IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
疾風・簪ペアVS楯無・菖蒲ペアの専用機タッグマッチ戦。
両者一歩も譲らず。
試合時間は短かったものの長時間と錯覚するほどの濃密かつダイナミックな試合は見るものを魅了し、そして火を付ける。
今回の試合をモチベーションに生徒の活気や意 欲はますます向上すると学園上層部もこれにはニッコリという上々の結果となった。
そしてその功労者とも言える四人はというと。
「簪、菖蒲。俺の遺骨はセシリアに送ってくれ………ガクッ」
「疾風様が死んだー!」
「この人でなしっ!!」
「ちょっと待って簪ちゃんなんでこっち見て言うのかしら!?」
幸運値低い槍兵ごっこをしていた。
互いの奥の手の応酬の末、最後の最後でなす術もなく爆散した俺はハンガーの床と同化。
菖蒲は迫真の演技で涙を流し、簪は結構ガチめな表情(演技)で会長を睨み付け。
そんな愛する妹から親の仇ばりに睨み付けられた会長は軽くメンタルブレイクを起こしかけた。
結果会長は膝をついて涙目に。
そんな姿を即座にパシャリ。
「へぇ?」
「会長の落ち込み写真ゲットー。茶番はここまでとして起きて下さい会長」
「茶番って、疾風くんの仕業!?」
「プライベート・チャネルって便利ですよね」
「負けた側とは思えないぐらい勝ち誇った笑み浮かべるのやめてくれるかしら!?」
いつでも心に愉悦スマイルを。
どうも自他共に認めるサディスト眼鏡です。
「というか菖蒲ちゃんもグル!?」
「疾風様のためならエンヤコラです」
「簪ちゃんも!?」
「ごめんねお姉ちゃん」
「か、簪ちゃんが悪魔に魂を売ってしまった………」
「誰が悪魔ですか誰が」
さっきより更に落ち込みにかかる会長。また写真を撮った。
会長が回復するのを待って試合の見直し、反省会を開いた。
「もっと攻めの鋭さをだな。菖蒲相手に千日手気味になっちまったし。オーバードライブをもう少し遅らせていればワンチャン行けたのか………わからん」
「お姉ちゃんばかり見てて菖蒲に目を向けてなかった。お姉ちゃんから一歩離れてやって………ううん、それではお姉ちゃんに食らい付けなかった。実力不足」
「私は近接戦の立ち回りですね。疾風様相手に何も出来ませんでした。須佐之男も出し惜しみせずに状況を変化させて………」
「簪ちゃんを固定概念に当てはめてました。調子狂わされっぱなしでもうほんとに………お姉さん反省」
後悔は後の祭りと言うが、別に生き死にがあるわけでもないし。失敗は成功の母と言う言葉があるように原因の洗いだしは必要だ。
自分を見つめ、そして相手の動きで気になった事を洗いだしていき。
時間がかかったのでハンガーから俺の部屋に場所を移していった。
「簪ちゃんほんと逞しくなったわ。もう私の知る簪ちゃんじゃないのね。そう思うでしょ、疾風くん?」
「それには同意ですが、なんで俺を睨むんです会長。確かに簪に会長の度肝を抜いてやろうぜ。ギャップで攻めたら絶対会長動揺するからとは言いましたけど」
「疾風くんのせいで簪ちゃんが自爆特攻上等な疾風くんみたいな子なっちゃったじゃないのよぉ!!」
「会長は俺を死を恐れない不屈な戦士だと思ってらっしゃる?」
「うおーーん!」
「いや叩きながら泣かないで下さいよ痛い痛い痛い!!」
俺は方針を示しただけで戦い方には口だしてないっスよ。
簪があんなにアグレッシブな戦い方をしたのは簪自身の行動と意識であって俺は関与してないですからね。あしからず。
「俺としてはミステリアス・レイディが
「だって秘密にしてたもーん。ロシアにも日本にも隠してたし。知ってるの虚ちゃんとか、ミステリアス・レイディ開発チームの重鎮(更識派閥)ぐらいだし」
「私も知らなかった………」
「あら簪ちゃんもしかして拗ねてるの? 可愛いわ、なでなでさせて」
「スッ………」
「菖蒲ちゃーん! 簪ちゃんに避けられたー!」
「それはまあ。仕方ないのでは」
「菖蒲も知らなかった?」
「ええ、私も知りませんでした」
徹頭徹尾誰にも喋らなかったんだな。
てかそんな隠していたことを出して大丈夫だったのだろうか。
「ま、バレても特に支障はなし。いつの間にか
「軽っ!」
「あ、ちなみに
「更に軽い! あれ、そういう進化形ってなんか、こう。そういうのじゃなくないですかね!?」
ミステリアス・レイディ。
その名の通り、というより会長の影響なのか掴み所のないISなのであった。
「ただ一つだけ問題があってね」
「なんです?」
「私のIS。前回の無人機戦の損傷から回復したとはいえ応急処置的に運用したじゃない」
「そんなこと言ってましたね」
「
ブーブー、と何処かでバイブ音が。
と思ったら会長の顔が見る見る青くなっている。
「虚ちゃんから………お叱りがはいりまーす」
スマホには虚ちゃんの文字が。
会長の身体がバイブに負けないレベルで震えていて椅子とテーブルがガタガタ行っている。
「ということでお先に失礼します。はいもしもし。はい、わかっております今すぐ向かいますので。虚ちゃん怒ってる? うん、ごめんなさい本当に! 大人げなかったと思うわよ。でも負けたくな、あ、はいただいま参りまーす!!」
パタン。
閉じた音のそれはそれは哀愁が漂うこと漂うこと。
「………実質勝利と取るには」
「疾風が納得するなら」
「駄目だなぁ」
負けは負け。
奥の手を上回る奥の手を持っていた会長の勝利だ。
いやしかし………最後のなかったら勝てたと思いたいのは無理もないことだと思いますけどねえ!!
くやしーー!!
「簪も残念だったね。あと1歩だったのにさ」
「ううん、私は満足してる。お姉ちゃんと本気で戦えて。お姉ちゃんも本気で戦ってくれた。それだけで満足。ありがとう疾風、あなたのおかげ」
簪の表情は晴れやかだ。
もう姉の影を追うことはしない。姉と共に歩み、そしていつか越えるという新たな目標を得た彼女はとても眩しかった。
負けちゃったけど。セシリアにも報告しとこっかな。
ミステリアス・レイディが
だが。
セシリアから返信が来ることはなかった………
ーーー◇ーーー
雨が降りしきる中。
二人の女性が路地裏で雨に打たれていた。
一人は雨でも誤魔化せない程泣いていて、もう一人は雨に濡れても滲み出る悲しさと、色褪せない決意に満ちた表情を浮かべていた。
「行かないで、行かないでメリア!」
「………ごめんねシーシア。でも私は行くよ。世界を守るため、そして何より君を守るためにね」
「駄目! 行っちゃ嫌!!」
「ごめんね………愛してる、シーシア」
「メリアぁぁぁぁ!!」
「………………………カーーット!!」
その名の通りカチン! と鳴ったカチンコと共に土砂降りの雨がスッと止んだ。
二人の役者に向かってタオルを持ったスタッフが駆け寄るが。明らかにメリア役の女の子の方が比率が高かった。
「ロラン様タオルどうぞ、いったぁ!」
「私のタオル使ってください! 柔軟剤たっぷりで、あたぁ!」
「お退きなさい小娘! どうぞロラン様。最高級品のオーダーメイドのタオルですぅ!」
しかも集まったのは女性のみ。揃って頬を赤らめてメスの顔をしているという。
シーシア役の女子にはマネージャー一人だけしか行ってない。この格差………
否、それどころかシーシア役の子は自分を拭くことなど忘れ、ロランと呼ばれた美少女を拭きに行こうとしてマネージャーに止められていた。
「離してジャーマネ! 私もロラン様を拭くのよぉ!」
「駄目だってコートニー! いま行ったら潰されるから! ちょ、力強っ!」
ジタバタと小柄な身体を持ち上げられるコートニーは置いといて、件のロラン女史はというと。
「ありがとうシェイミー、助かるよ。ベルエッタ、このタオル良い匂いだね。エリンさん、このタオル凄いフワフワです」
なんと数多の女性から渡されるタオルの応酬を見事捌ききり。なおかつ一人一人に声をかけて自身の身体を拭いていた。
しかも全員の名前を間違えず、トラブルの一切を起こさずに。その美貌も仕草は群がる女性一人一人の心を掴んでいった。
そんな王子様系女子という言葉を人の形にしたようなグレイヘアーの女性の名はロランツィーネ・ローランディフィルニィ。
オランダの代表候補生にして、世界中の女性の心を奪い続ける罪な女。
今回は彼女が主役のドラマの撮影である。
「あ、ロラン様」
「お疲れ様コートニー。心がこもった素敵な演技だった。役なのにも関わらず、思わず足を止めてしまいそうになったよ」
「あ、ありがとうございます! ロラン様も素敵でした………」
先ほど暴れていた癇癪玉と同じとは思えないほどしおらしくなる彼女。
林檎色の頬は雨に打たれた寒さのせいではないのは明白だった。
「フフッ、ありがとう。それにしてもコートニー。私のこといつまで様付けなのかな?」
「え、ひぅ。ごめんなさい。まだ恥ずかしくて」
「可愛いねコートニーは。今日は難しいけど。今度何処かデートに行こうね」
「は、はひ。ひゅー」
「おっと」
ロランが発した耳元ウィスパーボイスにコートニーはノックアウト。
受け止めるロランの動作はまさに姫を抱き抱える王子そのもの。表情、腕の運び、足の角度。
全てがパーフェクトでハーモニーだった。
「キャー!」
「流石ロラン様! 全ての動作が美しい!」
「もうロラン様しか勝たん」
「ロラン様抱いてー!」
ロランが放つ余りの魅力を前に幸か不幸かコートニー女史への嫉妬どこらか眼中になし。
みんな『何か』を抱き抱える我らがロラン王子しか見えていなかったとさ。
「ロランさぁ。定期的に女の子気絶させるのやめない?」
「そのつもりはないのだがな」
「嘘付きなさい。意識しないとああならないでしょ」
「本当に嘘はないのだがな。もしかして嫉妬かな? リリアーヌさんなら何時でもウェルカムだぞ? アイタッ」
「マネージャーを口説くな、あとマネージャーと言え白百合野郎」
「野郎じゃなくて女だよ私は」
デコピンを食らったおでこを擦りつつ若干涙目なロラン。こんなポンコツな姿でも道行く女性をクラッとさせるのだから手に終えない。
「まったくほんとロランの雑食さには参るわねー」
「ちょっと待ちたまえマネージャー。私がところ構わず食い散らしてるみたいなこと言わないでくれたまえ」
「99人も恋人作ってるやつが何をのたまってるんのよ爆発しろ! あのコートニーって子何人目だ!」
「丁度80人目だ!」
「得意げに言うな!」
そう、このロランツィーネ・ローランディフィルニィ。
なんと世界各国に99人の恋人がいるのだ。しかも全員女性というレズビアンハーレム。
………何を言ってるか分からないだろうが世間周知の事実である。
先ほどのコートニーも99人の恋人のうちの1人である。
スケールがでかいなんて話じゃない。二次元から飛び出したような純愛に生き恋愛に生きる女、それがロランという女、いや女傑である。
「あんたのモテが少しでも私にあれば、私も速攻で結婚できるだろうになぁ」
「相手は等しく女性になると思うが」
「あんたのモテスキルありゃあ男の1人や2人は持ってけるわ! はぁ、世の中って理不尽ねぇ」
「リリアーヌさんは素敵な女性ですのにね」
「マネージャーと呼べ。ロラン、性転換しなさい。そしたら万事解決だから」
「悲しむ百合の花たちがいるので駄目です」
「畜生! IS生まれてからへなちょこな男しかいねえし! 誰だよIS作ったやつ畜生!」
癇癪を爆発させるマネージャーに苦笑いするロラン。
自分に気のある女の子との一時も楽しいが。こういうダラッとして雰囲気も楽しい。
まさに人生を謳歌しているロランであった。
「じゃあ私は弁当貰ってくるから」
「ああ。頼むよ」
楽屋前で別れたマネージャーに手を振り。ドアを閉めた彼女は暗がりの中で軽く息を吐く。
皆の前ではカッコいい王子様。だがそんなファンの前でタメ息など吐けば心配される。
王子様キャラを演じてる訳ではない。ロランにとってはそれが素であり。大変なことでもなんでもない。
女性関係も良好。職場の雰囲気も良好だ。
そう、女性関係では悩みなど一つもないのだ。
それでも彼女らの前ではカッコいいロランツィーネ・ローランディフィルニィでいたい。
(………よしリセット完了。コートニーとのデートはどんなシチュエーションにしようかな)
楽屋の電気を付けて台本を確認しようとしたが台本が置かれてる場所に台本がなかった。
何処に行ったかと視線を移動しようとしたその時。
「美人がタメ息を吐く瞬間は、いつだって胸が痛いものね」
「!!?」
普段余程のことでも動じないロランが動揺をあらわにした。
視線の先には、椅子に座る1人の女性。
ブロンドの髪と蒼の瞳。
切れ長の目はキツイ印象を持つが今の彼女はまるで聖母のような笑みを浮かべ、ロランの台本を読んでいた。
「悩みがあるならお聞きしましょうか。ロランツィーネ・ローランディフィルニィ」
「これはこれはフランチェスカ・ルクナバルトさんではありませんか。アポイントメントはお取りになったので?」
「ごめんなさいね。あなたに火急の用事があったのでお忍びで失礼致しましたわ」
ティアーズ・コーポレーションCEOにして現在のイギリス代表。
そして
そんな彼女の裏の顔を知らないロランでも彼女に隙を晒しては行けないと警戒するが、持ち前の演技力でそれをおくびにも出さずに飽くまで紳士的な対応を試みる。
「貴方のようなビッグネームが私のような小娘にどんな御用でしょうか」
「小娘だなんて。私はあなたのことを高く評価しているのですよ。先程の演技も大変素晴らしかったです………早速ですが本題と行きましょう。私はあなたをスカウトに来たのです」
「スカウト?」
「ええ。私、いえ私たちと共に崇高なる世界を作る為。女性による女性の為の世界を実現させるためです」
隠していても熱を漏らすフランチェスカにロランは更に警戒を上げる。
ロランは数多の女性と交流を持つ。その中にはいささか癖の強いものや、情熱が行きすぎた物もいる。
だからこそ女性を見る審美眼は他の追従を許さない。
故に、言葉は綺麗でも、フランチェスカの奥にあるものを知覚してしまった。
「申し訳ありませんが。私はいま忙しい身です。世界中の人々がこれから出る映画を待ち望んでいるので」
「ああそうですか。ですが貴方のような素敵な女性が出る価値があの映画にあるとは思えませんが」
「………何故?」
「この映画の監督である男は過去に何回も女性関係で汚点を残した。しかも今も尚懲りることを知らない。過去に何本も世に評価されてるみたいだけど、そんな薄汚い底辺が作り出す映画は出来はよくても駄作でしかない──そんな男が作り出す醜き作品に可憐な百合の乙女である貴方が汚されるなど、私にとって身の毛もよだつ思いなのです」
「………」
ロランは言葉を失った。
だがそれ以上に侮蔑とも言えるその言葉になんの悪意も感じられなかった。
さも当たり前のように、当然のように言ったのだ。
この女は本気でロランのことを思って言っている。それが返って恐ろしかった。
だからこそ聞かねばならなかった。彼女の本心を。その心の奥底。
「一つ教えて欲しい」
「なんでもどうぞ」
「貴方が作り出す女性による女性の為の世界とはどのようなものなので?」
「ウフフ。良いでしょう、教えてあげる。きっとあなたも共感してくれると思いますわ。我々が作り出す世界、それは………」
フランチェスカ・ルクナバルトは語る。
お伽噺を語るように。紙芝居を見せるように。
とても楽しそうに、理想である世界を話続ける。
聞き手の心がくすむことも知らずに………
「とまあ掻い摘んで言うとこんなものでしょうか。どうかしら、素晴らしい世界でしょう? きっとあなたの99人の恋人も喜ぶと思うわ♪」
「………………成る程、噂に聞いては居ましたがこれほどとは………ええ、想像以上の素晴らしき世界でしたよ」
「では?」
「ああ………やはりあなたとは相容れない! オーランディ・ブルーム!」
自身の愛機の名を叫び、オレンジ色の装甲と共に蔦状のユニット、ヴァイン・アームズがフランチェスカを捕らえた。
「あら、乱暴ですね。こんなことをする人だとは思わなかったわ。私が作り出す世界を否定するの? 同じ女性を愛する者同士なのに」
「一緒にしないで頂きたい。確かに私は世界中の女性を愛している。だが私はあなたのように男性を嫌悪していない、むしろ尊重している!」
カッと靴を踏み鳴らすロランの瞳はまるで剣の煌めき。
その切っ先は目の前にある美麗の妖花だ。
「女尊男卑が一般的となった世界では確かに萎びた男が多くなった。だがその中でも輝く男がいるのも事実! 監督だってそうさ。女癖が悪くセクハラも多い。だが映画にかける熱意は本物だ! だからこそ私はオファーを受けた。そしてその映画で世界中の人々、そして百合の蕾たちの笑顔が見たい、だから演じ続けるのさ!」
蔦の拘束を強める。
全神経を目の前の女に注ぎ、決して逃がさないように。
「私ならあなたの100番目を用意してあげられるわよ? あなたが今まで見てきた中で一番美しい女性を」
「悪いが、それは私自身が決めることだ。他人が決めることではない。私の愛は決して安くはないのだからな!」
ロランは確信していた。確かに彼女の言葉は聞くものによっては理想の世界なのかもしれない。
だがやはり共感できない。何より人々の愛が生きる世界で彼女が作る世界は窮屈だ。
そんな自由を何より愛する彼女と差別主義なフランチェスカが相容れるわけがなかった。
「交渉は決裂、で宜しいかしら?」
「無論だ。このままお縄に付いて貰おう。迂闊なことはするなよ。ISを展開するより私の蔦があなたの意識を刈り取る」
「そうね。そのISなら出来る………けどやはりまだ子供ね。言う前からやればよかったのに」
「何を、うっ!」
首に何かを刺された。
無針注射器だった。認識する前に蒼い薬液がロランに注入された。
ISが解除され、ロランは膝をつく。
「もう1人、いたのか」
「残念だわロランツィーネ。あなたは素敵な人だから手をとって欲しかった。でも大丈夫、きっとあなたは理解する、いいえ理解出来るわ。あなたが幸せになれる世界をね」
「くっ………うっ」
「イエーイ、ロラン! 見て見て! 今日の弁当は高級ステーキ弁当よ! 早速食べよー………あれロラン? ロラーン?」
──暫くして。オランダ代表候補生。ロランツィーネ・ローランディフィルニィの失踪が世間に発表されたのであった。
ーーー◇ーーー
「遅いぞ織斑」
「すいません織斑先生。あれ、先輩方も?」
IS学園のブリーフィングルームに呼ばれた一夏はいつもの面々に加えて本国から帰ってきたばかりのダリルとフォルテが居ることに首を傾げる。
何かあったのだろうかと訝しむ一夏だが、疾風、菖蒲、シャルロット、ラウラの4名が居ないことに気づいた。
「ラウラと菖蒲さんは? 疾風とシャルロットは確か本社に出向してるとは聞いてたけど」
「2人にはそれぞれの護衛についてもらった」
「護衛? 何かあったんですか?」
「この前。オランダの代表候補生が失踪したというニュースがあっただろう」
「ああ確かロラン………ロラン、ロランズィーベン」
「ロランツィーネ・ローランディフィルニィだ」
「ああそうだ。そんな名前だった」
一夏は元々名前を覚えるのが苦手だが、ロランに至っては長いなんてもんじゃないから致し方ない。
他の生徒の前で間違えた場合の安全は保証しないが。
「それで、失踪したロランツィーネって人と今回とどんな関係が?」
「ローランディフィルニィに限った話ではなくなったからだ」
「それってどういう?」
「これはまだ非公開情報だが。ここ最近各国のIS乗り、そして代表候補生が相次いで失踪しているのだ。専用機を含めてな」
「え、ピンポイントで代表候補生が失踪してるってことか?」
明らかに不自然だ。
一ヵ所の人間が集団失踪したならまだ納得が行くが、同時期にISごと代表候補生が失踪するなどただ事ではないどころの騒ぎではない。
「なんでロランツィーネさんみたいに公表しないんです? 人が行方不明になってるって言うのに」
「ISごとなくなってるのが問題なのよ、一夏くん。ISの個数は国力そのもの。それが乗り手ごと居なくなったと知ったら、その国の管理責任として世間から非難の対象となる。要するにプライドと面子ね」
「そんな! 人がいなくなってるのになんでそんな下らないことの為に」
「それが今の世界情勢なのよ。表向きは戦争の割合が激減して各国が平和関係を築いてるけど。ISの技術力を巡って今も睨み合いが続いてるの。銀の福音の暴走、サイレント・ゼフィルスやアラクネが強奪されても表沙汰にはならなかったでしょ」
それを聞いて一夏は国が何故黙っているのか納得した。
だが納得したとしても。人の生き死にがかかってるのに保守的な立場を優先する国と世界の在り方に憤りを隠せなかった。
それを口にしようとした時。一夏の袖を掴む手があった。
震えながら掴んだのはなんと鈴だった。
「鈴?」
「失踪した代表候補生の中に、台湾も含まれてる。その娘、
「なんだって!?」
「乱の親と中国政府から乱の居場所を知らないかって言われて。乱が行方不明って聞かされて。私から連絡しても出てくれなくて………どうしよう一夏、もし乱に何かあったら!」
こんなに取り乱す鈴を一夏は初めて見た。
だが安易に大丈夫と言うことが出来ず、一夏はソッと鈴の腕を握ってやることしか出来なかった。
「他にも専用機持ち代表候補生の中で確認が取れてるのはタイのヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー。ブラジルのグリフィン・レッドラムも同様の報告を受けている。更にシュヴァルツェ・ハーゼの一般隊員からも失踪者が出てるという報告がボーデヴィッヒに来ている」
「アメリカでも失踪騒ぎがあったってよ。お前んとこはどうよフォルテ。確かヘルって代表候補生が居たろ」
「ベルベットとは連絡が取れたっす。でもギリシャでも警戒体勢になったって」
「ロシアからも出たわ。私の前身であるログナー・カリーニチェっておばさんなんだけど。性格はともかく実力はあるのよね。元代表だし」
事は思ったより大事になっていた。
そしてその対象は学園の代表候補生である自分たちも例外ではないことを示していた。
そして一夏は気付いた。学園在住の代表候補生で、暫く会っていない友人のことを。
「セシリアは大丈夫なのか?」
ーーー◇ーーー
「…………」
目の前でイーグルがメンテされてるのにも見向きもせず、俺はスマホの画面をジーッと見つめている。
画面には着信無しの文字。
何度連絡しても繋がらない。
LINEを送っても返信は来ないし、既読すら付かない。
なんか怒らせることをしたのか。しつこく連絡しすぎたのか。でもそれで怒るような性格だったかと。
オルコニウム不足とかギャグいことを言っていた時期が懐かしい。
簪の件で疎遠になっても姿は見れたというのに。
もしかしたらセシリアは俺が作り出した架空の偶像なのでは。と思ってしまうこともあるぐらい。
自分の身体が半分ない感覚さえある。つくづく俺はセシリアにゾッコンのようだ。
「疾風」
「………」
「はーやーて!!」
「わっ。母さん? そんな大声出さなくても聞こえるよ」
「10回も呼んだんだけど」
マジ? どんだけボーっとしてたんだ俺は。
菖蒲は………ああ、あっちでメンテか。
「完全に脱け殻ね。セシリアちゃんが心配?」
「だって、いま世界のあちこちで代表候補生が失踪したなんて聞かされたらさ。連絡もまったく取れないし」
「大丈夫よ。そもそもセシリアちゃんが失踪したらフランが黙ってると思う?」
「思わないけど………でもなぁ」
「まったく。フランもメールぐらい許してあげればいいのに」
「俺嫌われてるから」
「完全にお邪魔虫扱いだもんね。あ、お母さんは全然オッケーだからね! 勿論剣ちゃんも」
「それはどうも」
(あら、否定しないのね)
少し目を丸くする母さんに目もくれず俺はなおもスマホを見続ける。
さっきより作業の音が聞こえる。
母さんは作業を眺めてるだけで黙って隣に座っていた。
「大丈夫よ。もうすぐセシリアちゃんに会えるわ。フランからもうすぐ開発が終わるって言ってたから」
「本当に!?」
「うわ、凄い食い付きよう。さっきまでのデッドフィッシュっプリは何処いったの?」
死んだ魚の目とでも言いたいのか母おめー。
あれ、そういえば母さんセシリアの叔母さんのことフランって呼んでるんだ。
「母さんから見てルクナバルトさんってどんな人? 仲良いの? あの人が人と仲良くしてるイメージないんだけど」
「コラコラ失礼よ。知り合ったのはソフィアとハーリーさん、セシリアちゃんの親御さんが結婚した時かしら。イギリス代表だった私に興味があったのか、そこから友達にね。いつも剣ちゃんのこと睨み付けてたけど」
「やっぱ昔からああなんだ」
「でも今ほど激しくなかったのよ。それはまあ男は大嫌いだったけど。表に出すほど毛嫌いしてなかったし。実はお兄さんっ子だったのよ」
「ええ、マジで!?」
「まあ本人も素直になれてなかったけど。そうねぇ、フランが今みたいになったのは二人が事故にあって暫くしてからだったかしら。徹底的に男性を排泄的に扱って、ティアーズ・コーポレーションから男を追い出したのもその時からね」
セシリアの両親の事故であんな刺々しくなったのか。いやそれでもあの反応は度を越えてた気がするよ。
今まで色んなミサンドリーを見てきたが。あそこまで憎しみの籠った目を見たのは初めてだった。
まるで全ての男を根絶やしにするとばかりの殺意を宿した目。
いったいどんな思考と人生経験を積めばああなるのか。
いやそれよりも。というより結局知りたいのは。
「ここまで病的にセシリアを隔離する必要あるのか?」
セシリアを大切に思ってるのは知っている。
だけど俺や一夏は愚か。菖蒲や簪、他女子からのメールにも一切反応がないのだ。
BT制御がいくら精神に影響するとはいえ。いや、精神に影響するからこそ閉鎖的な環境は反って悪影響なのでは。
はあ、一言でも良いからセシリアの声を聞きた………
………………あれ?
「ねえ母さん。代表候補生失踪の話が出始めたのっていつ頃だっけ」
「私が仕事の伝で聞き始めたのは一週間前ぐらいだったかしらね。どうかしたの?」
「セシリアから音信不通になったのも、一週間前なんだよ………これって偶然?」
「………何が言いたいの?」
母さんも俺が何を考えてるか察しつつも聞いてしまう。
学園で起きた女性優遇の会のリーダーから聞いたクィーンという人物。そしてキャノンボール・ファストに現れた大量の人型ドローンに組み込まれていた
ずっと頭の中であった、だけど憶測だから言えなかったこと。
そして何より。セシリアに何があったとしても。騒ぐ必要がないとしたら………
今回の失踪事件、フランチェスカ・ルクナバルトが関わってるんじゃ。
そう口に出そうとしたその時。
ビー! ビー! ビー! ビー!
オレンジ色の非常灯とホログラムウィンドウが視界を染め上げた。
「え、コンディションオレンジ!?」
「私よ………なんですって!?」
「何があったの?」
ISの通信チャネルを開いていた母さんが管制室からの通達に声を上げた。
それは未確認のIS反応が複数接近中との報告だった。
これから起こること。それはインフィニット・ストラトスが生まれて以来初めての世界規模の大事件。
薄氷の世界が割れ、抑えられていた悪意が世界に溢れ出し、混沌と恐怖が蔓延する。
そしてこれまで経験したことのない。今まで過ごした人生がちっぽけになる程の。
想像を絶する。絶望の物語が始まろうとしていた………
夏の暑さと湿度にバテバテ。
北の大地よ、何処に行った………どうもブレイブです。
ええ、はい。遅れて申し訳ないです。2話投稿するのに1ヶ月。流石に遅すぎます。
いやなんというか。夏の暑さと重い展開が、ISらしからぬ重い展開を書くの辛い。でも書かなければと筆を取った次第です。
アーキタイプ・ブレイカーの登場人物。意外な形で出たと驚いた人が居たでしょう。
そして不法侵入叔母さん。うん、この字面だけだとシュールだな、流石のロランも引くわ。
有料のアキブレシーン集を買おうと思う今日この頃でした。