IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
第1部最終章、開幕。
比翼連理。
これは二人の物語。
共に飛び立つ為の物語。
第123話【デート、そして………】
ゴポッ………ゴポポ………
「もうすぐ、もうすぐよ………」
コポポン………
「お願い………」
プクブクク………
「帰ってきて……」
「ううぅ………」
重苦しい身体を立ち上げる。
手を顔に当てて大きく息を吐く。
「またか………」
目覚ましよりも少し早い目覚め。
目覚ましで起きると夢を忘れると思ったのに………バッチリ覚えてる。
あの時、クロエという少女の干渉で見た存在しないはずのビジョン。
彼女が嘘を言ってるようには見えなかった。あれは本当に俺の記憶なのか?
液体で満たされた容器の中から何かを見る夢。
夢とは思えないリアリティー。全く覚えがないのに、身体が覚えてるような嫌な感覚。
「………俺は疾風・レーデルハイトだ」
アリア・レーデルハイトと剣司・レーデルハイトの息子で。グレイという兄と楓という妹がいる何処にでもいる高校生。
ただ一つ違うのは男なのにISを動かせるということ。
そう、何故か俺はISを動かせる。
どうして動かせる? 確率的なもの? それとも………それとも人為的なもの?
だとしたら俺は………いったい。
ピピピピ! ピピピピ! ピピピピ!
アラームが鳴った。
行かないと。
今日はセシリアとのデートだ。
………行っていいものか、いや行かなきゃ!
「夢だよあれは。馬鹿馬鹿しい………」
IS学園ゲート前。
ギリギリに出てしまったのにセシリアの姿がない。
約束の時間まであと5分だが………
ジワりと嫌な汗が出てくる。
もしかしてあの時と同じなんじゃ………
「疾風ー! 遅れて申し訳御座いませーん!」
「セシリア………おお」
遠くから走って来たセシリアを見て思わず声が出てしまった。
上は白、下は青。上はフリルが沢山あしらわれたとても可愛らしい物で、スカートは無地の青に見えて細かい刺繍が施されて所々銀色の糸が光っていた。
何よりも眼を引いたのは髪型。
いつものロングヘアーではなく三つ編みに纏められてうなじが見えていて大変眩しくなっていた。
可憐で美少女で美人で。
改めてセシリア・オルコットが如何に人間離れした魅力の持ち主であるということがありありと見せつけられた。
本当に学生なのかなこの娘。
「はぁ、ふぅ。ごめんなさい、お待たせしましたわ」
「いやぁ。俺も今、ほんと今来たところでして」
デート待ち合わせのお決まり文句を口走ってしまうほど俺は思考停止してしまった。
さっきまで考えていた悩みなど吹き飛ばされてしまった。セシリア凄い。
ていうか胸元少し空いてない? ほんの少し谷間が見えるような気がするけど、うん幻覚じゃないな!?
「それ、この前のインフィニット・ストライプスの服ですか?」
「あーうん、良さげでオシャレっぽいのこれしか無くて。いやいや俺はどうでもいいよ、セシリアの」
「わたくしの?」
「………」
「もしかして似合ってないです?」
「似合ってる! 凄い似合ってる可愛いし綺麗だし魅力凄くて卒倒しそうだったし! 世界一可愛い!!」
「ほ、褒めすぎですわ、お馬鹿」
照れてる! 可愛い! このお嬢様可愛すぎる!
マズイ、限界オタクになりそうだ。
手遅れかもしれない、いや手遅れでもいい!
それからセシリアの身姿を脳髄のあちこちに刻みつけたあとモノレールへ乗って気付いてしまった。
「しまった。俺たちなんも変装してないじゃん」
「必要です?」
「いや要るでしょ。セシリア目立つし、何処にパパラッチが潜んでるか分からないし。今からでもマスクとサングラスを」
「嫌です。それでは疾風の顔が見えないではありませんか」
「いや、だけどさ」
「わたくしと噂になるのはお嫌ですの?」
「それは………………イヤジャナイデス」
「ではなんの問題もありませんわね! どうせなら」
スルッとセシリアの腕が俺の腕に絡まり、胸押し当ててきて、きてぇ!?
「こういう風にしましょうか、折角のデートですし!」
「え、いや、ちょ。流石にそれは」
「嫌ですの?」
ヴァ! やめて! その首をかしげながら上目遣いしないで!
流石に恥ずかしいのか頬を赤らめるがそれがブーストされて髪型も違うからギャップがあるし何より谷間がより深くっ!
「せ、せめて。服を掴むで、勘弁してください………」
「しょうがないですわね」
耳を真っ赤っかにしながら出たか細いお願いが届き。名残惜しげ腕の拘束が解かれ、セシリアの白い指先が袖を掴んだ。
「イヒッ!」
な、なに。ツーって。頸動脈をなぞるようにセシリアの指先が当たって。
セシリアは確信犯とばかりに微笑んでいる。
「どうかしましたの?」
「な、なんでもない」
な、なんだなんだなななんだ?
セシリア何時もより積極的。ほんとどうした? なんかセシリア色っぽいし、凄い大人に見えるんだけど!
「あんまり、煽らないで下さい」
「あら何のことかしら」
「男はみんな狼なのよ」
「わたくし襲われてしまいますの?」
「そういうことではなくて、あー駅ついたよ、行こう!」
「あっ、もう………」
デートって凄い。
ーーー◇ーーー
(掴みは上々、ですわ)
急ぎ足で前を進む疾風。疾風の願い通り服を掴むだけだがそれでも疾風には効果があった。
疾風にデートを誘われて有頂天だったセシリア。
一夏じゃないのだから、もしかしたらもしかするかもしれない。そんな期待を胸にベッドへダイブしたわけだが。
「わたくしデートなんて初めてですわ!」
言い寄ってくる男は千を越えるセシリアだが交際経験は当然ありはしない。
雑誌やネットを見てもありきたりな情報しかなく自分が欲しいこれだ! というのがない。
友人に相談しようにも。
一夏ラバーズは恋愛惨敗記録保持者ばかり、疾風ラバーズにはどの面下げて相談に行けようかという始末。
となれば………
「もしもし、チェルシー?」
専属メイドである。
「どうかなさいましたかお嬢様」
「実は明後日疾風とお出掛けをするのですが」
「デートですね」
「そそそうとも言いますわね!」
「お嬢様。今から慌てるようでは本末転倒です」
「慌ててるから電話しましたのよ?」
それもそうですねとチェルシーは一旦空白を挟んでセシリアに問い返す。
「お恥ずかしながらわたくし。デートの経験はありませんので、お嬢様が望む答えを出せるかはわかりません。ですが不詳このチェルシー、必ずやお嬢様のお役にたって見せましょう」
「チェルシー!」
やはり頼りになるのは専属メイドにして長年の幼馴染みである彼女、チェルシー・ブランケット。
「お嬢様はどういうデートをお望みでしょうか」
「どういう」
「先ずはコンセプトを決めなくては着ていく服も決められません。友人として行くのか、それとも恋人として行くのかで違ってきます」
「どちらでもない、中間の時は」
「ふむ。お嬢様は疾風様と恋仲になりたい、ということでしたよね」
「ええ」
それはもう偽るつもりはない。
疾風とは良き仲になりたい。もしかしたら疾風から告白されるかもしれないという期待さえある。
セシリアも鈍くはない、疾風が自分をどう思ってるかは100%ではないが気づいている、つもりだ。
「ではお嬢様。服装は大胆すぎず、幼すぎずで行きましょう。確か胸元が空いている服が2着ほどあった筈ですがフリルのついた可愛さのある方を。可愛さと大人っぽさの同時攻撃で疾風様をドキマギさせるのです」
「どぎまぎ」
「そして下着ですが。2ヶ月前に買ってトランクの二重底に隠していた少し大胆な勝負下着がよいでしょう」
「チェルシー!? 何故それを、誰にも話さずこっそり買ったのに!」
「わたくしはお嬢様の専属メイド。それ以外に説明は必要でしょうか?」
時々自分のメイドが何者なのかと思う。
MI6並みの秘密組織の出身なのではなかろうかと思うほど。
「というか着ませんわよ!? 今回はそういうことをする訳ではないのですから!」
「お嬢様。何も勝負下着は性行をするだけのアイテムではありません。文字通りここぞという時に勝負をかける、そんな気持ちを後押しするアイテムでもあるのです」
「聞いたことありませんわ」
「自論ですから」
「チェルシー!」
「まあまあ。あながち間違いでもありませんし」
弄ばれた感はありつつも妙に説得力があるのでとりあえず頭の片隅に置いておいた。
そのあと服装なり気を付けることなど細かくアドバイスをもらった。
なんだかんだ言ってセシリアのことをわかっているチェルシー。アドバイスは実に的確だった。
「ありがとうチェルシー。これで明日は大丈夫ですわ!」
「光栄でございます」
パーフェクトだチェルシー。そう言ってしまいそうになる有能っぷり。
セシリアは果報者である。
「………」
完璧、準備は完璧だ。
だが本当にそうか? と頭によぎる。
待ちに待った疾風とのデート。ガッカリさせたくない。楽しんでもらいたい。だけどそれでいて意識して欲しい。
あわよくば──告白して欲しい。
欲張りだ。以前のセシリアはこうではなかった。
そんなことを考える暇もなかったし。近寄ってくる男はどれもどうしようもない。自分のことしか考えない人ばかりで。
でも疾風は違うのだ。
家族や召し使い以外で一番自分のことを考えてくれる人。
今回のデートは失敗したくない。
ちゃんと疾風に楽しんでもらえる。また行きたいと言ってもらえるようなデートにしたい。
「お嬢様」
「?」
「疾風様にはそのままのお嬢様で良いと思います。イギリス代表候補生でも、オルコット家当主ではなく。ありのままのセシリア・オルコットでいいのです。だから楽しむこと、多くは望まずに、ただ楽しんできて下さい」
「ありがとうチェルシー。私、頑張りますわ!」
疾風はいつも対等に接してくれている。
変に色眼鏡を使うことなく、共に笑い、共に戦ってきたのだ。
セシリアの中に残っていた最後の不安がなくなり、変わりにやってきたのは心地良い期待と楽しみだった。
「それはそうとお嬢様。やはり少しぐらいドキドキさせるのも必要です」
「さっきと言ってること違いません? ですが聞きましょう」
(決して背伸びせず、それでいて女らしさを出して意識させる………結構恥ずかしいですけど、ほんの少しはしたなくてもバチは当たりませんわよね)
セシリアの考えなどいざ知らず、雰囲気の違うセシリアに翻弄され。いつもの飄々とした彼ではなく年相応な男子の反応を見せる疾風にセシリアは優越感を得て………
(ダメダメ! ダメですわ! これは勝負ではないのです! 疾風により意識してもらうためですから。自然体に、時々女を出していかなければ)
それでいて楽しむこと。
チェルシーの教えを完遂すべく、いつもより一歩踏み込んだセシリアは袖を掴む手を強める。
ーーー◇ーーー
「映画、面白かった?」
「ええ! ISでの空中戦は経験ありますか。戦闘機のドッグファイトも心が踊りましたわ! 特に前作の主役であるF-14が出てきたときはもう、もう心臓がドキドキして!」
「よかったぁ」
楽しそうな笑みを浮かべるセシリアに思わずガッツポーズポーズ。
今回選んだ映画は昔大ヒットした海軍戦闘映画の続編。
万年大佐の主人公が教官になって若者を導き。多彩な人間ドラマを繰り広げる超大作。
デートらしく恋愛映画を見ようとも考えたが。もし外れだったら最悪だしあからさま過ぎるということで却下。
実は一度見たことある映画だったが、文句無しの神映画だったから不安要素もないし。二回目も見ようと思っていた。
さりげに恋愛要素もあったし、チョイスとしては丁度良かったのではなかろうか。
「しかしあのミッションをISでやるとなるとそれはそれで結構ヤバいよな」
「相手も索敵用のISは出しますでしょうし。正面突破はなかなか困難でしょうね」
「成層圏の真上から急降下攻撃して高機動パッケージで離脱って感じかなぁ」
「むしろ高高度からの狙撃が宜しいのでは?」
「おっ、セシリアの出番だ」
「流石のわたくしも経験はありませんわね」
まあ自分たちに置き換えて妄想するのはIS乗りとしては当たり前だからそれはいいよね?
しかし作中冒頭に出てきたマッハ10の戦闘機。
ISであってもあれと追従出来るものはそうはないだろう。
いつかああいうIS以外の化け物マシンが出てくることはあるのだろうか。
それにしても………
「なあ、あの金髪の女の人凄いんだけど。声かけようかな」
「やめとけ隣に彼氏いるだろ」
「凄い、モデルさんみたい………でも隣の眼鏡の人もいいなぁ」
「でもどっかで見たことあるよね。どこだっけ」
よし、よしよし! 周りからの評価は悪くない、むしろ良い!
やっとセシリアの隣にいると認められた! 前まで空気扱いだったり散々だったからな!
セシリアにもカッコいいと………
そういえばカッコいいって言われてなくない?
いやいやいや他人から見てお似合い判定くれてるということは大丈夫なはず!
いやバカモン! 有象無象の評価よりセシリアからの評価の方が大事だろ!
どうしよう。もし。この人雑誌の服装まんまで来ましたわ、面白みのない………なんて思われていたら!
「疾風、どうかしました?」
「えっ! あー、なんでもないヨ」
「素直に言わなければ腕を組みますわ。それはもうギューっと」
ごめんなさいまだ公衆の面前でそれをやる覚悟決まってません!
「俺の服装、どう? 他に買う服なくてそのまま引っ張ったけど………」
「似合ってますよ」
「どれぐらい?」
「雑誌を3冊買うぐらい格好いいですわよ」
「そ、そうか! 良かった」
なんか返答としてはおかしかったような気もするが褒められたからヨシ!
ありがとう! インフィニット・ストライプス企画担当! ありがとう黛姉妹!!
「疾風、服を買いにいきましょう」
「え、いや今日は」
「また出掛ける時同じ服で行きたくないでしょう?」
「いいのか?」
「ええ。わたくしも買いたいものありますし、疾風の服、選んでみたいですわ」
「じゃあお願いしますセシリア先生」
「ええ、では」
セシリアが俺のそでではなく手を取って歩きだした。
慌てて離しそうになったがセシリアがギュッと力を込めて話さない。
「お、おい!」
「わたくしに隠れて不安になった罰ですわ」
「罰判定なのそれ!?」
セシリアにされるがまま映画館を後にした。
(まったく。少しは自分の格好よさを自覚して欲しいですわ)
連れに熱視線を送る他の女性に牽制するようにセシリアは恋人繋ぎに変えながら俺を引っ張っていった。
「これはどうでしょうか! それともこちら? もう少しワイルドに攻めてみます?」
「………おまかせ致します」
「はい!」
ニッコリと、それはもう楽しそうに俺をコーディネートするセシリア。次から次へと持ってくる服に圧倒されながらも笑ってしまう。
デパートの呉服店に入って直ぐに試着に試着を重ねて見事に着せ替え人形です、ありがとうございました。
あまりの勢いに店員さんも遠目から見守る始末。
………ここからここまで買います、ってマジであったんだな。
マジで買う勢いだったからな、止めたのは間違いではないよな英断だよな俺。
お嬢様なんだなぁ、セシリアは………
しかも俺のために服を買うとか。デートで女性に金を払わせることは思うところがあるので男として払おうと思ったが。
「男が払わないと行けないという世論の風習を否定するつもりはありませんが。逆が駄目というのは納得いきませんわ。わたくしが疾風にプレゼントしたいのです。お金の心配? 誰に言っているのですか、まったく」
笑いながらそう言われちゃあなぁ。男でも引かざるを得ないというか。
俺も金持ち出身とはいえ、当主であるセシリアとは財力の格が違う。
情けないと思っちゃいけない、地力が違うし。他人の好意は素直に受け取るってことで。
しかし流石はセシリアというべきか。持ってくる服がどれも良いなぁと思うものばかり。
ワイルド方面でヒョウ柄持ってきたのはギャグだと信じたいが。
「あのー」
「ん?」
「もしかして、疾風・レーデルハイトさんですか?」
「え、ああいや人違いで」
「いやいや絶対にレーデルハイトさんですよね! 私キャノンボールファストの時からファンなんです! サイン下さい!」
うお、アグレッシブ………
訪ねてきた女性がノートとペンをぐいっと渡してきた。
大学生ぐらいだろうか。ノートの表紙には高校では習わなそうな教科が書かれていた。
観念したように俺はノートの一番最後にサインを書いた。
「これでいいですか?」
「ありがとうございます! ところで、いま1人ですか? もしお暇ならお茶しませんか!」
「えーと、お断りします」
「そう言わずに、お願いします! 奢りますから!」
「あの、すいません。自分は」
「わたくしの連れが何か?」
間に入ったセシリアが女性にニッコリと笑顔を浮かべる。
その笑みは男を惚れさせるには充分なルックスを誇っていたが、対面の女性は一瞬で冷や汗が出るようなプレッシャーを感じてしまった。
「あ、え。セシリア・オルコット、さん」
「はい、わたくしの疾風に何か御用ですか?」
「い、いえ! あのそのー失礼しましたー!」
ノートを鞄に仕舞うことも忘れ女性は店内を後にした。
「ふぅ、油断も隙もありはしませんわ」
「セシリア?」
「疾風」
「はい」
「あなたは本当にカッコいいのですから、その………少しは自覚しなさいね?」
「………ハイ」
顔を赤くしながら注意するセシリア。
普段と違う姿も相まって、大変可愛いです。
セシリアに褒められたのとセシリアが可愛すぎて声にならない声を発したのだった。
ーーー◇ーーー
服はなんとかセット5着に落ち着いた。一気に服のレパートリーが増えたことを喜びつつ何処か申し訳なさを感じつつ服は配達に預けた。
映画、洋服選びに続いてお昼頃になったから予定していたパスタの美味しいお店に。
カルボナーラ美味しかった。ペペロンチーノも美味しいらしいから次はそれにしようかな。流石にここでニンニク摂取は勇者過ぎる。
腹を満たした後はセシリアが途中通りがかったゲームセンターに興味を持ったので入ったはいいものの。ゲーセン特有のやかましさにセシリアは眼を回しそうになったので今日はやめておいた。
次は絶対行きましょう! と負けずぎらいを発揮しててなんだか面白かった。
そのまま当てもなくデパートを歩きながらくだらない話で盛り上がりつつまたも興味を引いた雑貨店に寄った。
セシリアは未体験の空間にキラキラと眼を輝かさせる。ザ・庶民なお店に場違いなまでの超絶セレブリティ美少女のご来店に余すことなく客と店員の視線をかっさらっていく。
おっ、このペンダント。セシリアに似合いそう。
値段はするが代表候補生とテストパイロットのお給金なら全然問題なし。
問題があるとすればセシリアが身に付けるには安物ということ………。
いやいや。気持ちが一番大事だ、もし上手く行ったらプレゼントするぐらいの気持ちで。
今回のデートの目的。
セシリアに告白することを。
海沿いの公園にあるクレープ屋でクレープを食べた。
目当ては巷で噂のミックスベリーのクレープを食べること。
なんでもここのミックスベリークレープを食べると幸運がついて回るとか。
眉唾もので信憑性はないが藁にもすがらんとするのが今の俺。が………
「ごめんねぇ、ミックスベリーもうやってないんだよねぇ」
なん、とも!
噂が耳に入ってないのかこの店主は!
それともクレームでも来たのか、クレープ食べても幸せにならなかったとか。ありそうだなぁ、この人男だからミサンドリーにがめついこと言われてたりして。
仕方ないから俺はストロベリー、セシリアはブルーベリーを頼んだ。
クレープは美味しかったです。また来ます。
「まあ、良い眺めですわね」
「夕焼けが綺麗なところなんだってさ」
昔から夕日の名所として有名だったが。時が立つにつれ人は来なくなり、今は俺とセシリアの二人っきりだ。
「…………」
やばい緊張してきた。
これから告白するのか、セシリアに。
横目でセシリアを見ると夕焼けに照らされながら微笑む彼女に今日何度目かもわからない一目惚れをする。
どこでも、いつだって絵になる。
しかもいつもと違う三つ編みをしていて、風になびく髪がそれはそれは美しくて。
視線を感じたセシリアがこちらに気付く。
「どうかしました?」
「あ、いや。セシリアが綺麗で………」
「まあ。褒めてもなにも出ませんわよ」
見返りなんていらない。
セシリアの宝玉と例えられる蒼の瞳。これ以上綺麗な瞳を俺は知らない。
全てが完成されていて、それでいて完成されず、日に日に綺麗になっていく。
いつも考える。
セシリアが何処か遠くに行ってしまう気がして。
ウカウカしてたら誰かに連れ去られる気がして。
セシリアにとっての俺は好印象だろう。もしかしたら俺のこと、好きかもしれない。
だけどそれは彼女の口から聞いていない。
菖蒲と簪は凄い。断られると分かってて告白なんて、俺には出来ない。
断られるかわからない。受け入れてくれるかも知れないという可能性を見出だしても、怖い。
だけど1歩踏み出さなきゃ。
ここで誠意を見せなきゃ男じゃないだろ、疾風・レーデルハイト。
「あの、さ………デート、楽しかった? 途中から自由に回ってたけど」
「ええ。初めてのことが沢山あって楽しかったです。でも疾風がいなかったらここまで楽しめなかったかもしれませんわ」
胸が跳ね上がる。嬉しさが込み上げて身体が熱くなった。
今なら言える、勢いをつけて、言うんだ!
「セシリア!」
「ん?」
「お、俺と!」
付き合ってください、と言おうとした。
────ゴポポン………
「っ!」
ゴポッ………コポポ………
脳内でフラッシュバックする。
何かのカプセルに入れられ、外で白衣の女性が何か喋っていて………
「くぅ………」
勘弁してくれよ、今だけは大人しくしていてくれ!
夢だろあれは! やめろなんで消えないんだよ頭から!!
あの女が見せたタチの悪い幻覚だろ!
なんで………なんで
なんでこんなに、既視感があるんだ………
「疾風!」
「!」
「顔が青いですわ、大丈夫ですの?」
「ああ、大丈夫だよ」
「説得力ありませんわ。ベンチに座りましょ、ね?」
近くのベンチに腰を下ろし、肺にたまった空気を思いっきり吐き出した。無意識に息を止めていたのだろうか。
「お水は」
「いや、ほんといい。大丈夫だから」
最悪だ。デートの締めがこんなんじゃ。
告白するムードじゃなくなった。
「何かありましたの? 話してくれませんか?」
言うのか? 言ったらどうなる?
拒絶………されることはないと信じたいが。それでも人の印象は変わりやすい。
目が泳ぐ。焦点が定まらない、話したくない、だけど秘密にしたくない。
デートをぶち壊してしまう。それでも何処か話したくて。
震えが止まらない。
その時、セシリアが手を握ってくれた。
「セシリア」
「言いたくないなら良いです。だけど、疾風のそんな顔を放っておける程、わたくしは薄情ではありませんわ」
「………変なこと言うぞ」
「どうぞ」
セシリアただ手を重ねた。
セシリアが俺を見てくれる。それだけで心の重石が抜き取られていくような気がした。
「………もし、俺が普通の人間じゃなかったら、どうする?」
言った、言ってしまった。
突拍子もないことを言ったのにセシリアは表情を変えずに続きを促す。
堂々とした彼女の姿勢を前に俺は自然と言葉を流すことが出来た。
「ずっと前から、少しずつ考えてた。なんで俺が男なのにISを動かせたのか。どうして最初からではなく、誕生日の12時00分丁度に起動したのか。何か作為的な物があるのか、だけど身体検査では何も引っ掛からなかった。国際研究所でもわからずじまいだしさ」
「それは、疾風がたまたまイレギュラーなだけでしょう? 一夏さんみたいに」
「わからないならわからないで良かった。健康そのもので身体はなんともないし。だけど、あの女が現れて」
「あの女?」
「学園ハッキング事件の主犯格だ」
「え、いつですの!?」
「セシリアと別れて直ぐ、素直に自分が犯人だって言ったよ。しかもそいつは、ラウラと同じ
普通の人間ではなかった。
クロエ・クロニクル。ラウラに似ていて、それでいて全然違う女の子。
「そいつと戦闘になって、奴に頭を、ハイパーセンサーを触られた。そしたら記憶をさかのぼるみたいになって………そして………見たんだ」
「見たって、なにを?」
「……………俺が、何かのカプセルに入れられてた映像」
全て話した。
なにを感じ、なにを見て聞いたこと全て。
明らかに普通の人間が経験しないような、ほんの1分にも満たないような記憶を。
「俺、セシリアに会う前の、6歳から前の記憶が全然ないんだ。あの世界を震撼させた白騎士事件、何が起きて、なにをしていたのか全く思い出せない。単純に忘れてるだけかもしれない。だけど、もしかしたら俺は、俺じゃないんじゃないかって、急に不安になって。名前のない、作られた人間、いや人間ですらないのかもしれない………そう思うと怖くて怖くて」
セシリアは何も喋らない。
セシリアの顔が見れない、どんな顔をしてるのか、見るのが怖かった。
「このままセシリアと居ていいのかって。でもそばにいたくて、でも話せないのが苦しくて。セシリアならこんな俺でも受け入れてくれてくれるかもって………」
安心したかった。
胸が苦しくて仕方なかった。
必死に忘れようと考えないようにしていても。
頭の中で忘れるなと言わんばかりに浮かび上がってくる。
カタカタと震える俺をセシリアはフワリと抱き締めてくれた。
涙がじわりと滲み出る。鼻もすすっていて。直ぐに逃げ出したくなったがセシリアが抱き締めて離さなかった。
「ごめん。ほんと格好悪い」
「馬鹿おっしゃい。わたくしはあなた以上に格好いい人を知りませんわ」
涙眼で震えてる俺と対照的にセシリアは笑っていた。
幼子をあやすように優しく微笑んでいた。
「お父様とお母様が亡くなった時。シンデレラで高台から落ちたとき。サイレント・ゼフィルスに襲われた時。疾風は何度も何度もわたくしを救ってくれた。そんな貴方をわたくしは誇りに思います」
「当たり前のことをしただけだよ」
「そう自分を卑下なさらないで下さいな。わたくしがいなければ今の疾風がいないように。疾風がいなければ今のわたくしはありません。あなたの存在は、わたくしの中にありますのよ」
「だけど」
「例えあなたが人外であろうとも、わたくしの想いは変わりません。あなたは親友で、生涯のライバルで、そして───わたくしの愛する人です」
………………ん?
包容を解いたセシリアの頬が赤く、だが対照的な蒼の眼は真っ直ぐ俺を射貫いていた。
「わたくしとお付き合いしてください、疾風」
「…………はい」
はいって言っちゃったよ。
え、はいって言っちゃったよ俺、え!!?
震えも涙も止まり、変わりに来たのはなんともわからないうわーー! としたむず痒いものが込み上げてきた。
「おまっ、セシリア。なんお前。俺が先に言おうと思ったのに!」
「ごめんなさい。弱ったあなたを見て愛おしさが止まらなくて」
「ギャー! カッコ悪い! カッコ悪過ぎる! なんだよこれ、熱い! 顔熱いよなにこれ!!」
黒歴史! 黒歴史確定だよこれ!
驚く暇も喜ぶ余裕もなく、羞恥醜態を晒したあげく逆に告られるという男としてこれ以上ないぐらい情けない状況に俺の頭はパニック状態になった。
「てか本気かお前! え、現実!?」
「お望みならもう一度言いますよ」
「いや待っていいです!」
「わたくしは疾風と共にありたいと思っております。付き合ってください」
「言うなってば!!」
なんなん! なんなんお前!
なんでそんな落ち着いてるの、こういう時慌てそうなキャラだろお前!
「ごめん、頭が追い付いてるようで追い付いてない」
「わたくしは」
「いい、いい! もうわかった! 俺は一夏と違って鈍感じゃないから!」
「なら早く返事してくださいませ」
「いや、したよ? したよな!?」
「心が込もってませんでした。わたくしだって勇気を出したのですから、ちゃんと答えてくれないと拗ねますわよ?」
それは、困る。
こんなに心をさらけ出してくれたのに。これ以上ウジウジしてしまったら。
それこそ俺はセシリアに顔向け出来ない。
一回、二回、さらに三回深呼吸をしてセシリアを見る。
直視するのも無理なぐらい眩しい。
それでもその眼を真っ直ぐ合わせた。
「好きです………俺と付き合ってください」
「はい、宜しくお願いいたします」
ほぼカチコチの告白をとても、とても嬉しそうに笑う彼女が最高に可愛かった
ぐあーー。
やっと嬉しさが込み上げてきた。
俺とセシリアが彼氏彼女、恋人どうし。凄い良い響きだ。
こんな出来た女性が俺の恋人って。人生勝ち組だよ。前世でどんな徳を積んだだろうってぐらい。
現実なのに非現実性が凄い。こんなのラノベだよ、ライトノベルだよ。
若干、いやかなり浮かれてるのか脳内言語がフル回転してる。
良いだろこういう時ぐらい喜んでも。
「そうだ、疾風。これどうぞ」
「これは」
渡された小袋にはヘアゴムが。
飾りには水色のガラスに細かい箔押しの模様が散りばめられていた。
「先程の雑貨店で見かけましたの。疾風、いま髪を伸ばし続けてますでしょう? まだ結うほどではありませんが、貰って下さいませ。わたくしの初雑貨店ですわよ」
「これは、嬉しい。色も俺好み、だけど少し可愛すぎる気も」
「可愛い疾風も好きですよ」
「めっちゃデレるじゃん」
甘過ぎて砂糖吐きそうだ。
今ならコーヒーすらガブ飲み出来る。
「実は俺も買ったんだ。似合うと思う、いつも付けてるものと比べると見劣りするかもしれないけど」
「つけてくださいますか?」
「うん」
袋から取り出したそれをセシリアの髪を引っかけないよう注意しながら首にかけてあげる。
首には少し大きめの銀の羽に青い石が嵌め込まれた物。
手に乗せた飾りを嬉しそうに見つめながらつつくその姿に別種の気恥ずかしさが出てきた。
「ウフフ」
「そんなに喜んで貰えると思わなかった。次はもっと良いもの買えるよう頑張るので」
「あら。これ以上の物をくれますの? 少なくともわたくしはこれより素敵な贈り物をもらったことありませんわ」
「褒めすぎ。だけど、これから沢山あげるからさ」
「期待してますわ」
今まで数多くの宝石類を手にしてきたセシリア。
平民の給料一生分のアクセサリーとだとしても、好きな人から貰ったアクセサリーに敵う筈もなかった。
「あのさ」
「うん?」
「もし、俺が本当に普通の人間じゃなかったら。いや、だったとしても。俺の側にいてくれ。セシリアが側に居たら、俺はどんなことがあっても前を向けるから」
「ええ。何が起きようと、わたくしはあなたの側を離れませんわ」
ギュッと俺の手にセシリアの手が重なる。
あれほど頭の中を蝕んでいた悪夢が消えた。
どんな自分でも肯定してくれる。それがこんなにも心強く、安心できるとは。
「その代わり、わたくしのお願いも聞いてくださいますか」
「なに?」
「もしわたくしの身に何か起きたら。何処にいても助けに来てくださいね?」
「勿論。その為に俺は生きている。これからも俺はお前だけは守ってみせる」
「約束ですわよ」
「うん」
………ここでキスに移れたら完璧だったけど、これ以上幸せになるとそれこそ爆発しそう。
ヘタレだのなんだの幾らでも言ってくれ。今ならなに言われても許せそうだ。
「ひゃっ」
代わりに俺はセシリアを思いっきり抱き締めた。
セシリアは一瞬驚くが、自然と背中に手を回して抱き締め返す。
さっきより強く、決して離れないように。
この温もりを忘れないように。
あの時と同じオレンジの空の下。
俺とセシリアは互いの温かさを確かめあうのだった。