IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第126話【更に更に更に奥の手】

 

 

 打鉄弐式とミステリアス・レイディが予想以上の激戦を繰り広げるなか。

 

 スカイブルー・イーグルと打鉄・櫛名田は………

 

「くっ、うっ!」

「っ!」

 

 菖蒲の防戦一方となっていた。

 

 打鉄・櫛名田。原型機より強化された防御力。フレキシブルに動く八岐銃砲による死角のない弾幕。

 そしてなによりレールガンの要領で放たれる超高速の矢による攻防隙のない構成のIS。

 

 早々肉薄されることなく、その前に撃ち落とし追い落とすことは充分可能な性能を持っている。

 だが相手が悪かった。

 

(疾風様、速い!!)

 

 高速で放たれる矢をひらりと躱し。八岐銃砲の弾幕をプラズマ・フィールドで強引に押し通って直ぐ様近接武装で付かず離れずとチクチク攻撃している。

 幾重にもバージョンを重ね、更に更にと疾風に合わせていくスカイブルー・イーグルのすばしっこさはISの目を持ってしても捕らえることが困難な物となっている。

 

 積極的に接近戦で射線を切っていく疾風。

 打鉄・櫛名田にも電磁弓・梓に備わったプラズマ刃での近接戦闘が可能とはいえ、イーグルと比べるも余りにも手数に差があった。

 

 矢で狙うには近すぎる。

 八岐銃砲も全方位に攻撃できるとはいえ。蝿のように纏わりつくイーグルには致命打を与えるには威力が低い。

 

 須佐之男を繰り出せば圧倒的パワーで捩じ伏せることも可能。だがまだ開始1分かそこらで出していい機能ではない。

 使えばたちまちスタミナ切れとなり、足手まとい以外の何者でもなくなる。

 だから菖蒲は思考を変える。機体を新調しようと自分と疾風の差は歴然、ならば先ずは負けないこと。

 

「どうしたどうした! 固いだけじゃ勝てないぞ菖蒲!」

「勝てもしませんが負けもしませんとも!」

 

 インパルス、ボルトフレア、ワイヤークロー、ビークビットと多種多用に迫る武装をアンロックユニットである四枚の電磁シールドと八岐銃砲で捌いていく。

 

(いやほんと固いんだけど。イーグルでここまで切り崩せないの初めてだな)

 

 比較的に防御力に秀でた紅椿、レーゲン、レイディ相手でも切り崩す手札を持つイーグルだが。単純に固すぎるのはあまり相手したことがない。

 

 ゴーレムⅢのように装甲剥き出しで固いだけなら強引に割り砕けばいいのだが。櫛名田の場合、継続して攻め続けられないのも要因となっている。

 一見優勢に見えて、お互い膠着状態に陥っている。

 

(菖蒲が自分から攻勢に出るとは思えないんだよな。我慢強いのはよく知ってるし、それはそれで離れたら砲撃飛んでくるし………)

 

 強引に割りに行っても良いのだが、後に楯無を控えてると考える疾風は下手な突撃は悪手と考え………

 

(いいや、殴ろう)

「うっ!?」

 

 ブーストを吹かし思いっきり体当たりを噛ました。

 

 このまま千日手をしたとしてもし簪が会長に押されでもしたら状況は悪化する。

 

(現にレイディの出力がイーグル・アイ越しに跳ね上がったし。多少のダメージはコラテラルコラテラル)

 

 女性優遇の会との戦い以来、疾風は迷う時間すら無駄だと気持ちの切り替えが早くなった。

 これが駄目なら次を、それが駄目ならまた次を。

 

 臨機応変。言葉にするだけなら簡単だがこれを実行するのは中々難しい。

 だからこそそれを戦闘中に実行出来る疾風は間違いなく強い部類だ。

 

 だがそれは菖蒲も持っている。

 八岐銃砲の銃口からプラズマニードルを、梓のリム部分からプラズマブレードを出して即座に接近戦に対応する。

 

 四方八方から獲物を補食する八岐大蛇のように鎌首をあげる8本のニードルと梓が一気に疾風に襲いかかるのをバックステップで回避し直ぐに射撃戦に移行。インパルス、ボルトフレアのサークルロンド機動射撃で撹乱。

 八岐銃砲のニードルが引っ込んだ瞬間シールドに足ブレードを入れ、ゼロ距離でブライトネスの衝撃を噛まし。またもプラズマブレードで払い除ける菖蒲の動きを嘲笑うように彼女の頭上に宙返りを噛まし脳天にインパルスのプラズマ弾を撃ち込む。

 

「ハッハー!」

「捕らえられない!」

 

 籠手の高速コールで矢を呼び出して三連射するも当たることはなく変わりに弾丸の衝撃が身体を揺らす。

 櫛名田もブースト、プラズマ・スラスターによる加速は打鉄や高速改修型の打鉄・弐式に迫るが相手はその更に上を行くスカイブルー・イーグル。

 バックブーストのまま射撃、と思えば接近戦で菖蒲のペースを乱しに乱していく。

 

 近くにいれば遠く。遠くにいれば近く。

 砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)

 シャルロットが得意とする距離感と武器を巧みに操る戦術の一つ。

 疾風のそれは見よう見まねの贋作だが、それでも菖蒲を翻弄するには充分な効力を発揮していた。

 

 そして今度は菖蒲に焦りが出始める。

 

 八岐銃砲による弾幕をプラズマ・フィールドで防御するか、そもそも低ダメージは無視する勢いで無茶苦茶に責めてくる。と思ったら今度は遠距離でチクチクと、菖蒲の神経を逆撫でるような戦いに段々とフラストレーションが溜まりつつある。

 

 そして本当に機動に法則性が無さすぎる。

 一体何パターン仕込んできたのやら。

 

(これは………疾風様は私に須佐之男を使わせる気ですね)

 

 須佐之男を出せば戦局が激変するだろうが、その分守りが手薄になる。

 それを補っても須佐之男の力は強大だが、疾風なら対処してしまうのではと菖蒲は使うのを躊躇う。

 セシリアの次に、いや同じぐらい疾風を評価している菖蒲だからこそ、思考の渦に捕らわれてしまった。

 

(籠城戦にはこれが一番効くからな)

 

 稲美都と比べものにならないぐらい強力なISとなった櫛名田。だが乗り手は変わらないならば、戦いの基本骨子も変わらない。

 

 こんな序盤で奥の手を使わない。それを知ってるからこそ撹乱に撹乱を重ねた戦法で櫛名田という牙城を崩そうとしている。というよりは菖蒲のメンタルを削ってる。

 

 簪はまだ大丈夫。

 勝負が動くのは、良くも悪くも簪次第だ。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 夥しいほどの爆発音が木霊する。

 

 一つは山嵐の火薬爆発。

 もう一つはクリア・パッションの水蒸気爆発。

 

 アクア・ナノマシンの制限を取っ払い、広域散布されたそれは一瞬で水蒸気に熱を送り爆発を起こす。

 その勢いは水弾として射出されたそれを一瞬で気体化し、爆発までこぎつけるもの程のエネルギーを持ちながら。

 

 とは言うものの、これは一般的な水蒸気爆発の原理である。

 そも水蒸気爆発とは水が超高温の物体と接触することで一瞬で気化し、その膨張率により爆発するものである。

 これを水蒸気という気化状態でやらかすのがクリア・パッションの凄いところなのだが。それをしてこそのミステリアス・レイディだ。

 

 爆発までのプロセス。液体を弾丸の用に射出し任意で爆発させる。今までトラップとしての運用とは真逆。完全攻撃型のクリア・パッションを前に簪は、対応していた。

 

 打鉄弐式の機動、索敵能力により爆発時のISエネルギーの発露を計算し最適なコースで飛ぶ。

 時より飛ばされる水弾ごと春雷で弾き飛ばし、山嵐を適宜発射して水弾とぶつけるなど。

 

「ハッ!」

「フッ!」

 

 近づいては夢現を振り下ろし蒼流旋、アクア・ヴェールとかち合わせる簪。

 自爆覚悟の距離で戦うことで至近距離のクリア・パッションを封じる。

 

 即座に楯無は思考変更。至近距離でアクア・ヴェールの反応が変化、半歩下がり簪は爆発を回避。

 煙を突き抜けて蒼流旋のガトリング。簪はハイブースト、ガトリングの弾丸が当たるのも気にせず夢現の刃をミステリアス・レイディに突き立てた。

 

(簪ちゃんが捨て身の特攻を!? ほんとにあの簪ちゃんなのかしら! 疾風くんが化けてるとかないわよね!?)

 

 楯無から見て戦闘時の簪は無茶をしない子と見てる。

 冷静に情報を組み、ロジックを作る。

 理知的に理性的に状況を見極め、有効打を打つ。

 

 だからこそ驚いた。こんな損傷覚悟、爆煙で視界が塞がれたと見るや相討ち上等で簪が攻撃してくることに。

 

 楯無の認識は間違ってはいない。しかし簪は今も最善の手を打っている。

 元より無傷で勝てるなんて思ってない。そういう思考を組み込んだだけだ。

 

 だが黙って驚いていられる程、更識楯無に抜け目はない。

 

「きゃあ!」

「甘いのよ簪ちゃん!」

 

 すれ違おうとする打鉄弐式の足にラスティー・ネイルを絡ませ捕縛。

 引き寄せてから、蒼流旋による乱れ突き。ガトリングガン、もう一度ラスティー・ネイルの薙ぎ払いで吹き飛ばしたのち待ち構えていたクリア・パッションで連続爆破。

 

 いまの連撃でシールドが半分持っていかれた。

 

「やっぱりお姉ちゃん。強い!」

 

 油断したら瞬く間に持っていかれる。

 チャンスと思って攻撃を与えれたのは良いもののハイリスクローリターンな結果となった

 

(無謀と無茶を履き違えては駄目、もっと情報を回さないと!)

 

 そもそも、1対1で楯無と戦う作戦。

 作戦としては下の下だ。簪と楯無の腕の差は歴然。今だって初見殺しを連発してなんとか互角以下の戦いを繰り広げている。

 幸いにも姉はタイマンを飲んだものの、いつ心変わりするか簪はわからない。

 

 いつまで通じるかわからない。だからこそ更に畳み掛ける。思考を完結させず、絶えずサーキットを回す。

 

「24発、発射!」

 

 ミサイルコンテナ三つオープン。

 戦闘中に構築していたデータサンプルを多数搭載し、山嵐が一斉に飛ぶ。

 

 楯無迎撃体制。アクア・ガトリングキャノン【バイタル・スパイラル】を展開。更に機体周囲に多数の水弾を展開し一斉射。

 

 蒼流旋を遥かに上回る弾の密度とエネルギーに物を言わせた水弾によるグレネード起爆に山嵐でも3分の2が落とされた。

 残り8発が殺到するも帯状に展開したクリア・パッションとラスティー・ネイルに切り裂かれ。

 最後の2発はアクア・ヴェールに阻まれる。

 

 更に数発クリア・パッションを爆発させ爆煙を散らすと目の前に迫る打鉄弐式の姿が。

 

「読めてるわよ簪ちゃん!」

 

 二つのガトリングで狙いを定める。

 

(最初は蒼流旋で牽制、躱したところをバイタル・スパイラルで止める!)

 

 特攻を念頭に入れ、簪の一挙一投足を逃さず───射程内! 

 

 蒼流旋発射。回避する簪の軸線上にバイタル・スパイラル。

 片手で撃てない反動をアクア・ナノマシンで補強。予測線に発射。

 一瞬、打鉄弐式の姿が残像となって消え、センサーの光点が離れた位置に移動した。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)! でもね」

 

 楯無の左手は既に蒼流旋ではなくアクア・クリスタル。光輝く細い水槍。

 4分の1出力ミステルテインの槍。瞬時加速中は方向転換出来ない。

 

「それも読めてたからね!!」

 

 身体の回転を使ってサイドスロー。

 4分の1でもクリア・パッションより強力な爆弾の槍が簪の目の前で爆発。

 

「予測済みだよ」

「え!?」

 

 打鉄弐式、右側のブースターを逆噴射。

 ほんの少し速度が落ちるギリギリで再度瞬時加速を発動し、小型ミステルテインの槍をやり過ごして楯無に向かう。

 

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション)!? いや個々のスラスターで無理やり軌道を変えて!?」

 

 最初はメインスラスターによる瞬時加速。

 そして減速用にライトスラスター。再加速用にレフトスラスターを始動。

 

 勿論普通は出来ない。これで出来たらアメリカのファング・クエイクの完成度は今より高いだろう。

 

 だからこそ簪は操作していなかった。

 簪は綿密かつ徹底したPIC管理により半ば無理くりプログラムを組んだ。

 これまで一連の行動は打鉄弐式に組み込んだ自動操縦だ。

 いつ進行方向に攻撃が来ることも、楯無がどう対応するか、それを全てを頭に仕込んで。

 

 打鉄弐式はプログラム通り、決められた手順、決められた機動を飛んだのだ。

 他のISでは出来ない。卓越した情報処理、情報構築能力を持った打鉄弐式と簪だから出来た技。

 

 今この瞬間、簪の読みが楯無を上回った。

 

「くぅぅっ」

 

 ISでも相殺しきれないGが簪の身体を軋ませる。

 骨にヒビが入らないギリギリの速度での方向転換。

 勿論予測範囲。予測範囲だけどやはり痛かった。

 

(けど動けない程じゃない! 身体も、頭も!)

 

 果たして今の彼女を見て「この子少し前まで自己肯定感ゼロの引きこもり予備軍ネガティブ思考で、非生産的な行動はしない大人しい女の子だったんだよ」と言って信じる奴が何処に居るだろうか。

 

 脂汗を滲ませつつ、未だ闘志の炎を目に宿した覚悟ガンギマリの眼鏡美少女。

 なにもわからない観客は呆気に取られ。わかってしまった専用機持ちは揃ってドン引きし。山田真耶は慌て、織斑千冬でさえ眉間に皺を寄せた。

 

 そして当事者である楯無は心配と驚異で一瞬頭がゴッチャになる。

 だがそこは更識家当主にして学園最強。そして更識簪の姉、更識楯無。

 

 マジ本気の全力を出すと言った。

 大切な妹が覚悟と成長を見せてくれた。

 

 思考をリセット。

 感情を切り替え。武装をリコールしラスティー・ネイルをソードモードで構える。

 飛んでくるのは春雷か、それとも山嵐か。はたまた夢現による近接戦か。

 

 その答えは………

 

「ビークビット!!」

「え!?」

 

 音声コールのイメージアップによる短縮武装コール。量子変換の光が集約。簪の前方に6基の小型ステルス戦闘機の形をしたビットが現出した。

 バススロットに格納していたのは予め疾風に渡されていた予備のビークビットだった。

 コールと同時に打鉄弐式からビークにプログラム転送。プラズマダガーを構えたビークが一斉に楯無に襲いかかった。

 

 ソードモードからウィップモードに。凪払われたラスティー・ネイルから逃れた3基が楯無に突き刺さり、追い討ちとばかりに春雷の射撃がぶち当たる! 

 

 体勢が崩された。次が来ると察知した楯無は咄嗟にアクア・ヴェールを前にかざすもそこに突き刺さるは淡く光る、弐式から投擲された夢現。

 

 出力全開の夢現により高出力を維持しているアクア・ヴェールが揺らぎ、結合が乱される。剥がされる寸前の夢現を再度掴み、ブーストで身体ごと突き破る勢いで水の膜が破ける。

 

 それでも追撃を許さない楯無はラスティー・ネイルを離し、呼び出した蒼流旋で夢現を手から弾き飛ばす。

 

「あああああっ!!」

「うええ!?」

 

 ブーストを切らさず簪は楯無に抱きついた。足も絡めた完全なホールド。

 途端に楯無の記憶が甦る。それは学園祭のエキシビションマッチにて疾風に抱きつかれた時。

 あの時彼は………

 

「フルオープン!!」

 

 打鉄弐式のミサイルコンテナが全て開く。中には山嵐48発が揃って楯無に向けられる。

 簪の意図を理解した楯無は冷や汗をかく。アクア・ヴェールは間に合わない。全弾くらえば他ISより装甲が遥かに薄いミステリアス・レイディは絶対防御によりリミットダウンの可能性大。

 しかしそれは打鉄弐式も同じこと、それでも簪は行動をやめない。やめるつもりもない。

 

 度重なる初見殺し。癖や動き幾重にも重ねた膨大な分析データ。楯無の心理状態などなど。

 ゼロ距離フルバースト! 

 今までの工程、道程を、今この瞬間に叩き込む! 

 

「これが私の全身全霊!」

「不味っ………」

「撃って! 山嵐!」

 

 白煙が巻かれ、簪が自爆覚悟の発射指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、更識姉妹を真っ白な稲光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1分前。

 

 突如菖蒲が須佐之男を発動した。

 

 だが目の前の疾風には目もくれずに武装を分解、構築して雷神を顕現させる。

 焦りに焦る菖蒲の目線の先には楯無に鬼気迫る簪の姿。

 

「させません!」

「させるものか!」

 

 簪の自爆斉射の目論見を看破した菖蒲と、更に意図を読んだ疾風はインパルスとブライトネスで櫛名田を殴打する。

 

 だが不退転を貫く菖蒲は動かない。

 須佐之男が構築され巨大電磁弓、鳴神が姉妹に狙いを定めた。

 チャージはしない。須佐之男を構築しているプラズマエネルギーをそのまま射出する。その一撃は止める間もなく輝いていく。

 

「止まれぇ!!」

 

 ブライトネスとインパルスをバーストモードか全力で櫛名田を斬り付け、突き入れた。

 シールドエネルギーが一気に減る。だがシールドを削りきるには至らず。須佐之男の狙いは未だ揺らぐことなく。

 

 不動を貫いた徳川家の末裔は弓を引き放った。

 

「雷式・天羽々矢(あめのはばや)!!」

 

 雷が放たれた。

 

 鳴神から射出された極太の指向性プラズマが打鉄弐式とミステリアス・レイディを飲み込んだ。

 だが打鉄弐式の影になっていた楯無は簪を盾にして拘束を逃れ。直撃した打鉄弐式は露出していた山嵐の弾頭が揃って誘爆。簪は爆炎に呑まれた。

 

 雷式・天羽々矢を発射した須佐之男が鎧のみを残して崩れた。

 本来なら膨大なチャージを必要とする【雷式・天羽々矢】。プラズマによる高火力砲撃に必要なチャージを須佐之男を形どっていたプラズマで代用。身体を失った須佐之男の鎧が音を立ててアリーナの地面を叩いた。

 

 制御を失い、アンロックユニットが身体から離れた櫛名田は丸裸同然。

 無防備な櫛名田に疾風は全兵装を叩き込み、打鉄・櫛名田はリミットダウンした

 

 地面を蹴り飛ばし、爆煙から溢れ落ちるように落下する打鉄弐式を助けに行こうとする疾風。

 

《打鉄弐式からビークビットの武装権限譲渡》

 

「簪!?」

「行って………行って疾風!」

「っ! うおおぉぉぉぉ!!」

 

《オーバードライブ、レディ》

 

 エネルギー全解放。

 

 疾風の雄叫びに呼応し、イーグルの各スリットからプラズマブレードが生えた。

 

 自機と簪に与えた予備、合計12機のビークビットを従え、体勢を整えつつある会長目掛けて突っ込む。

 

 なんかもうよく分からないぐらいの出力と輝きを放ちながら突っ込む疾風とイーグルを前に脊髄反射で奥の手である装甲内のウォーターサーバーを解放。

 補充した水を使ったアクア・ヴェールのエネルギーを最大にして振り下ろされるバーストインパルスを防ぐが。ヴェール表面の水が一気に蒸発されて霧散した。

 純水だから電気分解されない、つまりインパルスのプラズマ熱量だけでISのエネルギーに保護された水の盾が剥がれたのである。

 

「疾風くんなにそれ!?」

「先週新実装の奥の手ですよ!!」

 

 ようやく喋る余裕が出来た楯無は驚愕を露にする。

 

 これを知ってるのはセシリアと簪のみ。

 アンネイムドの副隊長戦でも使用したが一瞬だったし運が良いことに楯無カメラの死角だったから楯無はオーバードライブモードの存在を知らなかった。

 

 そこからはもう疾風の独壇場だった。

 文字通り縦横無尽に楯無の周囲を飛び回る疾風。普段の倍を誇る数のビークビット。アクア・ヴェールも物理的に崩され。クリア・パッションも見えているのか回避され、当たったとしてもプラズマ・フィールドで防がれる。

 

 疾風とスカイブルー・イーグルは飛び回る。

 多少の被弾はコラテラルダメージと割りきり次々と楯無の防御を削り取る。

 

 電脳世界の時とは違って調整も完璧。

 無茶が出来なくなった代わりに堅実に、かつ最高のパフォーマンスを見せるイーグルは着実に楯無を追い詰める。

 

 観客席の生徒たちはその光景を目の当たりにし、揃って思った。

 

『更識楯無が負けるのではないかと』

 

 1年生から3年生まで、楯無が生徒会長になってから負けるところを見たことがない。

 負ければ生徒会長が変わるのはIS学園の不文律。

 

 更識楯無の不敗神話はここで終わる。

 そんな期待を世界で2番目の男性IS操縦者に向けていた。

 

 だが楯無も負けず劣らず食らいついていた。

 むしろオーバードライブモードを初見で耐えられてること事態、楯無が如何にとんでもないことが分かる。

 

 もしこれが一夏や越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を解放していないラウラなら嬲り殺しにあっているだろう。

 莫大なエネルギー消費と副作用を対価に圧倒的速さと圧倒的火力の両立を可能とするリミッター解除。

 壮絶な暴力に面食らいながらも耐え続けられているのは楯無の日頃の積み重ね。国家代表と学園最強の名は伊達ではなかった。

 

 そんな中優勢かと思いきや疾風も焦り始めている。

 

(思ったより全然削れないんですけど!?)

 

 固い、とにかく削れない。

 更に周囲に大量展開されているクリア・パッションにも目を向けなければならない。

 

 イーグル・アイもリミッター解除で膨大なデータを観測しているが、所々疾風も処理漏れを起こしている

 現に意識の外でビークビットを6基失っている。

 

 更に迫るタイムリミット。オーバードライブが終われば待つのはパワーダウン。

 そうなれば疾風に万の一つも勝ち目がない。

 

 疾風もエキシビションとは比べ物にならないぐらい強くなり、1年専用機持ちの中でトップクラスの腕前。それでも楯無と比べればまだ実力に差がある。

 だからこそ畳みに畳み掛けを重ねたオーバードライブ。

 短期決戦で簪からのバトンを受け継ぎ、攻勢に出た。

 

 慎重になりすぎず、好機を見つけたのならば思いきって飛び込む。

 楯無の教えを忠実に実行した疾風は格上に臆することなく挑み続ける。

 

 楯無はひたすら防戦に徹する。

 この十数秒でオーバードライブモードが零落白夜と同じく長続きしないことは看破していた。

 瞬間火力であるクリア・パッションが通じない以上、耐えた先でミストルテインの槍を当てれば勝てる。

 

 連続してぶつかる雷光の応酬。

 弾けて消える水光の煌めき。

 

 互いの意地と意地のぶつかり合いが見る者の脳髄に記憶として刻み付けていく。

 一瞬かつ永遠にも感じる攻防の末。ついに均衡が崩れた。

 

 バシュン!! 

 

「あっ!」

「しゃあっ!!」

 

 最後のアクア・ヴェールがブライトネスのバーストアタックにより弾け飛んだ。

 勝ちの誘惑に浸ることなく疾風は今一度両手に握られた二槍を握り直す。

 

 まだ何かあると踏んだ上で飛び込む。

 あと少ししかオーバードライブを維持出来ない。焦りもある、だが時間を与えればアクア・ナノマシンが復活する以上、好機はここしかない! 

 

 ブライトネスを当てる。弾き飛ばされた楯無をビークが切り裂く。

 簪との戦闘。菖蒲の雷式・天羽々矢と、山嵐による誘爆によるダメージ。そして今の一撃でミステリアス・レイディは射程内に入った。

 

 インパルスをバスターソードモードに。

 極雷の大剣を握りしめ、二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)発動。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

 通るだけで空間にプラズマが走る程の出力を持った雲鷹の一太刀が学園最強に向かう

 

 観客の誰もが疾風の勝ちを確信した。

 

 だがただ一人、諦めることを知らない女は瞳に強い光を宿らせる。

 疾風は警戒する、だがイーグル・アイにはクリア・パッションの反応は愚か何も移らない。

 だがもう止まれない。疾風は自身が持つ最大の一撃を振り下ろした。

 

「流石ね疾風くん───でも、まだ負けてあげない!」

 

 楯無が不適な笑みを浮かべた瞬間。ミステリアス・レイディの水のドレスの輝きが【青】から【赤】に変わった。

 

神庭沈下(セックヴァベック)!!」

 

 その瞬間。空間が沈んだ。

 

 二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)の加速を持って突撃したスカイブルー・イーグルは沼に入ったかのように急激な抵抗を受けて停止した。

 

「なっ、はっ!!?」

《オーバードライブ、終了。強制排熱開始》

 

 オーバードライブがタイムアウト。

 プラズマの奔流が終わり、代わりに蒸気が吹き出す。

 

 全身に纏わりつく。空中に居るのに沼に沈む感覚。

 AICかと思ったがそれとはまた別種の拘束結界。

 そして今になってイーグルのイーグル・アイがその拘束結界の正体を看破していた。

 

「空中に散布されていた。アクア・ナノマシンの一斉起動!?」

「そうよ。これがミステリアス・レイディが誇るワンオフ・アビリティー。神庭沈下(セックヴァベック)、超広範囲指定型空間拘束結界よ」

「わ、ワンオフ・アビリティー!!?」

 

 これには疾風も度肝を抜かれた。

 いや疾風だけでなくこの場にいる全員が度肝を抜かれた。

 ミステリアス・レイディは確かに強力なIS。だがワンオフ・アビリティーを使えるなんて情報は一度たりとも聞いたことがない。

 いや、それよりもワンオフ・アビリティーが使えるということは。

 

第二次形態移行(セカンド・シフト)していたんですかそれ!!」

「そうよ。言ってなかったかしら」

「言ってないし聞いてないです!」

「あら言ってなくても聞いたことはあるんじゃない? この子の前の名前はグストーイ・トゥマン・モスクヴェだって」

「………あっ!」

 

 確かに疾風は楯無の機体の前身がそれであると知っていた。

 だが名前が変わったのは楯無好みに改修する際に名前を変えただけだと思っていた。

 

 だが真相は違った。

 楯無のミステリアス・レイディの第二次形態移行(セカンド・シフト)は白式・雪羅と違いそこまで形状外見に変化はなく。セカンド・シフトを下地に楯無が改造されたのをミステリアス・レイディとして使っていた。

 言わばイタリアのテンペスタと同じだということ。

 

「誇っていいわよ疾風くん。この私に神庭沈下(セックヴァベック)を使わせたのはあなたが初めて。本当は使わないつもりだったんだけど。それだけあなたたちは強かった。あなたたちは確かに私を追い詰めたわ」

「くっ、ぬぅぅぅぅ!」

 

 褒められてもそれどころではない疾風。

 

 全く身動きが取れない訳ではない、が。底無し沼に沈むように現在進行形で身体が動けなくなっていく。

 周りを飛んでいたビークも沼に捕らわれて微動だに出来ない。

 正に空間の液状化とも呼べる広範囲結界を前に。疾風とスカイブルー・イーグルはなす術もなかった。

 

 神庭沈下(セックヴァベック)がアクア・ナノマシンからの力なら、広範囲に高電圧を流せば散らす可能性はある。だがオーバードライブ後の疾風とイーグルにはもはやそれは出来ない。

 楯無はここまで読んで、ギリギリまでワンオフ・アビリティーを隠していた。

 

「さ、もっとお喋りしたいけどここまで。このワンオフ・アビリティーね。本来なら専用の限定解除仕様オートクチュールがないと発動出来ないやつを無理やり稼働させてるのよ。さっきの疾風くんみたいなものね」

 

 アクア・ヴェールの赤い輝きは超高出力モードの証。

 そして楯無の右手には赤に染まった水の大槍が渦を巻いていた。

 更に、楯無とミステリアス・レイディは神庭沈下(セックヴァベック)の中を自由に動くことが出来る。

 

「それじゃ、これでおしまい! ミストルテインの槍、発動(楽しかったわよ、2人とも)!!」

 

 空間の沼を突き進むミストルテインの槍を受け、スカイブルー・イーグルは爆発の奔流に呑まれ、リミットダウン。

 

《疾風・レーデルハイト、更識簪ペア、リミットダウン。更識楯無、徳川菖蒲ペアの勝利!!》

 

 激闘に激闘を重ねた大接戦を制したのは。

 

 学園最強、更識楯無その人だった。

 

 






 さ、作文のカロリーが半端ない。燃え尽きたんじゃないか俺。
 どうもブレイブです。

 7巻シーンでは中止となったタッグマッチ戦。いかがでしたでしょうか。
 文字数は多いですが、試合時間は思いの外短かったのではと思います。
 それほど戦況が二転三転した熱いバトルをかけたと思います。

 そして超フライング登場な神庭沈下(セックヴァベック)
 本来の名前は『沈む床』と書いてセックヴァベックなのですが。これまた厨二病が発動してしまいました。
 ある作品の四文字ワンオフ・アビリティーに引かれたのもありめすが。いやはや四文字熟語って男心を擽りますね。
 セックヴァベックのノウハウは完全妄想ですが。実際どうなのか。
 ずっと出したかった展開なので満足です。

 しかし我ながら楯無除いた三人も結構スペックアップしてますわ。我ながら(二回目)
 しかも他の専用機持ちも原作より格段に強くなってる?我ながら強くなりましたねこの子ら(三回目)
 
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