IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
セシリアがイギリスに出向してからもう一週間。
イギリスの未来を決める、欧州イグニッション・プランに王手を決める為に現イギリス国家代表である叔母が納めるティアーズ・コーポレーションで第三世代量産ISの最終調整のテストヘッドとしてセシリアの直接的なデータが必要らしい。
なんでも思ったより秘匿性の高い技術らしく、製造施設での外部連絡は禁止で。簡単に連絡を取れる状況ではないとか。
とまあ、セシリアが忙しすぎて全然連絡が取れず。物理的な距離が空いた俺は。
「あーーーーーーー」
溶けていた。
「疾風くん。垂れてないで仕事して欲しいんだけどなぁ」
「ヴゥゥゥ………」
「分かるわよ、あなたの気持ちは。私も簪ちゃんと会えない時はそんな感じだったし」
「かゆ、うま………」
「やめなさいそれ」
マジでゾンゾンしちゃうんじゃないかっていう具合でもう溶けていた。
授業中なんとか気力を絞りだし、生徒会につくなり机に突っ伏して結構な時間が経とうとしていた。
「3日前テレビ電話したんです」
「あらよかったじゃない」
「20分だけですけどね」
「それぐらい話せたら充分じゃないか?」
「足りないよぉ! お前にわかるか。お付き合い仕立てでテンションアゲアゲな時に別離っちゃってる俺の気持ちがぁ………」
「わかってたことだろうに」
ああ分かってたさ!
分かってたけど辛い!
オルコニウムが! オルコニウムが足りない!
説明しよう! オルコニウムとは。
セシリア・オルコットと共に過ごすことで得られる幸福ホルモンの一種であり。
これが不足するとオルコニウム欠乏症になってしまい。なんかグダるのである。
おわれ。
「まだ帰ってくる目処も立ってなくてさぁ。はぁぁ」
「イギリスに行ってもセシリアの叔母さんに止められるんだっけ」
「女性優遇社会思想筆頭の人なのよね。最近はIS開発に力を入れてるからそういう活動はなりを潜めてるけど」
「むっちゃくちゃ嫌われてるんですよね。セシリアに取りつく悪い虫扱いです」
「ある意味間違ってないのよね」
「まあ、うん。頑張れ?」
「俺悪い奴じゃないですよぉ。てか半端に同意するなよ一夏ぁ………」
一夏に同情されることが更にダメージなんだよ。
あー、なんかパーっと気晴らし出来ることないかなぁ。
「そうだ疾風くん。次の日曜日空いてる?」
「え? 空いてますよ。てかセシリアいないならオール暇です。デートはしませんよ」
「しないわよ。えっとね、実はこの前中止になったタッグマッチの再戦をやりたいの」
「タッグマッチの?」
「そっ。私と菖蒲ちゃんVS簪ちゃんと疾風くんだけだけど。あの日は無人機に邪魔されたでしょ。出来れば再戦をやりたいって。この前簪ちゃんにお願いされたのよ」
簪がそんなことを。
あの時は滅茶苦茶になった挙げ句ハッキング事件からの後処理+専用機修理で大分時間が空いた。
泣きっ面に蜂よりも酷かったな今考えれば。
更識姉妹の関係が修復した今となっては姉を越えるという野望を無理に持つ必要もなくなった。
だがそれとこれとは話は別だ。
大好きな姉に力を示したい。立派な姉に勝ちたいという気持ちは簪の中で今も燃え盛ったままだ。
「菖蒲ちゃんには話し通してるんだけど。疾風くんはどう?」
「勿論やりますよ」
なればこそ。パートナーである俺が奮い立たなくてどうするのか。
俺としても妥当更識会長を諦めた訳ではない。
「ですが会長。ミステリアス・レイディは修復したとはいえ本調子じゃないのでは?」
「そこは大丈夫。いつもと同じように戦う分には問題ないから。それに………」
ルビーの瞳を細め、口角を上げた口許を隠すように扇子を開いた。
「その程度で負けるほど。私は弱くないわよ」
扇子に書かれたのは『最強』の二文字。
思わず震えた。恐怖ではなく喜び。
これからの激戦を予感する武者震いだった。
ーーー◇ーーー
「と、いうわけで。あの日の再戦をすることになったわ」
「それはそれは。わたくしも見たかったのですが………」
「わかってるよ。ログは取っておくから帰ったら、ね」
偶然連絡の取れたセシリアに事の顛末を話した。
俺としても是非観戦して欲しかったが、まだまだ帰る目処がつかないのだとか。
国の一代プロジェクトなのだから仕方ないけども。
まあそれでも。
「フフッ」
「もう。疾風ったら顔がだらしないですわよ?」
「だって3日ぶりなんだもん、嬉しくもなるって。1ヶ月ぐらいろくに話さなくてもなんとか自我保てたけど。今日の生徒会全く役に立たなくて。はぁーセシリアに会いたい」
「本人を目の前にそんな。今でも顔を合わせてるでしょう?」
実物からしか接種出来ない栄養素があるんだよ。
付き合いだしてからセシリアに対する感情が留まることを知らない。
浮かれている。ああ浮かれているとも。あのセシリア・オルコットとお付き合いだぜ? 勝ち組だよ圧倒的に。
あー疲れが飛ぶわぁ。もうセシリアがいれば何もかも事足りるなぁ。
「てか大丈夫? 結構手こずってる感じ」
「あー、えっと………」
「いや話せないよな。ごめんごめん」
「いえ。開発事態は順調ですわ。ただ………」
「ただ?」
「明日から更に連絡が難しくなるかと思います」
「えーーーーーー」
それは嬉しくなさすぎるニュース!
これ以上オルコニウムが枯渇したら………俺どうにかなっちまうぜ!?
「開発が佳境に入るので。精神面のケアは大切にと」
「俺と話すのはケアにならないわけ」
「ええ、叔母様的には」
「あのっ! あのっ………あのっ! くぅ!!」
あのクソババア! と、言うところをすんでのところで踏みとどまった。
腐ってもフランチェスカ・ルクナバルトはセシリアの叔母、家族と同義。
セシリアも叔母の女尊男卑の風潮をよく思ってる訳ではなかったが。それ以外の面では尊敬していた。
ブルー・ティアーズの第三世代能力の雛型であるワンオフ・アビリティーを発現し。母さんに変わるイギリス国家代表の業務をこなすと同時に第三世代の量産化という革命的な開発にも目処がついている。
いまやフランチェスカCEOはイギリスの中心人物と言っても過言ではない。
それだけじゃなく。彼女は身寄りを失ったセシリアの親代わりとして孤独に戦うセシリアを助けていた。
セシリアと俺の関係を良く思わないのも。セシリアが大切であるがゆえ。
そんな自分を愛してくれる人を貶すことなど。流石の俺でも簡単に出来ることではない。
それでも。
「わたくしから言うわけにも」
「いかないよなぁ」
自惚れるちゃうけど、俺と話していた方が身体的ケアになるんじゃないかな。
仮にそれを話して俺とセシリアの関係がバレたらIS学園に殴り込みをかけてきそうだ。
それは助走をつけて。一時期話題になったフロントガラス割り男事件のように。
「わかった。うん。頑張る。1ヶ月話さないよりはマシだし。うん、頑張るよ」
「なるべく連絡を取れるようにはしますわ」
「半分期待して待ってるよ」
「もう。拗ねないで下さいまし」
「んーー。愛の言葉一つかけてくれないと機嫌治りそうにないなぁ」
今思えば迂闊な言葉だった。完全に調子に乗っていた自覚さえある。
もう心身ともにセシリア不足だから。
半分冗談で言った。セシリアは少し困った顔をするだろうとは思った。これで笑い話で終わって通話を切ろうと思った。
だがしかし一つ誤算があった。
付き合う前は定番お嬢様ヒロインキャラでツンデレが見え隠れしていたセシリア。
以前の彼女なら狼狽えに狼狽えて赤面して取り乱したことだろう。
だが今のセシリアは疾風を心から想い。彼の重荷ごと想い続ける覚悟を持っていた。
そんな彼女に冗談とは言えそんな言葉を投げ掛けてしまえば。
「疾風」
「ん?」
「愛してます、心から。だからもう少し辛抱していて下さいな。寂しいのはあなただけではないのですからね」
こんな風に大きいハートが直撃するのだ。
回避も無敵も対粛清防御も意味をなさない正に確定即死の一撃だった。
「~~! そろそろ切りますわ。そちらはもう夜ですね。おやすみなさい。タッグマッチ頑張ってください」
「おぅ………」
とんでもねえ。とんでもねえセシリアだ。
サービスボールが百八式波動球となって返ってきやがった。
大人だ。セシリアはもはや少女ではなく大人だった。
そして確かに自分は愛されている。
自惚れでも憶測でもなく愛されている。
オルコニウムMAXである。もうタッグマッチ負ける気がしない。てかもう勝った。勝ち申した。
「やっっばぁ………」
そのあと俺がベッドにダイブして悶えに悶えたのは言うまでもないことだった。
疾風ペアと楯無ペアの復活タッグマッチ戦の知らせは瞬く間に学園中に広まった。
授業時間を削らない放課後のアリーナ貸し切りによるISバトルだったが。アリーナは観客満員御礼。
入りきらない生徒は各々のタブレット。学園中に出たホロウィンドウから観戦することとなった。
そんな熱意の真っ只中。イーグルのチェックをしていた俺に簪が一言。
「セシリアになんか、言われた?」
「えっ! なんでそう思う!?」
「だって顔が嬉しそうだもん」
「いやそれはこれからの戦いに想いを馳せてだな」
「それとはベクトルが違うのが顔にある。今だってディスプレイにセシリアの写真写してたんじゃない?」
「うっ」
お前の考えてることなんてまるっとするっとお見通しだ! とでも言いそうな顔で打鉄弐式の最終チェックを行っている。
「悪い」
「なんで謝るの?」
「いやだってさ………ね」
「気にしていない訳じゃないけど。疾風が幸せならそれでいいよ、私は。確かに悔しいし、羨ましいけど。それでも付き合えて良かったねって気持ちもある」
「そういうもの?」
「私の場合は。とにかく私は二人の仲をどうこう言うつもりはないよ。菖蒲もそう」
「ありがとう、でいいのかな」
「うん。ごめんより遥かにいい」
自分を振った癖に目の前で惚けてほしくない。
ってのが普通だと思っていたが。
簪や菖蒲が強かなのか、良い女過ぎるのか。それこそ俺の幸せを願ってのものなのか。
恋愛童貞の俺にはそれを判断する材料はなくて。だから簪の言葉通りにすることにした。
「今回の作戦だけど。ほんとに良いのか? 会長に単機で向かうなんて」
「うん。本当なら菖蒲を集中攻撃したあとにお姉ちゃんを狙う各個撃破が良いのはわかってる。だけどお姉ちゃんに私と打鉄弐式の力を示したいの」
「オッケー。俺はなるべく早く菖蒲を落として加勢するよ」
「気をつけてね。菖蒲、強いから」
「勿論。須佐之男をどうするか。具体的なメソッドがないけど」
菖蒲の打鉄・櫛名田の奥の手の奥の手。電磁外殻駆動鎧型戦術兵装・須佐之男。
あの作品が違うレベルのロボ兵器。でかいから鈍重というセオリーの通じない速度と見合った破壊力。
更にミステリアス・レイディにはミストルテインの槍。しかもあの大出力兵器は出力調整も出来る。まさに変幻自在のIS。
一筋縄では行かない。それでも。
「負けられないからな。やってやるさ」
「うん、頑張ろう」
二人の心に誓うはただ一つ。
打倒! 更識楯無!!
ーーー◇ーーー
「疾風様はどのような作戦を立ててるのでしょうね」
「簪ちゃんは私に向かってくるわ、一人でね」
反対方向のピットにて楯無が呟く。
楯無も楯無で妹のことは良くわかってるつもりだ。
今回の再戦。無理を押してでも頼んだのは実力を見てもらいたいから。なお簪の頼みを断れる楯無ではないという要因もあるのだが。
「ですが、簪様と楯無様では腕前に決定的な差があるのでは。あの簪様がそんな無茶を」
「そうね。非生産的で無謀もいいとこ。でも嬉しいの私」
「嬉しい?」
「ええ。だって無駄なことを嫌い、何処か機械的だったあの娘がそれぐらい自分の我を通そうとする。お姉ちゃんとして、これ以上ないぐらい嬉しいの」
だからこそ。
「私も今出せる全力で相手をする。たとえ機体は本調子じゃなくても。妹にやられるようでは17代目更識楯無を名乗れないわ」
姉にも姉の意地がある。
そして姉としてカッコいい姿を見せたい。決して無様な姿は見せられない。
何故なら楯無は簪にとってのヒーローなのだから。
「だから菖蒲ちゃん。疾風くんを頼むわ」
「それは構いませんが。もし想定通りにならなかったら」
「その時は適宜指示を飛ばすわ。疾風くんは手段選ばないからタイマンと見せかけて、てのは十二分可能性がある。でもそれと同じぐらい人の想いを汲み取れる人でもある………だからいやらしいのよねぇ」
予測がつかない。深読みしてるだけかもしれないが。作戦が一つだけしかないのはまずあり得ないのだから。
「ま、それを全て踏み越えてこその更識楯無よ」
両ISの準備が完了した。
ーーー◇ーーー
「んじゃお先に。イーグル行くぞ!」
カタパルトディスチャージ。瞬間的に感じるGを受けてアリーナに飛び出す。
イーグルが姿を見せた瞬間割れんばかりの歓声がISの補助無しでも鼓膜に響き渡った。
対面では丁度会長が出てきて目が合う。
「俺、今まで会長相手だと良いとこなしですよねぇ」
「やる度に冷や汗かけさせといてなに言ってるのかしら」
最初にバトルしたのが今や懐かしい。
あの時は一夏と初のISバトルをして。まだイーグルも無かった俺が訓練していた所に同じく打鉄を纏った会長がやって来たと思ったらあれよあれよと模擬戦を申し込まれて。
しかも1ダメージでも当てれたら俺の勝ちっていういま考えても頭おかしいんじゃねえかってハンデ貰ったのに負けちまった。
「三度目の正直にしてやりますよ」
「二度あることは三度あるって言うのよ疾風くん」
遅れて簪と菖蒲がアリーナイン。
役者は揃った。あの日果たせなかった試合がいま………
「持てる全てを賭けて!」
「気持ちは充分!」
「行くわよ簪ちゃん!」
「行くよ、お姉ちゃん!」
バトルスタート!
インパルスで牽制射撃、だが一瞬早く菖蒲の電磁弓【梓】から3発の誘導炸裂矢【曲】が三方向から遅い来る。
回避行動を行おうとする俺たちだがそれは直前で爆発。
行動を阻害され身動きが一瞬止まるのを逃さず蒼流旋を構えた会長が内蔵機銃を撃ちながら突貫。
インパルスの穂先を閉じてフィールドを展開しつつ真っ正面から突きだし、穂先同士が擦れあった後すれ違う。
お互い振り向くことなく背後の相手に刃を振るう。
再度突き出される蒼流旋を打鉄弐式の夢現の華麗な薙刀捌きで受け流される。
出鼻がくじかれつつも両者想定どおりの双方1VS1となった。
まだまだ熱気は収まることを知らない。
ーーー◇ーーー
いつだって追いかけてばかりだった。
追いかけることを止めて殻に閉じ籠っていた。
閉鎖的な環境の中で、勝てるわけないと思ってるくせに姉を越えようともがきにもがいていた。
淀んだ瞳のまま、ゴールが見えない道をひたすら進んで………
だが今ではどうか。
眼前で互いの槍が交わり、火花を散らす。
その火花に照らされていた更識簪の目は煌々と燃え盛っていた。
闘志を宿した戦士の目。眼鏡型ディスプレイの奥から覗く紅紫色の瞳には一変たりとも陰りなど存在しなかった。
十数回の交わりのすえ楯無の蒼流旋を下から弾き飛ばした簪の腰に位置する春雷に光が灯る。
上昇してそれをやり過ごす楯無を追う簪だが。彼女と自分の間に遮蔽物がないにも関わらず直角機動で回り道をする。
(全部見えてるというの? 凄いわね)
簪がよけた空間にはミステリアス・レイディが展開した無色透明の水蒸気爆弾がしかれていた。
しかしそれを見逃して突っ込む簪と打鉄弐式ではない。常に大気成分の湿度を探知。視覚からの平面ではなくその密度から立体的に水蒸気爆弾の範囲と爆破範囲を割り出している。
イーグルのような強化観察型ハイパーセンサーを持たないというのにこの制度。楯無は思わず舌を巻く。
これでは終わらないとばかりに簪は次の手をとミサイルバインダーの一つを開き、山嵐発射。
だが撃たれたのは48発のうちの8発。膨大なマイクロミサイルによる圧倒的密度から繰り出される飽和攻撃によるが山嵐の特徴を殺した動きなのにえらく消極的だった。
その動きの真意は直ぐに理解できた。
放たれた8発の山嵐が簪に追従し、断続的に楯無に向かう。
蒼流旋の機銃で撃ち落としにかかるも風に揺れる木の葉のようにヒラリヒラリと弾幕を避けていく。
同時に春雷の砲撃が楯無を掠める
1発、2発と爆散するごとに新たなミサイルが補填され楯無の意識と動きを散らしていく。
その都度パターンを変え。今度は8基全部が楯無の逃げ道を閉ざすように動いていき、時折直撃コースで来る荷電粒子砲をアクア・ヴェールで防ぐ。
(まるでビット兵器ね。こちらの意識が散らされる)
やりづらい。楯無は否が応でも感じさせられる。
楯無の動き、癖。ミステリアス・レイディのスペックの殆どを網羅している簪。
この日の為に50を越えるプランを考えてきた。これでも足りないとすら自負してる簪は楯無の一挙一投足全てを観察しもっとも有力な対抗策を仕向けていく。
「っ!」
「突っ込んできた!」
夢現を持ってハイブースト。すかさずクリア・パッションの水蒸気を配置する楯無に対し再度山嵐を数発射出。
マイクロミサイルは水蒸気の中に突入し爆ぜ上がった。
だがそれはクリア・パッションの爆発ではなかった。
(アクア・ナノマシンが散らされた!)
クリア・パッションの水蒸気爆発を発生させるには。ある程度の水蒸気密度が必要になる。
以前疾風がプラズマを使って水蒸気を散らされて不発になったことがあった。
それを簪は水蒸気のど真ん中にミサイルの爆発を置くことで水蒸気を散らした。密室なら再終結させて起爆もあり得ただろうがここは屋外。散らされた水蒸気の逃げ道は幾らでもある。
「やっぱり、打鉄弐式は………」
突っ込んでくる簪のまえにアクア・ヴェール。
アクア・ヴェールに突き立てられる夢現。夢現の穂先が超振動により水色に光る。そしてアクア・ヴェールに夥しい波紋が水の羽衣を揺らし。
パシュッ。
ものの数秒で弾けて落ちた。
「なっ、くぅ!」
擦りあげるように夢現の刀身がミステリアス・レイディのシールドエネルギーを削り取った。
アクア・ヴェールは堅牢に見えて実はとても繊細だ。ダイラタンシーのように受けるときは固く、それ以外はしなやかに。それを維持するにはアクア・ナノマシンによる緻密なエネルギー操作が必要。
そこにイーグルのプラズマ・フィールドですら打ち破る夢現の超振動とエネルギー伝播を食らえば自壊するのは自明の理だった。
姉妹の攻防を制したのは簪。
予想外の展開に会場が沸き上がるのも意に返さず。喜ぶこともなく春雷がゼロ距離で撃たれる。
爆炎と共に吹き飛ばされる楯無だがダメージゼロ。
直前でアクア・ヴェールを挟んで爆風に乗じて後ろにブーストをかけたのだ。
「やっぱり。打鉄弐式は対ミステリアス・レイディのISなのね。簪ちゃん」
「うん。どうやれば勝てるか。ずっと考えてた。お姉ちゃんを越える、その一心で頑張ってきた。でも今は少し違うの」
いまの簪は勝ちたいと言う気持ちと一緒に嬉しさと楽しさが沸き上がっていた。
姉に一太刀浴びせた。それがどれだけ簪にとって遠い道であったかは彼女にしかわからない。
決して手の届かなかった超常的な存在。実際には少し手を出せば隣に入れた姉だが。それでも外面的な力は簪と雲泥の差であった。
そんな姉のミステリアス・レイディに届いたのだ。
簪と疾風、自分たちに手をさしのべてくれた整備班の人たち。同じ日本代表候補生の一夏と箒。
そして戦闘データの根幹には楯無とレイディのデータもある。
持てる全て、組み上げた道筋の集大成である打鉄弐式。
それが通用した。これ以上ないぐらいの喜び。そして姉に力を見せられた。姉が自分を見てくれるという嬉しさが溢れかえって仕方ない。
だがそれは楯無も同じこと。
「簪ちゃん………強くなったね」
「っ!!」
楯無の言葉に簪は感涙に瞳を潤ませた。
ずっと守らなきゃ行けない存在だと思っていた。
だからこそ更識が抱える闇から遠ざける為に当主となった。
触れそうになった簪を叱責し、あえて冷たい態度を取った。その代償は長年尾を引き、簪は外界との繋がりを絶って殻にこもった。
そんな簪が確かな闘志を持って真っ直ぐ自分と目を合わせている。
強い意思を持った瞳が楯無を貫いているのだ。
姉として、こんなに嬉しいことはない。
成長した、強くなった。それが本当に、心の底から嬉しいのだ。
「私は更識家当主にしてロシア国家代表。この学園の生徒会長にして学園最強。でもそんな物いまはどうでもいい」
ミステリアス・レイディの出力が上がる。
装甲各所で揺らめくアクア・ヴェールか仄かに光る。
今出せる楯無の全力。それをいまさらけ出す
「そんなちっぽけな建前より。妹に負けるお姉ちゃんなんて姉として情けないのよね!」
数々の肩書きを持つ楯無。
だがいまはその全てを捨てた。そんなものは邪魔なだけだし必要ない。
ただ一人。更識簪の姉。更識刀奈として目の前に立てればそれでいい。
いつだって妹の目標でありたい。
なによりもカッコいいお姉ちゃんの姿を目に焼き付けて欲しい。
「行くわよ簪ちゃん。こっからは手加減なし、マジ本気のお姉ちゃんの全力を持ってあなたを倒すわ!」
「望むところだよ、お姉ちゃん!」
姉妹相打つ。
激突する二人の顔はこれ以上ないぐらい晴れやかだった。
打鉄弐式は対ミステリアス・レイディ。
これは個人の妄想ですが、どうなのでしょうね?自分的にはありだと思いますです、はい。
姉妹の仲はとっくに氷解しましたが、今回で更に縮まったかも。
楯無をただのお姉ちゃん刀奈として相手する。これは前から書きたかったものです。
実力に差はあれど熱意では二人とも負けません。
二人には末長く仲良くしてほしいです。