IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
いつもはエースコンバットと2話ずつ投稿ですが。
次もISを投稿しようと思います
一通のメールが。
アリアのディバイン・エンプレスに届いた。
それを見たアリアは崩れ落ちた。
剣司に支えられ、涙と嗚咽を止められなくなったままメールを見た。
文書データのタイトルには短く2文字の単語が綴られていた。
遺書………と。
【遺書】
父さん、母さん、織斑先生、御厨所長
そして俺の大事な友人たちへ。
遺書と書いておきながら。これを送信する時はまだ俺は死んでいない、と思う。
だけど、これから俺はこの世を去らなければならない。そういう選択をしてしまったから。
セシリアを助ける方法があると。俺は篠ノ之博士の誘いを受けた。
細かいことは言えないが。俺は生まれつき心臓が悪かったらしく。それを抑える為に御厨所長がナノマシン治療をしてくれた。
そのナノマシンのお陰で俺はISを動かせるようになった。
なんでそれで動かせたかは詳しく聞かないでくれると助かる。
そしてそのナノマシンを再起動すれば俺は再びISに乗れる。
俺がISに乗り、セシリアとクロッシングアクセスをすればセシリアを助けられ、そして世界中の人も救えると言ったのだ。
だがISを動かせば。俺はほぼ100%死ぬということを告げられた。
怖い、怖いけど。それ以外にセシリアを助ける方法がないらしい。
俺にセシリアを助けないという選択肢はなかった。
どのような代償を払ってでも。俺はセシリアを助けたい。
それが俺の生きる意味だから。
一夏へ。
お前はIS学園に入ってから直ぐに声かけてくれたよな。最初は警戒心無さすぎじゃね? って思ったけど。
それはお前の底無しの明るさと優しさがあったからだろうな。
誰かを守る。言葉にすれば簡単なことをお前は本気でやろうとしている。凄いと思った。
最初は理想論だったけど。それでもお前はそれを成し遂げれるだけの力と心を持っていると思う。
これからも優しいお前であって欲しい。
だけど俺みたいになるな。
誰かを助けることは大事だけど、命を投げ出すことはしないでくれ。それは身勝手なエゴだ。どこまでも自分勝手で救いようのない。誰も幸せになれない馬鹿な自己満足だ。
どの口が言うんだと思うが敢えて言わせてもらう。お前は俺みたいにならないでくれ、一夏。
PS。お前はどこまでも鈍い。女子にモテて好かれるってことを自覚しろ。
もう少し周りに目を向けろよ。
「なんだよそれ………馬鹿野郎」
箒へ。
お前が篠ノ之博士の妹と聞いたとき、実は興奮したんだ。あの有名な篠ノ之博士の妹だって。その後直ぐに地雷だって気づいたから自粛したけど。
福音の時はキツいこと言ったな。
だけどアレからお前は力という物を。ISを持つ意味をわかってくれたと思う。インタビューの時のお前の答え。あれは間違いじゃなかったと感じられて嬉しかったんだ。
お前の凛とした強さには助けられた。
真っ直ぐ過ぎるのはタマに傷だけど、それが箒の美徳でもあるから損なわないで欲しい。
PS。もう少し素直になれよ。
「………余計なお世話だ」
鈴へ
ツインテール低身長勝ち気で凄いテンプレなツンデレやるから、なんか絵に描いたようなツンデレガールがいるなって思ったよ。
お前の竹を割ったようなスッキリした感じ。一緒にいるとクヨクヨするのも馬鹿らしくなるんだ。
恋は理屈じゃないって言葉、本当に響いたよ。おかげで自分の心に気付けたからね。
鈴は誰かの背中を叩く才能があると思う。
PS。お前はそのままで十二分魅力的だ。自信持てよ。
「最初から自信しか、ないっての」
シャルロットへ。
実は最初に見たときに可愛い子だなぁと思うのと同時に男装似合いそうって一瞬、本当に一瞬思ったのよね。ごめんよ。
まさか本当に男装して入学していたとは驚きだった。
あれから詳しく聞いてないけど。家族周りは大丈夫か?
あの時のアドバイスは憶測でしかなかったけど。俺はあれが真実であることを願ってる。
シャルロットは強い子だ。俺は家族に恵まれたから全部はわかってやれないかもしれないが。
応援してる、頑張れよ。
PS………考えたけど特になかった。シャルロットって欠点らしい欠点あんまないから。
「少しは書いてよね、もう………」
ラウラへ。
最初見たときは、なんか他とは違うオーラ纏ってるな、眼帯とか。立ち振舞いが学生のそれじゃなかったから。
ラウラとのバトルはいつも緊張の連続で。プラズマがAICに有効だとしても攻めきれない時があったのよね。
最近移動しながらのAIC上手くなったよな。流石シュヴァルツェア・ハーゼの隊長だ。これからも軍人らしく、それでいて皆に寄り添って欲しい。ラウラならそれが出来ると信じてる。
PS。副官が言ってることは日本のサブカルチャー成分多めだから全部鵜呑みにしない方がいいぞ。
「………肝心なことを書かないか」
会長へ。
最初にあなたと出会ったのはまだイーグルを受領する前でしたね。まさか本当に1ダメージも当てれずに負けるとは思いませんでした。
そのあとも戦いましたが、最後まで勝てなかったですね。本気で悔しかったです。
会長、あなたは何処までも優しい人だ。不器用なとこもあって、とても冷血に生きるのに向いていないように見える。
でもそんな人がいても良いと思います。血も涙もない奴なんかよりよっぽど良い。会長なら優しさを持ちながら立派に勤められるの信じてます。
PS。会長って肝心なとこはヘタレだから手遅れになる前に素直になって下さいね。
「誰がヘタレよ! ………まったく」
菖蒲へ。
まさかあの時の子が代表候補生になって戻ってくるとは思わなかった。ほんとビックリしたよ。着物制服も含めてね。
菖蒲から告白された時、正直言うと。ほんの少し嬉しかったんだ。今まで告白されたことはあっても、心から想っての告白はされたことなかったから。
振った形になってしまったけど、菖蒲の想いは確実に心に刻まれたよ。
大丈夫だと思うけど、身体には気を付けろよ。
簪へ。
出会いから最悪スタートだったね。
難易度ルナティックどころではなかったと思う。どう仲良くしろと? って感じだった。
まさかアイアンガイが糸口になるとは思わなかったけどね。流石は俺たちのヒーロー。
でも、そんな簪も立派にヒーローだな。強い心と、それを行使する正しい力がある。
簪はアイアンガイ顔負けのヒーローだ。自信持てよ。
PS。菖蒲、簪。こんな大馬鹿野郎を好きになってくれてありがとう。
お前たちに好かれるには勿体ない俺だけど。
嬉しかったのは本当だ。その分断るのは辛かった。
だけどそのおかげで前に進めた。
こんなことになったのは、本当に残念に思う。
身勝手だけど。さっさとこんなアホは忘れてもっと好い人見つけてくれ………ほんと身勝手だな書いてみて。
「まったくです。身勝手過ぎます疾風様は!」
「勿体ないなんて、こっちの台詞だよ………」
織斑先生へ。
先ずはお礼を。あなたがモンド・グロッソで見せてくれた零落白夜の煌めき。俺はあの瞬間に惹かれ、ISに乗ることを夢見ました。
それがまさか本当にISを動かせて、あなたの元で学ぶことが出来るとは思いませんでした。
何故あなたがISに乗らなくなったのか。それは分かりません。いつか貴方と手合わせしたい。それが出来ないことが心残りでしたが。
自分には想像できない何かがあるのでしょう。
これからも教鞭を握り、みんなを導いて下さい。
「………………」
御厨所長。
ありがとう。あなたのお陰で今がある。
この出会い、この人生は決して無駄ではない。
あなたに責任はありません。どうか強く生きて欲しい。それが俺の我が儘です。
本当のことを話してくれてありがとう。
あまり多く語れないことをお許しください
だけどこれだけは言わせて欲しい。
あなたの愛情は間違っていない。
あなたに幸あらんことを。
「………疾風くん…」
お父さん、お母さんへ。
こんな文を送ってしまい。本当にごめんなさい。
だけど最初に二人に送りたかった。ごめんなさい。
俺は、本当に。本当に幸せ者でした。
二人の愛情に照らされ、健やかに育ち。我が儘も許してくれた。
こんな贅沢な人生。他の何処にもない。
自慢の息子でいられなくてごめんなさい。
楓には、なんとか上手く言って欲しい。もしイーグルが現存しているなら、楓に譲ってくれ。そして立派なISパイロットに育ててあげて欲しい。
楓のことは大好きだったよ。と伝えてくれ。
そしていつか彼氏を紹介してくれとも伝えて欲しい。
グレイ兄にもお礼を。秘密を守り通してくれてありがとう。グレイ兄は俺の目標の一つだった。
なんでも出来て非の打ち所がない。それでいて優しい兄。厳しい時代だけど。グレイ兄ならきっと立派な社長になれると信じてる。
父さん、母さん。
親不孝な息子でごめんなさい。
何度も書いたけど。俺の人生は満ち足りていた。
ありがとう。父さんと母さんの息子で、本当に幸せでした。
長々と書いてしまった。遺書なんて書いたことないし。俺って昔から文を纏めるの上手くないから。
でも後悔したくないから書いた。
本当はもっと書きたいぐらいだが、生憎時間が許してくれないらしい。
身勝手に逝くことを………許さないで欲しい。
精一杯怒って欲しい。俺はとても身勝手なことをしたから。
もし万が一、億が一生きて戻れたら思いっきりぶん殴ってくれ。
あと………俺の居場所が分かっても来ないでくれ。
死に際を見せたくないからさ。
最後に。俺の願いを聞いて欲しい。
セシリアを頼む。
あいつは自分のやったことに苦しんでる。
フランチェスカと近い人物だから、世間からバッシングを受ける可能性は高い。
守ってやって欲しい。側にいれない俺の変わりに。
支えてやって欲しい。お前は決して悪くないと。
難しいかもしれない。本当は俺がすべき事だ。
死にたくない。本当に死にたくないけど。
それ以上に、セシリアがあんな女のせいでめちゃくちゃにされるのが我慢ならない。
セシリアに伝えて欲しい。
お前をどこまでも愛してると。
いつか、俺の変わりに夢を叶えて欲しい。
疾風・レーデルハイトより。
「あ、ああぁぁぁぁぁーーー!!」
泣き崩れるアリア。
自分も崩れそうになりながらもアリアを支える麻美。
そして涙を必死に抑え込もうとする一夏たち。
千冬でさえ唇を噛んで耐えている。
いったいどんな気持ちで書いたのだろう。
これから死にに行く覚悟なんて。齢16の少年が決意できるものじゃない。
これがフィクションであれと考えたくなる。だがこの遺書がそれを許してくれない。
そして自分たちに何も出来ない歯痒さが残った。
最後に何か出来ないのかと。何を出来ると言うのかと。
悲嘆にくれたその時。白式の腕輪が熱を持った。
何かと思って意識を向けるとホロウィンドウが立ち上がる。
「え? ………スカイブルー・イーグル!?」
「なんだって!?」
「スカイブルー・イーグルが、疾風の位置だ! 場所は太平洋………銀の福音と戦った場所だ!!」
白式のウィンドウに写し出された赤い光点。そこには確かに『Skyblue Eagle』と写し出されていた。
他のISには反応はなかったのに白式にだけ写されている。いったい何故? と考えたのは一瞬だった。
「おい何処に行く織斑!」
「決まってる! 疾風の所に行くんだ!」
「馬鹿者! 今のお前たちに出来ることは何もない! それに男性IS操縦者がのこのこ学園外に出ることが何を意味するか分からないのか!」
「だけど!」
「レーデルハイトの最後の言葉を無駄にするのか!!」
千冬の一喝で場がシンと静まり返る。
目元を軽く拭い、千冬は自分を落ち着かせたあと話し出す。
「死に際を見せたくないと、レーデルハイトは言った。お前たちに傷を残したくないから。だからレーデルハイトは遺書を送ったんだぞ。それも分からないのか」
「わかってるよ。でも、こんなの納得できないだろ。勝手にこんなこと言われて勝手にいなくなって! 納得できる訳ないだろ!!」
「一夏!!」
千冬の静止も聞かず一夏は駆け出した。
それに触発され、思いの丈が弾けた少女が二人。
「私は見届けます。たとえ疾風様が拒もうとも!!」
「セシリアを頼むと言われた。だからセシリアを助けに行くなら問題ない!」
「簪ちゃん! 菖蒲ちゃん!」
「私もです。こんなので納得できるか!」
「当然! 納得できないのはアタシも同じよ!」
「僕だって同じだ! それに一夏だけを行かせるわけにいかない!」
「おいお前たち!」
楯無とラウラの静止を聞かず五人は一夏の後を追った。
残った専用機持ちは楯無とラウラだけとなった。
「………教官、いえ織斑先生。いま専用機持ちが全員抜け出せば、学園の防衛に穴が空きます………ですが、私も一夏と同じ気持ちです」
「………ボーデヴィッヒ。織斑たちの補佐を頼む。可能であればオルコットの奪還も視野に入れろ」
「了解しました」
「更識は残ってもらう。だがいざとなれば出てもらう」
「わかりました。高機動パッケージの準備を致します」
………残されたのは大人だけとなった。
だというのに動くことが出来ない。
ただただ大人としての責任、そして悲しみを振りきることが出来なかったのだ。
ーーー◇ーーー
遺書。送るべきじゃなかったかな。
甲板に出る直前に送信した遺書を思い出して早速後悔している。
人知れず行方不明になった方がまだ救いが、でも必要以上の希望を持たせたくも。いや、言い訳だな。
心の何処かで傷をつけたかったのだろうか。
何も残せず居なくなるのが嫌だったのか。
いやいや。セシリアのことを伝えるのは最重要だっただろう。
………身体が痛い。
操縦者保護があまり効いてないからか、それともこれで効いているのか。ISを動かした前と比べると本当に、本当に少ししか痛みが引いてない。
「死に損ないがわたくしの前に出ますか!」
「おうよ! お前を助けるまで死んでも這い出るぐらいの覚悟だこっちは!!」
痛みを誤魔化すように叫び続ける。
というか叫ばないと痛みで口が開かないんだ。
篠ノ之博士の策が効いてるのか今のところ
だが俺とゴーレムⅢが4機いるというのにセシリアは決して臆せず、全員を見事に相手している。
包囲してからの不意打ちも完璧に見破られており。
BT能力の向上で空間把握能力が冴えてるというのはこの短時間でわかった。
といってもまともに攻撃してるのはゴーレムぐらいだ。
俺はイーグルを動かしているものの、反応が鈍くて仕方ない。
しかも痛みが酷くて、とてもマニュアルで動かせないからセミオートで動かしている。
PICが機能してるはずなのにまるでISの重量がそのまま乗っかってるぐらいに反応が重くて苦しい。
IS適正値を見ると、なんと驚異のF。
こんな表示見たことない。どうりで反応が鈍いわけだ。
時間が立つほどに元々酷い性能が更に低下してるのに対し、セシリアのビットの冴えは更に上振れを起こしていた。
『疾風くん。悪いニュースが2つ、もっと悪いニュースが1つあるけどどれから聞きたい?』
「悪い方で!」
『セシリアちゃんのプログラム修復率が早まっている。完全覚醒してるファクター・コードの力が働いているみたいだ。じきに
「もう一つは」
『いっくん達がIS学園からこっちに向かってるよ。おかしいね。ここら一帯はジャミングしてて外部に漏れない筈なのに。現在更識楯無以外のISが真っ直ぐ来てる』
あいつらが来たのか!?
来るなって言ったのに! って言っても聞くわけないかあんなこと。
フー。思考を切り替えろ。
頭数が増えればセシリアを取り戻したあとの救出率が上がる。
篠ノ之博士に丸投げするつもりだったが。セシリアが正気に戻った時の説得要員が増えたと思おう。
………はぁ、本当になんで来るんだよ。
面と向かって別れなんて言いたくねえよ。
『もっと悪いほうだけど。予定より早く君のファクター・ナノマシンが弱まっている。死に体を再起動したから予測はしてたが。ISとのリンクが切れるにつれて満足に動かせなくなる』
「タイムアウトまであと何分ですか」
『もって3分といったところかな』
3分。カップラーメン出来たとしても食えない時間じゃないか。
あー。痛みで変なこと考えてきた。そろそろヤバイな俺。最初からヤバイけどさ。
ズキズキなんて生ぬるい痛みを感じながらも余計なお世話なカウントダウン表示を睨み付ける。
「了解です」
『オーバードライブは封印してるからね。やったら君の身体が粉々になる』
「わかってますよ」
『あと一つ』
「なんです」
『いっくんたちは3分でこっちには来れないよ』
「………ハハッ」
そいつは朗報だ。
「理解できませんわ! 何故そんな死に体になってまで動けるのです!? 折角拾った命を捨てる行為を!」
「なんだい心配してくれるのかい? 優しいねぇセシリアは」
「馴れ馴れしく口にしないで下さいまし!」
「嫌だね! 最後ぐらい声の限り叫ばせろ!」
ブーストを吹かしてブライトネスを突き出し、躱されれば方向転換してもう一度突き刺し。その間ゴーレムⅢが熱戦やブレードで攻撃する。
敵の射撃は全てプラズマ・フィールドと。全部防御に回してるビークビットで防ぐ。
あとはもう真っ直ぐ一直線突撃!
「まるで猪武者。品性の欠片もない!」
「いっ、うぅっ」
全くもってその通り。
テクニックも何もない機体スピードに物を言わせた一本槍。
まともに多角機動出来る反応速度なんか、今の俺には持ってない。
俺は最後の瞬間まで囮役。それまでは攻撃はゴーレムⅢに任せる。
何より、こいつの突破力は折り紙付きだ。
「嘗めた真似を。そんな動きでわたくしと張り合おうなど!!」
『疾風くん、
「来るか!」
「消えなさい!」
24基に増えた大小のビット、得物のスターライト・ブレイザーから一斉射撃。
高速直線レーザーの中に本当に反則レベルな軌道を描く歪曲射撃。しかもそれはミサイルみたいに単一な動きではなく明らかにこちらを絡めとる動きをしている。
しかもそれを連射して放ってくる始末。
「ご、ゴーレムⅢ防御!」
《オーダー受諾》
4機のゴーレムⅢが俺に追従し、肩部シールドユニットと、ジャミング装置の変わりに取り付けられたエネルギーシールド発生装置でレーザーを受け流していく。
だが本来のセシリアから更に上がったBT能力、
これは駄目だ!
一先ず海に飛び込みレーザーを散らす。いくら追ってくると言っても、減衰する水の中なら一先ず大丈夫と、浅知恵を絞り出したが。
『直上、チャージレーザー来るよ!』
「くぅぅぅ」
今のセシリアにそれは通じなかった。
海を突き刺すように複数の極太レーザーが海水を蒸発させながら海中に突き刺さった。
スターライト・ブレイザーの単体射撃。そしてビットを複数合わせてフィールドを作り、そこにレーザーを当てて収束光線を放っていた。
ただでさえ動きが鈍ってるのに、しかもこのままじゃセシリアに攻撃を当てられねえ。
完璧な悪手。時間もないなかとどまり続ける訳には行かず浮上した俺に待ってたのは又もレーザーの弾雨だった。
「ゴーレム、ブレイク。瞬時加速準備、発動!」
ゴーレムⅢ全機が
瞬時加速のGが軋んだ身体に追い討ちをかける。
いつもならこの程度の加速どうってことないのに。明らかにイーグルの機能がダウンしてる。
それでも行くしかない。本当に時間がないんだ!
もう既に1分たったカウントダウンに胸が冷える感覚を覚えながらインパルスを突き出す。
セシリアの射撃の全てはゴーレムⅢの迎撃に使われた。今なら攻撃が届く。
前回はブレイザーで受けられた。フェイントをかけて!
だがこちらの予想とは裏腹にセシリアはブレイザーをリコールした。
ガギン!
「くぅあっ」
取り出されたのはレイピア状の蒼い剣。
BTコーティングされた実体剣の部分でインパルスの柄部分をいなし、滑るような動作で俺の脇腹を薙いだ。
「向かってくるならいなすまで。嘗められた物ですね、そのような力任せが通じる相手だとでも?」
ゴーレムⅢに撃っていた射撃、外れたレーザーが弧を描いてイーグルに突き刺さった。
「いっ、熱っ!!」
絶対防御の性能も低下しているのか。シールド越しの熱が肌の表面を焼いた。
激痛の中加えられた新鮮な痛みに頭が真っ白になる。駄目だ、止まるな! 思考を止め──
『疾風くん、前!』
「っ!」
目の前には大口を開けたスターライト・ブレイザー。チャージが完了し。極太のレーザーが。
ゴーレムⅢは間に合わない。ビーク全機とプラズマ・フィールドを前面に最大展開して防御。
レーザーとプラズマがぶつかり合い目の前の光が明滅する。
ゴーレムⅢが横合いから俺を突き飛ばした。身代わりとなったゴーレムⅢとビークビットは無数のレーザーを一身に受けて蜂の巣にされ爆散した。
《プラズマエネルギー出力低下。フィールド維持困難》
「ぐぅ、身体が…重い……」
『不味い、ISのリンクが本格的に切れ始めた。痛覚緩和の機能も低下してる。リミット残り1分だけど何時切れてもおかしくない! やばっ! エクスカリバー反応あり!! 予想範囲を出す! 逃げて疾風くん!!』
「りょー、かい!」
レーダーに移る予測発射地点。
スラスターを吹かせばまだ全然間に合う。
そうアクセルを踏もうとした時だった。
「っ!? ゴぇッ」
痛みと共に口から大量の血が吐き出された。
口を切ったとかそういう次元ではない、思わず受け止めた手が真っ赤に染まる程の量だった。
《操縦者保護機能低下。パイロットバイタル危険域》
一際鋭い痛みが身体を貫く。
身体から剣が突き破ってくるみたいだ!
空が青白く光る。だが痛みで指一つ動かすこともままならない。
『疾風くん動いて! 砲撃が来る!』
「駄目、痛くて動けない………」
「これで終わりですわ。討たれなさい、聖剣の輝きの前に!」
天空から極光の剣が振り下ろされた。
もはやこれまでかと思った時、残ったゴーレムⅢ3機が最大出力でエネルギーシールドを張り、エクスカリバーの砲撃を受け止めた。
『急いで疾風くん! 直ぐに持たなくなる!』
「うっ、グゥぅぅ、あぁぁ!!」
意識を前にし、ただひたすらに進む。
死に体だったスラスターに光が灯り、光の洗礼から逃れようと空中を駆ける。
「くっ、うあぁ、っだぁぁっ!!」
ゴーレムⅢが防いだことで拡散したレーザーの一部がイーグルに降り注ぐ。
プラズマ・フィールドは張れない。シールド、絶対防御で受けながら辛くもその場を離脱する。
シールドを突き抜けて足、右腕、ウィングの一部が破壊され、空色のアーマーが宙にばらまかれた。
ゴーレムⅢ3機が崩壊し、遮るものがなくなった光が俺の背後に落ちた。衝撃と風に煽られスカイブルー・イーグルは乱気流に放り込まれたように吹き飛ばされた。
あ、上がれ!!
海を目の前に間一髪上体を起こして上昇。なんとか海に叩きつけられる事態は回避された。
一命を取り留めた、とは言えず。死が先延ばしにされ。リミットはもう目の前だった。
『アッハッハッハ! 無様ね疾風・レーデルハイト! ドブネズミみたいに這いずり回って、せっかくISを着たのに結局なにも出来ずにボロ雑巾! そうよ、その姿が見たかった!!』
ハイテンションなフランチェスカの声が嫌にクリアに鼓膜を叩いていた。
スカイブルー・イーグルの美しくもシャープな空色の装甲の至るところが焦げ付いている。
左足と右腕の装甲は欠落し元の手足が覗いており、ウィングの一部も内部パーツが露出している。スパークがしきりに弾け、まともに浮いてることすら不思議なぐらい、何時爆発しても可笑しくないと見て取れる見窄らしい姿だった。
『動いて疾風くん! 時間がない! 疾風くん!』
残り時間23秒。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
息をするのも苦しい。
死の覚悟なんてものを付け焼き刃に動いて結局この様か。
なんて惨めだろうな。こんな姿を最後に見せることになろうとは。
残り17秒。
このまま眠れれば楽になれるかなんて考えてしまう。
痛みが遠くなっていく………
遠くで篠ノ之博士が何か言ってる気がしたが………
残り14秒。
………………………
残り10秒。
『疾風くん!』
今度は聞こえた
聞いたことのない篠ノ之博士の声。
そんな必死な声出せたんですね。
家族でも幼馴染みでもない俺に………
残り5秒。
………………………………
何かが光った。
視界のすみ。破壊されたイーグルの右腕。
その先にある、俺の右腕。
の、手首に何かがある。
残り3秒。
「………っ」
ヘアゴム。あの時雑貨店で買った………
男がつけるには可愛らしいデザインの………
残り1秒。
『もしわたくしの身に何か起きたら。何処にいても助けに来てくださいね?』
『約束ですわよ』
「っ!!!!!」
瞳に空色が灯った。
スカイブルー・イーグルのエネルギーが回り、各機能が回復する。
『え、ファクター・ナノマシンが再活性!? 今まで見たことない数値! タイムリミットは越えた筈なのに!』
カウントダウンは既にゼロになっている。
「うっ、ゴペッ!」
血液が塊となって吐き出される。
目から血涙が流れ。更なる激痛が身体を揺さぶり起こした。
「ま、だ………まだだぁぁーーっ!!」
《エネルギー回路全接続。エネルギー供給量MAX。プラズマサーキット臨界点。PICコントロールフルオート。各部装甲スリット展開。余剰エネルギー放出》
「付き合え! スカイブルー・イーグル! 最後の最後までぇぇ!!」
《All Right。オーバードライブ、フルバースト》
残った装甲のあちこちから余剰プラズマが吹き上がる。
身体をスキンバリアが覆い、演算サーキットが回り始める。
『オーバードライブが発動した!? ファクター・コードで強引に、ううん。イーグル自身がプロテクトを解除した?』
オーバードライブで
音を置き去りにスカイブルー・イーグルが飛翔する。
「まだ動けますの!?」
『所詮虫ケラの悪あがき。叩き潰しなさい!』
「はい!」
ドミネイト・ブルー・ティアーズの全兵装アクティブ。
24のBTビット、スターライト・ブレイザー。そして背部マイクロBTミサイルコンテナがオープン。
痛みは依然として身体を駆け巡る。
だが痛みなどで止まれない。
止まってる時間なんてないんだから!
開かれた火線が殺到する。
遮二無二に全スラスターを吹き上げ、俺の身体は彼方にぶっ飛んだ!
「行けよオラァァァ!」
血を吐きながらセシリアの元へ。
吹き出したプラズマが空気を焼き、集中砲火のど真ん中。
当たる直前に急転換、追いかけてくる
「ボルトフレア!」
手持ち式レールガン。狙いはイーグルがつけてくれる。
立て続けに5連射。1発で2発3発のミサイルを巻き込み。カートリッジ再装填、セシリアに向けて撃ち放つ。
「当たらないと、ぐっ!」
完璧に避けたと思った弾丸の一つがシールドを掠った。
「なんですの!? 今までと狙いの精度が!」
「インパルス、ブライトネス!」
両手に二槍を手に再びレーザーとミサイルに向かっていく。
バーストモードで増大したインパルスのプラズマブレードを振るい、巨大なプラズマネットで勢いを殺し。ブライトネスで纏めて貫き通した。
「まだですわ!」
雨霰のように降り注ぐレーザー。
「ゴホッ、ゴホッ。まだ、まだだよ。持ってくれ、持ってくれよ俺の身体! イーグル、使え、使い尽くせ! 俺の身体を!」
レーザーを切り払い、ミサイルを身体に受け。セシリアが待つその先へ。
身体の至るところから血が吹き出す。
負荷に耐えられない身体が崩壊していく。
秒単位で消える命を感じながらただただ飛び続けた。
「持てる命全部! この命燃やし尽くして進め! セシリアの元へ俺を飛ばせ! スカイブルー・イーグル!!」
俺の叫びに応えるように機体を唸らせるイーグル。
更なる加速が身体を切り刻んでいく。
レーザーを振り切り、空気を鳴らして更に向こうへ。
「セシリア。馬鹿みたいだろ。お前の望んだことじゃない。きっと、泣きじゃくってるだろ、もう止めてくれって叫んでるだろうな………」
ブレイザーのレーザーが左肩を吹き飛ばし、衝撃でブライトネスが手から離れた。
「ぐぅぅ! だけど、やっぱり俺は見捨てられない。お前を助けなきゃ。だってそうだろ。お前のいない世界なんて、生きてたって仕方ねえんだ! お前なしに生きていく未来に、意味なんてないんだよ!!」
骨が軋む、ヒビが入り、もう既に何本も折れている。
禁止されたオーバードライブを負荷全力でぶん回しているんだ。是非もない。
「来ないで! 近づかないで!」
『落とせ! 落としなさいセシリア! エクスカリバーはまだなの!!』
ブラスターから拡散レーザーが放たれる。
ビットからのフレキシブルと、レーザーシャワーが視界いっぱいを光一色に染める。
どう見たって回避不能だ。迂回したところで命中は必定確実。
「馬鹿な! 正面で!?」
なら避けなきゃ良いだろ!!
もはやオーバードライブの余剰出力が上乗せされたプラズマとレーザーが交ざり弾け飛ぶ。
稲妻と光の余波が容赦なく肌を焼き、衝撃で眼鏡が吹き飛んで落ちた。
あーもう、お気に入りだったのになぁ。
一瞬ぼやける視界をIS側が修正し視界が戻る。
レーザーの嵐を抜け、目と鼻の先にドミネイト・ブルー・ティアーズ。
武器は全部なくなった。余剰出力で突き出ていたプラズマソードも焼失している。
それでも被弾とか怪我とかもう関係なしにただひたすらセシリアの元に飛んでいく。
痛みがほとんどない。麻痺してる感じがする。神経もぶちギレてるのかな。手足ついてるのかどうかさえ定かじゃない。
多分ISを脱いだらショック死するほど血を流してる。身体が冷えに冷えて今にも倒れそうだ。
「何故です! 何故そんな身体になってまで! 優雅じゃない! 無様そのもの! 止まりなさい! 止まりなさいと言ってるのです! 何故そんな血みどろの身体で止まらないんですの!!?」
「決まってるだろ! 惚れた女救うのに、理由なんかいるかっ!!」
もう少し、もう少しもう少しもう少し!!
《シールドエネルギー、0%。エネルギー、残りわずか》
ついに絶対防御すら張れなくなった。
装甲もほとんどちぎれ飛び、イーグル・アイも半分割れていて。残ったのは返り血で濡れたボロボロのカスタム・ウィングのみ。
残ったプラズマを全て防御に回す。
もう目と鼻の先だ。届け! 届け!!
「来ないで! イレギュラー!!」
セシリアの悲鳴と共に放たれた
《プラズマエネルギー0%》
ビットの包囲網を抜けた!
だがセシリアは正確無比にスターライト・ブレイザーを向け、撃つ。
高速レーザーが飛来する。当たれば身体が弾ける高出力のそれを最後の力を振り絞って………避ける!!
通った!!
もう数メートル。
触れ! 触れろ!
あと少しで──!
ザシュッ────
「……………かぁ………」
じんわりと、胸の当たりをぬるい熱が広がる。
最後の射撃を避け、ついにたどり着いたと思った俺を嘲笑うかのように。
セシリアが突き出したレイピアが俺の身体を貫いた。
『は、ハハ、ハハハハ! 良くやったわセシリア! ついに、ついに疾風・レーデルハイトを仕留めたのよ! 流石は私のセシリアだわ!!』
「はい、叔母様」
有頂天のフランチェスカと淡々と応えるセシリア。
突き立てられた凶刃からはドクドクと血が滲み、元から血塗れの身体を更に赤く染め上げる。
疾風は動かない。
セシリアはトドメを刺せたことに安堵した。
死に体で向かってくる。まるでパニックホラーのゾンビのような男だった。
だがこれにて終い。
確実に仕留めたとレイピアを抜き取ろうとした。
「まだ、だよ」
「えっ!?」
ガシッ! とレイピアを持つ手を掴んだのは、もう動く筈のないイレギュラー。
ISなんて形でしか纏っていない、男の手だった。
「こ、こいつ。まだ!?」
「やっと、やっと掴めた………ぜってぇ離さねえからなぁ………」
声を張り上げず、掠れに掠れた酷い声。
だが俺の意思に応えるように、ファクター・コードの証は俺の目に強く現れていた。
「な、なんで………」
「俺は、止まら、ないよ。お前を救うまで、ね………」
『き、気持ち悪い! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!! 何処まで生き汚いの! 穢らわしい! そんな血に濡れた手で私のセシリアに触れないで!』
「お前のじゃ、ねえ………セシリアは何処までも、セシリア自身の物だ」
贅沢を言うなら、俺の物って言いたいけどね。
それは取り返してからだ。
突き刺さったレイピアを抜こうとセシリアは力を込める。だが石に突き立てたみたいに離れない。
ISのパワーアシストも充分にない俺を。ダメージ一つ負ってないセシリアが引き剥がせないでいた。
「は、離れない。どうして、もう力なんて」
「つれないなぁ、どう、せなら、もっと近づけ、よ」
レイピアを刺したまま前に進む。
痛みなんて、もうない。
目と鼻の先に、セシリアの顔が。
ああ、やっぱ綺麗だなぁ。
ほんの少し申し訳なさを感じながら、俺は掴んでない反対の腕を上げる。
恐怖に怯えるセシリアの顔を、優しく。そっと触れた………あー、ごめん。血で汚しちゃったな………
「お待たせしました………博士」
『待ってたよ疾風くん! ISコアとの同調開始! クロッシングアクセス、ルート確立!ダイレクトリンク可能!』
「──エンゲージ!」
意識が、加速する。
潜り込むように俺の意識がコアネットワークを介してセシリアのドミネイト・ブルー・ティアーズに進んでいく。
夜の闇と流星のようなデータの奔流に逆らうように、前へ、前へ、前へ!
ザーーーーーー………
データの奔流を抜け出した先は。土砂降りの雨だった。
足元にはしおれた青い薔薇が浮かび、崩れている。
空は夜のように暗い曇天で、絶えず雨が振る。
色もなにもない、暗くて重い世界。
「ここが、ブルー・ティアーズの………」
「疾風?」
「っ!」
振り向くと………そこに居た。
雨に濡れつつ。それでも輝きを失わない金糸の髪と、蒼の瞳。
制服姿のセシリアが。太いイバラの檻の中に居た。
「っ! ………っ………」
声がでない。感激に声がでない。
紛れもなく、俺の知るセシリア・オルコット。
世界で一番大切な、俺の幼馴染みがそこにいた。
「疾風、疾風!」
「セシリア!」
「疾風! あなた、なんてことをしたの!」
「………まったくだな、本当に………ぐっ!」
身体がよろける、それと同時に。俺の身体が粒子の光によって崩れ出した。
「疾風!!」
「ごめん、話したいことは山程あるけど。時間がないみたい………」
歩を進め、イバラの檻に囚われているセシリアの元へ進んでいく。
確かな足取りで、一歩ずつ、身体が消えながらも一歩ずつ進んでいく。
不思議と怖くなかった。
そんなことより、セシリアの側に行きたかった。
「疾風! いつっ!」
セシリアが檻越しにこちらに伸ばそうとするが、イバラの檻がそれを許さなかった。
何処までもうっとおしいババアだ。だがそれももう終わる。
イバラの檻に触れる。
触れた手を通って篠ノ之博士がセシリアにかけられた呪いを解きほぐしていく。
「ごめんなさい、ごめんなさい疾風! わたくしのせいで、こんな………!」
「セシリア。お前はなーんも悪くないよ。だからそんな顔しないで?」
「ぐすっ、そんなの、無理ですわよ!」
泣いていた。ボロボロと大粒の涙を流してセシリアは泣いていた。
まるでセシリアのお母さんとお父さんの葬式の時みたいに。
あれ、駄目だな。俺も泣けてきたじゃん………
本当にあの時みたいだな………
「ごめんなセシリア。本当に俺は大馬鹿だ。だけど、お前だけは助けてみせるよ………」
「駄目………駄目………」
「一緒に夢を追いかけられなくてごめん。幸せに出来なくてごめん。こんな不甲斐ない男で、ごめんな」
「駄目、行かないで………」
解凍プログラムが、イバラの檻を。
セシリアを操っていたBTナノマシンを焼き払っていく。
雨がだんだん止み初め、雲の隙間から光が差し込んでいく。
「セシリア」
「………はい」
「俺、幸せだったよ。本当に幸せだった」
「っ! 疾風!!」
世界が、割れた………
「っ!!」
目を開く。
ISのコアネットから帰ってきた俺が見たのは変わらずセシリアの顔。
「疾風ぇ!!」
「疾風様っ!!」
「疾風!!」
あー、来ちまったか。
最悪、これじゃセシリアが俺を殺してるみたいじゃん。篠ノ之博士、上手くフォロー入れてくれると良いんだけど
一言声をかけてやりたいが………もう駄目だな。
「は、疾風………」
「………あぁ」
その声を聞いて、安心した。
涙が止まらないセシリアを見て安心した。
取り戻せた。あの女からセシリア、取り戻せたんだ。
気張っていた力が抜けていく。
全てが溢れ落ちるように、俺を構成する何かが消えていく。
《ISとのリンク、切断、スカイブルー・イーグル、機能停止》
相棒も最後まで、本当に最後まで頑張ってくれた。
流石俺のインフィニット・ストラトスだ………
どうやらここまでみたい………せめてこれだけは。
「………………セシリア」
「っ!!」
「………愛してる」
レイピアが身体から抜けた。
セシリアを握っていた手が離れ、俺は重力に従って落ちていく。
遠くでみんなの叫びが聞こえる………
ああだから来るなって言ったのに。
音を立てて海に落ちる。
そのまま沈む身体と冷える体温。
何も感じない。
何も聞こえない。
指先も何もかも動かなくて。
かろうじて眼だけが見える。
最後に写ったのは、右手にあるセシリアから貰ったヘアゴムだった。
何も感じないはずだったのに、溢れた涙が熱かった。
もっとセシリアと居たかった。
共に想いを語り合いたかった。
ISに乗って、2人で国家代表になって………
ああ………
………まだ生きて、いたかったなぁ………
「………………レーデルハイト君の生命反応が、消失しました………」
IS学園の管制室で真耶の声が通った。
千冬は呆然とモニターを見続けた。
アリアは泣き叫び。
剣司は唇が切れるほど噛み締め。
麻美は崩れ落ちた。
そこにあるのはたった一つ、覆しようのない真実だった。
疾風・レーデルハイトが───死んだ。