IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第129話【フランセーズ・ヴァンジャンス】

 

 

 今まで辛いことは沢山あった。

 

 IS黎明期が生んだ女尊男卑世界の中で男として生まれたこと。

 度重なるイジメで疲弊した日々。

 好きな女の子の両親の死。

 終わらないイジメ。社会に対する不平不満。

 

 銀の福音暴走で次々と倒れる仲間たち。

 クズのせいで妹が傷ついた時。

 どうしようもない力の前にISを取られそうになった時。

 また女尊男卑の現実を目の当たりにした時。

 好きな女の子が傷ついた時。

 

 それでもくじけなかったし耐えれたし。それ以上に楽しいことや嬉しいことも沢山あって。

 

 そして好きな女の子と付き合うことが出来て。

 

 困難はあれど、幸せな日々が続くと信じていた。

 

 そう、セシリアと一緒なら………

 

 なのに………

 

 これはあんまりじゃないか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてお前がそこにいる!!」

 

 声の限り叫びを上げた。

 自分の震え悪寒恐怖を押し退けたガラガラの叫びはセシリアの耳に届いた筈だ。

 

 イーグルが示している。あれはセシリアとブルー・ティアーズだと。

 

 ドミネイト・ブルー・ティアーズ。

 

 ビットプラットホームとスラスターだけだったカスタムウィングは大型ウィングバインダーに。

 スカートアーマー、そして両肩にはキャノンボール・ファストで使用したアルペジオに似たビット。

 頭部はシンプルだったヘッドセット型に加え羽のような形のイヤーアーマーが。

 そしてアーマーに仄かに光るエネルギーラインが追加されている。

 

 名前だけじゃない。前のブルー・ティアーズとは外見出力共に原型を留めていない。紛れもない第二次形態移行(セカンド・シフト)

 

 そして、彼女の碧眼は更なる蒼色に光っていた。

 他の奴らや楠木代表も瞳の虹彩を青くしていたが。それとはまったく違う。まるでラウラの越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)のような輝きだった。

 

「答えろセシリア! どうしてお前がそこに居る! セシリアぁ!!」

 

 先程の問いに答えず見下ろすセシリアな我慢出来ずに声を荒げる。

 都合の良いことなんて期待しては駄目なのに期待してしまう。

 

 そんな懇願するような目を合わせるセシリアの目は冷たい拒絶に満ちていた。

 

「下等生物ごときが話しかけないでくれます? 吐き気がしますわ」

「は?」

「そもそも貴方のような男に気安く名前を呼ばれる筋合いなどありません。恥を知りなさい」

 

 な、なんて? 

 

 開いた口が塞がらない。塞ぎたくても塞がらず乾いた。

 いまセシリアなんて言った? ちょっと待ってなんて言ったんだこいつ。てかセシリアが喋ったのか? 誰か喋ってるとかいやいや待って待って待って待って待って………

 

 頭が止まらない思考が完結しない。

 いまほんとに何が………。

 

「セシリア様! 疾風様に向かってなんてことを言うんですか!!」

「何をとは異なことを。それよりも間違っても男に様付けなどしてはなりませんよ」

「そんなことどうでも良いんです。疾風様は………疾風様は貴方の恋人ではなかったのですか!!」

 

 今まで聞いたことのない怒りを込めた菖浦。

 さらりととてつもない爆弾発言をしたがそれに反応できるほど余裕はなく俺はただただセシリアの次の言葉を待った。

 

「はぁ………何を言うかと思えば。私がソレと恋人? 間違ってもそんなことはありません。おぞましい、吐き気がします───『私と彼は初対面です』。そのような関係になることは1ミリもあり得ませんわ」

 

 ………何言ってんのこいつ? 

 

「そ、そんな馬鹿な。だってIS学園で一緒に」

「IS学園? そんなの織斑一夏が入学すると決めた時に自主退学しましたわ。男と一緒の学舎など吐き気がします」

 

 ………………………………

 

「………一つ聞くぞ。いや聞かせろセシリア・オルコット」

「なんですか、貴方と話すことなど」

「今回の首謀者はフランチェスカ・ルクナバルトか?」

「………ええそうです。別段隠すことではありません。このあと叔母様が世界中に演説を」

「そうかよ………そうかよぉ!!」

 

《オーバードライブ・レディ!》

 

「ふざけるなくそがぁぁぁっ!!!」

 

 全身の血が沸騰する。堪忍袋の緒がちぎれ飛び、シナプスが全て弾け飛ぶ。

 

 洗脳、もうここまで来たならそれは分かる。

 俺を忘れさせるクソッタレな悪趣味をひけらかす、あのクソババアのやりそうなことだ。

 

 だが、その為に。奴はIS学園での日々を消した! 

 俺や一夏だけでなく、菖浦や簪たちの記憶まで。

 自分の都合のいいように、辻褄合わせのためだけに!! 

 

「ああああぁぁぁぁっ!!!」

 

 怒り、ただ怒りしかない!! 

 

 俺の心を全て汲み取ったイーグルは雷光を散らしながらセシリアに向かってぶっ飛んだ。

 

「わたくしに勝てるとお思いで。叔母様の愛を一心に受けたこのわたくしを!」

「セシリアにそんなこと喋らせるなぁ!!」

 

 心の底からの怒りが吠える。

 

 その遠吠えは恐怖と震えを隠す間に合わせの咆哮ことを自覚しながら。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 デュノア社入り口の戦闘はアリーナにもつれ込んでいた。

 戦闘が開始し、ワイヤーブレードで牽制したラウラは一目散に飛び上がり。デュノア社の管理室に通信を仰いでアリーナのバリアを解いてもらった。

 

 今の4人。ネーナ、ファルケ、マチルダ、イヨの4人はとてもじゃないが人的被害を考慮できるような状態には見えなかった。

 わざわざフランスくんだりまで会いに来たとなれば狙いが自分、又はデュノア社なのは明白だった。

 

 ラウラに夢中なあまり道中の男性に向かって手当たり次第殺戮にかからなかったのは本当に幸運だった。

 

 アリーナに滑り込んだラウラは眼前の4機を睨む。

 

 3体はクリア・ティアーズ。

 そしてもう一体、ドイツ第二世代【シュヴァルツ】のレーザービット改修型。

 

「まさかシュヴァルツを白に染めるとは。その度胸には感服するぞファルケ」

「シュヴァルツ・ヴァイスとでも呼びましょうか。これがクイーンから授かった新たなシュヴァルツです」

「黒白とはな。せめて黒要素は残せ、たわけが」

 

 シュヴァルツとは正に名ばかりの純白なIS。せめてヴァイス一単語にしたほうがまだ清々しいものだ。

 

(脱線はここまで。さてどうする………)

 

 シュヴァルツェア・レーゲンのAICと決定的なまでに相性の悪いBT兵器搭載ISが4機。

 加えて常時安定発動型の越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)+、得たいの知れない青い瞳。

 

 戦力差はこれ以上ないほど不利この上ない。

 

 せめてあと1機欲しいところだが。

 

(シャルロットは既に襲われてるか)

 

 カスタムⅡの反応は健在だから本人は無事だろうが。

 

「その武装、その姿はブルー・ティアーズの量産機と言ったところか。何処で手に入れた」

「時間稼ぎのつもりですか隊長?」

「情けないです。黒兎隊最強がそんな姑息な真似をして宜しいので?」

「もう一度聞きます隊長。我々と共に来てください。いくら隊長でもこの戦力差と相性は無視できないはず」

「そうか………ならやってみろ」

 

 レールカノン、グレネード装填。発射。

 爆風と煙に紛れ、ラウラはプラズマ手刀でシュヴァルツ・ヴァイスに斬りかかる。

 

「単調ですよ!」

 

 シュヴァルツもプラズマ手刀を展開しラウラの手刀を受ける。

 シュヴァルツは言うなればAICをなくしたレーゲン。両手のプラズマ手刀に数を減らしたワイヤーブレード。そして肩にはレールカノンの変わりにガトリングガンを装備し。追加としてレーザービットを4基搭載している。

 

 更に越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)に加え体内に注入されたブルー・ブラッドナノマシンにより更に感覚がブーストされている。

 生半可の攻撃では容易く防御され。更に周りのティアーズがライフルとビットを向ける

 

 至近距離でAIC発動。シュヴァルツの動きを封じるがそれはラウラの動きも止めることとなる。

 

「AIC!」

「狙ってくれと言うようなもんですよ!」

 

 意気揚々に展開された銃口から一気にレーザーが放たれる。

 されどAICでもレーザーは素通りする。このコースだとファルケにも当たる可能性はあるがそれ以上にラウラを無力化することを最優先とする彼女たちには想定の範囲内だ。

 

「慌てるなお前たち」

 

 ラウラ、AIC解除。と同時にファルケの下側に潜り込み足払い。

 

「うわっ!」

「フン!」

 

 そのまま浮いた彼女の下に強引に潜り込んでファルケを即席の肉盾に。だがファルケも馬鹿ではなく、その超人的に拡張された感覚で直ぐ様回避行動を。

 

 ギチチ! 

 

「え!? きゃあ!!」

 

 ファルケのシュヴァルツが動くことなく味方のレーザーを一身に受けた。

 下に潜り込んだ時、既にワイヤーで自機もろともシュヴァルツを地面に固定したのだ。

 

 シュヴァルツを縛ったまま躍り出るレーゲンは、その勢いのままファルケをマチルダの方に投げる。

 たまらず回避行動を取ろうとした矢先にレールカノンの弾丸が眼前に迫る。

 間一髪シールドで防御したが衝撃でのけぞる。その隙を逃すまいとラウラは瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 のけぞりながらビットに射撃を指示。だが4本程度の、ましてや偏光制御射撃(フレキシブル)ではないレーザーでラウラが止まるはずもなくワイヤーブレードでレーザーをかき消しながら拘束。自身に引っ張りすれ違いざまプラズマ手刀を叩き込む。

 

「マチルダ!」

「我々を盾に使うとは」

「フッ。今のお前らは仲間でもなんでもない。それに教わったはずだろう? 1対多の乱戦では、敵すらも利用しろとな」

 

 驚くことにラウラは眼帯を取っていない。

 そして既に先程の動揺から戦闘意識は完全に切り替えていた。

 だがここからはそうは行かない。初見殺しも終わった。あとは己の技量のみ。

 そしてなにより。

 

(こいつらをシャルロットの元へ行かせてはならん)

 

 正直デュノア社がどうならうと知ったことではないが。シャルロットと無辜の民が傷つくのは我慢ならない。

 

「悪いが捕まってやるつもりなどない。来い、今一度思い出させてやる。シュヴァルツェア・ハーゼ最強の実力をな」

 

 眼帯を量子変換。

 露になった、かつて産廃の証であった黄金の瞳。

 だがラウラの越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)は彼女らのそれとは一線を画す輝きを持っていた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 社長室、だった場所。

 高度ゆえの風が吹くなかラファール・リヴァイヴのパイロット。ISフランス代表であり、シャルロットの叔母であるアニエス・ドルージュは厳しい目でシャルロットの目を見る。

 

「はぁ………わざわざIS反応を晒したのが仇になったわ。あなたを巻き込むまいとした故だったのに」

「どうして………どうして叔母さんがこんなことを?」

「決まってるじゃない復讐よ。姉さんから恋人を奪い取った、その醜女にね」

「復讐って………」

「その女が政治家の娘だってのは知ってるでしょう。そいつがデュノア社への資金援助の為にアルベールに婚約を迫ったことを。そしてアルベールがそれを承諾したことをね」

 

 他社が第二世代ISを出すなか、デュノア社は窮地に立たされていた。

 理由は単純な資金問題。デュノア家の資材に手を出してでも足りない状態が長続きせず。

 まだそこまで大企業ではなかったデュノア社は正に砂上の城に等しく。ただただIS業界から消えるのも時間の問題だった。

 それでもなんとか体制を保てていたのは。窮地に立たされていた状態でも融資を募ってくれたフランスの資産家たちのおかげだった。

 

「しかもロゼンダは自分との婚約をしなければ、当時既に繋がっている資金援助を断つと言った」

「え?」

「政界の上位層に位置するロゼンダの親はデュノア社に援助をしていた政治家の元締めだった。その立場を利用して、そこの女は姉さんと別れて自分と結婚するように強いたのよ」

 

 つまり、婚約しなければ当時繋がっていた融資先は全て断たれ、デュノア社は倒産することを意味していた。

 シャルロットも薄々そうなのではと考えたこともあった。だからこそアニエスの話を聞いてもそこまでショックはなかった。

 

「で、でも。それはデュノア社を守るためにやったこと、デュノア社の人々が路頭に迷わないようにロゼンダさんと婚約したって」

「ええそうね。企業の社長としては正しいことをしたでしょう。それだけならここまではしなかった………姉さんのお腹の中にシャルロットがいることを知った上じゃなければね」

「え?」

「あの男は姉さんが身籠っていたことを知っていた。姉さんが大病を患った時でさえ『もうあの女と私は関係ない』という一言でバッサリ切り捨てたのよ!」

 

 手にはいつの間にかアサルトライフルが。高速切替(ラピッド・スイッチ)によるコール。

 シャルロットと同じ特異技能、この技術を使い。アニエスは10年間代表の座を守りきっていた。

 

 その技能で呼び出したライフルを握りつぶす勢いでアニエスは憎悪に染まった顔で続ける。

 

「その上、そこの女がアルベールと婚約したのは姉さんへの当て付けだった。アルベールが自分に振り向かずに田舎娘と交際していたことが許せなかったから。そんなくだらない動機で姉さんの幸せを奪ったのよ」

「本当なんですか、ロゼンダさん」

「………そうよ。全部ドルージュの言うとおり」

 

 ロゼンダは誤魔化すこともうつむくこともなく。アニエスを真っ直ぐ見据えて肯定した。

 その堂々とした姿にアニエスはより一層憎悪の炎を燃え上がらせる。

 

「姉さんはもっと幸せであるべきだった! 全部、全部お前たちデュノアが奪っていった! 姉さんの無念は私が晴らす! ずっとそれを胸に生きてきた。あんな女尊男卑主義者の女に従ってきたのも全てこの時の為! そこを退きなさいシャルロット! その女はあなたが庇う価値などない!!」

 

 憤怒の感情と共に両手のアサルトライフルがロゼンダに向けられる。

 ISサイズに拡張された銃器は一発でも当たれば人体を粉々に出来る代物。通常のISなら対人セーフティでロックがかかるがそんなものとっくに解除してるし、アニエスは躊躇いもなく撃つだろう。

 

「………」

 

 シャルロットは盾を構えたまま思考する。

 

 確かにシャルロットは彼女を守る道理などないし、ついこの間まで恐怖し憎んでさえいた。

 なにも知らない自分を初対面で泥棒猫! と言いながら平手打ちをする女だ。

 

 下でラウラが戦っている。反応を見るに4対1という圧倒的戦力差で。

 後ろにいる義理の母より、大切な友人を助けるべきだ。普通はそうする。ほんの少し負い目はあるがそれだけだ。

 

 ………それでも。

 

「シャルロット?」

「………なんのつもり、シャルロット」

 

 シャルロットは肩のシールドを増やし防御力を底上げする。

 まるでアニエスからロゼンダを守るように。

 

「何をしてるのシャルロット! どきなさい」

「どかないよアニエス叔母さん。私はこの人を守る」

「わかってるでしょ。その女は仇なのよ! ジャンヌ姉さんを不幸に落とし、あなたたち親子を今も苦しませ続ける外道! そんなものの為にあなたが身体を張ることは」

「お母さんは………不幸なんかじゃなかった」

 

 シャルロットの言葉にライフルの銃口がぶれた。

 

「確かにお母さんは愛する人を奪われたかもしれない。僕と母さんの生活は確かに裕福なものではなかった。それでも僕たちは不幸じゃなかった」

「だとしても!」

「叔母さんの言うことは理解できる。復讐は何も生まないなんて綺麗事を言うつもりはないよ………だけどお母さんはこんなこと望んでない、それだけはわかる! 叔母さんだって知ってるでしょ、お母さんの最後の言葉を!」

 

『あの人を、あなたの父親を恨まないで』

 

 母、ジャンヌ・ドルージュが最後に残した言葉を。シャルロットと一緒にアニエスも聞いていた、その場に居たのだから。

 

「お母さんの願いは決してこんなことじゃない! 僕はアニエス叔母さんを人殺しになんかさせない。この人も、お父さんも殺させはしない! たとえ叔母さんと戦うことになったとしても! それが僕の、シャルロット・デュノアとしての答えだ!!」

 

 許せぬ相手ではなくとも、目の前の不当も許すわけには行かない。

 シャルロットは決意をコールしたライフルに込め、アニエスに向けた。

 

「………残念だわ。あなたもデュノアになってしまったのね。なら容赦はしないわ。たとえあなたであったとしても、アルベール・デュノアとロゼンダ・デュノアを。殺す!」

 

 火蓋は切られた。

 対するシャルロットはというと、ほぼノープランのようなものだった。

 

 アニエスと自分の技量差は学園祭の時に思い知った。

 あれからシャルロットも成長してるとは言え、それで埋まると考えるほど楽天的ではない。

 更にアニエスには単式バイルバンカー【ロワイヤル】がある。

 あれを繰り出されればどうなるか。

 

 だが天命はシャルロットを見捨てなかった。

 ロゼンダを守った数分は起死回生の一手となったのだ。

 

「っ! 右!」

「カカオパゥワァァ!!」

 

 謎ワードと共に社長室の壁をぶち破ったのはアニエスと同じラファール・リヴァイヴ。だが色はチョコレート色。

 

 デュノア社専属テスト・パイロット。

 ショコラデ・ショコラータだった。

 

「ショコラデ!」

「やあやあアニエス先輩! 糖分足りなそうだね! チョコレートいらない!?」

 

 即座に近接ブレードをコールしてショコラデに斬りかかるがショコラデはガードせずにシールドエネルギーにブレードを滑らせながらアニエスを羽交い締めにする。

 

「なに!?」

「シャルロット候補生!」

「は、はい!」

 

 ショコラデの意図を理解したシャルロットは全力でショコラデごとアニエスを窓の外に押しやる。

 

「おら、カカオ・ブースト!!」

「行けぇ!」

 

 2機は同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)、直下のアリーナに向かって全力推力でアニエスを自機ごと地面に叩きつけた。

 

「ぬぁっ!」

「うぅっ!」

「ポリフェノール!」

 

 3機揃ってアリーナの地面を転がった(ところどころ変な声が聞こえつつ)。

 そこには黒兎隊脱走兵の4人と凌ぎを削っていたラウラがいた。

 

「シャルロット!? 大丈夫か!」

「僕は大丈夫。ていうか、人のこと言えるのラウラは。4対1だったんでしょ?」

 

 激戦の後だったのだろう。装甲の至るところは破損し。レールカノンも大破していた。

 

「フッ。伊達に部隊長を名乗ってない。部下に負けるなどあってはならんことだ」

「部下って。どういうこと?」

「文字通りの意味だ。理由はわからんがあいつらはここ最近行方がわからなかった部隊の者。だがこの変わりよう。マインド・コントロールの類いと見ているが。それにしては余りにも挙動がはっきりし過ぎている」

 

 洗脳し、自軍の兵士とする。といえば反則もいいところだが。ここまで人間性が反転するようなことは到底あり得ない。

 ましてや彼らは人並みに恋に興味を持っていた普通の女性だった。それが突如過剰なまでの女尊男卑思考に目覚めさせることなど可能なのか、とラウラはいぶかしんでいる。

 

「アニエスさん。社長や社長婦人への復讐はとげれたので?」

「残念ながら失敗よ。そこのチョコレート女の邪魔さえ入らなければ」

「ハッハッハ! ぶっちゃけヒヤヒヤ物でしたが結果オーライ! シャルロット候補生が察しよくて助かりました。しかし揃いも揃って糖分足りなそうな顔してますねー皆さん! こういう時はチョコレート! チョコレートを口に放り込めばたちまち争いなんて下らないこと考えなくなりますよ! さあ! レッツ! ショコラ!」

 

 バッと量子変換されたのは数枚の板チョコレートだった。

 この女本気でチョコレートを食わす気なのか。その場にいる全員が思ったが残念ながら本気のようである。

 

「おいシャルロット。こんな時に聞くことではないがこの女は何者だ?」

「ショコラデ・ショコラータさん。デュノア社専属テストパイロット。実家がチョコレート専門店で大のチョコレート好き、いやチョコレート・ジャンキー」

「待て、それは本名なのか? それともコードネームとか」

「本名だよ」

 

 何をとち狂ったのか知らないが本名なのである。

 そんなチョコレートモンスターが何故デュノア社のテスパイなどやってるのか、それは単にチョコレート布教である。

 そして布教は成功し、従業員の疲労改善に役立つ結果となったがそんなことはどーでもいい。

 

 そしてこんなギャグキャラが出てもアニエスの怒りは1ミリも揺るがぬままだった。

 

「ショコラデ、何故邪魔をしたの」

「いや何でって私デュノア社の社員ですし。ロゼンダ技術主任を助けるのは当然ですし? チョコレート食べな?」

「サラッとねじ込むなジャンキー。ロゼンダとアルベール・デュノアが何をしたかなんて。貴方だって全く知らない訳じゃないでしょう」

「そりゃね? 同級生のよしみとして大体は検討つくさ。でもさ、どんな理由あってもテロはだめでしょテロは。糖分足りてないからこんな短絡的なこと考えるんだって。だからつべこべ言わずチョコレート食いな! 医学的に立証されてるよチョコレート効果!」

「そんなんで収まるならこんなことしてない──IS反応?」

 

 遠方から複数のIS反応。

 識別はフランス空軍だった。

 

「本国のIS部隊。あっちは抑えてるんじゃなかったの?」

「突破されたみたいです」

「役たたずめ」

「どうしますアニエスさん。まだなにも達成してませんけど」

「………………撤退よ。負けはしなくても無傷ではすまないわ」

 

 高速切替(ラピッド・スイッチ)で呼び出したスモークランチャーを放ったアニエスは黒兎脱走兵と共にアリーナから待避した。

 

「アニエス叔母さん!」

「シャルロット。次に敵対する時は必ず落とす。身の振り方を考えるなら今のうちよ」

「隊長も気が変わったら言ってくださいね」

「私たちはいつでも歓迎しますよ」

 

 煙幕から脱出する5機のISをシャルロットとラウラは追うことはしなかった。

 今この状況を脱したことを何よりも安堵したからだ。

 知人が突如敵対し、テロを起こしたという事実から。

 

「オイコラー! せめてチョコレート持ってけぇー!! オーイ聞こえてるのかぁーー!! ギブユーチョコレェェェト!!」

 

 ………空気を読まずチョコレート布教をするショコラデが清涼剤になってることに目をそらしながら。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 デュノア社襲撃という未曾有の事態に社内は混乱していた(そんななか社員一人一人にチョコ食べなぁ! と口に突っ込ませる妖怪がいたとか)

 

 ラウラがドイツのシュヴァルツェア・ハーゼ本部と連絡を取って別行動の中シャルロットはベンチでへたり込んでいた。

 

 張り積めていた糸が切れ、精神的肉体的な疲労がドッと来たのだ。

 傍らに大量のチョコレートがあるが、とても口に出来る元気がない。

 

「ここに居たのね」

 

 ふてぶてしい声の主はドカッとシャルロットの隣に座って特大の溜め息を吐いた。

 つい先程死にそうな目に遭っていたのだから無理もないが。

 

「技術主任がこんなところで油売ってて良いんですか」

「むしろ今だからこそ休んでくれって追い出されたわ」

「真面目に働いてるんですね。お父さんに好かれる為ですか」

「言うようになったじゃない。その通りよ。それ貰っていいかしら」

 

 シャルロットから受け取ったチョコバーを豪快にかじるロゼンダの髪はボサボサ、メイクも少し抜けていてとても政治資産家の娘とは思えないほど崩れていた。

 

「礼は必要かしら」

「いらないです。お礼ならショコラデさんに言ってよ。正直守りきれる自信はなかった」

「それなのにあんな啖呵を切ったの? まったくそこはジャンヌに似たのね」

「そうでしょうか」

「そうよ。あんたはほんとアイツの生き写しだわ………だから嫌いだったのよ」

 

 残ったチョコバーを放り込んでロゼンダは天を仰いだ。

 

「何で助けたのか聞いていいかしら」

「特に深く考えませんでしたよ。間違ってることを間違ってると思っただけです………それに」

「それに?」

「あそこでロゼンダさんを見捨てたら。僕は僕の大好きな人に顔向け出来ないから」

 

 誰よりも守ることを信念とする真っ直ぐな彼。

 自分を変えてくれた唯一の人。

 

 あの時頭に浮かんだ訳ではなかった。

 それでも彼の信念はシャルロットの胸にあった。

 

「それに。さっきのことが本当なら、死んで逃がすわけないじゃないですか。それが罪なら、貴方は一生背負うべきだ。あれだけで納得したなんて思わないで下さい」

「ぐうの音も出ないわね」

「シャルロット・デュノア」

 

 荘厳。と表現するに相応しい声。

 乱れのない高級スーツに顎髭、デュノア社社長アルベール・デュノアの姿は厳しさというものをありありと見せていた。

 

「お父さん」

「社長と呼べ。デュノア社とロゼンダを守ってくれたことに感謝する。予定どおりラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡはオーバーホールに入る。準備をしておけ。ロゼンダ技術主任、一度身なりを整えておけ。休むにしても憔悴した身なりのままでは社員の士気に関わる。以上だ」

 

 言いたいことはそれだけだ、と言うようにアルベールは踵を返した。

 

「ちょっと待ってください! 僕、私はともかくロゼンダさんにはもっと」

「いいのシャルロット。かしこまりました。直ぐに整えます」

 

 満足も不満もなくただひたすらに淡々と対応するアルベールに思わず噛みつくシャルロットをロゼンダは制した。

 一瞥もせず立ち去るアルベールに対し、やはりあの人はあの人だと大した期待もしていないのに勝手に落ち込む自分に気落ちするシャルロットはそのまま佇んだ。

 

「私に憐れみなんて持たなくて良いのよ貴女は」

「ですが」

「見ての通り彼にとってデュノア社が第一なの。強引にデュノア婦人と名乗ったとしても。結局彼の愛は手に入らなかった。なのに遮二無二に足掻いて、自己満足の為に尽くしてるのよ。笑っちゃうでしょ。当然の報いだけど」

 

 ヒステリックで横暴な義理の母の姿はなく、ただただ人間であるロゼンダにシャルロットは少しだけ目の色を変えた。

 もしかしたら、このぎこちなく笑うその姿こそ、ありのままのロゼンダ・デュノアそのものなのだろうとシャルロットは感じたのだ。

 

 それでも、いやだからこそ。

 

「僕は止まりませんよ。まだまだ知りたいことが山ほどある。僕はシャルロット・デュノアとして。自分の信じる道を行きます」

 

 そうだよね。お母さん。

 

 リヴァイヴのペンダントを握りしめ。去っていく父親の背中を真っ直ぐ見つめる。

 

 過去や周りの嘲笑、差別の影に隠れた少女の姿は。

 もはやどこにも存在してはいなかった。

 

 

 

 






 書いててあれだけど。ほんとクソ鬱展開だな。
 この世界の神(筆者)は思った。

 セシリアの第二次形態移行(セカンド・シフト)ISは、メディア・ファクトリー版のサイレント・ゼフィルスを素体に色々弄った感じになってます。
 果たして疾風の運命やいかに。

 先ずはフランスを片付けましたが。
 デュノア関連の捕捉を。

 ・アルベール・デュノア
 今までどこにいたんだコイツって感じですが丁度地下に居て即シェルター入りしてました。社長の命は会社の命だからここは妥当で。

 ・ロゼンダ・デュノア
 まあこの人は、成功した悪役令嬢って行ったところなのかな?
 だが成功しても真に望んだ物は手に入らなかった哀れな人です。
 でもただの悪女にはしたくない、そして原作11巻みたいに憑き物落としたダレダオマエ!?な人にもしたくなかった。良くも悪くも人間臭すぎる人。

 ・アニエス・ドルージュ
 実は激情家。世間にデュノア関連のスキャンダルを流さないのは一重に姪のシャルロット風評被害の為です。
 シャルロットの評価は間違いなく。あのまま戦ってたら確実にロゼンダ死んでました。

 ・ショコラデ・ショコラータ
 原作では名前だけでなんの情報もない人。
 なので思いっきりチョコレートにしました!どうしてこうなった!名前が悪いよ名前が、ぜひもないね。
 結果的にキャラ濃くなったからヨシ(現場猫)

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