IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 今回も欲望のままに書きました。
 やり過ぎたかもしれんが書いてて楽しかったです。

 一発逆転の大立ち回り。とくとご覧あれ!!




第135話【疾風迅雷(ヴァリアンサー)

 

 

 

 力が際限なく沸いてくる。

 イーグルの脈動が伝わり、ISと完全に一体化してるかのような充足感が溢れてくる。

 

 ファクター・コードが完全覚醒した今。俺の感覚とイーグルのハイパーセンサーは一体化している。

 まるで元から人体の一部としてあったかのように周りのデータや流れが手に取るように理解できる。

 

 視線を動かすと、生まれ変わって最高にカッコよくなった愛機、スカイブルー・イーグル・ヴァリアンサーのフォルムが見て取れる。

 搭乗者視点でこれだけ惚れ惚れするなら全容を見たときどうなるのか。

 

 だが今はあと。一刻も速くセシリアを助け出す。

 

 それだけを胸に意気揚々とスラスターから光を放とうと──

 

「疾風さまぁっ!!」

「アダァ!!」

 

 悲報。

 第二次形態移行(セカンド・シフト)したイーグルの最初のダメージ。

 背後からのハグ。

 

 相変わらず俺は間が悪いというか格好がつかない。

 

「疾風様生きてますね!? 夢幻じゃないですよね!? 足はついてますか!? お腹は!? 傷は大丈夫なのですか!?」

「あ、菖蒲さんや。一旦落ち着いて」

「落ち着ける訳ないじゃないですかぁ! ウワァァァァン!!」

 

 端正な顔をグシャグシャにしてしまう菖蒲。あーあ鼻水まで出ちゃってこの子は。

 

 血みどろかつ骨も折れまくっていた俺の身体は第二次形態移行(セカンド・シフト)時に再生修復され。ISスーツも篠ノ之博士から与えられたスーツを元に再構成されているため、傍目から見れば先程の怪我がなかったかのように見える。

 だか菖蒲にとってはそんなの知らないし関係なく、泣きながら身体をペタペタと確かめまくってるというカオスな状況となったのだ。

 

 それどころじゃないと思いつつもいま襲いかかって来てる案件も片付けなければならないと、ファクター・コードで冴えまくっている頭で演算しようとした。

 

「菖蒲、一旦離れよ?」

「は、はい」

「疾風」

「はい」

「こんなこと、もうやめてね。死んで生き返るなんて、フィクションで充分」

「………うん」

 

 IS越しに抱き付いてきた菖蒲を優しく剥がす簪の目にも涙が浮かんでいる。潤んだ目には安堵と少しの怒りが混じっていた

 無理もないし、その原因が自分自身にあるのだから何も言えない。

 

「ごめんなさい疾風様。でも、本当に嬉しくてっ」

「本当にごめん。色々話したいけど今は、おっと」

 

 眼前に迫るレーザーを腕部プラズマサーベルで切り払う。

 感動の再開に横槍を入れたのは勿論あの女だ。

 

「ハハハ! オイオイなんで生き返ったんだ? 死んだよなお前? まあいいや! 生きてんなら殺すだけだ! むしろ私が殺さなきゃなぁ!!」

「下がってて」

 

 ライフルを撃ちながら瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接近するメイブリックから庇うように一歩前に出る。

 狂気にまみれた顔面に対し俺は表情一つ動かさず、奴をぶちのめす為に武器の名を呼ぶ。

 

「ロンゴミニアド」

 

 音声コールと共に出たのはブライトネスを一回り大きくしたようなランス状の武器、【ロンゴミニアド】。

 螺旋のモールドが彫られた白地の槍に水色と金色のラインが1本ずつ織り込まれた優美なデザイン。その紋様を起点にプラズマが渦を巻いている。

 

「てめぇの首を切り落としてぇ! アリア・レーデルハイトの足元に転がしてやるよぉ!!」

 

 意気揚々に抜いたレーザーサーベルを寸分違わず俺の首に向かって振り抜くが………ソレは空しく空を切った。

 

「なっ、何処に!」

「ここだよ」

「!?」

 

 消えた俺を見てメイブリックが眼を見開く。

 ブルー・ブラッド・ナノマシンで強化された動体視力を持ってしても躱されたと知覚出来なかった。

 

「13発」

《セット》

「バースト!」

 

 ロンゴミニアドの切っ先が触れた瞬間。一瞬に凝縮された13回分のプラズマパイルががらあきの背中を打突し、メイブリックを吹き飛ばした。

 

「ガッ、ポッ! ベッ! ブボラバボボボ!!」

 

 海に衝突したメイブリックはまるで水切りのように海面を跳ね回った後に派手な水飛沫を上げた。

 

「予想以上に吹き飛んだ。凄いなこれ」

 

 ブライトネスを元にした新武装。かのアーサー王が持っていた聖槍と同じ名を持つそれは大仰な名称に違わぬポテンシャルを発揮した。

 

《17回叩いたぞ》

「13回じゃなくて?」

《いや水面を》

「やばっ」

 

 ブライトネスを元に再構成された新武装に感心しながらイーグルが片手間に分析した水切り記録に軽く引く。

 

「ちょっと。今の動きなに? 辛うじて目で追えたけど」

「8つのスラスターを個別点火したようだな。だがあの速さと正確さは今までのイーグルとは段違いだ」

 

 ラウラの言う通り、進化したイーグルの8基のカスタム・ウィングを個別に点火し。文字通り消えたと思える程の速さでメイブリックの上を取りつつ攻撃ポジションを整えていた。

 追記すると、強化されたハイパーセンサーによる演算で相手の死角を割り出し。最適なコースで視界から消えたと見せかけることが出来た

 

 そしてしれっとイーグルと会話しているが。

 これは新たなイーグルに付随する形で追加されたサポートAI………という体でISコア人格が表に出てきてサポートAIとして居座ってるというトンデモない感じになっている。

 

 俺のISハンパないと思っていたら、イーグルが独自で篠ノ之博士にコンタクトを取っていた。

 

《母よ。セシリア嬢に介入するプログラムは俺が構築する。他の雑事を任せても良いだろうか》

『え、あんた誰? イーグルから聞こえてるけど、てか母って。まさか』

《今は聞かないでくれるとありがたい。だが俺は奴とは違う。安心してくれ》

『………わかった。信用する』

《助かる》

 

 話はついたようだが奴とはいったい。いや今はどうでも良いか。

 

「さて………」

 

 改めてみるとふざけたような戦力差。

 一夏たちが戦線復帰するにも時間がかかる。

 

 諸々を無視し、単機突撃してセシリアをかっさらうことは今のイーグルなら可能ではある。が。

 

《マスター。セシリア嬢に介入するプログラムの構成に5分かかる。その間に露払いをして欲しい》

「わかった」

 

 このように直ぐに行けない状況だ。

 対策がないまま下手に接触すればフランチェスカが何かをする可能性も捨てきれない。

 

「う、ぅぅ………」

「セシリア」

 

 VTシステムなんて醜い代物に捕らわれるセシリア。一刻も早く救いだしたい。

 無い物ねだりと言えばそれまでだが………

 そんな俺をよそに、イーグルがほくそ笑んだ。

 

《フフッ。マスターの恋人は凄いな》

「え?」

《マスターが復活してからセシリア嬢のバイタルが少しだけ安定した》

 

 ………あいつは。

 

 また目頭が熱くなる。

 本当に、本当に俺の恋人は大した女だ。

 

「みんな、俺がいない間ありがとう。一旦下がって休んでてくれ。あとは俺がやる」

「俺がやるって。この数を一人でやるつもりか!?」

「いくら第二次形態移行(セカンド・シフト)したとはいえ無茶だ!」

 

 目の前にはISが15機、さっきメイブリックを落としたから14機。そしてワルキューレが補填されたのを含めて50機強。

 

 以前一夏が第二次形態移行(セカンド・シフト)した時に対峙した銀の福音のスペックを加味しても非現実的の一言。

 一夏と箒の言う通り単騎で行くなど馬鹿げている。

 

「大丈夫だよ一夏、箒。今の俺とイーグルならあんな奴らに負けやしない。今ならなんだって出来る気がするんだ」

「疾風、お前その目は」

 

 いつもの黒目とは違う空色に光る瞳。

 ラウラの越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)と似ているようで、そして決定的に違う力。

 

「本当に大丈夫なのね、疾風くん」

「大丈夫です、会長も休んで下さい。ミストルテインの槍を負荷全開で撃って右腕の回路が不調でしょ?」

(え、なんでわかったのかしら)

 

 俺の言葉に会長は少なからず驚いていた。

 何故ならミステリアス・レイディの右腕は言った通りミストルテインの槍の負荷がかかって思うように動かせないでいたのだ。

 

 それをいまの一瞬で理解した、いや理解できるポテンシャルが今の彼にある。

 だから楯無は任せることにした。自分がヘッドハンティングした頼れる生徒会副会長に。

 

「わかったわ。無茶しないでよ、絶対に!」

「はい!」

 

 もう絶対に命を投げ捨てたりはしない。

 俺はセシリアと生きる。生きて世界を見る。

 

 あいつを絶対に1人にさせない! 

 

「さあかかってこい頭でっかちの脳無しども! 纏めて相手してやるぜ!!」

 

 8基のスラスターが唸りを上げ加速。

 前のイーグルの瞬時加速(イグニッション・ブースト)に迫る速度を見せた。

 

「たった一人で勝てると思ってるの? これだから男は」

「なら見せて上げましょう。世界の現実ってものをね!」

 

 ビットとワルキューレを合わせた火線は相変わらず弾幕ゲー顔負けの密度だ。

 通常ならどんな相手もからめ捕れるだろう。

 それを分かってか頭が傲慢に満ちたミサンドリーたちは大した驚異ではないと判断する。

 たとえ相手が第二次形態移行(セカンド・シフト)したとしても。男なのだから取るに足らないと。

 

 はっきり言おう。

 

 お前らアホじゃねえかと。

 

「行くぞイーグル!」

《了解! イーグル・スフィア、演算開始!》

 

 より鋭角的かつ、更に鷲の要素を取り入れたハイパーセンサーユニットに一瞬電子回路のような紋様が走る。

 

【イーグル・スフィア】

 イーグルの強化観察型ハイパーセンサー、イーグル・アイ。その発展型であるイーグル・スフィアは瞬時に弾幕の密度、射線計算と未来予測を幾重にも重ねて解析。

 その結果を一切漏れを起こさず、かつスムーズにパイロットへと伝える。

 その演算能力は以前と比べるのもおこがましい程のオーバースペックであった。

 

 初撃で襲い来るレーザーの雨霰を潜り抜けるように高速飛行。

 両肩の複合シールドスラスター【プリドゥエン】。そして8基の板状スラスターがアンロックユニットの利点を最大限に活かし、自由自在かつ最適な配置による加速と加速方向でイーグルをぶっ飛ばす。

 

 その動きはまるでアメリカが未完成状態にあるファング・クエイクの個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)の多角高速機動に匹敵していた。

 

 浴びせられる光の洗礼にかすることすらなく。新生したスカイブルー・イーグルはものの数秒で弾幕を突破した。

 

「え、嘘でしょ!?」

 

 いとも簡単に。抜けるわけがないと絶対の自身があった迎撃が抜かれたことに思考が一瞬止まる。

 戦場において思考停止など愚の骨頂。それを体現するかの如く猛禽は獲物に爪を振りかざした。

 

 クリア・ティアーズ1機の実体シールドにロンゴミニアドをねじ込む。

 加速による重さと、螺旋状に放出されるプラズマパイル2発で盾をずらし、続く2発がその胴体にねじ込まれる。

 

「速い!」

「なんなのこの速度!」

「狼狽えるな! 相手は1機だ! 撃ち落とせ!」

「ハハハー! お約束の台詞どうも!」

 

 ロンゴミニアドをリコールしすれ違いざまワルキューレ3体を腕部プラズマサーベルで切り裂き、プラズマバルカンで更に2体を穴だらけにする

 

 休みなく降り注がれるレーザーを小ブースト、ハイブースト、クイックターンを織り混ぜて回避。

 まだ機体に慣れていない故の被弾もイーグルがプラズマ・フィールドで防いでくれた。

 

「この反則的な動きはなに!? パイロットはなんで平気なの!?」

「あんなのミンチになってもおかしくないでしょ!!」

 

 彼女たちが狼狽えるのも無理はなく。その軌道はおよそ人間が、というよりISを含めた兵器が出して良いものではない常識はずれかつ人外じみた鋭角軌道だった。

 

 本来瞬時加速(イグニッション・ブースト)、又はそれに匹敵するスピードでの急速な方向転換はISのPICをもってしても身体に負荷がかかり、原則で禁止とされている。

 だがオーバードライブさながらの高速転換機動にも関わらず、俺とイーグルは涼しい顔でワルキューレやクリア・ティアーズを翻弄していた。

 

 常人ではあり得ない機動。もちろんマジックの種はある。

 

《システムPGC、正常に作動中。重力加速干渉負荷は認められない》

「我ながらISの既存体系に喧嘩売ってるなこいつは!」

 

【PGC】

 正式名称、パッシブ・グラビテーショナル・アクセラレーション・キャンセラー。

 名前の通り。パイロットとISにかかる重力加速度。急旋回や急加速で発生するG負荷を無効化する。ISの標準機構、PICの正当強化版。

 ラウラのレーゲンが持つAICが防御に特化したものならば、PGCは速度に特化したものと言える。

 

 これにより常人が失神するような無茶苦茶な機動を行ったとしてもパイロットに対する負荷はなく。それどころか通常のISでは行えない超高速撹乱機動を行うことが出来る。

 

 勿論通常のISがそんな速さで動けば機体と身体は無事でも目まぐるしく変化する視界に頭と眼を回すものだが。進化したイーグル・スフィアとの併用によりレーザー弾幕を容易く回避する程の飛行を可能とした。

 

「まだまだ行くぞ! 来い、アロンダイト! クラレント!」

 

 右手にコールされたのはインパルスとボルテックの後継としてデザインされた大剣と見紛う大きさの空色と青、金の装飾が施された槍【アロンダイト】。

 

 左手にはエクレールのデータを元にしつつも全くの別物に変貌した、銃身下部に実体ブレードが設置された複合可変ブラスターライフル【クラレント】が現出する。

 

「プリドゥエン、シュートモード!」

 

 肩の複合シールド【プリドゥエン】の装甲がスライドし、シールド自体が砲門となる。

 クラレントの穂先、アロンダイトの銃口、シールド内に充填されたプラズマが鳴動。

 

 更にスカイブルー・イーグルの第三世代能力であるプラズマ固定化能力の性能上昇により。機体周囲にプラズマの槍が複数生成される。

 

《敵相対距離予測算出。ランダムターゲット、オールウェポンズフリー!》

「撃ちまくれ!!」

 

 アロンダイトとプリドゥエンのプラズマ弾、クラレントの電磁ビーム。

 生成されたプラズマスピアが一斉に敵軍に撃ち込まれ、破壊と混乱をばら蒔いた。

 

 ワルキューレはスピアに貫かれたのち爆散し、ISはプラズマに撃たれて吹き飛ばされる。

 先程のレーザーの雨と比べれば小雨のような弾幕だが、正確無比な射撃は数撃ちゃ当たるの確率を格段に上げる。

 

 そのまま敵中央に突入、内部から撃ちまくって更に混乱を増長させる。

 

「いい気になるなよレーデルハイトぉ!!」

 

 水中に沈んでいたメイブリックが両手のサーベルで斬りかかるのをクラレントの銃身下部から発生したプラズマブレードで受け止める。

 

「おおどうだったメイブリック。人体水切り体験の感想は!」

「黙れレーデルハイト! 殺す! 首だけですまねえ! 五体全部バラバラにしてやる!」

「お断りだなぁ! 髪の毛1本足りとも渡すものかよ!」

 

 唾競ったままプリドゥエンの砲撃を食らわせクラレントのレールガンをゼロ距離でぶち当てる。

 

「色々と物申したいことはあるがな」

「このっ!」

「生憎お前一人構ってる時間はねえんだよ!」

 

 クラレントをリコールしインパルスから引き継いだアロンダイトのプラズマバスターソードを現出。

 インパルス以上の輝きを持ったプラズマの大剣がメイブリックの武装ごと凪払った。

 

「くそっ、くそっ! くそがぁぁぁ!!」

 

 シールド危険域に達したメイブリックが口汚い声を発しながら離脱する。

 追って仕留めてもいいが、あんな路肩の石に構ってる暇も余裕もなかった。

 

 敵もこちらの速さに順応してきたのか段々と被弾コースが増えてきた。

 

 50機以上いたワルキューレも既に先程のフルバーストで10機まで撃ち落としたが。クリア・ティアーズのレーザービットは尚も数の差を埋めてきている。

 

「敵はアホだが馬鹿じゃないな。ヴァリアンサーに当ててきてる。ビットもうざくなってきた」

 

 現在敵を圧倒し縦横無尽に立ち回ってはいるものの、機体に慣れきってないところをファクター・コードとイーグル・スフィアのサポートでぶんまわしてる。

 元のスカイブルー・イーグルとは明らかに違うヴァリアンサーの性能に少しだけ振り回されている現状だが、単純なマシンスペックと技量でなんとか事なきを得ている状態だ。

 

 だがそれでも敵の足並みは現在進行形でグズグズに崩れているのも事実。

 

 更なる駄目押しをぶつける! 

 

「イーグル!」

《セットアップは終わった。イメージはマスターに任せる!》

「よし!」

 

 アロンダイトとプリドゥエンからプラズマネットを放出、レーザーを散らし。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で敵中央から離脱する。

 

 敵全体を俯瞰する。敵の位置、進行ルート把握。

 

 ………イメージを固める。

 

 紆余曲折あっても、セシリアはより高みに行った。

 

 隣に立つと決めた! なら追い付かねえとな! 

 

 総員───抜剣! 

 

「行け! ラウンズ!」

 

 翼と腰に携えた剣が目を覚ます。

 俺の号令を得てビーク・ビットの強化形態【ソード・オブ・ラウンズ】が起動。

 

 8基のスラスター1つに付き1基ずつ射出される小型のタイプA。腰のプラットフォームにマウントされた実体剣付きの大型のタイプBが4基射出。

 

 再び敵中央に突貫。通りすぎたその背中を撃とうとワルキューレがレーザーガンを構えた瞬間。

 

 縦方向に真っ二つにされ、更に六分割にされた。

 

 人形をバラしたのはプラズマソードをもって飛び回る12機のラウンズ・ビットたち。

 12の小さな騎士たちはビットに搭載するには余りにも高性能なプラズマ・スラスターによる推力をフルに使い、瞬く間に残ったワルキューレ全てを両断。

 

 そのまま敵のビット目掛けて縦横無尽に進軍し切り結ぶ。

 

「敵のビット兵器!? だが電子制御如き………!!?」

 

 敵の規則的な動きを察知し、直ぐ様撃ち落とそうとしたラウンズが不規則に戦場を跋扈(ばっこ)する。

 

 機械的かつ生物的。とても自分たちが知る電子制御の動きではなく、むしろ自分たちが使っているBT操作能力そのものと言っていい動き。

 撃ち落とそうとするビットがすれ違い様に切断され。飛び回る騎士から逃れようとするビットも速度が勝るラウンズが無情にも斬り刻んだ。

 

 ビットをあらかた片付けたラウンズはISに狙いを定める。

 

 翼に付けられていた小型のタイプA(アロー)は生成したプラズマソードをそのまま弾丸として放ち。

 腰に備えていた大型のタイプB(ブレード)はビット自体のスラスターを駆使して時々ビットのような直線機動ではない剣士の太刀筋のような斬撃で敵ISに斬りかかっている。

 

「この動き、機械のそれじゃない!」

「まさか奴のビットもBT制御だと!?」

「馬鹿な! 奴の機体からそんな反応はないわよ!?」

「じゃあ電子制御だというの!? 有り得ないわ!」

《有り得るんだなぁこれがっ!!》

 

 聞こえもしないのに意気揚々と答えるイーグルがラウンズの動きを更に変化させる。

 そう、ラウンズ動かしてるのは紛れもなく俺とイーグル。

 

 パターン化されていたビークビットとは違い、BT通信と遜色のないラグの無さで俺の思考を電子データとしてイーグルが変換する。

 あたかも脳波で動かしてるかのように操作し、手が回らない場合はイーグルがラウンズを操作する。

 

 AI技術や通信技術の根底を蹴り飛ばすかのようなテクノロジー。その詳細を知れば何処まで出鱈目なんだと世界中の技術者が喚くだろう。

 ISのコア人格が直接サポートする。それは字面以上にチート(反則)級のスペックとなって外敵に振るわれることとなる。

 

「イーグル! あとどれくらい!」

《後3、いや2分半だ!》

 

 大暴れの大立ち回りをしているというのに戦闘からあまり時間がたっていない。

 それほどの高速戦闘を繰り広げているというのをお互い知覚出来ないほど濃密な戦闘空間。

 

 奴らの全滅が主目的ではない。

 セシリアも耐えてくれているが、贅沢が言えないのも事実。

 

 1分1秒が恐ろしく長い。

 流行る気持ちを胸に、再度武器を握る。

 

「なら力の限り飛ぶだけだ! ついてこいよ相棒!」

《All Right! 何処までも!》

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「す、すげぇ………」

「いくら第二次形態移行(セカンド・シフト)したとはいえ」

「あれほど変わるもん? 別物じゃん」

 

 元の要素を残しつつも原型からかけ離れた進化遂げた疾風とスカイブルー・イーグル・ヴァリアンサーの鬼神のような戦い振りに皆は揃って圧倒されていた。ていうか引いていた。

 

 疾風とイーグルが元々射撃兵器にアドバンテージがあったとはいえ。あれほど絶望的な状況が既に拮抗し、覆ろうとしている。

 今の疾風は誰にも止められない。まるで嵐のように敵を翻弄し、雷のような強烈な一撃が敵に襲いかかる。

 

 疾風迅雷。今の彼らを表現するにこれ以上ない言葉であろう。

 

「さっきの疾風の眼。もしかしてラウラのと同じ? ナノマシンがどうって言ってたけど」

「いや。確証はないが、あれは似てるようで全くの別物だろう。反応速度と思考選択に一切の乱れや遅れを感じない」

「完全にISを制御下に置いてる動きよね。考えるより動くというより、考えた通りに動きすぎてる。それにあの多種多様の武装。どれも大振りで扱いに難がありそうなのに軽業のように操ってる………ほんと短い間で強くなっちゃって………」

 

 様々な憶測が流れる。

 どれも推測に過ぎないし、帰ってからじっくり聞かせて貰おうとも考える。

 

 それほど今の疾風は一つ次元を越えた強さで敵ISを弄び、叩き落としている。

 

 圧倒的な強さ。

 そしてそれを行えるだけの十全な技術があって初めて出来る動きだった。

 

 ………けどそんなことは関係ないのだ。

 

「数値や機体のスペックじゃないと思う」

「ええ。疾風様のセシリア様を救いたいという強い想い。それが何より疾風様に力を与えてくれているんです!」

 

 セシリアへの愛。

 その強い想いが疾風を死という回避不可能な事象を覆し再び空へ舞い上がらせた。

 

 非現実的、非論理的と笑われるかもしれない。

 だが疾風の一途で計り知れない想いが今の彼を動かしている。

 疾風は愛する人の為に文字通り死中に活を求めた大馬鹿野郎だ。

 たかが愛などと笑うものはこの場にいない。

 

「絶対に大丈夫だ」

 

 一夏は力強く確信する。

 

 誰かを守りたいという想いが力になることを誰よりも知っているから。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 勝利を確信する一夏たちと打って変わり。

 新たな力と翼と決意を込める疾風を見てフランチェスカは戦慄し、絶句する。

 

 憎き仇敵が死んで生き返った。

 それだけでも異常でおぞましいことなのに、第二次形態移行(セカンド・シフト)まで発現した。

 

 更に………

 

『ファクター・コードが、完全に覚醒している………』

 

 先程は不完全な覚醒。だがそれでも完璧と思われたセシリアの精神防壁を突破してきた。

 今の完全覚醒した疾風なら、どうなるかなど想像は容易い。

 

 それでも戦力差は絶大。たとえ相手が第二次形態移行(セカンド・シフト)したとしても、ファクター・コードを使ったとしても負ける要素などない。

 ISの数は単純な力。戦力差を見れば恐れることはない。そう思っていた。

 

 だが実際はどうか? 

 あれほどいたワルキューレは悉くスクラップとなり。

 膨大な弾幕も新生イーグルの埒外な機動を前にろくに当たらず。逆に弄ばれ、着実に戦力が削ぎ落とされていく

 

 フランチェスカ・ルクナバルトは支配する側だ。

 数々の男を手のひらで転がし、貶め、破滅させてきた。

 

 普通と言えばあれだが。あんな機動でも繰り出している疾風とスカイブルー・イーグル・ヴァリアンサーでも、熟練者ならなんとか対応できることもある。

 仮にこれがアリア・レーデルハイトや更識楯無ならば、何かしら突破口を見出だし食らいつくことも不思議ではない。

 

 だが彼女たちは違う。

 ブルー・ブラッド・ナノマシンによるIS適正向上や感覚強化を行っていてもISの技量は代表候補生と同等かそれ以下。

 いくら強い機体と強い能力を持っていたとしても、パイロットの技量と精神が未熟では当たるものも当たらない。

 

 何より彼女らは自分たちが優れてる、何より目の前の男が自分より劣るものと疑わない。

 女尊男卑主義者どもはそれ故に慢心している。慢心していると気づいていても抜け出せない。

 

 機体性能差、パイロットの技量差、更に駄目押しとしてファクター・コードによるISとのシンクロ。

 無数の力が、究極の一によって盤面をひっくり返されている。

 

 物量=力という前提が崩された

 

 女尊男卑世界のトップとして君臨する彼女にとって疾風・レーデルハイトは汚ならしい汚泥にして吹けば飛ぶ矮小な存在。

 

 だがいまこの瞬間。

 

『殺しなさい』

 

 年端も行かない、ISを動かせるだけの男に。

 

『殺しなさい! 疾風・レーデルハイトを殺しなさい!! 奴をセシリアに近づけるなぁ!!』

 

 彼女は明確に恐怖した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

《マスター。ヒステリーババアがキレたぞ》

「口が悪いよイーグル」

《マスターの影響だが?》

「ド腐れ脳足りんクソレズも足しなさい」

《流石マスター。毒舌のレパートリーが多いな》

 

 俺の影響なら仕方ないよね! 

 

 口を動かしながらも敵にロックオン。

 目を合わせた女は明確に恐怖を露にし、その醜い性根にプラズマを叩き込んだ

 

「これで2機、いや3機ぃ!!」

 

 重厚な砲撃で1機を落とし、直ぐ様反転し背後から切り裂こうとするクリア・ティアーズのサーベルを一蹴。

 そのままアロンダイト、ロンゴミニアドの連撃でシールドを削り殺す。

 

 双槍をリコールしクラレントをコール。遠方から狙っている敵のライフルをレールガンで破壊。

 背後から迫るレーザーを右のプリドゥエンで防御し、左で撃ち落としていく。

 

 その間もラウンズが縦横無尽に飛び回り敵の武器やシールドを斬りつけていく。

 

 よし、次は………

 

「んんっ!」

 

 突然得たいの知れない疲労感に襲われた。

 

 高速で動き回るそれが一瞬止まる。

 その隙を見逃さない女傑が刺しに入った。

 

 動きが緩慢になったイーグルに撃ち込まれたのは弾丸、ではなく種子。

 シールドを素通りして装甲に撃ち込まれたそれは瞬く間に成長し、動きを阻害する植物となった。

 

「これ以上の不義狼藉は見過ごせないね!」

「オランダのオーランディ・ブルームか!」

 

 プリドゥエンに蔦状の鞭、ヴァイン・アームズが絡まる。

 

 オーランディ・ブルームを操るはロランツィーネ・ローランディフィルネィ。

 女性でありながら99人の女性と交際してると公言しているラノベ主人公でもそこまでいかねえだろ! ってなる世界が生んだ傑物。

 

 そのISの第三世代能力もバイオ工学とIS技術を組み合わせた植物由来の生体操作というぶっ飛びっぷりだ。

 

「んぐっ!?」

「捕らえましたロラン様!」

「今のうちに!」

「ああ、君たちの頑張り。無駄にしないとも!」

 

 両側から体当たりばりに拘束してきた。

 うわ、触るのも嫌なのに! って顔してやがる! なら触んじゃねえよ!! 

 

 悪態をつくのもつかの間、オーランディ・ブルームの2枚の巨大なアンロックユニットが直列で重なる。

 そこから放たれる【フラワー・レイ】と呼ばれる高出力光線。

 通常広範囲に放たれるそれを一点集中し、トリガーが引かれる

 

「儚く散るがいい!」

「やらせるか! 前方最大防御!!」

《プラズマ・ウォール、プラズマ・フィールド展開! ラウンズ、防御体勢!》

 

 スリットを解放し前方に向けたプリドゥエンから不可視と見紛う密度のプラズマバリア。

 更に機体本体のプラズマ・フィールドとラウンズ数基を起点にバリアという三重防御。

 

 広範囲拡散射撃でも高出力な直結型フラワー・レイと真正面でかち合った三重のプラズマ防御。

 

 弾けたビームが方々に飛び散り、イーグルを起点に光が散らばる中。

 

「俺とイーグルをなめんなよ、色女ぁ!!」

「これで突破できないのか!?」

 

 膨大なエネルギーと衝突したそれは怯むことなくキッチリ乗り手を守っていた。

 燃費はプラズマ・フィールドより高いが高出力照射モードのフラワー・レイの威力を減衰させ、2枚目3枚目のシールドがビームを防御、拡散して受け流す。

 

 短くも長いビームが終わると同時に思考が動く。

 身体に纏わりついた蔦をプラズマで焼き払い、同時に両側を拘束する女どもを引き離す。

 弾かれたことに怒りを募らせサーベルを引き抜く2人。それを払いのける為に俺はプリドゥエン最後の手を引き抜いた。

 

《プリドゥエン、ソードモード!》

 

 加速、射撃、防御に続く斬撃形態。

 紅椿の展開装甲を参考にイーグルが模造したマルチプルウェポンからプラズマの刃が伸びる。

 

「「は?」」

 

 その大きさはIS1機分。

 あまりに予想外かつ突拍子もない武器の登場に機体の挙動に遅れが発生。

 その致命的な隙をプラズマバスターソードと同じぐらいの大きさを誇るそれが機体の回転と共に振るわれた。

 

「あんたとは素でやりたかったよ。ローランディフィルネィ」

「な、あっ」

 

 巨大な刃がクリア・ティアーズ2機を撫で斬りにしたのちに瞬時加速(イグニッション・ブースト)発動。二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)に迫る速度でオーランディ・ブルームに肉薄。

 

 その速度を前に獲物であるレイピア・カウスを抜くこともままならずサーベルとプリドゥエンの4刀とラウンズ12基の斬撃を食らって海に落ちた。

 敵の主力1機沈黙。敵ISも着々と無力化に向かっている。

 

《無理するなよマスター。病み上がりでファクター・コードを全開起動してるんだ。スタミナが切れたら助けるどころじゃないぞ!》

「大丈夫だよイーグル。たった5分ぐらいやりきるさ。それに本当に危なかったら止めてくれるだろ?」

《それはそうだが。直上!》

 

 上を向く前にプリドゥエンで防御。太陽を影に突進するブルームとは違うオレンジのIS、ドゥルガー・シンのかかと落としがウォールとぶつかって軋んだ。

 

「っ、重いっ!」

「これ以上やらせませんよ!」

「あんたとも素面でバトルしたかったな! ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー!!」

 

 蹴りの衝撃で飛び退くギャラクシーは脚部からエネルギー光波【ロウ・アンド・ハイ】を飛ばす。

 

 ドゥルガー・シンはロールアウトしたばかりのISであまり情報はないから第三世代能力がどのような物かは定かじゃないが、そのポテンシャルは本物。

 先程の蹴りも高密度のエネルギーを纏った蹴りで、プラズマ・ウォールでなければワンチャン破られていた可能性もある程の衝撃だった。

 

 迫るブレード光波を回避した先にクラスター・ボウの拡散レーザー。

 誘導はないが、これぐらいの出力なら押し通れる! 

 

 光の雨を縫うように接近、直撃コースをシールドとサーベルで切り抜ける。

 

 ミドルレンジの間合いで攻撃を叩き込もうとしたが、ギャラクシーはこの時を狙っていた。

 

「ラクシャーサ・ユニット、出力最大!」

 

 クラスター・ボウを鬼面のアンロック・ユニット【ラクシャーサ】に戻した。

 ラクシャーサの目元を覆っていたマスクが上がりツインアイが露になると。ユニット中央を貫くように巨大なレーザー・ソードが出力され、その大きさはIS2機分の大きさに迫った。

 

「でかぁ!? 張り合えるかイーグルッ!!」

《当然! こちらも出力最大だ!!》

 

 プリドゥエン再度スリット展開。露出したプラズマ機構が青白く輝き、ドゥルガー・シンに負けないぐらいの巨大なプラズマ・バスターソードを形成した。

 

「砕けなさい!!」

「やるかよぉ!!」

 

 上段から振り下ろされるラクシャーサの巨刃を弾き飛ばし。横薙ぎに振るったプリドゥエンとぶつかり光と火花を散らす。

 

「うおぉぉぉ!!」

「はあぁぁぁ!!」

 

 チャンバラと言うには余りにもでかい刃をブンブン振り回すそれは正に巨人の戦い。

 何人も踏み込めず巻き添えで振るわれる刃を躱すのに精一杯だった。

 

 お互い譲らない剣劇が披露されるなか、ドゥルガー・シンの斬撃が一瞬鈍った。

 

「あぶなっ!」

「あ、すいませ」

「チャァァンス!!」

 

 洗脳されても他者を思いやれる優しい性格なのだろう。ギャラクシーが振るった巨大な刃が味方機に当たりそうになりその軌跡が途切れる。

 返ってこっちは多勢に無勢故に巻き添えなど考えなくても良い反面、何も考えず存分に刃を振るうことが出来た。

 

 プリドゥエンのソードをラクシャーサのブレードの間に差し込み、そのまま滑るようにブースト。

 攻め込む俺に対し武装を展開したままのギャラクシーに反撃できる武器はなく。苦し紛れに蹴りを繰り出そうとするが、甘い! 

 

 勢いの乗ってない蹴りを脚部プラズマブレードで押し込み、そのままクロスレンジ! 

 まだまだ隠された武器である腕部の機能を解放する! 

 

「斬り刻め、セクエンス!」

 

 両腕のプラズマ・サーベルが装甲ごと浮き上がり、反対方向からもサーベルが飛び出し、そのまま回転する。

 回転式プラズマ・サーベル【セクエンス】を振るい。まるで踊るような動きでドゥルガー・シンを斬り刻む。

 両腕の双刃ブレードの乱撃の後、プリドゥエンの斬撃に弾き飛ばされるギャラクシー。だがまだまだ終わらない! 

 

 最後の最後に残った武装プログラムを起動。

 以前より一回り大きくなった脚部プラズマブレードが上下三股に変形。それはまるで獣が牙を向いたような形をしていた。

 

 そのまま蹴るように。いや、履いた靴を思いっきり飛ばすように足を振り上げた。

 

「追え! カヴァス!!」

「なにを!? ああっ!」

 

 射出音と一緒にプラズマファングとなった両足の脚部ブレードを装甲ごと飛び出した。

 プラズマワイヤーに繋がれた脚部ブレード【カヴァス】はドゥルガーの足と腕に噛みつき、そのままワイヤーを巻き上げて引き寄せる。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)起動。

 引き寄せられたドゥルガー・シンに速度と重さを乗せた渾身のドロップキックを叩き込む。

 

「吹っっ飛べ!!」

 

 泣きっ面に蜂の如く踵に仕組まれたプラズマバンカーが火を吹き。絶対防御越しに身体を揺らすレベルの衝撃によってドゥルガー・シンは海に叩きつけられ、派手な水柱が空に向かって飛沫を飛ばした。

 

 敵の主力を更に撃破。

 残りは10機のクリア・ティアーズだが。ビットの大半を失い、決して軽くないダメージを負った状態

 

 対してスカイブルー・イーグル・ヴァリアンサーに目立ったダメージはなく。あったとすれば菖蒲にもらった一撃ぐらい。

 

 一歩間違えれば直ぐ様狂うレベルの大出力。7つの多機能かつ複雑な武装を余すことなく使いこなし。

 正しく一騎当千に相応しい活躍を見せたスカイブルー・イーグル・ヴァリアンサー。

 

 まったく負ける気がしない。

 何処までもやれるという、ある種の全能感すら感じれる。

 それほどまでに俺とイーグルは絶好調を欲しいままにしていた。

 

 そして──

 

《待たせたなマスター!》

「よしっ!」

 

 キッチリ5分。冗談かと思うだろうが濃密に凝縮された5分間の戦闘をこなしつつ。イーグルはセシリアへのアクセスプログラムの構築を完了する。

 

 戦闘中我慢した。もう我慢しなくていい。

 1分1秒でも早くセシリアをフランチェスカ・ルクナバルトから取り戻す。

 

『殺しなさい! 早く殺しなさい! そいつをセシリアに近づけるなぁ!!』

 

 それを察知したのかはたまた偶然か。余裕や冷静さを完全にかなぐり捨てたフランチェスカの命令を受け、クリア・ティアーズが残った武装を全て俺に向ける。

 

「はい予測済み!」

『プラズマエネルギー臨海! スリット解放!』

「吹き飛べぇ!!」

 

 各部装甲、プリドゥエン、スラスター8基のスリットが開。

 その下からプラズマが覗き。止めどないエネルギーの奔流が爆発した。

 

 イーグルを中心とした高密度高出力EMPバーストはビットの制御中枢を焼き払い、クリア・ティアーズを物理的に吹き飛ばした。

 

 すかさず二段階瞬時加速(ダブルイグニッション・ブースト)! 

 敵の包囲網を振り切り、セシリアに向かって最短一直線で飛ぶ。

 

「に、逃がすな! 追撃を、うわっ!!」

「そうはさせねぇ!!」

 

 戦線復帰した一夏が零落白夜でクリア・ティアーズを斬り裂き。続いた専用機持ちたちがほぼ同数となった敵機の足止めを行う。

 

「行け! 疾風!」

「しっかりセシリアを連れ帰りなさい!!」

「こいつらは僕たちが抑える!」

「お前の責務を果たせ!」

「惚れた女の子にカッコいいとこ見せてきなさい!」

「信じてます、疾風様!」

「頑張って、私たちのヒーロー!」

「セシリアを救え! 疾風!」

「ああ任せろっ!」

 

 散々カッコ悪いとこ見せてきたんだ。

 

 ここで決めなきゃ男が廃る!! 

 

『う、撃ちなさいセシリア!! 奴を撃ち落とせ!』

「………………」

 

 もはや物を言わないセシリアが糸に釣られた人形のようにスターライト・ブレイザーの引き金を引く。

 連なって撃たれるビット24基の射撃が降り注がれるが。

 

「おいおいらしくない。まるで狙いがなってないじゃないか!」

 

 先程の正確無比な射撃は見る影もなくやたらめったに撃つだけで密度が薄い。

 二段階(ダブル)から個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)に変更。未だ劣らぬ冴えを見せる鋭角機動で接近し──捕らえた。

 

「よっしっ!」

 

 速度を乗せたままセシリアと接触。8基のスラスターが俺とセシリアを囲み。全方位プラズマ・フィールドですっぽり覆った。

 

 襲い掛かるビットのレーザーから俺たちを守る揺り篭の中でセシリアの頬に手を差しのべ、額を合わせた。

 

「本当に待たせたなセシリア。いま行くぞ!」 

《ISコア同調完了。スカイブルー・イーグルからブルー・ティアーズへのクロッシング・アクセス、ルート確立。ワクチンプログラム起動。ダイレクトリンク可能》

「エンゲージ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っと」

 

 二回目のデータの奔流を潜り抜け、たどり着いたのは相も変わらず土砂降りの雨。

 

 だが目の前に移る景色は凄惨で酷い有り様だった。

 

 そこかしこに太い茨がうごめき。黒い薔薇が咲き誇っていた。

 水面に浮かんでいた萎れた蒼い薔薇はなく。ダークファンタジーも顔負けである色のない景色に思わず顔をしかめた。

 

「悪趣味極まりない。VTシステムの侵食ってだけじゃないな………しかもこの薔薇は」

 

 黒い薔薇が悪いという訳じゃない。

 実際黒い薔薇もそれはそれで綺麗で高級感あるものだ。

 

 だがチョイスが最悪だ。

 黒い薔薇の花言葉には永遠の愛。貴方はあくまで私のもの。決して滅びることのない愛。

 そして憎悪。恨み。永遠の死。あなたを呪う。

 

 ようするにセシリアに対する歪んだ愛情と、俺への止めどない憎悪を表した黒い薔薇。それが毒々しいまでに咲き誇っていた。

 

「っ! セシリア!!」

 

 茨と黒い薔薇の先。

 モノクロの世界の中心にセシリアがいた。

 意識を失ってるのか、茨の檻の中で眠りについていた。

 

「眠れる森の美女ってか。なら王子様の出番だな」

『残念ながらあなたにその資格はないわ』

 

 空間を震わすようにフランチェスカの声が響き渡る。

 周囲の茨が生きたようにうごめき、唸りを鳴らす。

 

「悪いが魔女マレフィセントはお呼びじゃねえ。コスプレでもして出直しな」

『ここは私とセシリアの世界。醜い王子は必要ないのよ!』

 

 フランチェスカの悪意に応えるように茨が意思を持って襲い掛かる。

 圧倒的な物量と速度が地面を貫き、水飛沫と雨が吹き飛んだ。

 

「わかってねえな。こういうのは幸せに暮らしましたとさ、で終わるんだぜ」

 

 襲い掛かっていた茨が千切れ飛び、粒子となって霧散する。

 串刺しになってるはずの憎き仇敵には傷一つついてなかった。

 

 そして曇天の暗闇の中で光るファクター・コードの空色。

 

「引き立て役のヴィランにはさっさとご退場願おうか!!」

『黙れ木っ端役がぁ!!』

 

 セシリア目指して一直線に走る。

 全速力で走る俺に向かって茨が鎌首を上げて襲いかかる。

 

「おっ、らぁっ!」

 

 拳を突きだし。かち合ったイバラが粒子となって弾け、雨粒が衝撃で吹き飛ぶ。

 

 普通ならこんな腕など真っ二つに割かれるのが常でだろう。

 だが今の俺はこの世界において唯一のカウンターだ。

 

「どうしたどうしたぁ! こんなんで止められるかよ!!」

 

 VTシステムと奴の原初乃蒼(ジ・ブルー)にとって俺は正しく天敵。

 迫り来るイバラ、立ち塞がるイバラを次々と殴り飛ばす。

 右、左の拳。更には蹴りも加えてただひたすら突き進む。

 

 イバラが消し飛ぶ度にセシリアとブルー・ティアーズを蝕んだシステムが破壊されていく。

 

 自身との繋がりが忌むべき男に寸断される怒りと恐怖にフランチェスカの堪忍袋の緒が全て焼ききれる。

 

『これ以上私とセシリアの世界に! 土足で踏み込むなぁぁぁぁ!!』

 

 全てのイバラが集まり、巨大なフランチェスカの顔となって襲いかかる。

 小さな子供も涙目なおぞましさと醜さが迫る。

 だが俺は変わらず不適な笑みを浮かべていた。

 

 大地をしかと踏みしめ。

 右腕を振りかぶり。迫り来るフランチェスカのでかいツラに拳を叩き込む。

 

 衝撃が身体を通して大地を揺らす。

 踏みしめた足が後ずさるのを見てフランチェスカが嘲笑う。

 

『ハハハ! 馬鹿な男! このままデータの残骸となって砕け散るといいわ!!』

「呑気な奴。いつから自分が優勢だと錯覚してやがる」

『なにを………なぁっ!?』

 

 ピシッ。

 打ち込まれた拳を機転にイバラの顔に亀裂が走る。

 

 フランチェスカの最後の抵抗はほんの少し俺を押し込んだに過ぎない。

 踏みしめた足はしかと大地に食い込み。打ち込まれた拳は今もなお前へ付き出していた。

 

 亀裂が顔全体に広がるにつれてフランチェスカの表情が歪んでいく。

 現実を認められず。妄執に捕らわれていた奴は現実を受け入れることが出来ずに狼狽えに狼狽えた。

 

『馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!! 男ごときが! 矮小で搾取されるしかない低能な男ごときに私の愛が!!』

「たかが知れてんだよ! お前の歪んだ愛と俺のセシリアへの愛。どっちが勝つかなんか分かりきってるだろうが!!」

『認めない! こんなこと、こんなこと絶対に認めるものですか! たった1人の、吹けば飛ぶような男1人なんかにぃぃぃ!!』

「違うな! 俺は疾風・レーデルハイト! 世界で2番目の男性IS操縦者。そして、セシリア・オルコットと共に世界の頂点を目指すものだっ!!」

 

 いま一度大地を砕き、拳に強く握りしめ、思いっきり振りかぶり。文字通り渾身の一撃が俺の右手を通して叩き込まれる! 

 

「セシリアの中から居なくなれ! フランチェスカ・ルクナバルトっ!!」

『あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 渾身の拳がVTシステムごとフランチェスカの思考を突き破り。絶叫と共にイバラの壁が激しい音を立てて砕け散った。

 

 空を覆っていた曇天が晴れ、光が差し込む。

 

 土砂降りの雨は完全には晴れず小雨に。

 だが先程の冷たい雨でなく。温かく心地よい雨となって世界に降り注いだ。

 

 イバラから弾けとんだ黒い薔薇は落下の途中で色鮮やかな蒼い薔薇となり。世界に彩りを加えた。

 

「………綺麗な世界じゃねえか」

 

 慈しみの天気雨。水面に浮かぶ蒼い薔薇。

 

 イーグルの内面世界に負けないぐらい、その景色は美しかった。

 

 そして、その世界の中心に彼女は居た。

 

「お寝坊の眠り姫さん。お目覚めの時間だ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 パキ、バキン! 

 

 セシリアの顔を覆ったVTシステムのヘッドディスプレイが砕け散った。

 システムの過剰負荷によるオーバーフロー状態のドミネイト・ブルー・ティアーズを強制的に量子変換する。

 

「よっと」

 

 腕の装甲を量子化し、生身のセシリアを抱き込んだ。

 

《バイタル正常。システムによる後遺症は認められない。彼女のファクター・コードの働きは………いや、これ以上は野暮だな》

 

 空気の読める相棒はそれを最後に姿を消した。

 

「………ん」

「よお」

「………疾風?」

「そーですよー。あなたの恋人、疾風さんだよー」

 

 ゆっくりと目を覚ます彼女は変わらず綺麗だった。

 俺の顔を見るなり宝石のような蒼い瞳から涙が溢れる。

 

「は、疾風。わたくしは………」

「はいストップ」

 

 何かを言う前に抱きしめる。

 

 彼女の身体を伝って熱を感じた。

 

 身体を離し、彼女と眼を合わせる。

 抑えていた涙が溢れて、彼女の姿がぼやけま。

 涙を拭うと。そこには同じく涙を浮かべるセシリアが居る。

 

 夢ではない。幻ではない。

 生きてまた巡り会えた。

 

 これまでの不幸を吹き飛ばすかのように。俺たちは笑いあった。

 

 晴れ渡る青い空の下。お互いを感じる

 もう触れることはないと思っていた温もり。

 もう感じることもない暖かさ。

 

 愛した人を全身で感じれる。

 これほど幸せなことはないだろう。 

 

「おかえり! セシリア」

「はい! ただいま、疾風!」

 

 涙に濡れながら満面の笑みを交わす。

 

 俺たちはこの瞬間を忘れることはないだろう。

 

 もう俺たちを引き裂く者は。

 

 何人足りとも存在しない。

 

 






 どうも皆さん。最近の文字数に軽く引いている男。ブレイブです。
 今回も大増量じゃ。食らえ!17000文字!

 冒頭でも言いましたが欲望のままに書きすぎました。
 なげぇよ、なげぇよ!でも満足です。ここまで来るのに本当に長かったです!やったぜぇ!!

 さてさてさて。イーグルの新しい姿。ヴァリアンサーは如何だったでしょうか。
 意味としてはヴァリアント(勇気、勇敢、気高い雄々しさ)のer版。というより造語になるのかな?
 着想はバディ・コンプレックスの機動兵器から。あれ意味はないんですけどね。カッコいいからよし!ということで。

 そして勘の良い方もそうじゃない方もお気づきでしょうが。ヴァリアンサーの武器名称が一つのルールでつけられてます。
 なんでこんな大仰な武器になったのか。答えはバススロットに入れっぱのアレでしょう。
 細かい設定集は比翼連理(スカイブルー・ティアーズ)編のあとに書きますのでそれもお楽しみに。

 なんか最終回な感じで終わりましたがまだまだ続きます。
 今回の話が良かったと思ったら高評価コメントを、気が向いたら宜しくです。
 この1ヶ月頑張りました。これからも応援よろしくお願いいたします!!

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