IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 皆様お久しぶりです。いや本当に。
 ほぼ2ヶ月。なんということでしょうね。自分でもびっくりです。

 ここから徐々にペースを戻そうと思います。


第128話【崩壊のオーバーチュア】

 

 

 

 日本近海を飛行する複数、いや大多数の飛行物体。

 

 どれも人の形の延長線上となっているそれは真っ直ぐレーデルハイト工業実験施設。

 島に立てられたそれ目掛けて飛ぶ。

 

 人型BT兵器ワルキューレ。そして、総勢10機によるISの編隊だった。

 

 青のワンポイントが塗られた純白の機体。その姿はセシリア・オルコットの乗機、ブルー・ティアーズとほとんど瓜二つ。

 

 その名は【クリア・ティアーズ】

 イギリスの第三世代IS、ブルー・ティアーズの正式量産機である。

 

「フフ、ウフフフフ、ウフフフフフ………」

 

 レーデルハイト工業実験施設が見えるに連れ、編隊のうちの一人から思わず笑みが溢れた。

 その笑い声は聞く人によれば綺麗な声だろうが、大多数は滲み出る醜悪さに嫌悪感を示すだろう。

 笑い声は更に高まり、やがて狂喜にまみれた熱を出した。

 

「フフフ、フフアハハ、アハ、アハハ、アーハハハハハハハハハハハハハ!!! レーデルハイト! レーデルハイトレーデルハイトレーデルハイト!!」

 

 狂喜に突き動かされた赤髪の女は躊躇うことなく得物の引き金を引いた。

 

 ライフルから放たれた高速レーザーは狂うことなく実験施設の壁を穿ち、爆発を起こした。

 

「ほらぁ! まだまだ行く………あぁ?」

 

 次の穴を穿とうとした時、レーデルハイト工業の実験施設をすっぽりと覆うように巨大なプラズマ・フィールドが襲撃者を阻んだ。

 

 試作防衛プラズマ・ドーム。

 前回のスコール襲撃時の教訓として用意されたISアリーナに使われるエネルギーシールドの代用案。

 レーデルハイト工業が試験的に運用したそれはスカイブルー・イーグルのプラズマ・フィールドのまんま拡大版である。

 

「無駄な抵抗を! 行け! 素晴らしき女性至上世界の為になぁ!」

「「素晴らしき女性至上世界の為に!!」」

 

 熱に浮かされた声と共に襲撃者のIS、クリア・ティアーズの翼から6基のレーザービット✕10機分=60基が分離し一斉に発射。周辺のワルキューレもレーザーガンを撃ち放つ。

 まさしく弾幕。各々が持つレーザーライフルも合わせて文字通り光の雨がプラズマ・ドームに降り注ぐ。

 

 元々試作用として作られたドームはなんとか防げているものの。直ぐに限界が来たのかプラズマを突き破った幾つかのレーザーが施設に突き刺さり爆発を起こす。

 

「ハッハッハ! 雑魚過ぎるでしょ! さっさと更地にして………ん?」

「ハイパーセンサーに感。下、海中から?」

 

 無法者の真下。海中が一瞬光り、そこから12本の剣がワルキューレ四機を瞬時に解体した。

 

「何をしているの、あなたたちは!!」

 

 アリア・レーデルハイトが咆哮する。

 いつも笑顔を浮かべるその顔に怒りを込め、ワルキューレを切り飛ばしながら近くのクリア・ティアーズに刃を振り下ろす。

 

「おっとぉ!」

「っ!」

 

 だが死角から、厳密にはISに死角はないが。人間的な死角からの攻撃をまるで分かってるかのように振り向き様レーザーサーベルで受け止める敵機。

 直ぐ様連撃を加えようとするアリアだったが。その搭乗者。赤毛の女を見て剣が止まった。

 

「あなた、メアリ・メイブリック!?」

「知っていてくれて光栄だなぁ! アリア・レーデルハイトさんよぉ!」

 

 メアリ・メイブリック。

 今年の夏。アリアの娘である楓を誘拐。それを餌に疾風を誘き寄せ痛め付けた挙げ句、楓を暴行させようとした女。

 セシリアの救援で事なきを得て、最後は疾風の手で叩き潰された。

 そんな彼女があの時以上の狂喜的な笑みを浮かべながらISを率いていた。

 

「なんであなたが。あなたは捕まって刑務所にいる筈。それにそのISはティアーズ・コーポレーションの最新型のはずよ!?」

「なんでだろうなぁ。不思議だよなぁ………でもそんなのどうでもいい! 今このとき! レーデルハイト工業を潰せればいいのよねぇ!」

 

 四方八方からアラート。

 アリアは間一髪神がかりな回避で全方位から迫り来るレーザーを避け、防御して距離を取った。

 

「答えなさい! そのISを何処で!」

「むしろなんで聞くのかなぁ! 分かりきってるもんだろ状況証拠でさぁ! 行けワルキューレ!」

 

 BTコントロールで動かされる人型BT兵器がアリアに飽和攻撃を仕掛ける。

 レーザーガン、マイクロミサイル。そしてクリア・ティアーズから撃たれるレーザー。

 流石のアリアもクロスレンジに持ってくには難しく。それに加え今のアリアには余裕がなかった。

 

(なんとか私に注意を! 皆が無事に逃げ込むまでは、これ以上犠牲者を出さないためにも!)

 

 アリアの耳に実験施設の状況が流れてくる。

 怪我人が発生し、動かなくなった人もいると。

 前回の襲撃がどれだけ恵まれていたかわかる。手の内を予測していたから、それで対処出来たから。

 アラスカ条約という建前の安全弁で守られた平穏が、いま破られた。

 

(だとしても!)

 

 アリアは強引に包囲網を突き進んだ。

 ワルキューレからの攻撃を無視し。迫り来るレーザーを切り結び、フィールドで守りながら切りつけていく。

 

 再度唾競りあう。が、射角的に敵機を盾にする形となった。

 これでアリアを狙えば味方にも当たってしまう。

 

「このっ!」

「懐に入りさえすればビットは! くぅ!」

「あぁ!」

 

 だがそれに構わず周りのクリア・ティアーズはアリアの近くの味方ごとレーザーの雨を降らせた。

 予想外の攻撃。だがそこは元代表。フィールドを全面に張ることでガード。しかし再び包囲網をしかれる。

 

「素晴らしき女性至上世界のためにぃ!!」

「我々の世界のために果てろぉ!!」

 

 先ほど巻き込まれたISパイロットも巻き添えを気にすることなくガンギマリでレーザーを撃つ。

 

 異常なほどの士気の高さ。

 仲間を躊躇わずに巻き込み、それを気にしない強固な意思。卓越した反射神経。

 そして何より、あのセシリア・オルコットでさえ使いこなすまで困難だったビットとISの同時使用。

 

 明らかに普通じゃない。なによりこれほどの部隊を運用するためのコアを何処から。

 

『社長! プラズマ・ドームがもう持ちません!』

「っ! うおおお!!」

 

 再度突貫するアリアを嘲笑うかのようにクリア・ティアーズたちは散開。アウトレンジからアリアとディバイン・エンプレスに射撃を見舞っていく。

 

 だが彼女たちは決して近づかず、回避に集中しつつビットによる包囲射撃、時にワルキューレを囮にして対応している。

 

「さあ壊れるよぉ! レーデルハイトに関わる奴は全員皆殺しに」

「メイブリック! 必要以上に女性を傷つけるなとクイーンに」

「ああ? 今さらだろうがよ! まあいいさ、精々誤射しないようにするさ!」

「ふざけろや!!」

 

 海中から雷光が飛び上がりメイブリックの機体を吹き飛ばす。

 続けざま疾風のイーグル、菖蒲の櫛名田、そしてレーデルハイト工業パイロットのアメリア・トンプソンの打鉄・稲鉄パッケージが飛び出した。

 

「メイブリック!!」

「アハ! 久しぶりだねぇ! 疾風・レーデルハイトぉ!!」

 

 疾風のインパルスとメイブリックのレーザーサーベルがかち合い火花を散らす。

 

「すいません社長! 遅れました! これから支援に入ります!」

「なんなんですか、この人たちは!」

「今はこいつらを退けることだけを考えて!」

「「了解しました!」」

 

 数的有利は以前として変わらず。だが微かに見えた光を掴むために各々が今出来ることを手に取った。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 同時刻、フランス。

 株式会社デュノア。フランスの大都市パリにそびえ立つ今は寂れつつあるIS界トップ企業のビル。

 

「ぬーん」

 

 シャルロットの同行者であるラウラは腕組みをして唸っていた。

 シャルロットはデュノア社に入ったが、ラウラは門前払いされてしまったのだ。

 というのも他国の代表候補生、更にドイツ軍IS部隊の隊長という立場も相まって社の機密保持を名目に立ち入りを拒否された。

 当然と言えば当然であるし、今回の同行も非公式ないわばプライベートのようなもの。相手の言い分はもっともであり、シャルロットも同意して笑みを浮かべながらラウラを置いて今頃上の階だ。

 いや、むしろこのデュノア社に近寄れるだけでも儲けものか。だが。

 

「護衛の意味はないな」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの防御性能は特筆するものはあれど、それは近距離にて効果を発揮する。

 いかにオールラウンドなISでも、これでは宝の持ち腐れだ。

 

「他人のことばかり気にする余裕などないのだが………」

 

 オランダの代表候補生失踪から世間で密かに騒がれているIS操縦者の連続失踪。

 その失踪者に黒兎隊、シュヴァルツェ・ハーゼも含まれている。

 ラウラと副官クラリッサに次ぐ実力者である四人が同時に失踪。更に黒兎隊が保有しているIS3機のうち1機が消えているのだ。

 

 その隊員たちはいつも一緒にいる仲の良い四人組。かつての教官である千冬に胸を張れるISパイロットになろうと切磋琢磨するその姿はとても微笑ましいものであった。

 愛国心も強く、千冬にドイツのソーセージやビールを進めたのも彼女たち。

 

 決して二心のある者たちではないのはラウラも知っているつもりだったが。

 

(知ったかぶり極まれりとはこのことだな)

 

 一夏と出会うまでラウラは他者との交流を拒絶していた。

 強者は常に1人、弱いから群れる。群れなければ生き残れないから弱い。

 周りは自身を乱すノイズでしかない。仲間など煩わしいだけ。

 

 そんな凍りついた状態のまま隊長職についたのだから良好な関係など築ける訳もなかった。

 嫌う嫌われる以前に、他者とのコミュニケーションなど事務的なものに留まっていた。

 

 そんな自分がIS学園に、織斑一夏との出会いで氷解した時。ラウラはいかに己が愚かであることを知った。

 知った上で電話越しに副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフにこれまでの非礼を詫びた。

 非難されるのも覚悟の上、だったのだが。ドイツ最強格の黒兎隊は思った以上に人間らしい部隊だったことにラウラは驚いた。

 

 そこからは速攻で絶対零度のラウラ隊長は部隊のマスコット兼隊長になってしまった。

 それはもう帰国してきた時の部隊員の反応と容姿(全員がラウラに憧れとして眼帯型デバイスをつける徹底ぶり)で否が奥にも理解できるほどで。

 

(あそこまで慕われてるとは思わなかったな)

 

 そのあと笑顔で返したら隊員の7割が鼻血を出して卒倒したが。

 

(いかんいかん! 今はシャルロットの護衛だ。いますべきことをなさなければ)

 

 パンと頬を叩きラウラは今一度周囲警戒を。

 

「あ、隊長見っけ!」

「ちょっとネーナ。もっとなんかあるでしょ」

「まあ良いじゃん見つけたし」

「てかなんで門の前で突っ立ってるんです?」

 

 不意に聞こえた、いや聞き覚えのある声にラウラはコンマ秒思考が遅れる。

 このフランスで聞くとは思えなかった声。目を向けるとそこには見慣れた黒の軍服ではなく、今や黒兎隊のトレードマークとなった眼帯を外し。年相応の女の子の服装をしていた。

 

「ネーナ、ファルケ、マチルダ、イヨ?」

「はい隊長!」

 

 現在行方不明のはずである四人の黒兎隊員がいた。

 

「お前たち。今まで何処に居たんだ!? それにその格好は」

「私たちずっと隊長を待ってたんですよ」

「待ってた?」

「はい、IS学園にいたままだと会えなかったですからね。丁度計画が動く日ですし。ラッキーです」

「隊長、私たちと一緒に来てくれますか? 隊長ならきっと賛同してくれると思います!」

「シュヴァルツェア・ハーゼなんてやめて、新しい世界を一緒に見ましょう」

「シュヴァルツェア・ハーゼをやめる? いや待て計画だと? お前たち何を言っている?」

 

 目の前にいるのは紛れもなく自分を敬愛してくれる隊員たち。

 だが何かが違う。

 違和感。目の前に居るのは知っている隊員。だが同時に全く別の存在に見える。

 理解と思考が追い付かず警戒、ISに精神が行きかける。

 

「こらこら君たち。あまり入り口で騒がないように」

 

 女性5人交われば騒いでなくても目立つようになる。ましてや大企業の前となれば警備員が駆けつけるのも無理もなかった。

 

 ラウラの張り積めた心は第三者の介入によりほんの少し空気を抜くことが出来た。

 

 だからこそ──

 

「なんですか貴方は」

「私たち大事な話をしてるんです」

「邪魔ですねこの()

 

 パンッ! 

 

 ──反応出来たのだろう。

 

「………何をしているファルケ少尉」

 

 ラウラが掴み上げたファルケの手には硝煙を上らせる黒光りの銃があった。

 ポケットからスマホを出すような自然な動作。そして躊躇うことなく、あまりにも軽く引かれたトリガー。

 もしラウラが止めなければその凶弾は間違いなく警備員の男の命を刈り取っていたことだろう。

 

 だが静かに憤怒の目を向けるラウラを前にしてもファルケはキョトンとしていた。

 

「何って、邪魔だから排除しようとしただけじゃないですか」

「気でも狂ったかお前たち! この男がいったい何をした!」

「良いじゃないですか隊長。男なんてごまんといるんですし」

「1人消えたぐらいで私たち女性の世界になんの悪影響もないんですから」

「むしろこういうのは積極的に間引いていかないと、ね」

「ふざけているのかぁ!!」

 

 手を払いのけるファルケ、そして他3人の身体に粒子の光が集中する。

 ISの量子変換! ラウラはためらうことなくレーゲンを起動させた。 

 

 警備員の男は悲鳴を出すことさえ出来ないまま慌ててデュノア社の建物に向かって走り出した。IS戦闘となれば生身の男が居たところで何も出来ない。

 ラウラは警備員の判断に感謝しつつ目の前の意識を向ける。

 

 現れた4機のISはラウラのシュヴァルツェア・レーゲンとは対照的に白かった

 

「もう一度聞きますボーデヴィッヒ隊長。私たちと一緒に世界を変えましょう? 先ずは身勝手な男が運営するような腐った会社を一緒に破壊しましょう!」

「続きは基地で聞いてやる!」

 

 咆哮するラウラはワイヤーブレードを射出する。

 

 相対する元黒兎隊の目には完成体の越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)が。本来なら両目とも金色に輝いている。だが、金色である筈の右目は青く染まっていた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

(久しぶりだな。ここに来るのも)

 

 ラウラは外に待たせてしまったのでいまはシャルロット1人だけ。

 最後にデュノア社を訪れたのは男性操縦者としてIS学園に入れと言われてからだ。

 

 だから提示連絡はいつもネット越し、たまに本社から武器の納入や点検に来るぐらいで、日本に来てからはしばらくフランスの土を踏んでいなかった

 

「まあ嫌われてるし。オーバーホールぐらいじゃないと来ないよね」

 

 軽くため息を吐くシャルロットだが不思議と心は重くなかった。

 前回のロゼンダとの会合で踏ん切りがついたから。以前なら重圧に押し潰され胃がキリキリ傷んだことだろう。

 

 秘書の人についていき社長室についた。

 

 少しだけ深呼吸をし、ノックする。

 

「シャルロット・デュノア代表候補生です」

「入りなさい」

「失礼いたします」

 

 デュノア社社長室に入ったシャルロット。そこには社長であり父であるアルベール・デュノアが居る筈だが。社長室に居たのは彼の妻であり義理の母であるロゼンダ・デュノアだった。

 

 無言で促されるまま彼女の対面に座るシャルロット。

 

「失礼ですが、社長は?」

「地下の特別試験場よ。最新型ISの試験視察のため」

「最新型?」

「デュノア社から出す。ラファール・リヴァイヴに変わる第三世代型ISのね」

「第三世代を? デュノア社が?」

 

 デュノア社はながらくラファール・リヴァイヴでシェアを取ってきたが。世間が第三世代に注目してるなか未だに第三世代ISの製作の目処が立たないデュノア社は欧州イグニッション・プランから外され窮地に立たされていた。

 その結果がシャルロットの男装騒動なのだが。

 

「本社はついに第三世代の着手を?」

「ええ。まだ試作の端を掴んだ程度でまだ希望は見えないけど、確かな前身。完成すればあなたかショコラーデに乗って貰うかもしれない。頭に入れておきなさい」

「わかりました」

 

 リヴァイヴはどうなるのだろう。と考えたが今は業務優先と思考を切り替える。

 今回の業務はリヴァイヴのオーバーホール。そしてテストパイロットの報告、今後の方針の組み立てなどを。

 話し始めて15分ほどだろうか。ふとシャルロットは気づく。

 

(あれ。なんか普通に話せてる?)

 

 話と行ってもビジネストークだが、通信越し、そして前回会った時のような高圧的なトゲがロゼンダから感じられないのだ。

 といっても完全になくなってる訳ではないのは感じる。それでも刺さるようなものではなく、飽くまでトゲが見える程度に落ち着いている、気がした。

 

「デュノア候補生、聞いていますか?」

「あ、ごめんなさい。もう一度お願いします」

「………あなたわかりやすいわね。母親に似て」

「え?」

「なんでもないわ。11月頭の予定ですが………」

 

 気になる、とても気になることを言われたような気がする。

 ロゼンダが母を口にした。それが今のロゼンダの印象と関係がある気がしてならない。

 それでも仕事の話が先と集中しようとした時。

 

《戦闘出力のIS反応を検知》

 

「!!」

「デュノア候補生?」

「危ない!!」

 

 シャルロットが窓の外を見た瞬間。デュノア社社長室の窓の強化防弾ガラスが粉々に砕け散った。

 

 ガラスが割れる音と同時に固い金属同士の衝突と反響音かその場に居たものの鼓膜を揺らす。

 

 綺麗な調度品で整えられた社長室は一瞬で廃墟同然となる。

 埃煙の中、一際目立つオレンジの盾がロゼンダ婦人を覆っていた。

 

「ロゼンダさん。無事ですか」

「シャルロット、あなた………」

「僕の後ろに。こっちを狙っていたISがまだ」

 

 砕かれた窓辺にノーマルカラーのラファール・リヴァイヴ。手にはISの弾丸でも止めれる想定の防弾ガラスを砕いたであろう手持ちレールガンを備えていた。

 

「………驚いたわ。どうしてそんな女を守れるのかしら」

 

 ノーマルカラーのラファールで思い出すのはIS学園を襲撃していた亡国機業のIS乗り。

 だがシャルロットはそのパイロットの声に聞き覚えがあった。

 

 煙が晴れ、パイロットの顔。いつもはフルフェイスヘルメットで隠していた金髪がたなびいていた。

 

「え?」

「それともつい手が伸びたの? 優しいわねシャルロット」

「アニエス、おばさん?」

 

 亡国機業のラファール乗り。シャルロットと同じ高速切替(ラピッド・スイッチ)を持ったパイロットは。

 現フランス国家代表であり。シャルロットの叔母であるアニエス・ドルージュだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「疾風・レーデルハイト! 優先抹殺対象だ! 殺………」

「お前が死ね!!」

 

 割り込んだ敵IS。クリア・ティアーズの1機の頭にインパルスを振り落とし海に落とす。

 

 落とされた敵機は海に落ちる寸前で体勢を立て直しビットを展開して再度接近してくる。

 

「お前を殺せば! クイーンがお喜びになられるのよ!」

「誰かと思えばてめぇか安城!」

 

 学園ではびこっていた女性優遇の会のリーダーだった女、安城敬華は変わらない醜悪さを持ってサーベルを振りかぶってくる。

 

「てめえもメイブリックも獄中に居たはずだろ! なんで出てきやがった!!」

「全ては素晴らしき女性至上世界の為! そのためにあの方は立ち上がったのよ! そして世界は生まれかわる! 愚者を消し去り、賢き女性の為の世界が!」

「寝言を! その差別思考の果てがこれだと言うのか!!」

 

 眼下に広がる黒煙を吐き出すレーデルハイト工業実験施設。

 従業員の大半は地下シェルターに逃れたが。逃げられなかった人も居る。

 その中には奴らが掲げる女性も居た。

 

「てめえら異常者が掲げる思想理想など排泄物以下の戯れ言だ! くたばれ! この腐りきった時代被れどもがぁ!!」

 

 俺に群がる敵IS、クリア・ティアーズ四機を凪払い、通りがけのワルキューレをプラズマで一掃する。

 

「疾風様!」

「こいつら俺にご執心だ! 引き付けるから横から殴れ!」

 

 数十のビットから乱れ撃たれるレーザー包囲網。

 これは驚異的だ。数的有利が単純に倍化するようなものだから。

 だがセシリアと比べれば狙いが素直過ぎる! 

 

 ビークをあえて飛ばさず至近距離待機の防御体勢に。3点で形成されるプラズマバリアでレーザーをいなしつつプラズマネットでビットを絡め捕って数を減らす。

 

 しかしこいつら、やっぱりブルー・ティアーズの量産機。

 当たってほしくない予感がガッツリ当たってしまったということか。最悪だ!! 

 

「お前ら! セシリアは何処に居る! 知ってるんだろ!!」

「なんのことかねぇ」

「しらばっくれんな! 答えろ、セシリアは何処だぁ!!」

 

 左右から斬りかかる2機に二槍のバーストモードをぶち当て海に叩き落とし、脚部ブレードで安城を、腕部プラズマブレードでメイブリックのライフルを切り裂いた。

 

「疾風くん凄い。私たちも負けてられないかなぁ!」

「はい!」

 

 敵の狙いが片寄ったところを菖蒲もトンプソンが着実にワルキューレの数を減らしていく。

 

「スラァッシュ!!」

 

 更に群れからはぐれたISをアリアの高速斬撃で削りに削る。

 だが削りきる勢いで切り裂くが横合いから別の敵機がそれを中断させる。

 

「迂闊に近づくな! あっという間に削り殺されるぞ!」

(よし! 天秤はなんとか保てた。この調子で時間を稼げば)

 

 大陸側から接近するIS反応。

 

 日本国防軍所属のIFF。

 IS日本代表、楠木麗とそのIS、白鉄だった。

 

「あれは日本代表!」

「楠木様!」

「待ってたわ麗ちゃん! 早速だけどこいつらを──っ!!」

 

 ガギン! とぶつかる剣戟の音色。

 それは母さんの得物であるフラッシュ・モーメントと。瞬時加速(イグニッション・ブースト)を伴って切りつけてきた楠木代表の剣、【光刃壱式】だった。

 

 味方であるはずの母さんに振るったその刃は一片の迷いもなく抜き放たれた。

 

「なっ!」

「麗ちゃん、何を!?」

「決まってるじゃないですか。全ては、素晴らしき女性至上世界の為に」

 

 醜女どもと同じ警句を唱える楠木代表の眼は蒼に染まっていた。

 

 フラッシュ・モーメントを振り払う光刃壱式から光のブレードが伸びる。

 零落白夜を元にした白鉄の第三世代能力を持った光刃はディバイン・エンプレスの胴を切り裂く。

 

「くっ!」

「母さん!!」

「そんな! どうして楠木様がこんなことを!?」

 

 こっちが聞きたい、いったいどうなってる!? 

 

 楠木代表は俺も一回は会ったことがあるが男を毛嫌いするような人ではなかったし、むしろ旦那自慢で母さんと盛り上がれるほどで、世間的にもおしどり夫婦と評判だった人のはず。

 

 今までのは外面の演技だった? 

 そんな風に見えなかったが。

 

 だが今重要なのは、こっちの最大戦力が抑えられたということだ。

 

「ハッハー! どうだい、サプライズって奴だよ!!」

「あなたたち、楠木様に何をしたのです!?」

「元々あれが本性だったんじゃねえの? 知らねえけどさぁ!」

「くぅあ!」

 

 母さんに割かれていた戦力も集中し思わず全周囲防御からの即席EMPバーストで戦線一時離脱。

 単純に弾幕がパワーとなっている。が、連中の狙いが完全にレーデルハイト側ISに向かっている。

 

「お前ら下がれぇ!!」

 

 ビークを対ビット機動として射出。敵のレーザーを割けつつ敵ビットを寸断するがぶっちゃけ焼け石に水。だが焼けた石もいずれ冷める物だ。

 

 楠木代表はともかくとして、もうすぐ日本IS空軍も援軍に来てくれるはず。

 

「菖蒲! 須佐之男行けるか!」

「いつでも!」

「頼む、この状況に風穴を! トンプソンさん、合わせて下さい!」

「心得たぁ!」

 

 このままじゃジリ貧だ。須佐之男の大火力をぶちこんだ後に俺がオーバードライブで引っ掻き回す。

 

「10秒後発動だ、カウント!」

《オーバードライブ。チャージ開始》

 

 イーグルと櫛名田のプラズマ出力が増大する。

 トンプソンさんがハンドミサイルをコールして間を持たせる。

 

 敵に対応される前に文字通り電光石火で片をつける! 

 

 3カウント! 

 

「行くぞ!」

 

 菖蒲は須佐之男を、俺はオーバードライブを解放するためのトリガーを引いた。

 

《直上。高エネルギー体接近》

「え?」

 

 その時。空が青白く光った。

 

 一つ。それは極太の光となってレーデルハイト工業実験施設に突き刺さった

 天から振り下ろされた光の柱に貫かれた施設はそのまま大爆発を引き起こし、空気と海を震わせた。

 

 二つ。それはこれまで奴らから受けた物と同等かそれ以上の光の雨。

 しかも光の雨の一部は歪曲、偏光制御射撃(フレキシブル)し、逃げ場を失った俺たちを纏めて穿ち抜いた。

 

「うおおお!!」

 

 チャージしていたプラズマを即座に防御に転換する。だが対光学兵器に向いているプラズマ防御に特化だからこそ防げたようなもの。

 現にパッケージ装備のみに乗っていたトンプソンさんはノックバックで海に叩きつけられた。

 

 まだ増援がいた? だけどこれは。

 

「は、疾風様! 実験施設が!」

「何が………え?」

 

 振り返ると、そこには。

 

「………何処行った? 実験施設………?」

 

 なにもなかった。いや厳密には焼け焦げた大地と。辛うじて建物の一部とわかる残骸が飛散しており。

 衝撃によって寄せられた波が実験施設だった大地に流れ込んだ。

 

「あっ、避難してる皆は!?」

 

 通信を開こうとしたが先程の砲撃で長距離通信がダウンしている。

 嫌な汗がどっと吹き出す。嫌な予感がありありと浮かびあがり、思考が止まりかける。

 

 だが状況がそれを許さなかった。

 

《新たなIS反応を検知。接近中。IS登録に該当あり》

 

「………え、嘘。え、どうして?」

「これ、なんの冗談?」

 

 菖蒲とトンプソンさんが何かを言っていたが。それは俺の耳に届かなかった。

 

 先程から流れていた嫌な汗が直ぐに干上がるような感覚。

 まるで五感のうち視覚以外が失われたような。

 

「  、 、  」

 

 声にならない声が漏れる。

 ただただ目の前を見て、それを脳に変換することしか出来ずにいた。

 

《該当。ティアーズ・コーポレーション製第三世代IS》

 

 光の柱によって吹き飛ばされた雲の隙間から舞い降りるIS。

 青の色を凝縮したような純粋な蒼。蒼を纏いし天使がゆっくりと降りてきた。

 

《識別、IS。ドミネイト・ブルー・ティアーズ》

 

「………なんで」

 

 かろうじて声が出た。

 

 俺たちが見知ったソレとは明らかにフォルムが変化したISに乗っていたのは。

 

 特徴的な縦ロール。シルクのように透き通るブロンドの金髪。

 汚れを知らないような白い美肌。

 そして宝石のような美しい碧眼。

 

「………どうして」

 

 だがその碧眼は絶対零度のような冷たさと、滲み出る嫌悪を宿し。

 その両目はまさしく俺を捉え、離さなかった。

 

 知っている。誰よりも知っている。

 

 その姿を。

 

 誰よりも愛おしい、その姿を! 

 

「どうしてお前がそこに居る!!!」

 

 

 

 

 

 

《搭乗者、イギリス代表候補生》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《セシリア・オルコット》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 今回の描写は執筆初期から考えていました。

 自分で書いても人の心定期ですが。

 ちなみにお嬢が放ったのは疾風たちを狙った光の雨。
 もう一つの極太は………わかる人にはわかるはず。

 これからどうなるのか。比翼連理編。本格スタートです。
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