでもない。早く行こうぜ!」
「ああ!」
夕焼けに染まる学園を二人は走った。
まるで欲しかったゲームを早くやりたい子供のように。
子供みたいな笑顔をしながら。どこまでも。
「ごめんなさい織斑くん。今日は事後処理があるのでまた今度でもいいでしょうか」
「「あっ」」
「それにしても本当に仲がいいですね二人とも。もしかしてずっと繋いでいたんですか?」
「「ヴァッ!」」