IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
IS学園の地下二回相当の区画には拘束区画、つまり牢屋があった。
そこに入れられてるのは勿論、捕縛されたアンネイムドたちだった。
「隊長、私死刑ですかね。だって失敗しましたもん。失敗しないことだけが取り柄、終わりよければ全て良しが座右の銘だった私が失敗ですよ? 拷問は嫌です、耐えれますけど痛いのは嫌ですし。いっそここで自殺した方がいいですかね? ねえどう思います隊長?」
「私から言えることは一つだけだ」
「なんですか?」
「黙れ」
「ハイ」
壁越しでもお喋りな副隊長も隊長の命令ならばお口チャック。
隊長は溜め息を吐いた。
副隊長は自分が任務失敗の原因であると言ったが、厳密に言えばそれは間違いだ。いや何もないと言えばそれはそれで違うのだけれど。
今回の作戦において隊長以外は捨て駒。隊長が目標をなんとしてでも確保することが今回の任務だ。
とにもかくにも、隊長は敗北した。
生身の人間相手にだ。IS乗りとしてこれ以上ない恥辱。そんな自分がどうして副隊長を攻められようか。
少なくとも我々に明日はない。日本製府に引き渡されて情報を引き出そうと拷問されて死ぬのが関の山。
いつか来る未来だ、悔いはない、後悔はない。
最後にアンネイムドのただ一つの誇りとして死ぬまで口を割らないことを厳守し、目の前に来るであろう終わりをただただ受け入れるべく眼を瞑った。
………暗がりの中で足音が響く。
誰か来る、ついにその時が来たかと隊長は眼を開けて彼女の問いに答えた。
「よう、気分はどうだ」
「あえて言うなら最悪だな、織斑千冬」
先ほど対峙したときとは違う黒のビジネススーツを着こなした千冬を前に隊長は吐き捨てる。
ただのスーツで武器も所持していないが、ここで襲いかかっても勝てる見込みがないことはわかっていた。
「お前たちの処遇だが、全員このまま帰ってもらう」
「………は?」
「聞こえなかったか? さっさとIS学園から荷物を纏め上げて母国に帰れ。お前たちのISも返してやる」
投げ渡されたのは自分たちのファング・クエイク2機、ストライカー1機の待機形態だった。
戦闘能力は軒並み取り除かれているが、それでも手元にISが戻ってきた。
最大の幸運として交換条件の一つは提示されると思っていたが。まさかの無償釈放。
流石の副隊長も声を出せず唖然とする。
「正気か? 人質ぐらいの価値はあると思うが」
「いるかそんなもん。と言いたいが学園の破損修理費と重傷者の治療費ぐらいは払ってもらいたいな。あとでうちの上司に取り立てて貰おう」
「何故そんな」
「変に波を立てれば血がのぼりやすいアメリカンのことだ。報復には報復をと過激なことをするのは目に見えている。こちらとしては被害は軽微、死者が出れば話は別だが出ていないのだからそこは些事だ。IS学園はアンネイムドとことを構えなかった、そういうことにしておけ」
千冬が言い終わると同時に牢屋の鍵が一斉に開けられた。
その言葉に嘘偽りないはない。それを問うことすら憚られた。
隊長が知るなかで、ここまで堂々たる精神を持ち、真っ直ぐ人の眼を見て話す人物を知らなかった。
強い、力だけでなく心も。
完敗だ。何から何まで、自分は織斑千冬に勝てないということをありありと見せ付けられた。
「秘匿回線、xxx0891-DA」
「ん?」
「私の個人回線ネットワークだ。これで私と連絡が取れる」
「何故教える」
「さあな。だがお前になら教えられる。そう思っただけだ」
「随分と人間らしく喋るじゃないか。いいだろう、覚えておく」
機密部隊の個人回線、それを教えるということは隊長のみならずアンネイムドとしても初の行為。
お国に知られればどうなるか。それも考えた上で渡されたコードを千冬は脳髄に刻み付けた。
「そういえばお前には名前がないらしいが。なんと呼べばいい。いちいち名無しと言うのもつまらん」
「皆からは隊長、ネームレス1と呼ばれてるが。好きに呼べばいい」
「………カレン・カレリア」
「なに?」
「いま即興で考えた。お前は見るからに無愛想だからな。名前だけでも可愛くしておけ」
カレリアは単純に響きだけだがな、と面白そうに言う千冬に何故か可笑しくなって笑った。
「フッ、特殊部隊のリーダーを捕まえて可憐か。趣味が悪いぞ」
「私からしたら可愛らしいことこの上ない。次会う時はもう少し愛想を覚えておけ」
「無様に負けた私には相応しいな。いいだろう。その名前、貰ってやる」
去り際に千冬に向けた隊長、カレンのそれは能面のようではなく、とても人間らしい笑みだった。
さようならを言わないのはせめてもの意地だったのだろうか。
「隊長隊長! 名前をつけられるってこれプロポーズと同義なのでは!? え、違う? ていうか私も名前欲しいです! いや元の名前は覚えているんですけどね? 隊長、名前つけて下さい! ニックネームでも可!」
「うるさいぞネームレス2。お前が惚れてるナンバー23にでもつけてもらえ」
「それはそうですね! 23! 名前つけてー! ついでに好きだぜ愛してる結婚しようぜー!!」
「うわ、副隊長困ります。自分はただの駒ですから!」
「良いじゃん良いじゃん! 同じセカンドマンにやられたもの同士仲良くしようぜい!」
「副隊長! 我々に恋愛など不要でって何処触ってるんですか! ヘルメット取らないで!」
シリアスな空気は副隊長の手で速シリアルに。
アンネイムドの異端児は伏線回収の如く23と名付けられた茶髪の男性に絡みに行った。
「随分と賑やかな奴だな。所属間違えてないか?」
「あれでもうちの最高戦力だ……」
「イレイズド、紹介してやろうか?」
「検討しておく」
ーーー◇ーーー
「おっ?」
「どうしました?」
「あれあれ」
視線の先には手を繋いで走る一夏と箒の姿が。
二人とも満面の笑顔でなんとも楽しそうに走り抜いていた。
「あら微笑ましいですわね」
「これで夕日の方に走ってたら完璧だったんだがな」
願わくば二人の姿を他ラバーズ、並びに女子に目撃されないことを祈らないばかりだ。
昼間の続きと今日のご褒美ということでカフェテリアで俺とセシリアはお茶をしていた。
ケーキの糖分がじゅわーーっと身体に溶け込んでいく気がする。
「今日は本当に」
「お疲れさまでした」
疲れた。
体力的にも精神的にも疲れた。
偽物の俺が愛を叫びながら襲いかかってくるってどんなホラーだよ。一夏なんか俺の倍の数こなしたってよ、あいつスゲーわ。朴念神スゲーわ。
あと副隊長のファング・クエイク見れなかったなぁ。
機密とか色々あるんだろうけど。せめてフォルムを脳内に焼き付けたかった。あーー。
何はともあれ、IS学園システムオールダウン&アンネイムド襲撃事件は無事に幕を下ろし。こちらの人的被害は楯無会長が重傷ということはあれど死者ゼロ一般生徒被害ゼロと言った上々の結果に落ち着いた。
「そいやどうだった。オーバードライブモード」
「前話していたものですわよね?」
「うん。あんな場面で見せたくなかったんだけどなぁ。調整も不十分で身体の負荷エグかったし、あれ現実世界でやってたら今頃全身筋肉痛だったなぁ」
「禁止機能じゃありません?」
「アウトだけど、ギリギリ規定ラインを切り詰めたんだよ。あの時は安全装置カットしてたし。実戦でやる時はもう少しマシになるよ」
「マシとは」
「んー、悪くて軽い筋肉痛になる程度?」
「それセーフですの?」
「セーフセーフ。戦闘機乗りと比べれば軽い軽い」
戦闘機乗りは9Gカーブとかブラックアウトレッドアウトなんてザラだからな。
ISにはそんなことないからほんと恵まれてるよ。
「今回はごめんなさい疾風。知らなかったとは言え、あなたに酷いことを言ってしまいましたわ」
「あー、応えたっちゃ応えたけど。一応俺を思って言ってくれたんだろ? 逆の立場だったら俺も言ってたと思うし」
「そう言ってくれるなら、助かりますわ」
「ていうかさ、最後の
「でも信じてたでしょう?」
「信じてましたとも!」
理屈や説明も出来ないが。
あの時は大丈夫だっていう確信があった。
セシリア・オルコットなら撃ってくれると。
「あと思い返してみればさ。俺嬉しかったよ。お前の願望が俺とのISバトルで、しかも代表になってて………夢とは言えあんなのに先を越されたのは我慢ならんけどもね!」
「フフッ。疾風ならきっとなれますわ。夢の中の疾風よりもっと強い国家代表に」
「むぅ、ありがとう」
そんな笑顔で言われたら引くしかないじゃないか。
ああもう可愛いなー!
「そういえば。停電になる前に何か言ってましたわよね?」
「え? あっ、あーー。えっとだな………」
「はい」
「…………ートしないか」
「はい?」
「デートしないか。イギリスに行く前に」
「で、デート!?」
デート。
男女が日時を決めて会うこと。その約束。
辞典的に特におかしなことは書いていないが。
一般的に言うならそれは特別なお出かけを意味する。
同性や複数人で行くのとは訳が違う。
ましてや好きな人と行くならなおのことだ。
「街の方で映画見たり、ご飯食べたり、勿論嫌じゃなければだが」
「行きましょう! 行きたいですわ! デート!」
「そ、そう?」
凄い乗り気だ!
良かった、断れたらどうしようかと。
「じゃあいつにしようか。明日は無理そうだから明後日とか?」
「ええ! デートと言えば待ち合わせですわね。学園の何処にしましょうか。いっそのこと思いきって街の待ち合わせスポットとか!」
「あ、いや。俺が部屋まで迎えに行くよ。あと、待ち合わせはなんとなくトラウマが」
「トラウマって。ああ、楓さんの」
イギリス旅行に行った時に待ち合わせで待っていた楓が心なき者の手によって誘拐されてしまい。酷い目にあったことは今でも夢に見る。
ブルー・ティアーズが万全の状態なら了承しただろうが。彼女を一人で待たせるのは不安が強い。
セシリアもそれを理解しているから納得しようとしたが。やはり女の子にとってデートの待ち合わせはロマンであり夢なのだ。
「待ち合わせしたかった?」
「出来れば」
「んー、じゃあしようか」
「え、いいんですの?」
「学園内なら大丈夫だろうし。俺も出来ればしてみたい。場所は………IS学園入り口のアーチのところで」
入り口のアーチ。
それを聞いてセシリアは思い出す。
俺とセシリアのターニングポイント。
お互いの思いを吐き出し。再会を誓った場所。
あの時も丁度こんな夕焼けだった。
「では明後日、アーチ前に集合で」
「わかった。プランだけど、なんか見たい映画とかある?」
「疾風が見たいもので構いませんわ」
「え、良いのか?」
「疾風のセンスに期待ですわね」
「うおぉぉ」
これは責任重大だぁ。
デートの定番恋愛もの? それともそれとも………
明後日のデートの内容を決めるという幸せな悩みを抱えながらすすった紅茶は生暖かった。
ーーー◇ーーー
知る人ぞ知る地下の高級レストラン。
荘厳な中に落ち着きがあり、壁にはズラリと年代物のワインが並ぶレストランにて
「なあ、スコール。本当に来るのか? あの篠ノ之束が」
「さあ?」
「さあって。てかなんで篠ノ之束の連絡先知ってるんだ?」
「あら、話してなかったかしら。私あの子と知り合いなのよ」
「初耳だな! え、なんで?」
「それは………来たみたいね」
「え、マジか」
うさみみに水色のドレス。紫色の髪。
ドアを開けて入って来たのは今まさに世界が追っているISの産みの親、篠ノ之束だった。
「来たよ。わざわざこんなとこに呼び出してなんのつもり?」
「ごきげんよう篠ノ之博士。さ、まずはこちらにいらっしゃい」
まるで親戚の子供に向けるような物言いにオータムは戸惑いを隠せない。
束は特に抵抗することもなくスコールの向かいに座るが。その顔はいつものニコニコ笑顔ではなく不機嫌な仏頂面だった。
スコールがベルを鳴らすと同時に料理が運ばれてくる。
スペアリブにスープ、ワインなど、どれも一級品の代物だ。
「なにこれ」
「せっかく来てくれたんだからもてなしたいじゃない? 美味しいわよ」
「ふーん。まあ貰えるものは貰うけど」
思いっきり不機嫌ですな束は微笑むスコール、何が起きてるのかわからず困惑するオータムをチラっと見てスペアリブにかぶりつく。
スープも皿で飲み干しワインも一息。デザートを啄みまた肉を食らう。
「おかわり!」
次々と運ばれてくる肉をテーブルマナーなど知らぬとばかりに食らいに食らって。またワインを飲み干して無造作に口をぬぐった。
「お気に召したかしら」
「美味しかったよ。クーちゃんのパンの方が美味しかったけど」
「それは良かったわ」
「毒の一つや二つ入ってると思ってたんだけど」
「必要ないしあっても効かないでしょ、あなた」
絶えず大人の余裕を浮かべるスコールを相手に痺れを切らしたのか頬杖をついてスコールに問うた。
「それで? この束さんを呼び出した訳は?」
「我々
「ジョークで言ってるなら笑えないし。私があんたらを嫌いなのわかって言ってるの?」
「正確には我々ではなく、我々の上に居るもの、でしょ?」
「等しくあんたらも嫌いだっての」
「あらつれないわね、束ちゃん」
(た、束ちゃん!?)
あの篠ノ之束をしてまさかのちゃん付け。
恋人のとんでもない一面に更に戸惑うと同時に、流石スコール! そこにシビアコ! というアホい思考が混ざってオータムは変な顔になった。
「なんとも久しい呼び方だね、スコールおばさん」
「おばさん!? スコールお前、篠ノ之束の叔母なのか!?」
「いまのは普通にマダム的な意味よ」
とうとう我慢できなくなったオータム。
スコールは常に笑みを絶やさずにクスクスと笑うなか束は以前不機嫌のまま。
「ていうかさあ………」
「?」
「交渉するんなら隣の奴なんとかしてくれないかな」
「っ!」
指でいじっていたスプーンを右に投げつけると、何もないところでカンと弾かれた。
その拍子で光学ステルスが解け、サイレント・ゼフィルスに乗ったMが露になった。
「バレないと思ったの? さっきから殺気ダダ漏れでうざかった」
「まさか。一応こちらも警戒してるのよーってポーズよ。開幕殺されるのなんて嫌だし」
「あっそ」
束はスコールからMに視線を移した。
しばらくじっと見つめていると、束は「ハッ」と小馬鹿にするように笑った。
「誰かと思ったら。君、眼鏡君にボッコボコにされたクソザコ蝶々じゃないか」
「なっ!」
「あれは面白かったなぁ。優位に立ってると勘違いした挙げ句一方的にボコボコにされて涙目になってんの!」
「貴様………」
「その癖セシリア・オルコットを弄んでいたと思ったら最後に一泡吹かされて激昂したところを顔パン? 流石に超ダサくてこの束さんも吹き出したよ、蝶だけに!」
「黙れ!!」
元々乗り気でない同行にイラついていたMにその煽りは堪忍袋の緒を全斬りさせるには充分過ぎた。
ビットを展開して束を包囲、スターブレイカーのバヨネットを束の首筋に当てた。
「やめなさいM、武器を下ろしなさい」
「ああいいよいいよ。こんな勘違いイキり女に束さんをどうこう出来る訳ないし。あっ、デザートくださーい」
「いい加減にしろよ!
「さえずるな、殺すぞ」
「いっ!」
震え上がるような低音にマドカは思わず後退り引き金を引いた。
だがそれは怒りからではなく、恐怖からの防衛本能からだった。
レストランの絨毯に弾痕が刻まれるが。束は一瞬姿を消し、そっとライフルの上に立った。
「なっ、はっ?」
「なんか勘違いしてるね。私は天才天才ってもてはやされて頭脳だけだーって思ってる奴いるけど──肉体も細胞単位でオーバースペックなんだよ」
そこからはもうあっという間だった。
なんのツールも使わず10の指で霧散したスター・ブレイカー。包囲していたビットも踊るように分解され、サイレント・ゼフィルスを構成するパーツを手足、胴の順番に解体し。最後は首根っこを捕まえて頭部アーマーがバラされ、Mの顔が露になった。
このまま痛め付けて身の程を教えてやろうと思った束だがMの顔を見るなりキョトンとした顔でジロジロ見始めた、と思ったら行きなり笑いだした
「ん、んーー? アハ、アハハハハハ! ちょっとなにこれ! とんだサプライズじゃない! アハハハハハ! これどこで拾ってきたのスコールおばさん!」
「ちょっと訳ありのルートでね」
「ふーん。君、名前は?」
「お………織斑、マド、カ」
「へー、織斑で、マドカ、ねえ。マドカってどう書くの? 円満の円に夏? それとも家族団欒の
「!!?」
「あれ当ったりー? やったぁ! 束さん天さーい! しっかしそれ自分で付けたのー? 一と千を越える
全てを赤裸々に晒され、マドカは何も出来ずにただただ立ち尽くすのみだった。
何故ならその名前、万冬夏の名はスコールにさえ教えていないのだから。
「余興は済んだところで、そろそろ本題と参りましょうか」
「本題? さっきのが本題じゃないの?」
「あんな詰まらないことであなたを呼ぶ訳ないじゃない。我々
スコールが一言二言を口にすると、束は僅かに表情を変えた。
篠ノ之束が、スコールの目的に興味を向けたのだ。
「本気?」
「本気よ。その為に
「ふーーん………いいよ乗って上げる。あなた達モノクローム・アバターに」
「よかった。これから宜しくね、束ちゃん」
「宜しく、スコールおばさん」
握手を交えることはなく、両者不穏な笑みを浮かべたままここに協定が結ばれた。
「束ちゃん?」
「なに?」
「握手するなら右手を出して欲しいかなぁ」
「うっさい」
ーーー◇ーーー
束とスコールの間に密約が交わされた時、クロエは
IS学園の物資コンテナターミナルにいた。
コンテナ中には食料、生活必需品に加え。ISの弾薬、新装備サンプルなどが送られることもある。
そんな港近くの倉庫にて銀髪の少女が汽笛の音を聞きながら情報整理をしていた。
「任務完了。即時撤退を」
近くのカフェにでも行こうと思ったが長居するには危険。センサーを欺瞞してるとはいえ、万が一千冬が来ようものなら捕獲されるリスクもある。
早く主の元に馳せ参じようと銀髪の少女、クロエは歩を進めた。
「止まれ」
「………」
「手を上げてゆっくりとこちらを向け」
「はい」
(はいって言いながら要求ガン無視かよ………)
手も上げずくるっと一回転半でこちらを向くクロエに疾風は呆れつつ部分展開したイーグルの右手を向け続ける。
セシリアと別れた時不意に目に入った見知った銀髪、だが服装がハイカラで違和感があった。
ラウラは真面目で学園内は余程のことがない限り制服。現にラウラは千冬に言われた一言が原因で今もうなされている。
「ラウラ、じゃないよなやっぱり」
「お初にお目にかかります。私はクロエ、クロエ・クロニクルと申します」
「これはご丁寧にどうも。んで、学園の生徒じゃないよな。アンネイムドにも見えないし………もしかして学園をハッキングした黒幕だったり」
「流石ですね。織斑一夏と正反対で勘がよろしい」
「当たりかよ………」
これは薮蛇を踏んだな。
即座に意識を集中、コンマ0,5秒で全身武装に移行した。
「悪いが拘束させてもらう。抵抗するなら手足の一つは保証しないからな」
「これは乱暴な。ですが私は運が良い。こういうのは棚からぼた餅、瓢箪に駒と言うのですよね」
クロエは微笑むと同時に閉じていた双眼を開いた。
その目は白目が黒、黒目が金色という特異な色だった。
「
「時間も押してますので手早く行かせて貰います」
「こいつ!」
警戒から戦闘認識に、疾風は非殺生出力に下げたプラズマバルカンをクロエに当てようとしたが、弾丸はクロエをすり抜けて地面に当たった。
「ホログラム!?」
「ばかめ、それは残像だ。正確には幻影ですが」
トン、とハイパーセンサーに感触が。
次の瞬間クロエが疾風の眼前に現れた。
「では、覗かせて頂きます」
「っ!!?」
振りほどこうとしたがもう遅く。
クロエに触られた瞬間。疾風の意識が遠退いた。
『こんなところで、止まれるかっ!』
『オーバードライブ、レディ』
『行くぞ簪! パワードスーツDA!』
『うん!』
『違う! あれは会長の仕業で!』
『わたくしが疾風の声を聞き間違えるとお思いですの!?』
『そうじゃなくて! 確かに俺は言ったかもしれないがそれは俺の意思じゃ』
なんだ、何を見せられている?
「ここは貴方の記憶領域。ISを通じてアクセスさせて貰っております」
記憶、だって………?
先程クロエと名乗った少女の声が頭に響いた。
ビデオの巻き戻しのように過去の記憶が移り変わる。
様々な体験、日常。記憶の海をクロエはドンドン遡っていく。
専用機タッグマッチ。
キャノンボール・ファスト。
学園祭。
夏休み。
臨海学校。
セシリアと再開し、初めてISを動かした日。
「もっと深く………」
景色が早回しになり、記憶の中で揉まれた。
目まぐるしい景色を前に思わず目を閉じる。
何処が上で何処が下かわからず俺は記憶の奔流に飲み込まれた。
一瞬、もしくは悠久の時間がたっていって………
………………ゴポポン………
?????
なんだ、これ! 水? 水の中にいるのか?
自分が水の中に沈まれてるような感覚。
だが手足は動かせず、かろうじて目が開くだけで。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ん? え? なに? これ?
飛び込んだ視界には。なんだ、本当に。
自分は何かの中にいて。液体の中で漂っている。
視線を動かすことも出来ず、ただただ前を見ていて。
水槽? 液体で満たされた何かの中に俺は居た。
目の前には何処かわからないが、見たことない機械がズラリと並んでいて、ホログラムがひっきりなしに明滅している。
頭の処理が追い付かないなか呆然と目の前の光景を見ることしか出来ない。
すると誰かが外に。
白衣を来ていて、髪は黒い。だけど顔が見えない。
『もう…ぐ。も…すぐよ………』
女の声? 聞いたことあるか、それともないかも分からない。
誰だ、そこにいるのは誰だ!?
これは一体なんだ!!
わからない、何もかもわからない、
こんなの記憶にない。あるはずがない。
これは、本当になんだ?
なんの冗談だ? たちが悪すぎる。
これじゃまるで………まるで………
「あ、ああ………」
言い様のない恐怖が襲いかかる。
全てを拒絶するような悪寒。目を閉じたくても閉じられない。
これ以上認識するなと言うように頭が割れるように傷んだ。
「ああ、ああああアアアアアアぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
激痛の中、それでも眼は見開いたままで………
「もっと、もっと深く」
彼のルーツを余すことなく。彼の痛み、嘆きを無視しクロエはもっともっとと記憶の底に。
『おっと。これ以上苛めるのはよしてくれよ?』
「っ!?」
ーーー◇ーーー
「うっ!?」
イーグルからプラズマが放たれクロエが弾き飛ばされた。
「え? え!? なに………?」
何が起きたかわからないとクロエは頭を抑える。
物理的に。否その前に情報的に弾かれた。
弾かれる筈はない。彼女のIS【黒鍵】の前にISの防御能力は無意味。
全てを洗いざらい調べ尽くす、そんな筈だったのに。
目の前の疾風は気を失ったまま。そのはずなのに、ISが勝手に防御行動を取った。
気を失った疾風はそのまま後ろに倒れ………なかった。
途中で止まり、まるで操り糸に引っ張られるように状態を起こした。
『………んん、ああ………出てしまったのか。まだこんな段階じゃないはずなんだが、なぁ?』
ゆっくりと、ゆっくりと顔を上げ。閉じていた眼を開いた。
その眼を見た時、常に冷静沈着なクロエは思わず息を飲んだ。
疾風の目が、虹彩が、空色に光っていたのだ。
まるで
『どうした? 何を驚いている? オレの姿がそんなにおかしいかい?』
「あなた、誰?」
『オレ? オレは疾風・レーデルハイトだが?』
「違う、違う! お前は、誰だ!?」
疾風の声、疾風の笑み。だが違う、なにもかも違う。
何かはわからないが、目の前でISを纏って笑う彼は疾風ではないとクロエの本能が叫んでいた。
そしてここで排除しなければならないことも!
「ワールド・パージ!」
黒金色の両目をカッと見開くと同時に黒鍵の能力を起動。倉庫だったものが真っ白に塗りつぶされた。
『ハハ、生体同期型のISとは。母も悪趣味な物を作る』
「答えなさい、あなたは何者ですか」
『答えてやる義理はないな。人の頭に土足で踏み入ろうとするものには、なっ!』
イーグルがプラズマを放出すると同時に、白色世界が削り取られ。幻影が霧散した。
「ワールド・パージが!?」
『大気中の成分を変質させて幻影を作り出す、か。セシリア・オルコット達を電脳空間に閉じ込めたのも、そのISによるものか………しかし種が割れればこの通り』
「何をしたのです!」
『ん? プラズマを媒介に少しばかり空間を小突いただけだが? この程度で破れるとは、案外大したことないな?』
「くっ! ゴーレムⅢ!!」
クロエと疾風の間に一週間前に襲撃してきたゴーレムⅢが現出した。
『成る程。ISのボディが無い分、余ったキャパシティでIS1機まるごと格納したのか。で、それでどうするつもりだ』
「あなたは抹殺する! 束様のためにも!」
危険分子は排除する。
彼女の思考に直結するようにゴーレムⅢがブレードを振り下ろす。
当たれば必殺の刃。だが疾風は慌てることなく静かに呟く。
『……オーバードライブ』
一瞬、閃光が走ると同時に疾風がクロエ目の前に現れ、喉元にプラズマの刃が、そしてビークビットが彼女を囲んだ。
ワンテンポ遅れて疾風の背後でゴーレムⅢがバラバラのスクラップとなった。
オーバードライブで過剰放出されたプラズマが収まり、彼の手にはゴーレムⅢのコアがエグり出されていた。
『ん? 心がないな。量産優先のコアか。フフッ、弱いはずだ』
人の反応速度ではない。現にクロエは彼が目の前に出るまで知覚することすら出来なかったのだ。
『シールドジャミング。自ら生み出したISのアイデンティティを全否定。しかも敵味方無差別に無効化とは。完璧主義者な母にしては欠陥が過ぎるのでは?』
「さ、先程から母って。束様のことを言ってるのですか? じゃああなたは………」
『フッ』
搦め手を吹き飛ばし、切り札の無人ISも一瞬で破壊された。
打つ手がない、クロエは現状打破は不可能と絶望しかけた。
「おい、そこでなにを! レーデルハイト?」
『……織斑千冬』
「!!」
疾風の意識が突如現れた千冬に向けられた瞬間クロエはワールド・パージを再発動。
自身の姿を消し、その場から脱出した。
クロエが逃げたことを確認すると疾風はISを解除した。
『遅かったな織斑千冬。もう少し早く来て欲しかったな』
「おまえ、いや貴様! レーデルハイトを返せ!」
疾風の眼を見るなり千冬が戦闘態勢を取った。
アンネイムドの隊長相手でも冷静でいた彼女が教え子を前に全力で警戒している。
そんな彼女を前にして疾風は彼らしくない笑みを浮かべる。
少なくとも、千冬を前にしたいつもの疾風の反応ではなかった。
『落ち着けよ。一時的に出ているだけだ。直ぐに返すさ』
「信用できると思うのか!」
『俺はコイツを、疾風・レーデルハイトのことを大切に思っている。出なければこんな風に出て守るわけないだろう? 俺は
「………」
空色に光る眼は真っ直ぐ千冬の眼を見つめる。
その眼差しはとても優しく、それでいて鋭かった。
途端に眼の光が点滅する。
『おっと、時間切れだな。織斑千冬、後は任せた………マスターを宜しく』
言い終わると同時に疾風の身体から力が抜けた。
倒れ伏す彼を受け止めた彼女は即座に呼び掛ける。
「おいレーデルハイト! レーデルハイト!!」
「ん、んん。あれ、織斑先生? なんで………」
「よかった。大丈夫か?」
「ええ、はい。あっ、さっきの………なんか凄い、眠い」
「無理をするな。休め」
「すいません、お言葉に甘え、て………」
再び眠りについた彼を見て千冬はホッと息を吐いた。
間違いなく彼女の知る疾風・レーデルハイトだったから。
直ぐ様千冬の目が険しくなる。
目線の先には彼の胸元、スカイブルー・イーグルの待機形態であるバッジだった。
先程の疾風とは違う疾風。
その正体を千冬は見抜いていた。
「レーデルハイト、何故お前が………」
ボソりと呟いた千冬の声は、船の汽笛によって掻き消された。
何かが起こる。そう感じざる終えない程の緊迫感が千冬を襲う。
激動の幕は、直ぐそこまで迫っていた………
ワールド・パージ編、最終話、いかがでしたでしょうか!
いやーこんな不穏な終わり方したの初めて!ドキドキしますねぇー。
束とスコールは原作とは対照的に大人と子供の対談のようでしたね。スコさんが更に強キャラ。
マドカのネーミングはTwitterの同士との情報を元に作成しました。やはり自分と違う見解を持つ人と話すとインスピレーションがモリモリと。
さて、次回ですが。第一部、最終章です!
疾風とセシリアのデートの行方、ミサンドリーおばさんや。そして明かされる衝撃の真実!少年少女の未来はいかに!!
頑張ります、ええ頑張りますとしか言えませんとも。
では皆さん、最終章【
ではでは!