IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

134 / 154


 ガンダムSEEDFREEDOMを見てきました。

 感想ですか?愛じゃよ、愛。


第131話【全ては愛する君の為に】

 

 

 レーデルハイト工業が襲撃された同時刻。IS学園の練習機ガレージに不正アクセスの形跡があると代表候補生一同は各アリーナに分散して対処に回っていた。

 

 ISを纏った一夏と箒が共に第一アリーナに向かうと、学生が練習機の打鉄とラファールを纏っていた。

 その中には見知った顔もいた。

 

「え、相川さんに谷本さんと鷹月さん? 何してるんだ? まだ練習機が使える時間じゃないだろ?」

 

 顔見知りに出会い緊張が抜けたのか雪片弐型を下ろす一夏。

 だが彼女たちの瞳の青い虹彩は友人に向けるソレではなかった。

 

「死ね! 織斑一夏ぁ!!」

「え?」

 

 相川の打鉄がブレードを振り下ろしてきた。

 突然の攻撃に虚を突かれた一夏に容赦なく振り下ろされ、防御することなくその刃が一夏を襲った。

 

「ぐぅ!」

「一夏!」

「でやぁぁ!!」

 

 続く鷹月のラファールが両手のブレードで斬りかかるのを箒は両の刀で切り払う。

 

「なんだこの殺気は! 見かけだけじゃない!」

「どうしたんだよ、みんな!」

「世界を歪めるイレギュラー、織斑一夏はここで排除する。全ては素晴らしき女性至上世界の為に!」

「「素晴らしき女性至上世界の為に!!」」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「一夏………一夏ってば!」

「あっ、なんだシャル?」

「なんだじゃないよ。何回も呼んだのに。大丈夫?」

「悪い、ちょっとな」

 

 疾風がISを動かせなくなったと判明した後、一夏たちは第一アリーナのガレージに集まっていた。

 周りには一週間前の戦闘の跡が色濃く残っている。

 

 思い出していた。仲が良かったはずのクラスメートに殺されかけ。そして緊急停止プログラムで動けなくなったあとでも呪詛を投げられ続けたその姿を。

 

「なんでこんなことになったんだろうね」

「こっちが聞きたいわよ! 乱も中国の軍事基地で暴れたとかって言うし………ああもう意味わかんない!!」

「落ち着け鈴。騒いだところで状況は好転しない」

「なんであんたはそんな落ち着いてられんのよ! 自分の部下がテロリストになったって言うのに! あーそう、あんたにとって部下はそんなもんだったのね。入学してきた頃を思い出すわ」

「………そうだな。もしかしたら何も分かってなかったのかもしれん」

「え、ちょ。ガチで受け取らないでよ。ごめんってば、アタシも言い過ぎたわよ」

「気にするな。気持ちはわかる」

 

 ラウラの予想外の反応に狼狽える鈴。ガシガシと髪を乱しながらベンチに腰かけた。

 

「みんな同じ気持ちです鈴様。当たり前の日常が突然崩れ去ったんです。吐き出してもいいのですよ」

「分かってるわよ。でも………一番苦しいのは疾風じゃない。親しい人が被害に会って、ISも動かせなくなって………挙げ句の果て恋人だったセシリアに殺されかけて。もしアタシが同じ立場だったらって思うと………」

 

 いつも気丈な鈴が見る影もない。

 それはみんなも同じだった。何処かで踏ん切りをつけて無理やり納得させているだけだ。

 

「箒、束さんに連絡はついたのか?」

「いや、連絡はつかない。こんな時に何をやってるんだ。今回の事件、元を辿れば姉さんがISを作ったからだというのに。姉さんがISを作らなければ………」

 

 インフィニット・ストラトスが生まれて、女性にしか動かせないと分かり世界は一変した。

 

 あの時は正に激動の時代だった。

 世論が傾き、既存の体系が崩壊し、あれよあれよという間に政策が打ち付けられ。女性優遇の世界になった。

 

 そして生まれた膿が溜まりに溜まって吹き出した。

 もし篠ノ之束がISを作らなければ、こんなことにならなかったのではないかと………

 

「それは、違うと思う」

「簪さん?」

「ISは、インフィニット・ストラトスは、確かに世界を混乱させた。だけど、ISに罪はないと思う。悪いのは、ISを都合よく認識して悪用した人たち。 道具に罪はない、悪いのは使う人間。ISが生まれて良いことばかりではない。でも悪いことばかりでもない………だって、私はみんなと出会えた。疾風と出会って、お姉ちゃんと仲直り出来た。みんなもそうでしょ?」

 

 アクシデントやハプニングはあった。

 だけど自分たちがISに関わり、そこから生まれたコミュニティはとても楽しいもので、得るものがあった。

 

 誰かを守るという尊さと意味を知った。

 好きな人と再会し、力のなんたるかを知った。

 好きな人を追って、また笑いあうことが出来た。

 遠ざけていた親と、向かい合う決意が出来た。

 孤独の虚しさと、そして仲間の大切さを知った。

 どんな時でも諦めず、想い続けることが出来た。

 殻を突き破り、もう一度家族の隣に立つことが出来た。

 

 誰よりもISを好きな男がいた。

 誰よりもISを好きな男と共に夢を追う女がいた。

 

「きっと疾風なら、そう言うと思う」

「そうだな。悪いのはブルー・ブラッド・ブルーだ。ISが出来て、全部が全部悪いことばっかじゃないもんな」

「ああ………そうだな」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 扉の前で待機している会長に、これから来る人と話すときに盗聴とかしないでくれと言った。

 会長は深く聞くことなく「分かったわ」と言ってくれた。

 

「ふぅー」

 

 これから御厨所長………御厨さんが来る。

 果たして答えてくれるだろうか………いや、答えて貰わないと困る。

 

 ギュっと母さんが隣で手を握って笑いかけてくれた。

 ありがとう母さん。俺は大丈夫。

 

「疾風くん、御厨さんが来たわ。アリアさん、私は一度離れます」

「ありがとう。この身にかけて疾風は守るから」

「では」

 

 ドアが開き、御厨さんが入ってきた。

 いつも通りボサボサの髪とお洒落っ気のない眼鏡をかけて。

 

 だけど何時もの違う。平静さを装っているが、何処か目が迷っている感じがしたのだ。

 

「久しぶりね、レーデルハイトくん。レストラン以来ね」

「ええ、お久しぶりです御厨さん………今回はあなたに確かめたいことがあり、お呼びさせて頂きました。こちらから出向けず申し訳ない」

「そんなこと考えなくていいの。子供は大人に甘えるぐらいが丁度いいんだから」

 

 まるで親みたいに諭してくる御厨さん。

 

 そして沸き上がる懐かしさと安心感。

 

 それは今母さんの隣に居ることで感じるものと似ていた。

 

 だからだろう。思いの外スルッと言葉が出てきた

 

「単刀直入に言わせて頂きます。御厨麻美さん、あなたは俺のなんですか」

「………」

「先日、IS学園が大規模ハッキングによりシステムダウンした日に、ハッキングの犯人と遭遇しました。クロエ・クロニクルと名乗るその女性は自分のISに接触し、記憶領域を覗いてきました。その時、自分は見てしまった、いえ思い出してしまったんです。自分が、何かのカプセルの中に居たことを。そして────御厨麻美さん、あなたが私の目の前に居ました。そして、泣きながら私の名前を呼んでいました」

 

 目に写ったビジョンを細かく話した。

 御厨さんは見たことない顔をしていた。目を見開き、口許を抑えて。

 ああ、やっぱ何かあるんだなと。

 

 それから急かすことなく反応を待った。

 目を伏せたまま忙しなく指先を弄ること数分。

 

「………アリアと剣司さんは」

「覚悟は出来たわ。来てしまったんだなって」

「そういうことだ、麻美さん」

「………………織斑先生に聞いた時は驚いた。まさかこんな早くにファクターコードが覚醒するなんて」

 

 ファクターコード。

 ファクター、普通に訳せば因子という意味だが。

 

「やはり知ってるんですね」

「ええ、全部、全部知ってるわ」

 

 重く息を吐いたあと、御厨さんは自分の頬をパンッと叩いて気付けし、顔を上げた。

 

 その顔は先程狼狽えたそれではなく。これも今まで見たことないぐらい、強く、そして崩れそうな光を眼に宿していた。

 

「以前、私に息子が居たことは話したわよね」

「ええ、白騎士事件のあとに、心臓が悪くなって亡くなったって」

「そう。でも本当は少し違うの。白騎士事件からそこまで日を跨がないある日、事故が起きたの。ISの実験でね。その時の事故で息子は重症を負って。亡くなったの………息子の死を受け入れられず、悲しみにくれた私はある禁忌に手を出した」

「禁忌?」

「かつてISが生まれる前に究極の人類を生み出す実験があった。プロジェクト・モザイカと呼ばれた研究はその過程で様々な成果を出した。その中には精度の高いクローニング技術と、副産物として生まれた記憶転写技術があった」

 

 クローニング………記憶の転写。

 

「私は息子の死を受け入れられず、当時壊滅したプロジェクトの技術を盗用し、息子のクローンを作った。結果、クローニングは成功したわ。身体機能、テロメアの減少作用もなかった。でも何もかも上手く行った訳ではなく、心臓の機能が著しく弱かった。培養液から出せば、10分とたたない内に死んでしまうほど弱りきり。人工心臓を使ったとしても、身体の細胞そのものが弱くなってしまう事態に陥った。その時用いたのがISの原初、第零世代ISの遺伝子データ、フラグメントマップから生まれた、ファクター・コードだった」

 

 第零世代。世に出ていない、白騎士の世代。

 

「第零世代ISの遺伝子マップには、当時ISを作り上げた初期チームの遺伝子データが使われた。そのうちの一つが、私の遺伝子だったの」

 

 聞いたことのない単語が次々と出てくる。

 それを聞いてる内に、自分の中の確信が浮き彫りになっていく。

 

「ファクター・コードを転用したナノマシン、ファクター・ナノマシンには、ISとの同調率の上昇。ISのパワーアシストを生身で受けれる能力と、ナノマシン単体でも生命補助に秀でた画期的なものだった。欠点としては、ファクター・コードにあった遺伝子以外には拒絶反応を起こすこと。そして副産物として、ISの生体認証パスとしての機能も有していた」

 

 生体認証パス。つまり、そのナノマシンを使えば。本来ISを起動できない男でもISを動かせる? 

 

「私の遺伝子を受け継いだ息子のクローンへのファクター・コードの移植は無事に成功。心臓の保護に成功し、息子のクローンは意識を宿してクローニングは成功したわ。死んでしまった息子の名前は───『御厨疾風』」

「疾風………俺と、同じ名前?」

 

 パチリと、パズルの最後のピースがはまった。

 

「疾風・レーデルハイトくん。あなたは本来生まれるはずのない命を愚かな母親の手によって産み落とされた。私の息子、御厨疾風のクローン体なの」

 

 俺が………御厨さんの息子のクローン? 

 

 ギュッと、繋いでいた母さんの手が強くなった。

 何故だかわからないが、顔を横に向ける勇気がなかった。

 

「待ってください。俺が息子さんのクローン………でも、俺あなたのこと殆ど知りませんよ? 覚えてるのは、母さんや父さん、兄と妹と暮らした記憶しか」

「記憶の転写が失敗したの。息子が6歳まで得た教養や一般常識は転写出来たけど。思い出や人を認識する記憶までは転写出来なかった。産み落とされたのは、息子と瓜二つのクローンだった」

「っ………」

 

 想像してなかった訳ではなかった。

 

 自分が普通の人間ではないのも薄々そうじゃないかって、あのヴィジョンが見える前から考えていた。

 

 なんというか。ショックとかそういうのを通り越して、現実味がなかった。

 

「それから必死に私を思い出して貰おうと思ったけどね、駄目だった。その時やっとわかったの。息子は死んだ、もうこの世にはいない。例え記憶の転写が上手くいったとしても、それは私の息子と同じ姿をした誰かなんだって」

 

 どおりで白騎士事件を覚えていない訳だ。

 だって、白騎士事件の時。俺は生まれてすらいなかったのだから

 

「その、どうして俺はレーデルハイトの家に?」

「………その時の私はほんと愚かでね。息子であって息子じゃないあなたと向き合うのが怖かったの。自分がとんでもないことをしたことをした。死んだ息子や、あなたを作り出した過程で死んでいったクローン体が、あなたの眼の奥に居た気がして………精神的に追い詰められた私は………あなたを殺そうとしたの」

「っ!」

 

 俺を、殺そうと………

 

「その時アリアが私を心配して家を訪ねて来た。その時見つかってしまったの。私があなたの首を絞めていたことを」

「驚いたわよ。目の前で馬乗りになって首を絞める麻美ちゃん。しかも首を絞めていた相手が、死んだはずのご子息だったんだから」

「あの時のアリア、怖かったわ」

「当たり前でしょう、この馬鹿」

「そうね、本当に大馬鹿者だった。ごめんね、疾風くん」

「いえ、その。覚えてないので。気にしなくて良いですよ」

「フフっ、それは無理な話ね」

 

 自嘲気味に笑う御厨さんはとても痛々しかった。

 

 子育てに病んで子供に手をかける親というのはニュースで何度も見たことはあるが、彼女の重圧はそれの比ではない。

 

 倫理観と生命への冒涜。

 そして息子の顔をした誰か。これまで犠牲にした作られし命。

 その二重の重荷に耐えかね、精神を病んだ。

 一体どれだけの重圧が彼女を蝕んだのだろう。

 

「精神が病んだ私はもう子供のように泣いてね。とてもじゃないけど貴方を育てることなんて出来なかった」

「その時、うちで引き取るということにしたの。でも戸籍もなく記録上死んでいる貴方を養子にするということは並大抵のことじゃなかった。楓も生まれていたしね」

「それだ。楓は俺を本気で実の兄だと思ってる、はずだよな?」

 

 もし俺が義理の兄だと知っていてアプローチをかけていたなら、あのブラコンっぷりも説明が………

 

「ええ、楓はあなたを本当の兄だと思ってる」

「え、そうなの!? どうやって?」

「まだ二人とも小さかったから。少しだけ記憶を誘導したのよ。催眠療法に近いものよ。疾風はファクター・コードに介入して改竄したわ。その時、完全に私のことを忘れさせたの」

「じゃ、じゃあ。楓のあの異常なブラコンっぷりは催眠療法のせい?」

「いいえ。それはまったく関係ないわ」

「関係ないの!? ですか?」

「ええ、まったく」

 

 えーー。じゃあ楓の俺へのブラコン感情は根っからの本気ってこと? 

 いやそっちの方が安心は出来た、のか? 

 

「グレイ兄は?」

「グレイは知ってるわ。その時グレイは高校生だったから催眠療法は効かなくて。あの子は少し特別だからって、口約束で守ってくれたわ」

「グレイはあの時から落ち着いた大人のような子だったからなぁ。口約束だとはいえ、よく守ってくれたものだ」

 

 すげぇ、グレイ兄。全然そんな素振り見せなかったのに。

 俺が逆の立場だったらどうだっただろうか。

 

「そして、貴方は疾風・レーデルハイトとして。新しい人生を歩むこととなったの」

「なんというか、なんというか。なんというか。SFというかファンタジーというか、そのぉ………」

「受け入れられないのも無理はないわ」

「すいません。でも、なんか納得しました………いややっぱ納得出来てないかも」

 

 普通に無理だよね。

 むしろなんでこんな冷静に聞けてるんだろ俺。適応力? それともキャパオーバーか? 

 

「そして私は影ながら見守ることにした。あなたの中にあるファクター・ナノマシンのバイタルを監視し続けて。時々仕事を名目にお邪魔したりした。その時1度だけあなたと会ったのよね」

「そうだったんですね」

 

 記憶がないのに既視感があったのはやはり1度会っていたから。あの時の話は嘘ではなかったんだな。

 

「えーと。俺の中にはファクター・コードのナノマシンが入っていて。それがISを動かせる理由なんですよね」

「そうね」

「でも16歳の誕生日になるまで、俺動かせませんでしたよ?」

「それは私が設定したの。幼い頃からISを動かせてしまうと、色々大変だと思ったから。その前に織斑くんが動かしてしまったことには本当に驚いたけど」

 

 そうですよね、酷いニアピンがあったものだ。

 

「じゃあ母さんは俺がいつか動かすことを知っていたの?」

「ううん。まったく知らなかったわ。疾風の中に心臓補助のナノマシンがあることは知っていたけど」

「急いで麻美さんに電話したよなぁ」

 

 なんともそれはそれは………

 神様からの粋なプレゼントかと思ったら、まさか御厨さんからのバースデープレゼントだったとは思いもしなかった。

 

 いやわかるかよそんなもの。

 

「これが貴方のルーツ、全ての真実よ。疾風くん」

「そうですか………フーー。なんか更に疲れた気がする」

「疾風、そう言う割には落ち着いてないか? もっとこう、なんかないのか?」

「いやなんつーか。予想はしてたけど理解の範疇越えたっていうか、一周回って予想通りというか。クローンだとかスペシャルなナノマシンとか。ほんとなんつーかっていうかね」

「こっちは凄い身構えてたんだけどな。罵倒される覚悟だったんだぞ」

「なんで? だって母さんと父さんが俺を大事に思ってたのは本当だし。それは変わらないだろ?」

 

 自分でも酷く落ち着いていると思う。

 でも本当だ。俺は間違いなく二人に愛されて育てられた。

 

「確かに、あなたたち家族はとても幸せそうだった。だけど同時に酷いことをしたと思っている。理由はなんであれ、人の記憶を弄くりまわして偽りを本当にした。私もフランチェスカ・ルクナバルトと変わらないわね」

「そんなことありません!」

 

 思わず立ち上がろうとしたが身体に力が入らず倒れかけた。

 

「疾風くん?」

「確かにクローン技術だとか、記憶を書き換えたことは、許されることではないと思います。でも、それでもフランチェスカとは違う。あなたは本当に俺の幸せを思ってくれた。息子ですらない自分の幸せを」

「それは、罪滅ぼしよ。自分が許されたいが為に、罪悪感から逃げるためにやったことなのよ?」

「たとえそうだとしても。もう関係ないです。だって、俺は間違いなく充実していた」

 

 俺を好きでいてくれる妹いて。

 頼りになる兄がいて。

 家族愛に溢れた親がいた。

 

 それがどれだけ贅沢なことか、俺が一番よく知っている。

 フランチェスカは自らの欲望の為に使ったが。御厨さんは何処までも俺の為にその技術を使用した。

 それが許されざる行為であることは間違いないかもしれない。だけどその根底にあるのは確かな愛情だ。

 

 息子の記憶を引き継げなかった、出来損ないの俺の為に。

 それをどうして、あのフランチェスカ・ルクナバルトと同じだと言えようか。

 

「それに、レーデルハイトの子になったから。セシリアと知り合えた。ISを動かして、かけがえのない友達が沢山出来た。こんなに恵まれたんだから、運命の巡り合わせに感謝しないとバチが当たるってものです」

「っ~~! もう馬鹿息子! こういう時ぐらい怒っていいのよ! もう!!」

「うわった」

 

 お、お母様。感極まって抱きつくのは良いですけど苦しいです。重傷者ですよお母様! 

 

「ありがとう、疾風くん」

「いえ。思ったことを言っただけですから」

 

 御厨さんがやっと笑顔を出した。

 涙混じりの笑顔だが、先程の痛々しい笑顔と比べてとても嬉しいと感じられた。

 ほんの少し、彼女の重荷が取れたと思いたかった。

 

「話を戻すわね。オルコットさんがあなたに取り付けたあの黒いリムーバー。恐らくファクター・ナノマシンを破壊する為のものなのでしょう。ファクター・コードが動かなくなったことでISを動かせなくなり、心臓の補助機能も停止した」

「俺、どうなっちゃうんですか?」

「大丈夫よ。ファクター・コードが完全に停止した訳ではない。いま胸につけてるそれはファクター・コードを活性化させる為の物なの。時間はかかるけど、胸の装置なしでも普通に生きられるようになるわ………ただ」

「ただ?」

「ファクター・コードのIS生体認証への機能は完全に消えている。つまり、普通に生きられるけど。あなたはもう二度と、ISを動かすことは出来ないわ」

「なっ!」

 

 一番聞きたくなかった真実が突き刺さった。

 一抹の望みにかけたそれは完膚なきまでに粉砕されてしまった。

 

「そんな! なんとかならないんですか!?」

「………ないわ。この事実だけは変えられない」

 

 その言葉はいま話してくれた真実の中で一番身体にのし掛かった。

 

 作られた命だとか、記憶がないとか。

 本当は父さんと母さんの子じゃなくて御厨さんの子供の写し見だとか。

 

 そんなものはどうでもよかったのかも知れない。

 むしろそれ以上に不安なことがあったからかもしれない

 

 ISを動かせない。

 

 俺にセシリアを救う力がない。

 この世界で戦う力がない。

 

 ………もう、彼女と約束した夢が果たされることはなくなったのだと。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 以前見ていたクローンの培養カプセルの夢もそうだが、ここまで悪趣味な夢はあるかと思う。

 

 昨日の今日、いや体感的には一週間前なんだけどさ。

 

『どうしてお前がそこにいる!! 答えろセシリア! どうしてお前がそこに居る! セシリアぁ!!』

『下等生物ごときが話しかけないでくれます? 吐き気がしますわ』

 

 下等生物って酷いよね、うん酷い。

 俺たち同じホモサピエンスから派生したヒト科ヒト属なんだけどね。

 

『踊りて散りなさい。わたくしとドミネイト・ブルー・ティアーズの旋律を前に』

 

 ドミネイト・ブルー・ティアーズ。

 ドミネイトって支配とかだっけ? ネーミングが高圧的過ぎるだろ。でもISはかっこよかったよな振り替えると………

 

『あなたと話すことなどありません、失せなさい痴れ者!』

『何が痴れ者だ! お前がそんなこと望むわけないだろうが!』

『知ったような口を!』

『ああ今のお前よりは知ってるさ!!』

 

 本当に知ってるのか。

 いや知っているはずだ。

 

 やっぱりどうしてもアイツが望んだことではない。

 でももしかしたら? なんて馬鹿なことを考える自分が嫌だった。

 

 もしセシリアを取り戻したとして、彼女の社会復帰は可能なのだろうか。

 

 さっきから追体験しながら他人事のように感想を述べていく。

 もう見たくないと何度唱えても見てしまうからいっそのことフラットな視点で見てやろうと思ったけど。

 

 やっぱ無理だ。胸が張り裂ける。

 

『これであなたは終わりです』

『セシリア………』

『さようなら、疾風・レーデルハイト』

 

 ああ、あのリムーバーは痛かったな。一夏も叫ぶ訳だよ。

 

 でもこれで夢が終わりそうだとホッとする。

 

『── ── ──』

 

 ん? なんだ? 

 

『─めて──やめ──や』

 

 声が聞こえる。誰の? 

 

 聞いたことある声が………これは

 

『──めて──やめて──やめてぇ!!』

「!!」

 

 これ、セシリアの声!? 

 

 何処から!? いやでもこれは夢じゃ。

 

 目を開くと、そこには黒いリムーバーを持つセシリア。

 

 その瞳の向こうを覗いた。

 そこには泣き叫ぶ彼女の姿が。

 

 そしてその叫びが鮮明になり、身体全体に叩きつけられた。

 

『やめて! やめて叔母様! やめて! 疾風からそれを奪わないで! 疾風からISを奪わないで! わたくしはどうなってもいい! わたくし何でもいたしますから!! だから、だから疾風からISを奪わないで!!』

 

 セシリア、そこにいるのか!? 

 

 セシリア!! 

 

「ぐぅ、あああああああ!!!」

 

 リムーバーを取り付けられた時の痛みがリフレインする。

 それでもセシリアの叫びは木霊する。

 

 泣きじゃくりながら自分を止めようと必死にあがこうとする彼女の姿が。

 

『いや! いや!! 駄目駄目駄目駄目!! お願いやめて! こんなことしたくない! こんなことしたくない!! やめて叔母様! 疾風からISを、わたくしたちの夢を奪わないで!!』

「セシ、リア………」

『駄目! 行かないで疾風! いや、駄目! 疾風、疾風! 疾風! 疾風!! 疾風ぇぇぇぇ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリアぁっ!!」

 

 身体の重みをはね除けて起き上がる。

 

 伸ばした手の先には何もなく。弱った心臓は早鐘を鳴らしていた。

 

「なんだ、なんだ。なんなんだ? 夢、じゃない。リアルすぎる。いやそれどころか」

 

 自分の中の何かがそれを夢だと全力で否定している。

 

 あれは間違いなくセシリアの叫びだった。

 

 自分がやってることを必死に止めたくて

 自分をこんな姿にした叔母に懇願して。

 

 いつもの姿から想像できないくらい泣きじゃくって、泣き叫んで。

 

「いったぁ………」

 

 胸が痛い。でもこれはリムーバーによる痛みじゃない。

 

 セシリアの心、彼女の心を感じられた。

 やっぱり、これは彼女の意思じゃない………

 

 胸元についていたバッジを外した。

 派手好きな相棒の待機形態。もう動かせる筈もないのに。

 

「お前が見せてくれたのか? イーグル………」

 

 一年にも満たない、かけがえのない相棒に問いかけるが応答はない。

 

「セシリアを助けないと」

 

 でもどうやって? ISのない俺に何が出来る? 

 

 結局はそこだった。

 

 俺はもう二度とISを動かせない。

 

 こんな俺に一体何が。

 

 ピピピ、ピピピ、ピピピ………

 

「………え?」

 

 顔を上げると、ホロウィンドウが。

 

 え、何処から。手のひらのイーグルから、イーグルから!? 

 

 え、もしかして動かして………ない。頭にまったく情報が入らない。

 

 ホロウィンドウにはコール画像。

 いったい誰から? 

 

 なにも状況が読めないまま、恐る恐る応答のボタンを………

 

「ハロー眼鏡くーん! 元気かなー!!?」

「うひゃあああぁぁぁ!!?」

 

 行きなりドアップでウサギ美人が!! 

 びっくら仰天して派手にバッジを放り投げてしまった。

 

 宙を舞ったバッジは放物線を描いてベッドの端にポスッと収まった。

 

「え、え、ええ?」

「もー、行きなり投げるなんて酷いぞー。束さんプンプンだぞー。あと電話出るのも遅いぞー」

「し、篠ノ之、博士?」

 

 テレビ電話の相手はなんと篠ノ之束だった。

 こんな状況なのにも関わらず臨海学校の時同じようにニコニコ笑っている。

 

「え、なんで俺のイーグルに連絡を? てか俺IS起動してないのに」

「おいおいISの産みの親で世界一天才な私にそれを聞くのかい」

 

 わからんが納得してしまった。

 そしてこのまま話すことが確定したことも。

 

「んで、眼鏡くん。ISを動かせなくなった気分はどうだい?」

「わざと聞いてるのは軽蔑しますし、わざと聞いてないならそれはそれで軽蔑しますよ」

「フフフ、そんな生意気な返しが出来るならまだ廃人ではないってことかな?」

 

 どうでしょうね。

 もうほとんど死に体で脱け殻同然のこの身だけど。

 

「しかしやっぱり眼鏡くんは先生の息子さんだったんだなぁ。名前まったく同じだったし似てたからもしやって思ったけど………まさかプロジェクト・モザイカから連なってたとはねぇ。気付けなかったなんて束さん一生の不覚だよ」

「え………」

 

 なんでそのことを? 

 

「なんでって顔したね。それはもう、君が眠った時から監視してたからに決まってるじゃないか。あとは読心術プログラムでちょちょーいとね」

「………悪趣味ですよ」

「そうだね、知ってる。でも自覚してるし、君が起きるまで待ってあげたんだから偉くない? 実は気遣いも出来る束さんなのでしたー」

「待ってた?」

「そうだよ───セシリア・オルコットを救いたくないかい?」

「!?」

 

 な、何を言って? 

 

「セシリア・オルコットを救う手立てがある。私に協力しないかい、御厨疾風くん?」

「セシリアを、救う。救えるんですか?」

「勿論! 天才束さんは嘘をつかな………」

「教えてください! どうしたら救えるんですか! 教えてください! 篠ノ之博士!!!」

「おうおうおうステイステーイステーーイ。アグレッシブ過ぎるよ眼鏡くん。愛の大きさに比例して勢いが凄いよ眼鏡くん。とりあえず落ち着こうか」

「す、すいません」

 

 バッジを拾い上げて手の平に。

 

 深呼吸をして落ち着いたつもりだがはっきり言って無理だ。

 さっきから心臓が早く鳴りっぱなしだ。心電図を見ればわかる。

 

「長々と話したいところだが。あまり時間はない。いつものIS学園なら問題ないんだが、いまは麻美先生がいる。天才束ちゃんでも先生にまったく気付かれないまま話し続けるのはリスクがある」

「詳しく聞きたいなら協力しろ。しかも他の皆に黙ってってことですよね?」

「察しがいいね。いっくんとは大違いだ」

「でも俺に何が出来るんですか? ISも動かせない俺はそこらの凡人と同じですよ」

「動かせると言ったら?」

「え?」

「私ならあなたとISを繋げられる。もう一度空に羽ばたかせることが出来るよ」

 

 もう一度ISに乗れる? 

 

 セシリアを、助けられるのか? 

 

「ただ、これだけは理解してもらわないと困ることが一つだけある」

「なんです? セシリアを助けるためだったら俺はなんだって」

「もう一度ISに乗った場合。君は99%死ぬよ」

「………………」

 

 死ぬ? 

 ISに乗ったら死ぬ? 

 

 なんの冗談だと思ったが篠ノ之博士の顔は普段の箒とそっくりと思えるほど真面目な面立ちだった。

 

「99%なんて言ったけど。ほぼ100%のようなものだ。君の中のファクター・ナノマシンをもう一度目覚めさせる。だがその後はもう目覚めない。役目を終えたファクター・ナノマシンは消え、君は確実に死ぬ」

「………………」

「だけど君がISに乗らない限り、セシリア・オルコットを取り戻すことは出来ない。これはいっくんにも、箒ちゃんにも、ちーちゃんにも。そしてこの私でも出来ないことなの。悔しいこと極まりない。まったくとんでもないことをしたものだよ、あの勘違いババアは………」

「………………」

「君に残された選択肢は二つ。このままナノマシンの再生を待ち、ISと離れて生きてセシリア・オルコットを諦めるか。もう一つ、消えかけの命を燃やし尽くしてセシリア・オルコットを救うか。君はどちらを選ぶ?」

 

 俺が死ぬ。

 

 死ぬということは皆にもう会えない。

 

 セシリアを助けられたとしても、俺はもうセシリアと共に生きることしか出来ない。

 

「………篠ノ之博士」

「ん?」

「俺がISに、スカイブルー・イーグルに乗れば。セシリアを、本当に助け出せるんですか?」

「君の頑張り次第だけど、出来るよ。この希代の天才にしてインフィニット・ストラトスの産みの親。篠ノ之束が保証する」

「………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やります。俺にやらせてください」

「本当に良いんだね? 冗談抜きで死ぬんだよ。これはエゴだ、自己満足の果てに他人を全て捨て去ることと同じなんだよ」

「そうですね、俺の行動は身勝手そのものです」

「それでも選ぶんだね」

「約束したんです。セシリアに何かあれば、必ず助けるって。彼女はこの選択を望まないことはわかっています。それでも、俺の選択にセシリアを助けないという選択はないんです」

 

 例え嫌われたとしても。

 例え死ぬとしても、必ず助ける! 

 

 その決意に篠ノ之博士は満足そうに笑った

 

「オーケー疾風くん。じゃあとっとと移動しないとね」

「でもどうするんです? 入り口は一つですし、外には会長、更識楯無がいます」

「私がなんの準備もなく話をすると思うかい。クーちゃん」

「はい、束様」

 

 壁の一部が何か、光学兵器のようなものでくり貫かれ。そこからあの時会った学園ハッキングの銀髪の少女が現れた。

 

「お前はっ」

「先日はどうも、疾風・レーデルハイト様。私は篠ノ之束の従者、クロエ・クロニクルと申します」

「学園のシステムは掌握済み、ISのレーダーはクーちゃんが誤魔化してくれる」

「失礼いたします。スカイブルー・イーグルのPIC機能を一部起動。これで身体は動かせる筈です」

 

 一瞬光の膜が身体を覆う。身体が少しだけ軽くなった気がする。

 

「麻美先生が気付くのも時間の問題。これが最後だよ疾風くん。片道切符を切るかい?」

「無論です」

「じゃあ行こうか」

 

 この選択は間違っているかもしれない。

 

 それでも俺は進む。

 愛する人を救い出す。ただそれだけの為に。

 

 

 

 






 SEEDFREEDOMを見てきてテンションMAX、どうもブレイブです。あれは良いものだった。まさに愛でした。

 ついに明かされた衝撃の出生。
 予想はしてたと思いますが。疾風は思いの外ダメージ低めだったのは一重に彼の頭の中がセシリアで一杯なこと、そしてセシリアがどんな自分でも受け入れると言ってくれたからなんです。

 そして迫られる選択に対して疾風の答え。
 誰よりも身勝手だと理解しつつ、それでも進む疾風。
 決断しても、決断しなくても隣り合うことはない。ならばこれしかないということですね。
 
 この先、2人が共に歩く未来はないのでしょうか?
 次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。