IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第130話【折れる翼】

 ボルトフレアをコールして偏差射撃を見舞う。

 本気で当てるつもりで、先ずは再起不能にしなければ。

 

 ここで逃がしたら後がないと思ったから。

 

「狙いだけはいい」

 

 数発の弾丸をヒラリとかわし、セシリアはドミネイト・ブルー・ティアーズの全ビットをアクティブにした。

 

 スカートアーマーだと思っていたそれはビットのプラットホームだったようだ。

 肩の大型ビットは二分割され、背中から大量のビットが射出される。

 

 スカートから6、肩から4、足から2つ、背中から12のビットが分離。

 その合計、24基。素のブルー・ティアーズの3倍の銃口が殺到する。

 

「踊りて散りなさい。わたくしとドミネイト・ブルー・ティアーズの旋律を前に」

「踊りきってやらぁ!!」

 

 腹の底から声を張り上げ、オーバードライブの出力に物を言わせて光の雨を突っ切る。

 

 目の前全てが光に包まれるような密度。それに加えて撃たれた24の光が全て偏光制御射撃(フレキシブル)であることをイーグル・アイが算出する。

 

「であっ! ぐっ、うらぁ!!」

 

 インパルスで切り払い、脚部ブレードで蹴り上げ、オーバードライブで出現したプラズマソードで凪払い、急上昇。追従する幾つかのレーザーをインパルスで撃ち落とす。

 だがそれでも途切れないレーザーの群れに舌を打つ。

 

 なんだよこれエグすぎる!! 

 最後に見た偏光制御射撃(フレキシブル)とは雲泥の差。第二次形態移行(セカンド・シフト)の効果なのか、それとも会わない間に技量を上げたか。

 それとも、何かしら調整を受けたのか。

 

 オーバードライブを使ってるというのに振り切れない、それどころか削り殺される。

 このまま限界時間が来てしまったら。

 

 考えが纏まらない。胸の逸りだけが加速して、変な汗が止まらない。

 

 それでも突破口を開かねばと。入り乱れるレーザー包囲網を多少被弾しながら強引に行く。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)発動! 

 インパルスを速度に任せて思いっきり振り下ろす。

 

 だがセシリアは顔色一つ変えずに、得物であるレーザーブラスター【スターライト・ブレイザー】で受け止めた。

 

「オーバードライブの瞬時加速を受け止めた!?」

 

 イーグル・アイの解析。ブラスター表面にBT粒子がコーティングされていた。

 

 驚くのも束の間。突っ切って置き去りにしたレーザーが偏光制御射撃(フレキシブル)で背後に迫る。

 

 背後にプラズマ・フィールドを最大展開、レーザーと衝突した振動が身体を揺さぶる。

 

「く、うっ。セシリア、目を覚ませ!」

「あなたと話すことなどありません、失せなさい痴れ者!」

「何が痴れ者だ! お前がそんなこと望むわけないだろうが!」

「知ったような口を!」

「ああ今のお前よりは知ってるさ!!」

 

 言葉では届かないと思っても叫ばずにいられない。こんなのはセシリアじゃない。セシリアはこんな、女尊男卑に染まる女では断じてない! 

 情けない男は嫌いだと言った。だがそれは期待の裏返しであることも知っている。

 

 そんな彼女の意思を歪めたのかあの女は、フランチェスカ・ルクナバルトは! 

 

 怒りの炎に薪をくべる。

 怒りに燃えないと、直ぐに身体が冷えきってしまう。そんな気がした。

 人知れず震える身体に鞭を打ち続ける。

 

 この前の電脳ダイブでも拒絶されたが。あれは俺が俺だとわからなかったから。

 だけど今は俺が疾風・レーデルハイトだとわかった上で攻撃してきている。

 

 燃え盛る怒りが焦りによって塗り替えられていく。

 どれだけ怒りを表に出そうとも、腹の底から恐怖が登ってくる。

 認めたくない、これが現実だと認めたくない。

 

 悪い夢なら覚めてくれと、現実と幻覚がごちゃ混ぜになりそうな気持ち悪い感覚に襲われる。

 

「ハッハッハッハ! あいつら付き合ってたんだな。こいつは良い、愛した女に殺されるなら本望ってもんだよなぁ!」

「悪趣味な! セシリア様に何をしたのですか!」

「私はなにもしてないさ。ただうちらのボスの逆鱗に触れたからああなったのさ。可哀想にな!!」

「くあっ!」

「徳川さん! このままじゃ!」

 

 状況は最悪だ。

 

 セシリアの援軍により俺とイーグルは抑えられ。実験施設を攻撃する必要がなくなり、残った敵が菖蒲とアメリアさんに集中する。

 

 そして何より、こちらの最大戦力が最悪のカードで封じられてしまっている。

 

「麗ちゃん! どうしてこんな!」

「あなたを抑えるためにクイーンが私を派遣したのですよ。あなたを抑えられるのは私だけだから」

「そうじゃないわ! あなたには旦那さん、武男(たけお)さんが居るじゃないの! なのにこんなことをして!」

「武男? 誰ですかそれは。そんな人知りません」

「そんな! フラン、貴女なんてことをしたの!?」

 

 愛する人を、愛する男性をことごとく記憶から消し去っている。

 女尊男卑に、女性至上世界とやらの為の尖兵にするだけのためにそのような非道を行うなんて。一体何を考えてこのような鬼畜の所業をしたのか。

 女尊男卑思想が強かったとはいえ、ここまで道の外れたことをしでかす必要があったというのか。フランチェスカという女性は。

 

「どこまで、どこまで人を踏みにじるんだ! フランチェスカ・ルクナバルト!」

『………何度もその穢れた声で私の名を叫ぶ。恥を知りなさい、男風情が』

 

 この声、フランチェスカ!? 

 

「てめえ! なんでこんなことする! セシリアにこんなことを! セシリアはお前の大切な姪じゃなかったのかよ!」

『大切よ。この世で一番大切なセシリア。だがセシリアを汚したのは紛れもないお前自身だということがわからないのかしら?』

「はぁ!?」

『セシリアに近づき、セシリアを変えた醜き男。お前さえいなければセシリアはこんな事にならなかった。全てお前のせいだ、疾風・レーデルハイト!!』

「ぐぅぅ!」

 

 フランチェスカの呪詛がそのまま乗り移ったかのようにセシリアの偏光制御射撃(フレキシブル)のキレが増した。

 捌ききれねえ!! 

 

「なら俺だけ狙えば良かっただろ! 工業のみんなは、セシリアは関係ないだろ! こんなことをしてただで済むと思っているのか!!」

『足りないわ。あなたを絶望の底に突き落とすにはまだまだ足りないのよ。だから奪って上げる、あなたから全てを。私の愛しいセシリアの手でね!!』

「外道め! 自分で勝手に悦に浸ってんじゃねえぞ、このクソババアが!!」

「叔母様に何て口の聞き方をしますの!? 疾風・レーデルハイト!」

「フルネームで呼ぶんじゃねえ!!」

 

 フルチャージのプラズマ弾を発射。

 レーザーの囲いを抜けてセシリアに向かう、だが足から分離したビットのエネルギーシールドがそれを阻んだ。

 きっちりサイレント・ゼフィルスの要素を! 

 

「いだっ!」

 

 レーザーとは違う衝撃。実弾か! 

 レーザーに気を向けてる時に見えにくい実弾はエグい! 

 

「セシリア目を覚ませ! そんなのがノブレス・オブリージュか! 死んだソーレンさんやソフィアさんに誇れる物なのか!!」 

「あんな軟弱な男の名前を出さないで!」

「ぐぬっ! ならソフィアさんに、お前の母親に顔向け出来るのか! ソフィアさんが女尊男卑至上世界を望むと本気で思ってるのか!」

「当然ですわ! 強き女性が築く完璧で完全な調和が取れた世界。それがお母様の望み、叔母様の願い。そしてわたくしが果たすべき使命なのだから!」

「完全に脳味噌茹だりやがって!!」

「その為にもあなたはこの世界に不要なのです! 消えなさい、2番目のイレギュラー!!」

 

 スターライト・ブレイザーの砲身が開き、光が集まっていく。センサーから高出力反応のアラートがひっきりなしに鳴り響く。

 

 しかもこのコースは、後ろに菖蒲たちが! 

 時間もない。もう四の五の言ってられねえ!! 

 

「オーバードライブ、フルバースト!!」

《オーバードライブ、限界放出開始》

 

 プラズマを更に展開。装甲が青く輝くレベルのプラズマが放出され、空気を焼いていく。

 

 これならレーザーの包囲網を突き破ってセシリアに届く。絶対に撃たせてはいけない! 

 二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)、発動! 一気にセシリアの元へ。

 

「セシリアぁぁ!!」

《直上、高エネルギー反応。回避!》

「なっ!?」

 

 上を見ると、空に輝く光点が。

 さっき実験施設を貫いたあの光の柱か!? 

 まずい、この位置とタイミングは! 

 

 二段階瞬時加速のコース状に極太の光が撃ち下ろされた。

 緊急停止、緊急旋回! だがあまりにもそれは遅く。

 急激な方向転換に身体が軋み、光の柱が俺とイーグルを掠めて焼いていく。

 

「うわああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ギリギリ、本当にギリギリ掠めたがそれでもシールドエネルギーをガリガリと削っていく。

 先程実験施設を襲った砲撃より出力が低かったのと、オーバードライブの過剰出力プラズマ・フィールドで事なきを得たが。

 

「はっ」

 

 目の前に煌々と光るセシリアのブラスター。臨界に迫った光。それは冷徹に光の柱に弾かれた俺を狙っていた。

 

「やめろ、セシリア! やめろ! やめろセシリア!」

「シュート」

 

 無情、命乞いも意味もなく。ドミネイト・ブルー・ティアーズから放たれたレーザーがイーグルを包んだ。

 プラズマ・フィールドも張れず、シールドで直接受ける形となったそれは容易く絶対防御を砕いていった。

 

「疾風様ーー!!」

「疾風!!」

 

 遠くで菖蒲と母さんの声が聞こえる………だがそれは直ぐに掻き消される。

 

 光が収まると、そこには所々が黒く焦げたスカイブルー・ティアーズの姿があった。

 装甲に亀裂が走り、通常のそれとは違うスパークが身体を走る。

 

「う、あ………」

《シールドエネルギー、残り4%。パイロット危険域に突入、ダメージレベルC》

 

 まさに満身創痍。

 ISの補助で意識を保つ、その場で浮くだけで精一杯だった。

 

 セシリアとブルー・ティアーズがゆっくりと俺の前に舞い降りる。

 侮蔑と嫌悪を滲ませながら、手のひらに何かをコールした。

 

 小さい4本足の装置。

 体色が黒い以外違いがないそれを俺は知っていた。

 

「これであなたは終わりです」

「セシリア………」

「さようなら、疾風・レーデルハイト」

 

 俺の懇願を意に返さず、セシリアはそれを。黒い解離剤(リムーバー)を俺の胸に取り付けた。

 

「っ! がああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 その場に響き渡る悲鳴と共に黒い電撃のようなエネルギーが俺の身体に流れた。

 

 身体がバラバラになりそうな激しい痛みが頭から爪先まで余すことなく襲いかかる。

 肺から空気が吐き出され、焼けるような痛みに身動きが取れなくなる。

 

《制御系統に異常発生。シールド発生機構、FCS、PICに異常発生。パイロットとのリンクに重大な損傷を確認。IS稼働率、20%まで低下》

 

 なんだ、なんだこれは!? 

 

 身体の痛みとは別に何かが壊れていく。

 

 何かが、失ってはいけない何かが! 

 

 なくしてはならないものが消えていく! 

 

「あ、あっ………うぅ………」

 

 目の前が暗くなっていく。

 路肩のゴミを見るような目をしたセシリアが俺に背を向けて飛び立っていく。

 

 駄目だ、行かないでくれ………行かないで。

 

 俺は、お前がいないと………セシリア………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴポポ、ゴポン。

 

 何かの溶液の中。自分は浮かんでいた。

 

 手足は動かせず、朧気な五感だけが機能している。

 

「もうすぐ、もうすぐよ。もうすぐ帰ってくる」

 

 溶液の外、白衣を着た女の人が立っていた。

 

 よれた白衣。ボサボサの黒い髪。少し時代遅れな眼鏡。胸元に光るフクロウのブローチ。

 

 女の人がカプセルに手を触れ、懇願するように祈り続けている。

 

「お願い………帰ってきて」

 

 あなたは………まさか。

 

「帰ってきて………」

 

 ああ、そうか………

 

「お願い………疾風………」

 

 そういうことだったのか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピッ──ピッ──ピッ──ピッ………

 

「………………………」

 

 規則的な電子音。知らない天井。真っ白な空間。

 

 病室………ではない。何処だろう此処。

 

 ………動かない。身体を動かすことが。

 まるで身体が鉛のように重い。

 

 シュッ、と自動ドアが空いた気がした。

 

 かろうじて首だけを動かすと………そこには副担任の山田先生が………なんか凄い慌てて駆け寄ってきた。

 

「レーデルハイトくん! レーデルハイトくん!? 聞こえますか!? 私の声が聞こえますか! 先生! 織斑先生! レーデルハイトくんが目を覚ましました! レーデルハイトくんが目を覚ましました!」

 

 先生も必死なのはわかるが、目の前で大きい声を出されると流石に頭に響く。

 

 ………なんか胸辺りに違和感が。

 何気なく触ってみると皮膚とは違う何か固いものがある。

 

「………なに、これ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「疾風・レーデルハイトが目を覚ましたらしいわ」

「そう、てっきりもう目を醒まさないと思ってたけど」

 

 以前にも似たやり取り。だが今回と違い、スコールからの通信を耳にしたフランチェスカは特にリアクションもなく、むしろこの上なく上機嫌だった。

 

「あなたが彼の名前を聞いて顔を歪めないなんてね」

「お気に召さなくて残念ね」

「セカンドマンに何をしたのかしら。あの黒いリムーバーはなんなの?」

「フフッ、ちょっとした贈り物よ。喜んでくれると良いわね」

 

 フランチェスカの笑みが深くなる。

 見てくれの良い彼女の笑みは見る人が見れば心を奪われるだろうが。スコールから見たそれは酷く醜悪に見えた。

 

「それで、考えは纏まったのかしら?」

「約束通り、エムとサイレント・ゼフィルスは貸してあげる。だけどモノクローム・アバターはあなたに助力しない、そして敵にもならないわ」

「充分よ。残念ね、貴女とは最後まで道が交わらないみたい」

「交わるわけないでしょ。こんな馬鹿げたこと。よく上が許したものだわ」

 

 プツンと、切られる通信にフランチェスカは含み笑う。

 自分とは相容れない女の姿がとても愉快だったからだ。

 

「クイーン、1つ宜しいでしょうか」

「何かしらアイビス」

「何故セカンドマンを殺さなかったのです? エクスカリバーまで使用したと言うのに、確実に抹殺出来た筈です」

 

 かつての秘書にして、いまは側近であるアイビスという女性が疑問を投げ掛ける。

 フランチェスカにとって疾風はセシリアをそそのかした恩敵、だというのに彼を殺すことなく放置した。

 

「だって、死んで終わりなんてつまらないじゃない?」

「つまらない?」

「そうよ。本当に憎いなら出来るだけ長く苦しませて地獄を味わわせないと。それが疾風・レーデルハイトなら当然。彼から全てを奪い、なにも出来ない現実に絶望を注ぎ込むの」

「では彼は抹殺しないと?」

「殺すわよ? 全部終わったあと、私自らの手でね」

 

 次に会うのが楽しみだと、柄にもなく興奮している。

 今まで数々の男に憎悪を向けてきたが、こんな感情は初めてだ。

 疾風の苦痛を間近で見れないことだけが心残りだったが、それは些事にすぎない。

 

「そんなことよりセシリアの様子は?」

「バイタルや精神は安定。ブルー・ブラッド・ナノマシンと、例のナノマシンも安定しています」

「そう、それは良かったわ」

「ただ………」

「ただ?」

「疾風・レーデルハイトに例のリムーバーを使用した時、一瞬ですが脳波に乱れが生じていました」

「そう………下がって良いわ」

「はい」

 

 アイビスが退出した後、溜め息を吐く。

 

「………やっぱり殺しとこうかしら」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 山田先生が呼んだあと直ぐに織斑先生、そして何時もの面子がゾロゾロと集まってきた。

 先生曰く、授業中だと言っても聞かなかったらしい。

 

 驚くことに、レーデルハイト工業を襲撃してから一週間ずっと寝たままだったとか。

 菖蒲は俺が見るなり号泣して、簪がそれを慰めていた。

 

 そして否応なしに理解された。

 これまでの出来事。セシリアが俺に襲いかかったことは決して夢ではないことが。

 

 さらに世界は俺が思った以上に混沌とした状況だというのを目の前の映像が物語っていた。

 

 

 

『全世界の皆様、そして尊き女性の皆様へ、ごきげんよう。ティアーズ・コーポレーションCEO、フランチェスカ・ルクナバルトです。

 

 皆様に問いましょう今の世界は女性に優しい世界だと言えますでしょうか。

 インフィニット・ストラトスが生まれ、女性優遇社会となり世界は素晴らしきものとなったでしょう。それは10年たった今でも変わりません。

 

 ですが、それは上っ面だけでしかないのです。男性が力を振るうのは無意味と言われていますが、現実は違います。社会の裏では昔と変わらず女性が男性による理不尽な暴力、圧力に苛まれ。人知れず涙を流しています。

 それは今の世界に必要でしょうか。正しいものでしょうか。私たちはそうは思えません。ISが生まれ女性優遇社会となっても、愚かな男は跋扈し女性を、社会を蝕み続けています。そしてそれを許容し、甘える社会も間違っています。

 

 故に、我々【ブルー・ブラッド・ブルー】は決起する。

 未だ愚かな人種が蔓延るこの世界を正し、まことの女性至上世界を気づきあげる為に。

 手始めに、男性を許容し。歪んだ思想を持つレーデルハイト工業の実験施設を粛清致しました

 我々は本気です。言葉だけを語り、行動を起こさない革命家気取りや政治家とは違います。

 この世界に救済を、気高き光が世界中の女性に降り注がんことを。

 

 女性の皆様、今一度考えて下さい。今の自分は正しいのかと。男を恐れ、身動きが取れずにいる皆様を、我々が救います。

 世界中の女性の皆様を立ち上がりましょう。そして共に真なる世界を掴み取るのです

 立ち上がる女性を、我々は歓迎いたします。

 

 全ては、素晴らしき女性至上世界の為に………』

 

 

 

 フランチェスカ・ルクナバルトの演説が終わる。

 これは全ての公共放送機関をジャックし、世界中に流れたという。

 

 映像を見て開いた口が塞がらない。

 かろうじて出てきたのは。

 

「………馬鹿じゃねえの?」

 

 ただ一言それだけだった。

 

 滑稽過ぎる。目の前の女はさも当たり前のように言ってるが本当に馬鹿じゃねえのか? 

 なにが女性至上世界だ。これは暴力と理不尽で築かれるディストピアだ。そんなの世界に共有される訳ないだろう。

 だがそれを本気でやろうとしている。だからこそ恐ろしい。よもやここまでの怪物だったとは。

 

 セシリアや楠木日本代表を洗脳し、レーデルハイト工業を襲った。更にとんでもない戦略兵器らしきものも差し向けて。

 

 まともじゃない。狂気の沙汰も生ぬるい。

 地獄の釜が開いたとはまさにこのことではないか。

 

「レーデルハイト工業を襲撃した同時刻、ブルー・ブラッド・ブルーは世界各国のIS保有施設、軍基地を襲撃。そのなかには行方不明だった代表候補生の姿があったという情報がある」

「僕とラウラもデュノア社で襲われたんだ。僕の叔母であるアニエス・ドルージュとラウラの部下の人たちが」

「ドルージュ代表はわからないが。私の部下も洗脳された形跡があった。酷いものだった、理性の欠片もない。男は殺して当然などと、私の部下に言わせて」

 

 あのフランス代表まで? 

 いったい奴らはどれだけの戦力を抱え込んだんだ? 

 

「そして、このIS学園も狙われたわ」

「なっ、本当ですか会長?」

「ええ、学園の中にいた生徒の一部がIS学園の練習機を持ち出そうとしたの。幸いにもこうなることを予想して、練習機には外部からロックがかかるようにしていたから。盗んだ搭乗者を捉えることが出来たわ。そのなかにはこの前の女性の為の会メンバー。私が潜り込まれていた更識のスパイもいたわ。恐らく洗脳されたのね」

「それ以外。普通の生徒もいたのですか?」

「ああ………その中には相川と谷元、そして鷹月もいた」

「嘘だろ!?」

 

 相川清香、谷元癒子、鷹月静寢。

 三人とも一年一組のクラスメートだ。

 

 俺たち男とも分け隔てなく接してくれて。俺が転校して初めて声をかけてくれた人たちでもある。

 

「鷹月と私は同じルームメイトだったが。決して女尊男卑思考になるような人物ではなかった。むしろ疾風、お前を………」

「………そうだろうな。薄々気づいてはいたけど」

 

 恐らくだが鷹月さんは俺に好意を抱いていたんだと思う。俺を前にして異様に照れることがあったり。アプローチらしきものも度々あった。

 

 セシリアと同じだ。認識を改変され、女尊男卑思考を植え付ける。

 

「みんな狂ったように素晴らしき女性至上世界の為にって言っててね。対処に当たった俺たちにも攻撃してきたんだ………」

「大丈夫か一夏」

「すまねえ。仲良かった友達から殺意を向けられてちょっとな。だけど俺よりお前だ。菖蒲さんから聞いたが。本当なのか、セシリアがお前を」

「………本当なんだろうな」

 

 俺とセシリアが交際してることを知っているみんなからしたら、とてもじゃないが信じられないだろう。

 端から見ても幸せそうだった。羨ましいと思いながら微笑ましさを感じたその関係が。突如として崩壊したのだから。

 

 信じたくない、信じたくない。

 だけど頭にこびりつく出来事は紛れもなく現実と物語っている。

 

「それから世界は大混乱。各所で機体ごとISが奪われ。研究機関が所持していたISコアも奪われた。更に男性実業家の裏の顔や政治家の汚職が次々と世間にリークされて、世間に対する男性への不信感が加速度的に増えていったわ」

「自分の言い分を正当化するための土台を組んできたということですか」

「それだけじゃないわ。各地でブルー・ブラッド・ブルーを支持する人たちも現れ始めた。先頭に立ってるのは女性権利団体だけど、他にも声を上げられてるのは事実よ」

「そこまで、そこまで根付いていたんですね。女尊男卑の思想が」

 

 薄氷が砕かれ、世界の均衡は崩れた。

 人は理性を抜かれ、本能と思考の赴くまま動く。

 ネット世界はバレないことを良いことに賛同や不安を煽る声に溢れ返り、やがて世界を蝕んでいく。

 

 入念に準備していたんだろう。

 奴は本気で完全な女尊男卑世界を作り出すつもりだ。 

 

「レーデルハイト。身体に問題はないか」

「凄く身体が重いです。ベッドから起き上がれないぐらい………それに、これなんなんです?」

 

 胸元を開くと。上半身の半分を覆うように何かの機械がくっついていた。

 機械には心電図のようなものがあり、波を打っている。

 

「それは心臓の働きを助勢する装置だ」

「心臓?」

「お前があの黒いリムーバーを付けられたあと、深刻な心臓異常が見受けられた。診断の結果、心臓が非常に衰弱してることがわかった」

「心臓病、かなにかってことですか?」

「わからない。だがそれと同じぐらい異常なことがある」

 

 なんだ、なんだっていうんだ? 

 

 レーデルハイト工業が襲われ、セシリアが敵になり。これ以上何が………

 

 織斑先生が懐から取り出したのは、スカイブルー・イーグルの待機形態であるバッジだった。

 空をバックにした白い鷲と稲妻を象ったバッジは変わらない輝きを放っていた。

 

「レーデルハイト、ISを起動してみろ」

「わかりました………………………あれ?」

 

 バッジを握り、意識を送ったのにISを起動されない。それどころかホロウィンドウも出てこない、何も情報が頭に入ってこない。

 

「あれ、なんで? 来い、イーグル! 来い、スカイブルー・イーグル!!」

 

 なんで、なんでだよ。

 なんで何も反応しないんだよ! 

 

「やはりか。レーデルハイト、落ち着いて聞け………………お前はISを動かせなくなった」

「………は?」

 

 いま、なん、て………? 

 

「身体検査の結果。お前のIS適正値の欄が空白になった。何度も検査してみたが。検査結果は正常と出た。これは織斑や以前のお前以外のISを動かせない男性全てと同じだ」

「嘘でしょう?」

「本当だ。原因は例の黒いリムーバーの可能性が高いが、いま捜査中だ」

「………………」

 

 なにそれ。俺はセシリアどころか。ISさえも奪われたというのか。

 

 いったいなんの冗談だ? タチの悪い悪夢じゃないのか? 

 

 重い身体から更に力が抜けていった。

 何も聞こえなくなり、考えることすら放棄した。

 

 無力感と絶望、存在意義すら奪われた虚脱感に包まれる。

 

 その後、いつの間にか会長以外いなくなっていた。

 気を利かせてくれたのだろう。会長は万が一の護衛らしい。

 その会長もなんて声をかけて良いかわからず。ただ側に居てくれた。

 

 その後何もせず、食欲もなく、時間だけが過ぎていく。

 

 ただただ考えるのはセシリアのこと。どうすれば良いのか。

 何が出来るのか。ISが動かせなくなった自分に何が出来る。

 

 何も出来る訳がない………ISがない俺は無力そのもの。

 ただのちっぽけな人間だ。もし目の前にISが現れ、俺を殺しにくれば、俺は1分もたたずに矮小な命を終えることだろう。

 どれほど時間がたっただろうか。会長も席を外し、扉の外で待機すると言っていた。

 

 機械の規則的な音がなるなか、また眠ろうと目を閉じようとした時にドアが空いた。

 

「疾風!」

 

 覚えのある声がしたと首だけを動かすと視界が金色に染まった。

 

「良かった。本当に、本当に無事で良かった」

「母さん………ごめん。俺、何も出来なかった」

「馬鹿言わないで。生きてくれただけで良かったのよ………」

 

 涙ぐむ母さんの声に安心感を覚える。

 冷えきった身体にほんの少し体温が戻るような。

 

 視線を動かすと父さんの姿もあった。

 黙っていても悲痛な感じが伝わってくる。こんな父さんなかなか見れないな………

 

「ISのこと聞いたわ。心臓、いま大丈夫なの?」

「うん。特に苦しくはないよ。言われなければ気付かなかったぐらい。これ、母さんがつけてくれたのか? レーデルハイト工業って医療系も作ってたんだね。プラズマ技術の応用だったり?」

「………」

「母さん?」

「あっ。え、ええそうなの。密かに試作してたものでね。運が良かったわ。日頃の行いがいいのね、きっと」

 

 なんとも、なんとも歯切れが悪い。

 なんだろう、引っ掛かった。

 

 引っ掛かったと同時にパズルのピースの一つがはまった錯覚を感じた。

 

 唐突に思考がクリアになる。

 働かなかった脳細胞な一斉に起動し、考えが回り始める。

 

「母さん」

「ん?」

「御厨所長は今どこ?」

「え? な、なんでいま麻美ちゃんを?」

「………思い出したことがあるんだ。多分、俺の予想は当たってる」

「予想? 予想ってなにを?」

 

 口に出すことを躊躇った。

 言ってはいけない、そう思いつつも声に出そうと絞り上げる。

 

「なんで俺がISを動かせたのか」

「!!」

「それは………俺はきっと………普通の人間じゃ、レーデルハイトの人間じゃ」

「疾風!!」

 

 一際大きい声が部屋に響く。

 

「違うの! いや違わないの! あなたは、あなたは私の子よ! 私と剣ちゃんの子供なの! それ以上でもそれ以下でもないの! だから馬鹿なこと考えるのはやめなさい! あなたは私たちの子供なの!!」

「………俺は母さんと父さんの子供だ。疾風・レーデルハイトとして。なに不自由なく育ててくれて。それだけは本当だ」

「そうよ、だから」

「だけど。それと同時に目をそらしたくない。こんな時だからこそ。俺は知りたい。その答えは、きっと御厨所長が知っている。そんな気がするんだ」

「疾風………」

 

 パチリパチリとピースがはまっていく。

 

 こんな時に合点が行かなくていいだろうに。このまま知らないふりすれば良かっただろ。

 わざわざ母さんを苦しませる必要なんか。

 

「もう、いいんじゃないかアリア」

「剣ちゃん、でも!」

「ああそうさ。来ないで居た方が幸せだ。だがいつか来る、覚悟はしていただろ。俺とお前も」

「父さん………」

「疾風、お前が知ろうとしてることは、後戻り出来ない真実だ。真実ってやつは良いことばかりじゃない、むしろ悪いことばっかだ。知れば今までの自分じゃなくなっちまう。それは恐ろしいことだ………お前にその覚悟はあるのか?」

 

 これほど静かな迫力を放つ父さんは初めてだ。

 

 レーデルハイト家の大黒柱として、いつも笑顔で守ってくれた一人の父親として俺を案じてくれているのが痛い程わかる。

 そしてそれが父さんの言葉が本当だということも。

 

 覚悟、覚悟か………

 

「覚悟なんか、ないよ。あるわけない。でも、俺は人生最大の恐怖を味わってしまった。味わい尽くしちゃった………セシリアを、愛する人を失った以上に、怖いことなんかないよ」

「………馬鹿野郎」

「大馬鹿よ。疾風は」

 

 もう一度母さんが俺を抱き締める。その上から父さんの大きな身体が俺を母さんごと抱き締めた。

 

 暖かい………ああ俺は幸せ者だ。

 

 だって。こんな素晴らしい家族がいるのだから。 

 

 きっと、どんな真実だろうと乗り越えられる。

 

 

 

 





 鬱展開で疲弊する男、魔剣ダーマッ

 どうも作者のブレイブです。
 尺の都合上、とてもハイスピードに物語が進んだと思います。
 悩みましたがダラダラやるより良いと思いました。

 絶望のどん底に叩き落とされた。正直ここから這い上がれるビジョンはあるのかと思います。それでも上を向いた疾風。

 次回、疾風の秘密が明らかになります。お楽しみに
 
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